ブックレビュー

   
現在(2000/9月時点)の最新刊

『巡洋戦艦<ナイキ>出撃!』
<紅の勇者オナー・ハリントン3>

デイヴィッド・ウェーバー著
矢口悟訳、2000/6/30刊
渡邊アキラ絵

上:ISBN4-15-011314-9 C0197
下:ISBN4-15-011315-7 C0197

レビュー:[たかお]&[雀部]

ハヤカワ文庫SF 各660円 各巻の粗筋紹介
設定:
 オナー・ハリントン。 シリーズ開始当時、マンティコア宇宙軍中佐に昇進と同時に軽巡洋艦<フィアレス>艦長に就任。 地球年齢40歳。 ただし平均寿命300年におよぶ長命処置のおかげで二十歳前に見える。 東洋系の母親ゆずりのアーモンド形の瞳のエキゾチックな美貌を持つが、長命処置に伴う成熟の遅れによる「醜いアヒルの子」コンプレックスを持ち、自分の美貌に気付いていない。
 オナー・ハリントン・シリーズはそんな美貌の若手女性士官の活躍を描くミリタリーSFだ。 「紅の勇者」というサブタイトルが付いているけれど、紅というほど猛々しくはない、成熟していて、自分の技能・能力に自信を持ち、ふだん物静かだけど時に激しい、炎のイメージでいえば蒼炎色だろうか、とにかくひたすらカッコいいのである。 


[雀部]  今回《オナー・ハリントン》シリーズを紹介して下さるのは、ご自身が原書でこのシリーズを読破されているという頼もしいたかおさんです。よろしくお願いします。
 たかおさんは、どういうきっかけでこのシリーズがお好きになったのですか?
[たかお]   わたしがオナー・ハリントンと出会ったのは去年の夏、新刊当時から気になってはいたのだが、遅れ馳せながら古本屋で発見して購入。 「コイツはまさか死なないだろう」と思うような登場人物までがバタバタ死んでしまう悲惨さにメゲつつも、何故かハマってしまったのでした。
[雀部]  ですね。ネタバレになるから詳しくは書けませんが、一巻目からその傾向はありましたね。
 では、たかおさんから見た、このシリーズの魅力について教えて下さい。
[たかお]  よく言われているように、このシリーズの魅力は、戦闘のもとになる兵器類や物理法則などの緻密な設定と、それによる宇宙艦の戦闘場面の描写のリアルさが第一なのだろうが、他にも色んな魅力が渾然一帯となっている。 以下、ランダムに揚げてみると、

・同世代で随一の戦略・戦術を誇るオナーの作戦行動の「銀英伝」に通ずる痛快さ
・身長188cm、1.35Gの惑星生まれの体力と反射神経に加え、格闘術7段の腕前に物をいわせた  人間くさい戦いで見せる、スーパーウーマン的な痛快さ
・オナーと感情結合していて、いつも一緒にいるトリーキャットのニミッツとの細やかなやりとり
・人間並みの知能と感情感応能力を持つが、言葉を喋れないために常に知能を過小評価されているトリ ーキャット。6本足のしなやかな体躯、鋭い牙とツメ、自由自在に動く尻尾を持つ、彼らの種族の魅力 
・敵方の人間を含めて、魅力あふれる多数の登場人物
・登場人物のテンポのいい会話の面白さ

