第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第七十二話 ガルガンチュア、クルー募集
稲葉小僧
「うーん……人員、クルーが足りない……」
楠見が呟く。
郷が答えて、
「このガルガンチュア、かなり乗員を選びますからね、仕方がないです。ちょっと考えるだけでも……」
後をマリーが受ける。
「まず寿命の問題ね。相対的に永遠に近い、数万年単位の寿命を受け入れられる生命体は、かなり限られるわ。かと言ってシリコン生命体種族なんて無理よね。ガルガンチュアは対応可能だけど生活リズムが違いすぎて私達みたいなタンパク質生命体や不定形生命体では一日が数百年にもなる生活リズムは受け入れられないわ。寿命は数億年単位あるみたいだけど生活のスピードが違いすぎて会話にも苦労するのよ」
そう、今現在、ガルガンチュアは6隻合体の状態になり、そこでクルーの対応問題が出てきた。
楠見が総合的に全ての船のメインマスターであることは変わりないが問題は過去にもあった「楠見がいなくなったガルガンチュア」の場合。
あの場合、4隻合体ではあったが、なんとかサブマスターを、それぞれの船に割当てることができて楠見の捜索に当たることができたのだが今回何と6隻!
「師匠がいなくなると俺にマリーさん、エッタさん、ライムさん、特別にプロフェッサーさんをサブマスターにするにせよ、あと一人、どうしてもサブマスターが必要になりますよねー……どうするんです?」
郷が楠見に誰か候補はいないのかと聞いてくる。
楠見は頭をひねり、
「あと一人、寿命の問題が解決してるなら候補はいる。ただなぁ、マリーと同じような状況で別れてるしなぁ……」
「あ、分かりました! それ太二くんですよね! そうか、彼なら贈り物をマリーさんみたいに使ってくれていれば今でも生きてますよね。でしたら、マリーさんみたいに迎えに行けば?」
ライムは歓迎してくれるようだが、
「そう、太二だ。ガルガンチュアクルーへ誘ったんだが太二は星に残ると言って別れて……あれから1万年くらいか、時の流れって速いよなぁ。さて、今でも俺を憶えてくれているかな? それとも、俺と同じように銀河を救うトラブルシューターになって今でも活躍してるか? 活躍してるようなら迎えに行っても断られるケースもあるだろうし……」
「ここでウダウダ考えてても仕方ないんじゃない? あたしの時もそうだったけど一人ぼっちで1万年を生きるのは寂しいわね。トラブル解決に従事していたって、それはそれで永久孤独なワントップになっちゃうわ。ガルガンチュアに来るなら孤独に数万年を生きるんじゃなくて波瀾万丈の毎日が待ってるんだもの。絶対にノーとは言わないわよ」
そうかなぁ?
楠見は気弱に考えているが他のクルーたちは(プロフェッサーも含めて)賛成してくれるはずだから迎えに行ったほうが良いと勧める。
「で? どうやって太二くんを迎えに行くの? ガルガンチュアのログ辿って引き返す? 今の状態なら千年くらいかな? どう、フィーアの計算は?」
マリーの問いかけにセンサー群をチェックしていたフィーアが、こちらへ振り向き、
「そうですね……超銀河団も2つばかし超えますが千年はかからないと思いますよ、ざっと計算しても800年と少しと出ました」
「超銀河団2つも超えるのに、それでも800年と少し……とんでもない性能になってるのね、今のガルガンチュア」
マリーの驚きに銀河団マップを参照していたフロンティアも振り向き、
「今の6隻合体は、もうシリコン生命体も予想してないエネルギー量ですからね。これが制御状態になっているので安全ですが、もしこのエネルギーが全て開放されたとしたら……スーパーノヴァと変わらない状況と観測されるでしょう」
「うわぁ、とんでもないことになってるな、今更だけど。で、一つ聞きたいんだけど……このまま未来に向けて合体する銀河団探査宇宙船を増やすって計画は?」
郷の質問にもフロンティアは何もなかったように答える。
「それは可能性としては考えられますが、これ以上は確率として極小でしょう。安定度としては今が最良でしょうかね? エネルギー量増加と並行して、合体してから制御力の上限が上がったことで、この膨大なエネルギーを完璧に制御できていますので。まあ7隻や8隻、9隻になったとしても制御は可能かも知れませんが、中心となる私、フロンティアの拡大が問題となりますね。直径が10万km超えると、それはそれで別問題が出てきそうです。別に2隻や3隻の合体船を作って巨大惑星と巨大衛星のコンビとしても良いかも?」
今のガルガンチュアの周りを直径1万kmの月が周る……
今の搭載艇収容筒群と合わせて2つの月となるように……
とてつもない光景が目の前を通り過ぎたように感じ、楠見と郷は頭を振る。
2人共、この光景は見たくないと思った(これが実現するのなら、それは別の意味で宇宙に大異変が起きそうだ)
「話は決まったな。久々に太二に会いに行くか」
楠見がそう言った途端、ガルガンチュアから楠見の姿が消えた……
楠見がガルガンチュアより消える数年前。
ここは、かつてガルガンチュアが訪れ、奇しくも楠見が……義理ではあるが……息子を育て上げた星のある銀河。
そこには、きな臭い戦争の兆候があった。
「第一銀河統制官へ、こちらクスミ。大企業の元会長という立場で現場の視察へ来たが……こりゃ、この星の統制官は捕まって、どこかに幽閉されているようだな。まあ、統制官を幽閉するような政治体制を取るような国家など、ろくなもんじゃないのは当然だろうが。統制官代理という人物と話したが、あれは権力欲の塊だな。とりあえず私の権限で我社の生産・管理している宇宙船の跳躍エンジンと跳躍航法装置は凍結している。もう少しで隣の星系へ侵略部隊を送り込むところだったので相手も焦りまくっとったぞ」
あいも変わらず、銀河から消えた父の跡をついで自分の銀河内ではあるがトラブルシューターとなり、あっちの星系、こっちの星と走り回っている太二くん。
今回は火消し役のようである。
5百年ほど前に、ようやく銀河が統一政府となり其の頃すでに隠居して未開惑星に引きこもっていた太二くんだったが統一政府の人員不足が原因で、あっちからもこっちからも反統一政府運動が起きてしまう。
その原因?
お隣の星系に統一政府のお偉い方から援助が入ったが、うちらの星には援助も視察も来ない……
こんな馬鹿な政府に従えるか!
