第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第七十三話 大団円への序曲(短編集)
稲葉小僧
大団円への序曲 その1
ガルガンチュアも6隻合体で(一応の)完成となり、クルーの補充も完了した。
行く先々で、そのガルガンチュア最終形態は様々なトラブルを様々な方法・手法であっさりと(年月は数百年かかろうとも)解決し、その航跡には「平和と安全」の文字が、しっかりと残る。
こうなると、それが一番気になるのは、やはり宇宙の管理者たちである。
今日も今日とて果ても見えないような会議専用の高次元空間で最優先事項としてガルガンチュアと、そのクルーたちのことが議題として上がっている。
「……ということで今回我が担当銀河は内部抗争の末期だった隣接銀河を巻き込んだ銀河大戦となりそうなところを彼らガルガンチュアに救われました! これで幾千、幾万の銀河と銀河団が彼らに救われたことでしょう! 私は、もう彼らがコチラ側、つまり宇宙の管理者側の手駒になるよう、彼らを説得すべきと考えます。幸い彼らを率いる統合マスターのクスミという人類種族は、ほぼ我々に近いレベルの力になっていると言うではありませんか。私は我々が手を出せない現場対応の遊撃部隊として彼らを有効的に動かすべきだと思うのです!」
賛成!
賛成!
の多くの声と同時に、
「儂は、それには反対する。理由は彼らガルガンチュア一行が、そんなことを露ほどにも望んでいないから。彼らは目の前にある苦しみや悲しみをなんとかしたいと宇宙を渡るだけなのだ。結果的に我々の仕事すら彼らに助けられているのであるが、強制的に我々の都合で、あっちやこっちの銀河や銀河団、超銀河団も含めて彼らガルガンチュア勢を動かすべきではない。発言者のそなた、まだガルガンチュアの行動原理が理解できてないようだな」
低いが、しっかりした声(基本的にテレパシー。それを受ける相手には音声化されて聞こえているようだ)が無限に広く思われる会議室内に響き渡る。
「彼らが三次元宇宙を行動範囲としているのは何故だと思う? 我々のような精神生命体ではない、ひ弱な肉体で、傷つき、未来には死を待つ存在ではあるが、それゆえ我々のように、あれやこれやの制約や束縛を受ける必要がない、いや、あえて彼らは肉体を得ていることに拘っているようでな。儂は彼らとは長い付き合いで、彼らのリーダーであるクスミとは、ある程度、顔なじみのようなものでな。こちらの都合で何回もクスミを呼び寄せて手伝ってもらったものだ」
楠見を度々呼び寄せてと自ら語るということは、この個体が楠見に試しや手伝い、ちょっとした試練などを与えたものだろうか。
「それゆえ少しはクスミと関連のある儂だからこそクスミには自由が必要だと思う。あの男を縛ってはならぬ、あの男を一つの星に縛り付けるとか一星系や一銀河の管理者にするとか、絶対にしてはならぬ。これは儂の固有意見ではあるが、クスミという、あの個体には、とてつもない無意識下の力が未だ眠っていると思われる」
周囲がざわつく。
その発言に異論か疑問があるのか別の意見が、
「大先輩であるところの貴方に異論があると発言します。ガルガンチュアに存在するクスミという人類種に特別なレベルのESPが、それこそ我々にも匹敵するクラスとレベルのサイコキネシスとテレパシーレベルに育っていると報告は受けています。しかし、それ以上のものが、あの個体の中に眠っていると? とても信じられません! 今のレベルやクラスを超えるなどというESPは、それこそ我々をも超える、我々の上位存在として上位次元にある方々と同じということになりかねません。それが真実と言うならクスミという個体は三次元宇宙を破壊しかねない、いつ爆発するか分からない超巨大な爆発物ということになりますぞ!」
そこまで発言して続きを言おうとした瞬間、大いなる声が聞こえる。
