変幻万別

めいにち

 無数に手首だけが浮かんでいる。音はない。しかし踊っている様にも見える、ワルツを。
 現れた裸の男。前のめりになり、背中が割れる。中から重なり出るものは幾層にも。その流れが木目を描くのだ。腹にある吹き出物から亀裂がつっ走り、それはいつのまにかゴシック調の模様を浮かばせる。テーブル。その中央はまだグラスやワインを捻り出しつつある。それら形が出来上がるとテーブルとの境の部分の細胞が死んでいっている筈だ。手首だけの拍手。きらきら、グラスを手にすると濡れた子犬の匂い。手首の一つは小鼻をう ごめかした。味わい深い。チーズを口に頬張ると、振り子の形をした頬の塊がテーブルに落ちる。散らばり。グラスが四つ粉微塵になり、一つがチップしてしまった。横倒しになったデキャンタからは血の如く、赤。
 木目は縦のラインを刻み始め軽い頭痛、長い目の怖気のまま虎の咆哮。手首の連なりが輪を作り始めると肩の傷に身悶えしている彼はそれに飛び込む、奥で水しぶきが。濡れた手首は次々鳩になり平和を象徴する。
 番いの手首だけが残り、こちらに向け恭しくお辞儀をする。

(了)


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