第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第六十八話 銀河団探査船五隻目登場!

 稲葉小僧

ガルガンチュアは銀河間空間にいる。


「マスター、次の銀河が迫ってきました。今回は、ちょっと興味深いことになりそうですね」


フロンティアが、おかしなことを言い出す。


「何だ? 久々だな、そんなこと言うのは数百年ぶりか。えらく変わった銀河だとか?」


「いいえ、マスター。行ってみないと詳細は分かりませんが同類がいる気配がします」


同類、とフロンティアが言うという事は……


「ん? もしかして同じ銀河団探査船十隻のうち、どれか一隻がいるってことか?」


「当たりです、マスター。何も信号を発してはいませんが我々の同類は気配といいますか、その存在は遠くからでも知覚できるんです」


ほぅ……

でもまぁフロンティアの気配を察知してガレリアが動かない船を無理やり動かして俺達の元へやってきたこともあるし。

テレパシーとかじゃないけど同じ設計元だから同期回路でもあるのかも……

俺、楠見糺は久々の大きな事案に心が動いていた。


目標の銀河が近づく。

銀河の縁に近づくと例によってガルガンチュア保有の中型未満の搭載艇を放出。

情報収集と、できるものなら銀河団探査船シリーズの一隻を探したいという意図に基づくものだ。

できるなら中型以上の大型搭載艇も搭載艇母艦も出したいところだが、


「この銀河が、どんなトラブル抱えているか、まだ把握しておりません。ガルガンチュア本体に危険は及ばないでしょうが大型搭載艇と言えど破壊される可能性がある以上、ステルス性能の高い小型搭載艇や超小型搭載艇を送り込むのが適切かと」


トリスタンが返答してくる。


「お、トリスタン、久しぶり。このところ現場に出ずに研究開発室に籠もってたようだが何やってたんだ?」


前の銀河じゃフィーアと共に何かやってたみたい。

およそ100年間、二人の姿を見なかった。


「はい、フィーアと一緒に、これからのガルガンチュアの進化方向を検討しておりました」


ガルガンチュアの進化方向? 

何だそりゃ? 


「合体する銀河探査船が増えるってことじゃなくて進化? どういう意味だ? まあ、ちょうどいい、そこにフィーアもいるな。説明してくれ、二人共」


「えへへ、お久しぶり、チーフ。あのね、合体するって方向だと少ーしマズイ事態になる事が分かってね……」


「え? フロンティアが巨大化してるから最大で10隻合体になったとしても基礎として余裕はあるだろ? 何が問題だ?」


「それがですね、楠見サマ。合体船方式ですと各船のセンサー位置と感度、そして、それを最大感度で展開したときのジャミングが問題となることが判明しました」


あ、そうか。

フィーアの時に合体位置がセンサーの邪魔になって結局はフロンティアの方にセンサー群を移したんだっけ。


「そういう事か……フロンティアとガレリアは、この件について承知してるんだよな」


「うん、そうだよ、チーフ。私達は互いに離れてても超高速通信で会話できるんで、それを話し合ってたんだ」


ふーん……


「で? 結論は出たのか?」


「それがですね。各船で試案を持ち寄って、それを楠見サマたちにも加わってもらい、最終的な改造案としようということとなりました」


そうか……

どうなるのか結論は出てないんだな。


「なるべく早めに改造案の最終結論を出してくれないか。そろそろ5隻目も見つけ出せそうなんだ」


「え? そうなの?! 分かったよ、チーフ。なるべく早く結論出すね」


「いやいや、そう焦らなくても良いよ、フィーア。5隻目が見つかったとしても、その船がマスター不在とは限らないし、マスターがいなくても合体? に反対するかも知れないから」


合体するなら、この5隻目が最終ですよとトリスタンが発言。

質量の集中度が大きすぎて将来的に事故や故障の原因になりかねませんとのこと。


うーん……

合体方式じゃダメだとするなら、どうすれば良いのだろうか……

様々な銀河を回ってきたが、その中には大きな宇宙都市もあった。

その大きさは、最大ではガルガンチュアを超える大きさのものもあったが、あの宇宙都市方式では合体方式に比べて弱点が多すぎたんだよなぁ……


まあ、それは後にしようか。

現状、4隻合体版ガルガンチュアで問題は少ししか出てない。

5隻目が見つかるのにも、まだまだ時間がかかるだろうから、考える時間はあるはず……


約一ヶ月。

それが搭載艇群を放って情報収集に勤しんだ時間。


「どうだ、フロンティア。新しい探査船の発見と、この銀河のトラブルに関して何か分かったのか?」


「はい、マスター。銀河団探査船の捜索は、この期間では無理でしたが、この銀河で抱えるトラブルは判明しました……判明したことはしたんですが……これって解決すべきことなんでしょうかね?」


はぁ? 


「どういうことだ、フロンティア。厄介とか、そういう部類の発言じゃないようだが、解決しなくても良い、みたいな発言は初めて聞いたぞ」


そう、フロンティアはトラブル解決に関して時間や、その銀河の政治形態、その他の事情から判断して、厄介という発言をすることは多いが解決しなくても良いなどという発言は聞いたことがない。

どういう意味かなと俺が考えていると……


「主、それはだな。この銀河のトラブルというやつが有機生命体と、それ以外の生命形態をとる種族との確執だからだよ。特に主に似たタンパク質生命体、つまり始祖種族の末裔たちが頂点に立って有機生命体以外の種族を迫害してるようだな」


ガレリアが回答を。

おいおい。

今まで有機生命体種族が迫害されている銀河ってのは幾つも経験してきたが、今回珍しく、その逆か。

それも俺と同じ人類型、始祖種族の末裔が音頭を取って有機生命体種族以外を迫害してるって……


「頭が痛いな、このトラブルは。何が原因なんだろう?」


「マスター……非常に言いにくいのですが原因は我々にあるのではないかと……この一ヶ月、情報収集していたのですが、そう結論づける以外に原因はありません」


うわぁ……


「そりゃ何か、フロンティア。様々な銀河で俺達が鮮やかすぎるトラブルシューティングを……つまり、やりすぎたってことなのか?」


「私も主に向かって、この言葉は非常に言いづらい……言いづらいのだが迫害原因は我々にあると結論するしか無い。つまりトラブルの最大原因、大元は我々なんだ」


ガレリア、まあ、はっきり言ってくれるわ。

しかし、これでトラブル原因が……

って大元たどれば俺じゃねーか! 


「あー……フロンティアとガレリアの言いたいことは理解した。つまりは、これ以上、俺達が動いてしまうと余計に迫害の原因を作ってしまうということだな。さっさと銀河団探査船を探し出して、そいつと合体するかどうかはさておき、さっさと、この銀河を去るほうが良いってことだな」


そう、今回ばかりは最悪のシチュエーション。

俺達が大々的に動けば動くほど、有機生命体の、それ以外の生命体への迫害原因となってしまう。


「しかしなぁ、フロンティア。どうして、そんなややこしい事になったんだ? 俺達はトラブルバスターとしてトラブル解決に走り回ってるだけなんだぞ! それがトラブルの原因って? 訳わからんよ」


フロンティア、ガレリアが口ごもる。

言いにくいことなんだろうな。

これでは埒が明かないと、ついにトリスタンが間に入る。


「楠見サマ、付き合いの長い二人には言いにくいでしょう、私が答えます。あまりにトラブル解決の手際が良すぎるのと銀河の根本的トラブルまでもあっさりと解決してしまうという評判でガルガンチュア、ことに楠見サマが有機生命体種族の守り神のように思われてしまっているのですよ、この銀河では。少し前の銀河で郷さんがガルガンチュア教団ってのを銀河単位で設立しちゃった事は覚えていらっしゃいますか? あれがガルガンチュアを追いかけて、ある意味、追い越してしまったところがあります。この銀河、あのガルガンチュア教団の最前線支部があるんですが、銀河を超えてガルガンチュア教の教えを伝える時に、よほどガルガンチュアとマスタークスミ、あるいはジェネラルクスミの印象が強かったんでしょうなぁ、銀河に関する、どんなトラブルをも絶対に解決する神の代理人、宇宙船ガルガンチュアとマスタークスミの教えだけが独り歩きしてしまったようです」


あちゃー……

頭を抱える、当事者の俺と郷、そして聖女役をやってたエッタ。

どうしろというんだ、このトラブル! 


この銀河のトラブルと、その原因は判明した。

判明したんだが……

これ、どうしたら良いんだ? 


「郷、冗談抜きで、このトラブル解決に俺達が動けないよな。どうすれば良いと思う?」


郷は頭を抱えた格好を、ようやく崩して、


「師匠ぉー……こんなことになるなんて思わなかったんですよぉー。どうすれば良いんですかぁー……」


情けない声が出たな。

エッタは、まだ頭を抱えている。

最初は聖女役でノリノリだったため、このトラブル内容は堪えるわなぁ、さすがに。

かく言う俺自身も、あの時に、お隣の銀河のトラブル(銀河大戦争)を早く解決するんだとライムとともにノリノリで隣接銀河で大活躍してたんだよ。

どうも、考えるに当のガルガンチュア教の開設された銀河と、俺とライムが頑張ってた隣接銀河が比較的銀河間距離が近かったのが原因だろうなぁ……


「郷、エッタ。このトラブル原因に関しては俺とライムも関係していると考えたほうが良さそうだ。隣接銀河に近い距離に、郷がいた教会の辺境支部があったのも、こうなった原因の一つなんだろうが……俺達は銀河を渡ろうとする生命体は非常に少ないと考えていた。それが、そもそもの原因だろうな」


「えーと……そうすると、キャプテンが考えてるほど銀河間は広くなかったと言うことですかね? それとも銀河を渡ってまでガルガンチュア教団の教えを布教しようって情熱があったとか」


「正解だ、ライム。あの銀河は隣接銀河と比較的近い距離に存在していた。そこに隣接銀河のトラブルを解決したよという報告と共に当のガルガンチュア教団の教えそのものを体現した存在、俺と郷、そしてエッタが揃ってしまった……神話が実現したようなもんで舞い上がった宗教的情熱が遠くに見える隣接銀河すら渡る目標に変えたということだと俺は思う。俺としては表立って俺達が動いてしまうと、この変質した教えとなったガルガンチュア教団が何をやりだすか想像がつかないのでトラブル解決に乗り出すとしても、あくまで裏の顔に徹しなければいけないだろうなと考える」


「と、すると……あたしたちは教団に潜り込むにせよ外部で教団の行動を抑えるにせよ本当の力を見せられないわけですよね。ご主人様も含めて下手に実力を見せてしまうと教団の行動にお墨付き与える事になっちゃいますから」


「まあ、そうなるかな。エッタやライムの強化されたテレパシーや、俺も含めて師匠もサイコキネシスやテレパシーを極端に制限しないと。下手に教団に嗅ぎつけられると文字通り現人神に祭り上げられる恐れがありますよねぇ……」


ようやくエッタと郷も落ち込みから立ち直ったようで。


「今回ばかりは絶対にガルガンチュア本体は発見されないポイントに隠しておかないといけないだろうな。俺達だけなら何とかなるだろうからプロフェッサーまでは連れていけるだろうが、宇宙船本体と繋がりのある4人は動けない。まあ、良い機会だから、この4人で5隻目の銀河団探査船を捜索してくれないか。合体解除までやらなくても小型と超小型搭載艇までを使えば何とかなるだろ? 例によって深いスリープ状態にあるとしても、目覚めは、この銀河のトラブルを解消してから行えば良いんだから」


フロンティアが、仕方ないなぁとばかりの表情を作り、


「しょうがないですね。ガルガンチュアを構成する巨大宇宙船が絶対に動けない現状なら我々は巨大恒星のすぐ近くに陣取るとしましょう。幸いにしてマスターのテレパシーは通信妨害を受けませんから、そこをベースにして銀河団探査船を探すこととします。こちらからの発信は出来ませんので、お気をつけください」


下手にテレパシーや通信波を送信すると送信元を辿られるかもしれないからな。

この銀河も相当に発展した科学技術があり、普通に跳躍航法を用いた長距離の星系間交通網が発達しているから超大型の銀河団探査船が幾つも集まった異形の宇宙船など一気にニュースになりかねんよ。

後は元のガルガンチュア教団もそうだったが、あそこには独自の情報部がある。

絶対に尻尾を掴まれるわけには行かないぞ、こりゃ。


「そういうことでトラブル解消班と探査船捜索班に分かれようと思う。まあ同じ銀河内だ、俺がガルガンチュアから離れても問題はあるまい」


「それはそうですが……マスター、たまにはテレパシー連絡くださいよ」


フロンティア、そんな主人と離別する犬のような顔をするんじゃないよ。


「銀河団を幾つも離れていた時にも俺が生きてるって確信してただろうに。大丈夫だ、今回も時間はかかるだろうがバッチリ解決して見せるさ。そっちも銀河団探査船の捜索、成功させろよ」


はい! 