「大いなる声」とは稀に管理者たちの重大会議の場に発現することがある、管理者たちの上位者、より高度な次元を管理する超位の管理者の声である。
【そこまで。それ以上、発言してはならぬ。そなたたち管理者には管理者としての大いなる権限があると同時に巨大な制限事項も存在する。今の発言は制限事項に抵触するゆえ発言に注意するよう重大警告として、われ自ら発言させてもらう。かのガルガンチュアと、そのクルーたちについては、こちらの管理にあるわけではないが監視対象として常に注視されている。特にクスミという統合マスターに関しては、そなたらの力で管理者に引き上げるとかクスミの意思に反する活動を強制することは厳に禁じる。まあ、自ら行動したいというなら、それを禁じるわけではないがな……以上だ】
いつになく長かった、そして強かった超位者の「大いなる声」
しかし、これでガルガンチュアが、そしてマスタークスミはじめクルーたちが管理者の外部干渉を受けない理由が理解できた。
理由があれば試しや試練、手伝いの依頼もOKだが、その任務を強制しようとする場合、ガルガンチュアのコース変更やクスミの強制転移も失敗しているという報告が、あちこちから上がっており、その理由も不明だったからだ。
「私にも知らされていなかったのだが、どうやらガルガンチュアとマスタークスミは我々の上位者たちの並々ならぬ関心を引いているらしいな。しかし、我々にも管理者としての任務と権限があるので、なんとしてもガルガンチュアには今の自由気ままな旅の状況から我々の有益な協力者となってほしい。これからは、どうすればガルガンチュアを我々の善意の協力者にできるか、重要議題として話し合うことを要望したい」
異議なし!
の全員一致の賛成であった。
大団円への序曲 その2
「楠見さん、ちょっと良いかしら?」
マリーが少しよそよそしい感じで話しかけてくる。
「ん? 何かな? このところ少しばかり暇だけど、未来予知の力が自動発現したとか?」
楠見は何気なく言ったが、
「んー……それがね。言いにくいことなんだけど、このガルガンチュアの旅も、もう後少しで終わりそうなのよ……詳しいビジョンではないんだけど瞬間的に未来ビジョンが飛び込んできたの。いつものような未来予知ではなく、どこかから知らされるような、それも瞬間的な画みたいなもので未来の一瞬を切り取ったようなものよ。それを見るとね……私達、ガルガンチュアクルーは何処ともしれないけど惑星上で一団として……んー、違うか……家族みたいにして暮らしてるイメージなのよ。ガルガンチュアが惑星の近くに留まれるわけないので、多分その惑星のある銀河の傍にあるんでしょうね。でね、楠見さんに聞きたいのは、そんな予定を考えてるのかしら? ということ」
楠見は、それを聞いて軽い衝撃を受ける。
自分自身、将来、何処かの惑星に腰を落ち着けて、クルーの皆とホームを持つなどというのは、ある程度の可能性としてはあると思っていたが、そんなことは数十万年も経ってから考えることだと思っていたからだ。
今のトラブルバスターとしての生き方は自分がある意味、心から望む生き方の一つであるという確信すらあったので、それ以外の選択肢があったのかという衝撃でもある。
「うーん……ガルガンチュアとの絆は固いから、俺が自らガルガンチュアを離れるってことはあり得ないよ。それはマリーさん含むガルガンチュアクルーに対してもそうだ。もう俺達は家族だ。一時期、分かれてトラブル解決に従事することはあるにせよ俺がガルガンチュアやクルーたちと完全に分かれることは、あり得ない」
「うーん……まあ、そうなるわね。ごめんなさい、邪魔するような意見で……」
「大丈夫、俺達は家族だ。どんな意見でも言える間柄だろうし、それを無視することはあり得ない」
という会話をしつつ楠見は進行方向にある銀河にあるトラブルの情報収集のため、現在担当となっているトリスタンとオールドマンに目標銀河の情報収集のため搭載艇群を派遣する指示を与えている。
