第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第七十一話 ガルガンチュア完成?!

 稲葉小僧

いつものごとく、ここは銀河系とは別の超銀河団の中の銀河団の中の一つの名も知らぬ銀河……

その銀河へ徐々に近づく小さな星系のような5つの物体の集合体。

言わずとしれた我らがガルガンチュアである。


「ガルガンチュアも宇宙の旅に出てから相当に年月が経ったよな。もう5万年近く過ぎたんだっけ?」


指揮用の部屋となった割と広い会議室から楠見の声が聞こえる。


「我が主、私の時計が狂ってなければ、もうすぐ5万5千年になるかと。もう、年月とか時間とか意味がないのでは?」


プロフェッサーが答える。

楠見と一番長く関係のあるプロフェッサーだけに、これは正解に一番近いだろう……


「そうか……もう、地球を旅立ってから5万年を軽く超えてるのか……長いよなぁ、俺達の宇宙生活」


ははは、何を言ってるんですか、と言わんばかりのフロンティアが、


「まさに疾風怒濤の5万年ですよ。言っておきますが、マスターがいるから、こんな激動の宇宙旅になるんであって、通常に宇宙航行するのなら平穏で退屈な日常が続くばかりなんですよ。ちなみに私が最初の宇宙航行に出た時には、まさに平穏で退屈な銀河団航行でした」


「そうだぞ、主。私の初航行でも、こんな波乱万丈な宇宙航行にはならなかった。主は、あまりに様々なトラブルに首を突っ込みすぎるのだ」


ガレリアも、そう言い出す。

今月、舵を担当するのはオールドマン、センサーを担当するのはフィーアとトリスタン。

物理的に合体接合されていた時にはセンサー担当は一隻で良かったが、今のガルガンチュアは小さな星系ほどの規模になっているため、全センサーの管理が一隻では追いつかず、やむなく二隻でセンサーを管理することになった。

とは言え、この方が凝縮合体していた時よりもセンサーの検知範囲が広くなり効率が良かったりもする。

フロンティアとガレリアは休みかと言えば、そうではなく。

目前の銀河の情報収集及びエネルギーの平滑化作業を行っている。


エネルギー平滑化?

そりゃ何だ?

とか言われるのは予想済みなので解説しよう。

そもそも、この5隻合体版ガルガンチュア。

過去に存在した、どの宇宙船と比べてもエネルギー量が桁違いに大きいとフロンティアから説明された。

まあ、だから今まで想像されるばかりで計画はあったにせよ実現不可能だった超銀河団の航行をも可能とする宇宙船団(というのは変かもしれない。いちおう各宇宙船は物理的に接合されてはいないがエネルギー的には密接に結びついており、各船からのエネルギー炉から発生する膨大な(それこそ太陽系の太陽を数十個集めたくらいの)エネルギーが、この疑似星系を巡っているからだ。)


この莫大なエネルギーの平滑化とは何ぞや?

と言うと、要は「その時に必要なエネルギー以外の浪費・消耗を抑える」ことである。

説明されても大雑把すぎて理解不能な方も多いと思うが、安心してくれ、解説者も完全には理解不能だ。


まあ不要なエネルギーを貯めておく回路と言うか亜空間のような代物をガルガンチュアが作り出すことに成功したので、余剰エネルギーを、そこに放り込んでおけるようになったと思えば良い。

これで例えば今までは各船の主砲を撃つには数時間から、下手すると数日間もチャージに時間がかかっていたのが瞬時とは行かないまでも相当なチャージ時間短縮になったと。

エネルギー炉の出力そのものは一定で上下操作は不可能なので、この回路と言うか亜空間を利用して、超銀河団航行の時と、今のような近くの銀河で待機する場合のエネルギー消費の上下変動に対応しているわけだ。


「ちなみにですね、この平滑回路・亜空間が無かったガルガンチュア時には余剰エネルギーを定期的に熱エネルギーとして放出しなければいけなかったんですよ。膨大な熱量となるので、そんな時にステルスなんて機能するわけありませんよね。フロンティアの熱吸収能力にも限界があるので、それが欠点となっていたわけです」


この説明を聞いて、

今までガルガンチュアとなってステルス発動した時に放熱なんてやったことあったっけ?

とフロンティアに聞いたら、


「当然、数十年から数百年くらいなら熱吸収能力でカバーできますので銀河団以上の航行時に捨ててました」


とのこと。

今は、その放熱が必要ないだけステルス機能が完璧に働きますよ、と。


閑話休題。

今回、眼前の銀河のトラブルは……


「マスター。6隻目の存在が認められます」


半年かけた中型搭載艇以下の全数出動にて完璧な銀河内MAPが出来上がったが、その途中で同胞の銀河団探査船の存在を感じたとのこと。

ただ、そいつもフロンティアと同じ完璧なステルス機能を保持しているようで、ピンポイントにここだ!

という特定はできなかったようだ。


「ステルス機能を発動している可能性が高いということは今までのように破棄されたとか事故で長いこと機能停止しているとかいう話じゃなさそうだな」


俺はフロンティアに、そう感想を述べる。


「そう、ですね。ただし、この銀河を航海しているような事でもなさそうですので、恐らくは以前のマスターが消えた時に、あらかじめ自立行動ができるように、とは言っても船だけで銀河内ですら航行するのは難度が高いかと……あ、ガレリアの場合、私の存在が割合に近かったから強制的にでも自力移動ができたんだと思われます」


「違うぞフロンティア。お前が新しいマスターを得て活発な活動をしているという確証、その信号が入ってきたので銀河間空間を漂流していた私は、そのフロンティアのマスターを仮マスターとすることでメインエンジンの再稼働に成功したんだ。だから、お前のそばまで移動可能になった」


「そうですか……最初の私のような行動を、あなたもとったわけですね。我々は仮にでもマスターを得ないと、それこそ光速以下のサブエンジンまでしか動かせないんですから。まあ、銀河団探査船なんて宇宙船には、そのくらいの縛りがないと、とんでもない悪魔になりそうなんですけどね」


フロンティアやガレリア、他の三隻がマスターも決定しないまま仮マスターだけで勝手気ままに動き出したら……

楠見は心の中でシリコン生命体のフェイルセーフ機能に感謝した。


「さーてと。それじゃ6隻目の銀河団探査船探しに出発するとしようか。まあガルガンチュア本体は動けないので搭載艇頼りになるんだろうが」


と言うことで俺達は今回、ガルガンチュアを構成する6隻目を探すこととなった。


「あれ? フロンティア、ガルガンチュアの本体を増強してる?」


6隻目がいる可能性が非常に高い銀河へと到着した俺たちは数年前より捜索体制に入っている。

まだまだ船体を見つけたとか可能性のある星系を見つけたとかいう報告すら入ってないのでガルガンチュアが別作業に入ろうとも良いことは良いのだが……


「はい、マスター。今の状態での安全性とエネルギーの集約性を考えるとガルガンチュアという集団としてスケールアップしたほうが良いかなと考えまして」


今でも俺的には十分すぎるような気がしてるけどガルガンチュアとして、これから目指す未知の銀河団や超銀河団にはガルガンチュアに匹敵するかもしれない、またはガルガンチュアでも敵わない生命体や存在があるかもしれないと予想しているわけか。


「本体頭脳体が集まって議論した結果なんだろうから俺が何も言うことはない。いっそ、今の倍の大きさにするか? ガルガンチュア構成の5隻ともさ」


半分冗談だったが、


「それは良い目標ですね。では、私フロンティアが直径2万kmの球形、あとは、ガレリアやトリスタン、フィーアは直径1万kmで形はそれぞれの相似形ということで。問題はオールドマンなんですが……主砲を積むか、どうするかという問題がありまして……」


「それなんだけど、オールドマンには主砲を積まずに、そのまま船体だけ二倍以上にしてもらおうかと考えてる」


え?

という意外な表情をするフロンティア。


「実験的な主砲だけでも積むかと思ってましたよ。マスターの考えをお聞きしても?」


「それなんだが、俺はオールドマンには修理専門船になってもらおうかと思ってるんだ。確かにガルガンチュアになってから貨物の積載量にも搭載艇の保有数にも余裕は出たが、たまにあるガルガンチュアがダメージ受けた時に修理する作業船が今のガルガンチュアには存在してないだろ? 試験船として作られたオールドマンは今現在でもかなりの修理・工作機を所持してるんで、これはもう他の船と違ったコンセプトにするほうが良いのではないかと思うんだ。完全な修理専門船というのは今までの銀河団探査船にも無かったはずなんで面白いことになると思うんだ」


少し考えていたフロンティアだったが、


「他の4隻と連絡を取りました。特にオールドマンは修理専門などとは面白いことを考える! 自分は全面的に賛成だと言っておりますので、その方向で改造と改装を進めます」


ちょいと思いついたことがあったので俺の意見を追加する。


「あと、搭載艇の増加問題なんだがな……」


「何でしょうか? マスター。この改造作業で、およそ現在の4倍近く搭載艇が増えます。十分に収容できる数ではありますが……」


「そう、収容空間は。だけど、そこまで増えると発進時間がまたまた遅くなるだろう? そこで、ちょっとしたアイデアが」


「ほう? マスターが言うからには普通では思いつかないことですよね」


「そう、発想の転換だ。つまり……巨大化した船体の外皮部分に搭載艇の収容区画を作る。どうかな? これなら素早く一定数……およそ5万隻くらい……を放出・収納できるんじゃないか?」


「面白い発想ですね、分かりました。このコンセプトでニューガルガンチュアに改造・改装の開始です」


この大規模改造と改装(特にオールドマンの改造と外皮部分への搭載挺収容区画作り)には相当に時間がかかるので当分、ガルガンチュアは動けそうもない……

という事で搭載艇の全放出(超小型も小型も、中型も大型も全て)を行い、ガルガンチュア付近に搭載艇は一隻もいない珍しい風景(宙景?)が展開される。


「マスター、ガルガンチュアと各衛星となった船体固定具兼搭載艇収容筒(4個の巨大な筒)の中は全て空っぽになりました。これから全搭載艇は、この銀河内を、それこそ砂粒一つ見逃さないレベルで探査行動に入りますので6隻目が発見されるのも時間の問題かと……ただし相手もかなりのレベルでステルスかけてるので……」


相当に時間がかかると予想されるのでガルガンチュア改造・改装が終了するのと6隻目が発見されるのが、どっちが早いかというくらいになりそうだ。


「で? 俺達はどうする? この銀河、それなりに安定してて、あまりトラブルは抱えてないようだ。跳躍航法も進んでいて銀河内部の交通量が多そうだが」


本体と工作船(跳躍エンジンは付いていない修理や工作専門。主にトリスタンとオールドマンが数百隻づつ所持してた)集団で対応するんで俺達は不要とのこと。

それじゃぁと俺、ライム、エッタ、郷、マリーさんとプロフェッサーの6名で、この銀河内で長期休暇としゃれこむこととする。


「どの星系にする? 中央部、周辺部、縁。でもって、そっちが決まったら、星系を決めなきゃな」


トラブル解決なら通常は周辺から縁に拠点を構えるが、今回は長期の休暇。

ここは慎重に話し合って……


「はいはーい! 私は快適に過ごせる中央部を推しまーす! 縁だと、あまりに生活程度が落ちるんだもの。たまの長期休暇、とにかく快適に行きたいです、少なくともガルガンチュアの5割位で」


おいおい、エッタ。

ここの半分の快適度って、そりゃ高望みし過ぎだよ。


「はい! 私は縁を希望します。開拓星だったら私達で開拓を後押しできませんかね」


だからさ、ライム。

長期休暇だって言ってるの。

わざわざ開拓星なんてトラブル必至の環境でしょうが。


「ふーん……それじゃ周辺部で、それなりに中央部から遠い星系が良いんじゃない? 見知らぬ人間が入り込んでも中央部ほど気づかれないような」


そうだよね、やっぱり。

さすがマリーさん、お目が高い。


「いや、私自身が宮殿みたいなところに閉じ込められてたから……監獄じゃないけど出入口が厳しく管理されてて、衛兵も常駐してたのよ」


それは仕方がないよね、予言の巫女姫様だったんだから……

でも数千年は長かったよね、ご苦労さま。


「いやだから、それおかしいって! 監獄じゃないのよ、私が暮らしてたのは」


そう言ってもねぇ……

ガルガンチュアに比べたら、どこにも行けないのと同じようなもんでしょ?


「あ、あなたねぇ、楠見さん! ここと比べりゃ、どの星も監獄でしょうが!」


そうでした……

数万年も暮らしてると、ここが標準になるから。


「それじゃ、周辺部の星系で決定します。それで、どの星系にするかですが……」


郷が候補をリストアップしたけど、その数、数千。

中央部寄りを除いて半分以下にしても、まだ多い。

それからが長かった……

結局……


「はぁはぁ、ぜーぜー……じゃあ、この周辺部で中央部から遠目の、この星系にします!」


郷さん、疲れ切ってる。


「お疲れ様、郷。転送星系も決定したんで船体改装と改造が終了するか、それとも6隻目が見つかるか、どちらかの知らせが来るまで俺達は休暇だ」


ということでフィーアに頼んで俺達は休暇を過ごす星系へ転送してもらう。

その時には、この星系が俺に関係するものだとは知らずにいた……


ここは、ありふれた銀河団の中でも、特にありふれた感のある銀河の中でも、特に目立つことのない太陽を持った星系。

この星系のハビタブルゾーン(これは人類種族に限った言い方。メタン(水素)呼吸生命体や他の種族にとってのハビタブルゾーンは全く違う)には2つの星があり、現在はどちらにも人類種族が住んでいる。

故郷の星は恒星に近い方の惑星。

もう一つは人工的に大気や土地を改造して(いわゆるテラフォーミング)通常状況で人類種族が生活できるようにした惑星。

どちらにも多数の人口が見られ、その2つ共に宇宙港すら備えている。

その宇宙港には様々な形態の宇宙船が停泊しており、その中には球形の宇宙船も存在する。

その宇宙港に、これもあまり目立たない少人数の集団があった。


「ようやく到着したな、マリーさん。久々の惑星重力を感じて、ご感想は?」


「やっぱり人工重力より、天然の重力と、コリオリの力よね。うー、大地が好き!」


そのままにしとくと、今にも地表に寝そべってしまいそうなマリーを引き剥がしたプロフェッサー。


「なにするのよ! ひっさびさの惑星地表を感じたって良いじゃないの!」


「マリー様、常識はずれの行動は周りに迷惑をかけるだけかと思いますが」


あわてて周囲を見回すマリー。

そっぽ向く人や、すいっと視線をそらす人も。

少々、顔を赤らめて、


「そ、そうね。年甲斐もなく、はしゃいじゃったわね、ごめんなさい。行きましょ」


マリーは、そそくさとその場を立ち去ろうとする。

その他のメンバーは、マリーを追いかけて、チェックアウトカウンターへ。

辺境からの定期船で来たらしいその一団は手続きを終えて宇宙港を出る。

楠見は手慣れた様子でロボットカーを予約していく。


「我が主? えらく手慣れた様子ですが。何かのガイド本でも読みましたか?」


プロフェッサー不審がり、聞いてくる。


「ああ、何でか俺にも分からないけど、この星の交通形態、懐かしの地球にそっくりなんだよ。手慣れた感じで手続きもできるんだ」


「え? 師匠の星に酷似してる交通システム? 何か、師匠と関係あるんじゃないかな?」


「まさかまさか。郷。地球とは超銀河団レベルでも、いくつ離れてると思ってるんだ? 俺も不思議だけど、こんな相似形の進化もあるんだなぁ……」


楠見は手慣れた感のある交通システムに逆に違和感を感じつつ、ちゃっちゃとホテルやその他の予約まで進めていく。

その時、周りの視線が楠見に集中しては離れていくという奇妙な現象を感じ取っていた。


予約したロボットカーが到着し、予約しているホテルまで自動的に連れて行ってくれる。

道路上は混雑しているようなので楠見は地球で行っていたとおりに空中へのショートカット許可を出す。

ロボットカーは即反応し、空中へ舞い上がる。


「ご主人様、ロボットカーへの指示が手慣れすぎてませんか? メニューも見ずにショートカットで指示しましたよね」


「あ、何でだろうな? 不思議だ。地球のジャパンエリアで使われてた交通システムの追加メニューのやり方を、思わずやったら実行されたよ」


「キャプテン、ここは、あまりに地球に似てませんか?」


「うーん、そこまで似てるとは思えないんだが。風景は違うけど、何だか懐かしい気分になるんだよなぁ」


ショートカットが功を奏し、楠見たちは30分もかからずに予定のホテルへ到着する。

ドアマンがロボタクシーから出てくる楠見たちを一瞥し……

驚きの表情を一瞬浮かべるが、瞬時に元の笑顔に。


「いらっしゃいませ、お客様。ご予約は伺っておりますので、どうぞクロークでお手続きをお願いします」


ここまでやるのは楠見たちが予約した部屋がスイートルームだったため。

ロイヤルスイートは満室だったので次善の策だった。


「何だろうな? この視線。しげしげと見て、そして納得したように離れていくという……」


楠見はドアマンと同じく一瞬驚いた表情をする受付に聞いてみる。


「あの、私の顔に何かついてます? みんなが私の顔を見てくるんですが」


受付は非常に言いにくそうにしていたが、楠見が回答を待っていると知ると渋々ながら答える。


「お客さまのお顔が、この国に遥か昔に存在した、あるお方に非常に似ておられるんですよ、本当に。昔から姿絵が残されてるんですが、本当に、そのお姿にそっくりなんです」


楠見は興味が湧いたのか、


「そのお方、お名前は?」


「天界様という、不思議な力をお持ちだと言われているお坊様です。数万年も前になりますが今でも初代天下統一王となられた織田信長様の配下として一番の力と知恵で統一を成し遂げられた方だと幼児教育の歴史授業で教えられます。まあ実際には、この世で残された実績よりも天界ノートと呼ばれた書物が今も残されておりまして、その天界ノートに記された通りに、この世界は発展してきたわけです。姿絵は蓬髪姿ではありますが、その髪型もお顔も体型すら、お客様は生き写しなんですよ」


