ブックレビュー


  アルケミスト
 夢を旅した少年
パウロ・コエーリョ著 
 
 

レビュー:[雀部]&[増田]&[LUNE]

角川文庫 520円 '97/02/25
'88年発売とともに世界的ベストセラーに。十年に一度の名作と言われています!
粗筋:
 アンダルシアの平原で羊飼いをしている少年サンチャゴは、同じ夢を二度見た。それは「羊と一緒に居ると子供が現れて、少年の手を引きエジプトのピラミッドに連れていき、『あなたがここに来れば、隠された宝物を発見できる』と告げる夢」だった。ジプシーの占い師やセイラムの王様の現身である老人に導かれ、エジプトへと旅だった。

独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆
 羊飼いの少年が、旅の様々な人たちとの出合いと別れのなかで、人生の知恵を学び成長するという単純だけど、力強い物語です。とくに「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」という言葉には勇気づけられますね。少年の心を失っていない全ての人々にお勧めです。




 
[雀部]   シンボリックな物語で、SFファンにはちと取っつきにくいかも知れない本なのですが、ファンタジーファンの増田さんとLUNEさんは、どういう感想をおもちですか?
[増田]  アルケミストという作品、わたしはたいへん面白く読みました。すごくシンボリックな話で、象徴的なストーリーなので、解釈は読む人それぞれだと思うのですが、逆にシンボリックであるからこそ、読む人それぞれの心のなかにあるなにかにそれぞれの形で共感できる作品だと思うのです。
 わたしはまだまだ若輩者ですし、がつがつしている部分もあるので、少年が宝物を追い求めて旅をする、というストーリーに惹かれました。私自身にもまだまだ欲しいものはたくさんあるので、そこに共感したのかもしれません。「ひたむきさ」というのでしょうか、純粋さを失わなければ夢は叶うんだよ、と励まされているような気がしました。もちろん実際には「ひたむきさ」だけですべてが手に入るわけではありませんし、望むものを手に入れるためにはリスクを支払うことも努力することもときには「汚れて」しまうことも必要なのかもしれません。
 でもこの作品を読んでいると、「がんばってるね、わかってるよ」と誰かに言われているような気がして、すごく勇気がわいてきます。主人公のサンチャゴが身近に感じられ、親友であるかのような錯覚にもとらわれるのです。
 わたしにも名誉欲や自己顕示欲はあるわけで、自分のやっていることを誰かに認めてもらいたいという願望は常にあります。この作品が、自分のそういったところを満たしてくれるように感じるのですね。「おまえのやっていることは間違っていない」と。この作品は本屋で偶然手に取って読んだものですが、初めて読んだときには光を見る思いでした。そんなふうに認めて受け入れてもらえる機会が少ない、ということもありましょうが、なによりもサンチャゴが夢を信じていく過程に心を奪われたのです。自分の未来に疑問を持ったとき、このままでいいんだろうかと思ったときにふと読んでみると、「まだ結果のケの字も出ていないのになにを迷う必要がある」と言われた気がするのです。たしかに、「夢を失ってしまった大人」というのは大勢いて、自分もそのひとりになってしまうのかもしれません。でも、その反面、「夢を実現した少年」というのもたしかに存在していて、自分がそのひとりになれるかもしれない可能性というのは常に残されているのです。
 作中ではサンチャゴは「大いなる魂」を理解し、そして宝物を得るわけですが、わたしには「大いなる魂」そのものよりも、宝物を得る、という部分に象徴化された作者のメッセージを感じました。
[LUNE] そうですよねー。でも出きるなら、前兆があってほしい・・・(^^;)  少年の夢は宝物でしたが、実際宝物を手にいれたけれど、それよりもっと高いところ へ到達した(大いなる魂を理解した)というのがすごいですよね。
[増田]  「前兆」というのとはちょっと違うんですが、チャンスが目の前にぶらさがっ ている、というのは感じることがあります。わたしのポリシーは「そのうちその うちって、いまやらなくていつやるんだよ?」なので(^^;)。  宝物っていうのは明らかにメタファーですよね。結局、少年が旅立つための きっかけにすぎないのだと。サンチャゴは宝物よりもより価値のあるものを獲得 したわけで、そこが面白かったです。