「いつもながら楠見さんの多重思考は鮮やかね。私なんか自分の中に人格が複数あるなんて考えられもしないのに」
それを聞いた楠見は、
「いやー、今みたいに多数の人格を自由自在に使いこなすのは大変だったんだぞ、実は。それもこれも全てプロフェッサーの脳内領域開発実験からだ。今の教育機械の機能と対応力を考えると、よくもまぁ俺が発狂せずにいられたなと思うほどだよ」
「え? かなり危険な実験だったようなんだけど……そのせいで多重思考って、その実験の後遺症?」
「いいや、違うと思う。地球人類含む太陽系人類と、その他の人類種族との違いの一つだろうな、この多重思考ができるかどうかってのは。現に太二も多重思考は発現しなかったし、郷も君も発現しなかったろ。これは人類の可能性の一つかもしれないな。まあ、それ言うなら郷の再生能力、君の未来予知もESPという未知の領域の可能性の一つなんだろうけど」
「へー、そうなのね。まあ、私としては、あっちにもこっちにも私みたいに数千万年の未来すら予知できる能力者なんて現れないほうが良いと思うんですけど。郷さんの再生能力は凄いわね。ああいった能力が普通に使えると人類の通常寿命とか今より遥かに伸びそうなんだけどな……」
「いやいや、あれも結構、辛いと郷が言ってたぞ。例えば郷が使える専用ガジェットの変身薬で変われるシャクドウマンな。あれはナノマシンの暴走寸前の状態に近い。あれから元通りの姿になれるのは郷の再生能力の賜物なんだが、あれは変身時も戻る時も、かなりの激痛らしいぞ。郷以外が、あのガジェット使って変身したら元に戻るにはガルガンチュアの医療施設で一ヶ月以上かかるとフロンティアが昔言ってた」
うっ!
とマリーが引く。
自分自身に投影して、激痛に耐えられるか?
という自問自答をしてたようで。
「あれ? 楠見さんも太二さんも似たような……とは言えないけど専用のガジェット使ってたわよね、確か。あれは激痛を伴わない変身ガジェットなの?」
その問いに楠見は苦笑しながら、
「ああ、あれの大元は宇宙を旅して銀河団をいくつも渡りだした頃かな? 銀河団をいくつか超えてトラブルシューティングしてたら、たまたま古代超文明のガジェットを見つけてね。そいつが使用者をかなり限定するものだったんで、当該銀河の人たちに了承をもらって俺が引き取った」
「元々は、どういうものだったの? かなりクセが強そうなガジェットね」
「何もしない起動前の状況では、重さが1t以上あるヘルメット形の変身ガジェットさ。これを持ち上げて被り、使用者登録が終わるまでは、その重さが使用者に被さってくる……それを耐えるには使用者がかなり高レベルのサイコキネシス持ちでないと無理だ。ただし使用者登録が終われば被った時から重さは消え去り、オマケに内蔵された超重合物質が全身を覆うように一体型の宇宙服のようになって使用者を守る。かなりの性能だよ、これでも。それに加え、超音速の航空機形態・深海でも行動可能な潜水艦形態・ドリルで地中を掘り進める形態・そして超小型の宇宙戦闘機形態にもなるって便利なもの」
「へぇ……あ、でも今は楠見さんの手元にないのよね、それ。なんで手放したの?」
楠見は頭をかきながら、
「この宇宙でも珍しい、もう一人の俺に出会ったから。ヘルメットガジェットは使用者を限定するって言ったろ? 俺が登録されてしまうと他の人間が使えなくなる。でもって、もう一人の俺ならヘルメットガジェットも受け入れるかなと思ってね。思惑は成功して、その彼に渡したよ。あと、ヘルメットガジェットの力を俺自身が超えてしまってて、ヘルメットガジェットが俺の力を縛るものになってたのも、譲った理由の一つ」
それを聞いてマリーの中に一つの疑問が浮かぶ。
「ねえ? 一つ教えてほしいんだけど。楠見さんの力、未だに底が見えなくて、伸びてる・大きくなってるって話を郷さんから聞いたのよ。今でも私には、あなたが三次元で肉体を持ってる生命体としての限界を超えてるって思えるんだけど……どこまで、その超巨大なESP……いいえ、その底なしの特異な力って伸び続けるの? それとも、どこかでストップするのかしら?」
