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BookReview

レビューア:[雀部]&[彼方]

『星の、バベル(上)』
> 新城カズマ著/田中比呂人画
> ISBN 4-89456-944-2
> 角川春樹事務所
> 680円
> 2002.1.18発行
 南洋のメソネシア共和国で、やむなく体制派とゲリラ組織の橋渡しの役目を仰せつかったドクタこと高遠健生は、絶滅危惧言語を研究する若き言語学者でもあった。
 日本の環境保護団体の記者から空港に到着したという電話を受けた高遠は、迎えに向かった空港で、その記者が眼鏡の女子大生然とした女性と知り驚くのだった。
 時刻を同じくして、和平へと向かうはずだったゲリラ組織の仕業と思しき爆弾テロが勃発し、旧友チャーリィの不可解な電話に導かれ、彼の自宅に赴いた高遠は、旧友の死体と直面する羽目に……

『星の、バベル(下)』
> 新城カズマ著/田中比呂人画
> ISBN 4-7584-3008-X
> 角川春樹事務所
> 760円
> 2002.9.18発行

SF的なネタの豊富さがたまりません

雀部 >  う〜、良かったなあ。なにげにコアなSFの雰囲気があって。
彼方 >  良いでしょ、コレ(^^;。
 ぢつは、これ、あまり期待しないで買ったんですよね。表紙イラストはOVAのネオランガそっくりだし、オビもいかにもなコピーだし、作者も良く知らなかったし(^^;。その時は、読む本が無かったから、いかにもなコピーに騙されるつもりで買ったけど、大当り。
雀部 >  赤道直下ミクロネシアのちっぽけなメソネシア共和国。その島々だけが舞台にもかかわらず宇宙の広さを感じさせると同時に、遙かな時の流れにも思いを馳せるという展開でした。
彼方 >  のんびりした南の島で(本編が主人公のうたた寝で始まるSFってのも、なかなかないんじゃないかと(^^;) 物語が始まって、古代から連綿と続く歴史や宇宙空間まで話が広がって、地上では爆弾テロに始まり、内乱やら、火山の爆発やら、ジェットコースターアクションだけでも楽しめるんですが、そこにちりばめられているSF的なネタの豊富さがたまりません。
雀部 >  若い言語学者が、ひょんなことから、体制側とゲリラ側の橋渡しをしているという設定もなかなか良かったっす(^o^)/
 それと、新城さんは、絶対にSFも良く読まれていると思います(笑)
 まあ、展開的にはちょっと詰め込みすぎかとも思いますが、色々出てきますね。
彼方 >  主なところで、 絶滅危惧言語・DNA/遺伝子・ウィルス生命体・地球外生命体その他諸々、ひとつの作品でこれだけ多方面のネタを詰め込んであるのも珍しいのではないかと。
雀部 >  太平洋限定版ワイドスクリーンバロックとか(爆)
彼方 >  バロックかなぁ。南西部環太平洋科学小説福袋てな感じかなぁ。どうも、主人公の言動からすると、ワイドスクリーンバロックって感じじゃ(^^;。

巻末の参考文献も多岐に渡って凄い量ですからね

雀部 >  著者履歴には年齢不詳としか書かれていないのですけど、ある程度経験を積まれた作家の方なんでしょうね。他の作品も読んでみたいです。
彼方 >  bk1で検索してみたら、富士見ファンタジア文庫とかで書かれているみたいですね。初めて知りました。なんで今まで気がつかなかったんだろ(^^;。
雀部 >  公認ファンクラブ『散歩男爵』とご自身が取締役をされている架空世界製造業社の(有)エルスウェアがあるようです。
 なるほどゲームデザイナーのお仕事もされているから、物語背景の構築なんかはお手の物なんですね。
彼方 >  いろんな事されてますねぇ。他の小説に較べて物語のリアリティさが違うのも肯けます。メソネシア共和国とTLFの関係についても、これだけ詳しく書けるのは、こういったバックグラウンドがあるからなんですね。
雀部 >  事前取材とか文献を当たるとかの調査をしっかりやられているんでしょうね。
彼方 >  巻末の参考文献も多岐に渡って凄い量ですからね。小説で参考文献が載っていることが少ないので、この量が多いのか少ないのかよく判りませんが、見たことがある範囲では、多い方ですし、分野も広いです。必要なところだけつまみ食いするにしても、結構骨の折れる仕事だし、実際これだけの知識ベースを運用していくのは大変なことだと思います。
雀部 >  医学系というか生物学ネタがしっかりしているのに驚きました。物理学・天文学ネタなんかはSFとして基本ですから(言い切って良いのか^^;)それほどビックリしないのですが、生化学とか医学系のネタがちゃんとしている作家の方は珍しいので嬉しくなりました。海外作品にも少ないです。
彼方 >  物理(それも量子物理、ポスト量子物理)・天文と、コンピュータサイエンスは基本です。てのは、おいといて(^^;。
 前に読んだことあるけど・・・。と思ったら、ドクタに言わせると"バイオ・サスペンス・ホラー"でした(^^;。確かに、生化学に焦点が当たってるのは珍しいかも。
 でも、メインテーマでなくとも、ちょこちょことテクニカルタームとかにはお目にかかれるので、なじみがないわけじゃないんですが、むしろ、言語学にも焦点が当たってることに新鮮さを覚えました。

