第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第六十六話 楠見を探して 他、おまけ短編
稲葉小僧
ガルガンチュアはザワザワしていた。
楠見が単独で船外活動と実験をしてみたいと言ったからだ。
「マスター、我々4隻の統一意見ですが、できれば2人以上でお願いしたいと。もし何か事故でも起きた場合、一人だけでは何か不都合が起きる確率が高すぎます」
フロンティアは当然のごとく意見する。
「そうだぞ、主。我々が合体しているのは、ひとえに主に忠誠を近い、主を中心としているからだ。主に何かあってみろ。我々の立場や忠誠すら揺るぎかねない」
それに対し楠見は反論する。
「それじゃ、俺のやろうとしている実験を解説しよう。俺が思いついた、あの疑似テレポート技術の検証と効果範囲、跳ばされる距離の測定だ。これで分かっただろ? 例え郷であろうと俺と同じESPの強さには至れない。やるなら俺一人でやるしか無いんだ」
そう言われては、しぶしぶながらも認めるしか無い。
数時間後、銀河間空間の何もない宇宙、ガルガンチュアから少し離れたポイントで楠見は疑似テレポートの実験を始める。
「よーし、みんな、記録と測定器の準備は良いな。では一番弱いミラーを作って実験を開始する。これが成功したら、だんだんとミラーの強度を高めてみる。俺の予想だとミラー強度を強くすればするほど遠くへ跳ばされると予想する」
楠見が念じると新しいサイコキネシステクノロジー、ミラーが現れる。
「では俺はミラーの中へ入り、そのまま超空間へ移行する。測定開始してくれ」
そう言うと楠見の姿は見えなくなる。
そして……
次の瞬間、あちこちに散らばった搭載艇から報告が来る。
「マスター、最低跳躍距離は、およそ30光年ですね。近距離移動には使えないのではないかと思われます」
フロンティアから楠見へ通信報告が行く。
次は、もう少しミラーの強度を上げる。
「ふむ、今度は350光年です。少し強度を上げただけだと言われましたがマスターの少しは信用できませんね。これでは疑似テレポートの詳細測定が出来ません。一度、全力で強化したミラーで試してみることをお勧めします。危険性はないと思われます、今までの結果から」
「よし分かった……これで最大に強化したミラーが出来た……今までのミラーとは別物に見えるな。では実験してみる……」
その通信を最後に楠見はガルガンチュアで確認できなくなった。
ガルガンチュア船内では大騒ぎ。
一番遠くまで跳ばしていた搭載艇からも楠見の通信波やテレパシーは届いていないと返事が来る。
「臨時にサブマスターとして、俺、郷がガルガンチュアの指揮をとる。師匠が疑似テレポートで跳んだ距離が、とんでもなく大きいことが可能性として一番高いだろう」
「郷、ということはマスターは銀河すら飛び越えてしまったということですか?」
「ああ、フロンティアの言う通り。あまりに遠くまで跳ばされてしまい、俺達に連絡も取れないんだろうと予想する。このような時に管理者たちと連絡が取れればな。返す返すも、実験は俺がやるべきだったと思うよ」
「主のレベルではないが郷でも同じような事態になったと思うぞ。とてつもない長距離が、その半分くらいになるようなものだ。最後の実験時にミラーに投入されたサイコキネシスの量は……私も見間違いじゃないかと思ったくらいだ……だいたい、中型の恒星一個の全出力と同じくらいのエネルギーだった……」
「ということは、ご主人様は銀河のはるか向こうへ跳ばされたと?」
「ああ、そういうことになるな、エッタ。探すなら、いっそ銀河団を超えたと仮定してみるのが最善だと思う。まあ、我々には時間が味方する。数千年かかろうが絶対に主を探し出すぞ!」
ガルガンチュアは搭載艇の全放出を行う。
そしてガルガンチュア本体も分離し、今いる銀河団を4分割する方角へ。
大規模な楠見捜索が始まった。
銀河団の縁に立つ4隻の銀河団探査船。
少し変わった卵状に見える銀河団の上下左右(立体ね)に位置し、それぞれの探査範囲をカバーできるように、それぞれの搭載艇群を解き放つ。
「これで数十年後にでも師匠が確認できれば御の字なんだけどな。太陽一個と同じくらいの出力エネルギーって、もう人間と言うか人類の操れる範囲を超えてると思うんだけどねぇ……フロンティア、どう? 師匠のテレパシーの強度だと例え意識を失っていたとしても半径数百光年くらいで搭載艇のセンサーで見つけられるはずだよね?」
「そうですね……郷の言う通りなんですが未だマスターのテレパシーは確認できません。私の捜索範囲は、およそ、この銀河団の半分くらいですので未だその一割も捜索していない時点で早急に判断は出来ないのですが。まあ、マスターですから銀河単位でも数日で捜索できるのは速いんですが。銀河団クラスでの捜索ですから時間がかかるのは仕方がないでしょう」
「そうかい……仕方がないのは理解してるんだけどな。こういう事態になると俺の力不足を嫌ってほど感じるよ。師匠なら堂々とした態度で詳細な計画を展開するんだろうがなぁ……あ、それとも管理者たちに連絡とって情報もらうとか……本当にやりそうだな、師匠なら」
はぁ……
ため息をつく郷。
焦っても何もならない事を理解しているが、それでも何かせずにはいられない。
ちなみに、エッタやライム、プロフェッサーは、それぞれ別の船にいる。
郷がフロンティアにいるのはフロンティアが一番大きくて司令船となっているから。
銀河団探査船は、それぞれ単独では能力が制限されてしまうため、仮でもマスターとなる者がいないとダメだからという理由で例えプロフェッサーというアンドロイドであろうと、仮マスターとして登録すれば能力制限は一部を除いて解除される(流石に主砲とかは楠見がいないとダメ)
「時間はあるんだよなぁ……確かに。無限の距離を跳んだわけじゃないから虱潰しで当たれば、いつかは当たるわけだ、確率的に。それにしてもなぁ……フロンティアたちも同じなんだろうが、何か心の中の大切な拠り所みたいなものが突然に失われたような気がするんだよなぁ……」
「そうですね、郷。私の論理回路は絶対に生きていて探し出すだけなんだと理解はしているのですが、どうもマスターの声をここまで長いこと聞かないと……何というのでしょうか、これを寂しい、というのでしょうかね?」
「フロンティア、お前、師匠に感化されてるのは分かってたが本当に人間的になってるな。もう機械生命体と同じようなレベルで生命体と言っても良いんじゃないか」
「いえいえ、まだまだです。マスターの思考に追いつけないとか理解できない事例が、まだまだ多いですね。ああ、本当に我々ガルガンチュアの船体そのものが生命体にステップアップできるなら、この小さな入れ物に凝縮された形でも何の不満もないのですが……」
この告白を聞いて少し引いていた郷。
師匠、楠見は、ここまで超大型宇宙船の望みを引き出すのか。
師匠は、どこまで関わった者たちを変化させていくのだろう……
「ふっ、今頃、跳ばされた先の星で色々なトラブルを解決してたりしてな……それが見えるようだ、なあ、フロンティア」
「そう、そうでしょうね。たった一人、宇宙船も仲間も無くとも、マスターは行く先々で、あらゆるトラブルを解決していくのでしょうね……そうと分かっているなら我々は少しでも速く、マスターを見つける作業を続けるだけです。孤独なマスターに手を貸すべく、我々はあらゆる手を尽くしてみるべきでしょう」
「お、おう。そうだ、そのとおりだ。師匠を一人で放っておくなんざ、危なすぎて何が飛び出すか分かったもんじゃないからな」
互いの顔を見つめ、ニヤリと笑う郷とフロンティアだった。
その頃、跳ばされた楠見は……
「う……ここ、銀河(どこ)の星系だ? 俺は何処まで跳ばされた? ミラーは……消えてるな。どうやら何処かの銀河の何処かの星に到着してるようだが。あ、ガルガンチュアは……ふむ、テレパシーは弱くなっているようだ。この分じゃ……やっぱりか。サイコキネシスも弱体化してるな。大気中の金属分子を集めるのに数十秒もかかるとはなぁ」
楠見のESPは確かに弱体化している。
あまりにミラーを強化するために力を注いだための一時的な弱体化だったりするが自分では分からない。