楠見は苦笑してるような、それとも寂しげなという方が良いのか、どちらにも取れるような顔をしながら、
「俺にも分からない。分かるとすれば管理者……いや、管理者にも理解不能なんじゃないかな? 本当の意味で、このガルガンチュアに存在する特異点というのは実は俺だけなのかもしれない。この6隻合体版ガルガンチュアすらも管理者には既知のものかも知れないけど、俺の力の到達点だけは管理者の上位にいる存在がいると仮定すればの話だけど、その存在しか理解できないんじゃないかな? その力を遥かな未来に俺が開放する時があるのなら、その時こそ、俺は別の存在形態に移行……進化ではないかも知れないけど、移行するという予感はある……移行したら、俺が俺である意味すらなくなるかも知れないけれど」
最後、マリーは理解不能。
いや、言った楠見自身にも理解不能な直感の放った言葉だったのではないだろうか……
若干の暗雲を抱える楠見を乗せ、それでも宇宙を跳ぶガルガンチュアは、また次の目標銀河を目指す。
大団円への序曲 その3
その頃、銀河系を中心とする汎銀河文明は順調に育ち、その文明範囲を銀河団の70%超までに広げていた。
関係性のある銀河団と言うなら、隣接している両隣の銀河団とも転送機による交流が、まだ回数は少ないながらも始まっており、銀河団を隔ててもガルガンチュアの名前と航跡・功績は隣の銀河団でも鳴り響いている。
「局長、今現在、ガルガンチュアは何処を跳んでるんですかね?」
汎銀河連邦情報局を束ねる大元となる銀河系情報省の銀河団情報部には4つの部署があり、それぞれの銀河団を担当している。
そのトップとなる(正式には局長は、他部署も管理しているので別の建物にいる)銀河団総合情報部の部長は、その扱う情報量の大きさと多さ、そして、どれにも増して重要なのが、ガルガンチュアと楠見の航跡を辿るという任務で、正規の局長を差し置いて、通常「局長」と呼ばれる。
「さあね。ガルガンチュアに未だ何の連絡もつかず、向こうからの連絡も来ないということはガルガンチュアが超銀河団すら渡っている可能性が高いということは知れ渡っているが。もう、そこまで行くと、どんな観測機であろうとガルガンチュアを捉えるなど不可能だろう。数年前に、巨大な宇宙嵐が運んできたというお隣の……隣と言うべきなのかね? 超銀河団でも……超銀河団の調査船を救出したことがあったが、そこにもガルガンチュアの栄光のもとにあるという言葉がある……無限の宇宙と言うけど、本当に何処にいるんだろうね、ガルガンチュアとマスター楠見は」
今日も、新しい文明と生命を求めて汎銀河文明の探査船が無数にある隣接銀河へ、その文明の最先端のスペースポートから発進していく。
その目的地の、どれもがガルガンチュアによって安心と安全が約束されている銀河であっても、待っている未来の友人たちのために汎銀河文明は探査船を出す。
そしてグングンと文明域を広げ、とりあえずの目標は汎銀河文明の領域が、その銀河団と重なるところまで行くこと。
そこまで行ったら、あとはガルガンチュアの元となったフロンティアのように銀河団調査船を造らねばならなくなる。
その技術が未だに、超科学技術文明と言われるほどの汎銀河文明でも得られていない。
銀河を渡るまでの宇宙船は、ある程度の科学技術の発展として実現したが、それと銀河団を渡るというハードルを超える宇宙船を造るということは全くの別物。
幸いにして、ガルガンチュアのような超銀河団すら渡れるような船は、今の所、汎銀河文明圏でも要求はされていない。
それは隣接銀河団への転送機輸送を計画した段階で、宇宙の管理者と名乗る未知の存在から警告を受けたからだ(これは汎銀河政府の職員や宙域管理官らの一部、ESP能力の強い者たちが個別だが一斉に告知されたという)