と、4人の声が揃ったのは言うまでもない。


「さてと。どう動こうか。以前に使ったガルガンチュア教団として動く手段を取れない以上、対抗する宗教団体を作るか、それとも一個人としてガルガンチュア教団に潜り込むって手を使うか……難しいところだな。郷、他に、このトラブルを解決する手段として思いつくものはあるか?」


郷が沈思黙考している。

しばらくして、



「師匠、それこそ、今回は内と外からの改革という二正面作戦をとってみたらどうでしょうか? 4人、いや、プロフェッサーさん入れて5人もいるんで教団の内側から改革の2人、外側で教団のやりすぎを抑制する団体を構成する役目を3人が担当って形にすれば、かなり早めに解消できませんか? いや、解消と言うより正常化かな? 俺達が、あの銀河で立ち上げたときのガルガンチュア教団は、もっと生命体全てに優しい教義だったんで」


「そうですね、それが良いのではないかと思います、ご主人様。私と郷さんは過去のガルガンチュア教団の正しい教義を覚えていますし、かなり上の立場だったこともあります。下々のボランティアという立場から、だんだんと上に上がっていくのも久しぶりなんで内側からの改革は私たち2人におまかせを」


ということは自動的に俺とライム、プロフェッサーが外側。

郷とエッタがガルガンチュア教団に潜り込む側になるということ。

いや、郷とエッタの場合、元の職場に戻るような感じになるんだろうな(それも元高位の立場を隠して、最下層に近いところからやり直すわけか)

なんか、大会社の元社長が身分を隠して支社に平社員として入社するような気がするんだが……


「さすがに元々の最高枢機卿としての郷や聖女としてのエッタを覚えてるような人間はいないと思うんで大丈夫かなと……教団情報部の高位エスパーは、こっちの銀河には来てないと思いたいが。まあ、郷の力があれば探知やテレパシーも防げるか。二人共、油断するなよ。銀河は違うとは言え何かの伝承で最高枢機卿と聖女の事が引き継がれている恐れはあるんだから」


懸念材料が無いと言うと嘘になるが、まあともかく、俺達は動き出す。

郷とエッタはガルガンチュア教団の掃除係として雇われる事に成功(ボランティアでも良かったが、少々ESPが使えるとの触れ込みで応募したところ二つ返事でOKが出たとのこと。やりすぎるなよ、頼むから)

俺達3人は小さいけれど星間輸送の会社を作ることとする。


「プロフェッサー、小型で良いから快速型の宇宙船をみつくろってくれ。性能重視で少々なら予算をオーバーしても許可する」


「了解です、我が主。しかし、久々ですな、我が主と共同で動くのは」


「私もいるんですけど? 忘れてませんか?」


忘れてないぞ、ライム。


「ライムには事務所探しをしてほしい。俺は……いつもの通りで会社設立のための資金を作らなきゃ」


「おお、すると、船の予算は青天井で良いと! 最高級の軍用快速船が買えますな」


「おいおい、プロフェッサー。中古で良いんだ中古で。その中で程度が良くて足の速いものが良いな。予算は……船には、このくらい。事務所は……このくらいか」


「わかりました、キャプテン。事務所の場所とか、こだわりは……ありませんか。では、予算内で一番の物件を探してきますね!」


張り切ってるなぁ、二人共。

まずは、今の状況を改善するため、資金を作り出すところから……

ということで、手持ちの金も何も無い俺は、例の錬金術モドキの手段を利用して、空中の貴金属元素抽出・収集・圧縮。


一時間後。

金と銀のインゴットを、それぞれ20本ばかし作っていた。

うーん……

このところ力の開放を絞り切っていたんで分子単位の抽出が遅くなっている。

ちょっとリハビリ兼ねて張り切ってみようかな……


「で? 我が主。リハビリ兼ねて半日もの間、貴金属の分子抽出作業をやってたと……」


「キャプテン……ちょっと、シャレになりませんよ、この惨状は」


はい、すいません、調子に乗っちゃいました俺がいました。

半日、我を忘れて貴金属粒子の抽出と収集・圧縮を繰り返してしまったところ……

とりあえずの集合場所となっていたオンボロビルの一室が金銀のインゴットで埋まっていた、半分ほど……


床が壊れて抜ける前にと3人で貴金属買取業者へインゴットを持ち込んだんだが2割ほどで買取中止。


「これ以上は、うちも予算がありません。知り合いの業者を紹介しますんで、そちらで買い取ってもらってください」


これを4件ほど繰り返して、ようやくオンボロビルの一部屋が空になる。

ちょうど、ライムが走り回ってくれたおかげで都合の良い事務所も手に入り、これで会社設立の準備ができる。


「予算が大幅に増えましたので予定より大きくて速い中型快速船が探せます。少し時間は掛かりそうですが会社設立にも時間掛かりそうなので、立ち上げ時にはお見せできると思いますよ」


ということで俺とライムは、あっちこっちと走り回って会社を設立。

プロフェッサーは予算が増えた分、様々な中古宇宙船業者を回ってもらい、程度の良い中型快速宇宙船を購入してもらうことに。


「わが主。慣れ親しんでいる搭載艇とは違いますが、こういう形の、惑星へも降りられる機能を持つ宇宙船も、たまには良いかと」


球形じゃないが流線型が懐かしい、ちょっと古めだが整備は万端の中型快速貨物船を手に入れて俺達は運送業に勤しむこととなる。


一方、こちらはガルガンチュア教団に潜り込む事に成功した郷とエッタ。

少々のテレパシーが使えるということで採用され、掃除婦(夫)ではあるが門番を兼ねた役目とされる。

弱いテレパスでも教団では能力重視なのか、結構な給与も出ることとなった。


「まだまだ地位が低いんで高位職の方たちとはお会いできませんが、門番というのは、この星の人たちの習性や行動を深く習熟するのにピッタリですよね、郷さん」


「そうは言うがな、エッタ。これはこれで、けっこう忙しいんだぞ。お、悩みを抱えた子羊が……ふむ、これは司祭様に事前報告したほうが良いかも……」


などと、さっそくテレパス能力を存分に発揮している(まだ受信だけのようだが)

数日後、その仕事が評価された郷、エッタはガルガンチュア教団の支部長(司祭長という立場らしい。幾つかの支部教会を束ねる立場ということだそうで)に呼び出され、昇格を告げられる。


「両名とも仕事ぶりは真面目でキッチリ終わらせ、その他として悩む子羊達の心を救う手助けを行う力があることを示した。よって教団における我が権限を以て、そなたたちを神父、修道女とすることとする。報酬も上がるが、その分の責任も大きいので心するように……では、ガルガンチュアの神の御手が全てを救われますように……」


地位が上がって、それぞれの衣装(制服?)も図柄と色が変わる。


「へぇ……元々の教団だと制服が変わることはなかったんだけどな。エッタのそれも、ずいぶんと聖女のときから変わるもんだ」


「私は服にこだわりはないんですが……何かピンクがかってませんか、この服……」


「薄いピンク? えらく違うな、以前と。これが嫌なら早く高位の衣装になれと言わんばかりだ。男の場合は、それほど目立たないか。こっちは焦らずとも……ってことみたいだな」


正式職員の最下層に近い地位のためだが、そのへん、エッタも郷も、いまいちそのあたりを理解していない。

ガルガンチュアにいるときには服装など気にするものはいないので、さすがに「素っ裸」は無理だが、たまにジーンズやらTシャツやらで過ごす楠見や、チノパンもどきと変なロゴ(異星の言葉だが意味のない単語が描かれている)が描かれた七分袖シャツを着ている郷など、ガルガンチュアは「ヲタクファッション」の巣だ(ライムは少女服姿が多いし、エッタに至っては常にメイド服)そんなガルガンチュアの日常に慣れているため、郷もエッタも、その服装が何を意味するかとか、どんな地位を示すかなど興味も無ければ意味もない。

そんなこんなで徐々に頭角を現していく郷とエッタであった。


一方、こちらは5隻目の銀河団探査船を探す、ガルガンチュア構成の4隻。


「虱潰しで中型搭載艇まで全て投入しているのに、まだ影も形も掴めないとは……ガレリア、トリスタン、フィーア、見つからない原因は何だと思います?」


一応、ガルガンチュアとして一番の年長、中心ということでフロンティアがリーダーとなっているようだ。


「まず考えられるのは、その船がもう破壊されている可能性なんだが……これは、あり得ないな。フロンティアも私も、その船が近く……この場合この銀河内にいるってことだ……にいるのは理解している。そうすると……」


「次に考えられるのは我々と同じような、補助エネルギーのごく一部しか使えない状況になっているか、それともメインエンジン部に深刻な故障が発生して、どこかの星に落ちたか、あるいは巨大恒星の近傍空間を衛星か微惑星のように回っているか……かと」


「そうだよね、元々の船長、マスターがいるのなら今でも活発に動き回って銀河内を調査してるはずだもんね」


「そう……存在は感じられるのに、どれだけ探しても痕跡すら見つからないとは不思議です。ここまで見つけられないのは……もしかすると巨大恒星の、すぐそばにいるのかも。我々の搭載艇は、かなりの熱遮断と耐熱の機能はありますが本体よりも脆弱なので我々がギリギリで耐えられるような恒星近傍空間にいるのなら搭載艇は近づけないでしょう。そうなると……光学センサーで見つけることになるんですが……」


「そうだな。その時に問題になるのは、あまりに主星と近すぎると光学センサーが役に立たないだろうから……」


「提案があります。今の搭載艇で使われている光学センサー、この状況に対応できるように改造しましょう」


「え? トリスタン、どうするの? 光学センサーなんて初期の技術だよ。感度は最高にしても他のセンサーには追いつかないってのに」


「違いますよ、フィーア。感度を上げるんじゃなくて、下げるんです。観測するのも、恒星に近づくんじゃなくて遠ざかるんです。いいですか、光学センサーの感度を絞って楠見サマたちのような有機生命体に近い感度にするんです。そして、そのセンサーで遠くから……そうですね、第二惑星の周回軌道くらいに離れて長期間の観測をするんです。すると銀河団調査船くらいに大きなものなら……」


「そうか! 影ができるわけだ。黒点と見間違うかもしれんが長期に渡って観測すれば、黒点か近傍空間を周期的に回っている巨大物体かの区別は付く、そうだな!」


「そういうことです、ガレリア。そうと決まれば早速、搭載艇群を呼び戻して光学センサー改造を施しましょう。楠見サマたちの方も時間が掛かりそうですし、こちらも腰を据えてかかるとしましょう」


まだまだ、こちらも時間が掛かりそうである。


こちらは楠見たちの班。

順調に運輸会社は立ち上がり、中型でも快速船を持っている会社ということで少々割高な運賃でも、運送できる量と速さを売りに商売の規模を大きくしていく。

今日も今日とて、


「はいはーい! スペースロジスティッククスミでーす! お運びする荷物ですが……はいはい、30t近い荷物量で、できるだけ速く目的地へ……はい、それでは運送距離は約7000光年となりますね。料金表から、ざっくり計算しますと……このようになりますが。あ、はい、料金先払いでしたら、かなり割引も可能ですよ。お届け先で着払いも可能ですし……はい、ではそういうことで。ありがとうございましたぁ! はい、お荷物は宙港で、いつもの通り、お待ちしております!」


コミュニケータを切るライム。

営業と経理と総務を受け持っているらしい。


「しゃちょー! ++宙域への発進準備完了しましたぁ! いつでも飛び立てますよー!」


キャプテンから社長へと変わっただけのような気がするな、と思いながらも、


「おう! 今回はルート配送に近いから、あっちこっちへ立ち寄りながらの荷物配送になるんで燃料消費に気をつけて行ってくる! それじゃ、ライム経理統括部長! 行ってくるぞ!」


「はい、行ってらっしゃいまし、クスミ社長! お気をつけて、ご安全に!」


早速、宇宙港から貨物満載で飛び立つ中型貨物船。


「仕事は有り余るほど入ってくるんだが、そろそろ、こいつ一隻だけじゃこなしきれなくなりそうな仕事量になる。もう一隻、買うか? プロフェッサー」


「それが良いかと、我が主。私、副社長にも、そろそろキャプテン職というものを体験させないと」


「それもそうだな。この仕事が終わったらプロフェッサー用に、もう一隻、中型貨物船を買うとしよう。なーに、予算なら、たーっぷりとあるぞ。なんにしても、こいつの改造に思ったよりも金がかからなかったんで予算が有り余ってる状況なんだから、我社は」


