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Bookreview


レビュー:[雀部]&[おおむら]&[白田]&[モズ]

夏のロケット

ISBN 4-16-318020-6 C0093

川端裕人著

文藝春秋社 1762円 1998/10/10
 科学部担当記者の高野は、都内で起きた過激派によるミサイル製造過程での爆発事故を取材するうちに、ある違和感を抱く。そのミサイル制御用の噴射板の形を昔観たことがあったからだ。かつて高野たち五人の高校生は、天文部に入部後、ロケット班を自称しモデルロケットの打ち上げに熱中する。卒業までに周回軌道にロケットを打ち上げようと目論むが、それは散々な失敗に終わっていた。

5人のロケッティアたち:
ぼく<高野> バイキング火星着陸に憧れ宇宙好きに。大学の卒論のテーマは「火星文学の系譜」。卒業後、新聞社の科学担当記者となる。
北見 押しの強い体育会系。大学時代はボート部。卒業後、一流商社に入社。宇宙事業本部に配属される。
日高 独断的で協調性のない性格。大学では工学部航空宇宙学科を専攻。修士終了後、宇宙開発事業団の研究者となる。
清水 物作りが好きな職人肌。大学は材料工学を専攻。修士終了後、大手特殊金属メーカーの研究者となる。
氷川 高校時代の成績はトップクラスだったが、卒業後、コンテストで優勝してロック・ミュージシャンになりミリオンセラー。
独断と偏見のお薦め度:☆☆☆1/2
 第十五回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞作品
 帯に、異色の理系青春小説とあります。
 基本的には野尻さんが『ロケットガール』でやっていることを、高校時代の仲間たちと一緒にやるお話。ロケットの技術的描写は、野尻さんと同等かなぁ(判断できるほど、私が詳しくないもんで)それとも『月を売った男』に対するオマージュかも知れませんね。
[雀部]  さて、今月のブックレビューは前月に引き続きの《ロケット・ガール》と『夏のロケット』です。ではよろしくお願いします。
[白田]  12号のブックレビューを見て読みました。いや、いいですねぇ。
 なにがいいかっていうと、まず今の宇宙開発の現場では絶対にありえない、それでいて、理論的にはありえそうなシチュエーションのかたまりなところですね。
 行きあたりばったりな飛行計画、どことなくけだるげなスタッフたち、本番の直前でのスペック変更、それに反抗してのハンスト、今どきやらないぞという無茶苦茶な訓練(普通死にますって^^;;;)。
 まあ、今の NASDA や ISAS は言うにおよばず、NASA やロシアもああは行きませんって。
[おおむら]  まあ、それに近い事件が、最近の*例の*宇宙旅行者の一件でしたが、ロシア以外の各国は事後に至っても難色を示していたし、ロシア自体も当面は宇宙旅行者を出さない方針だということですしね。
[雀部]  私は、もっと民間の力を利用すべきだと思うんですが。宇宙開発にお金は幾らあっても十分と言うことはないし(笑)
[白田]  そのひとつの理由が、宇宙開発が完全に官営であるということがありますよね。まあ、予算の立て方に各国の色があるのでなかなか一概には言えませんが、ひとつの計画をそう簡単に変更することはできないし、あんなにお気楽極楽に物事をすすめることもできはしないでしょう。
 まあ、作中でも、まがりなりにも人間を宇宙にあげるということから、それなりの緊張感はありましたけどね。おそらくは民間の団体であることが、この作品でのキーポイントになると思います。
[モズ]  そそ!私ら「宇宙」へ行く=国家のすること、ってな思い込みがおましたんでえらく新鮮でございました。あんな展開になるなどとはついぞ思いませんでした。
[白田]  夏のロケットの方でいみじくも、ロケット開発の黎明期にはむしろ個人による開発の方が主体であったということが書かれていましたが、こちらはなんと民間企業ですからねぇ。ちょうど民間に宇宙開発がシフトしつつある現在だからこそ、なおさらリアリティがあるのかもしれません。