という、お決まりの我田引水理論である(別の言葉で、我儘なガキ)
とは言え一つや二つの星で反乱運動の兆候が見られるというくらいで統一宇宙軍を派遣していたのでは軍の艦艇も人員も何もかも足りなくなる。
そこで、もう隠居生活には入っていたが銀河統一前からの最大功労者であり、未だ衰えることのない精神と肉体を保持しているという、もう半分伝説になっていた楠見太二その人に再び光が当たる。
第一統制官から土下座で頼みこまれてしまい、断るに断れない状況で、じゃあ、きな臭い星や星系にクスミグループの元会長権限で視察に行き、経済的な反目ならその場で解決し、政治的なイデオロギーの違いなら政府介入という線引き役を買って出た太二くん。
まだ、この星だけの反乱ではあるが、これを放置しておいては星系全て巻き込むことにもなりかねんと急ぎ第一統制官に連絡する太二くんだが、その前に軍用も民間用も全ての宇宙船の跳躍エンジンと跳躍航法装置にブロックかけることは忘れないのが素早い。
まあ、こんな事ができるのはクスミグループが全ての宇宙船(軍用、民間用問わず)を造っているから。
当然、宇宙船を動かす総合コンピュータシステムは自我を持ち(通常は使用者には気づかれないようにしている)その総合コンピュータに機能ブロック命令などできるのは、この銀河の中では、ただ一人。
「宇宙船及び、その関係の、この星系全ての統合コンピュータへ最優先命令! 全ての宇宙船の跳躍航法装置及び跳躍エンジン制御用装置をブロック・機能停止しろ。以後、私が命令するまでブロック解除は禁止する」
この一言を星系向けのオープンチャンネルで太二くんが発信し、今の状況につながる。
あわてて、統制官代理とかいう見るからに腹に一物ありそうな悪者顔の政治家が太二くんのいるホテルに、すっ飛んできた。
いかにも全速力で走ってきたかのように汗だくで息も絶え絶えになっているようだが、
「勝手に我が星系軍と民間宇宙船の全ての跳躍航法が使えなくするとは! 儂の許可も取らずに一民間企業の、それも隠居した元会長が、なんということをしてくれたのかね!」
そう言うと汗だくの統制官代理はホテルのボーイに持ってこさせた水を、今ではコップじゃ足りないとピッチャーから直接飲んでいる。
太二くんとしては何を今更という風に、
「私の権限で、ここの争いを他星系へと伝播させないようにしただけです。ちなみに怒りのあまり私を、この場で撃ち殺したとすれば、もう二度と、この星系内で光より早く跳べる宇宙船は造れないし、この情報が広まれば他星系からの宇宙船は1隻も来なくなります。この星系自体、宙域封鎖対象となりますので」
あっけらかんとした発言である。
宇宙船どころか他との星系同士の貿易すら不可能となると認識した、その汗だくな政治家は、これ以上は相手に何も出来ない。
手を出したが最後、星系自体が終了すると思い知り、腰砕けになる……
「残念でしたねー、代理さんとやら。もうすぐ統一政府から派遣されたエスパー部隊が到着しますので、それまでに言い訳考えておいたほうが良いと思いますけど? あ、幽閉してる本来の統制官は、もうすぐ救出されるようなんで、もう無理かも」
にこやかに相手の破滅宣言をする太二くん。
そりゃもう、にこやかに。
遥かな過去に、もしも生きていた人たちが今に生きているなら、その笑う表情は本当に伝説の域にある、太二くんの父親にそっくりじゃないかと思うことだろう。
ちなみに、この人物が確保される時に悪あがきとでも言うかのように、一見弱そうに見える(スーツを着たりすると、太二くんは細く見える。実は筋肉質なんだが)民間企業の元会長と名乗る人物を拉致して逃げ延びようと思ったようなんだが……
「お、俺が撃たれるより速く、こいつの腹に穴が開くぞ……ほれほれ、道を開けろ! 逃走用の車の用意も忘れるなよ!」
元会長としては護衛の空きを突かれた格好になったが、
「お? 君は本当に私を人質にできると思っているのかね?」
太二くん、一言。
これが最終ポイントになるとは露ほどにも思っていない犯人、嫌な汗とは気づかず大量の汗を流しながらも、
「う、うるさい! 人質が何を勝手に喋ってるんだ?! 黙ってついてこないと、このナイフが刺さる……」
そこまで言って犯人は太二くんの腹に当てているはずのナイフが、いつの間にか手の感触と共に無くなっているのに気づく。
「あ、あれ?」
ナイフを持っているはずの右手を持ち上げようとして初めて右腕が手首から折れ曲がっていることに気づいた。
「うっぎゃー! いててて、いてー! 手首が折れてやがる!」
叫びながらも左手でナイフを拾おうとする犯人に自由になった太二くんの、もはや鮮やかとも言うべきな正拳が入る。
ごワシャ……
変な音と共に顔があらぬ方向に曲がる。
「死ぬほどまでには力は込めてない。まあ一生、病院ぐらしで済ましてやる」
あくまで、にこやかに言う太二くん。
父である、遥かな過去には格闘技界世界一と言われた人物を彷彿させる正拳の一撃であったが、
「はぁ……鈍ったなー、技のキレも力も瞬発力も……もう一度、どっかの未開拓星にでも単独で行って三年ぐらい武者修行するかー」
この一言。
軍や官憲の集団が駆けつけてきたときには、もう現場にいた数人の警官たちに首謀者であり半身不随になっている犯人を引き渡した後だった。
「さて、これで大丈夫かな? 跳躍エンジンや制御回路のブロックを元に戻さねば!」
ひと仕事終えても、まだまだ視察も次の仕事も残っている、太二くんであった……
瞬間的に目の前の景色が変わったのを感じ、楠見は、ああ、これはマリーと同じ状況だな、そうすると俺を跳ばしたのは管理者たちの一人で目的は太二を迎えに行かせることだろうなぁ……
と結論づける。
「まあ、800年少々かかるところを一瞬で済ませてくれると言うんだ。ありがたく利用させてもらうとするか」
独り言を言いながらガルガンチュアが去ってから1万年近く経っているのにも関わらず自分が憶えている景色と同じような道や家、ビルが立ち並ぶ路地を歩いていく楠見。
1万年も経つのに全てが動く歩道や、それの延長技術になってないのか?
と思う御仁もいるだろうが……
人間、歩かなくなったら退化するだけ。
どんなに文明が進歩しようが、ある程度の自然な道(動力化されてない、舗装されてるけど自然な道ってこと)は残さないと人間、いや人類は進化から退化してしまう。
自然公園ほどに極端なものではないにせよ人類には自然が必要不可欠だ。
楠見は記憶に残っているクスミインダストリーズのビルを目指す。
「あそこの最上階は記憶が間違ってなければ俺と太二しか入れなかったはずなんだが……お、あったあった……おーおー、いつの間にか超巨大ビルディングに建て替わってるのか……でも、自社ビルに変わり無さそうだけど……」
自分の名を冠した会社に約1万年ぶりに入るのも久しぶりと言うか、普通の人間には経験できることじゃないとは分かっているんだが、楠見は、つい懐かしさのあまりビル内に入ってしまう。
入口から自分の知っている自社ビルとは全く違っている、でもクスミインダストリーズのビルなので感慨と郷愁に浸っていると……
「すいません、我社に何か御用でしょうか?」
さすがに、これはアンドロイドやロボットに任せられない受付案内を担当する女性が楠見に近づき、ご要件は?
と聞いてくる。
「ああ、近くまで来たものでね。懐かしさからビルに入ってしまった。すまんね、要件がすんだら出ていくよ」
と、楠見は言う。
受付の女性は、まさか伝説の起業家にしてクスミインダストリーズ初代会長、そしてもう一つ格闘技の影の世界王者とまで呼ばれた本当に伝説の人物に出会っているとは思いもしない。
「はい、分かりました。で? ご要件とは、いかなることでしょうか?」
これが社史を少しでも知っている重役ならば楠見の顔が初代会長とそっくりということで驚くのだろうが、そんなこと、この女性社員が知るわけがない。
「もう職場は引退していると思うんだが楠見太二という社員をご存じないかな? 今の住所が分かれば更に嬉しいんだが」
「はぁ、楠見太二という名の社員ですか……お待ちください、庶務と総務の者に聞いてまいりますので。あ、お疲れでしょうから、そこのソファでお待ちくださいませ」
楠見はソファに座って受付の女性社員が戻ってくるのを待つことにした。
それから1時間ほど過ぎる。
「少し時間がかかるか……重役くらいになっていただろうが退職したら、それ以降は会社とは関係ないだろうしなぁ……」
楠見は、のんびりしたもの。
庶務と総務は大変なことになっていた。
「おい! 監視カメラに写ってる人物、どっかで見たような記憶があるんだけど……うーん……どこだっけ?」
係長や課長は、どこかで記憶に引っかかる、プロジェクターに投影されている人物像に向かい首を傾げている。
新入社員も、どっかで見た覚えはあるんですよねー……
などと皆、首をひねっていると……
窓際社員の溜まり場と言われる社史編纂室の重鎮、室長が通りかかる。
この室長、クスミインダストリーズという会社の歴史について誰も勝てないほどに知り尽くしていた。