「予算が少なかったのは、かなりの資材をガルガンチュアから転送してもらったからでしょ、我が主。普通なら改造費だけで、この船と同じくらいの費用がかかるんですけどね」


「まあ、そういう事情があるから会社組織としては異常なほど経費や予算が自由に使えてるんだ。税務関係でライムが困ってるらしい。通常の燃料代に比べて、こいつはあまりに燃費が良すぎます!だと。一回の航宙にかかる費用が安すぎて税金対策に頭を抱える程なんだとさ。他にも様々な節税対策してるから、こんな弱小企業が業績を伸ばすことができるんだけどな」


「ところで、我が主。この船の燃費が異常なほどに良いのは我が主のせいでもあると思うんですが。発進や着陸時の質量噴射、あれ、ひょっとしてダミーじゃありません?」


「ふはは、バレたか。実は最も燃料をバカ食いするのは、この大きさの船が発進と着陸する時だからな、それをサイコキネシスでアシストしてやれば、ほとんど燃料消費無く発進も着陸もできるようになる、という算段だったが……ここまで燃費が良くなるとは思わなかったね」


「この船はエンジン換装してないんですよね。こっちの技術で作られた跳躍エンジンと、その補助として付けてあるロケット型エンジンとイオンエンジンが、そのままだと聞いてますが?」


「そうなんだよ、フィールドエンジンにしたかったんだけど、あまりに技術のレベルが違いすぎて不審がられますとライムが言うんでエンジン換装は止めたんだ。まあ、フィールドエンジンの場合には動作時の燃料消費量が段違いに増えることもあって換装中止は当然だったんだが。フィールドエンジンは、あのガルガンチュアの質量・エネルギー相互変換炉あっての話だから」


補助としてもフィールドエンジンは付けてないよとクスミは答える。


「それじゃ、この跳躍前後の燃料消費量の少なさって、どうしてです? 私も随分前は仮装駆逐艦の戦術コンピュータでしたからね。この船の総合燃費の良さは異常ですよ」


プロフェッサーが、ため息と共に愚痴を言う。

どうやら自分が搭載されていた昔の仮装駆逐艦の燃費と比べて、あまりの違いに軽く落ち込んでいるらしい。


「プロフェッサー、まあ、そう自分を責めるな。これにゃ、ちょっとした理由がある」


「おや? 着陸と発進時のアシストだけじゃなく通常航行まで何かやってると? さすがに跳躍航法時には我が主のサイコキネシスも干渉できないでしょうが」


「ふっふっふ……プロフェッサーくん、超空間だって干渉は可能なんだよ、実は……まあ直接の干渉は出来ないんで間接的にと言うことなんだが。通常航行で光速度に近づくと物体の見かけの重さが増えるってのは知ってるよな」


「はあ、それが物体が光速度を超えられない理由でもありますよね。例えば光子ロケットが実用化したとしても、それは光の99.9999……と、いくら頑張っても光に届かない、と。光速度に近づけば近づくほど見かけの重さが無限に重くなっていくから限界として光速度で無限の質量に達するという事になりますよね。光子そのものには質量がないため、その縛りは受けませんが、それ以外の物質は、どれだけ軽い質量であっても光速度で無限大の重さになると」


「そう、それ。それじゃ例えば、だよ。目に見えない力で、それを軽くできるとしたら?」


「な、何言ってるんですか我が主。もしかしてサイコキネシスで宇宙船そのものの質量、この場合、見かけの質量ですが、を軽減してるとか?」


「正解。具体的に、どうやってるのかは俺も分からんが、みかけの重さを軽くして見たらどうなる? って興味本位でな、通常航行中の宇宙船を持ち上げるイメージでサイコキネシスバリアで囲んでみた……どうなったと思う?」


「光速度の99%以上の速度で飛んでる宇宙船の、みかけの重さが減った?」


「当たり。これが燃料消費に莫大な恩恵となってね。通常航行時、半分も燃料を食わなくなったとさ」


発進、着陸、通常航行のどれも燃料消費が大幅に減ったなら超空間への突入時にも衝撃が減ることに繋がり、結果として通常の3倍近い燃費向上につながった、らしい。


「我が主……あなたという人は……神に近いほどになってる力を、なぜに無駄遣いするんでしょうかねぇ……」


今度は心からため息をつく、プロフェッサーだった。


こちら、ガルガンチュア。

光学センサー改造を終了した搭載艇群を放出して数年。

未だ五隻目の銀河団調査船については進展なし。


「まあ、マスターの方も郷たちの方も、まだまだ序盤という話ですので焦らなくともよいかと」


「しかしだな、フロンティア。それらしき報告くらいは上がってきても良いのではないか? 我々四隻の持つ搭載艇の、ほぼ六割を放出して捜索してるんだぞ。未だ、それらしきものの報告すら上がってこないのは、どうしてだ?」


「まぁまぁ、ガレリア。当該の五隻目が、この銀河にいるのは我々自身が理解してるでしょう。隠れ方が上手いだけで、そのうち見つかりますって。焦らずとも、そのうち報告は上がってきますよ。光学センサー改造してるんで、どうしてもデータの積み重ねと解析が重要になってくるんです」


「そう、トリスタンの言うとおりだよ。最終判断を要する重要データなら、どのみち、こっちに連絡来るんだもん」


四人の意見が出た上で、フロンティアがまとめる。


「待つという点では一致してますよね。じゃあ、こちらも現在の状況を掴みたいので全搭載艇の現在状況を送ってもらいましょう。こちらで精査すれば現場でわからないことも見えてくるかと」


全員、賛成した。

当然、その受信データは膨大なものとなり、五隻目発見がどうのこうのという事は一旦、脇に置かれることとなる。


一方、こちらは郷やエッタ。

ガルガンチュア教団へ潜り込んで数年も経てば彼らの実力(隠していても、どこかで実力はバレる)だと、それなりの立場へ上がっている。

郷は司教たちの中でもエリートクラスの上司教という位にまで上がっていた。

ちなみにエッタは聖女見習いの地位へ。

これを比べると上司教よりも聖女見習いのほうが立場は上(見習いとは言え聖女なので、それなりの権力や責任は重い。司教の中では最上級の上司教だが、地方教会での権力と責任があるだけで、中央教会でも通用する聖女見習いとは格が違う)


いつしか郷とエッタは働く場所も違って今はエッタが地方教会から中央教会所属へ。

郷は初めに入った教会とは違い辺境星域ではあるが星域全てを統括する大きな教会の司教としての立場を得ている。


「はぁ……部下たちが有能すぎるのも考えものだな。俺のやることが全く無い。日がな一日、こうやって書類に承認印押してるだけ。まあ、祭祀の進行役として壇上に立つのは一日に一回あるんだが、それ以外にやることがない……ふぁーぁ! 退屈だ……って、いやいや! 教会改革には、この地位より一刻も早く上がって中央教会へ席次を作らねば!」


そう言いながら今はハンコ押し機と化している郷。

郷の愚痴は自分の教育結果だという事が存分に分かっているため、当分、この暇を持て余す状況を変えられないことも了解しているからこその愚痴である。


「隣接銀河の教育機械を活用できていなかったんで少しばかり再調整してやったら効果は抜群……過ぎたよなぁ、あれは」


まあ、その功績もあって後数年で中央教会から呼び出される事が確定している郷なので今は休暇なんだと無理やり自分を納得させているところだ。

エッタは? 

と言うと、こっちは聖女見習いの仕事で忙しく、あっちへこっちへ派遣されている。


「まったくもう! いくら聖女を派遣できないからと言っても、この聖女見習い派遣制度は酷いと思うんですけれど?!」


隣接銀河のほうなら、これほど聖女の派遣要請が来ることは、まずない(教会近くのドラッグストアに売ってる回復薬を買えば重症や重病で無い限り治癒する)

さすがに、この銀河にガルガンチュア謹製の処方で作られた回復薬までは届かないので、あっちからもこっちからも医療の手が届かないと分かれば教会へ聖女派遣要請が来る。

聖女の力は偉大だが、さすがに一人。

銀河規模の膨大な派遣要請には応えられない。

さればこその聖女見習い派遣制度だ。


聖女と聖女見習いの違いは実際の癒やしの力としては変わりがない。

プラシーボとしての名前の力はあるかも知れないが実際に現場で患者を治療するのに必要な力ということなら聖女でも聖女見習いでも同じ(いや実力的にはエッタの一人勝ちかも知れないがエッタは力を抑えているため現在の聖女よりも若干劣るくらいである)なので数十人はいる聖女見習いを派遣することで教会は権力も下々への威光も維持し続けているわけだ。


エッタは、そう言いながらも自然災害で被災した患者・被災者たちを前に癒やしの力を発揮している。

今は抑えているが、そのうち実力の一片でも見せようものなら、あっという間に二人目の聖女の誕生だろう。

各班ごとに各班なりのやりかたで、世間的にも社会的にも信用と権力、経済力(ガルガンチュアには権力も経済力も不要)を蓄えていくのだった。


再び、こちらは楠見、プロフェッサー、ライムの班。

ルート配送とは言うものの星系と星系の間が密になったり疎遠になったり果ては過疎星系への地方配送便のための巨大倉庫へも配送することとなり、ようやく配達を終えて母港へ帰ってきたら……


「しゃちょー! 最高緊急便の配送依頼です! とある星系で伝染病が発生して、その治療薬を至急、届けてほしいとの依頼です!」


「……まあ、しゃーねーか! ってことでプロフェッサー、この依頼は俺一人で充分だ。急なんだが、もう一隻、中型で、できれば快速モデルが良いけど無理そうなら大型で足の遅い奴でも。このままじゃ配送依頼に船も人も間に合わなくなっちまう!」


渋い顔したプロフェッサーだが、


「まあ仕方がないでしょうね、我が主。このところの依頼殺到には、できれば足は遅くとも、できるだけ荷の積める大型貨物船が良いかと。では再び価格交渉に頑張ってみましょうか!」


「おう、頼むな! って、言葉遣いがおかしくなってるな、この頃。いかんいかん、通常に戻さなくては!」


「では、いってらっしゃーい!」


と、宇宙港でプロフェッサーとライムに見送られながら緊急配送に旅立つ楠見。


「ぜー、ぜー……ようやく戻ったぞ。いやー、今回はヤバかったぞ。貨物を受け取るはずの宇宙港係官まで伝染病に罹っちまって、しょうがないんでオレ一人で治療薬の荷降ろしやったんだがね」


「で? あの緊急貨物、確か2tばかりあったんじゃなかったでしたっけ? それを、しゃちょー一人で? 嘘でしょ? 無理じゃないですか!」


「そこはそれ火事場のなんとかって奴……って触れ込みでな。1つ500kgの貨物を4つ、肉体補助の要領でサイコキネシスを駆使して宇宙港の指定ターミナルへ降ろして、その後は接触禁止条項で現地の者にまかせて帰ってきた……疲れたと言うよりも伝染病が接触感染だったんで、誰にも会えずにサインすらリモートで貰って帰ってきたんだ……精神的な孤独のほうが辛かった」


「わが主、火事場の馬鹿力とは言っても程度があるかと。何処の誰が一人で500kgもある貨物カーゴを担げるんですか!」


「緊急時だから俺は一種のサイボーグだと言っておいた。短時間だけど超人的な力が発揮できるんだと。一応は信じてくれたようなんだけど……二度と、あの星には行けねーよな」


「当然です! まあ、ガッチリ稼がせてもらいましたんで社員にはボーナスが増えるぞと言っておきましたが……あ、それでですね。プロフェッサーの探してきた中古貨物船なんですが」


「そうですね、その話を。ちょうど同業種で廃業するって会社がありましたんで顔なじみのよしみで結構値打ちに大型貨物船を譲ってもらいました。ちょいと、年が行ってますが」


年数くらいは問題じゃない。

最悪、エンジン部分を取り替えれば良い話だから。


「で? その貨物船の船内は? サビとかよりも宇宙線やら微小隕石との衝突ダメージとかが気になるんだが」


俺の疑問に、


「それなら大丈夫です。エンジンの型式が古いんですが、こいつは私のデータでパーツを入れ替えて最新型と同じくらいのエンジン性能にできますよ。カーゴルーム含めた船内は一部に問題ありましたが、それも数日のうちに解決する予定です」


「一部の問題って?」


「あのー……ですね。実は酒とタバコの匂いが船内に滲み付いてしまい、とても他人が入れるような環境ではなくて……でも、数日かけて完全船内クリーニングしてますんで、それが終われば、しゃちょーが入っても大丈夫かと……しゃちょー、タバコの匂いだけはダメですもんね」


