雀部
昨年末に発行されて話題となった『東京銀経社アンソロジー いつかあの空を越えて』に続いて、今年の5月に『ペンギンSFアンソロジー上下巻』が出ましたね。ペンギンの方はどういう経緯から出版の運びとなったのでしょうか。
九頭見
カクヨムの自主企画というカクヨムユーザーが好きなテーマを決めて作品を募集するセクションで「東京銀経社アンソロジー いつかあの空を越えて「透明な伝書鳩」」でもお馴染みの秋待諷月さんが「ペンギンSFアンソロジー」(24年3月)を立ち上げました。
こちらは時間を遡りまして、その年の前年12月にカクヨムWeb小説短編賞円城塔賞での円城塔先生がXでペンギンの出てくる作品に言及していました。ペンギンの出てくる作品は良い作品が多いというコメントでした。
そこで有志がいっそペンギンが出てくるSF作品を集めたらどうかと結集しまして、60作の作品の応募がありました。
雀部
なるほど、「ペンギンの出てくる作品は良い作品が多い」という傾向があると。
そういえば、『ペンギン・ハイウェイ』というアニメ映画、あれは面白かった(笑)
九頭見
さらに有志による人気投票後、たしか文フリ東京を挟んで、私から秋待諷月さんにコンタクトを取り、同人書籍化してみてはどうかと打診しました。
秋待さんには快諾いただき、書籍化チームを結成後、書籍に掲載を許可いただける作家たちを募りました。自主企画に応募くださった大半の作家にペンギンSFアンソロジーに参加をしてもらいました。
BOOTH通販と、グッズと共にペンギンバザールへの出店やプラムツリーさまの委託販売をしています。(こちらはペンギンバザール掛川花鳥園で11月の8日・9日、プラムツリーさまで10日~)近所の喫茶店にも置いて貰っています。
雀部
ほうほう、色々と展開されているんですね。。
そういえば「日本SF大賞候補作品」にも 『ペンギンSFアンソロジー』が入ってましたよね。
九頭見
そうなんですよ。ありがたいことに執筆者の誰かが自薦したものと聞いています。
それだけ参加者にとっても思い出深いアンソロジーが作れたことはとても嬉しいです。
雀部
今回計測したら、前回の『東京銀経社アンソロジー いつかあの空を越えて』が、16作品・865頁・581gで、『ペンギンSFアンソロジー』上巻が、28作品・523頁・358g、下巻が、24作品・520頁・355gでした(笑)
「ペンギン」の方が短め(ショートショートに近い長さ)の短編が多いみたいですね。
九頭見
ペンギンSFアンソロジーの規定で2000字から10000字という規定がありまして、「いつかあの空を越えて」収録作品より短い作品が収録されているんですね。
ただ、重さとページ数は鈍器本と東京銀経社の書籍は例えられているので、もはやお馴染みです。
雀部
今では、鈍器本として名前が売れているんですね(笑)
『いつかあの空を越えて』で読んだことがある作者の方が、上巻では松田夕記子・鳥辺野九・新星緒・あぼがどの各氏。
松田さんの「サザンライツの奇跡」はデコイに恋したちょっと切ない雄ペンギンの話。「二次元の嫁」を持っている(結婚している?)オタクには、刺さる短編でした。
ラストのところにQRコードがあって、動画化(音声付き絵本?)された本作を見ることが出来ます。
九頭見
ペンギンのBLは珍しいのでは。あとペンギンSFアンソロジーは上巻ではBLのペンギンSFが、下巻では百合のペンギンSFが読めます。
雀部
上下巻でそういう違いがあったとは。
鳥辺野九さんの「ペンギンマンニンゲンラン」は、逃げ出した知性化されたペンギンたちのロードムービーかな。しゃべりまくるペンギンは、うるさい(笑)
九頭見
うるさい(笑)前頭葉を肥大化させる手術でペンギンが知性化したという一文から始まります。
この作品は上巻の、いわゆる叙述トリックものの最初の作品でこのあと幾度となくパターン化して出てくるので、ほかの作品も大喜利のように楽しんで貰えたらなぁと考えてます。
鳥辺野さんの作品もそうですが、上巻のほかの作品「ペンギンよあれが巴里の灯だ」なども喧しいペンギンが出てきます。
また書籍化チームのひとりが喧しいペンギンを集計したデータもあって(笑)
ペンギンSFアンソロジーではペンギンの鳴き声や喧しさにも注目してもらうとまた楽しいと感じています。
雀部
ペンギンの散歩シーンは見たことがありますが、鳴き声は聞いてなかったので意外でした。そういう角度からの読み方もやってみます(汗;)
新星緒さんの「夢見るペンギンと人間たちのハネムーン」は、とある水族館で大人気の喋る(翻訳機を介して)ペンギン君の逃避行。なぜ彼は水族館から出たいのか、どこを目指しているのか!そして語られる意外な真相といったところですね。
