第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第六十九話 銀河の巫女姫マリー、再び!
稲葉小僧
私は銀河の巫女姫マリー。
予言の巫女姫なんて呼ばれたりもする。
まあ、それもこれも超絶レベルという未来予知能力のおかげ。
最初の頃は数十年先まで行くと、ぼーんやりと風景が薄れてしまって予知してるのか、それとも幻影を見てるのか自分でも分からない状況だったのよ。
それを、前提をひっくり返す勢いで今みたいなレベルに引き上げてくれたのが……
あなたも知ってるんじゃない?
あの伝説の宇宙船、ガルガンチュアのクルーたち……
いいえ、正確に言うとガルガンチュアの統合マスター、超能力者というのも恐れ多い、超絶能力者の楠見さん。
楠見さんには今でも感謝してるわよ、当然。
あの「殺意が満々の訓練」とか銀河規模の広さを体験とか言いながら、ものすごいプランを設定して、それをいとも簡単に実行するバイタリティとエネルギーは私には永久に得られないものだから。
え?
好きだったんじゃないかって?
まあ、そう思ってた時もありましたよ、ええ。
でもねぇ、楠見さんの方は、どう思ってたのかしらねぇ……
今から思うと私と二人きりって時間は殆どなかったと思うわ。
何と言えば良いのかしらねぇ……
「愛」なんでしょうけど、ただの「愛」ではないという、複雑というか、我々人類の基準で計っちゃいけないくらいの大きさというか……
私個人での楠見さんの感想?
うーん……
何というのかしら、もう師匠と弟子?
それとも、偉大な親に無条件に憧れる子供?
いや、違うわね。
神様という存在が目の前に現実に存在してると思ってね。
その力に憧れを抱いてる子供のような存在じゃないかな、私。
一つの惑星規模の親宇宙船と、それに月のような衛星のような大きさの宇宙船たちが三つ。
それを自分の道具、計測器や工具のように、いとも簡単に気軽に扱うって精神もそうだけど、普通の「超能力者、エスパー」なんて括りじゃ例えられないほどの力を持つ人。
一度、プライベートだけど楠見さんと話すことがあってね。
その時に、なぜ、こんな超巨大宇宙船団に乗って、こんなトラブルシューティングの旅をして回ってるのか?
って質問したことあるのよ。
彼、ちょっと困った顔してね。
それでも苦笑気味に答えてくれたのよ。
「生命体にとって、あまりに過酷な宇宙というものを、できるだけ快適に、それこそ未来には自由に、どんな星にも隣の家に行くような感じで行けるようになってほしいと願うからかな? 俺にとって、これが普通の生活だから今では問題とも思わずにトラブルシューティングやっちまうけど。ああ、昔は厄介なトラブルも沢山あったよ、だけど今ではねぇ……もう俺自身がトラブル解決の計画に参加できなくなりつつあるんだ。フロンティアたちに言わせると、あまりに俺自身の力が強くなりすぎてトラブルは解決しても星系そのものが破壊されかねない、って……あんまりだと思わないか? マリーさん」
私、個人的にはフロンティアさんたちと同意見なんだけどね。
ともかく楠見さんは日常のトラブルや事件と関わらせちゃいけない人物?存在?のような気がするわ。
神様ってのは崇拝されるだけの存在なのが一番。
現実に神様という存在を関わらせたが最後、絶対にトラブルも事件も見事に解決するでしょうけど……
それで良いのかしらね?
私も、この数千年ばかし、この巫女姫宮殿で予知能力を少しばかり使って、この星、この銀河を導いてきたわ。
だけど、それで良かったのかしらね?
ええ確かに、あなたの言う通り、この数千年、ちょっとした内乱があるくらいで大きな戦争や侵略なども未然に防いできたって自負はありますよ。
でも……
今って、昔もそうだけど、この銀河全てが私一人の力に頼ってない?
それって、かなり歪よね。
人の自由意志も何もありはしない、ただただ安らかな日常を続けたいので私の予知能力に頼り切りになってる感じがしない?
私自身、かなり疲れてるのよ、ああ、精神的な疲れですから、ご心配なく。
この頃、この閉塞状況から誰か連れ出してくれないかなぁ……
なんて、そんな妄想も出てくるわけよ。
以上、久方ぶりの予言の巫女姫マリー様のインタビューでした。
MCの立場から言わせていただくと神様って可哀想だなと思ってしまいます。
一人の人間に、こんな非常識な力を与えておいて、他には誰もいない……
私は個人的にはマリー様に幸せになっていただきたいと思っています。
誰か他に予知能力者はいないのでしょうか?
マリー様のような一千万年とかの特別な未来予知ではなく、それこそ数百年も予知できれば今の銀河宇宙は満足なのですが……
では、今日はこのへんで。
月刊雑誌「巫女姫自身」の提供でお送りしました、この番組。
来週の「巫女姫日記」を、お楽しみに……
壁一面に子供向けアニメーション番組が映っている。
「さあ、変身よ! クルクル来る来る未来が来る来るクルクル来る来る予言が来る来る! 予言の姫、降臨!」
あー、これ?
これ、私が監修してるアニメ番組ね。
宇宙を救う5人組のスペース救助隊の話。
一応、このセリフ言ってる女子が主役……
と言うか救助隊のリーダー。
メディア会社の方から企画をもらって私に予知能力者としてのESP監修してほしいって言われて。
面白そうなんで監修ってのをやってみることにしたのよ。
ストーリー上、超常能力の解説もやることになってね、ナレーションだけで顔は出ないって約束で初期の頃から番組には、
「名も無きナレーター」
って名前?で登場してるわ。
で、ねぇ。
問題は、この番組が女の子から受けるだけじゃなく男の子や、大人の人たちからも大人気になっちゃったってことなの。
大人気すぎて今はシーズン20超えて、もうすぐ21が始まるの。
「名も無きナレーター」以外、もう声優さんは全て入れ替わってるんだけど……
私も、いい加減、代わりたいの。
顔が出てないのが救いなんだけど、私の周りで、どうも私が、この番組のナレーターじゃないかって噂が立っちゃってねぇ……
今は必死で、その噂を否定してるところよ。
あなたも、これは他の人には話さないでね、絶対よ。
この番組に登場するエスパー、つまり超常能力者の大半は世間でもおなじみのテレパス、サイコキネシスとして知られる能力者なんで社会的にも受け入れられているわ。
でも、問題なのが「未来予知」の力。
これ、今のところ私だけなのよ、この力持ってるのが。
それが厄介なところなんだけど。
メディアから、このお話が来たときに、予知能力の説明をどうするのか?
って話が出たの。
私は、こう言ったの、
「予知能力は、それこそ銀河レベルの絶対危機が近づいてきた時に神様に近い存在……私は「宇宙の管理者」と教えられましたが……から特定の人間に与えられる力だと思います。私は恐らく特別な予知能力持ちなんでしょうね、数百万年どころか一千万年超える未来を予知できるんですから。だけど、そんな銀河の危機なんてものは普通に生きていて経験できるものじゃありません。したがって、この力が私以外に、今後、全く現れなくても普通だと思います」
って。
それ聞いて番組のプロデューサーが不安になったんじゃないかな?
「それでは、この予知能力だけは他の誰にも、もしかしたら数百万年ぐらい経たなきゃ予知能力者が出てこないってことになりますよね。それは子どもたちにとってマイナスなんじゃないかなー。だって、他のテレパシーやサイコキネシスは世の中に溢れてるくらいいるんですよ、まあ、力の強弱の違いはありますけど。それでも予知能力以外は説明できますが、予知能力そのものは巫女姫様以外は使えないので説明しようがないですよね」
って言われて。
それじゃ番組関係者が可哀想だってことで、顔の出ないナレーターとして様々な超常能力の解説とストーリーの流れを説明するって話になってしまったの。
それから、番組の声撮りや音撮りとは別に私だけのナレーション撮りの時間を作ってもらってるの。
まあ、声は加工してるんで特定は無理になってるんだけど。
あー……
私の他に誰か予知能力授かった人はいないのかしら?
この平和な銀河なら私のように一千万年クラスの予知じゃなくても、それこそ千年未満で十分でしょう。
そうなったら私の巫女生活も終わりになるんだけどなぁ……
今回の巫女姫インタビューはオフレコになりました。
あまりに巫女姫様のプライバシーに深く入り込みましたので、これはインタビュアーのみの話とさせていただきます。
でも、個人的には、こうも思うんですよ。
巫女姫様、いつか自由に、どこへでも行けるようになってほしいなと……
今週の巫女姫様の時間でした。
今回の対談は、あまりに巫女姫様の個人的話題になったからということで、残念ながら半分以上、オフレコとなってしまったようですが個人的には、このプロデューサーは良い仕事をしたなと思ってます。
今日の平和も巫女姫様が未来予知で平和な宇宙にしていただいてるからとは理解していますが、個人に全銀河の運命を背負わせるって……
メディアキャスターの立場ですが、私は個人的に巫女姫様を誰かが、この星から連れ去ってくれないかと思ってます。
神様、神の使いガルガンチュアよ、巫女姫様に個人的な幸せを……
「えーい、厄介な! フロンティア、これは予測できなかったのか?」
俺達ガルガンチュアクルー、現在、絶賛戦闘中。
トラブルの気配を感じ、とある銀河へ立ち寄り、その中の一つの星系へ。
で、生命体が一番多いと思われる星へ転送(フロンティアが危害予防のため半数で行動すべきと提案。反対理由もないため、とりあえず俺、郷、エッタ、ライムに護衛としてプロフェッサーが付く)されたんだが……
「マスター、これはミュータントですね。突然変異種が大半なので、これは予測の範囲外となります」
通信機から非情な回答……
ああ、そーかいそーかい。
ふぅ……
おっと!
