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BookReview

レビューア:[雀部]&[モズ]&[卓]

『プレイ-獲物-(上)』
> マイクル・クライトン著/酒井昭伸訳
> ISBN 4-15-208486-3
> 早川書房
> 1500円
> 2003.4.10発行
粗筋:
 プログラマーのジャックは、上司の不正行為に気づいたことから会社に解雇され失業中していまい、現在はやむなく主夫している。それに反してハイテク企業ザイモス社に勤務する妻のジュリアは、責任のある地位に抜擢され大忙しの毎日をおくっていた。
 最近になって妻の振るまいが奇矯になったことに気づいたジャックは、妻の服装の趣味や仕草、さらには顔立ちも変わってきたことに驚く。
 折からザイモス社のネヴァダ州にあるナノマシン製造プラントで事故が起こり、その砂漠に流出して制御不能になったナノマシンの基本となるプログラム開発に関与していたジャックは、急遽対策のために呼び出されプラントに赴いたのだったが……

『プレイ-獲物-(下)』
> マイクル・クライトン著/酒井昭伸訳
> ISBN 4-15-208487-1
> 早川書房
> 1500円
> 2003.4.10発行

「画」がアタマの中に浮かんでくる作品

雀部 >  今月のブックレビューは、超ヒット映画『ジュラシック・パーク』の原作者としても有名なマイケル・クライトン氏の最新作『プレイ』です。お相手は、この作品を高く評価されているモズさんと本誌編集長の−卓−です。モズさんよろしくお願いします。
モズ >  はぁい!よろしくお願いしますぅ・・!
 あ、はじめに、『プレイ』は、ごっつ、おもろいんでっけど、ケッサクといえるかどうかはビミョウなんですね。でも、原点に戻ったって感じがありまして、その意味で、お気に入りなんですよ。むこうみずにも、あちらでハードカバーが出るやいなや、ネット通販で入手したものの、結局、半分ほどで「挫折」し(爆)、翻訳が出るのを今か今かと待っておった次第です。一晩で読み終えましたな。

 是々非々はあると思うのですが、映像制作もやっている関係で、「画」がアタマの中に浮かんでくるのが、とても、心地よいのであります。
>  乱入失礼しまーす。私は東京駅でペーパーバックを衝動買いしてしまったんですが、さすがに先へ先へと引っ張る力は大したもので、500ページの後半は一晩で読まされてしまいました。
 で、「画」が浮かんでくるという点についてはモズさんとは逆に私がテキスト寄りの人間なせいか、だんだん映画のシナリオを読んでるような気分になってしまって、ちょっと損したかなという…
雀部 >  クライトン氏の小説は、最初から映像化を前提に書かれているので、私も高率で「画」が浮かんできます。映像化前提と言えば、映画の方も大ヒットした『アンドロメダ病原体』がありますが、私はクライトン氏の最高傑作は、このデビュー作である『アンドロメダ病原体』だと思うのですが卓さんは、いかがでしたでしょうか?
>  同感です。高校時代に友人から「面白いから読め」と勧められ、一読して強烈なショックを受けました。実は拙作「Sugar Room Babies」でやたら参考文献を挙げたのは『アンドロメダ』の影響だったりします。
雀部 >  それは気が付きませんでした(笑)
 モズさんは、どうですか。
モズ >  まさしく、激しく、御意!であります!!

 えらい古い話ですんませんですが、かって、深夜の「おとな向け番組」だった「11PM」っつうのがおましてな! んで、これを大学生の頃、ウッシッシと見ておったんでありますよ!
雀部 >  巨泉さんですな(笑)
 怪しいエロや、アメリカの最新情報やら、流行の先取りやら満載でしたね。
 映画紹介のコーナーもあったなぁ。
モズ >  で、ある晩、宇宙から、ワケのわからない「病原体」が地球にひたひたと侵入している・・・ってなテーマで進み、その中でマイケル・クライトンなる人物の『アンドロメダ病原体(The Andromeda Strain)』という本を紹介してたんですね。出演者の誰かが絶賛してまして、SFにーちゃんだった私、これに飛びつかないでどーする!?ってんで、早速、本屋さんでゲットして、一気に読みました。