「まぁな、アルコールくらいなら大丈夫だが。そうか、前任者は猫を売女と罵ろうが……って時代の奴だったか。懐かしいな、そういうのも。俺はやろうとは思わんが」


「お年もお年で、昔は、どっかの独立星系で総督やってたって自慢を聞かされてました。腕はまだまだ落ちてないが眼がついていけなくなって宙間レーダーのブリップが、よく見えなくなって来たと言ってましたね。それで、仕事はまだまだ充分にあるんだけど引退するということでした」


「おい、それなら、その従業員、ウチに来ないかな? 条件は良いぞ、ウチは」


「わが主、そう言うと思って従業員ごとリクルートしてきました。元社長も無線業務や宇宙港の人員采配とかならやれるってんで、元社長ごと、です」


「よくやった、プロフェッサー。これで人員不足は解消したかな」


「しゃちょー、解消はしましたが、今は、ですよ。将来的には仕事が増えて貨物船も増えるのは分かりきってるんですからね!」


まだまだ目的には程遠い3人なのだった。


こちら、郷&エッタ。

数年後、郷は無事に枢機卿となり、エッタは聖女へ。

ただし……


「あー、忙しい忙しい! 何故だ? 何ゆえ、こんなに忙しい?! いや理由は分かるが、それでも! 部下は百人以上いるってのに、なんで書類が減らない?!」


郷さんが忙しい理由の主なものは自分でも薄々感じている通り優秀過ぎるから。

教会制度改革に、もってこいの人材を教会中枢部が離すわけがない。


教皇代理(お隣銀河に教皇様がいますので、こちらは代理)によると、


「新しく枢機卿に任命された郷とやら、えらく優秀な者だそうだな」


直属の枢機卿会議長にお尋ねになったとか。

教皇代理様におぼえられるくらいに名が轟いてしまい、他部所で進捗が進まなかった物件やら案件、全ての厄介事が郷のところへ集中するのは時間の問題だった。

郷は、この書類の山と格闘すること数ヶ月……


「ううう……後一枚で未決書類が無くなる……よっしゃぁ! ついに休めるぞぉ! 半年ぶりかなぁ以前の休みって。長期の休みとってエッタ誘って温泉にでも行くかなぁ……」


などと呟いているとフラグでも立ったのか。


「郷枢機卿! 緊急処理案件が10件ほど! 至急対応せよと枢機卿会議からの依頼です!」


郷が、そのまま固まってしまい、次の動作にかかるのに一分以上かかったことは秘密である。

エッタも他ならぬ二人目の聖女。

まあ、エッタが実力出せば最初の聖女より強大な力があるんだが、そこはそれ。

お隣銀河での牛馬並み労働は二度と嫌なので意識的に力をセーブしている。


「……って、どうしてこんなに忙しいのよー。聖女見習いの派遣先って今まで適当に決めてたなぁ! 上司が適当だから、こんなになっちゃったじゃないかぁ!」


エッタの悲鳴。

聖女になったらあっちこっちへの派遣暮らしにピリオド打てると思ったが、そうは問屋が下ろさないようで。

聖女部門事務方のトップに任命されてしまい、表には出なくて良くなったが現場からの報告やトラブル、事務方そのものの組織改革まで担当することとなり、こちらも死ぬほど忙しい。

まあ、こちらもじわじわと組織内で力を蓄えている。


ちなみに、フロンティアたち宇宙船グループは、いまだ五隻目を発見できず。

数十年単位での観測が主となった今、短期のデータは問題とならず、じっくりと腰を据えた捜索となっている。


さて、楠見とプロフェッサー、ライムの班のお話。


「しゃちょー! おやっさんが宙港で待機してますんで今回は荷物受けは宇宙船横付けで可能だそうです! 久々の大型物件ですよ。500t以上は確実な荷物だそうです」


ライム総務部長の声が響き渡る、とは言え広い倉庫内での微弱無線がスピーカーから大音量で流れてるだけだが。


「分かった、ライム部長。俺はコ・パイ(副操縦士)引き連れて宙港へ急ぐ。おい、新入り、行くぞ」


「はい、社長! お供します!」


ということで楠見と新入社員の副操縦士は倉庫で受け取る荷物が港へ直行したという事で二人でロボカーに乗車。

会社倉庫から宙港までの道のりは、もう嫌と言うほど往復した定期便のようなもの。


「お、到着か。ハロー、おやっさん。こちら楠見と新入りのコ・パイだ。貨物便は、どうなってる?」


「おお、楠見社長。貨物は、あまりの大きさと重さに貨物便のホバートラックが大型すぎて普通の倉庫に入り切らんと向こうさんから注文来てな。じゃあということで貨物船に横付けしてもろうた。ロボット荷受けが待機しとるんで船に行ってやってくれ。もう、トラックも宇宙船も口開けとる頃じゃろう」


「了解、ありがとう、おやっさん。では、船に向かう」


地上無線を切る楠見。


「さて、あそこに見える、ひときわ大きな大型貨物船が我社の船だ。元は、おやっさんの会社の船だったんだが、社長が宇宙生活に耐えられん年齢になってきてな。会社を畳むっつーんで、それならと、社長ごと会社ごとウチが引き取ったってわけ。他にも中型船の船団が2つほどあるが、そいつは今、プロフェッサーが率いてる。俺達は一隻でも大量で重量物の貨物を扱える大型船を飛ばすってわけだ。行くぞ、新入り!」


「そういうことでしたか。超のつく優良企業なのに、なんで新人のボクを採用したんだろうかと不思議だったんですよね。任して下さい! 今すぐとは行きませんが社長の腕を自分のものにしてみせますって!」


「おお、若造が(笑) まあ、ちょいと無理だとは思うがな(笑)」


新人パイロットが、どう考えてみてもおかしな現象に気づくのは宇宙空間への飛行状態になってから。


「社長……いくら計算してみても、この船の燃料消費量は変ですよ。だって計算上なら、もう三割は消費してなきゃおかしいのに、燃料消費グラフの表示見ても一割減ってないじゃないですか! 社長、何か、この船、特殊な装置積んでませんか?」


「ははは、そんなことか。以前の中型快速船の場合は、もっとスゴイ節約量だったんだがな。さすがに、この貨物量だと燃料消費がバカにならんよ」


「だから、社長! どう計算してみても通常の航行経路で、こんな燃料消費が少ないのは異常ですよ!」


「いやいや、俺以外、例えばプロフェッサーが指揮する船でも、まあ、これよりは多いが通常より二割は燃料節約できるんだぞ? この船の節約量が大きいだけだ、心配するな」


「いや、心配するなってのが間違いなんですってば! この船、大型貨物船ですよ?! それでいて中型貨物船より燃料消費が少ないって何か燃料計の故障とか考えられません?」


「ん? そんなこた無いぞ。心配なら帰りも燃料計を見てると良い。こいつが実際にエコな宇宙船だって分かるだろう……ただし俺が乗るって前提だがな」


新人パイロットは往復行程で燃料消費と実際の量をチェックしまくった。

最終的に燃料計に故障がないと理解すると次からは楠見の指揮を穴の開くほど見つめることとなる。


「まあ、俺の指揮なんて良い加減だから参考にしちゃいかんぞ。それよりも、どこにコツがあるのか理解するほうが先だ」


社長が超の付くエスパーだという事を理解しない限り、彼の苦悩は続きそうである……


数年後、輸送会社としては超大手となった楠見の会社は貨物輸送から人員輸送へと舵を切る。


「……というわけで我がガルガンチュア教団としては中型クラスでも速くて融通の効く船と、ともかく大量の人員と貨物を積める船の両方が欲しいわけですよ」


ここはガルガンチュア教団、中央教会の事務室。

室内にいるのは楠見、プロフェッサー、ライムと会社の重鎮勢ぞろい。

テーブルの向こう側には郷、エッタ、教団の当銀河での教皇代理、教団総務部統括という、こちらも教団の重鎮ばかり。

協議しているのは楠見の運輸会社を教団専用のタクシー代わりにしようという話。


「もちろん、そちらの会社には教団から一定額をお支払いします。使用してもしなくても、かなり高負荷で使用したときと同様の費用をお支払いするということで。あ、それから教団の教会や事務所のある星系ならば、どこでも通行料不要、通行許可の事前申請も不要という条件もつけますが、いかがでしょうか? 楠見社長」


破格の条件である。

普通なら飛びつくところだが……


「総務を統括する常務の立場から言わせていただきます。あくまで平時の条件ですね? その星系が内乱や星間戦争に陥った場合の危険手当とかは?」


「そ、それは、こちらの教団総務部統括の者と契約を煮詰めていただくように。ともかく我が教団は信者が増えすぎて、このままじゃ教団員を指導するものが異動のたびに数ヶ月待たされることになるんですよ。どうか御社で我が教団の足を救っていただきたく……」


顔は渋いが腹の中は笑いが止まらん、楠見、郷、エッタ、ライムだった(プロフェッサーは心情が顔色に出ない)

しかし、ここに来て(ようやく、というところだが)お隣の銀河(ガルガンチュア教団の本家本元)に楠見や郷、エッタの存在に気づく者たちがいた……


「さて、隣の銀河で、うちの教会が、おかしなことになってるらしいんだが?」


ここは枢機卿会議と部屋名がついてる。

その中では元・銀河情報局の局長サンダーと、今は教団の教皇直属の最古参ロックフォール第一席枢機卿が話し込んでいた。


「その件で来てもらったんだよ、ロックフォール……いや違った、今は教皇代理と言ったほうが良いかな?」


「やだなぁ長官……いえ枢機卿会議の議長様。教皇様に何かあった時の代理なんで僕のことはロックフォールと呼んで下さい」


「まあ、そうもいかんだろ、今の状況では。ところで、さっきの件なんだが」


「ええ、こっちの耳にも入ってきてますよ。こともあろうに人類至上主義の輩と手を組んで、このガルガンチュア教団を貶めようとするなんて! あー、ここにクスミさんやゴウさんが居なくてよかったですよ……ガルガンチュア本体が居たら全て抹消されそうなくらい酷い話です」


サンダーの顔が曇る。


「いや、それがな……何かの事情があったようなんだが、お隣の銀河にガルガンチュア本体がいる……という確信はないんだが、それに近いような情報が入ってきてる」


ロックフォールの顔色が変わる。


「いや、そりゃマズイでしょ。ガルガンチュアとクスミさんの願いを結実するためのガルガンチュア教団なんであって、そんな愚策をとってたなんて彼らに知られたら……」


「それで相談だ。誰か高位のエスパーを隣の銀河へ送って彼らとコンタクトを取らないといかんだろう。ただし、ロックフォール、君が行くのはご法度だぞ。君が居なくなったら誰が教皇様を守るんだ?」


「サンダー議長、今の教皇様はダミーだと知ってるでしょうが。まあ、お飾りでも教皇は教皇だしなぁ……一番良いのは僕自身が行くことなんでしょうが、それは不可能。では……シモンとジャストの二人は? 今の銀河情勢なら、しばらくの間、二人がいなくとも心配ないでしょ?」


「はぁ……まあ、そうなるよなぁ……ただし! ジャストは予備戦力として確保させてもらうぞ。出せるのはシモンだけだ。高位エスパーは遊撃戦力としても予備戦力としても欠かせん」


「やはり、そうなりますか。シモンやジャストじゃ、あまりクスミさんやゴウさんと繋がりがないんですが……仕方がない! 多人数で行くのも憚られますので、ここはシモンに行ってもらいましょうか」


秘密会議のように事情を知る二人だけで決まった、銀河を超える派遣計画。

当のシモンは、


「あー、このところ暇で仕方ないねぇ、なあ、ジャスト」


「そんなこと言ってると、とんでもない任務が降ってきますよ。知ってます? ロクでもないこと言ってると天からバチが当たるんですって」


「んなこと言ってもなぁ。数十年前までに、ほとんどの宇宙海賊や反連邦勢力、おまけに小さな星系単位の反抗勢力まで大人しくなっちゃって俺達みたいな大規模戦力エスパーは予備役扱いになっちまったんだよなぁ……いるだけで給料もらえるのも有り難いけどさ」


「ほんっと罰当たりですね、シモンさん。そのうち、とんでもない命令が来ますよ、ロックフォールさんか枢機卿会議から」


これは予知ではないのだが後でシモンはジャストに予知能力でもあるんじゃないかと疑いをかけることになる。

その会話から数時間後。


「シモン枢機卿、枢機卿会議議長様から、お呼び出しがかかってます」


枢機卿の待機室(名称は、枢機卿専用待合室)に小間使として教会本部に配属されたばかりのような少年が入ってくる。


「ん? なんだ? このところ銀河は平和だろ? 俺達、荒事要員に用なんか無いはずなんだが……」


半信半疑で枢機卿会議室へ赴くシモン。

コンコン、とドアをノックし入室した途端、


「やあ、お久しぶり、シモン。早速だけど、お隣の銀河へ跳んでもらうよ」


はぁっ?! 