九頭見
二転三転するストーリーが楽しいですよね。それにこの話はラストでラブロマンスだったんだと気づく、そんな甘くて上手な作品です。女性読者にも読みやすい語り口が素敵な作品です。
雀部
あぼがどさんの「さよならスイートピー」は、火星のペンギン(でかい!)と量子テレポートのお話。
「スイトピー」ではなくて「スイートピー」なんですね、間違えて読んでました(汗;)
私もピーとグルーミングしたい(笑)
九頭見
ペンギンとのラブシーンがある、大人向けの1作ですね。紙面では、あぼがどさんの要望で「二つの語りが交互に語られる構成をお願いします」というお話でしたので、フォントも明朝体とゴシック体のふたつを用いた演出になっています。
あぼがどさんが「紙でないとできないことをやってみたい」と仰っていまして、そこでこうしたレイアウトになっています。ぜひとも書籍で楽しんでいただきたいですね。
雀部
【デザイン・編集協力】された久乙矢さんの「大気圏流氷に暮らすナギサペンギンたちがかわいい理由」は、大気圏(たぶん成層圏)に浮遊している流氷で暮らすペンギンたちの話。
藤崎慎吾先生の『衛星軌道2万マイル』という宇宙空間に泳ぐデブリマグロやデブリカジキを獲る漁師の話があって、ギャッ!とうなった記憶があります(笑)
ハードSF風味のファンタジーということで、私も好きだし、九頭見さんも大好きなのではと思いました(笑)
九頭見
大好きですね。久乙矢さんはずっとアマチュア時代から追っている作家さんです。
第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテストの提出作品「丹色(にいろ)の星火」では武田騎馬隊の生き残りが落人となって逃れた先で、遠未来の人類と散逸構造を持つ超知性との邂逅と宇宙的運命を辿るという何ともいえないスケールの大きなSFを書かれていたり、最近ですと、anonpressさんの「定家明月記異聞」で藤原定家のモチーフにとったタイムトラベルSFを書かれています。ペンギンSFではSFの良さと若い読者に語って聞かせるようなやさしいタッチが何とも良い作品ですね。ペンギンの可愛さとハードSF風味のハーモニーを楽しんでほしいです。
雀部
下巻では、秋待諷月さん、甘衣君彩さん、蒼桐大紀さん、武石勝義さん、かんなさんが 『いつかあの空を越えて』に続き再登場です。
【デザイン・編集協力】もされた秋待諷月さんの「ペンギンの国」は、日本人の心を癒やすミニチュアペンギンの話。好きだなあこういうどこか怖くてほのぼのした作品(笑)
太古の過去に人類の細胞に取り込まれ、人間には無くてはならない存在になったミトコンドリアを思いおこしましたよ。
九頭見
ミトコンドリアといえば、映画でしか見たことありませんが、瀬名秀明さんの『パラサイト・イヴ』ですね。そういう意味でのペンギンと人間の共生のヴィジョンというと確かにそうかも(笑)植物学でも寄生種の話題がホットらしいです。
雀部
甘衣君彩さんの「ペンギンコード」は、最初は“ペンギン型”と呼ばれる性格の人たちの間だけで流行っていたSNSアプリの話。以前に“動物型性格診断”というのが流行したことがありましたが、もしやと思ってググってみたら今も流行ってました(汗;)初めて知ったのは40年くらい前なのですが立派に市民権を得てますねえ。
九頭見
そうですね。動物型性格診断、チーターとかウサギとかありましたよね。
やや内省的な人々がVRを経て、独自の世界へ泳いでいくそんな物語です。人と関わりを持たないタイプの人々がどうなっていくのか、その先を想像させますね。
雀部
蒼桐大紀さんの「ほの明るい空の下で」は、ガニメデに赴任した主人公を待っていたのは知性を持ったペンギンの上司だったという発端から始まる物語。
蒼桐さんならではのSF設定とリアルな描写が魅力的な一編でした。
九頭見
蒼桐さんらしい気持ちのいいSFです。蒼桐さんはふだんは百合を書かれている作家でもありますが、こういうディテールの書き込まれたSFが上手です。
まえにSNSで蒼桐さんが秋山瑞人の文章を話題にしていて、SFやミリタリーが分からない人でも、理解できる適切な文章の話をしていました。ぼくのイメージでは蒼桐さんの文章と重なりますね。リーダビリティと一言で言っても、漢字とかなの割合とか、情報の出し方の順番、あるいは、文体の流麗さとか。そういう意味で蒼桐さんの文章は読みやすい。ガニメデペンギンのアルフの男前さも魅力のひとつです。
雀部
前回著者インタビューもさせていただいた武石勝義さんの「ぼくはペンギンを見たことがない」は、ペンギンとその関連した物品(絵・写真・グッズ等々)を認識できない主人公の話。