 いやあ、痛快でした!
 それに、まだまだ、コンピュータっていうより電子計算機のほうが通りのよかったこともあり、本の中に図版として掲載されてる、コンピュータ画面の新鮮なこと!
 映画も当然、見にいきました。しばらくして、「ギギッ!ガガッ!」ってな音ばっかの(笑)、サントラまで買っちゃう始末(初版は八角形デザインでありましたな)。
雀部 >  当時、サラリーマン必読の書とかも言われてましたよね。小松左京先生が、あれくらいの情報量を詰め込んだSFなら、日本にもある!と言われたりして。
 八角形のサントラ盤があったとは知らなかった。
 ちなみに、クライトン氏のベスト3を教えていただけますか?
 私は、1位が『アンドロメダ』、二位が『タイムライン』、三位がこの『プレイ』といったところです(四位が『ジュラシック・パーク』かなぁ)
>  1位が『アンドロメダ』で2位が『プレイ』っていうか、それしか読んでないので(自爆)
モズ >  サラリーマン必読の書ってのは記憶にないんですが、小松さんのご発言にはあえてふれず、さらっと流すことにして、と・・・(爆)
 あの変形サントラは「ウルトラ・レアもの」になってるんではないでしょうか?
 ボクは通常盤で「ギギッ!ガガッ!」を堪能しました(爆)
 クライトンさんのベストですけど、う〜ん、難しいなあ・・・と書くとカッコつくんでしょうけど、んなもの、カンタン!(笑)
 1位 アンドロメダ病原体
 2位 ジュラシック・パーク
 3位 スフィア
 なんでそうなのか?っての書き出すと、このレビュー、前編・後編にわかれるぐらいな文字量になるかもしれませんので、割愛(笑)。
 で、彼が監督したものとかも含めて映画化されたもの、となりますと、
 1位 ジュラシック・パーク
 2位 アンドロメダ
 3位 ウエストワールド
 これも、なんでか?!っての割愛。前編・後編にさらに、中篇も入ることに(爆)。
 ちなみに、「ウエストワールド」をパロった「S●Xワールド」っていう傑作「XXX」作品もございました(笑)。向こうではDVD出てます(爆)
雀部 >  「アンドロメダ」と「ジュラパ」を高く評価されているのは良く分かります。
 また、なにげに洋モノのAVにお詳しいのも(爆)
モズ >  ともかく。
 それ以来の、クライトンファンです。
 んまあ、世の中には、ワンパターンや!ゆうて毛嫌いする方々もたくさんいてはりまっけどね(苦笑)

 先にも言いましたが。私は、読んでて「画」が浮かんでこないとアカンのです(苦笑)。
 その点、『アンドロメダ病原体』は映画的に時系列で、イベントを追う、いわば、ドキュメンタリー手法でもあり、とっても気に入ったんですね。
>  なるほどワンパターンと言えば、『アンドロメダ』と同工異曲のアイデアが使われてますねえ。ネタばらしになるから、どれとは言えないけど。

