SF随想録パンセ - Les Pensées de la Science-Fiction -

- カレンダー - (タロット~魔術~占星術 その1) Kalendae

おおむらゆう

SFだー、と始まったのにいきなりSFじゃなくてFantasy寄りの話題になります。一応、SF寄りに関連ある内容にも振るつもりですが。。

まぁ、いいじゃないですか。アニソラは SF-Fantasy Online Magazine なんですし、 SF も Sci-Fi だけじゃなくて Speculative Fantasy の略だという説もあるようですし。

というわけで、連続じゃないですが、これから魔術/魔法に関連ある内容を時々やっていこうと思います。

今回はみんな大好き星占い、ならぬ占星術 Astrology の話題から暦や時間に関係する単位の話をしてみましょうか。

占星術とは言いますが、英語の Astrology は ギリシャ語の astro = 星と logia = 学問 が組み合わさった言葉で、 本来は文字通り学問のひとつでした。

まぁ、まぁ、おさえておさえて。

順を追って説明しましょう。


雑誌のコラムとかにある星占いは、太陽がどの星座にいるか、という情報を元に内容を決めますが、 もちろん、誰もそんな12個のパターンだけで全てを言い尽せるなんて信じてるわけではありません。 いわゆる星占いというと生まれたときの星座だけを論じますが、生まれの月だけで全てを分析することはあまりにも無理がある。 実際には惑星の位置や地球から見た星の位置なども勘案されていて、生まれた年月日だけではなく、時期や生まれた場所も計算に加味しています。 基本、同じ病院で生まれた人以外はみんな違うホロスコープ holoscope 、つまり生まれたときの星の位置を示す地図を持つことになります。

占星術では太陽と月も惑星と数えられていて、天王星発見前は月、太陽、水星、金星、火星、木星、土星と6惑星を基本にしていました。 現代の占星術ではさらに天王星と海王星と冥王星が加わって9惑星となります。 地球も入れれば10惑星ですね。そして9惑星それぞれに象徴的な意味が割り当てられてるのですね。 10惑星からトランスサタニアンと呼ばれる土星よりも遠方にある3惑星を除いた7惑星は色々なところで重要な意味を持っています。 (冥王星は天文学会の惑星の定義によって惑星に該当しない天体とされましたが、 占星術上は意味を持つ天体ということで変わらず惑星という呼称が使われます。)

signs

10惑星(もしくは7惑星)から地球を除いたものは、占星術の12宮と呼ばれるエリアに対応させられます。 起点は獅子座 Leo と蟹座 Cancer になっていて、そこから順番に右回りと左周りに惑星が対応しています。 ちょっとこの起点が何でここにあるのかは調べ切れなかったんですが。

この12宮というのがいわゆる12星座に相当します。 なんでこの星座が選ばれたかというと、空を見上げたときに太陽が通る道筋に並んでいたからです。 この12宮にどの惑星がいるか、そしてその惑星がどういう相対位置にあるか、 そして地球から見たときにどの高さにあるかなどの情報を元に物事を予測しようというのが占星術の本来の目的だったりします。 でも、この惑星やら星座やらの意味をつらつらと並べることがこの稿の目的では無いので省略。

星座サインはこの起点とは別に古代バビロニア時代の春分点から数えることになっていて、 当時そこに牡羊座がありました。星占いのコラムも普通は牡羊座からはじまりますよね。

春分点は約2000年周期でひとつの星座を横切るものだから、今は水瓶座のところに春分点が来ていて、 実際の星座の位置と占星術上の星座の位置はずれています。 そのことをもって占星術はまやかしだと言う人もいますが、論点はそこではないんですよ。 ちゃんとした占星術師は春分点がずれていることは承知済みで、春分点を実際に合わせる場合と従来のままとする場合の両方を使い分けています。 要はホロスコープの記述内容がどれだけ現実と整合性が取れるようになるかということの方を重要視するからなのですね。

ちなみに占星術にはアメリカと英国に大きな学界があって定期的に学会誌を発行しています。 (THE ASTROLOGICAL ASSOCIATIONAMERICAN FEDERATION OF ASTROLOGERS)

フランスのゴークランという学者が、占星術における星の動きと実際の現象が科学的に間違ってることを統計的に証明しようとしたところ、 逆に統計的に有意な結果、つまり占星術による予測は正しいとしか言えない結果が出てきたことから、 現代科学的な占星術がはじまっています。(占星術、というよりは占星学の方が近いかもしれません。)