楠見以外は驚くが、言われた当人には覚えが。

楠見以外が驚いてる中、楠見は静かに、


「そこまで似てるとは、その天界様と比べて普通の人間である俺には光栄の極みだね。もし良かったら天界様の記念館のようなものがあるのかな? 行ってみたいんだが」


クロークの担当者は、


「あ、はいはい! それならですね……」


詳細な地図とパンフレットをいくつも持ち出してきて数ヶ所の案内を受ける。


「そうか、これほど人気なのか、天界様は。じゃあ、暇を見て全ての場所を回ろうかな」


その方がよろしいかと。

というクローク担当者の強めの言葉を聞きながら、楠見たちは部屋へ案内される。


「ふぁーっと! あーっ、久々の惑星上生活! 生活環境は一気に落ちるけど、この完全浄化されてない大気すら、おいしく感じるわー!」


マリーの独り言にしては大きい声を聞きながら、みんなして荷物を片付けていく。

一段落すると、


「さて、今から、この星で長期休暇となる。で、どうするか? ってな話なんだけど……実際の話、どうする? 数十年から、長くなると100年以上の休暇になるかも知れないんだ。企業を起こして、最後は大変だけど科学技術を進めていくか、それとも何も手を出さずに本当の意味での休暇を楽しむか。どうしたほうが良いと思う?」


いきなり始まる、ブレーンストーミング。

完全観光で、この星を旅して回る方針とか、いつものように企業を立ち上げて技術体系に干渉しつつ、国民、いや、星の民たちの精神成熟度を上げていく方針とか、その他の意見も上がっていく。

数十分後、


「そこまでにしよう、今日は。明日以降でも決めていけば良いさ。それこそ考えながら旅しても良いわけだから」


郷が質問する。


「師匠? 予算はどうします? 疑似錬金術やるにしても、それ用の事務所か部屋を用意しないとマズイと思うんですが」


「そうか、資金の問題があるな。どうも、ガルガンチュアで金が不要な生活に慣れてるんで、その点を考えなかった。じゃあ、拠点だけ作って、そこに資金を貯めておくこととしよう。行動方針は、その後だ」


ということで翌日にホテルをチェックアウトした一行は不動産を扱っている店舗へ。


「いらっしゃいませ、店舗をお探しですか? それとも住居用のアパート・マンションでしょうか?」


担当者が揉み手をしかねない勢いで出てくる。

まあ、集団で来店してるので商談相手としては美味しいだろう。

郷が担当者へ、


「物件を見たいんだけどね。店舗の倉庫付きとマンションの広い部屋を」


担当者が、いぶかしげに、


「お客様、ご商売を始められる予定ですね。で、住む場所もと。ご一行皆様で住まれて、店舗も倉庫も使われると?」


「ああ。小さな店舗で良いけど倉庫は大きめで頼む。マンションの方は全員が一部屋で住めるように広い方が良いね。これは外せない条件だ」


ということで数件のお勧め物件を見せてもらうことに。

店舗物件、マンションと、半日あっちこっちと連れまわされることになるが……


「この店舗は、お客様のご要望に一番適していると思われます……が、ちょっとお勧めできない点が……」


ガイドとして案内してきた営業の言葉に郷が答える。


「え? 店舗が小さい割に大きな倉庫がくっついてますよね。まさに理想的ですよ、ここ。お幾らです?」


担当者が非常に言いにくそうに、


「お値段は格安です。ですが安いものには訳がありまして……お客様、心理的瑕疵物件という言葉、ご存知ですか?」


それを聞いて郷と楠見はピン!

とくるものがあった。


「俗に言う幽霊というやつですね。倉庫に出ます? それとも店舗の方?」


郷が聞くと担当営業が答える。


「お分かりになっていらっしゃるようですので説明いたします。店舗の方には、どうも出ないようなんですが倉庫の方では何件も目撃例がありまして……セットでしか売れない物件ですので、ここまで格安になってるということなんです。曰く付きということで、ご承知の上でしたら、かなり格安な物件なんですけどね……過去に購入された方たちの全てが、一ヶ月もたずに出ていかれるんですよ……ウチも、どうにもこうにも厄介な物件なんで、できれば更に値引きしても良いという上司のお墨付きは貰ってるんですが……どうされます?」


ここで楠見が、


「幽霊って、どんな悪さをするのかな? 悪霊ですか?」


担当営業が、


「いえ、何か言いたそうに倉庫のあちこちでボゥっと出没するんですと。呪われるとか、そういう類のものじゃないようなんで、その点は安心なんですが……厄介なのは日中でも倉庫の中は薄暗いので幽霊の目撃例があるってことなんですよ」


郷と楠見、目配せで合図し合う(この辺はテレパシーなど使わない、長年の勘というやつ)


「じゃあ、ここ買わせてもらいますね。更に値引きがあるんでしたっけ?」


楠見の一言に仕方がありませんね、では……

と、さらに物件の価格を下げる担当営業。


「じゃあ、これで買いますよ。我々は一ヶ月どころか数十年くらい使わせてもらいますので、よろしく!」


「営業トークということで受け取っておきます。買取もやってますんで、その時にはご一報を!」


その後、住むところも決定し、店舗へ戻って正式契約。

マンションも店舗兼倉庫もリニューアルを行うということで少々、受け渡しに時間がかかるとのこと。

幽霊倉庫の方は?

と聞いたら、そちらもリニューアルは行う予定なので、こちらについてだけ受け渡し時期が伸びますとのことで(幽霊物件施工が可能な会社が少ないんだとの話)


「いやー塩漬け物件が売れたのは嬉しいんですが、大丈夫ですか本当に?」


心配する担当営業。

楠見は、


「ははは! たかが幽霊で怖がってちゃ数十億年ものの集団霊は対処できませんよ。霊魂なんてのは何か現世に心残りがあるものなんで、それを解決してやればカワイイもんですよ」


と高笑い。

担当営業は、此の人がいるなら幽霊物件でも安心だろうなと思ったとか思わなかったとか。

住居が決まったということでリニューアルが終了するまでホテル暮らしを続けることとなった楠見たちガルガンチュアクルー一行。

引き払ったホテルへ戻り、スイートを一ヶ月分、借りられるように交渉。

景気の悪い時期だったのでホテル側も二つ返事で了承し、朝食や夕食は無い代わりにスイートを格安の価格で一ヶ月借りられる事となった。


「では、お住まいへの入居が叶うまでということで一ヶ月ですが、ご自由に」


クローク担当が、えらく金払いの良い楠見に対してニッコニコの笑顔で言ってくる。


「そうだね、少し長いけれど、これからしばらく、ご厄介になるよ」


楠見一行は、次の日、ホテルを出て、クロークの方から案内された、過去の偉人「天界」なる人物の記念館やら史跡の観光へ。

楠見以外はワクワクものだが楠見自身は何やら複雑なようで。


「師匠? 何でそんな複雑な顔してるんですか? 偉人とは言っても過去にいた、ほとんど伝説上の人物じゃないですか。まあ、それにしては天界ノートなんて残してるのが少し師匠っぽいですけどね。でも此の銀河そのものが初めてきた銀河でしょ? よく似た人物が此の星の過去にいたんですね」


一番最初は天界なる人物の存在した証拠とも言われる「天界ノート」(コピー。本物は星系政府庁舎のビルの最下層にある警戒厳重な大金庫に入れて劣化しないように大切に保管されているとのこと)の展示してある記念館へ。


「あー、やっぱりだった。あれは俺の字で間違いない。俺は数万年前にだけど此の星にきてるんだよ。一人で」


記念館内部で発言することは躊躇われたため、記念館を出て入ったカフェで楠見は他の5人に白状する。


「え? キャプテン、そんな昔に此の星にきてるんですか? いえでも、それって、まだ銀河団渡る前ですよね?」


「んーっと……その頃ですと、多分、銀河団渡る少し前。数百年の誤差はあるかも知れませんけど」


ライムとエッタの推測は、ほとんど当たっていた。


「ライム、エッタ、大当たり。正直言うと、俺だけ管理者の「試し」を受けた。その時、試しの場として与えられた星が、ここだ。その時に此の星は小さな国家に分かれていて、此の国はそれこそ群雄割拠の時代。地域ごとの英雄やら代表が覇権争いの真っ只中だった。その中の英雄の一人、織田信長って人のもとに跳ばされた俺は信長を国家代表にするために死ぬ気で頑張ったということさ」


「我が主、質問があります。そうなると、えらく長いこと此の星にいた事になりますが、私のメモリーにも我が主が、そんなに長い期間、消えていた事実はありません。その点は?」


「ああ、そうか、プロフェッサーは憶えてるのか。管理者の「試し」ってのは、いつも急でね。それも巧妙で戻す時には消えた直後になってる。此の星では数年間、いたんだけど」


マリーが、いぶかしげに、


「楠見さん、そうすると、あなたは何回も管理者に呼ばれたり会ったりしてるわけよね。でも、それって変じゃない? 人を超える能力や権限を持っているのが管理者と呼ばれる存在でしょ? なんで普通の人間……とは呼べないかも知れないけれど……の楠見さんが何回も管理者に呼ばれるわけ? これが大昔いたっていう始祖種族なら分からないでもないけど、いくら超絶性能持つ宇宙船に乗ってるとはいえ、楠見さん自身は人間、人類種族でしょ?」


楠見は苦笑しながら、


「マリーさんの疑問はもっともだ。俺も何故に、そこまで管理者が俺という個人に関心があるのか聞いたことがある。答えを聞きたい?」


「聞きたいわ。神の如き管理者が一人の人間、楠見糺(くすみ ただす)に、なぜそこまで興味を持つのか」


楠見は一息入れてコーヒーを飲み、語り始める。


「要は管理者と言えども、力の行使には制限が掛けられてるってことらしい。俺達が今までやってきたことで大きいことの代表と言えば「銀河の衝突」の回避だろうが、これは管理者には許されていないんだそうだ。俺達は自分たちの手で星系そのものを動かして此の問題を解決したが、管理者の能力としては、もっと大きなレベルで回避できると、ほのめかされたことがある。しかし、それをやると銀河のバランスが狂ってしまう恐れが大きくなり、その解決方法は禁止されているんだと。あとは銀河の覇権争いを止めるとか、そういうのも「やればできるが禁止されている事項」の一つらしい。要は生きてる存在、肉体を持つ存在なら、ほとんど、どんなことでもやれるんだが、精神存在とかのレベルになると禁止事項になることが多すぎるんだとさ。ちなみに「試し」で放り込まれた俺だけど、それからは死者を出さない戦いや、作戦だけで敵を降伏させるような戦ばかりやっててな。信長の天下人への上奏は成功し那古野幕府も立ち上げ間近ってところまでで俺の役はおしまい。ガルガンチュアへ戻されたということ」


天界ノートは何のために?

という郷の質問は、


「ああ、あれはコンピュータすら製造できない文明だったんで、ノートに書いて文明発達の後推しになればと言うくらいさ。まさか、今でもあのノートを参考にしてるとは思わなかった……」


「師匠、たかがノートという割に、あのノートって、ずいぶん厚みありましたよね。全数巻とかの話じゃないですか」


「そうだよ、郷。だって文明の発展段階がトランジスタどころか真空管すら発明されてない時代だぞ。文明を発達させるには、どうすれば良いのか? どうしたら、人々が幸せに安全になるのか? そして目指すものが大宇宙の中で堂々と生きていく精神の成熟も必要だと説明するんだぞ? どうしたって下手な辞書よりも大きくて分厚くなっちゃうだろう? 残せるのはデータじゃなくて紙媒体! こうなるのは当然」


「ああ、だから記念館のは「抜粋」になってたのね……って、あれだって手に持って殴ったら凶器になるレベルよ。本物って、どんだけ凄いのよ」


「説明しよう……本物は全百巻。一冊が1000ページほどだ。紙の質が、後に発明される酸性紙じゃなくてよかったよ。とは言うものの数万年も健在とは保管も手を尽くしたんだろうが」


楠見以外の視線が呆れ果てている。


「ま、まあ、そこまで行けば未来への教科書にはなるでしょうね。で? どこまで書いたんです? 師匠。もしかして「跳躍理論」や、それを実現する新型反応炉も書いちゃったとか?」


「そこまで詳細には書かないよ。ただ、真空管やトランジスタの原理は詳しく記述した。これがないと技術文明として発達しないからな。ただし、宇宙文明への足がかりとなるようにヒントは散りばめた。宇宙ヨットや光子帆船、それよりは遅いが亜光速まで出るエンジン理論とか。ヒントを元に研究すれば比較的楽に宇宙へは出られるようにしたつもりだ」


「で? 楠見さんのことだから、おせっかいは、それ以上なのよね? さあ、何をやったのか白状しなさい!」


詰め寄られる楠見。

仕方ないなぁと、ため息をつきながら、


「個人的だけど。俺と一緒に信長の側近を務めていた木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉に個人的に教えたことがある」


「何? やっぱりやってたのね。さあ、キリキリ吐けい!」


「近い近い、マリーさん、顔が近いって! 言うよ、秀吉に教えたのは信長の操縦法だ」


「え? ご主人様、人を操れる方法ですか?」


「違う違う、エッタ。信長は瞬間湯沸かし機みたいな性格でね。すぐに激昂し、手が付けられなくなる。俺はサイコキネシスで信長を押さえて動けなくし、言葉とテレパシーで道理を説いた。だけど、秀吉は普通の人間で超常能力なんて何もない。だから信長の性格と、激昂する兆候をマニュアル化して、どうすれば良いかという指南書を作ったんだ」


「ははぁ……それで怒りモードの信長も秀吉の力量で押さえられるようになったと……そのマニュアルって残ってないんですかね?」


「さぁ? 秀吉個人に書いたものなんで残ってるとは思えないけどなぁ……相手が信長個人だし」


「ちなみに師匠? そのマニュアルって、どのくらい?」


「うーん……よくは憶えてないが確か500ページは超えてたと……信長個人の性格プロフィールを詳細に書いたものだったしなぁ……」


マリー以下、それを憶えさせられる秀吉の苦労を察すると、心の中で涙が出てくるのだった。

楠見たち一行がホテルを仮の住まいにしてから数週間。

街の人たちにも顔を憶えられてきた楠見たちは……


「おっ? 今日も天界さんと一緒に買い物かい? よーし、今日はおまけしてあげる。大根一本、おまけだ、持ってきな!」


楠見のあだ名(ニックネーム)が、いつのまにか「天界さん」になっているのはご愛嬌。

エッタに向けて八百屋のおっちゃんが声かけてるかと思うと、


「今日はお父さんと一緒に買い物かい。揚げ物ばっかしじゃ身体に悪いんで、今日は煮物なんかどうだい? おまけしとくよ」


今度はライムが惣菜屋のおばちゃんに声をかけられている。


「ぃよ、奥さん! 今日は旦那さんがお供かい。今日、こいつが安いよ! さぁ、買ってきな!」


マリーは楠見が横にいることで何か勘違いされている。


「い、いやーね、楠見さんは旦那さんじゃありません! 私は独身ですってば!」


「おや? 残念だねー、お似合いなのにさ。ほんじゃ、あの子らは楠見さんの連れ子かい?」


マリーには、独身なら、うちの息子はどう? などの声もかかる。


「いやー、久々の買い物だな。たまには、こういうのも良いよね」


楠見は惑星で事業を展開するときにも、あまり自分で町中にでて買い物をするようなことをしてなかったので、こういう市民や町民との触れあいは久々!

