SF随想録パンセ - Les Pensées de la Science-Fiction -

- 時空のお話 -

おおむらゆう

2018年の3月、車椅子の天才と呼ばれたスティーブン・ホーキング博士が亡くなりました。

博士は宇宙論と量子力学を結びつけた多数の研究を行ったのですが、それに関連して、というわけでもないですけど、 今回はSFでお決まりの時空についての話にしましょうか。

そのためには準備というかちょっとばっか心構えが必要になります。まぁ、前回までの連載でも書いたようなことの復習でもあるんですがね。 ただ、もうちょっとそもそも論のところから戻った方がいいかな、と思います。


さて、そもそもの始まりはガリレオやコペルニクスそしてデカルトの考え方や観測結果なんかをまとめて運動の原理を アイザック・ニュートン Isac Newton が整理したことにはじまります。

ニュートンの法則と呼ばれているものは、次の三つの法則からなっています。

  1. 慣性の法則
    物体には力が加わらない限り運動に変化は生じない。つまり力が働かなければ等速直線運動をする。
  2. 運動の法則
    物体の運動による加速度は、物体に働く力に比例し、物体の質量に反比例する。(ニュートンの運動方程式)
  3. 作用・反作用の法則
    二つの物体に働く力はお互いに同じ大きさで向きが反対になる。

ニュートンの法則は、動いてる人の世界を動いてない人の世界から見るという座標変換(ガリレイ変換)をしても形を変えません。

この運動法則の中で、いわゆるガリレオの相対性原理というものが成り立ちます。 ものすごく単純にこれを言うと、ある速さで動いてる物体から物を投げると、投げられた物体の速度はそれらの和になるということです。

まぁ、物理に明るくない人にとってはまずはここでつまずいてしまうんですがね。

ものすごく単純な例で言うと、車に乗ってる人が車の進行方向にボールを投げたとします。 道路の脇に座って見てる人からは、ボールの速さは車に乗ってる人から見たボールの速さと車の速さの和になります。 車に乗ってる人が時速70キロメートルでボールを投げて、車の方が時速40キロメートルで走っていたとすると、 道路の脇に座ってる人から見たボールの速さは70キロ・プラス・40キロで時速110キロメートルになります。(数字はてきとーですよ。)

なんというか中学の理科の範囲みたいですがね。

これはどんな速さで動いている(ただし等速直線運動をしてること!)人から見ても同じような足し算で、 その人が見た物の速度が計算できることになります。

最初になんかの物が存在する場所がわかっていて、速度がこんな感じで計算されれば、 あとはどの時刻(何秒後とか何秒前とか)でのその物の位置を特定することができます。

それがガリレオの相対性原理というものなのです。つまり誰から見ても速度は相対的だ、ということです。

速度が変化する場合、つまり加速度がある場合は、短い時間の間にこの立場が次々と変わっていくものとして考えればいいことになります。

ニュートンの運動の法則はガリレイ変換の元で形が不変であることがわかっています。

すべてがこんな風に簡単に済めば良いのですが、世の中そうは問屋が卸さないのでした。

いきなり思わぬ伏兵があらわれます。電磁気学というやつです。

これはファラデーの法則とか聞いたことある人いるんじゃないでしょうか? 磁場を変化させると起電力が発生するというやつです。

その他にもアンペールの法則といって電流の周りに磁力が発生するというのもあります。

電子とかの周りに電荷を持つ物を置くと力が働きます。 このとき電子とかの周りには電場があるといいます。 同じように磁石の周りには磁場があります。電荷をもった物の動きが電流です。 電荷はプラスとマイナスが独立して存在しますが、磁石は常にN極とS極がペアになります。

これも中学の理科でやる内容なんじゃないでしょうか。

こうやって磁力と電力が交互に影響を与えるものですから 磁石に力を加えてぐるぐる回すなどして磁場を変化させることで電力を発生(発電)させるとか、 逆に電流を変化させることで磁石を回転させること(モーターみたいなもの)ができます。

この電場と磁場の法則は4種類の式に整理することができます。

  1. 磁束保存の式
    磁力は常にNとSの2極があって、点電荷のようなものはない。(モノポール magnetic monopole は存在しない。)
  2. ファラデー-マクスウェルの式
    回転する電場によって磁場の時間変化が発生する。(ファラデーの法則)
  3. マクスウェル-ガウスの式
    電場は必ず点電荷の周りに発生する。(クーロンの法則)
  4. アンペール-マクスウェルの式
    回転する磁場からは電流と電場の時間変化が発生する。

この4つの方程式をまとめてマクスウェルの方程式と言って、古典的な電磁場の問題はこれで全て言い表わすことができます。 (正確には電場と電束密度、磁場、磁束密度についての式になります。)

