Book Review
レビュアー:[雀部]&[小林]
シナリオのためのSF事典
『シナリオのためのSF事典』
  • 森瀬繚著
  • SBクリエイティブ
  • 2019.9.20発行、Kindle版
  • 1,495円
2011年に刊行した『ゲームシナリオのためのSF事典』をもとに、改題のうえ修正を加えた新版
■第1章 科学技術
テラフォーミング/重力制御/タイムトラベル/タイムパラドックス/質量保存の法則/エントロピーの増大/反物質/バイオテクノロジー
■第2章 巨大構造物(メガストラクチャー)
軌道エレベータ/宇宙ステーション/宇宙コロニー/ダイソンスフィア
■第3章 生命
DNAと遺伝子/生物の進化/ミュータント/放射能/新人類/ウィルス・細菌
■第4章 世界・環境
暦/地球温暖化/氷河期/ユートピア/ディストピア
■第5章 宇宙
宇宙空間/宇宙開発/宇宙の危険/天体/惑星/恒星/小惑星・衛星
■第6章 テーマ
ジェンダー/ファーストコンタクト/未知生物/宇宙戦争/銀河帝国
『新世紀未来科学』
  •  金子隆一著
  • 八幡書店
  • 2,800円
  • 絶版
第一章 宇宙開発
【軌道エレベータ】【エキゾチック・プロパルジョン】【太陽系開発】【テラフォーミング】【恒星間飛行】【宇宙改造】
第二章 医学
【人工冬眠】【臓器移植】【サイボーグ】【ヒト・クローン】【性転換】【脳移植】【不老不死】
第三章 生命科学
【有用生物の創生】【動物の知性化】【絶滅動物の復活】【バイオハザード】【人工進化】【宇宙生物学】【SETI】
第四章 コンピュータ/ロボット工学
【人工知能】【究極のコンピュータ】【汎用人型ロボット】【特殊環境ロボット】【マイクロ/ナノ・マシン】【フォン・ノイマン・マシン】
第五章 情報/通信
【ネットワーク社会】【新メディア】【新伝送媒体】【メモリー媒体】【人工言語】【脳/コンピュータ連接】【情報生命】【情報理論】
第六章 エネルギー
【核エネルギー】【太陽エネルギー】【量子ブラックホール】【対消滅】【フリー・エネルギー】
第七章 環境
【都市】【人口】【環境汚染】【地球温暖化】【気象制御】【宇宙的カタストロフィ】
第八章 ファーアウト物理
【慣性中和】【反重力】【フィールド推進】【テレポーテーション】【ワープ航法】【タイムマシン】【人間原理】
未来科学
SFはどこまで実現するか
『SFはどこまで実現するか』
  • ロバート・L・フォワード著、久志本克己訳
  • 講談社ブルーバックス
  • 796円
  • 1989.11.15刊
現在絶版状態です。
1 未来の通信
2 魔法のエネルギー源
3 宇宙にかかるケーブルカー
4 魔法の恒星船
5 重力を消す魔法
6 ブラック・ホールを飼いならす
7 時を駆けるタイム・マシン
8 スペース・ワープの魔法
9 未来を考える

雀部 >
今回のブックレビューも、「アニマ・ソラリス」172号から毎号のように投稿頂いている小林ひろきさんをお招きして、自作とお好きな作品について語ってもらおうという企画です(笑)
 小林さん、初めまして、よろしくお願いいたします。
小林 >

よろしくお願いします。雀部さん、Twitterのほうではフォローありがとうございます。普段、九頭見灯(くずみ・ともしび)のペンネームでTwitter・カクヨムときどきpixivに出没している者です。今回はインタビューに誘っていただき光栄です。

雀部 >

ようこそ小林さん。毎号のように投稿して貰っているのにちょっと変ですが(笑)
 「カクヨム」には、投稿された小説一覧がありますが、「pixiv」で検索するとイラストしか出てきませんね。お名前は『マリオネット師』の主人公へのオマージュなのでしょうか?