そう、勿論、初代会長の写真まで密かにコピーして持っているという噂まである、いわば会社の歴史マニアである。
庶務も総務も部長までが何かブツブツ言いながら首をひねっているので、ちょいと首を突っ込むことにする室長。
「なんです? 皆さんでブツブツ言いながら、しきりと首をひねっているとは……社史編纂室とは違い、皆様、お忙しいのでは?」
と言いながら皆が見ている監視カメラ映像に映る人物を一目見るや、
「えーっ! ? な、なんで、なんで初代会長がここにいるんですか?! 1万年前の人物が蘇った? いや馬鹿な、そんなことはあり得ない! それはともかく、この人物、何用で、このビルに?」
問われた受付女性社員、
「えーと、楠見太二さんという元社員の現住所を教えてほしいと……もう退職されてるだろうとは仰っていましたが……」
それを聞いた室長、
「楠見太二、三代目会長にして、クスミインダストリーズを今のように銀河規模にした土台を築いた、これも伝説の人物だよ。初代会長が三代目を探しに来た? 幽霊が幽霊を探しに来たのか?」
この一言でパニックになりかける女性社員達。
「しかし、初代会長そっくりの人物は、しっかりとカメラに写っているし、君と話もしているな。少なくとも幽霊の類では無さそうなんだが……そうなると三代目会長も生きているということか?!」
支社ごときでは対応できない案件ということで急遽、本社へ連絡することになり、本社より現会長と社長が来ることになる。
待ちぼうけ食らった格好の楠見には部長が平謝りをし数日後には現会長と社長が来ることになっているので、それまで手配したホテルで待機してほしいと懇願される。
本社でも騒然の事態となり、もう亡くなったと思った初代会長のデータと三代目会長の現住所・現在の行動記録を至急、集めろと手配しながら昔のクスミインダストリーズ総本社であった星に、視察旅行から帰ったばかりの現会長と社長は、取って返すような速さでプライベート旅客宇宙船をチャーターして向かうこととなる。
とにもかくにも初代会長と今の会長・社長が会えたのは、この騒動が起きてから一週間後。
実は二日後には現会長も社長も目的の星(元々クスミインダストリーズが一企業として起業した星。楠見は自分の時代しか憶えてないので、銀河規模となっている現在の状況は知る由もない)に到着していたが肝心の初代会長の目的「楠見太二」の行く先と現住所を探す手間が、それだけかかったので仕方がない。
「初代様! 本当に初代会長様ですか? クローンで蘇ったとかではなく? それにしても1万年以上前に出現した、このクスミインダストリーズの大元となる企業と技術・そして理論は今でも最先端技術なんですよ。まあ、それ考えれば初代会長が今でも生きていて義理の息子さん楠見太二、三代目会長が亡くなっているというのは考えられませんな。総務と庶務、関係企業の全てを使って探しまして、ようやく見つけましたよ」
現会長が報告書片手に楠見に語りかける。
半分近く架空伝記の類となっている初代会長が目の前にいることが、まだ信じられない現会長と社長は、分厚い報告書を楠見(初代会長)に手渡す。
楠見はパラパラと速読していき、
「あ、太二は、この星にいるのではなく別の星に移住したのか。なになに……今は銀河のあっちこっちに元会長の身分で視察旅行に出かけることが多く、数ヶ月ほど居住地を空けることもあると……仕方がないな、太二の思考波を辿って、ちょいと連絡取ってみるか。急に元の会社を訪問して、すまなかったね。今の会長と社長だということだが、ここの支社長に聞いて驚いたよ、今はこの銀河中に支社や営業所、工場も分散してるんだってな。初代として君らが誇らしい。素晴らしい企業体にしてくれた! ありがとう」
叱責されるかと思っていたが、ベタ褒めされて嬉しいやら恥かしいやらの現会長と社長。
「この銀河に戻ってきたのは、ご想像どおり、我が息子、楠見太二を迎えに来たんだ……あ、もちろん俺も太二も幽霊じゃないぞ、ちゃんと存在してる。まあ、君らにだけ俺と太二の秘密を打ち明けるか、この報告書のお礼に……」
それから2時間後、昼間っから深酒してる現会長と社長。
「我がクスミインダストリーズの最大機密事項……衝撃だったな、社長」
「ええ! 本当に……これが飲まずにいられますかって! しかし、これでクスミインダストリーズの七不思議の一つが解明されましたな。会長職になると、なぜか数百歳の寿命を得られるという不思議のネタは、ナノマシンが仕込まれた会長室の椅子のせいでしたか! 社長室の椅子には仕込まれていないそうなので、私は将来、社長までで引退させていただきますよ……人間が数百年も生きるってのは私にとっちゃ辛いことしかないので……会長は、そのせいで独身生活が、もう数十年でしたっけ? そろそろ次の結婚相手を探されてもよいのでは?」
「やめてくれ! 私も不思議だったんだよ……今の私の年齢は一六九歳だぞ。で、まだまだ病気も怪我もしないし、厄介な流行性ウィルスとかにも感染しないのは、実はナノマシン技術だったとはな。はぁ……あと数百年の寿命というのも、宣告されると辛いものだよなぁ……」
飲みましょう!
おうとも、飲むぞ!
などと真っ昼間から盛り上がる(というか愚痴大会と言うか)二人であった……
楠見は、まずテレパシーで義理の息子、太二くんに連絡をとる。
《太二、久しぶりだな、元気にしてたようで安心してる。今現在、どこで何やってるんだ? 》
楠見にとりテレパシーは普通の会話手段だったが、迂闊にも楠見太二を育てる時にテレパシーを使ってなかったことを忘れていた。
太二くん、突然のテレパシー通信に驚いたが、さすがにクスミインダストリーズで長年(入社してから数年後には、もう特殊能力を持つ子どもたちの教育と訓練を行う部署の長、いわゆる校長先生役を務めていて、これを部長になってからも続けていたというから、会長職に就いてからの次に長い職歴だろう)テレパシーを使っての会話には慣れていたため、衝撃とまでは行かなかった。
「え? もしかして父さん? ガルガンチュアは、もう遥か遠くへ行ってるはずなのに……いくら父さんでも超銀河団の距離を離れて俺にテレパシーなんか送れるはずもないから、もしかして……父さんが、この銀河に戻ってきてるのか?!」
太二くんはテレパシーの受信能力には優れていたが、さすがに楠見並の送信能力・特定個人へと絞って送れるほどの能力はなかったので思わず声に出して返答してしまう。
《ああ、昔に説明した宇宙の管理者に、ここまで送ってもらったようでな。さて太二、俺の用は簡単だ。ガルガンチュアのクルーになるように説得しにきた。断るようなことはないと思うが? 》
「うーん……今すぐには行けないなぁ……俺、今は、こっちの銀河のトラブルシューター的なことをやってるんだよ。父さんのような規模ではないけれど、それなりに忙しくてさ。民間企業の元会長権限での視察と言う形で訪問しながら視察相手の星間規模や星規模のトラブル解決やってる」
《ふふ、それなら話は早いな。俺も手伝おう。なに、久々に親子で修行やってるようなもんだろ。星系規模までのトラブルならガルガンチュアが無くても二人の能力だけで簡単に解決可能だろうし》
「えっ、二人で? ……いや、ちょっと待ってよ、第一統制官にも知らせなきゃ。俺は今、銀河統一政府の仕事を裏でやってるんだから」
ということで楠見は太二くんの引越し先に近い星系(当たり前だけど未開拓星系であり、ハビタブルゾーンにある星はジャングルと砂漠の他は海しか無い)で、しばらく待機することとなる。
そこで楠見は何やってたかって?
「太二も言ってたが俺も鈍ってるなぁ、現場から離れすぎてるからな、この頃。待機するのも年単位になるそうなんで、この星で鍛えなおすか!」
この独り言が全てを物語る。
ちなみに楠見、この銀河に跳ばされてきた時に所持していたのは軽宇宙服(通常の服のようなデザインだが、そのまま宇宙に出ても簡易ヘルメットさえあれば数十分は生き延びられるもの)と、サバイバルツールセット(一見すると十徳ナイフに見えるが、ナイフで大木すら切り倒せる性能を持つもの)が一つだけ。
言わずもがな、実は楠見に修行など不要(ESPとPK、つまりテレパシーとサイコキネシスだけで宇宙艦隊と対峙しても余裕で勝てる力がある)
しかし、精神の発達には肉体の発達も必要というのが楠見の持論なので今回は精神よりも肉体の修行を重視している。
楠見は木を切り倒すのには素手で対応したが、さすがに木の加工にはナイフを使う。
数日でパーツ加工段階まで終わらせ、ちょっとした深いジャングルの傍に小さな家を、ログハウス形式で一週間も経たずに建ててしまう(もちろん独り)
それから修行も兼ねて獲物を狩りに行くのだが、とにもかくにも異星の猛獣や動物。
毒を持つ猛獣などもいたりして、そのへんは過去に経験済みの楠見は毒腺や皮、内臓は極力食せずに(慣れてきて、こいつには毒はないと分かっている獣に対しては皮も内臓も利用しているが)肉と野草(これも毒草などあるので大変。サバイバルセットに毒検知器のセットがあって助かったと楠見は思う)中心でしばらくは過ごす。