状況を説明しなきゃいけない。
今現在、俺達は俺のサイキックフィールドにて守られてはいる。
ただし、数に押し切られて今の所、打つ手なし(いやいや、最終手段はあるんだよ。大地を割って敵を地下へ落としちゃうとか。やらないけどね、あまりに他への影響が酷すぎるんで)
俺達5人なら何とでもなるんだが、あいにく、この小さな町の住人全て(約800人ばかし)も保護してるんで動きようがないというのが正しいかな。
「プロフェッサー! 町長へ、この事態の最初からの説明を聞いたんだろ? どうなってるんだ?」
「わが主、それがですねぇ……」
プロフェッサーの語る、この怪獣映画かホラー映画のような状況の一部始終は……
まず、町の外れに一人の薄汚れた男が引っ越してきた。
その男は大きな星間帝国の主任研究者だったらしい。
帝国研究所で、ちょっとしたミスで事故を起こしてしまい研究所を退所することとなったらしいのだが、男は理由を言いたくないらしい。
少しだが危険を伴うとのことで、男は町の外れから少し離れたところに小さな研究所兼住居を構えることとなる。
数年間は男も周りに愛想を振りまき、近所付きあいもよかったとのこと。
事態が急変したのは今から一年前。
小さな研究所から町へ贈り物があるとの話で、町長たちが男と会うと、
「これが私の遺伝子改造技術の成果です。こいつは、自然のエネルギーを取り込んで増殖します。無限には大きくならないようにしていますが、それよりも、こいつの肉は食えるんです。生きている今の状態から肉を切り取って……生でも食えますが煮ても焼いても結構ですよ、血も出ませんので、そのまま放っておけば元通りになります。こいつがあれば働かずとも食料には困りません」
町長たちは喜んだ。
数週間後、力仕事は真っ先に放り出され、次に第一次産業。
他の産業も衰退していくのは目に見えていた……
町長たちは焦ったが贈り物の生命体を破壊(殺す?)ことは全住民が反対した。
当たり前だが働かずとも食えるなら、そっちのほうが良い。
町は寂れた。
寂れるくらいなら、まだ良かった……
数ヶ月後、変異体の生命体は急速に大きくなっていく。
住民たちが、いくら肉を食べようと、それを凌ぐほどのスピードで大きくなっていく生命体。
住民たちを襲うようなことがなかったのが幸いだったが、それでも脅威となるには十分な巨大生命体になる。
「突然変異体なのです、あれは。遺伝子操作の研究段階でできたのですが食料も水も与えてないのに大きくなって、ある程度になったら分裂します……と言うか分裂するはずだったんですよ。現に市民の皆さんが肉として食べてたときには普通に分裂してたし、あそこまで成長速度も速くなかったでしょ?」
男、実は元・帝国の研究所副所長だったとのこと。
どうして、そんな地位にある人が、こんなドの付く辺境に?
と、市長たちが聞けば……
「あの突然変異体に遺伝子異常の兆しがあるので抹消するって書類が回ってきたんです。私は何としてでも、あいつを生かしてやりたかった……帝国の食料不足を根本的に解決するなら、この生物しか無いと思えたからなんですが……」
結局、帝国上層部が考えていたことが大当たりしてしまい、こんな怪物騒ぎになってしまったわけだ。
弱点は?
と聞いたら、
「そんなもの、あるわけないでしょうが! それでなくても、何もしなくても勝手に増えていく生命体なんです。水も食料も何もない状況で増殖するやつに弱点なんてあると思うんですか?」
男が叫ぶ……
摂取するものがないのに増殖するというのが理解できないので、弱点がないと思いこんでるようなんだが……
「いや、それは早計な結論かと。まずは、高温や低温でどうなるかということも分からないんだから、やってみるべきかと思うんだが……」
俺が言うと、それはそうですねと皆が賛成。
「とりあえずは、低温下でどうなるかというテストだな。プロフェッサー、ステルス状況にある超小型搭載艇群に命令、絶対零度砲で、あの怪物の触手らしきものを攻撃しろ」
「了解しました、我が主」
プロフェッサーの命令で、俺の護衛隊として惑星についてきた搭載艇群に攻撃命令が出る。
「超低温は有効ですね。触手が本体へ収納されるように縮んでいきます。ただし……本体には、あまり効いて無いようですが」
「それじゃ、次は……熱線か。ブラスターとレーザーを今度は本体へ撃ち込んでみてくれ」
見えない搭載艇群は武器を切り替えて、ブラスターとレーザーの熱線へと。
「少しで止めます。あの生命体は予想通り、熱エネルギーを吸収して増殖するようです。レーザーもブラスターも熱を吸収するだけで本体を増強するだけと思われます」
「ご苦労さん、プロフェッサー。予想通りか……絶対零度砲が有効とはいえ、あの大きさだと、かなり集中的に砲撃しないとダメだろうな……ふむ、どうしようか」
と、苦労はしたが最終的にはガルガンチュアから予備の超小型搭載艇を呼び寄せて、その数で圧倒することに成功。
「わが主、殲滅するなとのことで、サンプルくらいは残してますが……本当に良いのですか?」
プロフェッサーは、こいつに懐疑的な視線を送るが……
「こいつは、ガルガンチュアで保管して研究対象とする。こいつをコントロールできれば面白いものに化けるかも知れないぞ」
「知りませんよ、バイオハザード起こしても。まあ、それでも我が主なら何とかしてしまうんでしょうが……」
とりあえず、この星を去る前に、あんな危険な事態になることのないよう、いつものプレゼントを渡していく。
食料不足や資源・エネルギー不足は、このテクノロジーがあれば大丈夫だと思われる。
「マスター、突然変異体など予測の範囲外です。危険な事態になる前に連絡ください」
「いや、フロンティアの意見も分かるがな……俺としては、もう一つ進んだ防御状況にしたい。具体的には予知能力?」
「え? 予知能力者って俺の前に師匠が育てたっていうマリーさんって人くらいしかいないんじゃなかったですか?」
郷が発言する。
「そうなんだよなぁ……かなり珍しい超常能力なんで今から探しても見つかるかどうか……かと言って今から、あの銀河へ戻るのも手間がかかりすぎるような……」
その会話中、俺は自分の体ごと何処かに転移させられた……
ここから、楠見視点です。
おや?
どこかへ転送?
いや、これは通常の転送とかじゃない……
どちらかと言うと管理者たちの使う「転移」のほうか。
やれやれ、今回、いったいどこへ転移させられたのやら……
えーっと……
少し思い出してきたぞ、この星。
郷たちと話してたときに出た、あの星だ。
おそらく、この星にいるはずだ、マリーさん。
ふっ、管理者も、たまには粋なことするもんだ。
ここから、巫女姫マリーの視点となります。
ちなみに時間としては楠見が転移されてくる十年ほど前のこと。
今日、朝から何かソワソワ。
こんなの数千年ぶりかしらね。
あいも変わらず私は自分のことは予知しないので詳しいことは分からないんだけど……
それでも何か普通じゃないことが起きると、自分でも不思議だけど決定してるような気がするの。
それでもねー、この予知能力、この銀河で私しか持ってない力というのが厄介よね。
どうにかならないものかしら……
と、悩んでいたら……
「み、巫女姫様! 至急、お知らせせねばならぬ事態が発生しまして!」
え?
何が起きたの?
私の予知能力でも把握できない事態が発生したとか?
「い、いいえ! そうではありません。悪い事態ではないのです。悪いどころか僥倖ですよ!」
ん?
良いこと、よね。
至急連絡するほどの良いことって何?
「はい! 巫女姫様、および世界中、銀河中の方たちが待ちに待たれていた事が! 新しい巫女姫様候補が誕生したとのことです!」
はい?
いやー、新しい候補?
それって……
え?
もしかして、私の他に新しい予知能力者が生まれたということ?!
「そうです! 今現在、研究所で、その巫女姫候補である赤子の力を詳細に調べているのですが……その、力として巫女姫様並みとは言い難いようで……」
あー、私みたいに数千万年以上もの未来を予知できる力は無さそうってことなのね。
いやでも、それって好都合じゃないの。
なにせ、私の力は強すぎるの。
銀河一つくらいじゃ数千万年まで予知してもしょうがない場合が多いのよね。
せいぜい数千年までが限度じゃないかなぁ、この銀河程度だと。
しばらく待ってたら次の使者が登場。
その使者が言うには……
「新しい巫女姫様候補の力は巫女姫様の約一万分の一。どれだけ練度を上げても最大で二千年が良いところだとの結果でした」
おー、一番欲しいレベルじゃないの。
良かったわねー、超常的なレベルじゃなくて。
これなら普通に暮らして(は無理かな? 予知能力者そのものが超希少種だからね)ても予知が重すぎてしまうこともないだろうし……
さて、と。
これからの私の主な仕事は新しい後輩の訓練と教育、指導よね。
頑張らなくちゃ!
で、それから数年……
「お母様、お母様! 今日もテストのヤマが当たって百点とったわ!」
生まれてすぐに予知能力の発現が見られた赤ん坊の女の子。
元の親も納得づくで今は私の宮殿で私と一緒に暮らしてる。
想定外とは言わないけれど、この子は私のクローンで生まれた娘たちの孫に当たるらしい。
隔世遺伝というやつかな?
クローンの子たちには一切、予知能力が発現しなかったんだけど、孫の代になってようやく、あのクローン実験が成功したってことなのかしらね。
百点とったって言ってるけれど無意識に弱い予知能力を使っちゃってるんだろうなぁ……
まあ、責めることもできないのよね、これは。
だって、力の発現を止めろとは言えないし、将来のことを考えれば予知能力は絶対に伸ばすほうが有用だし。
はいはい、よくやりました。
次も頑張ろうね。
「はい! お勉強も、よちのうろくの訓練もがんばります!」
予知能力、ね。
まだ幼いから舌足らずなところはしかたないけれど頑張って覚えようね、予知能力。
貴女の将来に絶対に欠かせないものになるわ。
で、それからまた数年後……
「お母様! 見てくださいな。飛び級で進級できるって許可、出ましたよ!」
この子、思ったよりも優秀で。
教育課程も飛び級飛び級で、もう六年ほど課程をすっ飛ばしてる。
今回の飛び級で来年には最後の教育課程への挑戦が可能になるって。
予知能力無くても、この切れる頭脳で生きていけるかも(女性の企業経営者ってのもありかもね)
見た目は、まだ子供なんだけどね。
はい、よくやりましたね。
来年が大変よ。
いくら教育機械が優秀だからって、そればかりに頼ってしまうと自由な考え方ができなくなる恐れがあるって。
あなたに宿る予知能力のためにも想像力と豊かな知識、そして豊かな感情が必要になってくるの。
予知能力は一種のひらめき。
それを、どう解釈するのか?