小林 >

「マリオネット師」は名前をつけてから知りました。「九頭見」の姓がいいなと思って、姓名判断サイトで見つけたのが「灯」、なのでまさか漫画の主人公だったとは……と後になって震えております。

雀部 >
あらま、そうだったんですね。小山田いく先生とネーミングのセンスが似てたのでしょう。
 ところで、「小説家になろう」サイトの「小林ひろき」さんは、小林さんでしょうか?
小林 >

違います。「小説家になろう」のほうは完全に読み専で、別の名前になっています。すごくありふれた名前で「なろう」内に5人はいます。

雀部 >

ですよね。読んでみて全然作風が違う気がしましたので。
 「アニマ・ソラリス」では、「九頭見」さんと稲葉小僧さんの連載長編の主人公「楠見」キャプテンと名前が似ているのも何かのご縁でしょうね(笑)

小林 >

アカウント自体は第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト(通称さなコン2)やそのほかのネットの公募用・あと交流用に作ったアカウントです。グループ機能でSF研究会をやっています。pixivのページはこちら(https://www.pixiv.net/users/76450215)ですね。

雀部 >
ありがとうございます。pixivの二作品(「海を見ている」と「いずれすべては森の中に」)も読ませて頂きました。
 そもそも「アニマ・ソラリス」に投稿してみようかなと考えられた経緯は何だったのでしょうか。
小林 >
かれこれ6年前のことになりますが、小説を書いてみようと思い立ちました。書いたら早川書房主催のハヤカワSFコンテストに応募しようと考えていました。書いてみて全く書けなかったのにも関わらず応募、それから落選し、せっかく書いたのだから誰かに読んで欲しい。このままでは終われないと思いました。
 そのころはSFは好きでしたけれど、SF界全体の内情は全く知らない門外漢で右も左も分からず、Googleで「SF原稿募集」と検索して最初にヒットしたのがアニマ・ソラリスでした。
雀部 >

そうだったんですね。
 「SF原稿募集」でググったら、現在「アニマ・ソラリス」は全く上位の方には出てきません(汗;)
 「ネア」を読み返してみると、小林さんの短編に何度も現れてくる共通した主題がありますね。
 マン-マシン・インターフェースというか、人間と機械のありようを描くというか。機械化された人間、自意識を持ったAI等々、そういう方面の小説にこだわられているなと感じました。

小林 >
大学時代にシステムデザイン学部に在籍していたこともあり、無意識にそういう話題を選んでいるのかも?なんて思いました。専門は芸術工学やデザインでしたので人と機械やモノが触れる場面を想定していたのかもしれませんね。
雀部 >
芸術工学部ではどういうことを学ばれたのでしょうか。
小林 >
芸術工学部というような大層なものではなかったです。システムデザイン学部の隅っこでデザイン分野が学べたんです。ときどき同じ学部の航空コースの学生が教室に潜り込んで来たり、楽しい現場ではありました。学んだのは基礎的な造形やドローイングとデザイン史です。
雀部 >
三男の大学入試の時に、そこらあたりの学部を調べたことがあるんです。都立大あたりにはシステムデザイン部と航空工学部もあったような気が。結局、情報工学へ行ったんですが、美学とか哲学の科目もあってなんか目から鱗でした(汗;)
小林 >

鋭いですね。僕が通っていた頃は石原都政時代で大学の名前が違いました。結局持病があり中退するんですが、SFを書くとなるとやはり勉強不足が否めないですね。

雀部 >
病気はしょうがないとはいえ、中退とは残念です。
 そういえば、都市のデザインなんかもシステムデザインですよね。
 「いずれすべては森の中に」は、計算素子としての森(植物)と共生する都市の物語であると同時に、一人の女性の恋愛譚でもあると思いますが、植物ネタと「眠り病」という医学ネタの相乗効果で面白く読ませて頂きました。
 この作品は、いってみれば植物版の『ブラッドミュージック』ですが、哀しみであれ喜びであれ、もっと新人類誕生を歌い上げる結末にできたところを、ヒロインひとりの物語として収斂させた狙いはなんだったのでしょうか。
小林 >
「いずれすべては森の中に」のご感想ありがとうございます。これは去年のさなコンで「リミット・オブ・ワールド」を提出した際、一次審査に受かって講評を頂いたんですが、まず設定を詰めなさいということ。次に人間が主体だから踏み込んだ心理描写をしてほしいと。それを踏まえた上で書いた作品になります。
 あとさなコンのルールがありまして、必ず課題文を冒頭か末尾に使うということだったんです。そういう理由でラストの一文を使いました。
雀部 >
おっと、そういう経緯がありましたか。納得です。
小林 >
主人公の恋愛物語にフォーカスしたのは、心理描写や心情描写に上手くなりたかったのです。恋愛は結局そういうものを書くのに適しているから都合がいいと考えました。
 ちょうど手元にアニマ・ソラリスのインタビューで紹介されていた『新世紀未来科学』があり、『ブラッドミュージック』のページがありますね。僕は『ブラッドミュージック』はSF読者の父の話からでしか聞いたことがなくて植物版の「ブラッドミュージック」だとは「いずれ~」を書いている時には気がつかなかったです。
雀部 >
お父様がSFファンで、お子さんがSFを書かれているとはなんとも羨ましい話です。
 恋愛物語というと、先ほどお話しに出た“さなコン提出作「リミット・オブ・ワールド」”も異色の恋愛ものとも言える作品で、面白く読ませて頂きました。
 ここで語られる“世界の人々の、人間関係・国籍・人種等々総てをランダムにシャッフルする”というアイデアは、究極の他者理解と共感性獲得方法かも。例えば、シャッフルされて次の人生はホームレスになるとしたら彼らの生活向上に異論は無いでしょうし。
 今回読み返してみて考えたのは、他国に侵略行為を働いている指導者も、次には侵略される側の人間になるかも知れないと考えれば無茶なことは出来ないでしょう。まあ、指導者にそれだけの想像力があればの話ですが(笑)普通なら、平等な世界を目指すのではと思います。
小林 >