というわけで、データを収集してホロスコープの示すところが現実と合致するかどうかを統計的手法で検証しようとする人達もいますが、 実際のところこれはかなり困難なことなんじゃないかな。 まずホロスコープの内容は単純に数値化できるものではないので、それが統計的に評価できるものでは無いということと、 そもそもパラメーターが多過ぎるので、有意な結果に収束しないはず。 通常は単純なケースに分けて評価することになるんでしょうが。(どこそこの生まれの人は某の職に就く可能性が多い、とか)

また、その一方で、統計的手法で有意であるという計算結果が出たとしても、 両者に因果関係が無い物同士を比較しても統計的には意味のないものとなってしまうので、 それをもって科学的にはホロスコープと統計結果の関連性は否定されているという話も聞いたことがあります。 もっとも、最近はAIによる機械的な学習によって一見関係が無い現象同士の相関を取ってしまうこともあるので、どこまでそれが言えるのかなんとも。

いわゆるところの『科学的』な話に話を戻しましょう。


春分点というのは地球の軌道に関連する計算点のことを意味します。

ニュートン力学では、物体が二つだけで両者に重力が働いているときに、運動は必ず平面内に固定され、 楕円、放物線、双曲線のいずれかに必ずなると証明されています。

余分な力を考えない限り、ロケットの運動も人工衛星の動きもこの計算結果がベースになります。

地球の太陽に対する運動は楕円運動となっていて、地球の自転軸に対して軌道平面は一定の角度を持っています。 よく自転軸が傾いてるなんて言う話を聞いたことありませんか?  これは地球の公転(太陽の回りを回ること)している平面に対して、地球の自転の軸が傾いていることを意味しています。

さて、地球の赤道面と太陽の通り道(黄道)の交差する点の、 一方が春分点でもう一方が秋分点となります。 地球が点で表わされる理想的な条件の下では、地球の自転軸は常に空間上の同じ方向に向くことになります。 空の星は大体北極星のあたりを中心にぐるぐる回ってますよね。 軌道面が平面に固定されるのも、自転軸が一定の方向を向くのも、どちらも角運動量の保存則というものから来ているんですが、 どちらもニュートン力学からの計算結果で、さっきの惑星の運動を計算するための方程式から得られます。

さすがにそんなすげー方程式って一体なんなんじゃ、という方もいるかと思うので、具体的な式も一応書いておきますか。 $$ \frac{d^2 \vec{x}}{dt^2} = \frac{GM}{r^3}\vec{x} $$

ここで、 $ \vec{x}$ というのは3次元の位置をあらわす座標ベクトル $(x, y, z) $ で、 $G$ は重力定数、 $M$ は中心天体の質量(この場合は太陽の質量)、 $r=\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ です。

ニュートンの運動方程式と、万有引力の法則からできている微分方程式ですね。 $ \vec{x}/r $ はベクトル $\vec{x}$ 方向の単位ベクトルになりますので、 運動方程式に出てくる力は、物体の質量を $m$ にするなら $$ F = \frac{GMm}{r^2} $$ という、 いわゆる逆二乗の力となりますね。余談ながら電場による力も同じような形をしているので、 古典力学的には点電荷に対する点電荷の運動は天体と同じで楕円か放物線か双曲線になります。 これは式を変形していってうまく積分できるようにしていけば比較的簡単に解くことができます。

実際には地球と太陽以外にも天体はあって、それらからも重力は受けています。

3つ以上の重力源があるときのニュートン力学による計算結果は簡単には解くことができなくなります。 これを多体問題といいます。ただ、太陽以外からの重力の影響は太陽からの重力よりも弱いので、 太陽と地球だけの計算(二体問題)に対するずれを足し込むことで近似的に計算結果を求めることができます。これを摂動計算といいます。

また、地球が大きさを持っていることから、月や太陽の重力の影響を受けて地球の自転軸もずれてきます。 コマの軸が回りながらぐるぐるとずれる運動で、みそすり運動などとも呼ばれるあれです。 正確にはこれは歳差運動といいます。これらの影響を受けることで、さっき話した春分点のずれが生じてくることになります。。

ちなみに、話が飛びますが、アインシュタインの一般相対性理論の帰結のひとつに水星の近日点の移動が上げられますが、 実は水星の近日点の移動は元々これらの摂動の影響を計算尽しても取り除けなかった誤差を説明するもの、 というのが正確なところで、一般相対性理論がなくても摂動によって近日点の移動は起きます。