数ヶ月も過ごすと昔の勘や直感、無意識の体のキレも戻ってきて野性味溢れる体つきの武道修行者の出来上がり。
「さーて……太二からの連絡は今日も無いようなんで久々にジャングルの奥深くまで行ってみるかな。以前に行った時は突然変異種の超大型ボアが居て、キリンとか大型ワニとかまで食ってたからなぁ……あいつも美味かったな、鶏肉そのもので。今日は、どんなやつに出会えるのやら? 巨大猪とかだと良いなぁ……」
楠見はお気楽に言っているが超巨大ボアは無毒種とは言え胴回りが2m以上もある化け物だった。
そいつが食ってたワニも全長3m以上ある大型種である。
楠見が仕留めて全てを食い切るのに一ヶ月かかったのも、むべなるかな(独りで食い切る楠見の食欲も凄いが)
ちなみに腹を裂くと未消化の巨大ワニが二匹ほど出てきたので、同じくワニ肉食材として楠見の胃袋に収まっている。
一年後、楠見は往年の強さを、ほとんど取り戻していた。
過去に、この銀河(の、とある星)でも最強と言われていた頃の体力と技なので今やジャングルの王者の位置に就いている。
クマ種や猪種、蛇種もワニ種も敵ではない(むしろ食料として積極的に狩り放題)
余った肉・皮などは鞣したり干したりして活用。
今現在、楠見が纏っているのは巨大ヘビと熊皮とワニ皮からできたコートを兼ねた皮鎧のようなもの。
毒虫の攻撃からも手足を保護してくれるため日常的に着ている(軽宇宙服は家の棚の上。今の楠見の体の動きと宇宙服では相性が悪すぎる)
「さて、熊肉と猪肉の燻製も完成したな。そろそろ太二からの連絡があると思うんだが……」
そう、楠見が呟いてから数日後。
「父さん、第一統制官からの許可が降りた。久々に親子であっちこっちに視察という名の悪人退治だ」
《そうか……待つ間に俺の方も準備が整ったぞ。会長職兼任で武道家やってた頃の勘と素早さが戻った。もう、お前に頼らずとも良いとは思うが……久々の親子旅だ》
そんな会話の数日後、小さな宇宙艇が楠見のいる星に到着。
中から出てきたのは、これも懐かしや、楠見太二。
1万年ぶりの親子再会。
「久々だね、父さん」
「おう、太二も無事に過ごしてたようで。とは言うものの……贈り物を使ったのが、これは、中年すぎから? 見た目、俺より年取ってないか?」
「仕方ないよ。結婚して子供が2人生まれるまで使えなかった。結局、50過ぎで使うことになっちゃった」
「まあ、ガルガンチュアに来れば、あっちのナノマシンで少しは若返りも可能だけどな。お前に渡した小箱には古いタイプのナノマシンが入ってたんで、使う前のコンディションには戻れない仕様だった」
地道にスペックアップしてるナノマシンたちだった。
「ちなみにだが今の太二は子供が出来ない体質になっているが、これも回避方法はある。簡単に言えば、お前のクローンを造ってしまえば、そのクローンは短い寿命だけど繁殖能力はある」
「で? 父さんたち初期からのガルガンチュアクルーは、その限りじゃないんでしょ? ほとんど不老不死で、おまけに繁殖能力まであるなんて、それだけでもチート能力だよね。あと、父さんたちみたいなガルガンチュアクルーのナノマシンの使い方って、俺達みたいなクルーじゃない者には考えられない使い方もあるんじゃないかな? そんな気がする」
「んふふふ、太二、正解。攻撃と言うか半分遊びではあるが、とある銀河帝国艦隊を相手にした時に面白い使い方をしたことがあった。こちらは絶対シールド張って向こうの攻撃は全て跳ね返した上、ナノマシンのプログラムを変えて相手に向けてバラ撒いた……どうなったと思う?」
「どうせ、父さんの暗黒面が出たんだろ? 黒い楠見糺が出てしまうと相手が銀河帝国艦隊と言えども酷い目に会うのは確定だよね」
「当たり。ナノマシンに30分に数十秒だけその性質、不導体と導体を数秒ごとに変えろと指示しただけ……どうなったと思うかな?」
「酷いことやったね。想像するだけで相手の司令官の心が折れるシーンが見えるよ。数万から数十万隻もの艦隊が、バラバラに動き始めて統率どころの話じゃない……半日もあれば、もう自滅してたとか?」
「ふふふ、大当たり。こっちが手を出す前に、あっちこっちで衝突やフレンドリーファイヤが発生。艦隊制御どころじゃない司令官は、こっちが動く前に降伏宣言してた」
「恐ろしいなぁ、まったく。無手勝流も科学レベルが違いすぎると魔法みたいだね。向こうの司令官は一生分の恐怖を味わったんだろうなぁ……可哀想に」
そう言いながら即席コンビとなった義理の親子は、第一統制官からのトラブル発生星系情報を受けとりながら順調にトラブルを解決していくのだった……
「ちょっと待ってよ。順調って言葉、間違えてないか? 銀河統一政府の情報部が手に負えないからって押し付けられたトラブルばっかしなのに、なんでこう順調に解決してるんだ? ああ、原因は分かってるさ、楠見親子のコンビだからだよ……でもなぁ……溜まってた重要トラブルが、こうもあっさりと解決していくのもなぁ……」
久々に会う父親である人物が、本当の意味で化け物であったことを思い知る楠見太二であった……
ここは、とある銀河の、とある星。
この星には銀河統一政府から任命された統制官がいて中央政府からの指示や政策、経済動向などを中央政府と、こちらの星の星系統一政府に伝えて、何か齟齬があれば折衝するという潤滑油の役目を担っていた。
今までは……
現在、中央政府から任命された統制官は中央政府の出先機関にいるはずなのだが、どこをどう見回しても、ここの星系を担当する統制官は見えない。
実は星系政府の独立・自主政府樹立を目指す(と言いながら実は近隣星系を植民地にしようと企む侵略派である)一部の傍流派閥が裏で星系軍や警察機構に手を回し、星系担当統制官を冤罪に落とし、今、この星に中央政府の声を伝えられる人物がいなくなっている状況。
さすがに侵略派としても中央政府から派遣されている統制官を暗殺するとかの極端な手段は取れず(そんなことやったら銀河統一宇宙軍の一個艦隊がこの星に来てしまうのは目に見えている)
冤罪だぁ!
と叫ぶ統制官の声を無視しつつも、それ以上の行動が取れず、双方とも不満が募っていった……
そこに、急に予定変更になったということで元・クスミインダストリーズ会長と、その執事の二人組が辺境星域の視察旅行で来ることになった。
慌てたのは経済担当の大臣と、その部下たち。
元とはいえ、あのクスミインダストリーズの会長一行。
この星にも営業所があるくらい銀河中にクスミインダストリーズの支店や営業所が無いのは開拓初期の星しかない(未開の星には開拓団の受け入れと支援という名目でクスミインダストリーズから事務所が開設されて開拓団員は必ず事務所への登録と支援物資を受け取る決まりになっている)というジョークすらある超々大企業の関係者。
視察結果によっては、この星、いや、この星系が一気に発展するという結果も期待できる超大物VIPのご訪問。
ある意味、中央政府の高官よりも貴重な富を星系にもたらす福の神とも言える。
「ようこそ、こんな中央から見捨てられたような星系へ。今はクスミインダストリーズのお力を借りて、なんとか星系人口全てを飢えずに生活できるだけの食料と宇宙船は確保しております。それにしてもクスミインダストリーズの元会長なら近くにある大きな星系のほうが視察には良いだろうと思うのですが……とは言うものの、こちらとしては望外の喜びです、こんな星にまで視察していただけるというのは、いわばチャンスとして見てしまいますので」
太二くんが元会長、楠見のほうが元会長付執事として予定表を提出しているが、どう見たって親子とは思えないので、このほうが良い。
二人を迎えた大臣一行は、とてもじゃないが自分たちとは格の違う相手に戸惑っている。
当たり前といえば当たり前だが、そもそも辺境に近い貧乏星系の一政治家と、銀河中に支店や営業所を構えているような超大企業の元会長一行など正に天と地ほどの権力と財力の差がある、頭を下げるしか無い相手。
もし機嫌を損ねたりしたら最悪この星系が破産しかねない相手なんである。
楠見と太二くんは下へも置かぬもてなしを受けつつ、この星の現状を見て周ることとなる。
「予定には入れていなかった星系ではありましたが視察に来て良かったですよ。この星ならクスミインダストリーズの方から無償融資をすることも可能でしょう。一気にとは行きませんが、これから、この星は中央と肩を並べることも可能なレベルの工業力と技術を手に入れることも不可能じゃない」
大臣一行は心の底から安堵する。
食料は数字の上では足りているようにみえるが、その実、とても全人民に配給できるほどの数量は無いのが実状。
一部の過激な政治家が中央からの完全独立・星間帝国樹立などという馬鹿げた思想に傾注するのも総じて星系そのものが貧しいからだ。
それが、食も技術も工業力そのものの上乗せすらできるという未来が見えた。
太二くんが視察の感想を述べている間に楠見はサッと大臣一行の思考を読む。