博愛や平等は大事ですね。SFの世界ではそれがスローガン化して、例えば伊藤計劃「ハーモニー」に描かれるような健康第一主義になったりしますよね。でも社会システムをどのように構築しようと、その他の人たちや選ばれなかった人たちは必ずいます。枠の外にいる人たちのためのシステムだったのに本末転倒ですね。
 余談ですが「リミット・オブ・ワールド」はその後、「イデア・ワン」という短編集にしてカクヨムで改稿版を掲載しました。“人々が仮想現実に生きているという設定でなぜシャッフルするのか?”というのは人々が集合知性(群体知性)になってX〈エックス〉という外部の敵と電子的に戦っている。Xは読心能力を持つので、人々は集合知性のネットワーク構成の変更を一定の周期で行わなければならない――みたいな物語にしました。

雀部 >

ふむふむ、ラストに大幅に手が入ってますね。今までの闘いの様子とかも知りたいものです。
 もう一作品の「海を見ている」は、うってかわって、ある女性の統合意識をコピーしたAIを搭載した宇宙探査艇(?)のモノローグで始まります。これは設定からして面白くならなければおかしいという鉄板パターン(笑)
 普通なら、遙かなる宇宙の果てから来る寂寥感・孤独感も描いて、コピーされた記憶の芳醇さと対比させるシーンがあっても良さそうに思いましたが、内的世界の描写のみなのは何故なのでしょうか。

