著者インタビュー

ヤクシーカバー写真 『暁の女神ヤクシー』
<(1)鳥の呼ぶ声>

小林めぐみ著
画=いのまたむつみ
2000年10月1日刊
ISBN4-04-415513-5
C0193

インタビュアー:[おおむら]&[雀部]

角川スニーカー文庫 552円
  同じ世界(universe)を舞台とする前作『いかづちの剣』はかなりSF的な設定だったのですが、この作品はファンタジー色が強くなっています。シュシにも謎めいた部分があるし、連邦の雑誌記者もただのブンヤではなさそうだしというところで、次作が楽しみです(^o^)/
粗筋:
 青年シュシは、マナ教総本山ヌーペルーダ寺院の下級僧兵だった。別院の宿坊で寝起きをするシュシの元に僧兵長がやって来て、彼はある任務に駆り出された。楽しみにしていたヤクシー祭の御輿警護役を外されてむくれるシュシに与えられた任務は、なんと異星から来る客人の案内役であった。その辺境惑星を取材に来たという連邦の雑誌記者とシュシの行く手に立ちふさがるものとは・・・ 



[雀部]  今月の著者インタビューは、新シリーズ《暁の女神》を刊行開始された小林めぐみ先生です。どうぞよろしくお願いいたします。
[おおむら]   よろしくお願いいたします。デビュー10周年おめでとうございます。
 10周年ということで、なにか感慨のようなものはありますでしょうか。
[小林]   10年やってきたけれど、作家としての技量はいつだって今デビューする同い年の人と変わらない気がします。だから、いつまでも新人気分をどこかで引きずっている。10年経ったという実感はあまりありません。
[雀部]   最初に、SF作家では、どなたがお好きか聞こうと思っていたのですが、SFマガジン11月号に小林先生のハヤカワ文庫SFベスト5が載ってましたね。先を越されてしまった。
 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『夏への扉』『鋼鉄都市』『サリーはわが恋人』『ファウンデーション』がその五冊なんですが、けっこう王道ですね。作風から行くと、もっとファンタジー寄りの作品が出てくると思っていたんです。認識不足ですね。
 まあ、埼玉大学物理学科卒という学歴を勘案すると、なるほどといいうベスト5ではあるのですが、小林さんは、日本のアンドレ・ノートン女史であると勝手に思っていたので、ちょっと意外でした。(^_^ゞポリポリ
[小林]   あれはハヤカワSF文庫の中から選ぶ決まりだったので、「読んだもの」を羅列するしかなかったのです……海外SFはあまり読んでないんです。だから王道になってしまったと。
私はSFが好きで物理を学んだのではなく、科学が好きだったから書くものがSF寄りになったので、SFにはまったく詳しくありません。でも、ハヤカワJAも含めてよかったなら、「消滅の光輪」「長い暁」を筆頭に挙げたことでしょう。
[雀部]  そうでしたか。眉村卓さんの「消滅の光輪」は私にとっても思い入れのある作品です。
 先年急逝した親友がこのシリーズの大ファンで、彼の「司政官は、所詮サラリーマン社長だねぇ・・・」という言葉が忘れられません。
 聞くところによりますと、この『暁の女神 ヤクシー』は、『いかづちの剣』と設定を一にするそうですが、どちらが前の時代なんでしょうか。それは秘密でしょうか?
[小林]   本文を読めば秘密にはならないかな。「いかづちの剣」の方が前の時代です。
「いかづち」ではリアルだったコンピューター大暴走時代が、「ヤクシー」では古い、昔話になっています。
 実は昔書いた「ねこのめ」というシリーズも世界が一緒で、こちらの時代は……まあ、秘密にしておきましょう。続刊を読んで推測してください。
[おおむら]   ヤクシーとか僧といった表現からインドや東南アジアを思い出しました。
ヤクシーの制度もなんかチベットの活仏を彷彿させますが、そこらへんをイメージしたもの
なのでしょうか。(僧という文字のイメージから、最初シュシは坊主頭かと想像してしまいました。)
[小林]   そうですね、南アジアが舞台モデルです。チベットというよりは、もう少し南、山を越えた辺りで、幾つかの国を組み合わせています。インド、パキスタン、ネパール、中国(含チベット)、ブータンが資料的モデルで、実際のイメージは以前に行ったことがあるインドやラオス、そして母の田舎である山梨の光景がモデルです。
あまりここで書くとあとがきのネタがなくなって困るのですが、ヤクシー制度は、ネパールに実在する少女神クマリがモデルです。マナン・ハイは言わずもがなといったところですが……
 私は西欧よりもアジア、それも中華以外の地域の歴史に惹かれます。あと暗黒大陸時代のアフリカとか。天の邪鬼なんでしょうね、高校の世界史が嫌いだったのも、その辺のことをすっ飛ばしていたからだと思います。いや、暗記が苦手だっただけなんですが。
[おおむら]  小林さんの作品の文体には、かなり独特なところがあるのですが、意図して作りあげてきたところとかあるのでしょうか。
[小林]   独特ですか? 私としては、最近はめっきり普通の文章になって読みやすくなったと思っているのですが。昔も別に意図した覚えはありません。