《警告する。お前たちの予定している銀河団を越える物資輸送は、一応は前任者のように許可されるが、あまりに大きなものや多くのものを運ぶのは許可されぬことがあるので注意せよ。前任者の行動と許可により、お前たちにも銀河団の渡航許可は出すが、それを日常化することは許可されないので、心しておくように》
この警告のため、今でも銀河団間の宇宙船航路整備は大規模に計画出来ず、転送機による大規模な人員輸送や物資輸送も許可が出ないので、転送機も小さな物しか互いに設置できなかった。
「この許可が出た前任者というのは、たぶんというか絶対にガルガンチュアとマスター楠見だろうな……あー、いつになったら人類と銀河系、いや、汎銀河文明はガルガンチュアとマスター楠見に追いつけるんだろうなぁ……」
局長は誰も回答できないのは理解しているにも関わらず、呟かずにいられなかった。
今、ここにガルガンチュアとマスター楠見がいるのなら、人類はじめ全ての汎銀河文明の生命体は土下座してでも銀河団を航行できるエンジンと航法技術を教えてほしいと頼み込みたいのだ。
「局長、答えがない疑問を口にしても仕方がないかと。こうなれば一刻も早く、この汎銀河文明を銀河団クラスに拡大して、後は管理者たちか、それこそガルガンチュア及びマスター楠見からの提言や情報を聞けるような素晴らしい文明圏にするしかないって筆頭管理官も言ってたじゃないですか」
「うーん……あの人は庶民受けは素晴らしいんだがなぁ。この汎銀河文明圏でも一番の権力者なんだと言うことが基本的に理解されてないようで不安だよ。それこそマスター楠見じゃないが、自分は特別じゃない一般庶民だと言い張りながら、この文明圏の大きな揉め事を何の苦労もなく解決してるからなぁ……口さがないマスゴミたちは筆頭管理官のことを「劣化版マスタークスミ」とか言ってるそうじゃないか。あの方の功績と実力に対し、あまりに不敬だぞ」
「でも局長、それは仕方がないのでは? 実際に見ることが出来ない、実績ばかりが今も見つかるばかりのマスター楠見と、実力はあるけど実物はメディアでリアルに見られる筆頭管理官。リアルのほうが劣化版だというのは理想が高すぎて越えられないからですよ」
「いやいや、それは分かってるんだって。筆頭管理官ご本人にしてもインタビューでは公式に認めてるからな。劣化版ではあるが汎銀河文明圏では私しかトラブル対応できるものがいないんだから我慢してほしいとな。あー、本物がいたらこうするってシミュレーションすら機械知性が拒否するんだからなぁ……機械生命体の理想の皇帝と言われるのも、もっともだと思うわ、俺も」
汎銀河文明圏が、まだまだ発展中のため、これは贅沢な愚痴と言うべきなんだろう。
ガルガンチュアとマスター楠見は、まだまだ戻っては来ないようだ。
大団円への序曲 その4
今日も今日とて無限の大宇宙の一銀河にいる、もう一人のクスミ タダスは、ようやく統一化に進み始めた銀河政府の情報部にスカウトされ、今は統一化を阻む抵抗勢力に向けて、その星域・星間文明へのトラブルシューターとして、もう数千年の長きに渡り、第一線で活躍していた。
「おいおいおい、あの時、楠見さんから知らされてた情報では俺の寿命って数百年だったと思ったんだがな。それが今では銀河統一政府の現場担当を束ねる部長職……ちなみに楠見さんと出会った時のまんま、年も取らない状況って……これが楠見さんの仕込みじゃないなら……やっぱ、このヘルメットが原因なんだろうな。別の銀河団の超古代文明が残したガジェットだというので受け取ってしまったけど、こいつのせいでオレ個人も不老不死種族の一員になったということかなぁ……」
そう言いながら転身した真っ赤な全身を覆う超重合物質の全身鎧に覆われたクスミは、何処で間違ったのか他星を侵略するという意図で宇宙港に揃った100隻もの宇宙艦隊に向けて攻撃を開始したところだ。