小林 >
「海を見ている」は百合文芸4に提出した作品です。知人が参加すると言うので初めて書いた百合小説ですね。
 雀部さんから指摘を受けて「その手があったか!」と思っております。ありがたいお言葉です。
 例えばよく百合とSFでは大きなSFの物語の骨子と百合という小さな物語の組み合わせが相性が良い、なんて話を聞きます。百合も小さな関係性の物語ですね。この作品、僕はセカイ系小説の系譜として描きたかったのです。新海誠「ほしのこえ」など僕らの世代の心臓を鷲掴みにしているセカイ系ですが、視野に入れてました。知人からはあまりウケが良くありませんでした。
 主人公は天才数学者という設定で抽象的な世界にのみ心が向いている。その寂寥感を描くというよりこれは相手との記憶の物語なんです。ちょうどカルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』という本を読んでいまして、プルーストの『失われた時を求めて』が引用されています。そして「限りない空間とあり得ないほどの詳細、香り、思考、感覚、熟考、修正、色、物、名前、容貌、感情といったものすべてを見いだした」と。この言葉を原稿の傍らに置いて書いていました。ちょうど宇宙探査艇が自らを思い、自分とは何だったのかということを思い出す。それは相手との記憶、プルースト風に言うとマドレーヌの味だったわけです。
雀部 >
そうだったんですね。そこらあたりは、正直うかがわないとわかりえない部分だと思います。
 『ほしのこえ』(新海誠)は、どういうところが心臓を鷲掴みにしたのでしょうか?
小林 >
まず新海誠さんがおひとりでアニメを作られたことが凄いです。さらに美麗なビジュアル面もさることながら、宇宙の戦争のような大きなスケールの物語を、男女の携帯電話のメールのやりとりで描き切った視点の冴えですね。
雀部 >
そうだった。確かまだガラケーの時代でしたよね。メールの文が小さい画面に表示されていた。
セカイ系というと新海先生の他には、秋山先生の『イリヤの空、UFOの夏』とか高橋先生の『最終兵器彼女』が思い浮かびます。『新世紀エヴァンゲリオン』当時、SF界隈でも話題になり、「エヴァ以後」という言葉も普通に使われるようになりました。当時は“主人公の少年少女が世界の命運を担う”という点がフォーカスされていたと思います。それまでは、“バットマンとロビン”とか“明智小五郎と小林少年”のようにサブの存在であったり、少年少女が主人公の冒険小説(例えば『十五少年漂流記』、SFだとハインラインの『栄光の星のもとに』とか)でも、最後には大人の世界に戻ってきて大団円となると。
 小林さんが、セカイ系で一番重要視されている要素は何なのでしょうか。
小林 >
物語を俯瞰して、マクロ系のお話よりもミクロ系のほんの些細なこと、感情の揺れ動きや小さな出会いなどを物語の中心に据えることだと思います。それは日常の延長上にあるようなものでしょうね。だから、読者の気持ちにもスッと馴染むと思います。世界の命運をかけた戦いと自分が自分であるための戦いとか、そうした世界と自分のシンクロがセカイ系を成しているのでは?と考えます。
 東浩紀 「セカイからもっと近くに(現実から切り離された文学の諸問題)」という本を昔読んだのですが、セカイ系と普段呼ばれていない新井素子や小松左京の作品も取り上げられていて奥深さを感じました。
雀部 >
東先生のご著書は私も良く参考にさせて頂くし面白いんですが、ちょっと極端なところがおありになるから(笑)
 小説を書くに当たって、一番気をつけられているところはどこでしょうか。
小林 >
テクニカルなことはまだ勉強中ですが、いまはSFが好きという気持ちで書いていますね。ショートショートの連作、SFの小箱もそうですし、あとは書くだけではなく読むことも大切にしたいです。ちょうど小説を書き始めた頃に、あの有名な「ゲンロン大森望SF創作講座」始まったこともあり、ちょくちょくサイトを見に行って受講生の作品を読んでました。サイト訪問は今も続いています。
雀部 >
ゲンロンSF新人賞受賞作の作者の方にはインタビューをさせて頂くことが多いのですが、これはぜひ聞いて欲しいということがありましたら是非お聞かせ下さい。
小林 >
受講生達は毎月、粘り強く課題に取り組まれてますよね。その動機やモチベーションの維持方法は気になりますね。あとやはりSFへの愛を語ってほしいです(笑)
雀部 >
わかりました。うかがってみます。
 モチベーションの維持は、参加者同士の飲み会で情報交換するとかは聞いたことがあります。
 SFへの愛はどうなんでしょう。もちろん広義のSFに対する愛は持たれているのでしょうが、いわゆるコアSFの読者はほとんどいらっしゃらない感じがしてます。個人的には、SFに染まってない方のほうが、新たなSFを書くことが出来るような気がしていて気にしたことはなかったんです(汗;)
小林 >
なるほど。確かに過去の受講生のインタビューを読んでいくと多様なルーツを持った作家が多い気がします。
