毎晩

松本楽志

 夜中に何かの気配を感じ、目を覚ました。鉛筆削りがうなり声をあげていた。僕はベッドから降りて、鉛筆削りを回している、男に話しかけた。「よるにおとをたてると、うるさいです」男は真っ赤な歯を見せてにやりと笑うと、右手に持っていた銛を僕に突き刺した。心臓をひと突きされて僕は息絶える。「にんげんは、しんぞうをつらぬかれると、しぬのです」男はかき消えた。僕の作った血だまりの中から、曖昧な輪郭を持った動物が現れて、僕の死体を食べ始めた。窓から覗く三日月が、ふいに横になって、海に落ちていった。海が大きくうねると、水柱が何本も立ち上がった。曖昧な動物はそれを見て、驚きの表情を見せ、机の上に飛び上がった。机の上では鉛筆削りが男を回していた。曖昧な動物が男を食べると、鉛筆削りが動物を食べたので、僕も真似をして鉛筆削りを食べた。すると、水柱の天頂に載っていた三日月がごろりと転がって、窓から飛び込んできた。三日月が頭に当たって僕は気を失って、眠りに戻った。

(了)


「超短編特集!」のTopページへ