いつまで弱体化するのか、ずっと弱くなったままなのか、それも自分では分からない。
「実験前に着てた軽宇宙服は、どこも損傷なしか。まあ、これで半裸とか言う事態は勘弁してほしかったが、それだけは回避できたわけか」
楠見は以前に訪れた魔法の使える星で元地球人の使っていた魔法の再現、と言うか他の生命体を検知するレーダー魔法をサイコキネシスとテレパシーで再現しようとする。
「あれは、どうやるんだったっけか? 確か、ごく薄くした魔法力を自分を中心とした円状に広げてたんだっけ……テレパシーは薄く広くという形には出来ないからな。サイコキネシスを俺の使える最大範囲で最小のエネルギーを充満させるように……そこへテレパシーを重ねるようにして……おっ! 成功した。ここから少し遠いが、そこなら生命体が密集しているな。テレパシーの受信感覚では、ちょっとした町らしいが……文明程度は、とても自星系から飛び立てるような文明じゃなさそうだが。まあ、仕方がないか。そちらへ向かおう」
弱体化したとはいえ星を砕くレベルじゃなくなっただけであり普通のESPレベルとは超絶的にかけ離れてるとは毛筋ほども思わない勘違い中年は町へ向かう。
深い森の中へ出現した楠見が、その森を出るまでに数週間かかった。
まあ楠見以外は生きて出られるような森ではなかったのだが(肉食獣やら毒を持つ虫や肉食草花がウヨウヨいる禁忌の森と呼ばれるポイント)楠見には何の問題もない。
サイキックフィールドは無意識に展開されるので楠見を害するようなもの(猛獣はいざ知らず毒虫や食肉草花まで)が一切、その身を傷つけることはない。
「少し腹が減ったな……こういう時は確か宇宙服の隠しポケットの中に……あったあった。携行タイプの宇宙食だ。あまり美味くないけれど空腹を満たすには、もってこいだ」
宇宙食を齧りながら、近くを流れている小川より水をサイコキネシスで運んでくる。
もちろん徹底的に小川の水はサイコキネシスで濾過している(疑似錬金術の要領で水の中の不純物分子を徹底的に除去している)ので、ほとんど純水に近くなっている飲料水だ。
深い森を抜け出ると町が見えてくる。
とは言え、まだまだ遠い。
「空飛ぶわけにはいかないから厄介だね、こりゃ。はぁ……最低でも俺のいた頃の太陽系は地球の文明程度だったらなぁ……愚痴を言っても始まらないから仕方がない。サイコキネシスを軽く使って、この星の重力を半分くらいにしてみるとするか……おお、こりゃ速い。このまま町へ向かうとするか」
なお、自分じゃ気づかないようだが、この時の楠見の出している速度は、およそ時速50km超え。
昔の地球で言う原動機付自転車(50cc)の最大速に近い常識はずれの速さだということを理解していない。
数時間後、楠見は町の門へ到着する。
門番が立っていて町へ入る者たちをチェックしているようだ。
「町へ入るのに何か条件があるのかな? まあいい、条件が分かれば何とかなるだろう……言葉も理解できないが、まあ数時間もあれば会話が可能になるだろう。まずは入門を待つ人たちの会話を聞きながら会話くらいはできるレベルにならないと」
二時間くらいかかったが楠見の入門チェックとなる。
その時点では、もう楠見は、この星の地域言語が会話レベルで可能となっていた。
「おや? 身一つなのか? 追い剥ぎや盗賊にでも出会ったか? 見慣れぬ服装をしているが、もしかして貴族様か?」
門番は何も所持しているような風に見えない楠見に質問する。
「ええ、向こうの森で盗賊に襲われましてね。おまけに逃げた方向が奥へ奥へと……纏ってた武器も防具も帰りにはボロボロで捨ててしまいました。残ってたのは数粒の金くらいですよ」
と言いながら楠見は最初に作り出した金の粒、数十粒を見せる。
「あ、あんた苦労したな。しかし、この財産だけは守ったということか。町へ入る時に入町税として銀一枚を徴収するが……一番小さな粒をもらおうか。こちらが銀10枚と交換して税金で銀一枚をもらう。さて、血糊もないし犯罪者でもなさそうなんで、ここまでだ。ようこそ、モリノの町へ」
楠見は守衛たちに、この町の全体像を教えてもらう。
彼らいわく皇都や王都のような巨大都市ではないが、それなりに地方都市としては大きな町らしい。
楠見の出てきた森は禁忌の森と言われ、猛獣や毒虫、肉食の草花がそこいらじゅうに存在する超危険地帯だという。
しかし、ここで採れる薬草や毒草、毒虫の毒腺など高級な薬の原料となるために採取に入る者たちは多いとのこと。
「あんたも手っ取り早く稼ぐなら禁忌の森へ採取作業へ行くと良いぞ。ただし何かあったらすぐに森から出られるように、ごくごく浅い地域しか入らないようにギルドから指導されるがな」
ありがとうと礼を良い、楠見は教えられた宿屋へ向かう。
楠見の持っている金の粒は価値で言うと、この町で一年は贅沢に暮らせるほどの金額らしい。
財産を金に替えて旅をするなんて、あんた賢いな、と守衛に褒められる楠見だった。
「さて、と。この星で暮らしながら、ゆっくりと養生するか。どうせミラーに全てのESP能力を注ぎ込んだが故の暴走事故なんだろうがガルガンチュアに連絡とろうにも俺の力が戻らないと話にならんわな。とりあえずの目標としては、ここの暮らしに慣れることと、元の力を取り戻すことだ。ゆっくりと行こう、ゆっくりと。疑似テレポート暴走事故のように焦って結果を出そうとすると、ろくなことがない」
自分に帰ってくる言葉だと分からないのが救いか。
楠見は、とりあえず今の状況で生き抜くことを最優先させる。
楠見が消えてから数十年……
未だガルガンチュアは楠見の探索に力を注いでいた。
あっちの星系で搭載艇が何かを見つけたと報告があれば、あちらの星系へ。
こっちの星団で何か妙な反応があると聞けば、こちらの星団へ。
あまりに広い範囲を探すため、ガルガンチュアは合体を解除し、それぞれにサブマスターとして乗員を一人(船の端末たるアンドロイドはサブマスターになり得ない)配置し、船が機能不全にならないようにしてから本船と搭載艇を全て引き連れて楠見の捜索へ向かう。
「こちらフロンティアより各銀河団探査船へ。マスター捜索の進捗状況を」
ガレリア、トリスタン、フィーアより進捗状況の報告と、未だ発見できずとの最終結果が。
「郷、これで、この銀河団の半分以上は捜索済みとなりました。どうします? 隣の銀河団へ捜索範囲を広げますか? それとも、この銀河団を徹底的に捜索して後、銀河団を移りますか? サブマスターとして判断して下さい。我々アンドロイドでは、この辺りの判断ができません」
問われた郷は、しばし沈思黙考。
しばらく経って口を開く。
「ここまで長い捜索になるとは誰も思ってなかったからなぁ……ちょっと考え方を変えて捜索範囲を広げてみよう。一隻で一つの銀河団を捜索してみる方向へ変えようか。ここは疑似テレポート実験の現場になった銀河団なんで、ここだけは皆で捜索して、ここが捜索終了で師匠が見つからなきゃ次は一隻づつで一つの銀河団を探索するんだ。時間はかかるだろうが今の時点で師匠の反応が何もないということは師匠のいる星の環境に何か起きているか、それとも師匠の力が消えて……しまうことはないだろうから師匠の力が弱まったと見るべきだろうな。捜索の網の目を小さくして、少しの反応にも関心を持つべきだろう」
「分かりました、適切な回答です、郷。マスターのレベルではないと思われますが、さすがマスターに次ぐ力を持つ存在。しっかりしてきましたね」
「よせやい、フロンティア。師匠だったら、どうするか? どう考えるか? どう動くか? それをいつも考えているだけさ」
あわてて取り繕う郷の姿に、微笑みを浮かべるフロンティアだった。
「ガレリア! 武器系統はスタンナー、パラライザー、そして射程の短いレーザー砲のみを許可します! 防御については全て許可! 目標、宇宙海賊集団! いっけーっ!」
「了解、サブマスター、エッタ。輸送船団の援護と同時に宇宙海賊集団の殲滅を行う。まかせとけ、非殺傷でやるから」
「え、わ、分かったわ。お願いね、ガレリア」
「さーて……主の不在時に、なーにを勝手に宇宙犯罪なんてやらかしてくれちゃってるのかねぇ……大型搭載艇集団! やっておしまい!」