そして、どうすれば正確に伝えるのか?
今のメディアは私の全盛期よりも進歩してるから伝えるのは問題ないと思うけどね。
「でも、お母様。私、あの全身ボディスーツ、何か好きになれません。四方八方から覗かれてるような気がして……」
ああ、それは、ある程度、仕方がないわね。
あれは表現者の少しの動きですら捉えるための微小カメラで出来てるんですから。
「えー。じゃあ、アレ着るってのは裸で観衆の前に出るようなもの……嫌だわ、アタシ」
私は仕方がないなぁと言いながら、頭をナデナデ。
我が娘(一応、養子として私の娘にしてる)嬉しそうに目を細める。
でもまあ、これで私が野に下っても大丈夫でしょうね。
って事を考えてたりすると……
久々の、お客様。
誰かしら?
ここから(ややこしくなってます、すいません)楠見視点となります。
さて、マリーさんを探さねば。
とりあえず、俺が憶えてるのは、あの懐かしき(でもないか)五番街の住居なんだが。
うーん……
マリーさんと別れてから数千年経ってるからなぁ。
こうなるか……
俺の目の前にあるのは超が付くほど豪華な博物館。
なになに……
ここは、あの銀河の巫女姫様が、その昔に住んでいた部屋のあったところ。
パワースポットとして有名になりすぎてしまい、住居として借りたいという人たちが殺到したため、国家が、この土地を買い上げて巫女姫に関する博物館となった……
ふーん……
マリーさんも別の意味で苦労してたんだなぁ……
あ、但し書きがあるぞ。
なお、巫女姫様は今は聖所と言われるようになった神殿で暮らしており、こちらには、ごくたまに昔を懐かしみに訪れることもある、と。
よし、それじゃ、目標は神殿か。
観光名所ではないにしろ有名なところだろうから、すぐに分かるだろ。
いやー、甘かった俺の予測。
自分が地球を離れる時には軽い気持ちで住むところも引き払ったんだが、マリーさんはそうじゃなかったのを忘れてた。
なにしろ、この銀河、それどころか、この宇宙に一人と言っても良いかもしれない程の超絶レベルの予知能力者。
そんじょそこらのアパートや建物に住んでるわけがないよね。
そこ(神殿)へ行く移動手段が様々にあるんだけど、どれもこれも近くに行けるようになってない。
遠くから眺めて拝んだり、パワーを貰えるように神殿の見える温泉に浸かるとか、酷いのになると時速100km近くで通り過ぎるだけというのも。
結局、行けるところまで行って、そこからは徒歩しか神殿に入る手段が無いとのこと。
セキュリティ的に、そこまでして守らねばならない人なんだろうけど、それでもなぁ……
俺はロボットカーで一番近くまで行ってくれと頼み、そこからは歩くことにした。
いやー、久々だなぁ、自分の足で歩くのなんて。
あっちこっちで修行と称して山ごもりしたり羆や巨大イノシシ、巨大鹿とも闘ったことはあるが、その頃以来かな。
一時間ほど歩くと神殿の門(門だろうな、あれ。扉と言うには大きすぎる)が見えてきた……
予想はしてたが、その門以外に出入りできる箇所はなく歩哨が常駐している。
うーむ……
困ったな。
身分証とか、そういうものの不要な環境にある者が、必要な星に降りると、ここまで動きが取れなくなるか。
力任せに入ると後々が問題になるしなぁ……
まあ、とりあえず俺の力を見せるか……
《歩哨兵くん、ご苦労さま。マリーさん、いや、巫女姫様に伝えてくれないかな? クスミが会いに来たって》
一応、俺の姿が見えるくらいに近くまで行ってのテレパシーだから、そこまで驚く必要も無いと思うんだがなぁ。
歩哨は相棒に一言何か言うと、そのまま中に全速力で走っていった。
30分後、戻るときにも全速力だったらしい歩哨兵は、
「失礼しました! ガルガンチュアのマスター、クスミ様! 巫女姫様が、お会いしたいとのことです。私の後に付いてきていただけますでしょうか」
ほっ、良かった。
腕ずくで阻止されるようなら、こっちもそれなりに荒っぽくならざるを得ないからねぇ……
外から見てても予想できたんだが、この神殿、どれだけ大きくて広いんだ?
もう30分以上歩いてるが、まだ建物の扉に到達できてない。
歩哨さん、よくもまあ30分で往復できたもんだね、感心するよ。
ここの歩哨を任されるというのは、エリート中のエリートかもしれない。
建物の扉を開けて中に入ってからも相当な時間、歩いた。
最奥と思われる、ひときわ豪華な扉を開けると……
「クスミさん! お久しぶりですね!」
懐かしい声が聞こえた。
「久々だね、マリーさん。別れた時に渡したもの、使ってくれたようで。ま、それでなきゃ今頃は、こうやって生身で会えるような形にはなってないんだが」
俺がそう言うと、
「お久しぶりです、クスミさん。お別れした時には悔やみましたが、今こうして会えていることが不思議で。はるか遠くへ行ってたんじゃないんですか?」
「あー、そうなんだけどね。この銀河団からいくつも離れた銀河団に今現在、ガルガンチュアはいるよ。ここには、俺だけが来たんだ」
「え? クスミさんだけ? えーっと……クスミさんって、あの、幻と言われてる超常能力「テレポート」まで会得したの? いいえ、会得してたとしても、そんな銀河団単位の距離なんか生身で跳べるわけが……クスミさん、あなた、幽霊とかじゃないわよね?」
「ははは……ついに幽霊扱いか。大丈夫! 俺に足はついてるし、テレポートなんてのは……まあ、それに似たものは使えるようにはなったけど不完全で……会得してないよ」
「ということは……もしかして、いつか話に出てた……宇宙の管理者かしら?」
「そうらしいね。ガルガンチュアから俺一人だけ転移させて、ピンポイントに、この星へ、なんてのは通常の生命体にゃ無理だ。ということでマリーさん、俺は多分だが、君を説得する役目を与えられたんだと思う」
「それって……」
そこまで話した時、マリーさんの隣りにいた少女が俺とマリーさんの間に割り込むように動いた。
「そこまでよ、現人神クスミ。いくら神の代理人、生ける神の代行者と言えども私からお母様を奪わせるようなことはさせない!」
「え? マリーさんの娘? おかしいな、アレを使った時点でマリーさんの生殖能力は停止したはずなんだが……」
俺の言葉がツボにハマったようでマリーさんが、
「アハハ、イヤね違うわよ、クスミさん。この娘は私のクローン体の孫に当たるわ。だから、私にとっては曾孫ってことになるんだけど……クローン実験そのものが私が千歳超えてから実施されたものなんで、こうなってもおかしくないのよ。ちなみにだけど、この娘は私の跡継ぎ、予知能力があるわ」
そうか、隔世遺伝という形でクローン体から能力を継ぐ者が出てきたのか。
俺は、この銀河から予知能力者を奪い取るような形になるとマズイかなぁ?
と思っていたので一安心だった。
「それなら安心した。俺が来たのは、その娘が言った通り、君をガルガンチュアのクルーとして迎えるためだ。様々なトラブルを解決していたよ、あれからも。だけど君のような予知能力者がいないガルガンチュアではギリギリのタイムリミット寸前で解決したトラブルも一つや二つじゃない。どうしても君の、マリーさんの超絶的とも言える数千万年単位の予知能力が必要になってきた」
それを聞いてマリーさん、何か思い当たるかのように……
「いいですか、我が娘リリー。あなたと私が、たとえクローンの祖母であったとしても血がつながってるのは確かです。私は、あなた、リリーが大好きです。それはいつまでも変わりません。でもね、それと、この宇宙に存在するだろう様々なトラブルを解決するというお仕事は別になります。あなたの能力、数千年単位の予知能力というのは、この銀河の中で使うなら丁度よい力です。私の、それこそ今から数千万年の未来ですら予知できるような大きすぎる力というのは……この銀河では使い切れないのよ」
ショックだったみたいで、リリーさんは、そのまま崩折れてしまう。
マリーさんはショックで気を失ってしまったらしいリリーさんを抱いて寝室へ。
俺?
さすがに寝室へ入るような恥知らずじゃないんで立ち尽くしたまま。
しばらく待っていると、マリーさんだけ出てきた。
「お待たせしました。私も覚悟は出来ていますが……どうでしょう、少なくとも、あと十年ほどお待ちいただけませんか? 彼女が成人して新しい巫女姫となるのを確認してから私はガルガンチュアへ行きたいと思うのです」
俺も予想していた答えのうちだったので、
「大丈夫、十年くらいは、あっという間だ。それに俺がしばらく、この星にいたほうが、なんだか良いような気がする……俺に予知能力など無いけどね、これは直感かな?」
「では……しばらくの間、二人と娘の三人で過ごしましょうか」
おいおい、マリーさん。
俺たちは夫婦じゃないというのに……
マズイなぁ、こんなことがバレたら、エッタもライムも、その気になっちゃうじゃないか!