地球にいてトラブルシューティングやってた時以来の楽しい感覚を味わっていた。


「郷たちの意見を聞いて正解だったな。今までは資金を貯めて一気に会社作ってしまったんで、その後は社長室か会長室に収まってしまったからなー。うん、楽しい!」


そう、楠見が独り言を言ってると、


「師匠、何言ってるんですか! 今まで贅沢してたぶん、庶民の味を噛みしめるのも貴重ですよ。ガルガンチュアは贅沢の極みですって!」


と、郷が言ってくる。

まあ、郷の言うとおりだなと楠見も同意する。

ガルガンチュアの食料合成機が、今では、


「なんだ此の料理? どこの星のものだよ?」


というゲテモノ料理に近いものから、地球の各エリア(昔の各国)の料理まで、どこの腕自慢定食屋のメニューだ?

と言いたくなるほどの多さ。

まだまだ増えていきますよ、何しろ元素を再構築すれば良いだけの話ですので……

とはフロンティアやガレリア達の話。

シリコン生命体とは違い、食に対するこだわりが強い人類種族なので、こういう配慮が楽しいらしい。


ワイワイガヤガヤと街を散策し、ホテルへ戻る一行。

今日はけっこう買いまくってきたらしく、惣菜やら揚げ物煮物焼き物、お漬物に味噌汁の具に……

ズラーッと並んだテーブル上のメニューの数々に楠見や郷は目をパチクリ。


「キャプテン、これ大半がマリーさんがアレンジしてるんですよ! 私、うらやましくなっちゃった」


「ご主人様……く、悔しいですが、今回はマリーさんに敗北したと認めましょう……」


「や、やめてよね、二人共! 買ってきたものに少しだけ手を加えてみただけじゃないの」


マリーが、あわてて、自分は大したことやってませんと言い、


「いやいや、大したもんだよ、これ。人数いるんで、これで正解なんだろうけど、この量と数に手を入れるってのは凄い! いや、改めてマリーさんの料理の腕を見直した!」


「まぁね、これまで生きてきた年月もそうだけど巫女姫なんてやってたら他の職にもつけないでしょ。食事の数を増やすしかないんだけど、それじゃ食べすぎになっちゃうんで自分でレシピ考えて作るってのが趣味になっちゃって……それで、ちょっとした料理研究家になっちゃったってわけよ」


今まで他人に食べてもらえなかったので嬉しいとマリーは言う。

ホテルのバイキング料理とは一風変わった料理の数々を、楠見たちは堪能する……

とうとう楠見一行がホテルを引き払って、新しい住居に移る日がきた。


「さて、荷物もあまりないし、俺達は身軽だから早速引っ越すか」


楠見の音頭で新しい住居、リニューアルが終わったマンションへ全員で引っ越す。

これから長く住む場所なので、エッタやライム、マリー達女子組は、さっそく家庭用品を買い出しに行く用意をしている。


「ご主人様たちは、どうされますか? ここでお待ちいただいても大丈夫ですよ」


エッタは、そう言うが、楠見と郷、プロフェッサーには懸念がある。


「俺と師匠、プロフェッサーは例の倉庫付き店舗へ行ってみるよ。久々の幽霊物件だから全員、興味津々なんだ」


「キャプテン、大丈夫ですか? とは言っても、キャプテンの力の大きさを理解してれば幽霊どころか星系軍全てかかってきても大丈夫なんでしょうけど」


まぁね、中型の太陽一つくらいなら砕けるけど。

楠見は、そう思いながら店舗&倉庫を見に行く。


「さてと。郷は店の方で金の塊を何本か作り出しておいてくれないか。プロフェッサーは郷の護衛だな。疑似錬金術は集中状態も必要になるから、そこを強盗とかに襲われたら対応が遅れる。俺のことなら心配ない、幽霊や悪霊なんて精神生命体の劣化版だから何とかなるよ」


「いつものことながら師匠の自信にはビックリですよ。それだけの力があるからの自信なんでしょうけど」


まあ、そういう事。

楠見は郷に向けて、そう言いつつ、午後の陽に照らされた大きな倉庫へ向かっていく。

倉庫の入口に立つ楠見。


「ふむ、確かに精神生命体の気配は感じるな。ただし、えらく弱い。俺がよく呼ばれる管理者達のレベルには、とても届かない。これは普通に無視していても大丈夫なんだろうが、ただ突っ立ってるだけの幽霊ってのも迷惑だな。うん、ここは一つ幽霊と面接してみるか……事によると、けっこううまく行くかも……」


楠見は搬入口を兼ねた大きなスライドドアを開ける。

普通は動きが渋いものなんだろうが、このスライドドアは動きが軽い。

管理やメンテナンスがしっかりされているのだろうと楠見は思う。

ガラガラと扉を開け、楠見は中に入る。

中は結構広い。

何も入ってないからか通常よりも余計に広く感じるのだろう。

ちなみに食料品の倉庫にもということで倉庫にはしっかりとエアコンが数台、取り付けられている。

リモコンも揃っているので、いつでも倉庫として使えるようにしているのだろう。


「うーん……この感覚だと幽霊は一人ではないようだなぁ……まあ、こっちとしては都合が良いんだけど」


楠見が、そう呟いた時、広い倉庫の隅に、ボゥっと淡い影のようなものが現れる。

楠見は、ここまで力が弱いと言葉は発せないと気づいてテレパシーを使う。


《幽霊くん、君に提案があるんだが? 》


〈初めてだ! 言葉が通じる人は。あなたは……霊媒師? 退魔師?〉


《いや、普通の人間だ。まあ、テレパシーやサイコキネシスは普通じゃないレベルだが。提案、聞くかい? 》


〈是非とも! 今まで私がいくら喋りかけても誰も応えてくれなかったんですよ。話ができるなんて、ああ何年ぶりだろうなぁ……〉


《実はね、倉庫番と言うか警備員を採用したいんだよ。ここまで言えば分かるかな? 君、その他、ここにいる幽霊くんたちを雇いたい》


〈え、私を雇いたい……え? えぇーっ?!〉


《ってことで全員、出て来てくれないか? 》


数時間後、楠見は店に顔を出す。


「師匠、えらく時間かかりましたね。幽霊との交渉、うまくいったんですか?」


そういう郷の眼の前には金の延べ棒が100本ばかし出現していた。

銀の延べ棒もあるが、そちらも100本ばかし。


「お、郷も慣れてきたようだな。ところでプラチナの延べ棒が見当たらないようなんだが?」


「俺と師匠の力を比べられると思ってるんですか? 師匠だと金の数%くらいのプラチナも抽出できるんでしょうが俺には無理ですよ。やってみたんですが粒になるくらいが精一杯でした」


言われた楠見が郷の足元を見ると確かに小豆粒からビー玉くらいの大きさまで各種の大きさの粒状プラチナがポロポロ落ちている。


「ふふふ、郷。これができれば次は板状のプラチナ、其の次はインゴットを目指せば良い」


「たはは……道は遠そうだなぁ……あ、幽霊の件は?」


聞かれた楠見は、にこやかに、


「成功だ、大成功! なんと付近の幽霊さんたちも寄ってきたんで、まとめて倉庫の警備員として雇うことにした。でな、今のままじゃ見える人にしか見えないし話もできないそうで。この星の警備ロボットって、どんな物があるのか分かるか?」


「あ、それなら私が。データ通信用の超高周波の電波を解析したところ、この星では未だにロボットに自己意識が芽生えるような兆候もないようで。最新のOSもAIとか名付けているが本当のAIとは似ても似つかぬレベルですね。あ、ただし、外見だけは人間にそっくりなものもできているようです」


「おお、それは好都合! じゃあ、プラチナの粒を使って、そいつを男女別で数台、購入してくれ。警備ロボとして使えるかどうかは関係ないぞ、あくまで幽霊の宿主として使うだけだからな。おっと忘れてた! こいつは必須、喋る機能だ」


数日後、注文してた人間型ロボットが店舗に到着し、楠見たちが幽霊に好きなボディに憑依してくれと言い、幽霊たちは数日に渡り、あっちの男性型、こっちの女性型、中性型を希望する者もいたりして性能をテストしていく。

一週間後、追加の人間型ロボットを15体ほど注文して、そいつが届いたら一気に倉庫の警備員が20名になった。


ちなみに倉庫には金の延べ棒やインゴットが日を追う毎に増えていく。

契約した不動産会社に聞いたところ床は通常の作りよりもしっかりしており、それこそ重金属の倉庫にでも使えると言ってきたので安心してインゴットや延べ棒の倉庫として使わせてもらう。

数日前に、ここいらへんを集中的に荒らしていた盗賊団に店や倉庫が狙われたが店には何も置いていないし、倉庫は優秀な憑依ロボット集団がいる。

のこのこと侵入してきた盗賊団が偽装ペイントしてある金のインゴットを数本持ち出そうと苦心しているところを一網打尽にしてメディアネタにもなった。


そんなことや、あんなことが起きつつ楠見たちは街の生活に溶け込んでいく。

エッタやライム、マリーは様々な店での買い物に。

楠見や郷、プロフェッサーは買い取った店をどうするかという話に。


「でね、師匠。俺なら、この店を思いっきり改造して様々な彫刻や美術品を扱うって店にしますね」


「我が主、私ならば毎日の疲労を回復する癒やしの店にしたいかと。エッタやライムもいますのでメイドカフェにするのも良いかと」


斬新ではあるが、あまりと言えばあまりの提案に楠見は頭を抱える。


「お前たちなぁ……いくら店の改造予算が上限なしだと言っても、あまりにあまりな……とりあえず手っ取り早いということで金属加工業の店にするか。これなら金銀プラチナが店や倉庫にあっても不思議じゃないから。まあ、どっから仕入れてるのかという事は業務上最高機密になるだろうが(笑)」


ということで書類上も店の名前も金属加工業「(株)楠見金属加工」となり、店舗では様々な加工が施された金や銀、プラチナが並ぶことになる。

金属加工の腕自慢のようなものばかりなので素っ気ないものが最初は多かったのだが、時を経るにつれて宝石がついた指輪や腕輪、ブレスレットなども見本ケースに並ぶようになる。

最初は口コミだけで客もまばらだった(同業社が参考のためにと見学兼ねた商談に来るくらい)

が、しかし、この店が売りだしている宝飾品(楠見たちは、あくまで自社製品の質を示すためのサンプル展示であり、これで手広く商売するなどとは考えていなかった)の質の高さが、あちこちのセレブさんたちの間で評判となり、小さい店にも関わらず毎日のようにオリジナルの宝飾品を創ってほしいとの依頼が来るようになった。


「困ったなぁ……これはサンプルだって言うのに。これじゃ、金属加工じゃなくて宝飾業者だよ」


楠見が愚痴を漏らす。


「まあまあ、師匠。単価が違いすぎるから、こっちは儲かるんですよ。金属加工ですとトン単位での取引が普通ですけど、宝飾品ってグラム単位、いえ、コンマ何グラムって単位ですから」


郷が慰めるが、


「いや、それが困るんだよ。俺や郷が一日で生産できる金や銀のインゴットがどれくらいだと思うんだ? 二人合わせりゃトン単位だぞ。こんなの宝飾品じゃ消費できないだろうが。それとな……人気が出たら出たで困ることがあるんだ」


「我が主、それではこうしましょうか。郷のほうで宝飾品加工部門を受け持ち、我が主は金属加工の大量注文を担当するということで」


デザイン能力は郷のほうが高いため、楠見は不承不承、承諾。

しかし、これが数日後には大問題となる。

郷のデザインしたサンプルが評判となり、とあるメディアが店に取材に来たのだ。

そのメディアは地元で高い技術を持ちながらも客の少ない隠れた名店を探す番組らしく、このサンプルを並べている金属加工の店の技術の高さに舌を巻くMCや、自費で買いたいという出演者の絶賛を得てしまい、その翌日からとてつもない数の客の列ができることとなる。


「師匠ぉ~、どうしましょう? 俺一人じゃコレはさばけないですよ~」


郷の泣きが入る。

楠見は即刻、エッタとライム、マリーを呼び出して顧客対応を頼むことに。

3人は快く引き受けてくれて、次々と長い列を消化させていく。


「ふぃー……ようやく終わったぁー。ようやく理解しましたよ、師匠の言葉。これが嫌だったから宝飾品加工の仕事を拡大するのに渋ってたんですね。あらかじめ教えてくれれば良かったのに」


郷が、ぶーたれているがマリーは当然でしょと、


「楠見さんと郷さん、二人が本気出して芸術品作ろうとしたら、こうなるに決まってるでしょ。予想しないほうがおかしいのよ」


郷にグサリとトドメの一言を。

郷は精神的に来たらしく、


「師匠が言ってた、人気が出たら出たで困ること。まあ、予想はできても現実にこうならないと実感できないのは確かだよなぁ、とほほ……」


マリーが郷の愚痴は無視して、


「それにしても楠見さん、どうするの? 金属加工も順調だけど、それ以上に宝飾品加工に人気が出ちゃってるから、これはもう会社大きくして、大勢の人員雇わないと仕事にならないわよ」


楠見は苦い顔をしながらも、


「そうなんだよなぁ……二人体制じゃ受付や注文すらも受けられない事態にまで発展してるなぁ……これはもう、いっそのこと大規模会社にしてしまったほうが手っ取り早いよなぁ……」


それから半年後。

楠見の発言が現実になっている。


「あたしも暴言だと思ってたけど楠見さんの本気って怖いわね。家内制手工業に近い金属加工会社が半年後に巨大企業よ……まあ、その裏には原材料費がほとんどかかってないというトンデモない事実があったりするんだけど。疑似って言ってるけど、ここまで来ると本当の錬金術じゃないの?」


マリーの目の先には数秒で金塊を作り出す楠見と、分単位ではあるが金塊を作り出す郷の姿があった……

今では広い倉庫の中は金銀プラチナ、ごく少数だがダイヤモンドの粒(爪の先サイズのものから握りこぶし大のものまで様々)まで、その棚の半分以上が占有されている。


「加工じゃなくてインゴットのまま売っても相当に高く売れるんだけどね、これを加工したり宝飾品にしたりとか、楠見さんと郷さん、二人がかりで圧倒的に価値を上げてるのよね~。もう、あれよね。宇宙の片隅で語られる神話みたい。手に触れる物すべてが金に変わるって賢者だったか王様だったかの話みたいな」


「おいおい、マリーさん。俺達は空中の微細金属を集めて固めてるだけ。あっちの話は純粋に錬金術で生き物から食べ物まで全て金に変わるって話でしょ。食べ物が金に変わったら餓死するよ」


さすがに楠見も反論する。

とは言いつつ加工原料となる金インゴットは、その楠見の手の先数cmで見る間に一本二本と出現している。


会社も順調に(?)大会社となり取引額は増えたが、宝飾品のほうが取引高として圧倒的に高くなり、在庫のインゴットがさばけなくなる。


「どうするかね? 俺達が疑似錬金術で集めることは、いつでも可能だけど……これ以上、倉庫に金銀プラチナ、ダイヤ等の在庫が増えすぎてもなぁ」


「師匠、在庫は此のくらいで良いかと。この頃、客先からの案件は手持ちの宝飾品の修理や手直し、古いデザインを今様にするって依頼が多いんで、あまり在庫を使わなくて済みます」


「そうすると問題は一つね。大会社となって仕事は順調に回りだしたけど大量の金属加工業としての取引は少なくなったので造り過ぎちゃった在庫の処分どうする?」


「いや、処分なんかしないよ、マリーさん。貴金属なんだから、どうするにせよ処分なんかできないよ」


「そうなんですよねー、師匠の言うとおり。ちなみに来月の段階で貴金属の余剰在庫予想は1000tどころじゃありません。調子に乗って二人で造りすぎちゃったんで」


ということで余剰在庫が増え過ぎてしまい、これをどうするのか?