 ただ何でしょう。少し寂しいような気がします。楽しい思い出ではないんですが、僕の父が僕が小学生か中学生くらいのときに語って聞かせたフィリップ・ホセ・ファーマーの《階層宇宙》シリーズや、ジョー・ホールドマン『終りなき戦い』、クリフォード・D・シマック『小鬼の居留地』、光瀬龍『百億の昼と千億の夜』。あまり当時はピンとこなかったのですが、余程、楽しい、面白い経験を父はSFにさせてもらったのでしょうね(笑)
雀部 >
もちろん私もそこらあたりは、血となり肉となってます。
 お父様とは同志になれそうです(笑)
小林 >
SFの楽しさはいろんな方々にお話ししてほしいです。ちょうど樋口恭介『構造素子』にジェイムズ・ティプトリー・Jr.の良さを熱弁する父親というのが描かれていますが、そういう風景が僕のSFの原体験である気がします。
雀部 >
そういえば、小林さんが賞に応募するということで掲載を取りやめた短編があったと思うのですが、あの短編は結局どうなったのでしょうか。
小林 >
「マージナル・インターフェース」は結局、最終まで残れませんでした。確か星新一賞だったと記憶してますが、あれは最終候補までしか発表されないんですね。だから一次に通ったのかも分からないです。覚えていてくださってありがとうございます。
雀部 >
ということで、許諾をいただいたので「マージナル・インターフェース」再掲載しました。
 私が書いた当時のコピーを見てみると“「レインボー・すくーる」というギャルゲー、それが発端だった。平行世界間の優劣はその世界に内包される情報量の多さ・新鮮さによって決まるというアイデアを、世界線の狭間で生じるラブストリーに乗せて物語る小林ひろき氏の新境地。”とあり、非常に高く評価していたことがわかります。
小林 >
ありがとうございます。ところでトップページの短編タイトルの前のコピーは、雀部さんが書いてくださっているのですね。編集のおおむらさんだとばっかり思っていました。
雀部 >
フィクション関係のコピーは、不肖わたくしがほぼ書いてます(汗;)
小林 >
かなり前の事なので思い出してみますね。確か、ちょうど、講談社ブルーバックスで「シャノンの情報理論入門」を読んでいて、情報理論を使って何か書けないかなと思っていました。
 “平行世界を世界線というアイデアはゲームやアニメの「シュタインズ・ゲート」からですから、伝わりにくいんじゃないかな?”と思っていたので評価が高かったのはとても意外です。昨日の夕方にカクヨムに保存されていた「マージナル・インターフェース・ユイ」を自分で読み返しました。率直な感想は、「新世紀エヴァンゲリオン」の声優さんの名前をキャラクター名にしていたり、ヒロインは長門有希だし、自分の好きがてんこ盛りでした。それにすごい粗削り。コピーの内容とは別にどんな部分がSFファンの琴線に触れたのでしょうか。周りにSF関係の知り合いは多いですけれど、「マージナル・インターフェース・ユイ」が良いと言ってくれた方は初めてなのでもう少し詳しくお聞かせいただければ、と思います。
雀部 >
シャノンの情報理論とは懐かしい。日本SF黎明期にもこれをネタにした作品が多く書かれてます(掘先生とか石原先生とか。題名は思い出せないけど^^;)平行世界のアイデアは「シュタインズ・ゲート」からなんですね。アニメの方は見てました。
 「マージナル・インターフェース・ユイ」が良かったのは、一にも二にも文体と進行スピードから来るドライブ感ですね。
あと今気がついたのですが、馴染みのあるシャノンの情報理論に基づいたぶれない設定(世界観)です。エヴァからのネーミングとか「ハルヒ」のキャラと設定からパクリ(笑)もあり、感情移入がしやすかったというのもあると思います。ということで、それまで投稿して頂いた作品の中で一番面白く読めました。
小林 >
ありがとうございます。とても嬉しいです。こんなふうに感想をいただける機会はウェブがいくら広くても、あまりないので僥倖です。
雀部 >
特にお好きな分野とか、興味のあるジャンルは何でしょうか?
小林 >
デザイン史が好きでした。漠然とデザインについて考えていて、何かしら答えが欲しかった時期があったんですね。その頃に勉強したことは今も覚えています。万国博覧会の水晶宮ですとか、建築も好きでした。
 ただあまり勉強したことが記憶に残ってなくて。通っていた高校は都立の工芸高校のグラフィックアーツ科、平たく言うと印刷(プリント)科でした。DTPから始まって、活版印刷を学んだりするユニークな学校でした。映像、CG、フラッシュアニメ、写真、画像編集、イラスト、CI計画、広告と、デザインの華々しい分野に比べると縁の下の力持ちのような仕事を教える学校でした。都内のアニメ好きな学生が集まっていましたね。
雀部 >
その流れから行くと、システムデザイン学部を選択されたというのは必然という感じがしますね。
小林 >
その頃は、未読で恐縮ですが、クラーク『都市と星』やイーガン『順列都市』の系譜に当たる「ゼーガペイン」、一人の美少女を取り巻く未来人・異星人・超能力者の三者関係が楽しい「涼宮ハルヒの憂鬱」、異星人とのボーイミーツガールSF「交響詩篇エウレカセブン」、歴史改変SF「コードギアス反逆のルルーシュ」、黄金の宇宙人との数世代の戦いを描く「蒼穹のファフナー」、それより少し前になりますが、宇宙学園モノの「宇宙のステルヴィア」、異世界の技術で空を飛ぶ航空機が出てくる「LASTEXILE」などSFアニメが花盛りだった時代に青春時代を過ごしました。
