ブックレビュー

 
『フレーム・シフト』

ロバート・J・ソウヤー著
内田昌之訳、2000/3/15刊
加藤直之画

ISBN4-15-011304-1
C0197

レビュー:[ゆうふぉ]&[雀部]

ハヤカワ文庫SF 880円
粗筋:
 カリフォルニアのヒトゲノムセンターに勤務する遺伝子学者ピエールは、帰宅途中のネオナチのメンバーと思われる男に襲撃されたが、一命をとりとめる。なぜネオナチが自分を狙わなくてはならないのか、疑問に思ったピエールは、調査を始める一方で、実父に会いに出かける。その実父は、存命だったものの、遺伝病であるハンチントン舞踏病におかされ、常に踊るような痙攣と記憶障害にも悩まされていた。そしてまた、ピエール自信の発病する確率も、五分五分であった。 
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆☆☆
 イントロン(いわゆるジャンクDNA)の謎を扱った作品としては、日本では梅原さんの『二重螺旋の悪魔』などがすぐ思い浮かびますが、この作品もまた遺伝子操作と遺伝子による差別、テレパシー能力、ユダヤ人虐殺、等々のアイデアが詰まっていて、しかもそれが有機的に結合しているという力作です。



[雀部]  今回は、医学ネタSF特集と言うことでロバート・J・ソウヤー氏の『フレームシフト』を取り上げてみました。
 読んでみたのですが、こちらはネオ・ナチが出てきたりして、派手な展開でしたね。主人公が遺伝病である舞踏病が発病する可能性が高いという設定は、ちょっとあざとい気もしますが(笑)
[ゆうふぉ]  舞踏病とテレパシスト(←こんな単語ありましたっけ?)のカップルというのが、「フィクション!!」という感じです。でもDNA解析で繰り返しを数えていくあたりは結構どきどきしました。
[雀部]  『テレパシスト』は、ジョン・ブラナー氏の長編の題名にもありますね。
 ピエールはフランス語で考えているので、読心能力者のモリーにも考えが読みとれないという設定はとてもお洒落なのではないかと(笑)
[ゆうふぉ]  ポイントとなるDNAの扱いにやや無理はあっても、つっこみをいれる隙を謎解き&アクションで押し切られた、上手に騙してもらえた、という印象。変な言い方になってしまいましたが、これ褒めてるつもりです。
[雀部]  具体的にはどのあたりでしょうか?
[ゆうふぉ]  「モリーが体外受精したのは何か?」と「連続殺人の黒幕は誰か?」という謎に気を取られて、ハプレス・ハンナから体外受精に使えるほどのDNAを取り出す困難さが全く気になっていませんでした。「ジュラシック・パーク」の時も足りないところを繋ぐのに苦労してましたよね。それとも適当にホモサピエンスのを混ぜたんでしょうか? タイトルになっているフレームシフトも、忘れた頃に出てきて、気をそらせてくれるし(笑)。
[雀部]  ミトコンドリア・イヴ仮設の証明となるミトコンドリアのDNAは、核DNAより格段に丈夫だそうですが、そうすると体外受精に使えるほどの核DNAをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法で復元するのは、現在の技術では不可能ですよね。
 適当にホモサピエンスのを混ぜるにしても一代ぽっきりでは、どれだけ元に近づけるか疑問ですし。たしか、マンモスの復元をするには、何代かこの操作を重ねて元のマンモスのDNAに近づけるんじゃなかったっけ?
[ゆうふぉ]  そもそもPCRってコンタミとかで何を増幅してるんだか怪しい気がしませんか?
「間違った増幅」で遺伝子版「ハエ男」ができるかな?それとも,もうあるでしょうか?
[雀部]  それとも,もうあるでしょうかって、何があるのでしょうか? 
[ゆうふぉ]  遺伝子版「ハエ男」をネタにしたSFはもうあるかな? と,ふと疑問に思いまして。
[雀部]  遺伝子段階で混ぜちゃうんですか?角生やしたり、羽つけたりという話はよくありますね。
 シェフィールド氏の『プロテウスの啓示』では、ほとんど異星人になっちゃってますけど。 
 PCRとかコンタミとか実は私、良く分かってない(爆)
[ゆうふぉ]  私もPCRはお手本を2,3回みたきりで結局自分ではやっていないのですが,少なくとも臨床検査的には,本来問題にするほどでないバクテリアやウイルスのDNAが最初にDNAを抽出する時点で混じっていて増幅してしまうので過信は禁物と注意されたことがあります。
 今回の小説の場合ハプレス・ハンナからの抽出の時点ということになるのかな
[雀部]  ところで、病理医として、もしこういう機会がもしあったら、ネアンデルタール人の子供を産んでみようと言う気になりますか?(笑)
[ゆうふぉ]  ホモサピエンスでも躊躇している臆病者です(笑)。
SHEVAっ子は生まれ方が手間だし。文字通り試験管でなら・・・そんなこと言ってるとクリマスみたいですか? 
彼は,なかなかマッドな味を出していて良いです。もっと徹底してエキセントリックな方が好みですが現実味がなくなるから妥当なところでしょうか。
[雀部]  試験管ベビーってのは、体外受精させて、子宮に戻すんじゃなかったっけ?
 『第四間氷期』に出てきた人工子宮も要りそうですね(爆)
[ゆうふぉ]  そうです。
 それでは結局半年以上大変ですから「文字通り試験管」(つまり人工子宮ですね)なら楽でいいなあ,と,無精なことを考えているわけです(笑)。
[雀部]  まあ、人工子宮で育てて、母親としての自覚が出るかどうかという問題はありますが、女性にとっては楽な方法ですね。完成したら、本当の意味での男女格差がなくなるかも?
 最後に、ゆうふぉさんにとって、この作品はどのように評価されますか?
[ゆうふぉ]  思いっきり乱暴にまとめるとハンチントン、フレームシフト、ハプレス・ハンナのDNA三題噺を連続殺人&保険問題で彩ったって感じでしょうか?
[雀部]  なるほど、言い得て妙ですね(^o^)/

[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員
ホームページは、http://www.sasabe.com
[ゆうふぉ]
病理医、ハードSF研所員
プレストンプレスHPhttp://member.nifty.ne.jp/prestonpress/

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