理論武装と本文のバランス

雀部 >  まさに『プレイ』も、時系列で進んでいく、ドキュメンタリータッチですね。
 最初、主人公のジャックの妻の様子がおかしくなり、末娘に原因不明の発疹が現れたりする導入部はいかがですか? ありふれた日常から、次第に……と無理なく読者(観客)を引き込む仕掛けですよね。
 私的には、『アンドロメダ』の、?何が起こったの?という導入部のほうが好きなんですが(笑)
モズ >  ああ、それは確かに。『プレイ』は進行は地味でしたね。ですんで、少しばかりとっかかりがかったるい・・・。でも、最初、原書で読み始めたもんで、逆にわかりやすくて(苦笑)その意味ではよかったかもしれませんです、はい。でも、結局、挫折しちゃったんで翻訳で読んでも・・・あとはこのパラグラフのアタマに戻ってLOOP!(笑)。
>  幼児を餌にするのは生理的に抵抗があってちょっと…
 でも前半200ページくらいはエセエフのうんちくと本編のバランスがちょうど良かったと思います。
雀部 >  SFにおいても、そういうバランス感覚は大事ですよね。
 ジャックが開発した<捕食者−被食者>のプログラムを組み込んだナノマシンが、制御不能になったこともあり、ジャックが妻の勤めているザイモスのプラントに赴いてからは、舞台が研究所(というかナノテク工場かも^^;)ということもあり『アンドロメダ』の雰囲気と似てきますね。私は、ここらあたりのハラハラどきどき感が一番好きです。
モズ >  研究所ってのが感覚的には通じるものがありますね。先日、廉価でDVDが出たもので、久しぶりに「アンドロメダ」を見たんですが、一見、砂漠の中の研究農場でなにやら栽培してるだけ、と見える場所。その地下には・・・。
 ううう、しびれまんなあ!!!
 話、戻します。ネタバレになるかもしれませんが、主人公の妻がクルマで仕事場に戻るときに、男とおぼしき影が見え隠れするあたりから、俄然、面白くなってくる。
 もちろん、末娘の原因不明の発疹も、それまでにあるんですけど、盛り上がるまでには至らない。
>  プラントの描写は秀逸ですね。一度に一人しか通れないエアロックとか、高い天井まで届く梯子だとか、細かい設定のそれぞれが後々のサスペンスの伏線になってるし。
雀部 >  ここらあたりも映像になったときにことを考えてるんでしょうね。
 ナノテクの扱いはどうでしたか? 最後のほうで妻のジュリアが、**となるさまはちょっとやりすぎのような気もしたのですが。いえ、映像はすぐに浮かんでくるんですが、ナノマシンの脅威を表現するのに、そこまでやらなくてもという感じです(笑)
モズ >  率直なところ、ナノマシンの扱いは映像化も含めて、難しいと思うんです。
 集団行動しているサマを普通に描けば、単なる真夏の夕方、誘蛾灯に集うクサバカゲロウにしか見えん!(爆) ご指摘のシーンは映像表現ではもっと過剰な表現になりそうな気もします。
雀部 >  クサバカゲロウ、正に!ですよね、なんせナノ単位のマシンだから(笑)
 このシーンは、SFでいうとレムの『砂漠の惑星』とかベイリーの『カエアンの聖衣』を思い出させますね。ちょっと唐突なので、もう少し読者に対して、似非理論の前振りがあるとスムースなんですが(笑)
>  そうそう、レム! 『星からの帰還』にもナノマシン風のガジェットが登場してたような…って脱線してますね、すみません。さっきも言ったように前半は理論武装と本文のバランスが心地よいんですけども、後半、特にラスト50ページはこれでもかこれでもかこれでもか、てな感じで息切れしちゃいましたね。
雀部 >  たぶん初めてSFにマイクロマシンを登場させたのがレム氏ではないかと。
モズ >  すみません、どっちゃも未読でございますぅ(汗)。
 でも、似非理論の「フェイクなんだけどリアル」っていう部分、もっと、わかりやすくできるように思えますね。クライトンさんの作品の多くは、現在既になにがしかカタチになってるものをベースに近い将来に現実化できそうな(あくまでもできそうな、です)、ビミョウなテクノロジーを「キー」にしてますでしょ? それゆえ、読者にいっそうわかりやすさ、と「そうかあ、ありうるなあ」といった擬似体験を感じさせる必要があるように思うんですね。
 そこんところが、今までと比べると弱いかもしれないですね。
 実際、読んでて、よーわからんまま進んでしまってましたし(日本語で読んでも、です、笑)。

もし『プレイ』の映画化を担当するなら…

雀部 >  そこらあたりは、映像化して見せた方が簡単になるかもしれませんよね。監督の力量もあるだろうけど。
 最後に、もしモズさんが『プレイ』の映画化を担当することになったら、どのような映画にしようと思いますか?全体的にでも、特定のシーンでも良いですが。
モズ >  天地がひっくり返ってもそげなこたあないでしょうけど(笑)、「もし」そんなラッキーなことがあれば・・・