あっという間に宇宙海賊集団20隻の拿捕と無力化を実行すると、星系軍への通報と輸送船団の保護と修理に奔走するガレリアだった。
ちなみに中型以下の搭載艇は全て楠見の捜索へ回している。
「トリスタン、我が主の捜索へ主力搭載艇を全て回していますが、何かトラブルが起きても対処は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ、プロフェッサー。サブマスターとは言え我が船へマスターやサブマスターが乗り込むのは初となる。よろしくご指導お願いする」
「はい、専門分野ではトリスタンに敵わないかも知れませんが私は我が主との付き合いが仲間内で一番長いですからね。経験だけは豊富にありますので何でもアドバイスしますよ」
「では、お聞きしたい……」
「それはですね……」
「ライムさーん! 巨大流星群が一星系に衝突する可能性があるからって、それを阻止するのが私だけですかぁ?! 大型搭載艇だけでも呼び戻したいんですけれど……」
「自分の大きさ、分かって言ってるのかな、フィーア。あの流星群の最大の物でさえ、あなたの20%ほどの大きさもないんだよ。やればできる、やらなきゃできない! 頑張れ、フィーア!」
「大きさの問題じゃないんですけどねぇ、これが。まあ防御フィールド最大にして強度も最強、そして重力子砲で流星群自体の見かけの質量も下げれば対処は可能でしょうが……ええい、やるっきゃないか!」
「……すごい……やればできるじゃないの、フィーア」
「はぁはぁ……もっと褒めてもらっても良いよ、ライムさん」
それぞれ、楠見捜索中であるが、色々ありそうだ。
楠見のESP力は未だ完全に戻りきっていなかった。
とは言え元に戻りつつあるのは確かに自分でも確認できていたので当人としては焦る気持ちはなかった。
「まあ、この星で数十年か百年くらい過ごせばガルガンチュアで見つけてくれるだろう。焦っても仕方がないな……俺は俺で、ここで百年以上生きていける地固めをするか」
楠見は、この時点で普通じゃない思考をしているが、これが楠見らガルガンチュアクルーの普通であるため、ごくごく通常思考だと思っている。
「さーてと。まずは軍資金……とは言え今ある手持ちの貴金属で数年は遊んで暮らせるくらいあるんだがなぁ……企業作るなら、もう少し頑張ろうか、俺」
手持ちの貴金属の塊を換金して買ったマンションビルの一室には、そこら中に貴金属のインゴットが散らばっている。
通常なら楠見の言う企業作りには、この散らばってる貴金属インゴットの半分もあれば中規模の、特殊工作機を使うオーダーメイド専門の電子機器及び特殊金属加工会社が簡単に出来る。
数時間後、中規模が大規模に出来るくらいの貴金属インゴットが出来上がっていた……
「さて、これでいいか。後は特許と実用新案をいくつか取って特殊金属を扱える加工装置を買って……まあ残りは事務所含めた会社の敷地を買う為に使うか」
数年後、都市部より少し山奥へ入った、だだっ広い敷地の中に、でかい工場と、それに付随する事務所、寮、研究棟など、ほぼクローズドで社会生活が営めそうな企業が爆誕する。
社会貢献ということで小中高大専門の各学校からの見学者は引き受けるが、一般見学は指定された日以外は受け付けない。
「あのー……社会見学や企業訪問の学生は受け付けるのに、なぜに他企業からの見学とかは、こんなに制限されるんですか?」
引率の先生が聞いてくる。
案外役の女性と男性のコンビは、こう答えるように教育されている。
「はい、産業スパイ排除のためです。ここは企業秘密の塊のような部署もありますし見学から外れているルートの中には危険を伴う作業をしている部署もあります。そういう引き受けなくとも良いトラブル排除のためですね」
はあ、そんなもんですか……
などと通常はそれでお終いとなる。
「はーい! 課長さん、質問! ここは、どんなものを作っているんですか?」
無邪気な小学生高学年の集団から、ちょっと目を輝かせた子供が質問する。
「はいはい、ここは君たちの未来を明るくするためのものが作られています。難しいかな? エネルギー炉って知ってる? ああ原子力ね。確かにあれもエネルギーを生み出す原子炉ではありますが、ここで作ってる部品は今までのものとは全く違う、素晴らしいものなんです。原子炉みたいに爆発もしない危険な放射能撒き散らすこともない、そして後数年もすれば君らが大人になった頃には車やバイク、飛行機や宇宙船まで、このタイプのエネルギー炉が載ることになる。ああ、そうそうエンジンのようなものです。よく知ってるねぇ、君。大きいものだと原子炉の大きさ以上のものも作れるけれど、それは、やれるってだけのこと。実際には小さなものなら手のひらに載る物、大きなものでも船のエンジン部くらいの大きさまでですね。それ以上は、この工場の大きさでは部品が作れませんので……」
そう、この工場では超小型と小型、中型と大中型と言われる、大型より一回り小さなエネルギー炉の部品しか作られていない。
大型、超大型と言われる物は、ここでは課長の説明した通り部品すら大きすぎて違う工場で作って運搬するしか無い。
しかし、この工場で作られる部品すら、どこかへ運ばれている。
産業スパイや企業探偵、産業系新聞やスッパ抜きを好む三流モノ系雑誌の者たちは、この部品が運ばれていく先を突き止めようと躍起になっている。
しかし、ある程度までは追跡しても、それ以降、どんなに手を尽くしても部品の届け先が分からない。
いつの間にか産業界の不思議ということで噂になっていく。
「今日も噂の検証とやらで向こう見ずな一般人が大型輸送便に混じって運転手として付いてこようとしていました。幸い、うちの輸送トラックは全て無人化、及び高度な人工頭脳が組み込まれたロボットトラックのため、積み込み時に発見されて排除されましたが。組み立てと実働試験は工場と離しているってのが危険を伴うからだと推測できないんですかね? 子供でもちょいと考えりゃ分かりそうなもんでしょうが」
輸送部主任が気難しい顔をしている。
このところ部品の発送日はランダムに決めているが、どこで嗅ぎつけてくるのやら、大型トラックの集団に紛れて何とか潜り込めないかと、このような奴らが少しづつ増えてきている。
「まあまあ、抑えてくれ主任。もう少しで空輸体制に切り替えられそうなんだ。空輸になれば、そうそう潜り込みのチャンスもないだろう」
フラグを立てたわけじゃないんだろうが後に大規模空輸体制に切り替わっても、潜り込み取材とスパイしようという輩は途切れることはなかったという……
「まずはクリーンなエネルギー炉に全ての機械動力を切り替えて……お次は電力の切り替え、そしてそして、ようやく宇宙船の開発と……時間があるからゆっくりやってるが通常なら数年で宇宙船開発までやらせるんだがなぁ……データは俺の頭の中に全て入ってるが、やっぱガルガンチュアって万能工場が無いと不便だよなぁ……」
超巨大宇宙船すら万能工場扱いの楠見である……
楠見はガルガンチュアからの救助を待ちながら気休め程度に生活をエンジョイしていた。
「いやー、宇宙文明前の星、世界とは言え結構、暮らせるもんだね。俺が暮らしてた頃の太陽系文明とまでは行かないが、それなりに暮らしやすくなってきたじゃないの。うん、文明発展は正義だ!」
(株)楠見インダストリーズの総会長(色々な事業に手を出しているため総合的な会長職という立場にある楠見だった)として、それなりに忙しく、また優雅な日々を送っている楠見だが、ESPは全盛期並みには回復していない。
一度、宇宙の管理者たちへ連絡をとろうとして思考の次元を上げられないことに気がついてからは、こちらでもようやく実用化した教育機械(楠見特化バージョン)でエスパーとして訓練を欠かさず行っている……
しかし、焦れったくなるくらいにジワジワとしかESP能力は戻っていかない。
「問題は今の俺の状態だとガルガンチュアの搭載艇が捜索に来てもセンサーが反応しない恐れがあるってことだな。まあ、それは今の状況では心配しても、どうしようもないことなんだが」
何か吹っ切れたような気分で、この星での生活を送る楠見である。
ちなみに、女性と付き合う予定も結婚する予定もない。