この4つの方程式を組み合わせることで、電場と磁場の波の方程式(波動方程式)が導かれます。 この時の波を電磁波というのですが、光はこの電磁波の一種となります。

波動方程式で表わされる波の速さ(位相速度)は、波動方程式に出てくる定数によって決まります。 これは座標をどのように取っても変化することはありません。光の速さがこれにあたります。

ちょっとややこしいのですが、波動方程式で表わされる電場や磁場というのは、向きと大きさを持つベクトルという量なのですが、 これはどういった座標を選ぶかに寄らない量なのです。座標軸がどっちの方向を向いていようが座標軸が平行移動していようが形が変化しません。

これはガリレイ変換とは両立しません。 つまり最初の方で話した速度の足し合わせができないということです。どんな座標を選んでも光の速さが変わらないのですから、足し算などできません。

つまり、ガリレオの相対性原理と電磁場は両立できないんです。

といったことがわかってきてすったもんだしていたのが19世紀末の物理学者だったのでした。

そんなときにアルバート・アインシュタイン Albert Einstein は考えました。

別に光の速度一定でいいんじゃね?

ガリレイ変換の方を変えちゃえばいいんじゃん!

やっちまいましたね。

実際のところ、さっきの車とボールの例でいうと、 車の速さが光の速度よりも小さいときには事実上はガリレイ変換は成立しています。 他の誤差にかくれて、ガリレイ変換に対してやろうとした変更が見えなくなってしまうのです。 なにせ、光の速度というのは 299,792,458m/sというでっかい数値になっています。 約秒速30万キロメートルです。それに比べれば、車の速さが時速40km、つまり秒速約10mだとすると、 車の速さは光の速さの $3.7\times 10^{-8}$ 倍だということがわかります。車の速さも似たようなオーダーになりますね。

なんてこったい。

この修正されたガリレイ変換はローレンツ変換といいます。

さて、ここで困ったことが起きました。

ニュートンの運動方程式はベクトルという空間の三つの成分からなる量で示されます。 ガリレイ変換の元では、どんな速さで移動してもベクトルの長さは変化しないので、 ニュートンの運動方程式はガリレイ変換の元で形が変わりません。。

じゃぁ、今度は何が変わらないの、となるわけです。

順番から言うと、むしろ変わらないものの計算から上のローレンツ変換が求まるんですが、天下り的に答えを言ってしまうと 四次元的なベクトルの大きさがローレンツ変換で不変になります。

空間は三次元なのでもう一個余分な次元を足さないといけないのですが、それが時間だったりします。 マクスウェル方程式の中で不変の定数となっている光の速度を使って時間と光の速度をかけあわせた量を使うと 長さと同じ単位になります。速度が位置の変化÷経過時間なので、それに時間をかけてやると位置の単位、 つまり長さの単位になるわけです。 こうして単位をそろえてやると、空間の三次元と時間の間で一種のピタゴラスの定理のようなものによって四次元的な長さが定義できます。 ピタゴラスの定理では長さを二乗して足していましたが、四次元的な長さの計算では時間だけ符号が反転します。 つまり長さのくせに計算結果が0になるものや虚数になるようなものが出てきます。

この拡張されたピタゴラスの定理で、結果が0になるのが光です。

まぁ、大体想像はつきますか?

つかない?

順を追って説明しましょう。

あたりまえのことですが、ある距離を光速度で通過するときの時間というのは、(距離)÷(時間)=(光速度) です。

これをちょっと変形して二乗すると、(距離)2=(光速度×時間)2 になります。

時間の項を移項すると、(距離)2-(光速度×時間)2=0 ですから、 時間の前にマイナスがついて、しかも右辺は0です。

位置や時間の基準はどのように取っても構いません。電磁気学とニュートン力学の齟齬がでてくる、 お互いの速度の差が光速度に近い場合でもこの関係は崩れません。 この拡張されたピタゴラスの定理の計算結果が0以外の四次元的距離の値となる場合でも同じです。 つまり (距離)2-(光速度×時間)2=四次元的距離 です。

というか、この四次元的距離が変わらないように座標軸の取り方を変換するものがローレンツ変換ということになります。

こういった形の等式が成りたつ、時間の成分まで含めた四次元的ベクトルについての理論が特殊相対性理論だということになります。 時間と空間をいっしょに扱うから時空間と言うのですね。

位置が変化しない場合、 -(光速度×時間)2=四次元的距離 となるので、 時間と四次元的距離の平方根が比例することがわかります。 つまり、時間の経過を四次元的距離の平方根を使って計ることができるということになります。