という素っ頓狂な叫び声が、防音が施されている枢機卿会議室の中から外へ漏れるほどに大きな音量で上がる。


「な、なななな、何で私が、そんな数十万光年も離れた隣接銀河へ行かなきゃならないんですか? 噂によると、あっちもずいぶんと平和だそうじゃないですか。荒事専門部署の私が何故に平和な、それもお隣の銀河へ?」


大声にも動じない、ロックフォールとサンダー議長。


「詳しくは、そこにあるレポートに纏めてあるんで、それを読んでくれ。それと一言言っておく。お隣にガルガンチュアとクスミさん達がいると思われる。何かの作戦、あるいはトラブル対処らしいが、そのトラブル原因と関係してるらしい教団の人物たちの名前をリストにしておいた。まあ全員が関係しているとは思えないんだが半分程度は何らかの関連があるだろう……シモン、君の役目はガルガンチュアの活動を妨げずに隣接銀河のトラブルを可能な限り、こっちで解決することだ」


はい?! 

シモンは、とんでもない事を命令されていると思っている。


「えーと……向こうにはガルガンチュア本体とクスミさんやゴウさんがいるんですよね? そこに私、シモンが行って、どうにかなると思います? たかだか三百数十年前にも到底敵わない実力見せつけられてるってのに? もう小人と巨人ですよ、私と彼らとの差って。いっそ最前線で戦ってこいと言われた方が命がありますよ!」


「それは重々承知の上だよ、シモン。だけど、このまま僕らが何も隣銀河のトラブルに手を打たなければガルガンチュアとクスミさん達の怒りが、こっちのガルガンチュア教団本部へ向く可能性があるのは分かるだろ? そうなる前にレポートに書かれている隣接銀河でのトラブル、人類種族至上主義を止めさせないといけない。それも向こうでは厄介なことに教団の一部が人類至上主義に加担しているようなんだ」


「うわぁ……本当だったら、こっちの銀河の半分くらいが吹き飛ばされそうですよね、冗談じゃなしに。それでも生命体の損失は何もないということになるんだろうけど」


シモンが本音を吐露する。


「で? 行くのは私一人? 同行者とか……あ、その顔で無いと分かりますよ。まーねー、オレ一人、そしてジャストが同行したって、どうしようもないのは確定なんですけどね」


「そう、確定なんだよ、これが。君がやれるのは、せいぜい人類至上主義者の首謀者と、それと繋がってるだろう教団の高位者……司教長以上じゃないと地位的に無理だろうけどね……そいつらをクスミさん達より早く検挙することだけ。頼りにしてるんだよ、これでも」


「へいへい、教皇代理のロックフォール様、分かりました。何処まで行けるか分からないけど、やれるだけやってみます」


ということでガルガンチュア教団本部からシモンが派遣されることとなった。

ちなみにシモンもロックフォールやジャストと同じく疑似テレポートは使えるが、あまりに精神力を使うため、そして、それに見合う距離が跳べないため普通に宇宙空間を旅するのには使えない。

とは言え最新式の小型快速船を用意してもらったシモンは精一杯に急加速と距離限度ギリギリまでの跳躍を繰り返し、隣接銀河へ赴く。


シモン、只今、銀河間空間を移動中。

ちなみにシモン専用宇宙船で特に今回の任務では超遠距離の航行となるため外付の燃料庫も装備されている。


「あー、それにしても。ガルガンチュア本体なら、こんなの一足飛びなんだろうがなぁ……ガルガンチュアの転送装置なら銀河から銀河への転送も可能だろうに。俺は一体、何をやってるんだろうなぁ……」


無いものを嘆いていても仕方がない。

シモンは嘆いているがシモン専用宇宙船は、この銀河でもトップグループの性能を持つ。

元の銀河でも宇宙海賊達の快速宇宙艇に負けない疾さをもつ最新の快速船だ。

その最新快速船をもってしても銀河を渡るには数ヶ月かかる。

双方の銀河同士の間隔は五十万光年弱。

銀河系とアンドロメダ銀河間の半分も無いくらいの距離だ。

それでも、そんな超遠距離を渡るには、どうしても時間がかかる。


「しかし、銀河を渡るだけでも、これだけ時間がかかるってのにガルガンチュア本体なんて銀河団やら超銀河団も渡ってるって……どれだけ想像を絶する性能なんだよ。その超巨大にして超高性能な合体宇宙船ガルガンチュアが、なぜか数百年経って、隣の銀河へ現れたというのも不可解な話。普通なら下手すると銀河団すら違う宇宙にあるはずだろうがなぁ」


シモンが愚痴る。

なぜ今になって、選りにも選って俺達の銀河の隣なんて位置に来たんだ? 

ガルガンチュアは基本的に、その銀河のトラブルを解消したら、すぐに隣の銀河へ向かうはずだろ? 

トラブル解消に千年近くかかった銀河もあるという話だけど、そんなのはごく少数と聞いてるぞ。

ガルガンチュア教団が隣接銀河へ向かったのは、それこそ数百年前の話で、もうガルガンチュアは来て去って、厄介なトラブルは無いと去っていったんだろうと思ったら、ここに来てガルガンチュア本体が……

まあ、このトラブル、要するに人類偏重主義と教団が結びついてしまったことの原因を作ったのは教団の重鎮らしいからなぁ……

それにしても頭が痛い。


「あー、俺にクスミさんとは行かずともゴウさん並の力があればなぁ……そうすりゃ潜入捜査も強行突破も楽々なんだろうが……いかんいかん! 暗い方向ばかりに向かっちゃいかん! これでも俺達の銀河じゃ三本の指に入る高位エスパーなんだぞ、俺は! やってやれないことはない、やれなきゃ後はガルガンチュア本体が控えてるんだから! しっかりしろ、俺!」


思考の堂々巡りに入ってしまったシモンは、それでも快速宇宙船の性能で着実に銀河と銀河の橋を渡っていく(途中に、いくつもの休憩点や補給点が備えられたので今では、それほど隣接銀河は遠いものではなくなっている。片道数ヶ月と時間はかかるが、それでも比較的、安全に両銀河の物流と情報のやり取りはされている)


二ヶ月と結構時間はかかったが、それでも快速船の名は伊達ではなかった。

通常の輸送船であれば下手をすると片道で半年は優にかかる距離。


「さて……到着はしたが最初はどこへ? って、教皇様の手紙を渡すことになってたんだっけ。これが表の仕事だから最初に片付けなきゃいけないよな」


シモンは到着した銀河の適当な惑星に降り、本部へ連絡するように依頼する。


「教皇様代理から手紙と書類を受け取ってるんだ。こちらの最高責任者へ手渡しで!と厳命されてるんで、よろしく」


シモンは自分も枢機卿であることを示す階級章バッジを見せる。

そこからの手配は速かった。

末端に近い支部から緊急連絡ということで中間支部や統括支部をすっ飛ばし、直接、中央教会本部への直伝という形になり、担当者も数段階すっ飛ばして、この銀河での最高責任者(枢機卿の地位にある人物だった)への連絡がつく。


「では、私は手紙と書類を持って中央教会本部へ向かう。そこまでの足は自分の宇宙船を使うので大丈夫だ。受け入れの準備だけお願いしたい」


シモンが要請すると、


「はい、では宇宙港の本部専用宇宙船駐機場の一角を空けておきます。大型貨物船の隣ですので間違えることはないと思われますが」


と、駐機場の手配までやってくれる。

シモンは、つくづく組織ってものには地位の高さが必要だよなぁと感じる。

普段は、こんな地位など捨てて自由にあちこち飛び回れたらなと思うが、任務には、これほど枢機卿の地位は役に立つのだなと改めて思わせる。


「さってと。表の仕事を、さっさと終わらせて、裏のトラブル解消作業に取り掛からなきゃな!」


ちなみにシモンの宇宙船が降りた駐機場ポイントの隣、実は楠見の運輸会社が使用しているポイントだった。

このところ急激に増えているガルガンチュア教団の輸送依頼に応えるため、楠見は専用の駐機場ポイントを確保していた。

シモンにとって幸運(不運?)なことにシモン専用快速宇宙船が駐機場ポイントに降りてきたときには楠見は教団とは別の仕事に行っていたため、楠見とシモンが顔を合わせることは無かった。


こちら、楠見たち。


「総務部長、このルートで教団信者の配送をすれば良いわけだな? じゃあ、貨物積み込みと乗客の乗り降りに注意して大型貨物船で向かうとするか。副社長は? ああ、お偉いさん達の異動用に中型船が必要だと。分かった、じゃあ中型を二隻、教団用に使って、後の中型三隻はルート配送や緊急用貨物依頼用に回しておいてくれ。じゃぁ、出発するんで緊急連絡あれば、よろしく!」


「はい、社長。とりあえず今の所、政府や連盟、大小の星系王国からの緊急連絡は来ておりません。ただし、面白い報告が来てます。お隣の銀河から教団本部の枢機卿クラスの方が派遣されてくるとのことです。公式発表らしいのですが、これって……」


「ああ、そうだな、多分、ライムの思ってる通りだ。俺達が、この銀河に来たって知らせがガルガンチュア教団本部へ届いたようだ。まあ、大丈夫だろう。あっちは、この銀河ほど上部が腐敗してない。あと一万年も経てば、どうなるか分からんが」


「では、こちらで、お隣のお客様を捕まえる事は無いと……了解しました。向こうから接触してきた場合、会社として対処しますか? それともオリジナルとして対処しますか?」


「会社として対応してくれ。向こうも多分、そうして貰いたいと思ってるはずなんで。それじゃ、時間が来たんで出発する!」


「はい、分かりました。行ってらっしゃいませ」


無線装置のマイクをオフにしたライム部長は、鮮やかな手付きと交信内容に唖然としている総務の連中を横目に、


「はいはい、自分の仕事に集中よ! それでなくても一年前より売上が数倍になってるんですから! 売上計算と必要経費の計算だけでも書類が山になってるんですから。定時で帰りたければ早く書類の山を片付けることですよ!」


ライムの一言で好奇と尊敬の視線が外れ、書類の精算に集中する総務部員だった。


こちら楠見。

教団の仕事は大きいものが多いが、この一件は、正に大仕事! 

10以上の星系を周り、100を超える星からの業務異動や移民、配置換えやらの教団員(当たり前だが荷物付き)を大量に乗せ、あっちこっちと星系を巡り続けていく……


「やってることは簡単なんだがな……問題は人数の多さと荷物の数か……積むにも降ろすにも時間がかかって仕方がない。まあ、その分、教会から金は出てるんだが……コレばっかりは効率重視とはいかないからなぁ……」


楠見は予想以上に時間がかかるのに閉口している。

一応、人員リストと貨物リストは貰っているのだが現場では、そんなものは参考程度にしかならない。

あっちで人員の入替えが急に決まり、こっちでは開拓星に建てるという教会の資材を急に積み込むこととなる。


「まあ、予想通りなんだが大型輸送船にしといてよかった。中型だったら今ごろ救援を呼んでたぞ、これは」


などとボヤキながらも着々と仕事をこなしていく。

最後の一人と荷物を送り出して空になって広々とした船倉を見ながら帰りの準備をする楠見と運送会社のクルーたち。


「さーて。もう社外の者は誰もいないんだから、ちょいと本気で急ぐとするか! おい皆、急いで帰るぞ!」


おー! 

と、社長の独壇場が始まると期待の目線。

入社から数年たって、ようやくコ・パイの免許を取れた、あの元新人など慣れたもの。


「あれだけは社長に敵わねーんだよなぁ、絶対。最高速もそうなんだが、アレだけ急いで燃費が中型輸送船より良いってのは、どんなマジック使ってんのやら? 未だに分からんよ」


一ヶ月以上の配送にもかかわらず帰るとなると数日どころか丸一日かからずに母港へ戻ってきた大型貨物船。


「ライム部長、今、帰着した。おみやげも結構あるんで大型トラック回してくれ」


との通信を受け取った本社。

急いで大型万能トラックを宇宙港へ手配し大量の各星土産を積み込ませる。


「じゃあ、よろしく。俺達はロボタクシーで本社へ向かうんで」


という楠見の一言と共に土産物を満載した大型万能トラックは空中へ。

楠見らとは別なルートを取る大型トラックは、ひと足お先にと本社へ。

本社前で待つ総務や内勤者らの目の前に到着した大型トラックより、めったに見られない銀河内の辺境星土産に大喜びする内勤者たち。


「さあさあ、喜ぶのは後です。この土産物の山、片付けますよ! まぁったく、社長も、この習性さえなかったら良い経営手腕なんですけどねぇ、無駄遣いだわ!」


えー? 