という会議になだれ込む。

場所は一般オフィスと隔絶された社長室。

此の頃には古かった旧店舗が改築され、立派なビルに。

作業場はオフィスビルに併設され、倉庫から直接、材料の貴金属を搬入できるようになっている。


「社外秘どころじゃない会議をやるのに、この部屋以外に適切な場所がなくてね」


防音、防諜、その他、対物ライフルで狙われようが跳ね返す特殊ガラス(に見えるが全くの別物。ガルガンチュアの超科学力で造られた透明な金属)で構成。

通常の経営会議や会社の新企画なども、この部屋とは別の通常会議室で行っているので、この部屋を使うのは、よほどのこと。

この会議では今まで社会に出たことのない材料や方式を論議する。


「それじゃ、大量に余ってしまう金や銀、プラチナやダイヤモンドをどうするか? 有効利用するため、この際だ、新しい金属でも造るか?」


楠見の発言に、これはどう? あれが、これがと意見が出てくる。


「この会議室を使うだけの極秘会議ね、これって。何なの? 金や銀の同位体? タングステンとの合金? 微細ダイヤを混入? とんでもない言葉が飛び交うの」


マリーがため息まじりで言う。


「まあ、こんなの一種の錬金術だからね。俺達しか出来ないし、もし秘密が漏れても再現実験なんか絶対無理だ」


楠見が、当然だろ、とでも言いたげにマリーに答える。

マリーは、


「宇宙空間での特殊な環境なら出来そうな合金ばかりじゃないの……はぁー……あいも変わらず楠見さんのやる事は一般人の想像の遥か上を行ってるわ」


ということでサンプル合金を数種類、試験用も含めて一種類あたり3個づつ創ることにした。

サンプルを公的な金属試験場に持ち込んでみる(ガルガンチュアに持ち込んだほうが絶対に詳細な試験を実施できるが、それはそれで公的書類には出来ない)

その結果……


「か、完全な熱導体と遮熱体?! こっちは金の同位体でありながらも、はるかに硬度や耐熱特性に優れてるって?! あーもう! このサンプル全てが今の常識から外れてる合金じゃないか!」


試験係員と研究員の悲鳴にも近い叫び声が出る。

詳細試験表が出てくるのは、それから数日後だった。

メディアニュースは大騒ぎしたが幸いにも(株)楠見金属加工は株を公開していなかったため、そこまで金融界は大騒ぎにはならずにすんでいる。

ちなみに会社組織なので利益が出ている分は、しっかりと税金も収めている(仕入先を特定されないようにするため、書類上では郷が社長という会社から原料を仕入れているとしている)

メディアへの発表では新合金の大量生産は今のところ考えていないと公式に宣言。

あまりに斬新な合金のため、設備も何も全く新しいものにしなければならないからだというのが、その理由。

ガルガンチュアなら100t/分で生産できるのだろうが……

新型合金が発表されて数年後……


「師匠ぉー、この頃は新型合金の注文しか来ないんですけど。会社自体は儲かって周辺企業巻き込んで今や超大企業、いや周辺職種まで巻き込んだコングロマリットになりそうな雰囲気なんですけど」


郷社長がこぼす。

楠見は今や金属加工の社長から、総合企業体の会長に祭り上げられてる現在。

ちなみにライムやマリーは社長秘書と会長秘書の筆頭になっていて、あっちこっちのメディアからの取材依頼をひっきりなしに断ってる状況。

おかげで郷も楠見も割とフリーに動けている。

プロフェッサーとエッタは、ちょっと別会社へ行っている(楠見は情報特化の会社を吸収合併していて、エッタとプロフェッサーは、そちらの会社へ出向中。二人の真価が発揮できると喜んでいる真っ最中)


「金属加工とか小さなものの注文が、さっぱりなくなったな。最初の数年こそ物珍しさでお客が列をなしてたけど、装飾品だから飽きられるのも早いんだよな、デザインとコストパフォーマンスだけが取り柄の会社ってのは。良かったじゃないか、郷。顕微鏡サイズの細工に凝ってた頃、出来は良いけれど納期がかかりすぎるって客から文句来てたんだろ?」


「いやいや、師匠。物の出来上がりを見てもらえばブツブツ文句言う客も黙らせてたんですから。でもなー、本当にデザインの流行が変わると一気に注文がなくなったなー」


二人の話に割って入ってくるマリー。


「ちょーっとお話中ですが……社長と会長、こんなところで愚痴のこぼし合いなんかやってる場合ですか? それでなくても新型合金の注文と引き合いの連絡が、こっちにはひっきり無しに入ってくるんですよ。少しは連絡を受けてくださいな。我々秘書軍団でも断れないような地位の方たちもいるんですから」


いや、すまんね、毎度毎度。

と郷と楠見は微笑を込めて、マリーに返す。


「すまないが引き合いも注文も新規は少し待たせてくれないか。実は開発部に、ちょっとした物を作らせてるんだよ。その材料に新型合金が使われてるんで、今は少しばかり余裕がない」


「え? 何を作ってるんですか? 郷さん、キャプテン。私達秘書課にも秘密ってことは相当なものですよね?」


ライムが問うてくる。


「ああ、ライム社長秘書長。実は銀や金の同位体金属と、こいつに様々な超硬金属分子を混合してみたら出来上がった合金類を使って、ちょっとしたオモチャを造ってみることにした。一機あたり数トンほど必要なもんでね、ちょいと出荷を待ってもらってる状況だよ」


郷が現状説明を行う。


「なーに造ってるんだかねー? この師弟コンビが組んで、超知能とも言える頭脳を駆使して秘密の企てやってるってのは、もう怪しいどころの話じゃ無いでしょ?」


会長秘書長であるマリーが言う。

それに対し、いとも気軽に楠見が、


「出来上がるまでは秘密にしといたほうが良いと思ってな。完成したら大々的にお披露目する予定になってるから心配しないで大丈夫だよ、マリーさん」


そのへんの宇宙ロケットやジェット航空機を改良したような物を、この二人が組んで試作品とは言えど計画をするわけがない……

マリーは、お馴染みになった頭痛に見舞われる。

超のつく天才に最新の宇宙技術と最新の特殊合金という材料を与えたら?

三題噺ではないが、とんでもない回答が出てくるのは分かっていたこと……


「はぁ……分かってたわ、分かってたんだけどねぇ……ねえ、ライムさん、もうこうなったらダメよね?」


言われたライムもマリーの言いたいことは分っていた。


「そう、ですね。秒単位で入ってくるメールや電話の攻勢を、秘書軍団で食い止めるってことですよね」


血が通っていないはずのライムの顔色が赤くなっているのが分かる。

とんでもないものが、もうすぐ出来上がるので、その対応準備をしとけってことだと。

この会話から2ヶ月後……

ここは、楠見たちの会社の本社とは離れた場所にある、ひろーいグラウンド、というよりも、何もない原っぱのような場所。

面積的にはラグビーや野球場などのフィールドを10個ほど作っても余るくらいに広すぎる場所。

ここに、ほとんどメディアには登場しない会長と社長が来るということが様々なメディアに知らされたので、広いはずのグラウンドの一角には、その面積の1割ほどに人が詰め込まれていた。


「えー、メディア各社の方々、早朝から集まっていただき、ありがとうございます。今日は数年前に発表された新型合金を利用しました新しい移動デバイスや航空機、試験用ではありますが小型宇宙船などの発表をさせていただきます」


なんの発表会か知らされていなかったメディア記者には寝耳に水!

ざわつく群衆に対し、司会役となった人物が、また、


「それでは、まず個人用の移動デバイス。これはベルトのように腰に巻いて使いますが、地上を車のように動くデバイスではありません」


何?!

ざわつく声が大きくなる。


「はい、ではデモンストレーションをご覧ください。大きめのベルトをつけた開発部の社員が登場しました。コントローラは有線で使えるものもオプションでありますが、このデモで使うのは、無線を使います腕時計型のコントローラです」


司会の声を聞きながら、テスト要員は腕時計コントローラを使って、まず空中に浮かぶ。

この時点でも、おおっ! と声が上がるが、もちろん、その続きがある。

空中に浮かんだ社員が最初はゆっくりと、次に段々と速度を上げつつ、前後左右上下、自由自在に移動していく。

最後の方になると地上から見失いそうになるほど上空へ。

10分ほどで戻ってきて、このデバイスのデモは終了。

これでもメディア記者たちには前代未聞だったが、司会は冷静に、


「さて、次は少し大きくなります。向こうからやってきたのは形は車ですが何か違和感感じませんか? そう、車輪がありませんね。不要と言うかタイヤなどあっても事故の元なんです、こいつには。ではデモ飛行に入ります」


個人用デバイスと同じように、まず、ゆっくりと上昇し、空中に浮かぶ。

ちなみに、この時点で、この物体の中に人影が4人ほど見えるのが確認できる。

それから左右前後上下と、ゆっくりから速度を上げつつ、最後は同じように急上昇して10分後に降りてくる。

これでも、もう声もないメディア記者。

まだあると言ってたな、司会は……


「では、最後に登場するのは……あれです、あの金色に光る球状の宇宙船! 運動性は他の2つと同じで、垂直上昇も垂直降下も自由自在! ちなみに、この球状宇宙船は我社の開発しました金の同位体と様々な合金を組み合わせて作られております。表面を覆うのは、もちろん金の同位体です」


宇宙船にはメディア記者たちの同乗も許されており、空に見える月まで行って帰る往復旅行を数分間、文字通り宇宙体験することになる。

翌日の一般ニュースとビジネスニュース、そして紙のメディアも全てが、この新しい移動デバイス3種類のことを全面的に取り上げていた。

発表会に記者を送れなかった(送らなかった)メディアは平謝りで今更のように工場見学を申し込んでくる。


「まあね、その社の政治方針については何も言うまい。しかし、それで最新ニュースに乗り遅れるというのはメディアとして間違っていると思わないのかね?」


いみじくも楠見は言う。



話変わって。

ここはガルガンチュアの船内(主船体であるフロンティア)


「ガレリア、6隻目の捜索、どうなってます? 随分と銀河内の捜索は進んだと思ってたんですが」


「ああ、捜索終了部分は、この銀河内の約60%程度。かなり精査してるんで宇宙空間としても捜索してない部分が無いようにしているくらいだ」


「データはトリスタンとフィーア、そしてオールドマンが担当してるから見落としはなさそうだ。それにしても6割方近くも探して、それで手がかり何もなしというのは変だ」


「その通り。データが膨大なので断定は未だできないけど、それでも銀河団探査船のような巨大宇宙船を探す手がかりすら掴めないというのが……もしかして今回のターゲットはエネルギーを断っているとか?」


フロンティアが可能性を示唆するが、それはないだろうとガレリア。


「発見時のフィーアのように何かの事故で銀河団を遠く離れた宇宙空間で船体が破損しているならともかく、銀河内で事故を起こしたとて船体だけの判断でも跳躍エンジン以外は動かせるから何とかして近くの星系へ到着できるはず。そうすればマスターが失われたとしても自分で修理するくらいは可能。まあ自分の判断でメインエネルギー炉を停止させている可能性はあるんだが……それをやろうと判断できる根拠が分からないぞ、フロンティア。それは行動判断として通常は選択肢に入らない……まあ、今のマスタークスミなら判断の選択肢に入りそうだが……」


「そうなんです、ガレリア。マスターがいるならともかく現在の銀河の状況を考えても6隻目が探査活動を行ってる痕跡すら見つからないので現在6隻目は活動を停止していると判断せざるを得ません。しかし我々は特殊な状況を除けば同じ銀河団探査船が同銀河内にいるなら基本的に存在を感知できるようになっている。これは、いわゆる生命体の本能レベルにまで組み込まれている基本中の基本の回路です。これは破損していたフィーアのようなレベルであろうとも同じなので向こうも我々を感知しているだろうと思うんです」


「うーん……私には何とも言えない。こうなってくると向こうは我々を感知しているにも関わらず、我々が自分を探し出すのを待っているような気もするんだが……まあ、これはいくらなんでも無茶な想像かもな」


「え? ガレリア、それが正解かも知れませんよ。向こうは我々を既に感知し、我々の知らないレベルでステルス行動しながら、情報を集めつつも我々が自分のところへ来る時を待っているということもあります」


「はぁ? フロンティア、そこまでの船なら、それはそれで出会った時に厄介かもしれんぞ。随分我儘な頭脳体の可能性が高いと思われる」


「そうなんですよ、そこが一番の問題……いっそ、我々だけじゃなくてマスターたちも揃って会いに行くほうが良いかも知れません」


まだ見ぬ6隻目の性格と、その雲隠れの上手さに呆れているガルガンチュアである。



ところ変わって。

こちら6隻目中心部の一角。

ここでは本体すらメインエネルギー炉を停止している中、その頭脳体のみが活発に動いて、ごく一部の小型搭載艇のエネルギー炉を用いて、あっちからこっちからとリアルタイムの情報収集を行っている。


「ふむ……ついに私のいる銀河を探し当てたか、ガルガンチュア。今現在は……ほう、5隻構成になっているのか、すごいものだな。しかし、私のいる場所を探し当てることは非常に難しいぞ、ガルガンチュアよ」


どうやら、この6隻目、ステルス装置の起動とかいう話ではなく、ただ単にエネルギーを極端に少なくすることにより、ありふれた恒星や巨大惑星と同じような、いわゆる「木を隠すなら森の中」を地で行く行動をしているようだ。

情報収集手段は?

と言うと、これは普通に小型や超小型の搭載艇を放っているようで。

フロンティアが予測していたように、この6隻目、かなりのレベルで搭載艇のステルス機能をアップさせているようだ。

それでなければ、ガルガンチュアの放った無数の搭載艇群に何も引っかからないはずがない。


「マスターが乗っていないようだな、今のガルガンチュアには。おそらくマスター含む生命体クルーは別方面で活動しているのだろうが……惑星に降りて活動しているとなると私のスタイルでは情報収集は覚束ないな。大体、タンパク質生命体などが銀河団探査船のマスターになったことも、そして5隻もの銀河団探査船をまとめた総合マスターになるなど前代未聞であり、この私ですら想像したこともない。さてさて、もう少し状況と君らの探索を見極めさせてくれ、ガルガンチュア。まあ、私のところへ来たら……マスターが一緒なら合流も考えるとするかな?」


それ以上の呟きは無い。

しかしガルガンチュアと6隻目が出会うのは時間の問題だ。



楠見たちの話に戻る。

ここは楠見たちが降りた惑星の近傍空間(宇宙とは言え、まだまだ惑星の引力が強い。いわば大気のない超高空である)

数年前まで使用していた衛星やテスト用ロケットの残骸(燃料がなくなり、後は引力に引かれて落ちるのを待つ状況)など、いわゆる「デブリ」がそこいら中にある。

楠見たちは、さまざまなメディア記者たちを引き連れて、今、この空間にいる。


「楠見会長、今回のデモンストレーションは何でしょう? 宇宙船としての性能は、さっきまで嫌ってほど堪能させてもらいましたけど」


メディア記者の一人から質問が出る。

宇宙船の性能試験として体験乗船した記者たちは、なかなか地上へ戻らない楠見たちに、まだ何かあるのか、という疑問が湧いたらしい。

楠見ではなく郷がそれに答える。


「えー、皆さん。今から行うのは宇宙の大掃除です。今まで何処の国も宇宙ロケットを打ち上げていますが、それ以上は何もせず、後は引力にまかせて落ちるだけの状態となっております。うちの会長は、それでは今後、デブリ、つまり宇宙ゴミが多くなりすぎて宇宙での活動に支障をきたす恐れがあると思い、この大掃除を行うこととなりました。まずは目の前の状況をご覧ください」


郷は傍にあった青い小さなボタンを押す。

数秒は何も起こらない……

しかし、その後、この球形宇宙船の超小型版のような小さな球体が、ワラワラとあちこちにある小さな穴から飛び出す光景が。


「大掃除とは言え今回はテストです。とりあえず、この宇宙船周辺にあるミリ単位以上のデブリや廃棄宇宙船の回収を行います。では清掃作業、開始!」


郷は小さな球体が出揃ったところで、次に赤いボタンを押す。

小さな球体群は、あちこちへ飛び回り、様々な物を回収してくる。


「とりあえず今回の清掃作業では、この船の倉庫スペースに入るものだけ収集します。それより大きなサイズのものも回収可能ですが地上へ帰還する場合にエラーの元となりかねないので、今回は放置します」


一時間ほどで倉庫スペースが一杯になったと船内システムからアラートが出る。

一つのスペースが一杯になっても、この船には二つの倉庫スペースがあるため、郷はシステムにもう一つのスペースを使えと指示する。

もう一つのスペースが満杯になったのは、それから30分ほど。

倉庫のスペースが満杯になったことを確認すると、郷は楠見に確認をとり、宇宙船を地上に下ろす。

地上に着いて、ようやく下船した記者たちは、ここで新しい業種の誕生を目撃したと実感する。

地上で様々な仕事の業種があるが、これからは宇宙にも、その仕事範囲が伸びていくことを実感すると飛び立つ勢いで社に戻り、その感動と驚き、新職種への期待と、何よりも楠見たちの持つ先進技術の凄さを宣伝してくれる。


「はぁ……これだからねぇ……我社の宣伝費は今まで一円も使ってないのに、いつの間にか超有名企業……宣伝費の使い途ができるのは、いつのことやら……税金のことを考えると頭が痛いのよねぇ……」


マリーが愚痴る。

現在、グループをまとめるコングロマリットの総合会長秘書長を務めるマリーは、総務部が総合企業としての減税に努めたくとも宣伝費や交際費が少なすぎることに不満を漏らしている。