[おおむら]  もちろん、多くの偶然と、御都合主義な設定(超効率の高い固体ロケットや、それこそスペオペの世界からぬけだしてきたような宇宙服など)もありますが、そこはせんすおぶわんだーというもの。とやかく言うようなやぼなまねをするべきではないでしょうね。
[モズ]  ええこと言いまんなあ!
 「せんす・おぶ・わんだー」
 これでっせ!これ!昨今のSF映画なんざ、CGで遊ぶばっかでセンスもなんもあらしません!読み物でもそうでっせ!リアルなんはええんですけど、フェイクの香りがちょっとあるからこそ、くすぐられるんやし、そのフェイクをいかに、リアルっぽく見せて観客や読者を納得させることができるか?っつうのが作り手、書き手の腕のふるいどころでもありまさあね。
[おおむら]  私は映画の方は詳しくないのですけど、昨今のSFX重視の風潮はどんなもんかと思いますよね。そこにフィロソフィーがないと、芸術が爆発して終りになるだけだというやつで。
 半ば公営とはいえ、一企業が有人ロケットをとっとと打上げてしまう。そこにも、この話のおもしろいところがあるのかもしれません。
[雀部]  モズさんにお聞きしたいんですが、《ロケット・ガール》は、ペイロードという観点から言うと、体重が軽くしかも知能的には大人と変わらない女子高生をパイロットにというのが、一番の売りだと思うんです。で、宇宙飛行士を女子高生にした場合の宣伝効果といいますか、世間に与えるインパクト、またそれを利用するであろうスポンサーに対する受けは、どの程度見込めるもんなんでしょうか?
[モズ]  近所にもいそうなオンナのコがパイロットになるんでっせ! 宣伝効果なんてもんやあらしません。女子高生市場はもとより、予備軍である女子中学生、小学生、に与える影響たるや、おそらく、天下の広告代理店でも計算するのは不可能ではないでしょうかねえ。それに、オトコのコたちとか、もっといえば、ややあぶないかもしれませんが、オヤジ系まで市場は広がるんではないでしょうか?
[雀部]  では、もしモズさんが、この女子高生をパイロットにという案を「女子供には安心して任せられん」と渋るクライアントに納得させるためには、どういう方法取られますか?(笑)
[モズ]  先に申し上げたとおりでありまっす。
 でも、「女子高生」という単語が持つフィルターをどこまで軽減することができるか?これは、かなりな難作業ではあります。体力、知力、経験、等々、ネガティブなエレメントが多すぎますもの。しかし、新鮮、未知、とかの単語で表現できるポジティヴな部分は、最大限に活用できる!と思います。さらに、実現した場合の費用対効果、市場に与えるインパクト、はたまた、裾野効果なんぞを視野に入れると有形、無形の莫大なマーケットが誕生することになり、ある意味、実に、おいしいのだぞ!と説得しますな。これに、のってこないクライアントさんなら、こっちゃから、ばいちゃ!(笑)
[雀部]  民間で宇宙関連の事業というと、果たしてペイするもんなんでしょうか?
[白田]  一度事業が軌道に乗ってしまえば、結構おいしい事業なのかもしれません。現実でも、日本には有人宇宙*旅行*をおし進めている企業があるのですが、以前その計画を聞いた限りでは、とらぬたぬきの皮算用という感がありました。まあ、そこに失敗のリスクが入ってないというせいもありましたが。事故もなく、スケジュールの遅延もなく打上げがなされて、乗客もコンスタンスに集るという条件のもとでしか、今の計画は成り立ってないようです。
[モズ]  某茶色清涼飲料水の「数分間の無重力体験=宇宙旅行」も、当選者さんは、待ちぼうけらしいですもんね。でも、全員、搭乗希望!ってところがモズにはこたえられませんでしたな!私も「宇宙」から大阪の京橋見てみたい!
[おおむら]  ああ、あれ全員搭乗希望だったんですか。それは知りませんでした。うん。でもそれなら結構捨てたもんじゃないな。