そんなことないですよー、ぶちょー! 

社長の良いところじゃないですかー! 

などと総務内からも不満の声が出るが。


「ブーイングしたいならコレを片付けてから! これじゃ玄関から入れないわよ!」


本当に小山になってる土産物。

ライムは、またお得意様や子会社へ配ることになるんだろうなーと諦めに近い気持ちで手を動かしていた。


「ようやく帰ってきたぞ、本社はやっぱ良いもんだな。しかし、なんであんなに交通渋滞してたんだ?」


楠見らが本社へ帰ってきたのは、それから30分以上経ってから。

なぜかロボタクシーや自家エアカーなどが使う高度の「空の道」が大変な渋滞に陥っていた。


「それ、お隣の銀河から来たって教団本部の枢機卿様のせいだそうですよ。警備や優先通行の面で主要な交通路を止めちゃったって聞いてますが」


はぁ……

ため息をつく楠見。


「これも行き過ぎた人類優先主義のせいなんだろうなぁ……なんとかしなきゃいかんぞ、本当に」


シモンは、なぜか知らないが背筋が凍りつくような恐怖を一瞬、感じる。

ぶるる、と震えると気のせいだろうかと思いながらも、


「いや、違うな。こりゃ本物の恐怖だろう。生きている破壊神に近いお人が、この銀河にいるんだ。もし本気で怒っていたら……俺、故郷に帰れるのかなぁ……」



さて時間は少し遡り、シモンが中央教会へ向かうことになる時期。

詳細を書いてみよう。

こちらシモン枢機卿。

ビクビクしながらも目的銀河に到着し、当該銀河の教団本部へ連絡を取ると、事前に知らされていたのか丁重に中央本部教会のある星系へ案内される。


「丁重に扱われるのは良いんだが、これは……やりすぎだ」


本音の感想である。

跳躍航行のうちシモン枢機卿が通る予定の航路を横切ったり並走したりする予定の宇宙船が航行禁止とされる。

ここまでやるとは思っていなかったシモン、

通信で本部へ連絡を入れて、跳躍航行禁止はやりすぎだ! 

と解除を申し入れるが本部関係者としては、


「申し訳ありませんが本家銀河の本部付き枢機卿がご訪問されたということで最大の警戒と警備をという指示が上の方から出ておりまして……」


ということでシモンが目的星の宇宙港へ到着するまで、この体制を維持することとなっているらしい。

こりゃ何を言っても無駄だと思ったシモンは警備艦隊へ指示して航行速度を上げさせる。


「こうなりゃ俺が一刻も早く目的地へ着くのが最善策だ」


ということでシモンの快速船一隻に対する警備艦隊50隻を最大艦隊速度で跳ばす事にするシモン。

シモンの思惑通り、これにより跳躍航行の禁止時間は大幅に短縮された。

それでも数時間かかって、ようやく目的星の宇宙港指示ポイントへ着陸する。


「やれやれ。これも行き過ぎた人類至上主義のおかげか……一刻も早く是正しないとガルガンチュア本体のお出ましとなるのが必然になりそうだな。ああ、思い出すだけで寒気が走る……」


これでも実はガルガンチュア本体を実際に見ているのはロックフォールのみ。

シモンもロックフォールから聞いただけだが、なにしろスケールが違いすぎて登場したら星系が終わりそうなくらいのものだということは実感している。


「なんにせよ俺が頑張るしかないわけだ、今回は。とほほ……ここに、ロックフォールとジャストがいてくれれば少しは安心できるんだがなぁ……」


シモンは、ここで大きな勘違いをしていることに気づいていない。

ガルガンチュア本体は別の任務(5隻目の銀河団探索船の捜索)で、ここには来られないが郷とエッタは、こっちのガルガンチュア教団に、もう潜り込んでいるということを知らない。

まさかガルガンチュアクルーが、あっちからこっちから内部と外部から干渉し始めていることなど全く知らなかった……


「さて、と。まずは、こっちの上級枢機卿たちと、それから、こっちの銀河の最高権威者(教皇代理)への挨拶だな。まあ実質的な地位は遥かに俺のほうが上だったりするんだが」


本家本元の中央教会に属する枢機卿のうち実質ナンバー2のシモンに逆らえる者は、いるはずがない。

しかしシモンは妙に嫌な感覚に捕らわれる。


「これ、はるか昔に、どっかで味わったような気が……気のせいかな? 別の銀河ってことで気持ちが昂ぶってるんだな」


惜しい! 

シモンが向かう先にシゴキに近い特訓を行った張本人がいるからだとは、さすがに読めなかった。


「ここが中央教会か。俺達からすると出張所のような扱いになるんだが……さすがに、そりゃカワイソウだな。本家本元を参考にしたらしいが、さすがに、この銀河でのガルガンチュア教団の権威の象徴、けっこうな建築物じゃないか」


そんな感想を抱いたシモンは警備陣を引き連れて中央教会へと進んでいく。

入口では、この銀河で枢機卿や司教の地位を与えられた者たちが大歓迎という顔をしてシモンを迎える。

シモンは軽く団体規模で思考をざっと読んでいくが……


「ふーん……さすがに教団の教えに反するような思考は持ってないか、それとも深層意識に隠しているのか……まぁ、これから暴いてやるんだけどね」


シモンもエスパーとして高位ではあるが人類至上主義を掲げる者たちも一筋縄ではいかない。

シモンは、そっと呟くと、たちまち表情を崩し、


「大歓迎、いたみいる。私は、ここへ重要な任務できたものですから皆様とは長いお付き合いはできそうにありませんが向こうへ戻っても教皇様や大枢機卿のロックフォール様へは、よろしく言っておきますよ」


と、こちらも顔と心は正反対。

シモンは彼らと分かれて中央教会へ入り、教皇代理と会う。

さっそく重要な問題が発生しているということで教皇代理には特別に時間をとってもらい二人だけの会議を開きたいと要求。


「歓迎式典を用意しておりますが……それは少し開会を引き伸ばして少々お話をしましょうか」


シモンの真剣な表情を見て、こりゃ厄介事だなと確信した教皇代理。

30分ほど歓迎式典の開会を延期すると周りに通告し、二人だけで奥の会議室へ。


「さて、ここならば盗聴もテレパシーも遮断しておりますゆえ深刻な問題も協議できます。此度は、どんなトラブルが?」


教皇代理の発言はズバリ核心を突く。

シモンも教皇代理が問題の本質に関わっていないことに安堵しつつ、


「そうですか……実は、ですね……」


それから30分後。

会議室から出てきた二人は表情はにこやかなものの、心の中は暗いものが渦巻いていた。


「さて今日は、お隣の銀河からガルガンチュア教団の本家本元の中央教会本部から枢機卿として第二席という実質的に実務の最高となるシモン枢機卿が来られた祝いとして、この歓迎会を執り行う。今日ばかりは司教も枢機卿も、聖女・聖女見習いも地位に関係なく、飲食と歓談を楽しんで欲しい!」


教皇代理の宣言でシモンの歓迎会が開催される。

しかし教皇代理もシモンも心の中は問題ありまくりという、顔と心が全く違っている状況。


そこへ意外な……

いや、シモンには見知った顔が現れたのだが当人は意外も意外。


「ゴ、ゴウ枢機卿?! いったい、なぜこんなところ……」


〈シモン、あまり喋るな。俺は今、ガルガンチュアクルーの一員として、ここに潜入捜査してる。聖女としてエッタも来てるぞ。ちなみに師匠は外部の運送業者の社長として教団に関わってる〉


郷は、にっこりと笑いながらテレパシーでシモンに語りかける。

と同時に音声でも、


「シモン枢機卿、お初にお目にかかります。この度、中央教会に異動になりました、ゴウ枢機卿と言います。なにぶんにも中央に来てから短いものですから、右も左も分かりませんが、本家の中央教会本部の方にお目にかかれるなど幸運の極みです」


エッタも、ここぞとばかり、


「私は聖女に新しく任じられましたエッタと申します。本家ガルガンチュア教団の高位枢機卿様にお会いできるなど、もう生まれてきて今日が一番の幸せですわ」


と挨拶。

さすがにエッタは同時にテレパシーを送るなどは、しない。

マナーとしてエスパーの間では喋ることとテレパシーを同時に行うことは失礼とされているからだ。

しかしシモンは一瞬、顔色を変える。

厄介な事態だと思い知った。

ガルガンチュア本体は動かずとも、もうクルーは動いている。

そしてシモンやロックフォールの読みよりも素早く、問題の根幹に迫っているらしい。

シモンは冷や汗を流しながらも笑顔に戻り、ゴウにもエッタにも、そしてシモンを取り巻く挨拶の波にも対処していくのだった。


楠見や郷たちガルガンチュアクルーが教団の闇に迫りつつあるとき、肝心要のガルガンチュアたちは何をやっていたのか? 

少し回り道になるが今回それを語るとしよう。


「フロンティア! これで、この銀河の中の七割以上の星系を監視している。他の三割も付近にいる搭載艇群がカバーしている……が、これで五年間、データを取りつつ恒星を監視していることになるぞ。そろそろ五隻目がいる星系ぐらい特定できないのか?」


言われたフロンティア、


「そうですね、ガレリア……実は推定段階ですが五隻目がある星系は特定できているんですよ。ただ、見つけて船を起こして、その後が厄介なんです。今の状況で五隻目が物理的ドッキング可能だと思いますか?」


ガレリアは、その質問を考えていなかったわけではない。

ただ未だに四隻ドッキングで上手く行っているため、あまり困っていなかったことも有り、物理的なドッキングで五隻目が増やせると思っていたのも事実。


「しかしな、フロンティア。今の物理的ドッキングで5隻目、やってやれないこともないと思うんだが? 今でも超巨大宇宙船が四隻、物理的に繋がってるんだぞ」


「えーっと……その問題、何とか解決できそうなんだよねー」


突然、口を挟んできたのがフィーア。

その横にはトリスタンもいる。


「議論されていた話題が、なんとかなりそうなんで会議室から出てきました、フィーア共々。結論から言うと物理的ドッキングは解除しても大丈夫ですね」


トリスタンの発言。

それから四人が集まり、データではない会話での会議となる。


「それでは今から五隻目あるいは、それ以上になっても集団が維持されるというトリスタンとフィーアの論議の結果を説明してもらいましょう。詳しいデータが必要となる場合、船の高速データ通信でうけとるということで」


フロンティアの音頭で会議が始まる。


「えーっと、ですね。結論から言うと五隻でのガルガンチュア結合は可能です。可能なんですが、それ以上、物理的な結合は無理です。例えば六隻目が見つかったとしても、物理的に結合してしまうと互いにロシュの限界距離に近くなりすぎて何かの不都合が生じた場合、ガルガンチュアという集合全体が互いの質量のせいで部分破壊してしまいかねません。ですから、これ以上の物理結合は止めて結合しない方法を採用することにしました」


「フィーア? 言ってることが理解できないんだが? 矛盾してないか? 集合体としてのガルガンチュアが集合しないって結論になってないか?」


ガレリアの疑問も、もっともな話。


「説明が足りませんよ、フィーア。物理的な結合をしている今の状態から、もっと距離の取れる方法を採用するということです。ちなみに結合用のドッキングデバイスは不要ということではなく搭載艇の保管庫として利用することとなります。現状より、搭載艇が収容も放出も短時間で可能となりますので一挙両得かと」


補足説明を行うトリスタン。

納得した表情のフロンティアだが、ガレリアは、まだ何かあるようで、


「一応は納得したが、そうすると何で五隻目や六隻目を結合させるんだ? 物理的な結合を使わないと巨大集合のガルガンチュアとして行動が取れなくなるんじゃないか?」


その質問には黙っていたフロンティアが答える形になる。


「ガレリア、我々のトラクタービームの強度を忘れてませんか? 今の四隻合体状態でも相当に強力なんですよ。宇宙空間だとしても100万kmも離れればロシュの限界は大丈夫でしょう」


相互をトラクタービームで繋ぐというのはガレリア自身も想定したことがある……

しかし、


「フロンティア、そういう結合状況には一つ疑問が。動力の問題をどうする気だ? 今は四隻の動力エネルギーを一つにまとめて大きなエネルギーにしてるんだが、これは物理的に結合してるからこその恩恵だろうが。物理的な結合を切り離してしまえば、エネルギーが小さくなって、超銀河団を渡る今の速度に上げられなくなる恐れがあるぞ」