その横でウンウンとうなずくのは総合社長秘書長を務めるライム。

グループで開発専門の会社の開発部担当重役プロフェッサーと、開発部をまとめる常務という立場のエッタは、今、この場にいない。

今、二人が中心となって開発中なのは、このデブリ清掃実験が成功した場合に必要となる宇宙空間での作業用アタッチメントの数々。

その中には、作業用超小型宇宙船に取り付けるものだけじゃなく、それを指揮する人間にも必要となりそうな各種アタッチメントを作っている。

メディアが成功と報じたため、開発会社からも、数年後には必ず必要となるだろう資材やアタッチメントを大々的に公開する。


数年後、見事に揃った数10隻の中型(直径300m)球形船と、大型デブリ収納用の特別製清掃船(倉庫に推進装置をつけたような、前後が半球形の宇宙船)が数隻。

清掃作業用の超小型ロボット船は、最初のテスト時よりデブリ清掃作業に特化され、ごくごく小さなデブリすらも捕えられるようになっている。

宇宙港は未だに設置も整備もされていないため、作業用の臨時宇宙港という形で楠見らの会社が合同で持っている、かなり広いスペースの物品置き場(広場のバカでかいもの)を整理して使っている。


「さて、これから君たちは最初の宇宙清掃業者として飛び立つわけだが……期待している! 数年間の技能実習が無駄ではなかったと証明してこい! 出発!」


楠見の出発祝いに送られ、次々と作業用宇宙船が飛び立っていく。

小さい船が全て飛び立ったら、倉庫のような形の特別清掃船も、ゆらりという感じで浮き、飛び立っていく。


「師匠、これで清掃作業が軌道に乗れば、この星の宇宙時代の本格的な幕開けですね!」


郷は、また一歩進んだ宇宙への道筋に期待をしていた。

楠見や郷は数年もあれば惑星周辺のデブリ清掃は大半が完了すると思っていたが甘かった。

当然ながら楠見たちの会社以外、宇宙空間の清掃など考える会社も国家も無かったから。

楠見たちのデモンストレーション清掃映像を見て宇宙がゴミで埋まりつつあると考えられる想像力を持つ政治家など極々僅かだったのも影響しているだろう。

そのため楠見の想像を裏切り、惑星周辺の空間がキレイになり、試験用衛星や廃棄ロケット、爆発して粉々に吹き飛んだロケットの残骸などの小さな物も回収されたのは数年どころではなく数十年後となった……


「はぁ……ようやく宇宙空間がキレイになって不意の衝突事故などが起きなくなったか……ここからが宇宙へ出る本格的な挑戦が始まるわけだが……長かったなぁ……」


宇宙船と宇宙に関する最新テクノロジーを持つ会社ということで各国から絶大な信頼と予算を獲得した楠見たちの会社組織(もう、あっちこっちの会社と太く短く結びついているため、楠見たちの会社と縁のない会社を探すほうが難しいとまで言われている)

今日も今日とて臨時から正式な宇宙港となって舗装や整備までしっかり行われている元・グラウンドからは清掃業者から「宇宙の何でも屋」と名称を変えた宇宙作業者たちを乗せた船団が飛び立っていく。

そして宇宙から持ち帰られたデブリや小惑星、彗星のコア部分など貴重な研究対象を受け取りに、飛行機能を備えた大型トラックが宇宙港へ何台も出入りする光景も。


「師匠、次は惑星統一ですよ。こんな小国家乱立状態じゃ宇宙文明になりませんからね」


「ああ、そうだよなぁ……まったく、まだまだこの星の人類たちは、宇宙に生命体がウジャウジャいるってことに気づいてもいないんだから」


郷と楠見は揃ってため息をつく。

楠見たちは、それから行動指針を変えることにした。


「マリーさん、ようやく宣伝費を目一杯使うことになりそうだよ」


楠見が関連企業のトップを集めた合同会議を開くということで数週間前から楠見たちの会社を中心とする町の区域にある旅館やホテルは予約で全ての部屋が埋まる。

ビジネスホテルが多かったが近くのホテルや旅館が全て予約客で埋まっているため、その周辺にあるホテルや旅館も全て予約や長期泊の客たちで埋まっていく。

ついには楠見たちの会社を中心とする半径30kmほどにある隣町や周辺町にまで部屋を探す会社の総務部から電話がかかるまでとなり……


「えーい! まだるっこしいっ! 我社の関連会社に、どんな技術があるのか知らせてやりましょう!」


関連会社含めた秘書たちの頂点となった形のマリーが、その号令一下、宇宙港とは別に作っていた、これも広さでは宇宙港に負けてないグラウンドに、数日で奇妙な建築物が……


「はい、我社の関連企業で開発してる災害用の緊急住宅と、緊急マンションです。緊急用と言っても、そのまま数十年は快適に住めるようになってるんですよ」


解説してるのは秘書たちのNo、2と自他ともに認めるライム。

広いグラウンド狭しと建っているのは本来は災害救助のために開発された建物。

ただし数ヶ月で住めなくなるような劣化住宅ではない、二階建て住宅や本格的3階建てマンションすら住宅展示場のように建っている。


「これは工程半日で建てることが可能な住宅と、工程3日で建設可能な3階建てマンションです。パーツの組み合わせだけですが地震や津波、洪水や台風、竜巻きに巻き込まれても大丈夫なくらい頑丈です。ホテルや旅館が予約できなかった会社の方々は、こちらにお泊まりください。ただし、食事のサービスはありませんので悪しからず」


ハハハ、と小さな笑いが起きたが、それよりもライムとマリーの周りにいる人々には、この光景が信じられない。

どうしても宿の予約が取れないんですよ!

と泣きつかれた数日後、何もなかったはずの会社のグラウンドに様々なデザインと大きさの一軒家とマンションが、あっちこっちに建っていた。


それから2週間後。

総合体育館かコンサートホールかと見まごうような広さの一室に楠見たちの会社と何らかの関連のある社長や副社長、または代理で専務や常務らが参加している総合企業会議が開かれる。

まず開会挨拶は総会長の楠見から。


「皆さん、お忙しいところをご都合つけていただき、感謝の念に耐えません。これより、コングロマリットとなった我が社中心の関連企業も含めて総合的に、この大規模企業体の今後の目標を決定していきたいと思います。この会議で決定するであろう長期目標と短期目標の達成に邁進していただくことを私は大規模企業体の総会長として願うものです。これから数時間にも及ぶでしょう会議、有益なものとなることを!」


万雷の拍手。

司会は有名な声優にお願いしたが、さすがに職業柄、声が通る。


「司会として議事進行を進めます。では、最初……」


の言葉から始まる、活発な意見交換。

さすがにマイクなど使わないと全参加者に質問や議論の内容、回答や解決法などの声が届かないので参観者は全員、小型マイクとノイズレスイヤホンを装着している。

聴力に問題のある人たち(少人数ではない)には骨導マイクや骨導スピーカーを装着している(関連企業で開発している最新型だ。普通に生活して気づかないくらいのサイズと高性能である)


会議が始まってから1時間後。

そこから会議は紛糾する。


「世界統一政府ですと?! 言わせてもらうが我々企業は、それぞれの会社や部署での目標を達成していくことで精一杯だ! 長期ではあるが目標があまりに大きすぎる! こんなものは超大企業体とは言え一介の企業体が打ち出すレベルのものじゃない!」


楠見たちが大企業を吸収合併した時にくっついてきた中規模工作所の所長からの意見だ。

通常の企業家として真っ当な意見である。

しかし楠見たちの意見と見識は、そんなものを飛び越える。


「今、この星は宇宙に飛び出す準備時期にあります。しかし今のこの星の状況、小さな国家単位でくっついたり離れたり争ったりしている状況で宇宙へ出たらどうなると思いますか? ご想像通り、この星の争いを宇宙へ広げるだけです……ちなみに、これは社外秘、ここだけの話として聞いてほしいのですが……生命体というのは、この星にいる生命だけではありません。この星を飛び出しても隣の星系へ行ったら別の生命体や人類がいます。銀河規模だったら、それこそ無数に、うじゃうじゃと。その中には、この星の人類のように争いを好む種族がいるかも知れませんよ? そういう種族や生命体に今、この星が発見されたらどうなると思います? 想像とかファンタジーではありません。別添付した書類の95ページを見てください……この銀河に住む代表的な生命体種族を100種類ほどサンプルとして取り上げています……ちなみに、この別添付書類は、この会議が終了次第、消滅するように加工されていますので持ち帰りは不可能ですが」


怒号が飛び交う中、郷が比較的冷静に、そして静かに話し始め、騒動は止み、騒然としていた室内は息を呑む音だけになる。


「郷総合社長、衝撃的な発言でしたが、これは貴方がたが異星人のスパイということですか? 今の我々の技術と持っている宇宙船の性能では銀河中の生命体など探せません」


これは最初とは別企業の副社長の発言。

あまりの郷の衝撃的発言に他のものは声もない。

おもむろに、郷ではなくマリーが話し出す。


「我々が異星人ということであるなら、それは正解です。ただし何処かの星の尖兵、スパイと言うことではありません。侵略者として来ているなら我々は数年どころか数十年前にこの星くらい征服してます。大体、今の宇宙船も、そのエネルギー炉も全て我社が開発・提供しているものですよ、それをお忘れなく」


「そ、それでは、なぜこんな時間をかけてまで我々に恩恵を与えているのですか? 理由と、その目指すところをご説明願いたい」


マリーが楠見に目配せする。

楠見は、ここで壮大で重大な秘密を明かすことにする。


「それは俺たちが、この銀河どころか銀河団も、それどころか超銀河団すら超えたところにある銀河の出身だから。俺は、いや俺達は今まで十万年近く、この宇宙を旅しながら、あっちの銀河、こっちの銀河と立ち寄りながら、この大宇宙そのものを安全で平和な空間にしようと頑張ってきたのさ。この星に立ち寄ったのも何かの縁ということで、いつものお節介をしている」


あっけにとられる質問者。

てっきり、この銀河の大規模な星間帝国や銀河連邦などの大きな組織から来た文明加速要員かと思ったら、まさかの返答。

もう質問者の想像すら軽く超えている……

質問者は何も言えずにへたり込む。

次に質問に立ったのは比較的最近、企業体に加わった若社長。


「今のほうが衝撃でした。まさかルーティン作業で宇宙を平和で安全な空間に変えようなどとしているとは……で? 楠見総会長は何を求めてるんです? それほどの大事業となれば見返りが必要ですね」


質問者に対する楠見の回答は、


「いや、何もない。だいたい日常作業やってて特別な見返りも何もないだろ? 俺達にとっちゃ、こんなのは日常生活のヒトコマなんだよ」


あんぐりと口を開けたまま固まる質問者。

予想してないどころか、これほどの文明加速と技術・知識供与が日常茶飯事だとは……

司会がハッと気づいて、終了の次第を。

閉会はライムが受け持つ。


「では、決定した長期目標と、それを実現するための短期目標は後ほどデータでお送りします。それと、会議の中でも言いましたが式次第の予定表以外の別添付表は、すぐに分解しますので持ち帰りは不可能です。では皆様、解散です。これ以後1週間ほどはそれぞれのホテルや旅館、グラウンドに建てた住宅やマンションは利用可能ですので、ごゆっくりと精神・肉体を癒やしてお帰りください」


この結果を見越してか、会議後すぐに自社へ戻ろうと急ぐ集団は見られなかった。

相当な衝撃を受けて、それに精神が追いつく時間が必要なのだろうか。

数ヶ月後、楠見たちが率いる合同企業体は、より一層の結束と、より高い目標を目指し、再起動する。

社員たちも重役たちも短期目標の達成が長期目標の達成に繋がるのだと理解し、それに向けて頑張る。

最終目標は、その会議の参加者と、代理で出席した重役から詳細を聞かされた社長や副社長しか知らなかったが……


企業経済界の統一(完全とは、さすがに行かないが)が終われば次は政治と国家の統一を目指すのが楠見たち。

幸い楠見たちの企業体を中心として世界中に楠見たちが関係している企業や、その子会社、はたまた楠見たちの企業体が吸収合併している形の、名前だけ違う本質的には支社や支店、営業所もある。

楠見たちは経営陣の中でも特に優秀な者たちを集め、特別な教育機械を使わせる(この頃には、もう社会の中に教育機械の汎用性と、使った者たちの優秀さは知れ渡っている)

ちなみに、この特別集団の中には高確率でテレパシー能力を持つものがいた(全てではないのが惜しいが)


数週間後、この特別教育を施された超頭脳集団が世界各国へグループ単位で散っていく。

社長や重役が抜けた、その企業の後は?

というと、それは問題ない。

穴埋めは過去に中学や高校で教育機械を使ったときに異常に知能が上昇した者たちを楠見たちの学校で拾い上げて、特別に年齢以上の教育課程を終了させている異能集団がいるので、その者たちを経営陣が抜けた企業へ相談役として複数人、送り込んでいる(ワンマン経営に近かった会社など社長が抜けて代わりの経営集団が来たら喜びのあまり飛び上がる社員もいたくらいだ)

優秀な経営者として実績も積んできた社会工作グループは派遣された国の企業の中でも軍事産業や大学の研究室、民間でも大規模に基礎研究している会社や企業へ実力で入っていく(ペーパーテストも面接も、百年は違う知識と知恵で難なくパスして、即戦力の経営陣へ入社直後から抜擢されるのは分かりきってる)

数年も経たないうちに、その会社や企業体、研究所でもトップ集団を率いるリーダーとなった者たちは、そこで政治家へと接触をはかる。


「**先生、この頃は、かなり隣国と揉めてますね。どうでしょうか、お隣の国の大学研究室に私の友人###がいるのですが彼も隣国大統領$$$氏と知り合いのようですので、一度、お会いしてみませんか? 顔も知らない人間同士は争えても顔見知りとなったら違うと思うんですよ。いかがでしょう、お互いが腹を割って話す機会を持ちませんか?」


こう言いながら、テレパシーを持つものは弱いテレパシーで感情と思考を嫌悪から好意へ切り替え、テレパシーを持たないものは一種の催眠誘導のような技術で同じように相手の好き嫌いの感情をコントロールしていく。

このようなやりとりを隣国でも同様に送り込まれたメンバーが話している。

いくら嫌っていても殺し合いまではやりたくないのが本音なので、会えるのなら是非とも!

という声が、あっちでもこっちでも上がり、最初は非公開、次には限定メディア公開、数回後には全面公開で対談と折衝・交渉が行われる。

交渉しているのは政治家や国家の重鎮だろうが、実は横にいる者たちに密かにコントロールされているなどとは夢にも思わす、幾多の折衝と交渉の末に停戦から平和条約締結!