数千年も生きて、その殆どが現場での大立ち回りの毎日という生活を送ってきたためかクスミのESPは随分と強化されてきた。
ガルガンチュアで大宇宙を旅してる元祖の楠見ほどではないが、この頃、ようやくヘルメットガジェットのアシストが邪魔になってくるのを感じている。
「こいつの肉体アシストや自動シールド展開機能は有り難いが問題はESP能力のアシストだよなぁ……普段じゃ感じないけど怒り爆発とか、ここ一番とかでサイコキネシスを全力発動させようとするとガジェットのアシスト機能が邪魔になってくるんだよ。とはいえ、こいつの登録者はクスミ・タダス、元々は元祖なんだが今は俺しか使えないからなぁ……」
この頃は基本スーツから4つの各機能形態への転身もスムーズに行えるようになり、片時も離せない文字通りの相棒となったこのヘルメットガジェットだが、それだけじゃ足りなくなり、今ではカロン号に搭載されてるガジェット専用のアタッチメントを交換しつつ、相手に対応しているクスミである。
「来い! メーザー砲アタッチメント! 来たか……装着! いっけー! 宇宙港に並ぶ侵攻艦隊へ大規模フォノンメーザー砲の乱れ撃ちぃ!」
幸い敵艦隊の宇宙艦隊は統一政府の宇宙軍とは1歩も2歩も遅れた技術しか使われていないため、たった一人の戦いでも面白いように相手に当たる。
統一政府の宇宙軍だとカロン号と同じ技術で造られた球形船のため、カロン号の武器では一切、球形船の防御シールドは破れない。
宇宙港に並んでいる(つまり地表にある)からフォノンメーザーなんてものが撃てるので、これが宇宙へ上がってしまうとレーザーとミサイルが中心となる。
まあ、いざとなれば衝角アタッチメントに交換して体当たりも可能ではあるが……
小一時間後、ようやく敵宇宙艦隊の壊滅に成功したクスミは、統一政府情報部長官に案件の沈静化と解決済を、とりあえずデータと音声で知らせる。
「毎度のことながら鮮やかだな、クスミ。では、次の案件なんだが……」
「ちょ、ちょっと待ってください! あまりに酷い過重労働でしょう! もう、この星で4件目なんですよ! 1件目から休み無しで次から次へと、星から星への渡り鳥はやめてください! これ以上、無理やり働かせるなら、辞表書きます!」
終了報告が終わったら、またたく間に次の指令を入れてこようとする上司(長官含む情報省の参謀本部)に、クスミは断りを入れる。
もう2ヶ月以上、ずっと休み無しでカロン号と変身ガジェットの使い倒しの生活が続いている。
通信機から少し待てとの回答が来て、次に指令が入ったのは、それから一時間後。
「クスミへ。重要案件は未だに残っているが最重要案件は今ので片付いた。君のチームに休みをやろう。次の緊急案件が入るまで、その星系で休暇を取ることを許可する。ちなみに、言ってなかったが君の個人証明バッジを見せれば、ほとんどの政府高官用、あるいは最高級ホテルはVIP待遇で迎えてくれるから、そのつもりで。バッジが君の個人用口座も兼ねているので、その星での殆どの買い物も可能だ。ちなみにクスミ、君は預金残高、確認してるのか? あまりの高額預金に銀行が口座の分割を要求してるぞ」
ほっと一息ついたクスミは、それでは、このまま休暇に入りますと返信。
カロン号のクルーと会話をし、彼らもそのまま休暇に入ると言ってきたので、宇宙港へ着陸してガジェットもカロン号へ戻してから、彼らと共に異星の休暇を楽しむ。
カロン号のクルーは初期のメンバー(惑星警察機構の宇宙担当遊撃班だったメンバー)から大幅に替わり、今では銀河統一政府の移動情報部へと大幅にモデルチェンジされ、カロン号そのものも円筒形に近い旧来スタイルから、現在は上下が潰れたような球形に近い形に改造・改装されている。
中心部では直径300mを越え、上下は250mほど。
球を潰したような形だが、これは惑星上にある宇宙港への着陸には適している。
このカロン号のおかげでクスミも情報部部長でありながら現場対応(現場処理というほうが正しいか?)ができている。
