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BookReview

レビュアー:[雀部]

 商業出版に関して言うと、日本SFの歴史は、1950年代から始まりました。1954年に森の道社の「星雲」創刊、1956年に元々社の最新科学小説全集発刊、翌年にハヤカワSFシリーズ(いわゆる<銀背>)発刊、1960年(正確には59年の12月かな)に「SFマガジン」の創刊号が出て、いままで続いています。
 なんともうすぐ50年にも手が届くところに来てるんですね。そうすると必然的に、絶版・在庫切れの本が増えてきて、多くの読者には、名のみ高くして読んだことがない名作がゴロゴロしているという事態になってきました。そういう状況を打破するためと、20世紀SFの総括という目的で、河出書房新社(河出文庫)から中村融・山岸真編の《20世紀SF》シリーズという年代別のアンソロジーが2000年から出版が始まり話題となりました。さらに河出書房新社からは、2003年に《奇想コレクション》という、ジャンルを横断した、いわゆる<すこし不思議な物語>の名作を集めたシリーズの刊行が始まりました。当然、手に入りにくい短篇と未訳の名作が中心ですのでSFファンとしては大いに応援したいところです。
 ということで、今月は既刊が五冊になったこのコレクションを簡単に紹介してみたいと思います。まあ、一度読んでくださいませ(笑)
(以下の本は総て、河出書房新社刊。装画:松尾たいこ 装丁:阿部聡)
『夜更けのエントロピー』
> ダン・シモンズ著/嶋田洋一訳
> ISBN 4-309-62181-3
> 1900円
> 2003.11.20発行
収録作:
「黄泉の川が逆流する」「ベトナムランド優待券」「ドラキュラの子供たち」
「夜更けのエントロピー」「ケリー・ダールを探して」「最後のクラス写真」
「バンコクに死す」
 シモンズといえば、SFファンにとっては、まず《ハイペリオン》な人なんですが、ホラー系の短篇も多い感じを受けてます(長編ホラーもありますし)。内容的には、けっこう暗い感じの短篇が多いです。ゾンビネタとか吸血鬼ネタも多いし。一番好きなのは、世界幻想文学大賞とブラム・ストーカー賞を受賞した、ゾンビ化した生徒を相手に毎日教壇に立ち奮闘する女教師を描いた「最後のクラス写真」。暗いなかにも、絶妙のユーモアのセンスが光って読ませます! あと表題作の「夜更けのエントロピー」がローカス賞受賞作です。
 もう一編付け加えても良いよと言われたら、私が選ぶのは「フラッシュバック」(『愛死』所載。角川文庫)かな。人生のある時点を再体験できる薬を扱った短篇で、切れ味の良さは絶好調時のゼラズニイを思わせます。

『不思議のひと触れ』
> シオドア・スタージョン著/大森望編
> ISBN 4-309-62182-1
> 1900円
> 2003.12.30発行
収録作:
「高額保険」「もうひとりのシーリア」「影よ、影よ、影の国」
「裏庭の神様」「不思議のひと触れ」「ぶわん・ばっ!」
「タンディの物語」「閉所愛好症」「雷と薔薇」「孤独の円盤」

 スタージョンと言えば、国際幻想文学賞を受賞した『人間以上』が一番有名ですが、多くの作家に影響を与えたと言われる短篇の方は、長らく読むのが難しい状態が続いていました。実は、著者インタビューでメール交換した作家の方にもスタージョンのファンがいらっしゃいまして、『一角獣・多角獣』が手に入らないのを嘆かれていました。この本では、主として氏の短篇のなかでも一般的に分かりやすい部類のものが収録されていて格好の入門書となっています。もうちょっとひねった感じの短篇を集めたのが『海を失った男』(若島正編、'03/7/15、晶文社刊)で、内容は重複してないので、こちらもぜひどうぞ!
 そうだ、一番有名なのはスタージョンの法則でしたね(笑) それに短篇で一番有名なのは、吾妻ひでお氏が『不条理日記』でネタにしている“女に扇風機を投げつけられた男が、仕返しに女を扇風機に投げつける”「ある思考方法」(『宇宙の妖怪たち』ハヤカワの銀背)かも知れませんね。

『ふたりジャネット』
> テリー・ビッスン著/中村融編訳
> ISBN 4-309-62183-X
> 1900円
> 2004.2.18発行
収録作:
「熊が火を発見する」「アンを押してください」「未来からきたふたり組」
「英国航行中」「ふたりジャネット」「冥界飛行士」「穴のなかの穴」
「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」
 とぼけた味でヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、デイヴィス賞、スタージョン記念賞を受賞した「熊が火を発見する」が一押しか。一番好きなのは、盲目の画家が人工的に仮死状態に陥り、その時の光景を画にするという「冥界飛行士」。
「英国航行中」は、なぜかイギリスが大西洋を西へと動き出す話。「ふたりジャネット」は、突然有名作家たちが申し合わせたように続々と田舎町に引っ越してくる話で、どちらもオチらしいオチはありません(笑) ここらあたりは、ラファティ氏に似ているかも。

『フェッセンデンの宇宙』
> エドモンド・ハミルトン著/中村融編訳
> ISBN 4-309-62184-8
> 1900円
> 2004.4.20発行
収録作:
「フェッセンデンの宇宙」「風の子供」「向こうはどんなところだい?」
「帰ってきた男」「凶運の彗星」「追放者」「翼を持つ男」
「太陽の炎」「夢見る者の世界」
 今回取り上げたなかでは一番SF的なハミルトン氏のアンソロジー。《スターウルフ》シリーズとか、《キャプテン・フューチャー》シリーズとかスペオペが有名なハミルトン氏ですが、『虚空の遺産』などの渋めの長編も捨てがたい味わいがあります。なんというか、宇宙開発の悲劇を先取りしたような「向こうはどんなところだい?」がお薦めかなぁ。これは、バラード氏の短篇と通じるところがありますね。

『願い星、叶い星』
> アルフレッド・ベスター著/中村融編訳
> ISBN 4-309-62185-6
> 1900円
> 2004.10.20発行
収録作:
「ごきげん目盛り」「ジェットコースター」「願い星、叶い星」
「イヴのいないアダム」「選り好みなし」「昔を今になすよしもがな」
「時と三番街と」「地獄は永遠に」
 私にとってベスター氏と言えば、『虎よ、虎よ!』ではなくて、『分解された男』(創元推理文庫の方)。犯罪者の悲劇と言いましょうか、主人公に感情移入してしまい涙無くしては読めませんでした(泣)ちなみに、"@"マークを知ったのも、この本です(笑)
 表題作の「願い星、叶い星」は、超能力テーマの洒落たオチの短篇。テーマとしては超能力とタイムトラベルが多い感じです。一番好きなのは、地球最後の生き残りのちょっとイカレタ二人の男女の様を描いた「昔を今になすよしもがな」。「ジープを走らせる娘」のほうが通りがよいかも(これもネタにされてましたよね)


[雀部]
《奇想コレクション》のこれからの予定は、スタージョンの二冊目、アヴラム・デイヴィッドスン、ウィル・セルフ、ゼナ・ヘンダースン、グレッグ・イーガン、ロバート・F・ヤング、コニー・ウィリスとのこと。楽しみです(^o^)/

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