四次元的距離の符号修正して平方根をとり光速度で割って時間の単位になおしたものを、 それを計算している立場の人にとっての時間と考えて固有時間と呼びます。

周囲でどんな風に時間が流れていようが、観測している人にとっての主観的な時間は決まってしまいます。 ところが、止まってる人にとっての四次元的距離と動いている人にとっての四次元的距離は同じになる、 というのが拡張されたピタゴラスの定理の意味なので、 四次元的距離=-(光速度×時間)2=(移動距離)2-(光速度×移動してる人にとっての時間)2 となるので、 止まっている観測者から見た動いている人の位置と時間の座標の目盛の大きさは、観測者にとっての座標の目盛の大きさとは違ってきます。

この議論をそのまま進めましょう。

動いている人も、その人自身は自分がいる立場では止まっているのと変わらないので、 止まっている人と動いてる人のお互いが経験してきた主観時間は同じはずです。

ところが、どっちが止まっていてどっちが動いているかは、どちらを主体として考えるかによって入れ換わってしまうので、 片方が等速運動をしたままどこかへ行って戻ってきたときに、 計算上は時計の進み方がお互いに入れ換わっているという矛盾した結果が出てしまいます。

これが有名な双子のパラドックスですね。

この話のミソは移動してる人は止まっている人と完全に同じではない、ということです。 行って帰ってくるためには方向転換しないといけないですから、行きと帰りでは動きは別の時計の進みになります。

この折り返し点は不連続になってしまうのですが、この方向転換をしてるあいだに止まっている世界との「同時線」が変化してしまって、 止まっている人の時計が不連続に変化します。止まっている人の時計が一挙に進んだように見えます。 結果、行って帰ってきた人の時計の進みは止まっていた人の時計の進みよりも遅くなります。 止まっている人から見た場合、止まっている人から見た動いてる人の時計はゆっくりとしているので、 結果として時計の進みはどちらの立場でも一致するようになります。

不連続にしないように、少しづつ方向を変化させたとしても結果はいっしょです。 そのちょっとした方向変更のあいだに進む時間が変化します。変更するたびに時間の基準が変更になるからです。

いやはや長い道程でした。

ところが、実は大きな天体の中心付近のように重力の変化が激しいところでは、 重力の効果で時空間が曲がるので特殊相対性理論が使えなくなってしまいます。 そこで一般相対性理論を使って曲がった時空間というものを計算する必要が生じます。

それじゃあ、曲がってる時空間とは一体何か。

球面は曲がっていますが円筒の表面は曲がっていません。

って曲がってるじゃん!

いえいえ、円筒を軸にそって切り取ってのばすと平面といっしょになります。

ところが球面はどこをどう切っても平面と一致させることはできません。 世界地図を位置や方向、面積を正確に保ったまま平面の地図で表すことができないことはご存知でしょうか? どこかを伸び縮みさせる必要がありますよね。これが空間が曲がっている、ということです。

平面は二次元ですが、これを時空に拡張して同じことを考えれば曲った時空間のできあがりです。

一丁上がり。

はい、おしまい。

じゃなくて。

このままだと曲がった時空間と特殊相対性理論との関係付けができないから、特殊相対性理論が成りたつ世界との整合が取れなくなってしまいます。 電磁気学とニュートン力学は光速度よりも小さな世界では特殊相対性理論を使わなくてもニュートン力学のままで良かったですよね。 一般相対性理論の場合も極限として特殊相対性理論になってくれないと積み上げてきた結果が使えないという悲しい結果が出てしまうし、 そもそもそんな理論が正しいと証明することはできなくなっていまいます。

ではどうするか。

球面の場合に話を戻しましょう。

地球全体を網羅するような正確な平面の地図は作れません。でも、範囲を十分に小さくしてやると精度的には問題の無いレベルでの地図ができます。 近所の街の地図を作るのに一々地球の曲率なんか気にする必要ないですよね。

一般相対性理論の世界ではどうすれば良いのか。

十分狭い範囲で特殊相対性理論の成りたつ時空間、つまり等速直線運動する世界の物差しで表現することができる世界。

つまり狭い領域で加速度が生じない状態を作れば良いのです。 そしてアインシュタインはさらに重力加速度と加速しているときにかかる見掛けの力の区別がつかないことに着目しました。

自由落下している状態では加速度を感じないので狭い領域では等速直線運動する世界と区別がつきません。 つまり特殊相対性理論の世界と一般相対性理論の世界の間は重力が介在するのだと看過したのです。

ここで何度もさりげなく強調している「狭い」という言葉が意味を持ってきます。

加速運動しているだけなのは実は一般相対性理論の世界ではありません。

何故か。

加速度を感じている人にとって、周囲の世界は全部一様に加速しているように見えます。 一様に、です。これは実は先の球面の極せまい領域を考えた場合と似た状態になっているのです。 局所的にじゃなくて全体が一挙に加速している状態では、 どこも伸ばしたり縮めたりする操作が必要にならないので曲がっているとみなすことはできません。