「お父様、お母様。今までありがとうございました。私も、これで最終学年卒業です。これからは二代目巫女姫として活動していきたいと思いますので」
今日はマリーさんの娘(という設定になってるが実はマリーさんのクローンの孫という実にややこしい現実)の最終学年卒業式。
若いことは否定しないが、もう身体も精神も完全に成熟した大人、成人だ。
彼女、リリーの超常能力、未来予知も今では数千年、最大で四千年まで行くかどうかというレベルまで上がっている。
「リリー、これで貴女も立派な巫女姫です。私とクスミさんで数年間、貴女を育ててきましたが、これで貴女も数百歳までの寿命となっていると少し前にクスミさんから聞きました。貴女の生きているうちに次世代の巫女候補も生まれるだろうとクスミさんも言っていますので、これは我々の星の種族そのものがステップアップした証拠でしょうね」
そう、リリーは俺達と一緒にしばらく暮らしていたおかげで俺やマリーさんのナノマシンの影響受けてか通常の人類の数倍の寿命となっている。
あと、マリーさんのクローン計画では一人も生み出せなかった予知能力者だがクローン体の孫であれ何であれ実際にリリーという予知能力者が生まれたため、この特殊な超常能力は、この星あるいは、この銀河で(当然、ごく少数で一時代に一人くらいだろうが)歴史に残るくらいの血統として受け継がれていくのだろう。
俺と一緒に行く予定のマリーさんには、これから数万年を超える寿命が待っている。
通常の銀河や星に生きる種族だと、それこそシリコン生命体でも無い限り数百歳から1000歳くらいまでの寿命しか無い(だから冷凍睡眠とか特殊技術で未来を見ようとする奴も出てきたりするんだ)
しかしガルガンチュアのクルーは別物。
そもそも銀河どころか銀河団、超銀河団まで超えるような旅をしながら宇宙のトラブルバスターやろうとするなら少なくとも数万年単位で生きないとクルーとして認められないだろう。
ちなみに以前にマリーさんの力を借りた時、この話はしている。
今のマリーさんの状態はガルガンチュアクルーと通常生命体(タンパク質生命体)の中間のような寿命で、これがガルガンチュアクルーになった時点から俺達と同じ不老で相対的に不死となる(永遠に生きることも可能だとフロンティアは言うが、それは俺の意識をすべてロボットボディに移し替えることになるらしい……現実には、もっとややこしい手順と手術工程もあるようだが)
まあ、これはこれで寿命として順当かもしれない。
一つの銀河までで生きるのであれば数万年の寿命は長すぎるだろう。
「ところで、お父様、お母様は、いつ、この星を離れるのですか? 宇宙船ガルガンチュアは大きすぎて星系に近寄ることも出来ないと聞いていますが?」
リリーが聞いてくる。
「いつでも宇宙船には行けるのさ。とりあえずの予定ではリリーが一人前の巫女姫として活躍してるのを見てからって、マリーさんとも約束してる」
「そうなのよ。クスミさんの話だと宇宙の管理者……まあ、神様に近い存在よね……に連絡取るのは意外に簡単だって。で、帰るって連絡すれば帰してくれるらしいわ」
「そ、そうですか……神様みたいな存在と気軽に話ができるというのは、もう何と言うか……まあ、クスミ父様は神の代理人ですものね」
三人で暮らし始めて数年、十年にはならないが、それなりに長い間、一緒に暮らしているのでリリーも娘あるいは妹のように思っている。
マリーさんの場合は……
どう思ってるんだろう?
俺がマリーさんを必要としているのは十分に理解している。
しかし、それが愛とか恋とか夫婦みたいなこととか言うと……
違う。
自分でも表現し難いが、エッタやライム、郷やプロフェッサーに対するような思いとも違うのは分かる。
まあ、とりあえず、これは棚上げしておいても問題ないだろう(それこそ時間が解決してくれるのじゃないかな?)
この星、いや、この銀河の統一政府に連絡をとり、議会の承認をとって正式にマリーさんをガルガンチュアのクルーとするように要請する。
すったもんだの騒ぎは当然あったんだが数ヶ月後には承認が降りる(マリーさん自身が、この星を離れることを希望してるからね、当然だろう。それと、代わりの巫女姫も見つかったんだから反対する根拠がない……それでも根強い反対派はいたんだが、それはリリーさんが説得してくれた。もう、いい加減、神殿に半永久的に縛り付けるような真似はやめてくれと懇願したそうだ。数千年も一つの星に縛り付けるという一種の刑罰かと思うような残酷なことをやったという自覚もあったんだろうが反対派がそれを聞き入れて折れたとのこと)
それから巫女姫マリーから次代の巫女姫リリーへの申し送りが始まった……
とは言え数千年もの長きに渡って、この銀河を導いてきたマリーさんの役目を引き継ぐリリーに、はい、と言う感じで引き継げるものじゃない。
これも数ヶ月(半年じゃ終わらなかった……この銀河中のあらゆる種族と生命体に巫女姫が交代すると知らせなきゃいけない)の時間が必要となるのは避けられなかった。
「ふゎぁーっと。ようやく引き継ぎが終わったわよ、クスミさん。明日、正式な巫女姫の地位の移譲式が終われば、これで私も、お役御免ね。ガルガンチュアの皆に久々に会えるのね、ようやく」
予知能力者としての役目よりも、この千年ばかしの年月は書類の確認と訂正が多かったとのこと。
巫女姫の偉業として予知を大げさに報道していたり記録を大規模に改ざんしている箇所があったので、それを指摘しつつ、本当の未来予知記録を残すという仕事に没頭していたのだそうだ。
「だって大規模な戦争や自然災害なんて、この2千年くらいは起きてないのよね。平和になったものよ、この銀河……まあ、半分以上、あなた、クスミさんの仕事なんだけどね」
笑うマリーさんの笑顔が久々に見られたと、リリーが言う。
「さて……この銀河での仕事、と言うか用件と言うか何と言うか……は終了したな。じゃあ、新しい巫女姫リリーよ、この銀河を導いてくれ。俺はマリーさんを連れてガルガンチュアへ行き、宇宙全体の安定と平和を目指していく。では!」
権限委譲の儀式を終えた後、俺達は新巫女姫のリリーへ別れの言葉を。
そして……
《管理者! 用件は全て完了した。さあ、俺とマリーさんをガルガンチュアへ!》
そう、テレパシーを発した瞬間!
俺達二人はガルガンチュアにいた。
「いつもながら鮮やかだなぁ、管理者たちは。さて、マリーさんの知ってるガルガンチュアとは、だいぶ変わってるけど、5隻編成版の新生ガルガンチュアへ、ようこそ!」
俺はマリーさんの手を取りながら、いまや小さな星系と化した感の有るガルガンチュアの中心、フロンティアを案内していくのだった……
「今のガルガンチュアの現状と構成を説明するよ。まずは、これを見てくれないか」
マリーさんに、そう言いながら、メインスクリーンに現状のガルガンチュアが、どうなっているかの構成図を見せる。
「あれ? もう物理的に接続されてないのね、ガルガンチュア。今は小さな星系?というには複雑な構成よね、これ」
マリーさんの感想。
うん、それも当然。
俺も郷も最初、これをプランとして提示された時には冗談かと思ったから。
「中心に一番大きなフロンティアを据えた。その周りを4隻の銀河団探査船たちが惑星のように回ってるってことだ。複雑なのは、その一つ一つの宇宙船に属する搭載艇収容専用円筒が、その各宇宙船を衛星のように取り巻いている構造になってる。色々と考えたんだが、この方式が一番、搭載艇群を効率よく使えるって話になってね」
そう、構成図を表示しているが、それは恒星系の縮小表示みたいな形になってる。
中心にフロンティア、その外側にガレリアやトリスタン、フィーア、オールドマン(最近、仲間になった銀河団探査船。一番古い宇宙船ということなので、オールドマンと名付けることになった。近代化改装は完了しているため、装備や搭載艇もフロンティアたちと同じく最新装備化されている。問題はエネルギー炉だったが、古いと言うだけで理論的には最新のフロンティアと同じだったため、換装は可能だった……まあ、それなりに時間は掛かったが)が最低100万kmの距離をおいて回ってる。
その太陽と惑星の基本構成に、各惑星の月(衛星)のように搭載艇収容専用円筒が回ってるってわけだ。
「4隻までは物理的な接続で大丈夫だったんだけど、それ以上増えると、あまりに各探査船間の距離が近すぎるって問題が発生することが分かってね。最終的に小さな恒星系のようにするのが一番って話になったんだよ」
話を聞き終えたマリーさんが質問してくる。
「それで、銀河団や超銀河団を渡る際に、この構成で問題はないのかしら? 物理的接続の時には、それがエネルギーパイプのような役割もしてたんじゃなかったっけ? いくらなんでもフロンティア一隻だけのエネルギー炉だけじゃ、このミニ恒星系ごとの跳躍や超銀河団航行なんて無理じゃない?」
さすが数千年も一つの惑星で最高地位にあった人。
その都度、最新の技術情報も仕入れていたんだろう。
「それは大丈夫。改良された転送機がフィールドの中に超高密度のエネルギーまで含めて転送可能だってことが分かってね。それを利用して、このミニ星系全てが一つのエネルギー炉とみなせるようになってるんだそうだ……とはいうものの、エネルギーそのままじゃあまりに扱いにくいので少し存在平面をずらしてる。そうでないと転送時に瞬間的なエネルギー爆発状態になるそうなんで、それを回避するようだ……とは、フィーアたちから説明されたことで俺も実は完全には理解できてない。エネルギー転送の理論からしても、あまりに高度で基本を理解するのがやっとだったよ」
俺は苦笑いでマリーさんに説明する。
ちなみにオールドマンの近代化改装が終了して、ガルガンチュア全体としてのエネルギー量は以前の倍近いものとなっている。
フロンティアは少し勘違いしていたようで、もともとオールドマンのエネルギー炉は通常のものより倍以上の安全率をとって設計・製作されていたらしい。
そのため、エネルギー炉を最新のものと交換したら、ほぼ現在のフロンティアと同じ容量のエネルギー炉が装備されることになったと。
そのおかげでガルガンチュアの総エネルギー量が予想より大幅に上回ってしまったということだ。
新しいガルガンチュアの構成を説明し終えた俺達は、マリーさんを改めて紹介するため、各宇宙船を回る。
郷は初対面だったが、話には聞いていたため、ガルガンチュアクルーになったことを喜んでいた。
宇宙一の予知能力者ということで、期待してます!