《太二、ここにいる人員でトラブルの大元になってる過激な独立・星間帝国樹立派の構成員はいないようだ。しかし大臣が折衝相手として政治的な交渉をしている相手に、この過激派連中がいる。どうする? 元会長の権限で別会談として過激派と会談・会合するか? 》
〈さすが父さん、あの一瞬で全員の心を読んだか。じゃあ大臣に手配だけしてもらって、危ない人たちとは別会談としようか。そのほうが一般人に迷惑かからないだろうし〉
《お前も言うようになったな。まあ、会長になったせいで貫禄はついたようだが……今は大丈夫だが過激派との会談では俺も自分のことで手一杯となりそうなんで、お前を守りつつ相手を無力化するのは難しいぞ》
〈それは大丈夫だよ。子供の頃に使ってたガジェットを我社の開発部で改造したものを使うから俺のことは心配しなくて良いよ〉
さっと、これだけテレパシーで瞬間的に話をし、あとは当たり障りのない会談に準じる二人であった。
会談後、大臣にだけ、過激派との会談あるいは対話の機会を設けてほしいと頼み込み、渋々ながらも大臣は引き受ける。
「頼みますから相手を刺激するような発言だけは控えてくださいますよう、重ねてお願い申し上げます! 彼らも根っから悪い人間では無いと思いますが、この星系と星の経済状況と治安状況から過激にならざるを得ない事情があったのだと思います。できれば穏便に会談を終えていただくほうが元会長の御身を危険にさらさ無いという点では良いでしょうね」
大臣が、会談の場は設定できたが相手の事情と強硬な発言で、どうしても治安の良くないと言われる場所にあるホテルの大宴会場でなきゃダメだと言われたそうで。
楠見と太二くんの二人だけで来い、それ以外なら会談などお断りだと強烈な発言も出たらしい。
「それならば私と執事の二人だけで向かいます。護衛も不要ですよ、後をついてきたら、それはそれで厄介なことを引き起こしそうですので。とりあえず、終了したら連絡しますよ」
と、いつもの調子で軽く行動する太二くん。
執事の振りをする楠見も内心では苦笑い。
この二人がいる状況で例え軍の1個連隊が出てきたとて、例え重機関銃や戦車が出てきたとて俺達に何かできるとも思えんよなぁ……
などと内心では全く心配などしていない。
数時間後、周りを見るからに物騒な雰囲気で取り囲まれて、それでもリラックスしている楠見と太二くんの姿があった。
「クスミインダストリーズの元会長という触れ込みだが、なかなか度胸があるようだな、そこの執事含めて会談という大臣からの話だったが、こちらとしては、あんたがたを捕らえて、その身代金として1億G(この星の通貨単位、というか、この銀河の通貨単位。1億Gは、約一兆円ほど)くらいは即金で払ってくれるだろうと思うんだけどね、あの超大企業なら」
親玉と思われる、見るからに反体制で生きてきたという主張が歩いているような奴が下世話なジョークでも言っていると自分では思っているのだろうが。
楠見は執事としう触れ込みなので何も言わない。
おもむろに太二くんが口を開く。
「第一声が、こちらを捕まえて身代金要求の話ですか……周りの方々も普通じゃないね、これは。反体制の政治団体と言うより全てが金で繋がった暗くて汚くて薄汚れた、ただただ自分の為に金がほしいだけの金に飢えた亡者共の集まりでしたか……これは、もう話し合いとか援助だとか言うレベルじゃない……父さん、どうします?」
太二くんに聞かれた楠見。
その顔を黒い笑顔が覆うように、
「ん、ふふふふ……久々だよなぁ、お前が子供の頃に雪山でやった二人だけの山狩りを思い出す。あんときゃ、獲物がいーっぱい捕れたよなぁ。ああ、思い出した。あまりに狩りすぎて獲物の血抜きと解体が大変だったなぁ……今回は楽だぞ。手足をへし折るだけで良いんだ。さて、太二には3割ほど相手をしてほしいんだが……できるか?」
「3割は少ないよ。半分は無理だろうけど4割は任せてほしいかな……父さんの方が強すぎて、あっという間に殲滅しないって条件のもとだけど」
「見くびるなよ、俺は人間相手にゃ半殺しが基本だ。その後、病院から出られないとしても……な」
にーっこりと、もう隠そうともしない黒い笑顔に、太二くんは、
あ、これは俺の方で何とかしないと、手足のちぎれた負傷者ばかりになるな……
と、できる限りの無力化を自分がやるしか無いと一大決意。
数十分後……
「指名手配受けてるような重罪犯まで数人、おりました。それにしても……相手が拳銃やら刃物やらを普通に持ってきてるのに、あなた方二人は無手ですか……これでは相手が過剰防衛と訴えることも出来ませんな。それにしても見事と言うしか無い結果です。多少、やりすぎと言えんこともありませんが……それでも銃器まで持ち出して120対2の状況で無傷とは……」
大臣が会談終了の報告を受けて現場に来てみると、そこにいた立っている人数は二人のみ。
後は壁にめり込んでいたり床に転がっていたり、そのやられ方も様々なら、全治数年の重傷から、キレイに折られた手足で全治数週間までのものが、そこいらに固まって転がったり天井に刺さっていたり……
慌てて警察と救急を呼び出して、二時間ほど太二くんと楠見は事情聴取で拘束されたが、大臣の口利きで無罪釈放。
相手の人数と銃器持ち出しに対し、こっちの二人は無手という事実があるので、これはやりすぎでもなんでも無いと警察も納得した。
「父さん、今回は派手だったけど、こんなの稀な結果だからね。いつもは何もなく普通にトラブルシューティングやって終わるんだよ」
「だが今回のような政治の事情が絡むと問題解決が伸びるぞ。いっそ、ぶつかりあいで一気に解決するなら、それはそれで良いと思うが?」
「いや、だからさ。それは俺達が特別だって……まあ、これが父さんと組んだ場合の常識だね。日常ってなんだろうかと、ふと考えたくなるなぁ……」
一種、諦めの気持ちすら漂わせながら、太二くんたちは溜まってるトラブルを次々と解消させていく……
そして楠見親子のコンビが次々と銀河統一政府にとって厄介と思われるトラブルを次々と解決していき……
「ありがとうございました楠見元会長。デスクに積み上がっていた未解決の書類の山が、ようやく全て消えました……しかし、お二人だけで鮮やかと言うには言葉が足りなくなるほどに見事にトラブル案件が、綺麗サッパリなくなりました。これ以外のトラブル案件でしたら我が方の情報部に任せて大丈夫です。いやー、それにしても見事と言うにもほどがありますよ、この手際! こういう仕事を長年やってきたプロ集団でも手を焼くようなレベルの案件ばかりでしたが、よくも短期間で綺麗サッパリと消えるもんですね」
第一統制官が楠見親子を前に熱弁している。
もう、出てくる言葉全てが二人の成果を褒めちぎる単語ばかり。
太二くん、少し訂正しようと、
「統制官、元会長の肩書なら、こちらも同じです。こちら、私の養父ですよ。聞いたことありません? クスミインダストリーズに本当の伝説になった会長がいたって」
え?
横にいるのは本当に執事だと思っていた第一統制官、驚く。
楠見と名がつく会長や元会長なら初代から数十人いる。
しかし伝説とまで言われるのは楠見太二、そして、楠見糺という名の巨大コングロマリットとなるクスミインダストリーズの屋台骨を一人で造り、そして、今の社会の有り様そのものの基盤を作り上げ、そしてそして、あまつさえ、その頃に惑星で流行っていた格闘技の頂点とまで言われるほどの実力があったと言われる本当の伝説的存在……
もしかして……
「あー……養父という話ですと、クスミインダストリーズ創設者にして、そのころの格闘界の頂点に君臨するとまで言われてた、あの「クスミ タダス」元会長でしょうか? いくらなんでも今も生きているとは……そうか、三代目の会長が生きているということは初代が生きていても何もおかしくないということですな……はぁ、私は今、生きる伝説の存在二人を前にしているわけですな」
笑いも乾いたものにならざるを得ない。
第一統制官も、この二人の前では、いつでも追い払われるか潰される運命の羽虫のようなものだ。
大体、第一統制官以下、統制官にはRENZが支給され、これが各統制官の精神力と言うか特殊能力、テレパシーを始めとするサイコキネシスや他の超常能力をも底上げしているが、これを統一政府に密かに融通していたのがクスミインダストリーズだ。
星の統一政府から星系統一政府、星間連合から銀河統一政府に至るまで統一された政府には、このRENZを装着した情報部と軍のパトロール部門を統括したような現場担当の部員が欠かせなくなっているので、その意味でも今の銀河統一政府はクスミインダストリーズに裏では頭が上がらない。
まあ統一政府が運用している宇宙船すら、その大半(99%以上)がクスミインダストリーズ製なので表の顔も低くなければ運輸や宇宙艦隊、それこそ人員と貨物の銀河ネットワークすら動かなくなってしまうのは目に見えている。
第一統制官は今更ながら、この二人をトラブル解決などに関わらせるべきではなかったという後悔の念に苛まれる。
危険?