[白田]  もうひとつ、私が個人的に楽しんだのは、ブックレビューにもありましたけどディテールの細かさですね。シーケンスのひとつひとつがリアルに書き込まれてるのがよかったです。それに、上でも書いた、今のうう宇宙情勢では絶対ありえないシチュエーションというのがかえってよけいに痛快に思えてきました。
 宇宙開発はかなりの長期スパンで見なければいけないものなのですが、それをひとっとびですっとばしてしまうようなところがおもしろく感じられるところでした。是非とも関係者に読んでもらいたい本ですね。
[おおむら]  ちなみに、続刊でのむっちりむうにい氏のカットもいいが、個人的には山内則康氏の絵の方が好みだったりする。表紙の絵につられて買ってしまったのはここだけの話 ^^;;;
[白田]  さて、夏のロケットの方ですが、なんといいますがか最初に読んだ時の感想は、おっとなぁ、という感じでした。直前にロケットガールを読んだのが効いてるみたいです。ただ、現実に専門知識が十分にあるアマチュアになら実現が可能かもしれないというところに興奮させられるものがありますね。
[モズ]  ほう。読む順番が違うと感想もちゃうかもしれませんですねえ。私、こっちゃのほうを先に読んだもんで、T.K.さんを彷彿とさせる大物プロデューサーになった登場人物も資金調達面での協力者であり、そして・・・ちゅうあたりが、なかなか現実的でしたねえ。ただ、私なんざ、モデルロケットを打ち上げることぐらいが夢であるフツーの「宇宙好き」ですゆえ、描写されているハード面の書き込まれた内容が妙にくすぐられました。そんなこともあるかもなあって。こういう感覚を導き出してくれるって、大切なんやないかなあ。
[白田]  どうにも、宇宙関係の仕事についてると、普段の仕事に新鮮さがなくなってしまうものなんですよ。いろいろとしがらみみたいのもありますしね。
 でも、そういうしがらみの部分もこの本の中ではちゃんと説明されてるんですよね。そういうところがまたリアルなところなんですよ。そういえば、作中モデルロケットの民間の団体がありますが、本物のモデルロケット協会もあれと同じようなことやってたりします。ロケットのモーター(エンジン)の火薬関連の法規制の緩和とか、モデルロケットの講習会とか、モデルロケットの打上げの大会みたいのとか。
 まだ協会が立ち上がってまもないころに、協会の会長さんにお会いしたことありますが、まあ、さすがにトップスターな人ではありませんでしたが ^^;;;
 登場人物達は、ロケットを打上げようという動きをしつつも自分の仕事というのを別に持ってるんですよ。仕事に折り合いをつけてる人もいれば、ドロップアウトした人もいる。それぞれの利害の中で彼らの高校時代からの夢をかなえるためのステップを踏み出すところがなんとも。
[モズ]  そうそう。複数の主人公がいる、とも言えますんで、映画の専門用語で言うところの「ホテル」形式。それぞれの思いが錯綜してて、人間関係もおもしろい。高校時代のピュアな感性が大人になってからも継続できるんか? っちゅうような・・・ちと、誉めすぎ? 話が前後しますけど、民間のそれも、ごくごく「マニア」たちが集まればひょっとしたらホンマに可能かもしれん、と思わせてくれるところが素人のロケット好きにはこたえられませんでした。
[白田]  そうですね。あのマニアな人たちの何人かは、宇宙関連の仕事をしながらも、それに満足しないで、マニアな手段でロケットを飛ばそうとしてるんですよ。そこのところがもう、こたえられないですよね。
 むう、自分たちにもできるのではないのか? みたいなところがよいです。でも、マニアなだけじゃなくて、彼らはそれだけの行動力があったんですよね。資金はロケットとしては破格な価格でありながらも、それだけの技術力や視点を持った人たちが集ることで、ひとつの奇跡をなしとげたという感じもありました。
[モズ]  ホントに、あのロケットで、人間一人を「宇宙」と呼ばれる空間に持ってけるんですか?
[白田]  可能だと思います。
 ただし、あのロケットではかなり信頼性を犠牲にしてますけどね。宇宙に持っていくことは可能ですが、そのかわり、かなり危険な賭けになるでしょう。可能は可能です。