「だって特定の女性と良い仲になっても俺はこの星に骨を埋める気はないからねー。家庭も妻も、子供なんてもってのほかだ。俺が、この星に残してやれるのは星へと至る文明への足がかりと、そして、この星の人間たちの意識のレベルアップだけ……とは言うものの、この国は随分マシなだけで他の国では未だに奴隷制度があったりするしなぁ……これでは星系統一政府どころか星の統一政府すら、まだまだ遠い……」
(株)楠見インダストリーズの自社ビル最高階のフロアを丸々専用フロアにして楠見は一角にある会長室にいる。
世界中の様々な情報がリアルタイムで入ってくる、まるでどこかの情報部のような機器や通信機に囲まれた部屋で楠見は、この世界の未来を思い描いている。
「とりあえず環境破壊の原因となっていた化石燃料や原子力関係なんかは撤廃できたな。こっちの手が届かない一部の最貧国家は別に手を回して国際援助という形でうちの新型エネルギー炉への転換作業が進むようにしているんで、まあ、あと10年はかからずとも、この星の酷い環境破壊は救えたわけだ。しかし、問題は山積みだぞ……どうやって一企業の立場で国家乱立状態から統合政府へと進化させようか……」
考えている楠見の目に飛び込んで来る映像……
「あっちゃー……内乱から戦争……原因は宗教問題とね……くぁー! なんで宗教、神様や仏様が殺人を許容するって考えるんだ?! 人を救うのが宗教だろうが! 人を殺せなんていうのは邪神だろ!」
リアルでの殺し合い映像を見ながら楠見は沸々と怒りに燃える。
ガルガンチュアで指揮や計画を練っている場合は、そこまで悲惨な場面を見ないしガルガンチュアの攻撃手段は非殺傷がほとんどだから、そこまで楠見の感情を刺激することはない。
しかし何処ともわからぬ銀河、何処ともわからぬ星に一人で放り出され、それでも星に住む者たちのために自分の持つ知恵と知識を出して進化へ導いている最中。
楠見とっては肌の色、瞳の色、髪の色、言葉も人種も男女も老若も関係ない(楠見とは超銀河団の段階で違っている生命体)
自分では、この星全ての命が愛する対象(ちなみに人類だけじゃない。愛する対象は動物も植物も含む)そう、この星そのもの。
「大切な生命だというのに互いに殺し合うとは、なんと生命軽視も甚だしい愚かしさ……ガルガンチュアなら搭載艇群放出で力技でも平和にできるがなぁ……あいにく、ここにいるのはオレ一人で仲間もない、と……」
この時点でESPレベルが元に戻っていない事を、この星の生命体は神に感謝すべきだろう。
いつもの楠見であれば怒りのあまりこの星の衛星くらいサイコキネシスで潰しかねないくらいに怒っている。
「ちょっと待てよ……教育機械でESP能力や超天才の発現を見せた者たちは今現在、うちの関連会社がブレーンや特殊能力開発部門で雇ってるんだっけ……ふふ、いいこと思いついたぞぉ……世界平和へ、これから一直線だ!」
小人閑居して不善をなす。
いやいや、楠見の場合は小人では無いが何か良くない事(政治的には)を企んでいる黒い笑みがこぼれている。
この瞬間から、この星での「戦争」という言葉の意味が違ってくる……
楠見の作戦とは?
「ま、この計画が終了しても戦争が終わらないようなら、それはそれで宇宙文明へ進化する見込みがないってことだけど……過去にも、ごく少数だけど、そういう星はあったからなぁ……それ以上やるなら俺だけじゃなくて、それこそガルガンチュアとクルー全員で力技になるけれど」
そう、楠見は呟きながら計画を具体的なものにしていく。
数ヶ月後、楠見と他に百名ほど、明らかに楠見インダストリーズから内部引き抜きだと思われる少数精鋭の者たちがいる。
「さっそくだが諸君らには特別任務を与える。ちなみに危険な任務ではあるが命の危険はまったくないことを予め言っておく。ここでグループを10人づつに分け、グループごとに行動目標を与えるので、それに向けて頑張ってほしい。先頭から10人づつ、ひと塊になってくれ。それぞれ任務と目標、そして最終目的を書いた指令書を渡していくので頭に叩き込んだら、その場で分かれて行動開始だ……よろしいか? では君らの最終目的は、このビルに戻ってくることだ、それぞれの締切日までにな。では行動開始!」
思い思いの敬礼や挨拶を返しながら精鋭集団が散っていく。
「最終日には、ここに100人以上の有名人が集まるわけだが……さて、俺も動くとするか……ビッグプロジェクト開始だ!」
楠見は自社ビルの総会長専用室から出て、とある制作会社の事務所へ。
見慣れぬ中年男が来たということで何かの営業かもと対応は冷ややか。
楠見は慣れたもので、
「あー、ちょっと、君では対応できないかも知れないね。出来ますって? 大丈夫? とりあえず、こんな企画を考えてるんだが……おい、顔色が悪いが大丈夫か?」
企画書を数ページ読んだだけで最初に出てきた新人くんは青い顔に。
こいつは不味いと出てきた係長、課長も顔色を変え、最終的には企画部部長と課長が担当する。
「すっげぇ! ちなみに……あ、名刺もらってる? 楠見さん……え! あの楠見インダストリーズの総会長?! へへぇーっ!」
あわてて土下座を止めさせると部長も課長も目をキラキラさせて楠見に詰め寄ってくる。
「く、楠見さん! これ、実現すれば過去も現在も、未来にまで名を轟かすメディアの到達点となりますよ! 法律的にヤバイことはないんですよね? 集合したら後は問題なし? そうですか。では次に予算ですが……これくらい? はぁっ! ? 桁が違う? 国家予算じゃあるまいし、そんな予算ならキー局の放送枠を目一杯、一日中買い切ることも可能ですよ。帯なら、そうですねぇ、1年でも2年でも。いっそ10年くらいは。え? 半日で良い? この予算なら簡単です。企画の中身は……司会もサブも現地アナも全く問題ありません。ただし後で問題になるかも……え? それはない? そんなことになったら自分で自分の首を絞めるようなもの? 本当ですな? 分かりました……他の制作会社も巻き込み、できれば海外局も巻き込んで、この企画、成功させましょう! で、ですね。最終場面で結論を述べる役者を誰にするか……え? 声優で良い? 渋い声より、ちょっと若めの声? ふーむ……セレクションしてみますが……この企画の実行日と言うか録画日に変更なし? でしたら各事務所にセレクションするからと声かけときますね。よーし! これまでにない、やりがいのある企画じゃないか! バックアップも万全! これで数字が取れなきゃ俺たちゃ能無し決定だぞ! さあ、動き出せ!」
ニヤリと笑う楠見。
その笑みの中に若干、黒いものがあることを残念ながら制作会社の部長課長コンビは気づかなかった……
巨大テーマパークのようなセットの中で参加者たちが崩折れていた……
心をへし折られたもの、肉体が精神についていけず老いを実感させられてしまい引退を覚悟したもの、宗教団体の長だったばかりにその嘘の歴史と誤魔化しの積み重ねを番組にて暴露されてしまい情けなくも宗教的情熱が失せてしまったもの、果ては一国の独裁者たるものが国の独立から何から全てが嘘で塗り固められた事情だったと資料を用いて証明されてしまい、もうやってられんと統治する気すら失せてしまうものまでいる。
「ああ、我が国の拠って立つ基盤たる宗教、**教そのものが嘘と誤魔化しで塗り固められていたとは……もう生きていく理由すらなくなるな、これは」
表情が全て抜け落ちたようなような顔で呟く一人の老人。
これでも数時間前は宗教熱情熱に溢れた顔をしていた。
大なり小なり宗教そのものが宇宙へ出る段階の文明には不要どころか害悪でしか無いという事実が頭に叩き込まれたところで、この番組の収録は終わり、収録後は全ての参加者に対し豪華な料理と、これも豪華な個室スイートルームが用意され、数日後には、それぞれの国に丁重に送り返された。
普通なら国際問題になるような大事件のはずなのに拉致誘拐に近い形で招待された多数の要人たちは何も文句を言わなかった。
なぜなら自分たちのやってきた戦争、テロ行為、スパイ行為そのものが、いかに世界を統一するのに邪魔になっていたのか十分に理解していたから。
この番組に対し文句をつけようものなら、それは赤ん坊が駄々をこねて泣きじゃくるようなもの。
いい年をした大人が、そんな事をすればどうなるか?