[おおむら]  私家本「続・大地をわた声を聞け」が出されていますが、これからもこういった本は出し続けていく予定はありますでしょうか。
[小林] 大変だったからもう作りません。状況が変わったら分かりませんが。
[おおむら]  SF大会では、2年続いて小林さんをかこんでビールを飲もうという企画があったようですが、ビールと創作にはなにか関係があるのでしょうか。
[小林]  気のせいです。創作というよりは、人間関係を大いに左右するものですなっ。
[おおむら]  ここ2,3年はかなりの量の作品を発表なさっていますね。
 どういったことからアイディアを発想なさっているのでしょうか。
[小林]  アイデア自体は、数年前から子供時代にさかのぼって発想したものを、ちまちまと食いつぶしているのがほとんどです。もちろん、つい昨日発想したものを使うこともありますが。
 以前、「若いころから作家になる気でいた人は、アイデアをいっぱい溜めているので有利だ」と編集者に言われたことがあります。確かに、子供時代の方が新しいことに触れる機会も多くて、今よりもたくさんアイデアを、自然に思いついたと思います。
 勝手にイメージが湧くんですね、今は捻りだそうとしないとなかなか出てこない。だから、子供時代の自分に嫉妬したりして、自己嫌悪に陥ったり。でも、ヤクシーなんかは5年前に考えついた話で、大人になってからの発想もステキじゃないか、なんて一喜一憂して。今日思いついて、でも下らないと捨てたアイデアも、きっと何年か後には使えるようになるんじゃないかと、期待しているんです。
 アイデアの源は情報です。本から、テレビから、日常生活から、会話から、すべての情報から拾って使います。だからといって、情報収集に明け暮れても、ピンとくるものが捕まえられるものでもない。出会いを待つしかないんですね。感覚を研ぎ澄まして。アイデアが涸渇するか、人気がなくなって消えていくか、どちらが先かの世界ですから。
[雀部]  なるほど、幼少の頃から作家を目指されていたというわけですか。それでデビューも早かったわけなんですね。
 ところで、ホームページを拝見しますと、ビジュアル系バンドのラルク()がお好きと書いてありました(うちの三男坊−ギター小僧で同バンドのファン−に言わせるとビジュアル系では無いそうですが)例えば主人公にハイドのイメージを重ねて書かれるということなんかはおありでしょうか? 
[小林]  顔ってことかな? 顔のイメージはラルクに限らず、至るところの人間から借用しているから、特別ではないですね。でも、主人公のイメージは他人から取らないようにしています。イラストが必ず付く存在だし、書いているうちに最初の設定とどんどん変わってくるから、先入観を孕むイメージで固定しない方がギャップがなくていい。
イラストを見て、「自分の文章でこんな顔になるのか」と驚くのも楽しみの一つなので。
だから、顔モデルがいる登場人物は、全部脇役です。性格はまったくオリジナルです。
[雀部]  前作の『いかづちの剣』を読んで、その骨太な設定に大変感心したのですが、細かい設定などは、書く前から決められているのでしょうか。例えば舞台となる国の地理的な位置関係とか、歴史的・技術的背景とか。
[小林]  「ねこのめ」を書いてあったので、ある程度の歴史設定は最初からありました。でも、細かい設定は漠然と抱いていたイメージを、文章の流れで必要なとき、その場その場で固定していきました。私は設定を作りこまない方だと思っているんですが、みんなそうは思ってくれないようです。地理に関しては特に、一つ決めればあとは自動的に風景が見えてくるので、手が滑るままに書くと、「世界を書き込みすぎ」と言われてしまう。こだわって作っているわけではないんですけど。どちらかというと舞台にこそモデルの土地があるから、私が決めなくても、もう最初から決まっている。だから書くことがいっぱいあって、それで書きすぎてるのかな。
 SFやファンタジーは世界設定が命だと思っていますが、くどくど書くのも読んでいて邪魔なので、そこら辺の兼ね合いが難しいです。
[雀部]
[おおむら]
 今回はお忙しい中、インタビューに応じていただき、ありがとうございました。
 これからも、小林先生には多くの面白い作品を書き続けていただけるものと期待してやみません。
[小林めぐみ]
平成2年に「ねこたま」(富士見ファンタジア文庫)でデビューしてから今年で10年になる。
最新刊は表題作の他には4月発行の「困らぬ前のかみだのみ  少年少女退魔録」(角川スニーカ文庫)がある。
感想の送り先は:e-mail kobamegu@mx1.freemail.ne.jp
小林めぐみさんのホームページ:http://www.os.rim.or.jp/‾megumi/

[おおむら]
同人作家。ホームページは http://www.t3.rim.or.jp/‾yutopia/

[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。ホームページは、http://www.sasabe.com


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