[LUNE]  私のポリシーは「やりたくなったらやる」。 放置しすぎてやりたいことすら忘れてしまうこともありますねー(^^;) でもその時やりたいことというのは情熱があるから、とりあえず やっちゃうんですよね。?
 少年の見た夢の前兆はすごく明確で、同じ夢を2回見て、ジプシーの占い女から も、老人からも前兆を告げられて、行動するように進められましたが、普通そこまで 明確な前兆なんてなさそうですよね・・・。気付いてないだけかな?  映画の「フィールド・オブ・ドリームズ」のように神の声が何度も聞こえるとか いうのもありましたね。
 普通考えても、もし同じ夢を2回見たとしても、家も仕事も社会も捨てて旅には出れ ないだろうなあ・・・(女性(注:独身)の身だったら行けるかもしれないけど (笑))
 しかもそれが「メッカに巡礼に行きなさい」とかそんな夢だったりして・・・コワ イ。
 「南極に行きなさい」とか。5,6回見たら、さすがに信じていくかもしれません (笑)
[雀部]    「夢を失ってしまった大人」になっちまった私(;_;)
 想像の世界だけでも、宇宙を相手にしようとSFを読んでいるのですが^^;
 『アルケミスト』の中では、タンジェの坂道の上にあるクリスタル屋の親父に感情移入しちゃうなぁ。「自分はもっとできるとわかっているのに、わしにはそれをやる気がないからだ」というのは、痛切。
[増田]   やりたいことはあるのに実力がなくてできないからもどかしい……というのはわかるのですが、「もっとできるとわかっているのにやる気がない」というのはいまいち共感できませんでした。いちど安定したものを手に入れてしまうとそれ以上のものを望まなくなるのかな? ちょっと違うような気も……(^^;)。
[雀部]    例えば、私が小説家の才能があるとしたら(無いけど^^;)、本を書くためには色々取材をしたり、執筆の時間をとったり、なかなか気軽には出来ないと思うんですよ。で、売れるまでは、無収入になったりもするし、妻や子はまあ不安に思いますわなぁ。歯医者を辞めたら今来て下さっている患者さんにも迷惑がかかるしで、なかなか決断が付かないと思います。若いと、ここらあたりのしがらみはそれほどないでしょうけど^^;
 まあ、あのクリスタル屋の親父には妻子は居ないようではありましたが、歳取ると思い切ったことはなかなか出来ないというのは、痛切であります(;_;)
[LUNE]  私にとって「アルケミスト」は、印象的な作品です。ストーリーとしては少年が夢を見て、前兆に導かれて宝物を探す旅をするという単純なものですが、中で語られる言葉一つ一つが深い
意味を持っている重い作品だと見ています。
 アルケミスト=錬金術師というのは、砂漠で実際に登場し、少年を導く役目をしますが、錬金術というのは「大いなる魂」に辿りつくための方法の一つでしかなくて、少年は錬金術とは関係なくそこに到達しました。この「大いなる魂」というのをこの本を読んで理解するのは非常に難しいのですが、書中では「神の魂の一部であり・・」とあります。私の感じているところではそれは「世界(宇宙)の真理」というような感じを抱きました。それを理解するには、大地や風や太陽や全てと語り同化しなくてはならない。その為には、少年はピラミッドを目指して旅をしなければならなかったし、苦難や錬金術師に遭わなければならなかったのでしょう。
 この作品は子供でも読めると思いますが、むしろ大人が読む方がその言葉一つ一つに隠されている意味を理解し、考えさせられるのではないかと思います。読んだ後に「夢は諦めるべきではない」ときっと思う、“夢”のある作品です。
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員
ホームページは、http://www.sasabe.com
[増田]
本誌主任編集員。本業はフリーライター。どちらかといえばファンタジー派
[LUNE]職業:OLでもって企画職 
趣味:海外遺跡旅行・読書・映画・アウトドア 
ジャンル:ファンタジー一徹!(最近ちょっとSFも・・・) 
好きな作家:アーシュラ・K・ル・グイン 
最近凝ってるコト:映画鑑賞(月3本ぐらいかな?)とエコツアー(カヌーとか登山ね)
ホームページは、http://www.eonet.ne.jp/‾voyage/

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