第10回


(その21)

 少年は、頭を抱え込んでいた。

「最近の普通宇宙飛行士って確かに粗製乱造とは言われているけど、こいつは、いったいどういう頭の構造をしているんだ?」

 少年は、今までに5回密航に成功している。ごく小さかった時に少年の世話をしながら定住せずにいろいろな星を渡り歩いていた伯父と一緒にやったのを入れれば、20回を越えるだろうか。その度にいろいろな宇宙飛行士を見てきた。だが、丸木台太の行動は、少年のいままでの経験と知識からは予想もつかないことだった。

「こんなことって……」

 丸木台太が「最後までがんばります」を選択した時、少年は、まだこの宇宙飛行士を少しは信頼してもいいと思っていた。だが、少年が見守る中、丸木台太は、もよりの太陽系の定点までの恒星間飛行を確保しようとしたり、無事恒星間飛行を終了した直後に脱出するための緊急脱出用ポッドの準備をしたりはせず、到着予定の太陽系に向けて募集広告を発信しはじめたのだった。

「……エンジニア急募。高給優遇……第八太陽系第四惑星付近にて勤務……」

「ばかやろう、こんな時に、なにやってんだ!」

 少年が手のひらの上の立体モニターをのぞき込みながら思わず声にだして言った瞬間、操縦室の床下にいた少年は、宇宙艇全体を揺るがす振動によって激しく揺すぶられた。

「この艇は、まもなく第一エンジン部分に爆発を起こし、全壊いたします。ご注意下さい。爆発までの予定時間は15分です」

合成された女性の声でアナウンスがあった。

「まずい……」

 もう、隠れて見守るなどという悠長なことはできない。運賃の未払いでも恒星間の不法移動でもかまわないから、命だけは助かりたかった。少年は、立体モニターをポケットに押し込むと、操縦室の床のメンテナンス用ハッチを開けて操縦室に飛び出した。

 丸木台太は、突然近くで音がしたのに驚いて振り返り、自分の他には誰もいないはずの操縦室に一人の少年がいるのを発見した。

「あれっ?きみは……?」

「いいから、あんたは黙って。死にたくないんだろ?」

「きみ、もしかして、密航者か?」

「どけ!」

 少年は、丸木台太を操縦席から突き飛ばすと、自分が席におさまり、大急ぎでコントロールパネルをたたきはじめた。

「緊急脱出装置のこと、考えつかなかったのか?それでも宇宙飛行士かよ!」

 突き飛ばされて床にしりもちをついた丸木台太は、無言のままゆっくり起き上がった。

「おれは自分の脱出用小型ポッドを積荷に潜り込ませている。だけど、恒星間飛行中には使えないだろ?だから何としてでも、第八太陽系の定点までは飛び続けて、きちんと太陽系内に出てこなきゃ、まずいんだ」

「はあ……?」

 丸木台太は、意味がよく分からない様子で、少年の手元を見つめている。

「第八太陽系の定点は5箇所ある。この艇は、第4惑星付近のやつに出てくる予定だったよな?さっき募集広告の信号を送った所のはずだ。」

「えっ?……まあ、一応そうだけど、なんかトラブルがあったみたいで、もしかしたら予定通りには……」

「もういいっ!」

「この艇は、まもなく第一エンジン部分に爆発を起こし、全壊いたします。ご注意下さい……」

 再び、部屋全体が大きく振動した。少年は、丸木台太を無視してコントロールパネルに集中しはじめた。

(第11回に続く)


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