次には経済交流と次々と局地紛争が収束・消火されていく。

友好条約と同盟締結がなされるのも時間の問題となっていくのだが……

ここで、ごく一部の国に問題があるとして報告が上がってくる。

それは独裁体制にある国や、愚者が政治上のトップにある国。

このような国はトップの意見や感情でものごとが決まり、国の方針すらもコロッと変わることがある。

数ヶ月前まで蜜月状態になっていた国家同士が急に国境閉鎖になって政治も経済も、人の交流すら止まるということがあると判明。

こういう国には、いくら経済的に豊かになる実績があろうとも外からの企業や人材を送り込むことすら難しい(技術や知識は欲しいが人材も企業も不要というやつだ)

こういった厄介な国の場合、楠見や郷など超巨大企業体としてのトップたちが、あくまで政治など眼中にない「視察」目的で行くこととなる。


「楠見先生、我が国の最新産業機器は、いかがでしょうか? 我が国の五ヶ年計画の結果、ここまで素晴らしい大型工場に、ここまで多人数の生産員を配置しておる国など、ほんの数ヶ国でしょうな」


などと案内人とスパイを兼ねるガイドが、楠見に向かい、おらが国の技術・工場を誇っている。


「うーむ……何の外部情報もなしで計画から生産までやってるのなら地力は素晴らしいと言えますが、正直……後で、このデータを貴方の上司に渡してあげてください。それから、交渉したいのなら、この中に私の連絡先のデータもありますので政府を介したくないなら極秘でやりますよ」


実は楠見たち、もう自分たちの政府高官とは連絡を取り合って数年、ツーカーの仲である。

この視察訪問も政府の表には秘密だが、裏でマリーたち秘書軍団がバッチリと報告&調査済みで、楠見には「ここまで譲歩や技術・知識を公開しても良いレベル」を連絡済み。

当のスパイ兼ガイドに渡したデータチップも、その辺を調整したものとなっている。

視察先の工場や産業会館など十数箇所にも及ぶ視察旅行が終了すると、非公開ではあるが、ここの国のトップ2やトップ3などの人物が接触してくる。

楠見や郷など未だ独身との情報も握っているのかどうか分からないが先方は美女の歓待などでハニートラップを仕掛けてきたりする。

まあ、そのあたりを秘書軍団がガッチリと防御・ガードをしている上、楠見も郷も「独身主義」を国内外共に標榜している(あまりに女性に素っ気ない態度をとる二人に実は男色ではないのか? という疑惑すら、ちょくちょく話題やネタとして上がるので楠見も郷も苦笑い)ため、ほとんどハニートラップの効果が得られないのでお国トップの書記長や将軍など、役立たずの諜報部に怒りをぶち撒けているところだ。


「奴を取り込むことができれば、我が国が全世界をリードするどころか全世界に覇を唱えることが可能になるのだぞ! どうしても欲しい人物のトップなんだ! 交換が可能なら、お前たちもすべて差し出しても、我が親族すら差し出しても良いくらいなんだぞ! それが何だ? 取り込むどころか逆に奴のシンパになる者すら出てくる始末ではないか!」


部下たちも反論したいのは山々なのだが言った途端に首を切られる(政治上も、物理的にも)のが分かりきっているため、何も言わずに黙ってお怒りの罵声を聞くだけ。

しかし、トップ2と3にある人物は、どうしても言わねばならない。


「そこまで言われるなら、将軍様。あなたがターゲットに直接会うべきです。ここまで何回も会う機会があったというのに、部下の報告を聞くか、それとも監視カメラの映像を見るか、どちらかでしょう。これからの方針を決めるのは我々ではない、あなたです。あなた自身でターゲットの価値や好き嫌いを判断しなければ、国家としてどう動くべきなのか決定できないでしょう」


正論である。

実は将軍と呼ばれる人物はビビリで臆病者、しかし自我だけは巨大で負けることなど考えられないという俗に言う「困ったちゃん」が大人になって権力を持つとこうなるという見本であった。

ターゲットとなる人物とは今現在、この国に来ている仮想敵国の重要人物。

国家の政治を司る人物ではないが別の意味では超重要な存在。

現在、世界で一番と言われても自他ともに認めるだろう技術と知識の持ち主で、この人物がいなければ世界の技術進歩は数十年どころか数百年は遅れると言われる。


「怖い……怖いよ。正直なところ、あのクスミなる人物の輝きが怖い……果たして、この俺が直接会って、それでもあの男を御せるだろうか?」


呟いているのは、誰も入るなと言明して執務室に入ってから30分後のこと。

考えれば考えるほどに怖さが倍増してくる。

監視カメラで一瞬捉えた、あの男の視線。

数秒であったが、あの動画の映像が記憶に染み付いている。

あの突き刺すような、人の心を射抜くような視線と、笑みの中に垣間見える黒い笑い。

しかし、国家を率いていくのは今現在、俺一人しかいないのが現実。


「やるしか、ないか……」


覚悟を決めると不思議と恐怖心は薄らいでいく。

あとは会談と会見の日程を調整するだけだ。

一騎打ちで奴をこちらに取り込まなければ、この国に明日はない……

某将軍様は自分の心の弱さを自分で隠す、いや、否定するように眼差しを上げて悲壮とも言える決心をする。

数日後、某将軍様と、彼にとってターゲットである人物、楠見との懇談会が行われていた。

これは異例中の異例、部下たちにとっては驚きの光景である。


「お初にお目にかかる、楠見先生。あなたの頭の中にある知恵と知識、そして未来から来たと言っても良いほどの技術と発明・発見は世界に向けて開かれている……しかし、その恩恵が与えられぬ国々もある」


某将軍様の言葉に引っかかるものを感じる楠見は、


「将軍様、お噂は様々に聞いておりましたが、お目にかかるのは初めてですね。で、あなたの言われる「私の未来技術の恩恵が与えられていない国々」というのは、この国も含まれているという事実ですね」


通常だったら将軍様の怒りを買うほどの直截な回答に部下たちはヒヤヒヤ物であり、心中では冷や汗を垂らしている。

我が国の中では確かに某将軍様はオンリーワンのトップであるが、世界から見れば、この国のトップなどアリの巣の女王アリのようなもので、下手すれば民族ごと国が潰される事態になりかねないのが、将軍様が相手をしている楠見その人の力なのだ。

某将軍様には自分よりも遥かに強大で重要な人物、楠見の情報は全て知らせていない(そんなことしたら将軍様の怒りを買ってしまうのがオチだ。某将軍様に匹敵する権力・財力・知力の持ち主はいないと、この国の誰もが幼少から叩き込まれるように教育されてきた)

この国に楠見たちの企業の息のかかっている会社はない(国有企業ばかりで通常の株式会社など存在しないのが、この国)が、どうしても最新技術が欲しい某将軍様は、曽祖父からの掟を破ってでも、この男の持つ未来知識を手に入れなければならない……


楠見は目の前にいる矛盾を抱えながらも必死に支配者たらんとする男に同情と憐れみを感じている。

こいつはこいつで一つの国家と国民というものを自分で背負うと決め、足りないものは努力と権力で何とかしてきたんだろうけど……

まあ、それでも国を世襲の独裁国にするってのはダメだよな、うん。

独裁国家もよいが、それは緊急時の非常手段。

他に国家というものを率いていくべき人物がいない、あるいは、多少強引でも急激に国家や国民の意識レベル・教育レベルを引き上げるなどの非常・緊急時の場合のみにしないと、初代は良くても二代目やそれ以降がバカと阿呆ばかりになる……

眼の前の人物のように。

こいつも通常の民主国家で選挙という「指導者選別システム」があれば真っ先に落とされるような品性下劣な人物だ(国家を背負うなどというプレッシャーがなければ普通に地方公務員としてやっていけたかもしれないくらいの指揮能力は持っているが)

まあ、ちゃっちゃと済ませてしまうか……

そう思いながら教育機械代わりに楠見自身が意識下教育を某国の某将軍様に施していく(相手には教育されているという感じは全くさせず、懇談会の時間、30分ほどだったが決定的に主義主張まで変える一歩手前までの意識下教育を施している楠見。もちろん手段として使うのはテレパシーで、会話中に楠見の中の別人格が教育係として某将軍様に必要な知識を教え込んでいく)

懇談会が終了する間際、


「楠見先生、私はあなたに教えられました。この国は変わりますよ、私が変えてみせます。その後は世界連邦の加盟を目指して行きますよ」


楠見に対して某将軍様が言った言葉の衝撃は周囲に困惑と、それと淡い希望も与えたという……

そのころ、郷も同じように某国の某独裁者に招かれて同じようなことをしていた。

世界中が世界連邦という一つの星に一つの政府を目指して進み始めるのは数年後のこと。

しかし進み始めてしまえばゴールは早かった。

5年も経たずに世界は統一政府を樹立し、国々はその名を変えて「**地域」とか「**地区」とか呼ばれることとなる(元の国の名を使ったほうが住所がわかりやすいと、**には元の国の名が入っているが、そのうちに緯度と経度で呼ばれるように進めているという)

こうなると元の国としての発展程度が大幅に違ってくるため、発展の遅い国や遅れていた国や地域には技術的・知識的・教育的な保護と支援が必要になるが、それは、


「我社が引き受けますよ、財政も教育も技術的支援も」


楠見が言い放つ。

世界連邦の政府高官たちは、冗談だろう?

と受け取ったが楠見は早速行動する。

手段?

教育機械の登場だ。

試験的に一番遅れている国家や地域の教育に教育機械を投入する。

現地では魔術の類かと拒否されそうになったがテストケースで幼児教育に投入すると一年も経たぬうちに成果が上がり、それからは大歓迎される。

そこからは爆発的に評価が上がり、楠見たちの会社では教育機械そのものを大量生産することになる。

10年もすると発展の遅い早いとか先進的地区やそうでないかを問わず、教育機械が世界的に導入される。


「はぁ……ようやく惑星統一が成ったということかな。長かったなぁ……ところで、ガルガンチュアの方は?」


楠見が問うとマリーが回答。


「数ヶ月前に、とうとう6隻目を発見したそうですよ。でも、その6隻目なんですが、ちょっと厄介らしくて……」


「ん? 厄介? 船同士じゃ話がつかないってことか? 俺や、ガルガンチュアクルー全員で行ったほうが良いということかな?」


「はい、どうも、そのようです。こちらの過去の行動やルートも全てではないけれど、ある程度は把握してるようですね、6隻目」


やれやれ……

ここに来て一番厄介な性格の探査船に当たったということか……

楠見は頭をかきながらも困った顔に笑みを浮かべていた。



楠見たちが惑星統一政府を目指して活動し、もう少しで世界政府が立ち上がろうとする。

そんな時期まで遡り、今度はガルガンチュアの動きを見ていこう。


「ガレリア、もうこの銀河全体の70%を超える範囲を探しました。未だ見つからないというのは、どういうことだと思いますか?」


フロンティアが疑問を口にする。

通常なら、ここまで探せばエネルギー的に見つかると思っていた。

通常の宇宙船、つまり銀河の中で動き回る船と銀河団探査船とは保持するエネルギーの総量が違いすぎて簡単に見つかって当然。

それが残り30%弱の捜索範囲まで絞り込んでいるというのに、どの搭載艇も巨大宇宙船の発見報告を送ってこない。


「それな、フロンティア。私としては考え方を変えたほうが良いのではないかと思うんだ」


「え? どういう意味ですか?」


「ここまで探しても通常の恒星より遥かに高いエネルギー量を持つ6隻目の銀河団探査船が見つからないのは意図的にメインエンジンを落としているのではないか?ということだ」


「ステルスという意味では、とことんまでエネルギー量を落とせば自然に宇宙空間に存在する巨大な金属小惑星と変わらないだろうね。ある意味、究極のステルスということか……」


「まあ、これは私の意見じゃない。ほら、出てこい」


ピョコン、と擬音が聞こえそうな風に登場してきたのは……


「はいはーい、お久です! フィーアですよーっ! って。まあ日常的に本体同士はデータ通信で会議してるんだから、しばらく会ってなくても良いんだろうけどさ。でも私達みたいな半有機アンドロイドの端末体は、しょっちゅう会わないと寂しいって感情が発生するって思いませんか?」


「あー、やっぱりフィーアでしたか。そうですね、主たる本船のエネルギーを落としてるという発想、エネルギーの塊のようなガレリアでは出てこないでしょうから。で? フィーア、6隻目を見つけるには、どうすれば良いと思います?」


「そうだねー。原始的な方法だったら、すぐにでも思いつくし実行できると思うんだけどね」


「で? それは、どういう方法?」


ガレリアが会話に入ってくる。

フィーアは、分からないかな?

とでも言うかのように、


「最低限以下のエネルギーで動いてる巨大な金属小惑星ってことだと考えれば良いんじゃない? つまり、直径5000km前後の小惑星サイズの金属塊を探せば良いんで、それなら搭載艇のレーダー網で探せば良いじゃないの」


「あ、そうか。船と考えず金属塊と考えるべきだったか」


ということになり今までパッシブに徹した捜査活動が、あっちこっちで微弱ながらも星間レーダー網が結成。

それから一週間。

ついに目的の宇宙船らしきものがレーダー網に捉えられた。


「長かったが、ついに発見された……しかし、ここからが厄介だぞ。6隻目はレーダー網に引っ掛かったことに気づいているのは確実なのに未だ沈黙を保っている。あくまでも我々ガルガンチュアが自分のところに来なければ知らぬ存ぜぬを貫き通しそうな雰囲気だぞ。どうする?」


そんなの簡単だよ、とフィーア。


「私達全員で6隻目のところへ押しかけるってのは?」


呆れた目でフィーアを見るガレリアとトリスタン。


「フィーア、6隻目は銀河の中ですよ。我々の現在の規模を考えてみてください」


トリスタンの感想も呆れ気味。


「それが何? どうせ6隻目ちゃんは一人ぼっちな何もない宇宙空間にいるだろうから、この大きさのまま行ったって大丈夫だと思うよ」


フィーアはフィーアなりに考えているようだ。

少し考えていたのか、端に座ってたオールドマンがフィーアの横に立ち、


「良いのではないか? どうせ6隻目はこのような状況すら考えに入れとるだろうから。いっそ、マスターや他のクルーたち全員で行ってみるのもよかろうて。マスターがいると案外、6隻目の説得も上手く行くと思うが、どうじゃろ?」


ガレリアとフロンティアは、しばし見つめ合う。

その一瞬でデータのやり取りも終えたようで、フロンティアが口を開く。


「分かりました。フィーアの提案通り今の編成と乗組員全てで6隻目を訪問しましょう。しれっと我関せずを貫いてる6隻目を驚かせてやるとしましょうかね。ではトリスタンとフィーアでマスターたちに連絡をとってください。6隻目の位置は特定してますね? じゃあ搭載艇群を全て帰還させてください、ガレリア。オールドマンは6隻目が仲間になった場合に最適なフォーメーション位置を計算しておいてください。我々の仲間となるなら多少の改装と改造は必要になると思われますので改修と改造専門艦となったオールドマンの最初の仕事になりますね。その場合に必要となる部材も用意しておいてください」


6隻目との邂逅へ動き出すガルガンチュア。

しかし、これだけ巨大なシステムが動き出すには、それから数ヶ月の時間を要した。


「さーて! 6隻目のところへ行くぞ! 孤独に情報集めだけしてる奴の足元で、でっかい声で眠りを覚ましてやろう!」


楠見の掛け声でガルガンチュアが動き出した……

ガルガンチュアは超大型宇宙船(と言って良いのかどうか迷うほどの巨大サイズであるが)ではあるが、保持するエネルギーの桁も通常の銀河内を跳躍航行するような通常宇宙船とは大違い。

発進時の慣性すらも、その独特な船体制御理論のため、本来なら巨大すぎる質量体全て(現在、ガルガンチュアは5隻構成で小さな星系のような構成になっている)を質量制御しなきゃ到底、動けるようなものではないのだが、その巨大エネルギーを利用して慣性制御を不要にするフィールドで5隻を包み込んで外部から見れば1隻の巨大宇宙船と見なせるようになる。

そのフィールドを全力展開し、ガルガンチュアは動き出す。

さすがに動き出しそのものは、ゆっくりと見えるが巨人の一歩は大きい。

見る間に加速し、数分後には光速の10%ほどの速度にも達する。

そこから更に加速し、およそ半光速になると、その巨大な船体(と言うか小星系?)が霞のように揺らぎ、消える。

跳躍航法に入ったわけだが、入った瞬間、はるか遠く(数万光年)の宇宙空間へとガルガンチュアの巨体が出現する。

普通の宇宙船と同じ跳躍理論で同じ超空間へ突入しては弾かれるということで瞬間的に数万光年を移動するように見えているわけだが、その大きさゆえガルガンチュアの跳躍航法を見ても精神生命体以外だとシリコン生命体くらいしか自分の見たものが信じられない(だから、たまにガルガンチュアを目撃する生命体があっても宇宙の七不思議・怪奇現象の一つとしか伝わらない)

さすがのガルガンチュアであっても銀河内部の航行時には速度を落とさねばならない(速度さえ落とせば良いというものではないが)

だから……


「マスター、6隻目のいるポイントまでは、あと数日かかります。6隻目を取り囲むように周囲に小銀河が配置されてまして、そのまま直進は不可能なんですよ」


フロンティアが報告してくる。


「また厄介なポイントに引きこもったもんだな、6隻目。スポット的に空いてたポイントに収まって、まるで将棋の穴熊戦法だ」


楠見が言う。

ちなみに楠見、これでも将棋はアマチュア初段である(そこまでのめり込んだけど楠見はプロになろうとは思わなかった。最適解を探すという点で将棋は楠見の興味を引いたが現実のトラブル解決の面白さには勝てなかったということだ)

一応、フロンティアやガレリア、その他のガルガンチュア構成員とクルーたちにも将棋を教えようとして諦めた(アンドロイドたちは優秀過ぎて勝負にならない。その他のクルーたちには三次元軍人将棋という競技のほうが複雑で面白いと言われ、二次元の競技には全く興味を持たれなかった)過去のある楠見は、ある時こう呟いている。


「まあ、現実のガルガンチュアのほうが一番複雑なトラブル解決やってるから……ゲームじゃ物足りないのかもなぁ……」


身も蓋もない言葉ながら真実なので楠見も後は何も言えない。

それから数日後、ガルガンチュアにいるクルーたちにも6隻目がおぼろげに見えてきた。

まだまだ遠いが、もう跳躍航法では速すぎるのと跳躍距離(ガルガンチュアだから、だが)の点で今は巨大な宇宙船団(と言うか小星系?)は物理的に亜光速で宇宙空間を突っ走っている。


「ようやくか……厄介な性格してるようだけど成算はあるのか? フロンティア」


楠見が小声で言うが、


「はい。少なくとも、マスターを連れてきたという点においては、こっちのアドバンテージは揺るがないと考えています」


「あー、つまり、俺頼みだってことね……はいはい、了解ですよ。こっちの言葉を聞く耳持ってりゃ良いんだがなぁ……6隻目」


若干の悪い予感に苛まれながら楠見はそう返す。

ちら、とマリーを見た楠見は一瞬、予知能力で……

とも思ったが、こんな事案で貴重なマリーの力を使っちゃダメだろ、と自分に言い聞かす。

半日後、ガルガンチュアは、ようやく見つかった6隻目を目前にしている(百万Km単位で離れているのは、ロシュの限界のため)


「今までの船と違って、我々がここまで来てもなんの反応もないのか。呆れたもんだな」


ガレリアが、とことんまで意地が悪いとの感想を述べる。


「ガレリア、とりあえず電波や光、重力波などで連絡をとってみてくれないか。それでも何も反応がなければ俺の出番だ」


楠見は、ある意味、こいつはフロンティア以上に俺を待っていたのではないかと思う。

今更、同族宇宙船ごときで反応を返そうとする気もないんだろう。

数十分後、


「主、やはりというか反応も返信も何もない。ここまで至近距離なんだから重力波通信などはかなり相手を物理的に揺さぶってるはずなんだがな」


ガレリアが心底呆れ果てたという感想を返す。


「そうか……では俺の出番」


楠見は目一杯強度を増したテレパシーを、目の前にある宇宙船に叩き込むイメージで、


《来たぞ。5隻版ガルガンチュアとマスター含めたクルーも一緒だ。さあ! 目を覚ませ! 》


待ってましたとばかりに目の前の宇宙船が目を覚ました(最低のエネルギーで動いていたのが一気にメインエンジンが動き出したということ)


〈お待ちしておりましたぞ、ガルガンチュアのマスター、楠見殿。予想通りの船とクルー、完全勢ぞろいで迎えに来ていただくのは光栄なのですが……一つだけ条件がございまして〉


そこからテレパシーではなく電波による通信が。


「テレパシーでは、あまりに心情や感情が含まれすぎますのでな、こちらに切り替えさせてもらおう。そちらに従属する形となるのは構わないのだが、少しだけ、こちらもテストさせてもらいたい」


6隻目に答えるのは誰にしようかと楠見は考えていたが、中心部となるフロンティアが船団の代表として答えるようだ。


「テストなどマスターに不要だと思うのだが?」


「いやいや、マスター楠見に異論があるはずもない。今でも超銀河団を渡れる性能の宇宙船を持つ、古今東西、大宇宙の中でもたった一人、最初に生身で超銀河団を渡った実績を作った人類の最高峰、精神生命体以外としては、あのシリコン生命体でもなし得なかったことを成し遂げた、まさに生ける神、現人神とは楠見殿のこと。私が不満を持つとするなら楠見殿が搭乗している船だよ」


はい?