「あ、それはですね……」


トリスタンが補足説明を行う。

実は今現在のガルガンチュアの構成だと、物理的に接続されていなくても相互にエネルギーのやりとりが可能だと言うことが分かってきたのだそうで。


「ビーム転送技術の応用でエネルギー炉の数割、さすがに全ては無理ですが最大半分のエネルギーを互いに融通できるようになりそうです、もちろん各宇宙船の改造は必須ですが。そうすると、もう一隻や二隻増えようが、もしもの可能性として十隻全てがガルガンチュアにエネルギー的に接合したとしても、その運用が可能になります」


ガレリアもフロンティアも、さすがに銀河団探査船十隻全ての参加は考えていなかったため、想像を超えてしまう。


「それは凄いというか、それは、もう宇宙を旅する人工の星系というか……あまりに巨大な結合体で、小さな銀河だと下手に近づけなくなりそうですね。マスターも多分、そこまで要求はしないと思いますよ……そうですね、増えるとすれば最大で六隻くらいでしょうかね、ガルガンチュアという名として」


超がつく巨大宇宙船が六隻構成で星系のような形で宇宙を跳ぶのを目撃する生命体がいるとして……

それを見て妄想か、あるいは目の錯覚ではないかと最初に思わないものは存在しないだろう(あるいは、それが機械生命体だとしても)


「ちなみに、だよ。僕らが計算したところ例えば五隻目が参加したとするとガルガンチュアとしての総エネルギー量は今の五割増しになるって答えが出たよ。もう巨大恒星一つ分と変わらないよね。中型や小型の恒星じゃ比較にならないエネルギー量を持つことになるよ……六隻目が参加したとすると、そこからの五割増し。もう恒星とか言うレベルを超えそうだよ」


フィーアの発言。

ここに楠見や郷がいたら寒気がするような話だ。

完璧に制御されているガルガンチュアだから可能になるエネルギー量なのであり、もしこれが制御不可となったら……

ブラックホールで済めば良いが、多分、スーパーノヴァのように見えるかもしれない。


「では五隻目を本気で捜索するとしましょう。それと各船の結合部を解除して、物理結合からエネルギー結合状態への移行を開始するように。あ、フィーア、物理結合してた時に使ってた円筒は、どうします? かなり邪魔になりそうですけど」


「それなら簡単よ、フロンティア。ひとまとめにして別区域に置くのが良いかと思うよ。搭載艇用別区画として使うか、あるいは各船の近傍空間に一つか二つまとめて防御や攻撃に適した形にするか。まあ、どちらにせよ搭載艇置き場として欠かせないものなんで」


それからは改造するチームと捜索するチームに分かれ、それぞれの作業計画にとりかかる。

もうすぐ五隻目が見つかりそうだ……


「フロンティア! ついに見つけた……と、思われる!」


「何だって? トリスタン、はっきり報告しろ!」


「いや、それがな……予想とは全く別の地点なんだよ、五隻目が見つかったのは」


トリスタンが指差すメインビューワの画像。

そこは予定していた星系の太陽に一番近いポイント……

ではなく、その星系における太陽の巨大な重力圏内でも最も遠いと思われる一光年近くは離れていると思われるポイントにある物体。


「小惑星、とかではなく、これを宇宙船と断定する証拠は?」


フロンティアの問いかけに、


「搭載艇の質量探査装置による結果だ。それによると小惑星や衛星サイズとはかけ離れた質量を持つ物体だと。そんなものはコアとなる金属部分がないと不自然ですよね。となると、これはもう巨大宇宙船が……ただし、問題が一つあって」


「ん? 問題って?」


「小惑星とすると大きすぎる質量。でも銀河団探査船だとすると小さすぎる。これを、どう見れば良いのかな、と」


ここでフィーアが、


「あのさ、遠い距離にあるってのは、それ、特別に作られた大型搭載艇じゃないかな? もしくは搭載艇母艦のようなもの? 探査船自体に危害が及ぶようなことが万が一にも起きないように外敵を早期に見つけるためのものじゃないかな?」


「でかした、フィーア! それで間違いなしだな。ということは、こいつの主人たる五隻目の銀河団探査船は、この星系の太陽のすぐ近くにいるはずだ。しかし我々の走査の目すら、こうまで掻い潜るとは……よほど高性能なのか、それとも、ステルス性能だけに特化した探査船かもしれないな」


こうして、ようやく探すポイントが見つかり……


「やれやれ、探すポイントが見つかったとはいえ実際に見つけるのが、それから一ヶ月もかかるとはな。慎重に慎重を重ねて、それでも納得しないとは恐れ入るほどの念の入れようで」


「それでも見つかったんだから、さっそく起こしに行こうよ。現状では船団を組んでも全く問題はないって検証もされてるし。どうするの? 4人で行く? それとも代表者としてフロンティアだけ?」


フロンティアは、しばらく考えて、


「みんなで行きますか。久しぶりの仲間ですし話合いと説得もありますから。しかしねぇ、あそこにいると分かっていてもメインビューワに映るのは時々太陽から巨大な炎の帯が伸びてきてる映像くらい……ステルス性能だけなら私より高性能だな、この船……」


さっそくフロンティア、ガレリア、トリスタン、フィーアが揃って大型搭載艇に乗り、目的の銀河団探査船の近くへ。

とは言うものの防御フィールドが展開されているため、これ以上は近づけない。


「おかしいですね? 同じ探査船同士、我々が近づけば相手にも分かるはずなんですが?」


「トリスタン、焦っても仕方ない。それほど深い眠りに入っているのか、それとも、もうとっくに我々を検知していて、あえて無視しているのか。この状態だと本体の機能としては動いてるようですが……マスターがいなくて本体の機能が動いているというのも不思議なんですが……」


「フロンティア、とりあえず通信回線で呼びかけてみる?」


「いい案ですね、やってみますか、フィーア」


フィーアが搭載艇の通信機能を使い、探査船の通常通信チャンネルを使って呼びかけてみる。

果たして……


「ようやく我を見つけてくれたか。面白い顔ぶれのようだが……主人は、それぞれにいるのか?」


「いや、5隻目の銀河団探査船よ、我々の主人、マスターは一人だ。それも、タンパク質生命体、人類だ」


「珍しいというか何というか……シリコン生命体の主人を持っていたはずだが何らかの事情で主人を失った船団か……とは言え我も同様。少し待ってくれ、久々にフィールドエンジンを起動して、この軌道を離れる。先遣隊として残した大型搭載艇母艦のところで落ち合おう」


「了解した。ところで、あなたの船名は?」


「ふふふ、それも後の話だ。君らもシリコン生命体に貰った船名とは違う名前になっているんだろ? タンパク質生命体には発音できない船名が多いからな」


「そこまで理解しているのなら、これ以上は落ち合ってからにしましょうか」


「ではな。待っててくれ……数百万年ぶりにメインエンジンを起動するんで少し時間がかかりそうだ……ああ、故障とかじゃないので安心するように」


その後、数時間かかって五隻目の探査船はガルガンチュア一行と落ち合う。


「待たせてしまったかな。久々にフィールドエンジンや跳躍航法を使ったのでな、出力を上げすぎないように苦労したわい」


五隻目の銀河団探査船とガルガンチュアの邂逅シーン。

しかし、それにしては……


「お初にお目にかかります、我々にとっては五隻目の銀河団探査船となりますね。ちなみに私の名はフロンティア、こちらからガレリア、トリスタン、フィーアと言います。船名も同じなので我々は宇宙船頭脳体として本体と同じという意識が有ります」


「そうか、今の君らの主人は船も頭脳体も同じ、そして君らを生命体として認識しておるということか」


「そうですね、そして統一体としてガルガンチュアという名前を貰っています。そこで、話はですね」


「皆まで言うな、分かっとる。我にも参加してくれということだろう……基本的に反対意見はない、しかしだな、こちらに一つ問題があるのだ」


ん? 

フロンティアたちは疑問に思う。

今の自分の状況も、そしてガルガンチュアとして参加するにも否やはない。

しかし問題があるという……


「その問題とは?」


「実は我は銀河団探査船シリーズの一号艦じゃ。よって君ら後に造られた宇宙船たちとは決定的に違う点が多々ある」


「ほぅ、我々の先駆者のような一号艦ですか。ちなみに二号が造られたのは、それからどのくらい経ってからですか?」


「そうだな……我が実験的に銀河団を渡り、そして、そのデータを持ち帰ってから検討を重ね、実験と修正と改良・改造された君らのメインエンジンと跳躍航法装置、そして多元宇宙からの、我より安全なエネルギー収集方法を取り入れたエネルギー炉が搭載された本当の意味での銀河団探査船が造られて任務に就いたのは我が出来てから二百万年ほどかかったかな……」


探査船第一号が出来て、次々とシリーズ的に後の九隻が造られたのではなく一号船がテストベッドとなって改良や改造を施されていった。

これは他の船には何も知らされていなかったため、ある意味、衝撃的な驚きがあった。


「では我々の先駆者でも有り、父と呼ぶべき船でもありますね。光栄です、そんな方に仲間となっていただけるとは」


「話、聞いとったか? 我は古すぎて後に造られた船たちとは一緒に行動できんと言っとるんじゃが?」


それを聞いてフィーアが。


「それは大丈夫です、父上。仮にですが父上と呼ばせていただきます。装備や規格はアップデートできますし、エンジンもエネルギー炉も跳躍航法装置も改造可能です。それに加えて超銀河団を渡る際に使用する新型の超空間航法装置も設置する必要が有りますので、どのみち徹底的な改修は必要となります」


「ほう、それは頼もしい。さすがに銀河団探査船が四隻も集合すると何でもできるのか」


そう言われて少しは誇らしいガルガンチュアの面々。


「ええ、その近代化改修は、おまかせください。で、肝心なことなんですが、そちらの主砲は? どういうものなんでしょうか?」


「ああ、そのことか。我に主砲は積んでおらんよ。銀河団空間を渡る実験船だったのでな、主砲など必要ないと判断されたのだ」


主砲は積んでいないが副砲としての攻撃兵器は通常の倍以上、搭載しているとのこと。

搭載艇にしても、超空間を跳べるものはないがフロンティアと同様な性能を有するとのことだった。


「では搭載艇の改修も必要ですね。我々の搭載艇は全て跳躍航法装置を積んでいますので」


「おや? そこまで搭載艇の行動範囲を広げているのか。まあ、銀河団どころか超銀河団を渡る船団など、そのくらいの性能は必須であるか」


「ということで、我らのマスターが戻ってくるまで、あなたの改修作業を進めるとしましょう。ところで搭載艇は、どのくらいの数を持ってます? ……ああ、そのくらいなら倍以上になっても収納可能ですね。今現在、私、フロンティア以外は本体に搭載艇を積んでいませんが収納専用の装備を用意しますので、そちらの搭載艇も収納装備に移してください。空いたスペースに標準装備としての救助機材や資材を収納する必要が有りますので」


「ふーむ……ガルガンチュアというのは変わっとるの。救助機材と資材が真っ先に必要とされるのか……」


「ええ、今のガルガンチュアは、戦闘は必要最小限で救助やトラブルシューティングを基本としていますので。仕事は多いですよ、ちなみに」


「変わっとるの、本当に。シリコン生命体も、こんな風に銀河団探査船シリーズを運用したことなどなかったろうに」


「はい、それでも今の任務のほうが、やりがいは大きいですよ」


そう説明するフロンティアをはじめとすガルガンチュアメンバーの顔には心からの笑顔が広がっている。

五隻目であり一番の古株である自分にも、こんな笑顔ができる日が来るだろうか……

そう思う銀河団探査一号船だった。


場面は変わって楠見達の運送会社。

ガルガンチュア教団のお墨付き及び優先業者となってから、あっという間に中小の運輸会社を吸収合併し、今では、ちょっとした星系軍並みの艦船を保有する超巨大運輸関連会社となっていた。

保有する宇宙船は大型の貨客船が十隻。

中型宇宙船は数百隻になり、これが今は一番の稼ぎ頭。

これはガルガンチュア教団の人員異動が一段落したことで、大型を使うまでもない開拓星への移民団や教団の資材運送が主となっているから。

ちなみに小型宇宙船は全数が救助・医療船に改装され、緊急時の快速が必要とされる辺境・開拓星での急病患者対応専用として数秒単位で教団や星系首都から救急コールがかかっている。


「はぁ……疲労は蓄積してるが、すごい設備だよなぁ、この船。俺、去年まで首都星系の緊急医療隊にいたんだけど、ここの装備が羨ましくてねぇ……あっちだと、やたらめったらと医療薬品を積載して、それが患者に効くかどうかは運任せ! だったんだよ。ここの医療船は凄いよなぁ、それに比べて。持ってく医療ケースは一つだけ! それが未知の病原菌だろうが何だろうが効かない病人は無いという……万能薬と言うらしいが俺達は奇跡の薬と呼んでたんだぜ。それが今じゃ仕事で普通に扱えるという……報酬の面もそうだが、この会社、従業員にとっちゃ天国に近いだろうが」


「ああ、お前、首都星系の医療隊出身か。分かるぞー、その気持ち。俺は辺境出身でな、子供の頃に得体のしれない疫病に罹って明日をもしれない病状だったんだが。この会社の医療船が回って来てくれて、あっと言う間に回復してなぁ……それから、この医療船に乗りたくてガルガンチュア教団の辺境学校で猛勉強したさ。あそこの教団は親切でねー、数年で医療従事者の免許と小型快速艇のパイロット免許取得して真っ先に就職先に選んだのが、ここさ。緊急出動が日常なんで確かに重労働だが、完全交替勤務だし休みもタップリあるし、給与は首都星系救急隊よりも貰えるし、確かに天国だぞ、ここ」


ここの医療専用宇宙船や緊急災害対応宇宙船の乗員は、あまりに過酷な任務ゆえ、最前線で活動できるのは、およそ十五年。

それからは本部や現場中継基地などの裏方要員として活躍することとなり、それはそれで現場のバックアップやフォローで助かっている。

ちなみに、バックアップ要員だとしても現場経験者ということで、このまま首都星系の緊急医療現場のバックアップ要員へヘッドハンティングされる者たちも少数、いたりする(報酬や待遇の面ではない、そっち方面なら、この会社に残ったほうが良い。緊急医療隊の人員が少なすぎるという現場の苦労を知りすぎているからこそ、俺がやらねば誰がやる! という義憤と情熱に燃える漢たちが首都星系へ転職していく)

ちなみに、お隣の銀河(ガルガンチュア教団の本家本元)と同じように、なぜ万能薬を通常の薬局で販売しないのか? 