そんなもの、この二人にあるわけがない。
それよりも、こういう厄介なトラブルが現在の統一銀河政府にあると知られてしまったことが悔やまれる。
脅しや脅迫などという下世話な手を使わなくともクスミインダストリーズが裏に表に経済的・政治的圧力を少しかけてしまえば、こんなトラブルなど実は吹き飛ぶことが身にしみて理解できた。
第一統制官?
そんな地位になっても、この二人に匹敵するような存在には、なれるはずもないし到底無理。
今更ながら目の前の二人が放つオーラと言うか存在感のようなものが、自分とは違いすぎる。
「で、ですね。情報部と宇宙軍の方からですが、ぜひとも部隊員の教官としてお越しいただきたいと、とてつもない数の要請が来ているんです。現場対応は、ここまでとしていただき、なにとぞ若いものや中堅、指導部まで、お二人の気の済むまでで良いので様々なことを教えてやって、そして鍛え直してやっていただきたいと……いかがでしょうか? 元会長のお二人に依頼する内容ではないとは承知していますが、あまりに見事なトラブル解決に少しでも教えを請いたいと願うものが多いのです」
楠見と太二くん、顔を見合わせる。
まあ、このへんはテレパシーなど使わなくとも義理とはいえ親子。
太二くんが口を開き、
「分かりました。まあ、私一人では持て余しそうですが幸いにも父と二人でとのお話ですので受けさせていただきます……ただ、私と違って父の教官としての教育方針は、かなり厳しいものがありますので、それさえ承知していただけば……」
第一統制官、それで少しは察したのか、
「あー……ええ、それでも結構です。現場の部員や実戦部隊が多いので、それでもう少し情報部や宇宙軍、それ以外でも申し出があれば教導官としてご指導をお願いしたいと」
それには楠見が答える。
「分かりました……まあ、長年やってきた教育法がありまして実戦部隊としては非常に有用だと多数の現場で確認しております。やりましょう、我々で良ければ」
「そうですか! いやー、これで現場部隊や情報部のレベルが上がるなぁ、楽しみですよ」
第一統制官、この言葉を後で後悔することになるとは思ってもいなかっただろう(実際には非常に効果的に、生徒たちのレベルはグングンと上がったが……)
ここから、楠見コンビの表立った活躍はなくなるが、裏では血涙を流すような者たちが、ごく少数、発生している。
「ほらほら、この中年に負けるなよ。もっと追い抜くくらいの速度で走ろうなぁ!」
そう言いながら長距離走をやってる集団のトップで疲れも知らずに走っているのは、楠見太二。
もう、かなりの距離を走っているようだが疲れどころか汗すらかいてないようにみえる。
トップ集団として太二くんに食らいついているのは情報部や宇宙軍、陸軍、海軍、空軍のベテランに達しながら現場大好きでデスクに埃が積もってるような者たちばかり。
しかし彼らにしても、この長距離走は厳しいらしく、もう愚痴をこぼすような元気と余力もなく、ただただ歯を食いしばって軽やかに走る教官、楠見太二の後を追うばかり。
まあトップ集団以外、8割を超える参加者が道半ばの段階で脱落しているため、このトップ集団は体力お化けと言っても過言ではないが……
ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……
トップ集団以外の脱落組が全て救助されたのを確認し、太二くんは更にフルマラソンの距離を走って、長距離走を終了。
さすがに初っ端から150km以上の長距離を走るなどという無茶苦茶な教導官など聞いたこともなかったため、参加者は全て(教官の太二くんを除き)地面にへたり込み、あるいはこむら返り起こして激痛に苦しみジタバタしている者たちも。
「さて、体も温まったな。それじゃ、実戦格闘技の時間と行こうか。さぁ、立って背筋と手足の筋を伸ばそうか。心配するなよ、この激痛と疲労の塊は明日には抜ける。これが後、半年は続くんだ。実行部隊や現場大好き人間には、もってこいの環境と訓練だ。あ、忘れてた。最初に言っておかなきゃいけなかったんだ。もう一人の教官のように死ぬような訓練とかはないので安心しろよ、まあ、半殺しと骨折は日常茶飯事だろうがな。半年後、お前たちは、もう一人の教官のもとに行くことになるが……その時には度胸と体力と、そして諦めという一言が刻み込まれた状態になっているだろう」
息を無理やり整えている者たちは、その明るい言葉の中に若干の恐怖が混じっているのを確信する。
「教官! お聞きしたいことがあります」
勇気を振り絞ったのか太二くんに向かい質問を発する者が。
「何か? 大丈夫だ、質問くらいで訓練が更にハードになったりはしない」
ホッとした質問者、
「我々が半年後から訓練参加するという、もう一人の教官とは? 教官は二人いるとは聞いていましたが、もう一人は、ここにはおられないのでしょうか?」
太二くん、ニヤリと不気味な笑顔を。
「半年後を期待するか恐怖するか、それは君らの出来次第。半年間の基礎トレーニングが完成してなきゃ命に関わるため、まずは俺が基礎を叩き込む。まあ、基礎さえ完璧なら死ぬことはない」
これを聞いて絶望する者と期待に胸を膨らませるものとに見事に分かれる。
それ以後、格闘術訓練では骨折者続出、高所(100mほどの高さの岩山)を素手で登り切る訓練では落下して死ぬ一歩手前で太二くんのサイコキネシスに助けられるもの続出、そして長距離走(150kmを毎日)では脱落者多数だが徐々に事故も脱落も骨折も少なくなっていく(本当に、徐々に)
三ヶ月も経つと訓練参加者の半数以上が、ふてぶてしい顔つきになっていく。
自信と実力をつけたと自分自身の体が訴えているのが分かるのだろう、太二くんの課すトレーニングメニューに飽き足らず、自分自身で、より厳しい負荷を背負うものが少しづつ出てくる。
長距離150kmマラソンでも当然のごとく最初は無負荷状態だったものが、自分で申告して40kgの負荷を背負うものや、手足に合計20kgの重さの輪を装着するものも。
高所登りでも、わざわざ難しい箇所を選んで挑戦する者たちや、太二くんとの格闘訓練でも(互角とは行かないまでも)太二くんの突きや蹴り、投げの衝撃を受けられるものや衝撃を逸らせるもの、投げを感知して事前に逃げるものなどが出てくる。
「よーし、最終日だ。みんな、よく耐えた。よくも、こんな地獄とも言える訓練についてきたな。ちなみに、このメニューは俺が父親から受けたメニューを再現したものだ。あの時、俺は10歳だった……」
太二くんの独白が一番のショックだったとは全ての参加者の思いだ。
こんな地獄の門を開けたような訓練メニュー、子供が耐えられるのか?
そして、ついていけるものなんだろうか?