[モズ]  おお、そうなんや! そっかあ、民間もがんばればできるんや!
[雀部]  個人でロケットというと、真っ先に思い浮かぶのはハインライン。『宇宙船ガリレオ号』は、まさにバックヤード・ロケットだったし「月を売った男」は民間企業ベースの月開発の話でしたね。アメリカでは、そういう話が受け入れられる土壌ができていると思うのですが、日本ではなぜダメなんでしょう?
[白田]  アニメの功罪というやつでしょう。ヤマトやガンダムでとにかく宇宙への夢はあるものの、アニメという媒体での流行によって、それが非現実的な夢という感覚で終ってるのではないかと思います。
 夢は夢でしかないという気持があるので、夢と現実をつなぐ宇宙開発にも、どこかうさんくさい物を見るような感じがあるのかもしれません。
 ひとつ、ものすごくうれしかったのは、彼らがマスコミ関連の人を仲間に引き入れていたことです。どうにも、日本では宇宙開発はマスコミからたたかれることの方が多いですからね。
 まあ、実際のところでは、結局のところ外野からは犯罪者あつかいされてたたかれてたわけですが、もしかして、そのあたりは作者によるマスコミの戯画になってるのでしょうかね。
[雀部]  そう、たぶんカリカチュアでしょうね。川端さんの第二作は『リスクテイカー』というコンピュータで株の動きを予想して儲けるという話ですね。これにも、マスコミを利用し尚かつ出し抜くという場面が出てきます。
[白田]  順序が逆になりましたが、この本の冒頭の部分。これもまた一体これからどういう話が展開されるんだという感じでどきどきさせられました。
 フライ・ミー・トゥー・マーズ という曲が出てきますが、一瞬そういう曲が本当にあったのかと思ってしまいましたよ。
 どうしても、この手の作品ではフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンという曲は大きな存在になるのでしょうか。
♪私を月に連れていって。星々の間で遊ばせて。
[雀部]  冒頭ねぇ。なんで過激派が出てくるんじゃ〜という感じでしたもの。
 あと、ロケットの噴射版に関する蘊蓄には痺れました。あれこそオタクの花道でしょうね(笑)
 さて最後になりますが、皆さんは日本の宇宙開発はどういう方向に進んでいって欲しいでしょうか。あるいはどうあるべきだとお考えでしょうか?
[おおむら]  とりあえずはロケットがとっとと打上げられるような環境が早く整って欲しいですね。
 それで早く一般の人が宇宙に行ける時代が来て欲しいです。
 それによって社会の考えも変ってくるんじゃないのかなぁ。
[白田]  やはり社会的な基盤が整ってくれることを期待します。日本人ひとりひとりが宇宙開発に興味を持ってくれて、それで、失敗にももっと寛容になってくれないことには、まだこれからも先、宇宙開発は亀の歩みを続けていかなければならなくなることでしょう。
[モズ]  さらなる国産化。これにつきます。
 全国紙の1面に、宇宙旅行計画が掲載される時代です。科学探査の分野は無論のこと、それらを支える費用捻出の部分で、ごくごく「普通の人々」がたとえ、数分間でも「宇宙」と定義されるエリアで、至福の時間を過ごせるようになってほしい!と痛切に希望します。わし、いきた〜い!乗り物酔いしまっけど(爆)
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[おおむら]
同人作家。ホームページは http://www.t3.rim.or.jp/‾yutopia/
[白田]
白田英雄:謎の宇宙関係者。
日本宇宙開拓史をアニマソラリスに連載していた。
魔法物語とヤーヴェイの翻訳も担当している。
[モズ]
元不良中年。現お手本中年(笑)。ほんまか?
広告業界に棲息。WEB系テクニカル・ディレクター。
映像系プロデュースも手がける。 現在、休筆中であるが近々、爆烈する・・・らしい。
NASA好き、宇宙好き、おねーちゃん、もっと好き!


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