「はー、まあでも、俺の落ち着くべきところへ落ち着いたという感じかな。まだまだ、あと数千年ほどは現場で頑張れるってことで……」
「えっ? 部長が現場で数千年も頑張ったら、この宇宙に抵抗勢力なんて無くなっちまいそうなんですけど。まあ、その功績で部長から情報省長官へとご栄転ってのも良いですか」
部下たちが、そんな風に言ってくる。
クスミは、そんな部下たちが好きだったし、これからも、そんな部下たちと現場へ出る毎日が好きだった……
大団円への序曲 その5
広がるだけ広がった感のある、汎銀河文明圏。
しかし、まだまだ未探査宙域が存在するので、その文明圏の拡張のため、未だ未到達の銀河へと向かう汎銀河文明圏の転送機が設置されている末端部銀河には探査用の最新宇宙船が待機している。
今も新型転送機と新しく訪問する銀河の友人たちへの贈り物を携えて、直近の未踏銀河へと旅立つ宇宙船団(今は5隻でチームを組んでいるので何かトラブルがあろうとも短期間で対処できるようになっている。これもガルガンチュアを見習って1隻だけの単独部隊だけで異星や異星域、異銀河のトラブル対応をするということを回避するように数千年前から組織改編されていた)が、今や遅しと発進許可を待っていた。
「司令官、今回、あの銀河ですかね? いやに遠く見えるんですけど?」
船団付参謀が普通は跳ばない距離を計算しているパイロットたちの行動に疑問を抱き、司令官に質問している。
事前のブリーフィングで数チームが派遣される予定の未踏銀河の数は10個ほどだそうであるとの話は出ていた。
しかし、どう考えても今の事前計算と事前処理は派遣計画にある隣接銀河の中でも一番距離のあるものを対象としていると考えざるを得ない。
普通は最遠銀河などは後の予定に組み入れ直して、近い銀河や中距離にある銀河など、もっと訪問しやすい銀河を選ぶものなので、参謀の考えは通常では間違っていない。
「そうだ。今回、我がチームは隣接銀河の中でも最も離れているものを目標とする。それには理由があってだな……入ってくれ」
そう司令官が通話装置で呼びかけるとブリッジの入口付近で待機していたのだろう人物が入室してくる。
「来たか……参謀、この人物が我々が最遠銀河へ行く理由だ。実は彼、目標銀河からの使節、向こうの銀河連邦から派遣された大使だ。向こうの銀河も後少しで統一されそうなんだが抵抗勢力が手強いそうでね。我々に向けて救援要請の船と大使を送ってきたんだが、後少しでこの銀河へ到着ってところで抵抗勢力からの刺客宇宙船に襲われてな。必死で救援信号出してたら、こっちの巡回パトロール隊に届いて船ごと救出されたと。刺客宇宙船は、どうも強力な洗脳社会のようで任務失敗で躊躇なく自爆したらしいよ。まあ、そんなわけで、あまりノロノロしてると抵抗勢力が強くなって内戦状態になりかねんと汎銀河文明中央評議会が判断して、急遽、派遣予定を変更して我々のチームが訪問と救援任務に就くこととなった」
「ご紹介に与かりました、私がここから220万光年ほど離れた銀河の住人で、その銀河における最大勢力の代表としてやってきました、コノエール121と申します。我々は、その昔、ガルガンチュアに助けられました。まあ、2隻合体の時ですが。聞けば、その後も合体を続けて、今の最新情報では、ついに6隻もの合体船になったとか……この銀河どころか銀河団や超銀河団すらいくつも渡っていると聞いて、あのガルガンチュアとマスタークスミなら当然だろうなとは思いますけど。しかし、この汎銀河文明圏も聞きしに勝る超高度文明圏ですな。文明圏内の銀河を移動するのに宇宙船を使わないという、もはや夢の如き超高度な技術文明が成立する条件をお聞きして、なおさら驚きでした……この文明圏では全く戦いや争いがないという事実……いやはや我が銀河が、この文明圏に参加できるのは、いつになるやら……」
自己紹介にも全くツッカエや途切れがなく、教育機械の成果だろうとは思えるが、この文明圏の住人だとしても見かけでは分からない。