という挨拶も、マリーさんは余裕で受け流す。
「私の後輩ってことになるのかしら? まあ、クスミさんの猛烈なシゴキに耐えた数少ない実例ってことで、仲良くしましょ、郷さん」
おいおい、俺はどっかの星のDV親父かよ……
「DV親父なら、まだ反抗もできるわ。クスミさん、あなたが厄介なのは、そのシゴキが完全に理にかなってるってところよ。もう、反抗する余地もない前提でシゴカれる辛さ、分からないでしょうね」
「俺の心を読んだな……まあ、ここでは普通の事としてるんで、早く言っておけば良かったかな。ガルガンチュアではテレパシー送信能力が全員にあるので、心を読むのは話すより早いということで普通に読みあってる。ってことで、マリーさんもテレパシーバリアはできるだけ張らないようにしてくれ。会話とテレパシーが同時に使えるようになってくれれば言うことはないが」
「まあ、進んでるのね、ガルガンチュアは。幸い、私のところじゃ超常能力者が普通人と区別なく働いてるのでテレパシーについては割とオープンになってるの。でも、積極的に心を読ませるというところまでは進んでないんだけど」
「やっぱ、先輩として頼りになりますね、マリーさん。ちなみに俺、郷の特異能力は再生です。今じゃ、頭ふっとばされても数秒で再生します」
郷、そこまで行ってるのか。
それって、ほぼ不死身ってことだよな。
その点においては俺すら上回ってるってことか。
「凄いな、郷の再生能力は、そこまでレベルが上がってたか。もう俺でも勝てないレベルになりそうだ」
「えー? 師匠の力には抵抗すら無理でしょうよ。一個の太陽すらサイコキネシスで破壊できる生命体に再生能力者ごときが相手になると?」
「クスミさん、そんなレベルになってたの? それ、もう一つの生命体として到達できる限界、超えてるんじゃない?」
ムチャクチャ言われつつも反論できない俺がいた……
自覚はしてるんだって、俺も。
エッタやライムにも会わせ、宇宙船の頭脳体との顔合わせに移る。
フロンティアから始まって、ガレリア、トリスタン、フィーアと来て、最後はオールドマン。
「おお、久々ですな、クスミ殿。こちらも、ようやく新しいエネルギー炉に慣れてきたところでしてな。今現在は我が船の搭載艇に跳躍エンジンを追加しているところなんじゃ」
「久しぶりだね、オールドマン。順調にガルガンチュアの一員として活動してくれているようで良かった。あ、こちら、新しいクルーのマリーさん。なんと彼女は予知能力者だ、それも数千万年単位の予知が可能だ」
「クスミ殿の選ぶクルーは、どの者に関しても特別ですな。精神生命体の元端末、不定形生命体、再生能力者に今度は予知能力者ですか! それを束ねるクスミ殿はテレパシーもサイコキネシスも超知能も、とてつもないレベルになっているという。もう、このガルガンチュアには、この宇宙で特異点と言われても納得できるほどの逸材が揃っておりますな」
オールドマンの言葉に引っかるものを感じた俺は、もう少しオールドマンと話し合うことにした。
「オールドマン、その特異点という言葉の意味を詳しく。フロンティアとかの、お前より後の世代船からは、そんな言葉を聞いたことがない」
俺は少し気になった特異点という発言について説明を求める。
フロンティアもガレリア、トリスタン、フィーアにしても、俺や郷、マリーさんのような、超常能力者としても突き抜けた特異な能力者に対して特異点などと言うことはないからなんだが……
「クスミ殿、そこを注目されますか。まあ、これは通常のデータではないシリコン生命体の間ですら大っぴらにされてはいなかった、とは言え秘匿データでは無いのですが……クスミ殿は特異点と聞いて、どのようなことを考えますか?」
逆にオールドマンが聞いてきた。
まあ、はるか昔の地球で俺が知っている程度なら……
「オールドマン、俺の知っているレベルの情報を教えよう。この無限の容量を持つ3次元宇宙で、通常は宇宙空間は、どのポイントも同じだと物理的・数学的に計算させるんだが、そうじゃない明らかに通常の宇宙空間と違うものが、まれに存在する。それが特異点と呼ばれるものだと俺は聞いた。例を上げるとブラックホールやホワイトホール、宇宙の破れ目である異次元断層のようなものとか。しかし生命体が特異点と呼ばれるのは聞いたことがない。どういうことだ?」
オールドマンは少し意外な表情を示す。
そして語りだす。
「そこまで知っておられるのでしたら話は早い。まさに、私の言いたいのは生命体の特異点もあるという話です。通常の特異点、現象とか特定ポイント、つまり、この宇宙の通常ではないポイントや、それに付随する現象を示すように生命体にも特異点が存在します」
ん?
おかしなことを言うな、オールドマン。
「ちょっと待て。そうすると何か? ブラックホールや異次元断層のような特殊現象や特殊ポイントと同じように俺達ガルガンチュアクルーが特異点とみなされるってのか?」
「正解です、クスミ様。生命体の特異点というのは現象やポイントとしての特異点とは少し意味が違ってきますけどね。特異点生命体というのは、その生命体を基点として、その力や行動が他の生命体を集めたり、もしくは他の生命体種族を進化させる方向へ進ませると言われます……まあ、これはシリコン生命体の中でも相当に異端な仮説だったりしますが」
ほぅ……
異端の理論というのが面白い。
「オールドマン、お前の中には他の船にない相当に奇妙なデータが豊富に記録されているとみた。違うか?」
「鋭いですな、クスミ様。ご指摘通り私の人工頭脳の中にあるデータはシリコン生命体の中でも変わっていると他の種族から指摘されるような設計者や開発者が書いた異端理論が、いっぱい詰まってます。しかし、その中の90%以上は後に間違っていると断定されたり架空理論で実現不可能だと判定されるようなものが多くてですね。この生命体特異点仮説もシリコン生命体の中では証明のしようがないと判断されたものなんです」
へー……
これは興味が出てきた。
俺は教育機械にオールドマンの架空理論や架空仮説など、他の船には不要だと切り捨てられたデータを集めて奇妙な教育機械カスタムを造ってもらう。
いつか、これを使う日が楽しみだなぁと思ったんだが、マリーさんや郷など他のクルーたちに使用禁止とされてしまい、がっくり……
「そんな危険なデータばかり集めた教育機械なんて永久封印に決まってるでしょうが! 何考えて、そんな異端理論ばっかし集めた教育機械なんてものを……はぁ、郷さん、エッタさんも、ライムさんも、こんな性格のマスターに、よく数万年も従ってたわね……まあ、奇跡的に結果が良かったんでしょうけど。ため息出ちゃうわ……」
「マリーさん、そうは言うけどさ。異端理論って面白いんだぜ。理論の欠点さえ理解してれば相当に面白い宇宙の見方ができると思うんだよ」
俺が、そう言うと、
「師匠ぉ、もう止めましょう。マリーさんの言ってることは正論です。異端やトンデモ仮説ばっかり集めても何にもなりませんよ。自分でも、それは分かってるんでしょ?」
ぐっ、痛いところを突いてくるな、郷。
「そうは言うが……はいはい、分かった、分かりました! こいつは今は使いません! だけど、いつか必要になったら使うぞ、いくら反対されてもな」
ジト目で見つめてくる皆(宇宙船端末まで含めて)の視線が嫌だったので早々に降参した。
まあね、今すぐ覚えたい知識じゃないし。
「さて、話を変えようか。とりあえず、宇宙のトラブルバスターの仕事が優先、と言うことで次の銀河についての話をしようか……」
これが新しい仕事の出発点だった。
「次の銀河なんだが、ずいぶんと新しい、というか宇宙文明がごくごく少数なんて割に各惑星には生命体が溢れている。これは俺達が手を出しても良い案件だと思わないか?」
「マスター、まだまだ情報が集まりきってない段階ですので判断は早急すぎるかと。ちなみに宇宙文明まで発展しているのは、この銀河では4種族しかいません。それも自星系を含めた4つか5つくらいの星間連合、または小さな星間帝国でしかありません。跳躍航法も発見されておりますが、まだまだ長距離跳躍時の衝撃を相殺あるいは吸収する方法が発見されていないようですね」
そうなんだよ、この銀河、まだまだ生命体としては若い種族ばかりなんだ。
こういった若い種族ばかりの銀河の場合……
「どうだろ? ここは別々に行動するってのは。オールドマンにとっちゃ意外なんだろうが俺達のトラブル解決方法には色々あってね。こういう、小さな文明がたくさんある銀河の場合、ガルガンチュアは銀河の中へ入れないので、俺達、タンパク質種族クルーだけで散らばって行動するってことが多々有る」
「そうですね、マスターは独自行動しても何も敵になるものはないと思われますが問題は他のクルーの方々かと。特にクルーとして新人のマリーさんは一人での行動は不安でしか無いので、できればマスターと行動することをお勧めします」
でもって、グループ分け。
今回、男女混合とすることに。
「それじゃ、俺とマリーさん、ライムのグループ。そして、郷とエッタ、プロフェッサーのグループ。郷の力も相当に強くなってるので大丈夫かとは思うが、もしもの護衛としてプロフェッサーに付いてもらう。で、どう行動するかという話なんだが……」
それから数時間、俺達は計画を具体化する。
俺達のグループは銀河の縁、周辺部を中心に行動していく。
郷のグループは銀河の中心部と中間部を行動ポイントにするということで。
俺達の目標は、この銀河を一つの宇宙文明、銀河単位の一文明に育て上げることだった。
ここから俺達の計画と行動が始まる……
ちなみにガルガンチュア本体はどうするかと言うと……
「この際、ガルガンチュアに必要なパーツやガジェットをつけてオールドマンにも最新改造してもらおう。ちょっと時間がかかるだろうから、期間が長くなっても良いので徹底的にやってくれたほうが良いかと。できればオールドマンに主砲……に近いものを装備してくれても良いか」
ガルガンチュア各船も了承してくれたため、これで俺達とガルガンチュアの行動が開始される。
まず、手近だということで俺・マリーさん・ライムのトリオは銀河辺境部へ転送してもらう。
ちなみにガルガンチュア本体は大きくなりすぎたということで銀河の縁より500光年ばかし離れている。
これだと絵面的には銀河から弾き出された1星系のように見える(異形の星系とも言うが)
通信的には俺のテレパシーはガルガンチュアに楽々届くので問題なし。
ちなみに郷もエッタもライムも、この1銀河単位くらいなら楽々通信可能なテレパシー能力が強化されている(問題は、やはりマリーさん。未来予知が強力過ぎるため、他のテレパシーやサイコキネシスが強化されにくくなっているとフロンティア達が言うので、その通りなんだろうと思う)
俺達の仕事が始まった……
「ライム、マリーさん! 俺が次々と貴金属のインゴットを造っていくんで、それを台座に積み上げていってくれ!」
そう言いながら俺は秒単位で金や銀のインゴットを空中から作り出していく。
まあ実際には空中に存在する微小な金や銀の塵を集めて圧縮しているだけなんだが……
一時間もしないうち、金が100本ばかし、銀に至っては500本ほど台座に積み上がる。
その周囲には鶏卵サイズのダイヤの塊が10個ばかし転がる状況……
「く、楠見さん! アナタねぇ……はぁ、もう開いた口が塞がらないわよ。行った星全てで、こんな事して資金調達してるの、もしかして?」
「マリーさん、諦めたほうが良いと思います。キャプテンは、こんなの日常茶飯事で、ちょちょいっとやっちゃうんで。この頃、この疑似錬金術モドキが何か仕事しながらでもできるようになったようで、あまり力を入れてないとキャプテン本人も仰ってましたが」
マリーさんへ忠告と言うか、アドバイスを言うライム。
「そういうことね……つくづく人外の、いえ、もう肉体を持つ生命体とは思えない仕業よね。これは精神生命体候補の一番手と言うべきなのかしら……」
……お?