対して、重力の中では潮汐力が働くので、ある場所で重力と加速度が釣り合っていても、 他の場所では釣り合いが取れません。それを曲がった空間としてとらえるのです。

というように、実は一般相対性理論による計算というのは大きな領域を一遍に扱うのが苦手で、 時空を少しづつ貼りつけ貼りつけしていくものになります。

例外は強い対称性がある場合になります。 どっちの方角を見ても一様だという世界は球対称であるというのですが、その場合は計算がかなり楽になって、 一般相対性理論の厳密な結果のひとつとして極初期に求められた解が存在します。 いわゆるシュヴァルツシルト解と呼ばれるもので、それによって帰結される状態がシュバルツシルトのブラックホールというわけです。 シュバルツシルトのブラックホールが成立するためには球対称でないといけません。 球の場合中心があるわけですが、その周りで高速に回転している場合はシュバルツシルト解じゃなくてカー解という別の厳密解になって、 それの結果出てくるのはカー・ブラックホールになるので、性質がシュバルツシルト・ブラックホールとは違ったものになったりします。

もうひとつ有名な解が存在します。こちらはかなり大雑把な近似をしないといけないのですが。

宇宙が均一だと仮定して、時間とともに変化すると考えたとき、宇宙全体を表す解ができます。ド・ジッターの宇宙と呼ばれるものです。 相対性理論は本当は時間と空間を区別してはいけないのでかなりずるをしたことになりますが。 この宇宙の時間経過による変化は、つぶれるか一定の大きさのままか、大きくなって発散するかのどれかになります。

アインシュタインは宇宙が時間とともに変化するのはおかしい、と、一般相対性理論の式にひとつのパラメーターを導入しました。 いわゆる宇宙項というやつです。一般相対性理論の方程式はアインシュタイン方程式というのですが、 曲がった空間を記述する数学的手段であるリーマン幾何学の手法で厳密に求めることができます。 (質量やエネルギーがあるところ以外は。。) この宇宙項も実は理論的には普通に入るものだったりします。 そして現実の宇宙では宇宙項は宇宙を一定にするほどの影響は与えてなかったわけですね。

一般的には、私たちのこの宇宙は膨張していると考えられています。

もし宇宙が膨張していなくて永久に無限遠まで存在しているとするなら、 宇宙のあらゆる方向からやっている光によって空がとてつもなく明るくなってしまいますが、現実はそうではありません。 有限な過去から出発した、有限の範囲内の光の量は有限ですから宇宙が光で覆いつくされることはありません。 そして過去の時間が無限で無いということは、どこかに時間のはじまりがあることになります。 遠くの天体の速度を見ていると、全ての天体が遠ざかる方向の速度を持っていることがわかりました。 そのことから宇宙は膨張していると結論付けられています。

膨張している宇宙を過去にたどると宇宙は一点まで縮まってしまいます。

宇宙はある瞬間に発生して、時間とともに膨張している。

これがビッグバン理論ですね。

一応言っておきますが、ビッグバン理論によって説明できる物事が多いのでそれが確からしいと考えられているだけで、 宇宙はやっぱり定常的に変化しないのだ、という理論のもとに研究を続けている人もいます。(今もいるかわかりませんが。。。)

それとここでは当然のように特殊相対性理論が正しいとしていますが、相対性理論は常に検証を続けられていて、 それが正しいという結論を確認され続けています。

最近はあまりいないのかな? 相対性理論は間違っているという理屈に立つ人の中に、 特殊相対性理論の直接の契機となったマイケルソン・モーリーによる光速度一定の観測実験が、 彼等が行った実験だけだから偶然にすぎないのだ、と言う人がいたのですが(いたんです!)、 一回だけどころか、今ももっと精密な条件下で検証が続けられています。そういうもんなんですよ。

あと、今回は触れてないのですが、特殊相対性理論を扱うということは電磁気学を使うということになるので、 ミクロの世界の量子論で電荷を扱うときには必然的に特殊相対性理論と矛盾しない理論が求められます。

今のところそれらの検証に相対性理論はパスを続けています。

でも、宇宙の始まりの一点とか、ブラックホールの中心のような極端な場所では特殊どころか一般相対性理論の計算もおっつかないとされています。

そして、さらに重力の理論と量子論を一体化することにも成功していません。これが難物で、 今の物理学の先端で有名なのはこの重力と量子論の統一の話だったりするのですね。

さて、今回は腹いっぱいですね。

私もいっぱいです。

最後はかなり駆け足になってしまいました。どだい数式も無しで一般相対性理論を精確に説明しようというのは無理はわけですから。

というわけで、私の説明をそのまま書いても例によって無駄ですよ。

レポートにコピペなんかしてバツをもらっても当方は責任を持ちませんよ。

ということでおあとがよろしいようで。