[雀部]  ニミッツ君は、各巻の上巻の表紙には必ずオナーと共に登場してますね。なぜか下巻の表紙には登場してませんが。(各巻の表紙画はこちらから)
[たかお]  現在までに日本で刊行されている3巻も十分面白いのですが、5巻目の後半あたりから急速に面白さが増してきて、8巻目の「Echoes of Honor」で最高潮に達します。 これは本当に最高傑作で絶対のおすすめです。
[雀部]  お、そうなんですか。それは今から楽しみですねヽ(^o^)丿
[たかお]  それでは、未訳の4巻目以降を原書の巻末のキャッチコピーから紹介しましょう。邦題はわたしの無責任かつ勝手な予想です。
[雀部]  では、お願いします。
[たかお]  4巻 「Field of Dishonor」(決闘場での対決)
  オナーはマンティコアに帰還する──生命をかけて、慣れない決闘場で個人的な戦いに挑むために。その戦いの結果は二つしかない。死か──それとも、不名誉と彼女の愛するすべての喪失をもたらす「勝利」か....。
 (補足)政治的影響力によって辛くも処刑を免れたパヴェル・ヤングがオナーに復習を企てます。 オナーは正義を求めてヤングに挑戦し、古風なオートマティック拳銃での決闘にのぞむのです。 この巻でオナーは一時的にグレイソンに赴き、正式にハリントン封領主に任ぜられます。
[雀部]  ぎゃ、あのヤングが、また登場するんですか。それは頭痛の種だなぁヽ(^o^;)丿 
[たかお]  5巻 「Flag in Exile」(超弩級艦出撃)
  敵対敵政治勢力に半給休職に追いやられたオナー・ハリントンはグレイソンに移り住む。 そこでは強大な敵が彼女のもたらした世界変化を逆転しよう陰謀を企てていた。 その陰謀を成功させるためにはオナー・ハリントンは死なねばならないのだ。
  (補足)領主としてハリントン封領を統治するかたわら、オナーはグレイソン宇宙軍の大将を拝命します。 グレイソン国内に保守反動勢力の陰謀が渦巻く一方、ヘイヴン人民共和国の再度の大侵攻が迫ります。 オナーは超弩級艦艦隊を率いて、ヘイヴンの大艦隊に立ち向かうのです。
[雀部]  5巻では、ついにオナーが大将になるんですね。やったぁ(^^)v
[たかお]  6巻 「Honor Among Enemies」(サイレジア連邦の戦闘)
  半給休職を返上し再び軍艦を指揮する機会を与えられて、オナー・ハリントンは軍全体から寄せ集められた最低の人員を指揮し、商船略奪に跋扈する海賊を阻止するために戦うことを余儀なくされる。 敵対勢力は彼女の派遣任務を注意深く選択した。 海賊を撃退するか、逆に殺されるか、どちらになろうと彼らにとっては勝利なのだと考えて....。
  (補足)今回のオナーは武装した偽装商船を率いて、サイレジア連邦へ海賊退治に出撃します。 武装は強大ながら、元が商船なだけに脆い防御と足の遅い欠点、問題の多い乗組員を抱えて、どう戦うか。 敵は海賊だけかと思いきや、通商破壊を企むおなじみのヘイヴンの他、意外な敵も登場します。
[雀部]   ふ〜む、前門の虎、後ろ門の狼というわけですね。
[たかお]  7巻 「In Enemy Hands」(収容所惑星<ヘル>潜入)
  待ち伏せで捕らえられ、オナーは敵の巡洋艦に乗せられて、定められた処刑の地に向かう。 だが、ギブアップすることをオナーが学んだことはなかったのだ。
  (補足)輸送船団を護衛して前線から遠く離れた星系に進入したオナーですが、意外にも星系は敵に占拠されていました。 輸送船団を逃がすためにオナーの艦はオトリになりますが、ヘイヴン艦の待ち伏せに遭い、投降を余儀なくされ、死刑囚として収容所惑星<ヘル>に送られることになります。 実はオナーの脱出は二段階になっていて、本巻では囚人護送船を抜け出して<ヘル>に密かに潜入するところで終わります。
[雀部]  いよいよ、7巻は、戦時捕虜になったオナーの不屈の闘志が見ものというわけですね。
[たかお]  8巻 「Echoes of Honor」(収容所惑星からの脱出)
 "Brilliant! Brilliant! Brilliant!"──アン・マキャフリイ
  (補足)ブリリアントとしか言葉がないのでしょう。 強襲シャトル2艇と20人弱の仲間で<ヘル>に潜入したオナーは惑星中に散らばる囚人を組織して、<ヘル>脱出を目指します。 メインの脱出劇の息もつかせぬ面白さに加え、「グレイソン攻防戦」で登場したトルーマン大佐のハンコック星系での攻防戦、オナーの母親のグレイソンでの活躍などのサイドストーリーも楽しい、ペーパーバックで718ページの大作です。
[雀部]  なるほど、8巻の脱出劇が、たかおさんの一番のお薦めですね。
 オナーの母親がかつやくするとなると、もしかして色仕掛けだったりしてヽ(^o^;)丿
[たかお]  9巻 「Ashes of Victory」(オペレーション・バターカップ発動)
 オナーは収容所惑星<ヘル>から脱出しマンティコア同盟に帰還した。 そこでは、新兵器、新戦略、新戦術、スパイ、外交、そして、暗殺の企みが灼熱の炎の塊となってオナーを待ち受けていた。
  (補足)兵器類の研究開発がようやく実を結び、艦隊戦で圧倒的な優位に立ったマンティコア同盟軍はついにヘイヴンに対して決定的な打撃を与えるべく作戦を発動します。 この巻でオナーは、脱獄は不可能と言われた収容所惑星<ヘル>から、40万人に及ぶ囚人を引き連れて帰還した功績によりマンティコア宇宙軍史上初の大将へ3階級特進し、同時に公爵に叙せられます。 オナー54歳、シリーズ開始から14年が経過しています。