ちょいと多すぎたか。
「はい、これでオシマイ。事業を立ち上げるなら、これで充分だろ。さて、銀河を一つにするための事業ってのは、何を目標にして何をやればよいのやら……マリーさん、何か良いアイデアとか無いかい?」
俺から質問受けて、あっちの世界からようやく戻ってきたマリーさん。
「え? うーん……そうね。統一銀河を目指すのなら、いっそ、銀河帝国とか建国するとか? 楠見さんの力なら、どんな敵勢力も星単位で潰せるでしょ?」
おいおい、物騒な提案だな、まったく。
「それをやって、統一されたから、これで終わり。俺達は次の銀河へ行きますと言える? 完全統一までに数千年、そして、民衆の高度教育化が整うまでやったら最後、万年単位で縛られるぞ……俺達が死ぬことはないかも知れないが、あまりに長いトラブルシューティングだ」
呆れた顔をしてマリーさんがため息を吐く。
「はぁ……こんなのが当たり前のトラブルシューティング?! もう、ほとんど銀河文明を一から育てるようなものじゃないの!」
まあ、ガルガンチュアだから仕方ないかなぁ……
マリーさんがもう一度、ため息を。
「じゃあ、銀河連邦ってことで。これなら緩い連邦制で比較的短い期間で統一まで行けると思うわよ。ただ……こっちだと、後で反乱とか脱退して帝国制を目指すとかいう勢力が絶対に出てきそうなんですけど」
ふむ、緩い連邦制ね。
民衆の民度、つまり教育程度が問題になってくるんだよな、それだと。
しかし……
「じゃあ、連邦制を目指そうか。民度の問題は教育機械が解決してくれるだろ……ただなぁ、こいつの問題が一つ……」
「ミュータントの発生よね。精神的に飛び抜けたミュータントが発生した場合、それをどうするかと言う根本的問題がありそうね。ある程度は私の予知能力で未来は見えるんだけど突発的なミュータント発生の問題は予知でも見えないのよ」
そうか、さすがに突然変異のことまで予知できるわけじゃないのか……
「まあ、俺達が、この銀河に居る間に発生してくれるなら何とかする事もできるんだけどな。問題は俺達が、この銀河を離れてから……」
ここで、ライムが手を上げる。
「はいはーい! 警察機構がしっかりしてれば良いんですよね? じゃあ例のRENZ(レンズ)を使えば?」
お、そうか、その手があったな。
「久々だから忘れてた。そうだな、RENZ使って警察機構をしっかり作り上げれば良いわけだ。ではガルガンチュアからRENZ製造機を数百個ばかし送ってもらおう。ある程度に文明が大きくなったら、こいつで悪に染まらないエスパー警察機構を作り上げれば安心と」
そして俺達三人は今や山になった貴金属インゴットと巨大ダイヤ数十個を元手に銀河統一連邦を作り上げる仕事に掛かっていくのだった。
こちら、郷とエッタ、プロフェッサーのグループ。
こちらの方針は……
「さてと。向こうは多分だが、いつものように師匠の錬金術で社会に金を回しつつ技術発展を促進させるつもりなんだろうが。俺には、まだまだそこまでのサイコキネシス能力はない。ということで俺達は違う方向で銀河統一を目指すんだが……何か提案はないかな?」
郷が他の二人にアイデアは無いかと聞く。
「もう、このトリオなら、やれることは決まったようなものじゃない? 郷さんと私でガルガンチュア教再びで良いのでは? プロフェッサーさんがいるから更に布教は簡単よ」
「郷、良いですか? 我が主は、あまり良い顔をしないでしょうが、我々だけなら、てっとり早くガルガンチュア教で中央と中間地帯の統一をやったほうが良いかと。我が主の行動力を考えると、こっちが遅れそうになるのは当然になるかと思われます」
「そうだよなぁ、師匠の、ここ一番の行動力というのは、そら恐ろしいものがあるからなぁ。そいじゃ俺達は、この星、中間地点より少し内側になってる位置にあるんでちょうど良いかな? ここを基点にガルガンチュア教を布教して宗教的に中心部と、その周辺部を統一していくとするか」
こっちも方針が決まり、動き出す。
最初の頃は3人まとまって行動する(注目されない初期は良いが、他の宗教から注目されてしまうと大なり小なり活動に妨害が入ってしまう。直接的な妨害でなければ良いのだが、ごくたまに裏権力使って暴力的に布教活動を妨害する似非宗教家が……それも結構な数がいるのが厄介)
「郷、またまた目つきの良くない輩が、こっちに近づいてきますよ。あれは完全に交渉とかという話じゃないですね」
「プロフェッサーさん、まず始めは私が話し合ってみます。それでダメなら郷さんとプロフェッサーさんの出番かと」
エッタが、このところ昔の聖女だった頃のカンを取り戻してきたのか妙な威厳すら漂わせて明らかな暴力集団へと歩いていく。
「よー、あんた達が妙ちきりんな、ガルガンチュア教団?とかいう新興宗教かい? 俺たちゃ他の宗教組織から頼まれてねー。あんたらの宗教活動をやめて欲しいんだってさ。ここだけの話、資金的な問題だけなら平和に解決しても良いって、そのお方たちは言ってるんだけどね?」
言い方は丁寧だが、要は金が欲しいんだろ?だったら、ここら辺での宗教活動中止してくれれば、こっちから金を出してあげるよ?ってお話……
エッタは下卑た輩には関心ないとでも言うように、
「私達の活動は全てガルガンチュアと、その全権委任者たるお方のため。そして、そのお方より、この星でガルガンチュア教を教え広めよと託宣を受けましたので行動しているのですよ。あなたたちのように無知で下卑た人類に届かぬ知能をもつ二本足の野獣のような方々でも改心してガルガンチュア教に入信すれば、もっと働きがいのある職に就けますよ……いかがですか? 人間らしい生き方を、してみたくありませんか?」
いやー、エッタさん、煽る煽る。
獣レベルの知能しかないと思われていたが、じっくり考えると完全にバカにされている事を理解して……
「俺達は人間以下だと?! おい、お前らも馬鹿にされてたんだよ! やっちまえ!」
数分後、集団(10人ほど)で伸びてる彼らが発見される。
少し離れて様子を見に来ていた、こいつらの雇い主だった宗教団体、つまり監視役である数名が、路地で伸びている彼らを見つけた。
「で? 失敗した原因は? 腕っぷしの強いのを連れて行けと私は言ったはずだが?」
ここは依頼した方の宗教が持つ事務所。
社会的奉仕集団という隠れ蓑で巨額のお布施や超高額宗教グッズを売った利益を無税で運用する会社だ。
そこの責任者は実質的な宗教組織の裏を支配する。
責任者は10人も部下を引き連れていって女を含めた3人に叩きのめされた責任を問うている。
「そ、それがですね。あっという間だったんですわ、俺達が伸されたのは。若いのが3人ばかり、あいつらに殴りかかったのは覚えてるんですが、それから眼が覚めたら道の真ん中で全員が伸びてました」
責任者は、かなり組織の中で権力を持つと思われ、失敗したグループのリーダーと思われる男は責任者のまえで小さくなっている。
答えに嘘はないと確信した責任者は少し思いに沈む……
「わかった。もう、お前たちでは相手にならないようだ。ただし、これ以上の手出しは、こっちにも信者の不信感を招きかねんので、しばらくは様子見とする。お前たちは通常の業務にもどれ」
へい、という部下の声を聞いて責任者は手を振る。
出ていけということである。
部下は小さく背を丸めて部屋を出ていく……
責任者としては、もう少し泳がせて、ガルガンチュア教という宗教が小さな組織になるまで待つこととした。
あの宗教活動では、もう少し時間がかかるだろう。
そう思っていた……
しかし、郷とエッタ、プロフェッサーの行動力と超常能力、そしてガルガンチュアの底力を見誤っていた……
敵対視している宗教組織が居ると認識しているのか、どうなのか?
郷、エッタ、プロフェッサーの動きは、そんなものを気にしているような早さではなかった。
まず小さな教会を建てる。
そこで聖女の登場。
エッタが、どの病院、医者にも見放された重症や重病患者を、わずか数日で立って歩き、なおかつ全力疾走まで可能なまでに回復させる。
あまりの回復術(ほとんど命の炎が尽きかけている患者すら一週間もかからずに全面回復)に耳敏いマスゴミとやらが食いついてくる。
「それで、ですね。どんなマジックを使えば瀕死の病人まで通常状態まで回復するんですか? 何かタネがあるんでしょ? 教えてくださいよー」
言いたい放題のマスゴミ記者。
絶対に嘘だと決めつけて詐欺まがいの手段で重傷者、重病人を次々と治しているように見せているのだという記事を書こうとしているのはインタビューを受ける前から分かっている。
しかし、その記者ですら……
「実は私も過労から胃が弱ってましてね。もしも、もしもですが可能でしたら私も治してもらえませんか?」
ほら、咄嗟には対応できないだろ?