まして、これを数年間続けたと楠見教官は言ってた……
「さて、最終日はメニューをさらっと流して、それからは宴会だ! 誇れ、胸を張れ! 君らは常人には不可能なメニューをこなした! 今や、この星において君らに敵う生物などいない!」
通常メニューを、なんと半日で全員が通過し、それから半日は大宴会が行われたという……
食料は一週間分がこの大宴会で全て消費されたと言われるが嘘か本当かは闇の中……
ただし飲料(アルコールの有無問わず)のケースが山積みになったのは業者が驚きのあまり証拠写真を撮ったようで、それが請求書についてきたと。
それから数日後、訓練参加者がいたのは宇宙空間。
「さて、太二が基礎を作った奴らか。面構えが違うようだが今までの訓練が基礎だったと実感するのは、これからだ」
楠見は、そう言って参加者に訓練メニューを配布する。
それを見て絶望するものが半数。
残りは、どんなものなのか想像し、震えが(武者震いというやつか)
実際の訓練が始まると、あちこちで阿鼻叫喚が……
「さーて、今から一人づつ、この超小型、一人乗りの搭載艇に乗って、あれに見える流星群の鼻先へ出てもらう。安心しろ、命に関わるようなことはないと言っておこう……しかし、巨大な隕石などに当たってしまったら、その限りではないと思うがな。では行ってこい! ちなみに跳躍航法は使えないぞ。時間は流星群を抜けるまで! 安心しろ、長くとも半日くらいだ。その間、必死で流星を避ければ良い、簡単だろ?」
楠見の言葉が終わると一斉に搭載艇たちは、それぞれの目標とする流星群へ向かう。
早いものは数十分後、遅いもの(遠いもの)でも数時間後に目標の流星群の鼻先へ到着すると自動モードが切れて手動操作が可能となる。
そこから先は、ある意味、命がけ。
避けても避けても次々と流星群のまっ只中。
疲れを感じる暇もなく自機に迫る巨大隕石を避け続ける(シールドは張ってあるとは聞かされているが透明なので実感がないのと、小サイズの隕石はシールドを通り抜けてくるように設定されているのか時たま大きな衝撃がコクピットまで伝わってくる)
恐怖に耐えながら、短いものは4時間ほど、長いもので10時間超で訓練は終了。
「よーし、よくやった! 明日からも、このくらいのメニューが日替わりでずーっと続くんで覚悟するように! では、これで今日の訓練メニューは終了だ!」
教官が去ると、訓練参加者たちは地上訓練が基礎と言われた意味を、ようやく体で理解した……
そんなこんなで楠見親子で現場部隊強化訓練を行うようになって数年……
卒業組は一気に現場のトップに躍り出るようなとてつもない実力になっており、それは他の部隊や同僚たちとの実力が違い過ぎてしまう欠点を表面化する。
「おうおう、人質に怪我させたくなきゃ、そこをどいて、車と宇宙船を用意しろ! 人質が死んでもいいのかぁ? へっへっへ」
そんな緊急事態でも現場部隊には、地獄から卒業した隊員の一人がいた。
あーそんなことするんだ……
こりゃ実力行使しかないよなー、くらいの場面でしか無い。
「隊長? 俺一人で処理できますんで……君が犯人かな? 銃でも刃物でも人質は引き取るね」
そう言いながら目にも止まらぬ速さで人質を開放し、ついでとばかりに、
「言うこと聞かないバカとアホウは、お仕置きしか無いなぁ……よいしょっと!」
襟首をどう掴まれたのかすら分からぬ状況で次の瞬間には犯人は地面に伸びている。
「はい、終了。隊長、すんませんが犯人の収容と人質のケア、当局に要請しといてください」
周りが何がなんだか分からずにウロウロしている横で当の本人だけが、案件終了したんで次行きましょ、と隊長と呼ばれた人物に呼びかける。
「あ? あ、ああ、そうだな。本部へ報告、案件終了したので次の案件へ向かう。繰り返す、現在時刻で案件終了したため次の案件へ向かう。以上、詳しい報告は後に提出する!」
それから数分間、伸びてる犯人と元人質も含めて、その場から2人組がいなくなったことに気づかなかったという……
また、とある最前線での宇宙海賊との戦闘シーンでは……
「さーてと! 俺が真っ先に乗り込むんで後は撃ちもらしだけ対応頼むな。心配するな、味方には傷の一つもつけさせんし、相手を殺すこともしない。そこまで俺に本気を出させるような敵さんじゃない」
意気揚々と何も気負うこともないふうに敵艦へ乗り込む海兵隊員が一人。
敵の海賊兵が数百人いたりする可能性もあるのに、なんであいつだけ平常心なんだ?
と周りが訝しむ中、当人言うには、
「ああ、こんなもの戦いでもなんでもねーんだわ。俺にとっての命の危機ってのは、もう二年前に嫌ってほど体験しちまってる。あれに比べりゃ今は平穏そのもの。無人の野を行く如しって心境なんだわ」
本当に鼻歌交じりで敵宇宙戦艦や巡洋艦へ乗り込み、本当に敵すら殺さずに無血降伏させる海兵隊員の噂は、あっという間に宇宙軍と情報部まで達する。
そうなると常人離れした噂の主を見たくなる、噂が本当か確認したくなるのが人の業
噂を集めていくと、その海兵隊員だけじゃなく情報部にも、その他、ごく少数ではあるが現場の主力となっている情報部員や陸海空宙軍に、とてもじゃないが人間がやったとは思えない功績を残す人物がいると判明。
ちなみに公式報告では、その常人離れした活躍の模様は省かれている(書いても嘘か妄想だろうと思われるので意識的に省かれた部分だと思われる)
書類的には残っていないが、その現場を見た当事者たちには強烈な印象を残しているので噂はあっちからもこっちからも出てくる。
いわく、巨大岩を軽く持ち上げて、その後、裏拳一発で粉々に砕いた、とか。
いわく、敵勢力に四方を囲まれてしまい絶体絶命状況でも平気な顔をして、自分たちを囲んでいた敵一個師団を完全に無力化した一兵士、とか。
いわく、対物用狙撃銃で狙われたにも関わらず、目で追えないほどの速度で飛んできた銃弾を、こともあろうに手づかみして、敵の狙撃兵すら驚愕と恐怖に陥れた一人のSP、とか。
そんな、とても信じられない、報告書に書かれない書けないような現場での噂が実は多数あると判明。
これは、もっと上の組織か、あるいはトップのトップが何かやったに違いないと判断した情報部や四軍を纏める参謀本部が集まり、組織のトップであるなら第一統制官しかいない、であるならば、それは第一統制官が計画したか、あるいは深く関わっているに違いないので、詳細を確認しなければ現場が混乱するだけだと結論づけ、それぞれのトップたちが集まって、第一統制官へ事情を聞きに行く。
「第一統制官、現在巷に出回っている、とてつもない人間離れした活躍をする少数の軍人や情報部員について何か統制官様が関わっているのならば、お聞かせ願いたいと思うのです」
総勢10名以上、それぞれの部門でトップにあるものたちが第一統制官の執務室にいる。
部門トップにある者が知らされていない情報など本来はあってはならないが、現実に現場には化け物じみた力を持つ人員がいる。
部門を越えたトップ会議で、これは部門を遥かに超えた地位にある人間が関与することだと、ここに押しかけたのである。
「ようやく現場からの話が届いてきたか。まあ隠そうとしても隠せるものではないな、全て話そうか……」
第一統制官から噂ではなく本当にいる超人部隊なのだと教えられた部門長たち。
信じられない話であるがトップのトップが真実だと告白しているため、信じるしか無い。
「でな、彼らは、とある教導官二人により鍛えられたのだ。その二人の名前だけは伏せさせてくれたまえ、彼らは軍属ではないし情報部に属してもいないのだから。ただし、彼ら二人が現在も、ごく少数の軍人や情報部員を育て上げているのも確かだ。ただし、あと数年で彼らの特別訓練、特別教育は終了する予定だ……超人部隊を常用する気もないし、そんなものが量産されても管理できんだろ」
部門長たちは実際に超人部隊の夢は見たが、第一統制官の言葉で我に返る。
超人部隊は確かに軍や情報部の夢であるが、果たしてそれが実現した場合、現場を完璧に制御できる者がいるか?
軍人とはいえ将軍や参謀長など、普通の人間より少し頭が切れたり、力が強かったり、判断力や直感力が勝っていたりするに過ぎない。
たった一人で敵の一個師団を相手取り、味方にも敵軍にも死者のない、それでいて敵軍を完璧に無力化できるような超人、いや魔王(?)のような存在を上役として制御できるか?
自分に当てはめてみて、いやいやいや、無理無理無理!