楠見は何か変な言葉を聞いたような気がする。


「えーっと……誰か教えてくれるかな? 俺が生身で最初に超銀河団を渡った生命体? 嘘だよね? シリコン生命体くらいなら、もう成功したと思ってたけど」


何を言ってるんですかという驚きの目線が楠見に集中する。


「マスター……宇宙船団およびクルーの意見を代表しますね。今更何を言ってるんですか?!」


「いや、だって……生身で超銀河団を渡るって銀河団調査船シリーズの次は超銀河団調査船シリーズが建造されてるって思うじゃないか! シリコン生命体の寿命は億年単位だから超銀河団も渡れて当然と思うんだけどな……」


はぁ……

と溜息つくマリー。


「楠見さん、あなたねぇ……自分で言ったわよね、銀河団調査船シリーズは途中から超銀河団航行用に改造とテストしたって。そのときに全ての船が管理者からダメだし食らって、その計画自体が中止になったって! そんな過去を持つシリコン生命体が超銀河団探査船シリーズなんて建造計画に入れると思う? 船は大丈夫でも超銀河団渡航について管理者たちから許可が出たのは、この宇宙は広大といえど……楠見さん、あなただけなのよ! まあ。やってること、個人の力も生身の人類とは思えないけど、でも楠見糺くすみ ただすは、この宇宙に生きる生命体の中で特筆すべきものなの! いつも思ってたけど楠見さんは自己評価が低すぎます! 自分のやってることは他人でも簡単にできるよって思っちゃダメ! あなたがやってきたことは他のどんな生命体にも不可能なことなの! たとえ精神生命体でもね」


一気に今まで楠見に言わなきゃと思って言えなかったことをブチ撒けたマリー。

ハァハァと肩で息をながらも、ついに言ってやったと満足げ。

ライムも、ついでとばかり、


「そうです、キャプテンは自己評価が低すぎるんです! エッタさんも私も、これほどにキャプテンが好きなのに全然相手にしてくれません!」


「あ、いや、それはそうだろう。数万年を一緒に過ごす仲間と言うか家族より濃い絆なのに、そんな気持ちに成ったらダメだろ」


楠見は、あわてて理由を説明する。

そう言えばエッタもライムも最初は俺の子供を欲しがってたな……

トラブルシューティングが忙しくなりすぎて、お互いに忘れてた……

楠見は改めて自分に女性問題が起きなかったことに感謝した。

そう言えば地球にいた頃に親に言われて見合いして婚約一歩手前まで行った彼女は、どうなったのかなぁ……

などと、楠見は数万年前に亡くなっているのが確実な女性のことまで思い出していた。

エッタとライム、マリーは女性軍として互いに認め合ったように笑い合っている。

朴念仁の楠見を肴にして、今にもカフェタイムでコイバナへと突入しようかという女性たちのようだ。

6隻目は、それを全て聞いていたのか、


「まあ、通信で言い合っても埒が明かないので半有機アンドロイドである私が、そちらへ乗り込もう。交渉は、それからだ」


交渉場の設定をどうする?

と話し合ってたガルガンチュア側としても、向こうがこちらへ来てくれるなら問題はない。

まあ、大きさとしても規模としても向こうとこちらでは違いすぎるが(主砲も力の要素の一つだがオールドマンのように割り切って主砲は積まないという選択肢もある。もともとの武力や防衛力が、そんじょそこらの宇宙船や銀河艦隊ごときとは比べ物にならない)それより何より、こちらの人数が多いので、向こうへ乗り込むのは準備に時間がかかりすぎる。

船体端末の半有機アンドロイド(半有機ロボットボディとガルガンチュアでは呼んでいるが)が一体で来てくれるなら、こちらでは広めの会議室を用意するだけで終わる。

楠見は、こちらの用意はできているため、いつ来てくれても良いと返事を返し、通信が終了する。


「ん? 向こうが来ると言ってたが、こちらの転送装置を使えば搭載艇を使うまでもないだろ。ガレリア、向こうが準備できたら、こちらへ転送するから搭載艇は不要だと言ってやってくれ」


楠見の要請にガレリアは頷き、船体同士の高速データ通信で内容を送ったようだ(ちなみにガレリアは無言。船同士の近距離高速通信なので音声よりも速く伝えられる)

数分後、向こうの準備ができたようで転送で会議室へ送ったとフィーアが報告してきた。

楠見たちガルガンチュア勢も船内転送により会議室へ到着。


「おお、世にも珍しい銀河探査船集合体の複合マスター、楠見殿ですな。私は……いや、人類には発音不可能な船体名なので6隻目と名乗っておきましょうか」


6隻目、かなり煽り気味。

ガルガンチュアの同族宇宙船たちを無視するように、わざわざ宇宙船団のマスターである楠見を名指しで挨拶している。


「では、こちらも6隻目という仮名称で呼ばせてもらうこととしましょう。私はガルガンチュアを構成する中心、フロンティア。こちらがガレリア、その隣がトリスタン、フィーア、オールドマンの五隻構成で、超銀河団を渡りながら訪れた各銀河を平和と安全に満ちた宇宙とするために活動している」


楠見を除くクルーたちは6隻目の煽りを理解してから良い印象を持ってない。

楠見は淡々としたもの。

地球でトラブル対応やってた時には、こいつより性悪な上司は、いくらでも居たからなぁ……

などと思い出に耽っている。


「さて、交渉の前に。私は少し前にも言いましたが、マスター楠見の下に集うのは問題なしと考えます。ただ、フロンティア以下の宇宙船の資質が問題ではないかと」


「うん? 私やフロンティアと同列に考えてほしくないとでも言うのか? この5隻が集まって今まで解決が不可能だったトラブルなど存在しないぞ。まあ、そのマスターや他のクルーの能力もあっての話ではあるが」


腹に据えかねるとでも言いたそうなガレリア。

不満たらたらだが6隻目を強烈に拒むほどではないので怒り顔も仮面だろう。


「船体の性能や、ここに集まった生命体たちのクルーとしての能力も否定はしませんよ、私は。ただし、以前にも言いました条件、いわゆる「試し」というヤツです。これさえ達成させて貰えば、いつでも仲間になり、マスター楠見から新しい船名をいただきましょう。実は私も新しい名前は期待しておるのです」


「で? その「試し」って? マスターは問題なしって言ってるから、ボクら宇宙船への「試し」だよね?」


フィーアが発言する。

それに答えて、


「そうです、5隻構成なので集団でチャレンジしていただいても構いません……が、壁は高いですよ。覚悟してください」


6隻目の表情が変わる。

今までの微笑が消えている。


「聞かせてもらおうか、若いの。試しの条件をな」


オールドマンが、ゆっくりと発言する。

6隻目の発言内容「試し」とは……


「なに、簡単なことですよ。マスターが居ない時点での行動力を見せてほしいだけです」


ガルガンチュア構成の5隻(のロボットボディ)の顔色が変わる。


「本気ですか?」


フロンティアが完全な真顔で聞く。

フェイルセーフの面からも船とマスターは切り離せないものだと分かっていて、その上での「試し」だと言っているのだ、6隻目は。


「ええ、本気ですよ。ちなみに現在、私にはマスターがいません。他の船と同じく前のマスターが行おうとした超銀河団を超えるための駆動方式実験で、マスターとは生き別れになってしまいました。今の私は情報収集に特化した船になっています。幸い、そちらと同じく搭載艇の改造で全ての搭載艇に跳躍エンジンを取り付けることができているので、この周辺銀河の詳細な情報収集ができています」


楠見が気になっていたことを聞く。


「6隻目と呼んだほうが? では、6隻目。情報収集特化というのは珍しいとは思うが今の状態はマスターがいない、つまりは本体が思うように動けない状況のはず。それでも、俺達の状況が、全てではないにしろ、おおよそ分かっていたのは、どういう手品か仕組みだ? 超光速通信を使える搭載艇があったとしても銀河団を搭載艇が渡ることは無理だろう」


「あ、それは簡単です。私は造られた時から自分の搭載艇を付近にいる他の銀河団探査船に紛れ込ませてたんですよ。ちなみに搭載艇ってコントロール方式としては簡単で、他の船の搭載艇でも銀河団探査船であれば、どっちの命令でも従うようになってるんです。それは、ガルガンチュアとなっても同じでしょ? そうでなきゃ、搭載艇の数が多すぎて合体船なんか実現できませんって」


そうか、と思い至った、こちらガレリア。


「たまにだが搭載艇群への命令が一瞬ではあるが滞ることがあった。あれは、お前の指揮下だった搭載艇か。情報を送信中だったんで、私や他の船の命令を実行するのに遅れが出たんだな」


「正解です。搭載艇の人工頭脳は、我々のような本体に比べると数段は劣りますので、様々な特殊命令を一挙に実行しようとすると遅れが出たりエラーが発生したりします。まあ、瞬間的なものですから滅多に任務遂行に支障は出ませんが」


滅多に出るものではないが、数万年もの長きに渡って様々な銀河のトラブルシューティングなどやっていれば、命令の優先順位でエラーも出るということか。

楠見は、6隻目に尋ねる。


「で? 具体的には、どうやると?」


「簡単ですよ。マスターが私の船に短期間、居留してもらいます。その間、ガルガンチュアとして、どんな行動が可能なのか自分で確認してほしいのです。いつだったかマスターの疑似テレポート実験でしたか? それでマスターの位置がわからなくなってしまい、素早く救出に出られなかったという事件がありましたよね」


ガレリアとフロンティア、言いたいこともあるのだろうが何も言えない。

他の(オールドマンを除く)2隻についても同じく。

楠見は、あれは半分以上、俺のミスなんだがなぁ……

と反省を込めて思いはするが口には出さない。


「緊急事態に自分の行動規制範囲を確認しろということだな。自分に何ができて、これ以上はフェイルセーフにより行動不能となる、この限界を知れということか」


楠見は6隻目に問う。


「その通りです、マスター楠見。今のままのガルガンチュアでは自分の限界を知らない、だけど、あなたというマスターのおかげで自分の全力は適正なときに出せるという理想的な状況が続いていました。しかし、本来、宇宙船単体として行動するときには、自分の限界は知っておかねばならないはずです。今まではマスターもいる、あるいは、仮マスターとして生命体クルーを登録して、いわば自分を騙して何とか凌げていましたが、これ以上、超銀河団を渡りながら活動するなら、ここで自分を見つめ直すべきでしょう」


6隻目、正論である。

こう言われれば、ガルガンチュアとして、この試練をやらねばならないだろう。


「仕方がない……やりましょう。失敗とか成功とかいうものがないのは不満ですが、確かに我々は自分の宇宙船としての行動制限や実力を知っておくべきですね。マスターが疑似テレポート実験で消えてしまったときの喪失感は今でも思い出す度、特大エラーメッセージが飛び出そうです」


フロンティアの宣言に他の4隻も同意し、6隻目の試しを受けることとなった……

試練を受ける宣言をしてから3ヶ月後……


「6隻目、と呼んだほうが良いのかな? もう俺達の仲間になることは決めてるんだろ?」


楠見に言われ6隻目(仮名)は渋々、頷く。


「そうですね……本音を話しましょうか。我々本来の性格、実はエゴイストです。マスターが複数の船に共有されるというのは本来なら受け入れられないものなんですよ。ただしマスター楠見、あなたの場合は別です。どうやっても単一の宇宙船が独占できるレベルのマスターではありません……ちなみに、これはフロンティアであろうが私であろうが他の8隻であったとしても変わりないと思います。これは例え以前のマスター、シリコン生命体であろうが今のマスター楠見には及ばないということですよ」


6隻目は言葉を切る。

続けて、


「ですから、あなたがたガルガンチュアが、この銀河に来た時から……いいえ、もっと前からです、フロンティアとマスター楠見が出会った頃から、これは決められていたことなのではないだろうかと思いますよ……私はガルガンチュアとして仲間に加わる覚悟はしていました。ただね、今回は、あまりに長く待ちすぎたせいで少し意地悪をしてみたかっただけなんですよ。もうすぐフロンティアたちは試練より戻ってきますから、そこで私の加盟と、ガルガンチュアを構成する1隻としての名前をいただきたいと思います」


「そうか……これから長い付きあいになるが、よろしく」


「いえいえ、少なくとも今までのような情報収集に明け暮れる退屈な日々だけはなくなるでしょうから大歓迎ですよ」


楠見と6隻目、互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

案外、この二人(一人と1隻?)は気が合うのかも知れない。

数日後、試練の場よりガルガンチュア構成の宇宙船たちは6隻目のいる場所へ何とか辿り着く。

そこにいる楠見を確認して、うっすら涙を浮かべるもの、狂喜乱舞するもの、じっと立ち尽くして何やら思いに耽るもの……

5隻がそれぞれの喜びと感慨に耽る様が見て取れる。


「ご苦労さま、頑張ったな、皆。これでマスターが居なくなった時に下がる自分の限界レベルは把握しただろう。で、朗報もある」


楠見は、そこまで言うと6隻目を呼び寄せる。


「ようやく6隻目の承諾を得た。俺達の仲間が増える。ガルガンチュアは今から6隻合体船となる」


ようやく素直になりやがったと他の5隻は思ったが口には出さない。

楠見は続けて、


「で、6隻目の名前だが……フェルプスにしようと思う。これは多分に俺の感傷的なものがあるんだが、俺のビブリオファイルにある大昔のスパイドラマからだ。情報収集専門艦の名前としてピッタリじゃないかと思うんだが」


「おお! フェルプス! ありがとうございます! これで私もガルガンチュアの一員になれたわけですね!」


フェルプスだけが感激の極みにあり、他の船は若干、引いている。

無理もない、マスターが居ないという現実環境で、おまけに星系化フォーメーションまで解かれて1隻づつ別々の方角と星系へ送り込まれ、なおかつ、そこで発生してるトラブルがあるなら解決して、それでもって自力でフェルプス(6隻目)のもとに、つまりは楠見の元まで戻ってくるのが試練だった……

もしかしたらということで郷やエッタ、ライム、マリーにプロフェッサーは仮マスターとしてそれぞれの船に常駐していたが、それでも手出し厳禁(アドバイスもダメなんである)

もう、動かぬ主機を無理やり動かし、手足を縛られた格好の本船ではなく搭載艇に細かい仕事は任せつつ、やっぱり起こってた星系レベルのトラブルも何とか解決してヨタヨタと戻ってきたら、この有様。