と言いたかったのだろうが、エッタにかかればお茶の子サイサイだ。
「はい、大丈夫ですよ。私達、ガルガンチュア教団は困っている人たちを救うのに条件など付けません……」
エッタが記者に手を差し伸べ、そして患部を中心に両手を回すような仕草をする。
「これで大丈夫だと思いますが念の為に一週間以内に、どこの病院でも良いので検査を受けてください。完治していると診断が出ると思います」
半信半疑でインタビューを終えるマスゴミ記者。
実際に二日後に大学病院で精密検査を受ける。
その結果……
〚驚異! 新興宗教団体「ガルガンチュア教団」の神力は本物!〛
という見出しの大特集増ページを大々的に載せる。
これに惹きつけられたのだろうか、大きなメディアすら記者を教会へ送ってくるようになる。
各メディアが悪い点を書こうにも、組織が小さいということくらいしか無いので、驚異の力を見せる新興宗教という扱いで様々なメディアに取り上げられる。
「郷さん、ちょっと助けてくださいよ。入信者が多くなったのは良いんですが、ちょっとした風邪くらいでも聖女の力を頼ってくるんです。これじゃ、あまりの過剰労働です!」
というエッタの愚痴により教団内でガルガンチュア特製マルチ対応回復薬が製造されることとなる。
まあ、その頃には教団も信者・教会・資金の面でも巨大化していたので小さな製薬会社の買収など簡単。
ちなみに、買収とは言え製薬会社としては独立採算。
ゆえに回復薬の承認申請や薬としての効能チェックは通常業務で行われることとなる。
だからして……
「はぁ……薬事法って大変なんだな。効能は絶対に間違ってないのに、ここまで時間かかるかよ……」
厄介な伝染病とか流行ってるような季節でもないタイミングのため、薬として承認が降りるのは3年もかかった。
効能が確実に安定していたために3年で認められたと製薬会社の重役は語ったが本来もっと年月がかかるそうだ。
ここからガルガンチュア教団は本気を出し始める。
地域医療に助けが必要だろうと教団が申し出て数年後には地域的に病人や重傷者が全くいないという稀有な事態が起こる。
そうなると地域から地方へ、そして、それより大きな……
「国家代表としてガルガンチュア教団の責任者の方々と会談を……」
という話も出て、あれとあれよという間にガルガンチュア教団の教会は、その国に遍く存在することとなる。
教団本部も国家権力が……
「どうか、我が国がガルガンチュア教団の本部がある国だと認定させていただきたい! 象徴となる本部も、こちらで用意させていただきますので、どうか!」
という話があったとか無かったとか。
もう弱小新興宗教ではないガルガンチュア教団は、その奇跡と万能といわれる回復薬を持ち、海外へも躍進していく。
星一個が全てガルガンチュア教団を支持するようになるまでには、それから数十年かかったようである。
こちら楠見たちの班。
こちらも通常のことをチマチマやっていたのでは、人口もまばらな銀河辺境地区、とてもじゃないが最新技術など普及できるわけがない。
「ってことでだな……ここらで一発、どでかい最新技術を披露しようじゃないの」
楠見の発言に……
「大丈夫なんですか? あまりに現在の技術とかけ離れすぎると様々な問題が出てくると思うんですけど……」
反対意見を唱えるのは、やはりマリーさん。
ライムなど、もう日常業務と化している楠見の発言に慣れっこになっているようで、うんうんと頷くのみ。
「ライムさん、あなたも危機感を覚えなさいよ。楠見さん、とんでもないこと始めようとしてるのよ?!」
この発言にもライムとしては、
「えー? そんなにトンデモ発言ですかぁ? いつものことじゃないですかぁ? キャプテンなら普通ですよぉ」
呆れ返るマリーさん。
「そうなのね……ガルガンチュアって、これが日常なのね。私も早く日常に慣れなくちゃ!」
そう言う目は、どこか遠くを見ているような気がした。
「ってことで……俺達の会社、KML開発の主力商品、今現在は携帯用超小型エネルギー炉と防御バリア・個人用ジェットパックの組み合わせ商品が爆発的に売れているんだが……これに、ちょっと意外な組み合わせを考えてるんだ」
「へー、今の主力商品だけじゃ駄目なの? エネルギー炉だけでも余裕で小さな工場なら100年まかなえるって代物でしょ? 個人用ジェットパックも本来なら、これだけのはずが、あまりに速度が出るもんだから防御バリアが必須として3点セットになったのよね。これ、この星どころか辺境星域で爆発的な人気商品じゃないの。辺境星の開拓って危険なことが多いから、このセットは開拓民だったら必ず持ってけと言われてるくらいなのよ」
「そうなんですよね。この商品のおかげで我社も業界トップどころか周辺企業巻き込んで傘下企業がどんどん空いてる工場やライン使って、このセットばっかり作ってるって話で。下請けとは言え我社の傘下企業ってことで企業間のアイデア料すら取らないんですから。キャプテン、お人好しすぎます」
あははは、と楠見は頭をかく。
「我社だけが儲かって他社が潰れる状況はいただけないからな。我社が潰れる可能性は無いので全て我社の傘下企業となれば、みーんな儲かるってことだ」
マリーさんは難しい顔をする。
「もうホワイト企業とか言うレベルじゃないわよね、それって。経済の原則に反してるけれど実際にこの星どころか周辺星系含めて巨大な経済圏ができつつあるのよねぇ、これが。少し先には辺境軍がまとまった数が欲しいって言うから数百万セット単位で軍用に卸すとか何とか言ってなかったっけ?」
「お、耳が早いね、マリーさん。まだ辺境軍だけで中央や周辺域の軍関係からは何も言ってきてないけれど、中央軍からサンプルが欲しいという打診は受けてるよ」
まぁしかし、楠見の本気がここまでのものとは予想もしていなかったマリーさんは、はぁ……と何回目かのため息をつく。
「で? 楠見さんの事だから、また、とんでもない奇想装置をくっつけたセットにしようってわけでしょ、多分」
マリーさんの予想通り、楠見の口の端が、ニヤリ、とばかりに曲がる。
「まあ、その予想通りかな。これは、軍関係へのサンプルとして渡すものに、こんなセットもありますよという形にしたいんだ……こんな形になる予定なんだが」
バサ、という音がするようにも思えたが、実際には分厚くない小冊子と共に、お手軽惑星探検セットに付属させるキット?のようなものが出てくる。
「これ、何ですか? 一時期、キャプテンが使ってた転身ヘルメットのようにも見えますが……ずいぶん簡略化されてませんか?」
ライムの疑問に、おや?と言う顔をする楠見。
「鋭いな、ライム。その通り、こいつは転身アイテムだ。とは言え、あのヘルメットのように自由自在にいくつもの転身機能があるわけじゃない。全身を覆うポリマー分子を展開するだけの機能しか無い」
「え? それだけの機能しか無い? あのー、楠見さん? 言葉の使い方、間違ってません?」
「いやいやいや、間違ってないよ、マリーさん。太古の異星の秘宝だったアレは高機能が故に重量が1t超えてて強力なサイコキネシスを持つものじゃないと使えなかったんだから。こいつは約5kg弱の重量で、いくつも装備展開は出来ないけれどポリマー分子は装着者の体型にフィットして例えば高空……そうだな、高さ1000mくらいのところから飛び降りても中の人体に影響がないくらいには……」
そこまで言って楠見はマリーに口止めされる。
「量産化してる技術なんでしょ? まあ、仕方がないわね……ライムさん、あなたたち、一番リーダーにしちゃいけない人をリーダーにしてるのね」
そこからひと悶着あったんだが、それはまた別の機会に……
ともかく楠見たちの会社が発展していき、辺境で超絶テクノロジーが普及していくのに、そんなに時間はかからなかった……
こちら、郷とエッタのコンビ。
ちなみにプロフェッサーはエッタの護衛となり、一緒に活動している。
「プロフェッサー、今日の予定は?」
「はい、エッタ様。今日は一日かけまして北地区を重点的に布教していく予定です。とは言え、エッタ様の活動は癒やしと回復を中心になるわけですから、どうしても一件一件に時間がかかりますけど」
「まあ、仕方がないわよ。私達は着実に、そして教団の基礎を支える方たちを増やしていくのですから」
ガチャリ、とドア錠を解除したプロフェッサーは質実剛健を絵にしたような建物からエッタと共に出る。
元々この建物は少し危ない教祖を中心とした新興宗教団体が根城としていたビルをリニューアルしたもの。
元のビルは淡いピンク色で、とてもじゃないが宗教団体ビルとは思えぬ様相になっていた。
地元の商店街や役所からも多数の抗議文や改築勧告を受けていたのを新興宗教団体がガルガンチュア教団に負けて教祖が官憲に逮捕されてしまい競売にかけられていた。
ある程度、規模も大きくなってきたガルガンチュア教団は郷のサイコキネシスレベルアップのため「楠見の真似事」として惑星大気に含まれる貴金属分子を抽出し、固めるという修行を行っていたため、とある倉庫には「金や銀のインゴット」がトン単位で収納されていたので、この競売に参加し、競り落とした後、勧告通りにビルの色を塗り直し、少し灰色がかった緑という渋さ極まるようなビルになっていた。
ちなみに、この修行により郷は、ある程度の金や銀のインゴットは自由に出せるようになった。
しかし……
「まだまだ師匠のような品質のインゴットにはならないなぁ……」
「当たり前ですよ、郷。金や銀の含有量が低すぎます」
「いやでもね、プロフェッサー。俺の力の全力でやってるんだけど18金までなんだよね、これが。師匠は、あっさりと24金になってるんだけど、これ、何の差だと思う?」
「わが主の力が圧縮に働いているのか、それとも、ある種のフィルターのようなものをサイコキネシスで設定して狙った金属分子以外のものを排除しているのではないかと推測できますね。インゴットの重さが一定な以上、サイキックフィルターの方ではないかと」
「はぁ……追いついたと思ったら、まだまだ遠いと言うことか……師匠の力、どれだけ強くて繊細なんだ? それこそ、星を割れる力も出せれば卵の殻を割るだけの微弱な力も出せるってことなんだろうなぁ……俺のレベルじゃ、まだまだってことか」
楠見との力の差を思い知らされる郷である。
数ヶ月後。
「ねえ、郷さん。このごろ、軍の方で新しい辺境探検セットってのが流行ってるようなんだけど……そっちで何か知ってる?」