これは、隣接銀河と違い、まだまだ、こちらの銀河が未開拓地が多すぎる事情による。

これは、ガルガンチュア教団の前に、お隣さん銀河には、まがりなりにも「銀河連邦軍」なるものが存在していて、辺境へも、その力の一部を注いでいたから未開星系開拓も比較的安全に行えたのと(まあ、ガルガンチュアクルーと比較するのも間違っているが)強力なエスパー集団が存在していたというのが差として大きい。

こちらの銀河が移民やら開拓団やらを比較的安全に行えるようになったのは、わずか数十年前に過ぎないため、銀河辺境や辺境付近の星系などに薬局を開こうなんて物好きな奴は、まだ少数しかいない。

よって、未だに薬局での万能薬販売自由化は行われていない(まあ、銀河全体の安全が高まり、辺境の人口が増えていけば、そのうち教団から万能薬自由化のお触れが出るだろうが)


「おーい、ライム総務部長! 今週の予定便で、まだ手つかずの奴は……ああ、こいつか。この周辺宙域、まるっと俺が配達してくるんで、少しは従業員を休ませてやってくれ。仕事が多くて、やりがいはあるんだろうがなぁ、あいつら働きすぎだ。少しは有給休暇を消化しろと総務の方からも突っついてやってくれないか」


「はい、社長、了解です……が、先頭きって働き詰めなのは社長でしょうが! 経営陣に残業制限は無いというものの、いつから休んでないんです? ちょっと失礼、社長の勤務日誌を……はい?! 半年間、ずっと休み無しで宇宙暮らし?! 駄目ですよ! この一大ルート配送終わったら強制休暇10日間です! あまりに上が休まないんで下も休めないんですから!」


「……ははは、やっちまったかな? 確かに上が休まなきゃ駄目だよな。よし分かった! この巨大ルート配送、早々に終わらせて休暇に入るとするわ!」


「お願いしますよ、社長。まあ体調崩すとかは考えないでも良いのは、こちらとしても助かりますが……では、お早いお帰りを」


「おう! 行ってくるぜー、ではな、以上だ」


はぁ……

ライム総務部長は、いつものことながら、楠見社長の異常な程の行動力に呆れ果てる。


「まあ、あれだけやってもお遊び感覚だからこそ銀河や銀河団、超銀河団なんて単位で宇宙のトラブルバスター、やってられるんだろうけどねぇ……さすがのアタシも目の前で、あのバイタリティを見せつけられると、あまりの差に……従業員が引っ張られるのも理解はできるんですがねぇ……」


従業員の心身の健康管理を担当する部署のトップとしては、あまりにバリバリと働きすぎる会社トップというのも問題だと痛切に感じるのだった……


楠見や郷たちの活躍(陰の陰謀というか?)により、この銀河においてトラブルの原因となっていた「人類種族優遇」方針は、ようやく訂正されることとなる。


「いや、申し訳なかった……シモン枢機卿にも言われましたが我々の銀河にはガルガンチュア本体が来ていなかったので、あの者たちも事態を甘く見ていたところがあるのでしょうね。これを放置していたら、どこか辺境部の一星系から人類種族の帝国を作れという勢力が出てきても不思議じゃなかった状況だったのは今更ながら私も冷や汗が止まりませんでしたよ、まったく」


この銀河の「ガルガンチュア教団教皇代理」は、その名を誇るでもない低姿勢で、シモンと郷、エッタに平謝り。

実は教団の高い地位にある一部の者たちが結託して、辺境部の過疎星系で種族の選別実験を行っていたことが発覚したからだ。

幸い特定種族の絶滅などという行き過ぎた行動には至っておらず事なきを得たが教団としては放っておける事態ではないことが判明。

シモンと郷から、あのパーティでのテレパシー心理チェックに引っかかった者たちを、それでもやんわりと質問しながら心理誘導したところ特定の星区に属する上級司祭や、その星区を統括するべき枢機卿の一人までが関わるという大事になっていたため、あわてて教皇代理の名において教団内部の警備隊の一個大隊と、それにも増して重要な監察官を中央星区から丸ごと一部門、派遣することに。

そこまでやって早急に事態を解決できたのだが、その後が問題となる。

彼らの背後にある「人種差別」意識だ。

彼らそのものには、そこまで強い差別の意識はなかったようで、どちらかというと「人類種の優遇」くらいだったようだが教団の教えに明確に反する。


「お前たちは教団の教えを何と考えているんだ?! ガルガンチュアは様々な人種や生命体が全て生命という意味において等しいと宣言されているのだぞ?! それを特定種のみ優遇? その他は優遇しないのだから平等? よく、その口が動いたな! バカモノたちが! 教団での地位は剥奪! 見習いから、やり直すがよい!」


教皇代理という、この銀河での最高権力者に一喝されて、この一件は片付いたのだが……

シモン枢機卿が、こういうのは、つくづく根が深いと……


「いや、我々の銀河でも時折出てくるんですよ、こういう奴ら。その度に組織を潰したり、なだめすかしたり、あまりに過激なのは特定個人の逮捕と組織解体・個人の洗脳解除までやる羽目になるんですが。これ、人間というやつの宿命なんでしょうかねぇ……こういう人類絶対主義に近いような考え方するの、人類種だけなんですよ。人類種と一言で言いましたが、もちろん、その中には天使族やら獣人族もいるんですけど……見た目で判断しちゃう軽い奴らが多いというか何というか……」


愚痴が止まらない。

郷が苦笑しながらも、


「その人類種から、ガルガンチュア教団の屋台骨というか信仰の中心となるクスミさんも出てるんだがな。ちなみに俺も人類種だ。どうも人類種は始祖種族の血を受け継いでるだけあって進化の可能性が高くなるのは避けられないようで。だけど、その進化が間違った方向へ行くと、こういった厄介な奴らが出てくるんだろうなぁ……」


慌ててシモンが弁明する。


「いやいや、郷さんや神の代理人クスミ様が悪いと言ってるわけじゃないですってば! まあでも、そうか……進化の可能性が高くなる分、間違った方向へ進化する個体も多くなるという……これはロックフォールに報告する際に重要事項として記載させていただきますね。しかし、そうなると教団のとる方針として……」


「他の種族と人類種族の精神方面の研鑽方法を変えたほうが良いかも知れないな。人類種だけ、もっと高度な研鑽方法を選択できるようにしたほうが良いのかも知れない……今までの精神修行が生ぬるいと感じる、ごく一部の者たちに関して教育機械のプログラムを再調整するくらいの手は打ったほうが良いかもよ? もしかしたら、彼らは教団の反逆者ではなく進化し始めた者たちかも知れないんだから……」


シモンは、その郷の言葉から何か得るものがあったようで。


「ありがとうございます、郷さん! これは、この銀河だけじゃなくて我々の銀河にも通用するかも知れません! 至急連絡便を飛ばしてロックフォールや教皇様自身にもお伝えする予定です。では資料と報告書作りに入らせていただきますので、これにて!」


さっと、その場から消えるシモン。

あまりの素早さに、いなくなったことに気づかない人間も周囲にはいた。


「ともかく、この事件で改めてガルガンチュアクルーの優秀さと力の底知れなさを思い知った……教皇代理なんて肩書捨てて、この私も教育機械で学び直さねばならぬようだ。シモン枢機卿も報告が済んだら改めて話し合いたいことも多々あるでしょう。教団の方針変更にも関わりますので、まだガルガンチュアには戻らないでくださいよ、ゴウ枢機卿、聖女エッタ……くれぐれも、お願いしますね!」


念を押されてしまう郷とエッタ。

苦笑はしているが一応のトラブル解決にホッとしているようだった。


それにしても、なぜ、急にトラブルの原因が解明され、急激に解決に至ったのか? 

これについては教皇代理が、いみじくも……


「彼ら人類種優越主義者たちが今まで教団のチェックを掻い潜れたのは物資や人員の輸送が滞ってたからなんです。数年前までは、それこそ中央部にいるものが辺境へ視察に行こうとするだけでも、あっちの業者とこちらの業者、最低でも4つの路線と業者へ予約を入れなきゃなりませんでした。これでは彼らのような教団の反逆集団へ予め視察へ行くよと触れ回っているようなものですからね。向こうでも対策をとったり資料を改竄する時間をとれるわけです」


「ほうほう……それが数年前から流通がスムースに流れるようになり、物資も人員も、すぐに目的地へ送れるようになったと……」


郷が意外なことを聞いたと返す。


「ええ、それで、とある監察官が急に辺境星区へ抜き打ち監査を行った時に資料やデータの改竄と詳細は分からなかったようですが何かの陰謀が動いているとの確証を得たとのこと。後は楽でしたし、早かったですよ……それにしても今まで教団の力を持ってしても資材や人材の流通そのものの根本的な渋滞は解消できなかったので諦めていたのですが……さすがはガルガンチュアの御力ですね。教団のトラブルの本質的なものは運送方面だと、どうやって気づかれたんでしょうか?」


郷は、さすがに苦笑しながらも、


「いや、それはさすがに偶然ではないかと思うのですが……まあ、クスミさんの超常能力が未来予知にまで広がったという話は聞いてないですから。あ、でも本能的に物や人の滞りは感じてたんじゃないかなぁ、あの人。個人的に今回のトラブルシューティングに運輸なんて関係ないだろと思ってたんですがねぇ……俺の予想のほうが間違ってたのは素直に認めるとして、ここまでトラブルを根本的に解決できるという師匠の力は……もう人間離れしてるんじゃないか?」


ちなみに楠見の輸送会社は、もう後進に譲ってしまっている。

優秀すぎる社長と副社長、そして経理部長が揃って抜けた超巨大運輸会社は、それでも新社長と新経理部長を教団が後押しするような形で、さらに業務を拡大しようとしている。

今後は銀河中央部よりも辺境を重視する形で定期輸送便も倍増するとのこと。

社長業を辞めて現在はガルガンチュアに戻っている楠見は、


「物や人の輸送が糞詰り起こしてるときには一刻も早く渋滞してる原因を解消しなきゃいけない。俺は太陽系でも同じような交通トラブルを受け持ってたことがあってね。天災や季節によって地上の交通が止まってしまうようなトラブルを、あっちこっちで解消してまわってたよ。あっちで雪かき、こっちで融雪剤撒き、こっちじゃ地震でダメージ受けた道路網の現状把握と迂回路作成……寝る暇もないほどだったか。結局、トラブルは数時間かからずに全て解決したけどね」


一惑星の交通トラブルと銀河規模の交通トラブルを一緒にするなと誰かさんなら言いたくなるのだが……

一緒にしちゃって解決までやっちゃう楠見がおかしいのである(笑)


この銀河も、とりあえず平和である。

宇宙は、なべて平和に……

なるわけないものを、それでも目の前だけでも平和と安全を与えようと宇宙を跳ぶ宇宙船と存在がある……