退屈な軌道の計算の話はこのぐらいにして、その結果として得られるものについて見てみましょうか。


昔は地球のまわりを宇宙の全てが回っているという天動説が考えられていましたが、 普通に空を見ていれば、年単位で地球の周りを回っている恒星と、 それよりももっと早い速度で恒星天の間を移動する惑星のふたつに分類するのは自然な流れでした。

そのうち太陽はほぼ365日で恒星天を一周することから、太陽の周回する単位として年が決まりますが、 それよりももっと短い期間で、しかも満ち欠けをするなど劇的な変化をもつ月の周期は生活を区切る単位として使い易かったでしょうね。

月はほぼ30日周期で形を変えるので、これを単位として決めておけば月の満ち欠けによって今がどのぐらいの時期なのかを知ることができます。 太陽の位置と違って精密な観測機器は必要無いのです。

今は太陽の周期を中心とした暦にmonthを当てはめているためmoonの満ち欠けと monthの中の日付はずれてしまっていますが、 moonの満ち欠けと暦を対応させた旧暦(太陰暦)では1日が新月で15日が満月となります。 だから十五夜というのは満月のことを指すし、三日月は月の3日のころの月を指すことになります。 1年の変化が少ない砂漠地帯では太陽の位置よりも月の満ち欠けの方が時期を特定するのに便利であるため、 イスラムのヒジュラは完全太陰暦となっていて、太陽暦の月とはかなりのずれが生じてきています。 暦を意味する英語のカレンダーはラテン語の Kalendae から来ていますが、これは元は朔日(つまり旧暦の1日)のことを意味する単語でした。 (ものすごーく蛇足ですが、ラテン語で K ではじまる単語はこの Kalendae と Karthago (カルタゴ)しかなかったりします。)

一方で、太陽による変化はもっとゆったりとしたものになっています。 地球の軸が公転面から角度を持っていることと、地球が太陽の周りを1年かけて回っていることから、 1年のどの時期にあるかによって真南に太陽が来たときの高さに差が生じます。 それによって生じる季節の変化は毎年くりかえされることとなります。 そのため、特に四季(つまり季節の変化)に生活が大きく影響を受ける農業社会においては、 季節の変化を知るための指標となる太陽の周期は重大な問題となります。それが年という単位が生まれた要因なんでしょうね。

たまたま、というか、1年が大体月の周期の12倍(12カ月)であることから、12というマジックナンバーは世界のあちこちで用いられるようになります。 昔は貨幣の単位も長さや重さの単位なども、10進法ではなく12進法となっていたのはこれに関連しているんでしょう。 これは裏を取ったわけではないですが、1周を360度とするのもおそらくは1年が約365日となっていることと無関係ではないと思います。 360という数字は12で割り切れるし、360度を12で分割した30度を空の区分として利用すれば、 太陽がそのどの区分にいるかを判断することで季節を判断することができます。 それで、12に分割した領域のそれぞれに星座を割り当てることで季節を表現するための印としたわけだ。

ちなみに星座の名前は正式にはラテン語が用いられていて、これは占星術でも天文学でも同じです。

1等星や2等星という表現は星座の名称の所有格にギリシャアルファベットを組み合わせて表現します。 例えば、牛飼い座 (Bootesブーテス)の1等星アークトゥールスは、 Alpha Bootisブーティス となります。 SFでも時々出てくるアルファ・ケンタウリ Alpha Centauri はこれからもわかるようにケンタウルス座の1等星のことを意味してます。 つまり、ケンタウルス座で一番明るい星のことです。

思うに、占星術の本来の役割はこのあたりにあるわけで、つまり星を読むということは、 どの時期に太陽がどの区画を通過するかによって種蒔きの時期や収穫の時期を知ることがその根底にあるんじゃないかと。

周期的に変化することは世界に多数あるので、 それと周期的に変化する天体の間に関係があるのではないかと拡大した解釈が発生するのも自然な成り行きと言えるでしょう。

そうなると、天体、特に惑星の位置を計算によって予測することは非常に重要な問題となるわけで、 観測結果と計算結果が常に比較され、 やがてどのようなモデルを考えれば観測結果と計算結果に矛盾が無いようにできるかということがテーマのひとつとなったのではないかと思います。