Speculative FictionたるSFの広がりを見た感じがしました。
九頭見
執筆者も「こういうSFの書き方があるんだ!」と意外性に驚かれた方もいました。なので、下巻もラスト手前で流れを捻る形で配置しています。価値観が変わるとか転換するのは、SFの醍醐味ですね。
雀部
かんなさんの「ペンギン・マンディ」は、突如出現した主人公にしか見えてないと思われるコウテイペンギンに振り回されるお話。まあ決して嫌では無い翻弄のされ方なんですけど(笑)
九頭見
コウテイペンギン「殿下」という名前もあって、上下関係のある雰囲気を作り出しちゃう。それも決して嫌ではないのは、殿下のお人柄なんでしょうね(笑)
雀部
【デザイン・編集協力】された七名菜々さんの「Welcome to PENGUIN LAND!」は、突然空から落ちてきたペンギンの雛を救助したら……という幻想譚。実は学校でいじめを受けている主人公の心の拠り所に。
SFとかファンタジーとかマンガ・アニメが、疎外感を味わっている少年少女たちを守る砦となっているというフィクションも多いし、実際にもそういう年少者が現実を忘れて逃避できる最後の拠り所としての役割を果たしていますね。
九頭見
舞浜のディズニーランドですとか、多摩のサンリオピューロランドなど、境界面に存在する門を越えることができるのは、子どもの力なんだと思います。ただ、そこは居心地がいい。だから竜宮城になってしまわないように、そういう物語も昔話にはあるんだと思います。
この作品は見方によっては少しダークな展開です。七名さんがファンタジーをどう考えているのかと、いつか聞いてみたいですね。
雀部
次回はぜひにとお願いしてみましょう!
他に、ここに注目して欲しいとか、ぜひこの作品は読んで欲しいというものがありましたらご紹介下さい。
九頭見
すべての作品に言及したい……。でも
noteでも上巻のすべての作品に言及しています。
上巻ですと、萬朶維基「コンスタンティノープルのドンペンコーデ」奇想SFに入ると思うのですが、作者の知識量が伺える作品ですね。
palomino4th「ペンギン的思考」は地球人を異化させる試みとして面白かったです。
雀部
「コンスタンティノープルのドンペンコーデ」は、ばっちしギャルコーデ決めた主人公が生成AIの手違いで「ドン・キホーテ」の世界に転位してしまう話。ギャル文化と中世ヨーロッパへの愛がたっぷりと詰まっています。う~む、何が何だかの世界だぞ(汗;)。
「ペンギン的思考」は、ちょっと怖いショートショート。『葬送のフリーレン』に登場する魔族の考え方に似ているかも。
九頭見
下巻は冬寂ましろさんの一風変わった転校生がやってくる「飛べないペンギン、空を飛ぶ」でしょうか。
ペンギンSFといってSF要素は抑えた作品ですが、謎めいた転校生がやってくるシチュエーションは好みの方がいるのではないかと思います。
あとは紫陽凛さんの「ペンギン・ボックス・パラドックス」ペンギン・ハイウェイのように突如デジタル空間に溢れ出したペンギンの謎を追う作品。これもよく出来た作品でした。
雀部
「飛べないペンギン、空を飛ぶ」は、そのペンギンみたいな転校生と友達になり、一緒に合唱を練習するが……という話。自己紹介で「ペン子です。ペンギンです」と(汗;)
「ペンギン・ボックス・パラドックス」は、動物たちが全滅した世界にあるデジタル動物園で、不具合が生じて開発チームが出向いてみるとという作品。確かに「ペンギン・ハイウェイ」の趣がありますね。
九頭見
雀部
アマゾンで「ペンギン」が入った題名で検索すると数多くの作品が出てきて驚きました。かわいいペンギンがお好きな読者のみならず、あまたの読書家にお薦めできるアンソロジーだと思います。
[九頭見灯火]
[生年]1989年
[ペンネーム]カクヨムではカクヨムSF研@非公式を名乗ってます。
アニマソラリスでは小林蒼、Twitter、アンソロジー編集のときは九頭見灯火、公募の際は九住龍。怪人二十面相みたいですね。 いつも短編を読んでくださっている読者のみなさん、ありがとうございます。
ペンギンSFアンソロジーはカバーをアンソロジー執筆者の秋待諷月さんにお願いして、夏らしい素敵なアンソロジーカバーに仕立てていただきました。
品切れもありえますので、その際は「入荷お知らせメールを受け取る」をクリックして頂けると助かります。
サークル東京銀経社URL
https://tginkei.booth.pm/
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人
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