それが分からないほどには全員が幼稚ではなかった。
ちなみに、この番組は特別番組として世界中に放送された。
スポンサーは秘密とされたが、ある程度の推理を働かせば誰にでも分かる。
これだけの事をなせる超国家企業など楠見インダストリーズ以外にあるわけがないということだ。
全世界が、この番組に対して妨害や番組放送停止などの手段をとること無く、全ての人間が、いかにして宗教や独裁者、特定のメディアに騙されていたかが白日の下にさらされたわけ。
国連の理事長という立場であろうと、この事実暴露からは逃れられず某国からの賄賂漬けであったことが明らかになる。
もう政治家という職業、宗教家という職業は金と権力、嘘にまみれた者たちばかりだと誰もが知ってしまう。
とある国では独裁者に対し反乱が起き、独裁者の一族郎党は追放や死刑。
一国家どころか広い範囲で数国に渡り、それまで国家すら縛っていた特定宗教が邪教と認定され、その最高指導者や指導者層、軍事部門まで握るほどの権力は剥奪され落ちぶれてしまうこととなる。
「ふぅ……これで邪魔な障害は取り除けたか……後は宇宙文明へ到達できるかどうか、それは、この星の人間たち次第か……ガルガンチュアが探しに来るまでの間、見守るというのも一興かな?」
楠見は呟く。
その表情に暗いものはない。
ようやく、この星の人類、始祖文明の子孫たちが今一度、宇宙へ飛び出す基礎を作り上げた確信があるから。
一時の混乱が収まると、ようやく、この星にも多国家状態では不味いのじゃないかという気運が上がり始める。
楠見のところにも様々な方面から統一国家となるためのアドバイスを求める声が届く。
そういう時、楠見は決まって、この言葉を送ることにしている。
「本当に統一国家を求めるなら、どこにも縛られない人を選ぶべきだ。そういう人が統一国家となった星を率いる時、ようやく、ここの星の人類が宇宙へステップアップする準備が整った時だと思う」
楠見本人に統一国家の首長にと望む者も一定数いたが楠見は固辞する。
「俺は一つの星を率いる人間じゃない。この会社、楠見インダストリーズを率いるだけでも苦労しているのに、そんな地位に就けると思うか?」
笑顔でそう言う楠見に、それ以上言える者は、さすがにいなかったという。
「しかし、その人が決まったら俺に真っ先に知らせてくれ。バックアップと暗躍は俺の得意技だからね」
その言葉を変わらぬ笑顔で言う楠見……
こりゃ、星を率いる代表者より上だと一部の人間は確信したと言う……
こちら郷達ガルガンチュアの面々。
もう楠見の捜索に船体を分離してから数十年あまり。
未だ楠見の跳ばされてしまった先の手がかりすら見つけられない。
「これは考え方を変えねばならないかもな」
定期報告会(超光速の無線ネットワークにて会議中)にて郷が宣言する。
「今まで俺達は師匠が今までの膨大な力を持っていると仮定して捜索してきた。だけど、その前提を変えたほうが良いかも知れない」
「はい? では、どのようにしてご主人様を探すと? 例えば辺境の未開惑星に跳ばされていたとして、今までのような力を持っていない状態で、どうやって探せば良いのでしょうか?」
エッタが発言。
すぐに発言したのはライム。
「通常の生命体とキャプテンを明確に分ける印は、その超常現象そのもののようなESP能力でしょう。郷さんも最初、あんなサイキックパワーの塊みたいな生命体はキャプテンしか存在しないと思うからこそ短時間で見つかると予想してたんじゃないんですか?」
「ああ、そうだった。俺の予想じゃ十年以内に見つからなきゃおかしいと思ってた。しかし捜索し始めてから現在で25年が過ぎて、それでも大まかな位置すら掴めないときてる。俺はね……師匠のESP能力が減衰したんじゃないかと思うんだ」
プロフェッサーが、その言葉を捉える。
「郷、我が主のサイキックパワーが弱くなったと? それなら今まで探しても見つからないのは当然ですが……ただし、それが原因だとすれば今まで捜索した星系や銀河、もう一度、今度は詳しく、時間をかけて精査しなきゃダメですよ」
「そうだ。そこで、もう一度、師匠がテストした3回の疑似テレポート実験、記録を精査してみようと思う。トリスタン、そっちで詳細記録は保管してたよな。一回目と二回目、そして最後となった三回目の疑似テレポート実験の記録を隅々まで精査してくれないか」
それを受けたトリスタン。
「はい、記録の精査は準備中……完了しました。郷さん、何を重視しますか?」
「ありがとう。それじゃ特に全ての回におけるサイキックミラーに注ぎ込まれたエネルギー量を重視して、その比較をしてみてくれ」
トリスタンが実験データを精査する。
数時間後、
「郷さん、おおよそですが疑似テレポート実験で最終的に使われたエネルギー量は中型恒星の全エネルギー量と等しいと思われます。初回と二回目のデータは跳躍距離まで残っているので、それとの比較で、最終実験で跳ばされた距離の計算結果が出ました……それがですね……」
「トリスタン、言いよどむ理由は? 計算結果は明確に出てるんだろ? 公表してくれ」
「いえ、私も知的人工頭脳ですので、あまりの結果に回路が混乱しまして……跳躍距離の計算結果は、およそ信じられない距離です。銀河単位じゃありません、銀河団単位で2つ半。とてもじゃないけどタンパク質生命体が自分一人だけの力で移動できる距離じゃありません。我々、銀河団探査船でも単独で銀河団2つ半なんて長距離、一気に移動する気になりませんよ。ガルガンチュアになってるんでエネルギー的に膨大な余裕がありますから超銀河団すら渡ることが出来るんで本来は一気に跳ぶ距離なんて最大数万光年が普通ですからね」
「いや、説明までやってもらってすまなかったね、トリスタン。まあ、とてつもない超常能力だってのは知ってたが、それが目に見える結果となったということなんだろうな。さて、そうなると今やってる捜索は中止となる」
「え? なんでですか、郷さん」
すかさずエッタの疑問が。
「だってさ、エッタ、考えても見ろよ。あの師匠が計算結果より少ない距離で跳ぶわけがない。ということは跳んだポイントを中心として半径は銀河団を2つ半。その球体の縁を基準として、そこに含まれる銀河を捜索する。生物の本能として何もない空間を出現地点に選ぶことはないと判断するから。ということでフロンティア。改正した捜索プランで、さっそく師匠の捜索開始だ」
「了解です、郷。なんだか、マスターとしての貫禄がついてきましたね」
「よせやい、フロンティア。俺なんか、まだまだだよ。師匠だったら今頃は一人で跳んだ先の星で人助けと文明進化やってたりしてな」
半分冗談で言った郷。
まさか、それが実現しているとは考えなかった……
一方、こちらは当の楠見。
すったもんだの末、なんとか統合政府も立ち上がり、星の中での統一政府化は順調に進んでいる。
「ふぅ……これはこれで大変だな。統合政府から統一政府へ、それでこの星は宇宙文明へと進化して宇宙への入口を開けることとなる」
楠見は呟く。