ハルキ文庫にあっている作品だと思います

雀部 >  言語学を絡ませたところは非常にポイントが高いっすよね。コアSFでは『バベル−17』という戦争に特化した言語がテーマの傑作がありますが、少数派ですね。あ、日本では短編ですが森岡浩之さんの「夢の樹が接げたなら」も傑作です!
 ところで、表紙はいかにもジュニア向けのようなんですが、キャラだちという点ではいかがでしたでしょう。
彼方 >  キャラクタに関しては、サブキャラクタの書込みが薄いかなと思わないでもないけど、これだけネタ満載の話を文庫二冊(最近のハヤカワSFなら厚めの一冊)にまとめてるので、まぁ、こんなものかと割りきってます。ほとんど、主人公のドクタが話を進めていってしまうので、気にならないし(^^;。
 キャラだちとはちょっと違うけど、駐在武官のレイモン中佐側の組織と、そのお仕事についてもっと読みたいと思いました。
雀部 >  ドクタは、もう少年少女という歳でもないですし(笑)そういう意味ではコアSFの要素をふんだんに持っている作品ではないでしょうか。
 レイモン中佐の組織は、それだけで一冊の本にできそうですよね。
彼方 >  地道な行動で物語を盛上げていくところは、谷甲州さんの作品を髣髴とさせるのではないでしょうか。
雀部 >  でも、土木系SFとは違うような(笑)
 全身に刺青をしたヴィナちゃんはどうです、萌えました?
彼方 >  ヴィナちゃんですけど、「萌え」というとちょっと好みから外れ気味なところなイラストなので、違うかなぁ(^^;。けど、ドクタの行動に拗ねてみせたりと、かわいいところはありますね(^^;
雀部 >  まあ十四歳でしたっけ?中学生だもんなぁ。
 出版社が、このご時世にSFの出版に熱心な角川春樹事務所だということも関係あるんでしょうかねえ?
彼方 >  ハルキ文庫って、ラインナップの波が激しいんですよね(^^;。
 この作品は、富士見ファンタジア文庫ではないし、かといってハヤカワJAともちょっと違う気がするし。ハルキ文庫にあっている作品だと思います。
雀部 >  デュアル文庫もあるかもしれない。
 ハルキ文庫は、昔のジュヴナイルから、小松左京先生や山田正紀先生のコアSF、さらにジュニア向けまで幅広いですからね。日本の過去の名作SFを復刊してくれているので、足を向けては寝られません。
 私はSFマガジンに載っていてもおかしくはない作品だと思いました。ちょっと違和感はあるかもしれないけど(笑)
彼方 >  小松左京さんといえば、彼方がSFも読むようになった頃は、日本人SF作家の作品が入手しづらかったり、また自分もハヤカワSFばっかりで興味が行かなかったので、『クライシス2050』のイメージしか持っていなかったんですね(^^;。で、ハルキ文庫で初めて『さよならジュピター』『果しなき流れの果に』を読んで、先入観を打ち砕いてくれたという、それだけでも価値ある文庫だと思ってます。
雀部 >  うんうん。ハルキ文庫のラインナップを見ると、ああ日本SFもここまで来たんだなと涙ぐんだりして(笑)
 まあ、出版社によってカラーがあるのは悪いことじゃないですよね。
彼方 >  ハヤカワSFと、創元SFだけではつまらないですからね(^^;。
 やっぱり競争原理は必要です(^^;。
     (以下、ネタバレを含みますので、読了済みの方のみお読み下さい) 続き>>
雀部 >  この本、どういった方にお薦めできるでしょうか。私は、ジュニア小説に飽き足らなくなった―将来のSF者だな(笑)―人に読んで頂きたいです。
彼方    そーですねぇ、ライトノベルとハードSFとの橋渡し的に丁度良い作品だと思うので、普段ライトノベル読んでいる人が、ちょっと違うものを読みたいというのもそうだし、普段からハードSFを読んでいる人達にも、ハードSFにもまだこういう見せ方があるんだと読んでもらいたいですね。


[雀部]
50歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[彼方]
コンピュータシステムのお守となんでも屋さん。アニメとSFが趣味。最近、ハードなSFが少なくて寂しい。また、たれぱんだとともにたれて、こげぱんとともにやさぐれてるらしいヽ(^^;)ぉぃぉぃ ペンネームの彼方は、@niftyで使用しているハンドルです。

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