 ヘイヴン人民共和国との戦争は一応終了しました。 これから、物語がどこに向かうのか。 アンダーマン帝国か太陽系同盟との抗争が勃発するのか。 ある程度の時間をおいて、トリーキャットと感情結合した、ベンジャミン9世の長女レイチェルとか、オーエンス封領主の愛娘でグレイソン初の女性士官候補生アビゲイルとかの気になる次世代の人物が成長して登場するのか。
 来年秋に予定されている続巻が非常に楽しみです。

[雀部]  ヘイヴン人民共和国に勝利しても、まだ後が控えているんですね。オナー大将も休む暇が無いわけで話がどんどん膨らんでいきますね。
[たかお]   さて、翻訳が待ちきれないあなた、ちょっと原書を覗いてみませんか。
 オナー・ハリントン・シリーズのアメリカの出版元 BAEN 社では、ネット出版も手がけており、フリーサンプルがウェブで公開されています。
 アドレスは   http://www.baen.com
 
デイヴィッド・ウェーバー関連では、
  ・Echoes of Honor (プロローグ〜第24章、全体の約半分)
  ・Ashes of Victory (第1章〜第11章、全体の約1/4)
  ・Worlds of Honor (アンソロジーの中の1編、「The Hard Way Home」丸ごと、これは「グレイソン攻防戦」で登場した海兵隊スーザン・ヒブソン大尉が12歳の時のアッティカ・スキーリゾートでの大雪崩にまつわる冒険談で、オナーも重巡洋艦の副長として登場し、救助に活躍します)
  ・The Apocalypse Troll (これはオナー・ハリントン物ではない単発のSFですが、99年に出版されたばかりなのに、何故か全体丸ごとが公開されています)

 その他、マイルズ・ヴォルコシガンのファンには嬉しい、最新刊
  ・A Civil Campaign (第1章〜第10章、全体の約半分、マイルズが未亡人のエカテリンに求婚する騒動を中心に、楽しさゴッタ煮のコメディで、前半だけでも十分楽しめると思います)
 など、たくさんの作家の作品サンプルが公開されています。

デイヴィッド・ウェーバー氏の近況報告 各巻の表紙絵と粗筋
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員
ホームページは、http://www.sasabe.com
[たかお]
札幌在住。 地場の弱小ソフトハウスの窓際に棲息。趣味は商品相場のささやかな博打。 酒の自家調達を目指し、現在ビール、どぶろくを醸造中。
E-mail: mitakao@pp.iij4u.or.jp

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