 全体構成は原点に帰って、本の流れに沿いたいです。淡々とファクトを積み重ねてく手法を踏襲することで「アンドロメダ」とは一線、画したいです。
 本で読むのと、映像で見るのとでは、おのずと見方も変わってくるでしょうから。
 だけど、本作も、技術的に、数多くの難関(特にVFXの担当部分)が待ち受けてます。ナノマシンをアニメにしちゃうと楽でしょうけど(笑)。

 ナノマシンの大きさまで小さくなって、行動を共にするマシンたちの動きを表現したり、元々が集団で「ひとつのカメラ」として機能するように設計されてる部分を、わかりやすくビジュアル化したり、その「撮影画像」にそれらしい処理を加えたり・・・。最後のほうでクライトンさんは映画を意識したのか、アクションシーンがあるんですけど、あれはそのままではB級にしかなんないリスクを持ってますんで、そこも変更したいです。

 ただ、プロローグではナノマシンをいきなり、ボカンっ!っと解像度を上げた3DCGで精緻に表現したいな。

 ラスト近くの、雀部さんが少し抵抗がおありのシーンも前述のごとく、残酷さは抑えながらも、今まで誰もみたことのない映像ゆえ、現実的な部分をふまえながら、少し「長回し」でワンカットで撮りたいです。

 クライトンさんのは、映像にものすごく頼る部分があって、それがこけるとなんともチープなものになってしまいます。あえて、例は出しませんですが・・・(笑)。
 それだけに、実際に製作にたずさわる人たちには大変なプレッシャーがある反面、「やりがい」があったと、後々のインタビューで答えている人、数知れず。

 なあんて書いてきましたけど、夢物語ですけどね(笑)。まあ、初夢かなあ?(爆)
>  いやあ、ぜひ見てみたい気が… Anima Solaris にシナリオを書いてもらえませんか?
モズ >  I Wish I Could...(「ローマの休日」のオードリーのセリフより、笑)
 今の私の現状では、何年かかってもそれは「Mission: Impossible」(爆)
 優秀な脚本家さんにおまかせして、流れに身をゆだねまするぅ〜(笑)
雀部 >  モズさん、−卓−編集長、今回はブックレビューにお付き合いいただきありがとうございました。
 最近、SFぽいパニック小説に戻ってきた感のあるクライトン氏ですが、『タイムライン』は、来春のお正月映画として日本公開されるそうだし、『プレイ』の映画化も20世紀FOXで行われるそうなので、SFファンにとっても楽しみなことですね。
モズ >  そうですね。クライトンさんの著書の中では苦手ワースト3にはいっちゃう作品ですけど(苦笑)、正月明けの公開時は見てみたいと思います。フォックスでの「プレイ」は当然、初日の初回上映で見たいものです。なんてこと言いながら、実は、『タイムライン』をも一回読みはじめてたりするんですけどお・・・(苦笑)
>  私はまず『アンドロメダ』のDVDを手に入れようっと^^;)
モズ >  あ、これね、特典映像には字幕がつかへんのです。
 はじめ、どないしたら表示されるんやろ?と、しばし難儀しましたがぁ(苦笑)
 でも、見聞きしてれば、なんとのお、わかります。
 なんちゅうても、1,500円であの傑作が見れるってのが、ええっす!(笑)
 やすうて、うまい!(爆)
雀部 >  ありゃま(笑)


[雀部]
ファンタジーも読むハードSF研所員。
『小松左京マガジン 11』所載「小松左京自作を語る」にインタビュアーとして登場してます。書店で眼にされたら、パラパラ見て下さいませ。
[モズ中野(a.k.a.モズライト中野、モズ)]
二年前からWebコンテンツ・クリエイト企画部門に移籍し、日々公私混同であやしいWebサイトを徘徊しているシニア(オジジって意味で、笑)ディレクター。
映像制作も兼務のため、特に「VFX」系作品に関してはかなりの文句言い(笑)。
趣味のバンドのライブデビューもあり、おじさんロッカーとしてもぐゎんばりちゅう!
[卓]
画像診断医。医学博士。パスカル短編文学新人賞への応募をきっかけにパソコン通信に、ついでインターネットにのめり込む。SF同人誌「ソリトン」、俳句同人誌「恒信風」に参加。画像診断に関する CD-ROM 著作あり。目下の関心はシュタイナー医学。

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