現在、統合政府の相談役として何かと政府の統制官たちの相談に乗っていた(統制官とは過去の国単位と同じ地区に対する大統領や首相のようなものだと思って欲しい)
「少しばかり最新技術を出しすぎたかな。しかし中途半端なロケット技術だけじゃ危険だしなぁ……」
楠見は呑気に言うがエネルギー・物質相互変換炉の技術は普通ではない。
しかし危険な核反応炉や核融合炉よりはるかに優れてはいるが核融合のはるか延長線上にある相互変換炉の技術は、この星の現在のテクノロジーでは無理な超未来に実現可能なものだった。
この相互変換炉の派生技術である防御シールドもそうだが相互変換炉を基準として使う前提になっているものが多いため、今、この星のテクノロジーは数百年分は進んでいる。
「やぁ、楠見さん。今回も困ったことになりまして……ご相談に乗っていただきたく」
今、軌道に乗りかけている衛星の開発と開拓についての問題点が書かれた分厚いファイルを持った統制官の一団が楠見に向かい、問いかける。
楠見は、いつものことと普通に対応していく。
「ここは微振動対策で。この問題は、そうですね、人間関係の問題だと思われるので少し配置転換すれば大丈夫だと思われます……まあ、これだけやれば後は大した問題にはならないでしょう」
「すごい! さすがは秒殺の楠見と言われるだけのことはある。トラブルシューティングの見事さは、もう芸術の域ですね。もう長いことトラブルシューティングに携わられている人物としか思えません」
まあ数万年に渡って銀河単位でトラブルバスターやってれば、こんな惑星単位のトラブルなんてトラブルの内にも入らんよ。
楠見は、そんな風に思いながらも秒殺の楠見ってのは言い過ぎだと思った。
「これで滞ってたプロジェクトは順調に行くと思うんですが。軽いトラブルなら、そちらで対処可能だと思われますが特に重大なトラブルが発生したら私のところへ連絡いただけば大丈夫でしょう」
統制官たちは楠見に対し敬服の表情を浮かべ、最敬礼で退出する。
帰っていった統制官たちを見つつ、楠見は独り言……
「あー。これじゃ、俺が地球でやってた仕事と変わらないじゃないか。駄目だよなぁ、やっぱ。この星は俺がいなくても独り立ちできるようにならなくちゃ。まあ、そのうちにガルガンチュアも俺を探しにやってくるだろうし」
果たして楠見の代わりになるものなどいるのか?
という基本的な疑問はさておいて、まだまだ楠見が陰で支えてやらないと独り立ちは出来ない最初期の宇宙文明が、ここにある。
「み、見つけたぁ! ついに見つけたぞ、師匠ぉー!」
郷の叫びが轟き渡るフロンティア船内。
「良かったですね、ゴウ。私も、これで百年ぶりにマスターに会えるというものです」
「ああ、長かったよな、フロンティア。しかし、ついに師匠の居場所を掴んだぞ。探し出した搭載艇には何か褒美をやりたいくらいだよ」
「まあ、我々に褒美とか意味がないですからね。しかし、ここまで跳ばされるとは……もう肉体を持つ生命体の限界を超えてますな、マスターは」
「まあな、俺もそう思う。大体の捜索範囲は決まってたとは言うものの、まさか捜索範囲の最大距離にある銀河で見つかるとは……銀河団2つ半と言うことで、その球体ラインから最小は銀河団2つ、最大で銀河団3つ分と誤差範囲設けてて大正解だった。誤差を少なくしてたら未だに見つからない可能性もあったな。まさか銀河団3つ分に近い、誤差範囲の最大距離にある銀河で見つかるとは……我が師匠ながら、あのお人は、どこまで行くのやら……俺としては生きてる身で宇宙の管理者とやらになってたとしても不思議じゃないと思うんだけどね」
「ゴウ、その可能性はガルガンチュアの時に、いつも話題になるのですよ。果たしてマスターの全能力を本当に活かせるのは、このガルガンチュアなのか? と。マスターが管理者となり精神体となったほうが、よりマスターの能力を発揮できるのではないかと、しょっちゅう船内会議の話題となるのです……あ、これはマスターには秘密で。ガルガンチュアを構成する4隻のデータ交換時に空き時間を利用して行われる数秒単位の会議ですから。あなた達、肉体を持つ生命体には参加不可能な会議です」
郷、少々驚く。
フロンティアの発言は自分たちの能力では楠見の全能力を発揮できていないのではないかと白状したようなもの。
郷はフロンティアだけでも自分なら持て余す高性能さだと思っているのに、それが4隻合体してガルガンチュアになっても楠見個人をサポートしきれなくなる可能性があると考えているとは……
「そうなると師匠をサポートするためには今の4隻合体より増やすとか? 確か兄弟船として合計10隻造られたんだっけ」
「そうですね……こういう事案が起きてしまった以上、最大合体を目指して行くのも可能性の一つかと。もちろん、4隻合体のまま性能を上げていくことも怠りませんが」
郷には正直、ガルガンチュアが10隻合体版になるというイメージが全く掴めなかった……
「ははは、ともかく俺が言えるのは頑張ってくれという言葉だけだ。この想像を超えたような超巨大宇宙船さえ人間「楠見」を超えられない可能性があるなんてのは何か悪い冗談というか何というか……本音を言わせてもらうと対象が俺じゃ無くてよかったと心から思う。師匠の捜索を担当して身にしみたがフロンティアのみでも俺には荷が重い。大体、防御も攻撃も、その他の装備も想像を超えてる。こんな代物、人間が管理できるものだとは思えない……俺は師匠がガルガンチュアのマスターとして登録されたことが運命としか思えない。フロンティア、正直に言ってくれ。マスターが代わったとして師匠のようにガルガンチュアを使いこなせる存在はいると思うか?」
少し考えたフロンティア、
「ふむ、正確に言いましょうか。マスター楠見の他に今の私、拡大版フロンティア一隻でも100%使いこなせる存在がいるとは思えません。4隻合体したガルガンチュアなど論外ですね。普通の生命体に、ここまでの力と性能を使いこなすことは無理でしょう。郷、あなたでも無理です。今は仮マスターとして登録されていますが、これは非常事態ゆえ。ちなみに、他の3名も同じですが各船の主砲は使用できません。これは、その人物に資格がないということです。厳しいようですが、それだけ制約をかけないと、我々が主砲を撃つとき、あちこちへの影響がありすぎますので」
郷、正直な意見だと思う。
自分がフロンティアの時空間凍結砲など担当したら、あまりのプレッシャーに気絶するだろう。
ガレリアのプロミネンス砲も他の2隻でも同じ。
大体、銀河団調査船などという馬鹿げた代物に生命体のマスターが必要な意味が理解できない(楠見は十分に理解しているようだが)
楠見が、このところ頻繁に利用している時空間凍結砲の理論のみ使用した星系や銀河を丸ごと時空凍結して持ち運ぶという、郷にとってはトンデモ利用法でしかないと思うような方法も自分では絶対に思いつかないし思いついても実行しようと思わないものだ。
郷は楠見という個人が一種の鬼子、突然変異だと確信する。
始祖種族の先祖返り?