となるのも当然。
第一統制官は更に語る。
「私も現場からの要請で、この教導官としての依頼を二人に請け負ってもらったことに今更ながら悔いが残る。要請など、しないほうが良かったのではないかと今では思っているというのが正直なところだ」
実験的に教導官として役職についてもらったが、数年ではなく今年で終了してもらうように懇願してくると第一統制官は言う。
「実は最初、この二人に情報部が積み残していた様々な星系のトラブル、主として反抗勢力や地元星系での汚職管理官たちのトラブルシューティングを頼んだら、あっという間に山積みになってた書類が消えてしまってね。思わず、この二人に、同じような有能な部下がほしいということで特別訓練の臨時教官役を頼んだのだ……人間の限界を超えるような教育トレーニングだったようだが、それを終えてきたごく少数の者たちは、それはそれは優秀……では済まなかったんだよ、実は。それは君たちにも噂として届いているよね」
「第一統制官……それは、彼ら二人が関われば超人部隊すら現実になるということですか? いえ、現実として超人兵士が存在してるわけですから……」
部門長の一人が質問にもならぬ質問をする。
「そう、そういうこと。君らも気づいただろうが我々通常の能力しか持たぬ者では超人のコントロールなど無理だ。そして超人を作り上げることのできる能力を持つ存在は……私も後で気づいたが、それは人間を超えているな。言い換えれば「神」だけが、普通より少し能力の高い人間を超人にすることができるノウハウを持つ。君らの中に、数年のトレーニング記録があるはずだから、それを使えば超人化のノウハウを自分たちも持てると思っているものがいるのは分かっている。しかしな、やっても無駄だ。トレーニングのどれをとっても普通の人間にこなせるものではない。特に後半は彼ら二人の教導の元にある以外、実際にやったら死人ばかりが増えるだけというトレーニングになるものばかり……記録はあるぞ、ちなみに……自分で試したいなら、どうぞ閲覧は許可しよう」
ごくり……
部門長たちの息を呑む音が響く。
しばらく沈黙が続いて、ようやく一人の部門長が(これは宇宙軍の司令長官)発言する。
「第一統制官、我々は、その記録を門外不出とし、本当に特別で他に手がない場合を除き、第一統制官以外には閲覧すら禁止とされるべきだと考えます! 確かに超人部隊の夢は常人には甘いものですが、我々のような管理部門で管理できない、もしもの場合に制御不可能な超人部隊など手にするべきではありません! 今現在、各部門にいる超人たちには特別部隊を用意して、通常部隊や情報部員とは隔離するべきだと考えます!」
第一統制官は苦い笑顔で頷き、噂になった超人兵士、超人SP、超人情報部員などは、その部隊や所属組織から特別部隊へ移される。
楠見親子へ謝罪する第一統制官の姿が見られたのは、その後、数日経ってから。
「誠に申し訳ない! あなた達の教えは素晴らしいが、あまりに人間の質を変えてしまう。この銀河ではエスパー部隊すら未だ実現できていないので、もっぱら救助専門で楠見インダストリーでのみエスパーたちが定職に就いているくらいだからな。通常の兵士が超人兵士になったら、あまりに実力差がありすぎて部隊の中でどう動かして良いのか判断不能となる。この私にしてもRENZは持っているが能力的には普通のエスパーと変わらんのだよ。その普通人が超人をコントロールするなど無理だった……依頼を取り消すと共に深く謝罪する。人を超える存在に、人が依頼や願いを口にするなど不敬の極みだったと反省している。あなたたち親子には、この銀河は狭すぎる」
楠見親子、何度も頭を下げる第一統制官に照れるのか、教官職を辞する時はスッキリとした顔をしていた。
「太二、これでもう思い残すことはないだろう。行くか、ガルガンチュアへ」
「そうだね……この銀河で俺のやることは無くなったみたいだし……」
二人が並んで人混みを歩いていると不意に二人の姿が消える。
すぐ後ろを歩いていた若い男は、見ていた背中が急に消えてしまい、
「え? 人が消えた? な、なんだぁ?!」
上ずった声が上がったが、すぐに都会のざわめきに消える。
瞬時にしてガルガンチュアに戻った……
楠見親子で。
「師匠、急に消えるんで何が起きたのかと……え? もう一人いるんだが……あ、もしかして太二くんか? いやー、見た目が老けちまったな、太二くん。お父さんからの贈りもの、随分と年取ってから使ったようだな、この見た目だと」
郷が10歳以上見た目が違う親子をみて、そうからかってくる。
「仕方ないじゃないですか、僕にだって家庭があったんです。妻や子供があるので、ある程度は子供が育ってからでないと例の小箱は使えませんよ。おかげで、使った時には50代でした。それからは不老でしたけどね。お別れしてから約1万年ってところですか。皆さん、お変わり無く……僕の知らない人、いますね……もしかして父さんの話によく出ていた、マリーさんですか? 銀河の巫女姫でしたっけ?」
太二くんにそう言われたマリーは、
「もう巫女姫じゃないわ、ガルガンチュアクルーの一員よ。どっちかっつーと楠見さんへの苦情要員という立場ですけど。とにかく、このガルガンチュアにはトンデモという冠詞をつけたくなるような力を持つ人たちばかりが集まっちゃうし、それを平気でぶっちぎっちゃってるのが私の目の前の楠見糺という存在なんですから。一人くらい普通の視点から物を言う人がいなきゃダメでしょ」
マリーの言ってることは至極ごもっともなのだが、それを言うマリーの能力は予知、それも数千万年のレベル。
幸い、それ以外のESPは、それほどではないのが普通人の名称を使っても許される所以だろう。
ついに揃った6隻合体ガルガンチュアと統合マスターの楠見糺。
そして何らかの状況で統合マスターがいなくなった場合に必要となる仮マスターは、プロフェッサー(超高性能アンドロイド)、エッタ(元精神生命体の有機端末で、現在は独立した生命体)、ライム(不定形生命体、どんな種族にでも変身可能、ただし精神生命体とか無理)、郷(世にも稀有な再生能力の持ち主。ガジェットでシャクドウマンという赤鬼のような生命体に変身可能。その場合、超人的というにもおこがましいほどの体力、腕力、脚力を持つ。まあ、言葉を変えるなら怪物一歩手前に……幸い自分の再生能力で元には戻れる。あと、テレパシーとサイコキネシスは楠見の1割ほどの強さになっている)、超絶的予知能力者のマリー、最後は楠見太二(体術は父親から受け継いだ超人レベル。他にも、郷ほど強くはないがテレパシーとサイコキネシス能力も持つ。太二個人のガジェットで無敵モードの装甲スーツ姿になる)
これで突発的な事故があろうとガルガンチュアとしてのチームワークが崩れることはない。
こう並べると、もう宇宙船も超のレベル、そのクルーたちも有機生命体とか3次元で存在しているのが奇跡のような者たちであることが分かる。
管理者言うところの「宇宙の特異点」の理由も推して知るべし。
「さーて、全てのパーツが収まるところに収まったガルガンチュア。まずは手近な銀河でトラブル対応と行くか!」
で、楠見の発声に応えるかのようにガルガンチュアの進行方向へと現れる一つの銀河。
その銀河では大戦争の真っ最中。
3つの巨大星間帝国が、それぞれ銀河帝国や銀河同盟、銀河共和国を名乗り、それぞれの支配星域を少しでも伸ばそう・拡張しようと鎬を削っていた。
いつものごとくガルガンチュアは情報収集のために銀河の端から端まで搭載艇群を派遣する。
それから半年後。
「ようやく情勢が見えてきた。銀河帝国と銀河同盟は、単純に政治体制と支配体制の違いで相容れないようで、文化衝突がそのまま戦いとなっているようだ。銀河共和国と銀河帝国は、完全に支配体制と言うよりは宗教国家と帝国国家の違いで、これも相容れないものがあり、共和国と同盟も、宗教を排除した同盟側と、宗教国家である共和国側では言い分が少しだけ理解できる、あるいは受け入れられるくらいで、こちらも反発条件が多すぎると……よくもまぁ、これだけ我の強い奴らが集まったもんだよ。普通、銀河の中ではどれかに統一されていくもんなんだけどなぁ……ということで、三すくみの状況になってるようだ。これ、何処に誰を派遣しようか?」
楠見が状況説明と、早速のトラブル解決への問題提起。
ハイ、と手を上げたのは郷。
「共和国は宗教国家ですよね……ふむふむ、こりゃ、ガルガンチュア教団の教えが、ずいぶんと崩れたり間違った解釈されてたりはするけども元になってますね……ということは必然的に共和国側には俺とエッタが適任かと」
次に挙手したのはライム。
「同盟ですけど、こっちは経済的な結びつきが強いようですね。これなら、やりようはいくらでもあります。私とプロフェッサー、あとマリーさんが来てくれると頼もしいかなと」
「とすると、あとは帝国か……こっちは庶民の娯楽として格闘技が親しまれているようで、とにかく強いものが尊敬され重用されると言う風土ね……丁度良いな、俺と太二で向かおう。ふっふっふ……これでこの銀河も統一へまっしぐらだ」
それから100年も経たぬうち、戦いに明け暮れる毎日だった当該銀河は互いに矛を収め、だんだん相互理解を深めて、おっかなびっくりながらも互いの手を取るようになる。
「それでは、ここ共和国の銀河アリーナで初めて開催される、銀河帝国異種格闘技チャンピオンが同盟側と共和国側のチャンピオンに挑戦するというビッグイベントをお送りいたします! 勝利条件は最後までコロシアムに立っていたものが勝ちというもの。無手で、暗器も防具もなし。蹴りやパンチ、投げはありで、言うなればあらゆる格闘技のエッセンスを煮詰めたような頂点たちがお互いの力と技とを見せあい、ぶつけあうというもの。ちなみに相手を殺すのは絶対禁止。殺意を持つことは良いのですが、殺人技を発動しようとした場合、リングにいる統合レフェリーの楠見大師範により強制的に試合中止と反則負けが宣告されます!」
怒号と応援、そしてギャンブルまで行われているのか、
「勝ってくれよー、頼むからぁ! これで負けちゃったら、俺は破産だぁ!」
などと悲痛な声も聞こえてくる……
「なんとか100年と少しで解決しそうなポイントまで行ったな。後は銀河統一政府の誕生まで面倒見てから、ここを離れる。みんな、とりあえずご苦労さん! 労いの会が終わったら、それぞれの担当宙域へ戻るんだろうけど、もう少しだから頑張ってくれ!」
かんぱーい!
の音頭と共に、あっちからこっちから、様々な情報と愚痴を聞かされている楠見がいた……