当初は色々な補正を加えながらも、地球を中心に惑星が周回するという天動説がモデルとして考えられ、 それがコペルニクスによって地球も周回してる天体のひとつであるという地動説になり、 ケプラーの計算によってその運動が楕円運動であるときに計算結果と観測結果がよく一致することが判明した、と。

ニュートンはそれらの観測結果を詳細に吟味することでさっき述べた万有引力の法則を発見するに至ったのでした。

冒頭で同じ病院で同じ時点で生まれた人は同じホロスコープを持つことに触れましたが、 そういった人も生まれたあとにたどる人生は異なります。 これは一般には生まれた時点でのホロスコープだけで全てが決まるわけではなく、 そのあとでどのような人生を選び取ったかによってその後が決まるという、ある意味あたりまえの帰結で説明されています。 ただ、そこに選択肢として何がある可能性があってその選択を行うかの傾向がある、ということを示しているにすぎないわけです。 まじめに占星術をやっている人ほど、星の動きだけで全てが決まるとは考えないというのが実際のところです。 このあたりはいわゆる科学とは違う分野の話になりますね。人の意思が介入することになるので、科学的手法が使えなくなるのです。

それもあってか、人や物事の運命を考察することと、天体の動きを予測することは段々と乖離して行き、 占星術 Astrology と天文学 Astronomy が分離するととなりました。-logy という名前のついている占星術の方が本来は学問であったけど、 運命の予測は科学的でないという理由から天文学に Astronomy という別の名前をつけて正式な学問としたわけですね。

ニュートンの業績について、英語が読めて初等数学ができる人は原文にチャレンジしてみてもいいかもしれません。 グーテンブルグのサイトで読むことができます。いわゆるプリンキピアというやつです。

(see Philosophiae Naturalis Principia Mathematica by Isaac Newton)


ところで、先述の経緯からもわかるように、当初は1年の長さは単純に365日で計算していましたが、 太陽の公転周期がそんな切りの良い数字となるわけがなく、段々と実際の季節と月としての季節にずれが生じてきました。

共和制ローマの時代、このずれは無視できないほどの大きさになっていたので、 独裁官ディクタトールとして選出された時のユリウス・ガイウス・カエサルは その改革のひとつとして暦の修正にも取り組みました。言うところのユリウス暦というものです。 そこでは1年を365.25日と規定し、4年に一度0.25日の分を1年の終わり(当時のローマでは3月が最初の月で、2月が年の最後の月だった) に帳尻合わせの1日(閏日)を足すことで調整しようとするものでした。

この計算方法は単純で比較的精度が良いため、実は天文学に限らず人工衛星の運用とかでもこれを利用したユリウス秒を時間の計測に用いています。 実際の暦と合わせるためには種々の補正が必要となりますが。。。

このユリウス暦も、時代がたつにつれてずれが目立つようになってきました。 1年の端数は0.25日よりもわずかに小さかったため、ユリウス暦では逆に補正されすぎてしまったわけです。

そこで制定されたのがグレゴリオ暦で、現在は基本このグレゴリオ暦が用いられています。 ここではユリウス暦における閏日を、100年に一度付け加えるのをやめて、さらに400年に一度、 この取りやめること自体をやめるという仕組みで計算します。これで大体の計算はこと足ります。

時間の計測方法が厳密になった現代では、太陽の周期そのものにゆらぎがあることがわかってきて、 単純な計算による補正では無理なことがわかってるため、 実際の暦と同期を取るためにうるう秒を時々もうけることで調整を行うようになっています。 人工衛星とかで用いられているユリウス秒からの換算のためには、いついつにうるう秒があったかを一々記録しておく必要があるのでした。


さて、最後の方はかなり駆け足になってしまいましたが、どうだったでしょうか?

占星術そのものの是非はともかく、それが歴史の中で占めてきた意味を無視することはできません。 それを基本として得られた考え方が生活の中にたくさん取り入れられているのですね。

そもそも、科学的な天体な動きの予想も、いかにして実際の星の動きを正確にトレースすればいいか、 という観測結果を積み重ねていった結果から得られたものですから。

こういったことを調べること自体もおもしろいですが、何故そういうことをしたかという動機にせまることは、 現代の科学的手法での考察にもまったく無関係というわけではないでしょうね。 そんなところに、なんかSFっぽいものを感じとってもらえるとうれしいです。

さて、ここで書いたことは例によってちゃんとウラを取ったわけではありませんので、 絶対にレポートにコピペなんかしないで下さいね。バツをもらっても当方は責任を持ちませんよ。

ということでおあとがよろしいようで。