エッタが軍に要請されて無償の癒やしを与えて欲しいと招待されて行った先で聞かされた話で、辺境地区にある、とある巨大企業から最近搬入された無人星系探査セットが現場で取り合いになるほどの人気なのだそうだ。
「エッタ……無人星系探査セットの中身は聞いたのか?」
郷は、ある程度、推測がついてるようだ。
「そうねー……新型の個人用ジェットパックと障害物や予期せぬ攻撃を防ぐシールド装置、そして肝心の超小型エネルギー供給装置。それでね、この基本セットに、もしもジェットパックやシールド装置、エネルギー供給パックが故障しても墜落事故から個人を守るショックアブソーバーを兼ねたヘルメットが付いてるんだって」
「あ、それだったら師匠たちだな。ヘルメットってのは例のポリマーを使った転身システムだろう。オリジナルは1t超えてたそうだが、それを改良と機能限定して普通に装着できる普及品にしたんだろうな……しかし、あれを実用化して普及品としたとすると……別の問題が起きそうな気がする……」
「え? 別の問題? ご主人様、楠見さん専用ヘルメットだった時には相当な無茶もやったけど普及品だったら大丈夫なんじゃないの?」
「いや、実は俺、あの後に、師匠の養子だった**銀河の星の太二くんが似たようなヘルメット着けててな……その装着の感想を聞かせてもらったことがある。太二くんの感想だがな……フィールドエンジンの効果か自分の力が数倍にアシストされてるようだと言ってたんだ。そのアシストのおかげで旅してた地域の反社組織をいくつか叩き潰したという……太二くん一人でな……」
「と言うことは……この普及品転身スーツも……」
郷は何も言わず、うなずくのみ。
楠見は転身スーツの隠し機能を知ってか知らずか、普及品としてしまったようである。
この無人惑星探検セット「豪華版」とされた普及型転身スーツ付きのセットは中央星系では不要だったため、辺境と周辺部の軍で一気に広まる。
数年後、辺境と周辺軍が統合された後、銀河周辺・辺境統合軍では奇妙な軍隊武術が広まっていく。
それは、基本が軍隊武術ではあるが、全てが「寸止め無し、全力の技をふるう」という傍目から見ると危険極まりない武術。
パンチやキックだけではなく、投げや極め、果ては頭部や金的への容赦ない全力攻撃まで許容する。
試合前にはヘッドギアのようなヘルメットとも言い難い簡素なものを装着するのが基本で、着るものも無頓着。
パンツ一丁でも良いし好きな道着を着ても良い。
その簡易ヘルメットさえつけていれば、どんな攻撃も肉体部にまで届くことはない上、自分の動きにはアシストさえされる。
この武術に慣れた者にとり、自動的に展開される転身スーツを身にまとった後は通常の武術家や武道家(得物を持っていたとしても)の攻撃は全く意味を持たず、剣や槍でさえ薄いポリマースーツを貫くことが不可能となる。
おまけに、この簡易ヘルメット。
装着者の思考判定まで、ある程度自動でやる。
もし万が一、装着者が転身前に倒されたとしても悪意のあるものには装着後、自動的に機能停止となり、少し重いヘッドギアとしてしか使えない。
これは統合軍だけでなく警察機構や民間ガード会社まで巻き込んで巨大なマーケットを作り出すこととなる。
エッタや郷は、これ幸いと、この現象をガルガンチュア教団の布教に利用していく。
またたく間に教団の規模が拡大していったのは言わずもがな。
銀河中心部が郷とエッタとプロフェッサー、周辺部と銀河辺境部がマリー、ライム、楠見のガルガンチュアクルー達により、この銀河は中心部の科学や装備、軍部にまで中心部より周辺部や辺境部が優れているという逆転現象が生み出されている。
「さて。もう良い頃かな……プロフェッサー、師匠たちへ連絡をとってくれ。ここで動いて中心部が弱い今の状況で周辺・辺境部との統一化を交渉したいと伝えるんだ。今を逃すと周辺・辺境部のほうが圧倒的に強くなすぎて中央部は吸収されるしかなくなる。今が交渉の絶好の機会だ」
「了解です、郷。我が主への連絡は任せてください。恐らく我が主たちも、もうすぐチャンスが来ると分かってると思うんですがね」
こうしてガルガンチュアクルーたちの思惑通り、統制の取れた一つの政府と成るよう、この銀河の主たる生命体(というか軍備を整えている星系を多く持ってる生命体)の集う「全銀河統合のための交渉会」(という名前にするよう郷と楠見が主導する)が開かれることとなった……
ここは中央と辺境の、ちょうど中間ポイントにある、とある星系。
郷が声をかけて中央の産・民・軍・学の代表を数人づつ、この交渉会に参加することとなる。
辺境と周辺部は、こちらも楠見らが声がけし、軍が主ではあるが、他にも産業界、民間団体の主導者、数は少ないが辺境や周辺部の宇宙大学(工業系が主なのは仕方がない)からも参加者が来る。
交渉会そのものには中央も辺境・周辺も必要だと理解はしていたので開催は反対0で。
しかし交渉そのものは異論続出。
「銀河を統一するなら中央の統一された経験が生きるでしょうな。つまりは、辺境や周辺部の混乱状況を我々が導いて統一へ持っていくのが理想かと」
などという、もっともらしい持論を展開するなど当たり前。
過激なグループでは、
「この際、政治闘争に慣れている我々が各星系に赴いて統一政府の必要性と必然性を説いて回りましょうか? なーに、護衛艦隊を100隻も引き連れていけば数十年で銀河統一政府など立ち上げられますわい」
などと吼える。
ここまで総論賛成各論反対が揃ってしまうと郷や楠見らが何を言っても聞く者たちが……
ほとんどいなくなるのは自明の理。
「皆様、我々ガルガンチュア教団が、今、この場にいる理由は何だと思います? 教団の教えを聞いている人もいるかと思いますが……我教団の教えというのは、理想を説いているという人たちもいますが、この教えに嘘はまったくないということを思い出していただきましょうか」
エッタが突然に立ち上がり、発言する。
郷は、とうとう教団の秘密を明かすのかと緊張する。
しかしエッタの発言は郷の推測を超えていた……
「わが教団の教えの一節に「この宇宙には生命体を超えた存在がいる」というものがあります。皆様、これは真実です。そして、この一節が示す存在は、ここに顕現しておられます」
おいエッタ!
何を言い出すんだと郷は焦るが……
委細構わずエッタは言葉を発し続ける。
「銀河中央は、これまでも順調に発展してきましたね。それに比べ、周辺宙域や辺境部は発展が遅れていました。はい皆さん、ここで今の状況を思い出してください」
ここで一息いれると、エッタは続ける。
「辺境や周辺宙域のほうが中央宙域より発展してますよね。歴史的には、これはおかしいと思いませんか? そうです、おかしいんですよ。例えば天才が辺境に現れたとしても、辺境の技術力や工業力、資金力では、どうやっても中央に敵うわけがない。でも、この数十年で逆転現象が起きている。それを成した方は今、この交渉会に参加していますね……クスミ総会長、もう良いではないですか……我々の秘密を明かさないと、この銀河の統一は、いつまで経っても実現できませんよ」
水を向けられた楠見、ライム、マリーの顔色が変わる。
もう影の功労者という立場から抜け出る覚悟を決めたようである。
「分かった……ライム、郷、プロフェッサー、ご苦労さま……さて、中央宙域の方々には初めてお目にかかる方々も多いと思うが私が辺境宙域、周辺宙域の半分以上の工業と経済を握るKML総合開発企業体の総会長、クスミだ。もう薄々気がついている人もいるかと思うが私達とガルガンチュア教団、実は一つの集団だ」
秘密の一端を打ち明けた楠見は戸惑う集団を見回して言葉を続ける。
「俺達は巨大な宇宙船の集団「ガルガンチュア」のクルーだ。ガルガンチュアは、もう数えることが無駄になるほどの銀河・銀河団・超銀河団を超えてきた。ちなみに、俺達の生まれた星は、この銀河じゃない。銀河も、銀河団も、超銀河団すら違う出身の種族が集まって宇宙船クルーとなっている」
それまでも喋れなかった交渉会メンバーは、もう何も言える状態ではなかった。
この銀河を脱出することすら難しい現状で、たった6名とはいえ異星人(いや、別の宇宙の生命体と言っても良いのか?)がいることが明白になってしまった。
それどころか、この技術や経済の発展まで、その生命体の仕業だという。
「俺達の目的が分からんと思う人たちもいるだろう。俺達の目的は、この銀河に統一した政治体系を設立することだ……あ、侵略準備だとか銀河に戦いの火を放とうとしているんじゃないかと思った人たちもいるな。違う違う、俺達は純粋に、この宇宙から戦いや災害の被害を無くしたいと思って動いている」
心が読まれる?!
楠見の発言に口を挟もうとした人たちが若干名いたようだがテレパシーが使えると理解した途端、押し黙る。
「ちなみに俺達は少なくとも、この銀河にいるどの生命体よりも強い力を持ってる。少し証拠を見せようかな、疑ってる人もいるようだ……俺のテレパシーを少し強めてみたが、どうだ? これ以上にも強められるが、ほとんどの参加者が気絶するのは目に見えているので、ここまでにしよう……どうかな? 信じてくれたかな?」
頭痛が酷くて痛み止めを飲みながらも中央宙域代表の一人が発言する。
「もう結構です、クスミ総会長。あなたはガルガンチュア教団でいう「神の代理人に近い存在」なんでしょうね。生神様のような存在に我々が反対意見を言えるわけもない。中央宙域は、この会議の議長としてクスミ総会長を推すものであります」
中央の他の代表も、周辺も辺境も反対意見は無し。
それからは順調に統一政府の樹立に話が進んでいく。
その会議から数十年後……
「救援船団001から010まで。辺境部での宇宙震発生についての詳細を伝えます。即時に救援物資と薬品、救助機材を積み込んで出発してください。では詳細のファイルを送ります」
「救援船団旗艦、グルグワイカーン、ファイルを受領した! 機材と物資は積み込み完了、後は薬品類のみ! 積み込み完了次第、当該星系へ出発する」
通信終了の30分後、次々と巨大宇宙船集団(全長500mの球形船ばかり)は宇宙港を飛び立っていく。
ちなみにガルガンチュア教団からは聖女たちも派遣されて、薬品だけでは対処できない場合に活躍するはずだ。
ガルガンチュアは今日も宇宙を跳び、無数の銀河と生命体を救っている。