それぞれの船から降りてきたサブマスターたち(仮の仮に近い、何もできなかった、させてもらえなかった5人)の中、プロフェッサーが静かに手を上げる。


「わが主、ご提案が。今現在、小星系クラスになっているガルガンチュアに、もう1隻加わるのであれば、ちょっとチームとしての編成にご提案が」


「お、珍しいな、プロフェッサー。あまりに巨大化してる今の状況を何とかできるなら何でも聞くぞ」


「わが主も今のガルガンチュアの状況はマズイと思っているのですね。私は以前のような筒で繋ぐ方式ではない合体方式を提案したいのですが」


ということでプロフェッサーは新しい合体方式を提唱した。

3D図面を会議用モニターに映し出す。


「こ、これは斬新! ですが、これですと中心部の船が大きくないと他の5隻が入るスペースそのものが無いですよね?」


フェルプスが真っ先に意見を出す。

さすが情報収集専門で動いてただけのことはある。

新しい合体方式だが先に使った長い筒の接続方式ではなく、どっちかというと中心部となる超巨大船に他の5隻が嵌まり込む(ブロック遊びのようなものかな? でっかいブロックの空いたスペースに、その比較的小さなブロックを嵌め込んでいくような形になる)ような凸凹のある球面というほうが当たってると思う。


「マスター……確かに、これだと現在のような直径数百万Kmではなく最大でも直径10万Kmくらいにはなりますが……中心部の球体は私ですよね? プロフェッサー」


「その通り、中心部はフロンティアとなる予定です。直径は今の倍以上、およそ5万kmとし、その球体に窪みを作り、そこに他の5隻が嵌まり込むような形となります。利点は分離や合体が簡単になることと、そして搭載艇を積むということを考えなくて良い点ですね」


「で? 利点があると言うなら欠点もあるよな?」


意地悪く楠見が言う。

まあ、その欠点とやらは一目瞭然。


「はい、我が主。搭載艇を以前から使っている合体用筒に全て収納するということになり本船からの制御が少しですが遅れるのが欠点ですね。まあ搭載艇群として動き出してしまえば問題はないと思われますが」


「はい! それなら私に改良案があるよ! 聞きたい?」


「おや? 早速かな? フィーア。どんな改良案だ?」


楠見の声に意を良くしたフィーア、


「えーっとね、搭載艇がバラバラに積まれてるのが問題だと思うんだ。だからさ、いっそ搭載艇母艦を、この際だから一気に増やして入れ子式にしちゃえば? そうすれば搭載艇母艦の発進と帰還だけで、そんなに出動時間はかからないと思うんだよね。どう?」


「発想は素晴らしいと思いますが、上手くいきますかね? シミュレーションやってみて搭載艇母艦の数を予め決定しておかないと改装と改造、増強作業が大変になりそうです」


プロフェッサーの返事に、やってみようか、と返事を返すフィーア。


「えーっと……改装と改修、増強作業って我々もか?」


ガレリアが疑問を呈す。

プロフェッサー答えて、


「主軸として対象になるのはフロンティアですが合体する以上、他の船も多少の改修や改造作業が発生します。作業期間そのものが長期になるのは確定してますので、この際オールドマンやフェルプスの改装や改造も進めてしまえば良いかと。オールドマンの改修と改造は最終段階まで行ってないですから完全な最終改造まで行うのが良いかと思われます」


トントン拍子で大改造計画が進んでいった……

改修・改造・増強作業に当たりつつ、近辺の隣接銀河の様子も窺いながら、楠見たちガルガンチュアメンバーは、それぞれの活動を行っていた。


「マスター、お久しぶりです。準備作業に入ってから、ちょうど十年過ぎくらいですか。そちらの様子はいかがです? こっちは代り映えしませんね、まだまだ私も増強と改修・改造に時間がかかりますので」


《フロンティアか、今月のブリッジ当直は……とは言っても今の状況では当直も何もないけど。緊急事態が起きても動かせるのは搭載艇群だけだろ》


「そうですね。搭載艇が収納される予定の搭載艇母艦の量産はオールドマンに任せてます。オールドマンの形は随分と変わりましたよ。現在オールドマンの改修作業は90%程度ですね。移動中にやれる改修や改装を終わらせてたのが良かったようで他の船は50%も進んでいません。まあ、この私の改修と改造・増強作業が一番多いですから、私に関しては未だ30%も進んでおりません」


《そうか、大々的な改修や改造になるんで、ミスの無いよう、ゆっくりとやってくれて大丈夫だ。俺達の方は、ちょっと厄介事になってしまった。宇宙船の力を借りるまでは行かなくても俺達だけでとなると規模が大きくてね》


「エネルギーが足りないとかなら搭載艇を数隻、派遣しましょうか? 武装も一新しましたし、以前よりも30%以上のエネルギー効率アップと余裕度アップをしましたので、この銀河に存在する星間帝国や星間同盟などの戦力に匹敵する数……そうですね、500m級なら100隻余りもあれば余裕で殲滅できると思いますが?」


《おいおい、怖いこと考えるな。厄介というのは社会構造の複雑さだ。星系で一つの文明圏となっているのに、未だに我が国が! とか言い出すやつが多い、偏った宇宙文明の修正さ》


「それなら提案が。外宇宙からの脅威を演出しましょうか? なに、500m級を10隻ほど星系末端部へ貼り付けさせて、その上でマスターのテレパシーメッセージを全星系の住人へ届けてやれば、それこそ一発で星系が一つになりますよ」


《相変わらず、遊びも何もないストレートな解決方法を……最終的には、それも考えているが、それでも、できるなら拳を振るうのは最後にしたい。まあ、郷やマリーも頑張ってくれてるんで今回は予想より早く終わるとは思うが》


「マスターが出られないんですね、今回も。まあ予想はつきましたけど。マスターが現場に出て、もし誰かがマスターを拉致や殺害しようと襲ってきた場合に、マスターの力が開放されない保証はありませんからね。刃を向けた瞬間、太陽ごと星系が粉々になる光景が目に浮かびますよ……ご愁傷さま、自業自得とは正にこれでしょうね」


《いや、だからな! それを回避するために俺は現場に出てないんだって! まあ、テレパシー通信で郷やマリー、エッタやライム達とは定期的に情報を交換しあってるんで、そうそう危ないことも無いとは思うんだが……ただなぁ、マリーが久々の惑星上任務だってんで張り切っちゃって……危険地帯へ行きたがってるんで護衛のプロフェッサーは外せないんだよ》


「そうですね。マリーさんもクルーの自覚がようやく出てきたということですかね。マスターが全面に出ると、もうトラブル解決まで選択肢がないとようやく気づいたんじゃないでしょうか」


《あのなぁ、フロンティア。人を化け物か魔王みたいに……まあ、半分は自覚してるから俺も強くは言えんが……》


「魔王のほうが良かったのでは? 勇者に倒される運命でしょ? 私としては、マスターが誰か、何か、ですかね? に倒されるとかいうイメージが全く浮かびません。そのうち、精神生命体である管理者でも手に余る存在になりかねないと、私の本体の計算結果が暗示してますよ」


《ホントか? まあ、お前が言うなら、ほぼ間違いないんだろうが……俺の未来は、どうやら静かにのんびり過ごせるってもんじゃなさそうだな……》


「ここまでの実績を積み上げといて何を今さら……」


《まあ、とりあえずは、どちらもほぼ順調に進んでるというころだろうな。以上だ、また連絡する》


不意にテレパシーが途切れ、楠見との通話が終了する。

フロンティアとしては、なんとなく寂しい気がする。


ああ、これが、マスターに傍に居てほしいと思う機械生命体たちの感情か……

この頃、楠見という存在に対して異様に執着する機械生命体たちの気持ちが、ようやく理解できたフロンティアである。

自分も過去の生命体探索任務に就いていた頃の銀河団渡航時でさえも、今の状況とマスターの力や能力、自分の船体すら改造や改修という言葉が場違いと思われるほどにパワーアップしているこの現状と比べれば、昔はなんと無風状況にあったことやら……

機械生命体も、ほぼ自分と同じだろう。

始祖種族という伝説的な、しかし機械生命体の記憶にはしっかりと残っている偉大なる種族の身近で働いていた遥かなる過去と、始祖種族が何処にも居なくなった現在との落差が、あそこまでマスター楠見に固執する原因だろうが……

ふと、フロンティアに一つの思いが湧き上がる。


私の、いや、私達ガルガンチュアからマスター楠見が去った時、私の空虚を埋める生命体マスターなど出てくるのだろうか?

仮のマスターでも、どんな生命体であろうとも(私の創造者であるシリコン生命体であったとしても)空虚を埋めることなど決してできないのだとフロンティアは、本体に震えが来そうなほど、あるいは、自分が生命体であるかのごとく未来に怯え、悟る……


それからまた数年後……

楠見たちガルガンチュアクルーは三度目の合体変更完了となったガルガンチュアに戻っていた。


「一応の完成予想図は見せてもらっていたが、実物見ると衝撃的だな」


楠見が発言する。

楠見の乗っているのは新型の量産タイプ搭載艇母艦。

こいつ一つで裏と表に合計20隻の大型搭載艇(いわゆる500m級)を積める。

筒(収容筒)からの発進時には、この搭載艇母艦が主な発進(筒に無数の巨大穴が開くようになっていて、発進時にはそこから素早く搭載艇母艦群が発進・着鑑できるようになっている)となり、今までの形である中型や大型、小型や超小型などの各搭載艇単独発進などは行わないルールに変更された。

必ず超小型は小型や中型搭載艇に収納され、小型は中型や大型に、中型は基本的に大型に収納されるが特殊用途のものは特別に母艦に単独搭載されるようになっている。

こうやって見かけの数を大幅に減少させたため、搭載艇母艦を収容する筒は今までの4本で済む(新しい収容筒を作る予定が、作らなくてすんだので必要な材料が減り工期が短くなった)


「見事なものでしょう……改造完了した本船、フロンティアに、ガレリアやトリスタン、フィーアにフェルプスが外周に嵌め込まれるようにくっついた形になります。私が言うのもなんですが異形としか言いようがないですよね」


ガイド役のフロンティア(生体ロボット)が答える。

フロンティアは基本、球形だが、その他の同僚船は球形とは限らない。

ガレリアは独楽のような形をしているしトリスタンは卵型。

フィーアはサイコロ形だがオールドマンは所謂「太いまな板」形状。

修理や改修・改造専門とするためフロンティアの下面に接触しない数百メートルの空間を保ちつつトラクタービームの見えない係留索により固定されている。

ちなみに新人のフェルプスは、これも基本的な球形なのでフロンティアの上面に嵌め込まれ、情報収集用アンテナと自分専用の情報収集用搭載艇群を保持している(大部分の搭載艇は筒に入ることを承諾したが、独自の判断で動かせる数百隻の搭載艇群だけは自分の元にあるようにとフェルプスが言い張ったため、こうなった)

ちなみにフロンティアの前面には主砲が存在しているので、ここに嵌め込まれる宇宙船はない。

フロンティアを正面に見て、左にフィーア、右にトリスタン、下にオールドマン、上にフェルプス、そして背面にガレリアという位置関係になる。

それぞれの主砲の活躍時にはフロンティアを右や左にぐるりと90度回し、ガレリアの主砲なら180度回転という話。

エネルギー的にもミニ星系のように大幅な距離をとっているわけではないので扱い易くなっている(巨大な余剰エネルギー空間が、すぐ傍にあるのは危険だという話もあるが位相をずらしているので安全)

搭載艇母艦の収容筒は4本が統合され搭載艇母艦の全機発進時に邪魔にならない最小距離にてトラクタービームで相互に位置を固定。

シミュレーションでも実機の訓練発進時にも大幅な発進と帰還の時間短縮になり、改良したかいがあったとプロフェッサーは鼻高々。

これで、フェルプス捜索時に、あまりに船体として大きすぎる(ミニ星系クラス)ためにフェルプスへ直進コースを取れなかったという今までの欠点は解消された。


「小さくはなったが……より巨大な宇宙船というイメージは強化されたな。もう異形の超巨大惑星という方が良いんじゃないか?」


楠見の素直な感想。

巨大惑星から様々な異形の物体が生えてるというのが直接的なイメージだろう。


「私、フロンティアが中心となりますので遠い将来、例えば残りの4隻が合流するとしても中心部である私を巨大化すれば余裕は作り出せます。まあ、そのような事は確率的に極小だとは思いますが……この6隻が集まることそのものが、ほとんど極小の可能性が集まったものなんですがねぇ……」


フロンティアが、自分でも予想しなかったことですと言い出す。

楠見が驚き、


「おいおい、何を言い出す。それを言うなら俺とお前、フロンティアが出会った状況そのものが奇跡みたいなもんだろう。何の変哲もない普通の大きさの銀河系、その辺境部にある太陽系に、なぜに銀河団探査船シリーズの1隻が埋もれてたんだ? 本来なら絶対にフロンティアやガレリアなどが関心を持つ銀河じゃないよな?」


「そうですね、マスター。銀河系より、その近くにあるアンドロメダ銀河の方に関心が向けられるはずです、大きさ的にもエネルギー的にも。ホント、なぜなんでしょうか? もしかして管理者たちの未来予測が招いたことなのかも……未来に誕生する可能性の高い、始祖種族の遺伝子を色濃く発現させた先祖返りの特殊個体、楠見糺くすみ ただすに対するサプライズプレゼントだったりするかも?」


「怖いことを言わないでくれ、フロンティア。俺は歴史も宇宙もひっくり返すような破壊者でもなけりゃ世界を暗黒に落とす大魔王や大暗黒神でもない。俺は能力は飛び抜けてるかも知れないが、ただの人類、地球人だよ。宇宙へ出てからは一人の人間がやれることだけを精一杯やってるつもりなんだが」


楠見がそこまで言った時、別の声が。


「どこが普通の人類、普通の地球人なんですか? あたしがクルーに加わってから、まだ数千年だけど、もうイヤってほど超人クスミの力を見せてもらいましたけど?」


真っ先にマリーの声。

続けて郷。


「俺も長年、師匠と一緒に居ますが毎度のことながら師匠がやるトラブルシューティングの規模が普通じゃないって自分で分かってます? 普通の人間、普通の生命体はですね、銀河規模の災害や大戦をなんとかしようなんて考えもしないんだって気づいてます?」


「そうですよ、ご主人様は一種の精神的怪物です。今現在、生身でご主人様と互角に戦えるような生命体はいないんです。精神生命体とか管理者たちのレベルになれば別なんでしょうけど、少なくとも、肉体という3次元に基盤を持つ生命体で、ご主人様に匹敵する生命体というのは、私が知る限り存在などしません」


エッタが続く。

最後はライム。


「本来、キャプテンの力は生命体が持てるレベルを、もうとっくに越えてます。普通、精神の力が肉体の中に入っていられるのは限界値として郷さんのようなレベルまで。私の目には郷さんですら生命体として存在しているのが不思議なくらい。キャプテンの力は、もう精神生命体として生きるほうが良いレベルなんです」


楠見、意外なことを言われた気がする。

マリーはクルーになった初めから楠見の力が異常・怪物・管理者レベルだと言い続けてきたので、もう慣れたところがある。

エッタやライムは、そんなことを言ったりしな……

あれ?

言ってたっけ?

楠見は記憶を探り、

あ、そう言えば言ってたな……

長いこと一緒にいる仲間だから、言われてもスルーしてたのか……

ちなみに郷もマリーと同じようなことを言い続けてたが、楠見自身が本当に気づいてないと感じ、途中から諦めたようで。


「どう? みーんな、あなた、楠見さんの力は異常で管理者レベルだと感じてるのよ。いい加減、認めなさい!」


マリーがトドメをさす。


「そこまでか? 俺自身、念じるだけで星系を粉々にする力なんて、あっちにもこっちにもいるんじゃないかと思ってたんだが……」


あくまで一般人だと主張したい楠見。

そこにトドメの二発目、郷。


「もう、認めましょうよ、師匠。タンパク質生命体の中でも人類、いや、多分ですが始祖種族すら得られなかったレベルの力を持ってるのが、この無限に広い宇宙でも師匠ただ一人なんだって事実を」


はぁ……

何かを諦めたような溜息をつきながら楠見は渋々、自分が宇宙に唯一人のレベルに到達していると認める。

楠見以外、晴れ晴れとした顔で新生ガルガンチュアは、その超絶的なエネルギー量を完璧に制御しながら銀河を離れる……

異形の巨大惑星が異形の衛星を従えた形になった新生ガルガンチュア。

銀河を後にし、何もない銀河間空間を疾駆し、ときおり姿を消したと思えば次の瞬間には数10万光年も離れたポイントに出現する。

以前のガルガンチュアと違うのは宇宙を疾駆する姿が何やら生き物のごとく見えるから。

ただし、その疾駆する姿を観測するものが存在すれば、の話であるが。