そんなレベルじゃないだろう、師匠の行動力と知力、そして未知のものに対する好奇心。
始祖種族が師匠のレベルに達していたとすれば、それは始祖種族が全員、宇宙の管理者へとステップアップしていなければおかしい。
今までの管理者たちの言動を師匠から聞かされた範囲で考えてみると始祖種族で管理者としてステップアップした存在もあるとは思うが、それは、ごく少数。
ほとんどが今の宇宙へ散らばっていった末に銀河団や超銀河団レベルで始祖種族の子孫が繁栄していることを見れば、これが正解だろう。
では師匠、楠見という存在は偶然の産物なのか?
郷は怪しいと思う。
太古に造られて偶然に太陽系は木星に埋まっていた巨大宇宙船が、これも偶然にジャンクヤードで見つけた人工頭脳が勝手に睡眠教育したおかげで一種の超人となった一個人に出会い、それからは宇宙のあらゆるトラブルに対処するために、あっちの銀河、こっちの銀河団、向こうの超銀河団と巡っているって?!
「これは絶対に何かの存在が関わっていないと不可能な偶然ばかり。俺なんかの一生命体が関わることじゃないかも知れんが、何か未来に途轍もないことが待っているような気がするぞ……ま、こんなことは師匠なら当然に推測しているんだろうが……」
郷は、それ以上考えることは止めて楠見の救出へ向かうようにとフロンティアへ全船、目標銀河へ集合せよと発信するように言うのだった。
一方の楠見。
「ここに跳ばされて、もうすぐ100年……これ以上は不老の身体を公衆に見せつつ生きるのは危険だよなぁ……今でも時折、健康雑誌やら政治経済誌、老人生活雑誌などが俺の噂を聞きつけて、老いない秘訣とやらを探る特集を組むからなぁ……宇宙を跳び回ってる限りは不老でも長寿でも問題無いんだが、やっぱり一惑星内だと寿命が明らかに違う存在ってのは問題になるよなぁ……ガルガンチュア、いつになったら救助に来てくれることやら……」
思わず独り言を言う楠見だが、その頃にはもうガルガンチュアの各船は楠見のいる銀河へ移動しつつあった。
後は時間の問題……
ではあるが楠見には個人的に解決しなければならない問題が出来ている。
「あ、秘書君? 今日の予定は? 何、久々に政府関係でのトラブル持ち込みの予定はないって? そりゃ良かった。俺は外出してくるからね、お昼には帰るよ。用件? ちょっとした野暮用だ……緊急用に端末持ってくから、それで呼び出してくれれば良いからね」
半日だがオフとなった楠見は、その足で郊外にある施設へ行く。
「やあ、所長。久々に休みが取れたんでね、半日だが。こっちの様子を見に来た」
突然にやってきた会長、楠見に驚きつつ、所長自ら最新の施設を案内する。
「会長、来るなら前日にでも一言連絡をください。突然の来所なんて従業員サプライズにも程がありますから。こちら、最新の宇宙空間対応航空機です。通常は大気圏内までですが国内法と国際法が整備され次第、ここにある全てが全世界の大規模事故・自然災害対応部隊へと配備される予定です。会長が出してくださった設計図通り何も変えていません……と言うか、あれ本当に頭の中で思いついた物ですか? あのデータより優れた改善点なんか何も出ない、それどころか、あれを基準に様々なアイデアが出てくる始末ですよ。搭載されてる救助機器や設備にしても改良点など何もない、現場で鍛えられたような優れた使い勝手。ねえ会長? あれ本当は、どっか政府の機密部署からの流用データじゃないですよね?」
「所長、あれに関しては純粋に俺の頭脳から出た物だよ。まあ改良は何度もしてたんで、それなりに完成されたものにはなってるんだが。統合政府が空と宇宙に関して、もうすぐ救助部隊に特別通行証を発行するように聞いてるんで、あとは吉報を待つだけ。ここまで来るのに長かったなぁ……」
「そうですね、会長。私も感慨深いです。この救助部隊がテスト運用されるやいなや、あっちこっちで大規模災害が起きてしまったのは運が悪いというのか、部隊運用の実績が増えるのは運が良かったというのか……数年で全世界が救助部隊受け入れを容認するようになったのは良かったんですが未だに古い国の縛りで国境や政治的な縛りが残ってる地域には即座に部隊派遣が出来ないという馬鹿げた法律がありましたからね……それも、ようやく国家の縛りも大気圏を抜けて超高速で飛ぶことも許される状況になり私は嬉しいのです……感涙モノですよ、これは」
楠見は所長の表情を見ながら、
「実はね所長。俺は、もうすぐ引退して会長職も辞す。でね、後釜に君を推薦しようと思うんだが……」
「じょ、冗談でしょ? 楠見会長。ここまで大きくなってしまった総合企業なんて個人で管理できるのは会長くらいのものですよ。はっきり言って会長の後釜になろうとするなら常人の頭脳じゃ無理です。少なくとも10組は専門経営集団が必要ですね。この(株)クスミインダストリーズ、もう関わってない業界のほうが少ないくらいに全世界のインフラに食い込んでるんですから。会長職に私? 無理ですね。断言します」
「まあまあ、それは解決方法があるから。私の知ってる人間の中で私のあとを引き継げるものは君しかいないんだ……ん? 時間か? ……」
《ガルガンチュア、郷か? 待ってたよ。こっちの星でのトラブル解消は、もうすぐ終了する。合図するんで転送してくれ》
〈分かりました、師匠。長かったですよ、この百年は……〉
「会長? 上の空みたいでしたが何かありましたか?」
所長が、楠見の様子がおかしいと顔色をうかがってくる。
「いや、何でも無いよ。その時が来たってだけのこと。俺は、この星に長くいすぎたようだ……ありがとう所長。辞職の発表と君への引き継ぎは、もう文書にまとめてある。午後には俺の辞職発表があるだろうからメディアニュースに注意しててくれないか」
そう言うと楠見は、そそくさと施設を辞す。
会社へ戻ると予定していたものとは違う記者会見と重大発表を行うと全社に事前通知を行う。
予め今日の午後は新製品の発表会となっていたが、急遽、内容が変わると会長自ら発信する。
全社員と関連企業の全てが見守る中、衝撃のニュースが発表される。
「今日、今現在をもって私は株式会社クスミインダストリーズの会長職を辞することとなります。それに関し後継者の発表と関連企業に関する今後の予定を発表します」
後継者の所長については秘書に予め知らせてあり重役会でも事前に討議されて了解を取り付けていたため特に問題はなかった。
大問題となったのは楠見個人が担当していた政府関係のトラブル対応の件。
「クスミさん! 引退と聞きましたが、まさか、このトラブル対応まで辞めるんですか?! 困りますよ、大規模トラブルが発生したら必然的にクスミさんのお力に頼るしかない状況なんですから!」
「ああ、やっぱり来ましたか。もう、よほどのことがない限り重大トラブルは起きませんよ……ちなみに、これから起きるだろう重大トラブルを予想し、ここに問答集を用意しましたので、ご活用ください。これがあれば少なくとも数百年は大丈夫ですから」
半信半疑で用意された問答集を見ていく政府要員たち……
「クスミさん? この問答集によれば、この星は宇宙文明となり銀河狭しと跳び回ると、なっておりますな。本当に、これが可能と?」
「少なくとも私は、そのように、この星を育ててきましたよ。本当に重大な問題が起きたらクスミインダストリーズのメインサーバにアクセスしてみてください。必ずや回答が得られると思います」