ちなみに遠いけれどお隣の銀河の住人である彼、コノエール121は、いわゆるヒト型の生命体ではあるが、その姿は見慣れたものではない。
いわゆる「ギルマン」つまり半魚人である彼には首に数箇所のスリットがあり、鰓呼吸対応種族だ。
まあ、水中でないと生きていけないということではなく(それなら、今ここに水槽がなければならない)肺呼吸も可能な水陸両用種族だ。
水中では音声会話も困難になってくるため、水中だとテレパシー通信が普通だと話す。
そのせいか、その昔、ガルガンチュアが当該銀河に来た時、すんなりと会話が成立したとのこと。
「いやー、その時代、種族同士で領海と領土の奪い合いをやってるころでして。殲滅させられそうになった種族が、もう最後の手段と海底からマグマを噴出させて海を汚染するという最終兵器を持ち出してきたんですな、これが。我々の祖先は、そんな環境破壊兵器すら持ち出す敵勢力に逆に殲滅寸前になったそうで……そこで助けに入ったのがガルガンチュアとマスタークスミです。両者ともにスタンナーとパラライザーによって無力化と気絶状態。その間にガルガンチュアはマグマ兵器と、その他の兵器も全て無効化と機能停止させて、噴出して汚染された海水を全て浄化してマグマすら抑えこんで通常の海底にしたと記録が残っております……目が覚めたら種族どころか星にいる全員に一喝! そして平和の実現のためにと貴重な情報の入ったチップと参考のためにと搭載艇の一隻、100mほどだったそうですな、それを寄贈してくれて、その他の星もついでにと平和にしてから我が銀河を去ったということです」
それが古代より石碑に刻まれて、教訓と神の行いということで、ずっと昔から幼児教育でも徹底的にこのことだけは教え込まれるということなのだそうだ。
少し疑問があったので参謀は疑問を口にする。
「その教えがあっても侵略欲が抑えきれなかった種族があったわけですか、そちらでは。ちなみに、そちらで教育機械は使って……ああ、使われていないんですね。一時は使われていたが数千年前に労働機械の破壊運動が起きて、そのついでにと教育機械も破壊対象になってしまったと……それは残念なことになりましたな。まあ、我々の方には教育機械の最新バージョンと、その設計図もありますので、トラブル解消されれば、それもお渡し出来ますよ。侵略種族も教育機械で再教育すれば欲望を抑え込めるでしょうね。で? 破壊運動で破壊されてしまい失われた技術もあるんですな? ああ、いくつかあると。まあ大丈夫でしょう。ガルガンチュアほどではないけど我々もトラブルシューティングの経験回数と年数は、たっぷりと積んできてますのでね」
跳躍エンジンと航法装置も長年の改良が加えられ汎銀河文明圏の宇宙船は最新のものになっている。
さすがにフロンティアやガルガンチュアほどとは行かないまでも、船団を組みつつ、目標銀河まで数週間で到着できる性能は大したもの。
ちなみに現地に到着した船団は、あっさりと侵略種族の宇宙艦隊を無力化し敵兵士と政治家、民衆も含めて教育機械にかかるように指導する。
数ヶ月後(相当に欲望と自我が肥大していたと思われる。普通、ここまで思想修正に時間はかからない。民衆と兵士は洗脳解除もあったので余計に時間がかかる)には、まともに思考が可能な穏やかな種族が生まれ、その銀河は素早く統一政府の樹立へと動くこととなったのは当然だ。
ただし、だからと言って早々に汎銀河文明圏への加盟となるかは別の話。
転送機の設置には、まだまだ長いテスト期間がある。
「とりあえず限定的な、数人のみの小型転送機を設置させていただきます。これが隣接銀河のみですが員数無制限で使えるようになるのが次の段階。そして最終段階のテストに合格すれば、晴れてどこの銀河にも無制限で行ける大型転送機を設置することとなりますので、これからも精進してください」
そう言って船団は汎銀河文明圏への帰路につく……