あっけにとられた政府要人たちを尻目にメディア発表席から退出する楠見。
《ガルガンチュア。こちらの用件は終了。転送してくれ》
あわてて楠見の後を追いかけたメディアの記者たちや政府要員たちの眼の前で楠見は消える。
「おい、見たか? 消えたよな、クスミ会長」
「何だったんだ? あれは……空中にかき消えていくような……大体、クスミ会長そのものが得体のしれない存在だって話を聞いたことがあったんだが……」
「もしかして、クスミ会長ってのはマジな話「神の使い」だったのかも……あの人が会長職だったのって巨大企業になってからでも50年過ぎてたんだぞ……俺の会社に、まだ起業して間もない頃のクスミインダストリーの全社員の写真がある。クスミ会長……その頃は社長だが……その頃の写真と何一つ変わってないんだぞ、顔も体型も。今から思えば会長は人間じゃなかったのかも知れない……」
最後の最後にミステリーを残し、楠見を乗せたガルガンチュアは、いそいそと当該銀河を離れる。
楠見は久々に仕事後の充実感を覚えつつ、久々のガルガンチュアに懐かしさすら感じていた。
ーーーーーーー銀河のプロムナード疑似テレポート実験の失敗、後日談ーーーーーーー
楠見は不思議な、そして懐かしくなるような感覚を憶えていた。
「ふむ……この、大きさの概念がないような空間、そして全くの無人にも関わらず、たくさんの存在がいるような……もしかして、また俺を呼び出したんですか、管理者!」
【ふーむ……そろそろ、この場所にも慣れてきたかの、地球人、クスミよ】
「いやいや、何度引っ張られてきたと思うんですか。これで慣れなきゃ永遠に異質な空間ってことになりますよ……今回は何の用です?」
【そのことなんじゃがな。クスミ、お主は我々が想定していなかった「疑似テレポート」じゃったかな? その技術を開発してしまった。疑似テレポートは我々管理者にとり非常に厄介な技術でな。それについて開発元であるお主、クスミ本人に事情を聞こうと呼び寄せたわけじゃ】
「理由と、ここへ呼び寄せた原因が理解できました。で? 私に何を聞きたいんです?」
【まずは、この混乱から説明しようか。クスミよ、お主の開発した疑似テレポート、こいつは我々の目をすり抜けることが出来るというのは知っておったか? 】
「はい? この宇宙のことなら原子ひと粒でも理解してると思ってましたよ、それが管理者の権限であり能力でしょ? たかが擬似的なテレポートですから、あなた方の監視や管理に支障が出るようなことはないと思ってましたが」
【通常の現象や事件、宇宙震も含めた空間現象も全て我々管理者の管理と監視の元にあるのは事実じゃよ。ちなみに、お主の宇宙船、ガルガンチュアについても全ての行動や位置の把握は出来ておる。だが、お主のやった疑似テレポート。こいつだけ瞬間的ではあるが我々の管理と監視の網をくぐり抜けるんじゃ】
「何ですって?! それじゃ今回の疑似テレポート実験、管理者のほうで俺の出現地点とか管理・監視できなかったんですか?!」
楠見は万能であると思われた宇宙の管理者たちにも不可能な事、管理や監視から外れる事柄があるのだと知って衝撃を受ける。
その一方で管理者たちにも、この宇宙で起きる現象で未知なことがあるのだと知り、少し安心する。
自分の行動は今まで全て管理者たちに見守られてたと言うことばかりではないと知り、こいつは面白いと興味が湧いてきた。
【我々の知らぬことがあると知り、それを面白がるとは……お主という存在は本当に宇宙のトリックスターみたいじゃの。まあよい、本当は、お主に疑似テレポートを多用しないように伝えたかったんじゃが、それも不要になった。今の状況ではガルガンチュアの者たちが、お主単独での疑似テレポートを許すわけがないからな。後々、疑似テレポート技術が解析されてしまえば、今のように使用者の出現ポイントを把握できないなどという事もなくなるはずなんじゃがな。まあ、それまで自重してくれれば良い。頼んだぞ、クスミよ】
そこで目覚める楠見。
そこは、いつものガルガンチュア内にある楠見個人の部屋。
「リアルな夢……じゃないよな、あれは。精神的には、あの異空間へ行ってたに違いないだろう。それにしても疑似テレポート技術が管理者たちにも想定外の技術だったとは、こいつは扱いが難しくなるな。禁忌だとかタブーだとかいう問題じゃないんだろうが、通常の移動に使えるものじゃないってのは、あっちが証明してくれたようなものか」
変な時間に目覚めてしまい(もともと宇宙空間に天候や日照の変化はない。しかし楠見の発案で昔から(フロンティア単独時代)地球時間での行動を身体に刻むようにしているガルガンチュアクルーたちだった)それ以降、眠気も吹き飛んでしまった楠見は時間外とはなるが、久々にコントロールルームへ向かう。
「アンドロイド組5名が勢ぞろいか。久々に見るな、この光景……すまなかったな、皆。俺の力が暴走したせいで、こんなテンヤワンヤの状況を作り出してしまった。トラブルシューター、トラブルバスターが自分でトラブルを作り出してしまうというのは愚の骨頂だな、全く」
「何を言い出すんですか、マスター。その件は前にも言いましたが実験の不手際による事故のようなもの。マスターにだけ責任があるわけじゃありませんよ。責任があるとすれば、それはマスター含めた全員です。マスターのサイキックエネルギー最大値の目算が違いすぎて、あんな事故が起きるなど我々4隻にも予想できなかったんですから」
フロンティアがガルガンチュアを代表して発言しているが、言いたいことは皆、一緒だろう。
楠見は、かなりやらかしたと思っていたが、これで少しは心が軽くなったのは事実だ。
「ただし、ですね。マスター……」
おや?
フロンティアが何か言いたそうだが。
「どうした? ガルガンチュア内での発言は全て無礼講だ。マスターだろうがクルーだろうが宇宙船だろうが言いたいことは言い合うのが皆の了解事項だろ」
「は、では言わせていただきます。これ以降、マスター単独での疑似テレポートは実験段階でも禁止とします。疑似テレポートが可能なのはマスターとゴウ、今の所、この二人だけですがエッタやライムが使えるようにならないとは限りませんので他のメンバーも単独での疑似テレポートは禁止とします。まあマスター以外なら二名以上の疑似テレポートも少し未来には可能となるのでしょうが……今の状態で銀河団3つ近い超超遠距離の瞬間移動などが可能なマスターは半永久的に単独の疑似テレポートとなりかねませんので疑似テレポート封印という事になりますね」
まあ仕方がないか……
と思う楠見。
管理者たちからも当分は自粛してくれと言われてるし。
「分かった。俺の単独での疑似テレポート実験は、当分、自粛しよう。まあ、郷たちが色々なデータを出してくれるだろうから、そのデータで、ある程度、疑似テレポートと言う新技術が解析できるようになれば俺の疑似テレポートもコントロール可能になるだろうからな。それまでは自重、自粛で行く」
「ありがとうございます、マスター。新しすぎるテクノロジー、それもサイキック工学という特殊なテクノロジーですから解析や運用方法、制御に時間がかかるのは仕方ありません。我々も研究を進めますので近い将来とは言えませんが、いつかマスターの疑似テレポートも完全制御できるようになるでしょう」
楠見は思う。
長年、こいつらと付き合っているが本当に人間臭くなってきたよなぁと。