 もちろん学生たちの間で『新世紀エヴァンゲリオン』は必須教養(?)で非常に楽しい日々を送らせてもらいました。アニメがとても好きです。
雀部 >
エヴァを入れても、3/8は観てないです(汗;)
 小さい頃は何がお好きだったのでしょう?
小林 >
SFとのファーストコンタクトはNHKで放送されていた「ジーンダイバー」と映画「ジュラシック・パーク」です。好きが高じて水族館や上野の博物館、恐竜博に行くような子どもでした。けっこうマニアックですね。
雀部 >
男の子はみんな恐竜大好きですよね(笑)
 Twitterの固定ツイートに、偏愛するSF10作として、「新世紀エヴァンゲリオン」「ARMS」「コルヌトピア」「ゼーガペイン」「LAMPO-THE HYPERSONIC BOY-」「攻殻機動隊」「野生の詩藻」「Self-Reference ENGINE」「メッセージ(原題:Arrival)」「空の境界」を挙げられていますね。
 バラエティに富んでますが、映像関係が多い印象を受けました。
小林 >
ちなみにこの“#偏愛するSF10作”というタグ、実は僕を含めTwitter上のSF好きなウェブ作家が仲間内で作ったものなんです。思わぬ広がりを見せて、たくさんのSFファンやSF読者の方に参加していただきました。大きな収穫です。
雀部 >
どういった収穫があったのでしょうか。
小林 >
仲間内のコミュニケーションが広がって、フォロワーさんの好きなSFの傾向が分かったことですね。SFと言っても色々なので。あともう一点はTwitter上に、いわゆる憧れのSF読書家さんがいて、Hmasaさんや舞狂小鬼さんなんですが、その方たちにもハッシュタグで偶然にも参加していただき、とても嬉しかったんで
雀部 >
なるほど、色々な方面での知見が得られたということですね。
 今はどんなことをされているのでしょうか。
小林 >
カクヨム上で自主企画のカクヨムSF研2を始めるにあたって、いろいろ準備をしていました。これからどんどん応募が増えるので頑張って読みます。
雀部 >
書かれるとき、読者を意識されてますか?
 想定読者層は設定されてますか?(男女、年齢、SFコア層、ラノベ層対象とか色々ありますが)
小林 >
カクヨムのSFジャンルに関わらずウェブにやって来るのはだいたい10代が多い気がします。SFの楽しみに来るひとの年代がだんだん上がってきていてSFの雰囲気を味わいたい人と本格SFが味わいたい人が分かれます。
 あと僕は雰囲気重視のものしか書けないこともあって読者は10代から20代のSFアニメを見るような子たちだと思います。
雀部 >
そういう若者たちがコアSFも読むようになるとうれしいですね。
ところで、今連載頂いている《SFの小箱》シリーズは、どういった層を狙われているのでしょう?
小林 >
《SFの小箱》はちょうど“SFってわからないなぁ”と思ったところで始めました。マイクロノベルのパート4とパート5のときから、裏テーマとして、ちょっと硬めのSFをおかしな感じで語るということを設定していました。『シナリオのためのSF事典』という本を買ってきて、なかには120テーマほどあるんですが、それを1話、1テーマって割り振っていきました。《SFの小箱》は原稿用紙10枚まで拡大してそれをやってみた感じです。第一回のテラフォーミングは手元にある文献、金子隆一「新世紀未来科学」と森瀬繚「シナリオのためのSF事典」とアイザック・アシモフの「化学の歴史」を順繰りで読んで、どうやら火星のテラフォーミングには温暖化ガス、二酸化炭素が必要というところまでは分かりました。
雀部 >
なるほど。それでサブタイトル《SFの小箱》がついているわけですね。
面白い連載なので、色々突っ込みを入れてみました。こちらにおいてあります。
小林 >
ご指摘は本当に勉強になるので、私が火だるま(笑)になっているところをSF関係で知人になった人たちやTwitterのフォロワーに見せたいですね。きっと初めてSFを書き始めた人の参考になると思います。
雀部 >
あと希望なのですが、サイエンス・ファンタジー系も書いて欲しいですね。制約を設けることで、ストーリーに変化と捻りを加えることが出来ると思うのですが。
たとえば、「質量保存の法則」だと、変身したあとでも変身前と 体重は同じとか。ちょっとひねって、有機物→有機物・無機物→無機物にしか変身できないとか。原子変換すると大爆発するので(笑)
小林 >
ご提案していただき嬉しいです。サイエンス・ファンタジーは未開の地なので、挑戦し甲斐がありそうですね(笑)
雀部 >
ファンタジーにSF要素を一つだけ持ち込むというのは、他は厳密な考証をしなくても良いということなので、書きやすいのではないかと(笑)
小林 >
なるほど、聞きましたか? サイエンス・ファンタジーは穴場ですよ。さっそく検討して書いてみようと思います。
雀部 >
(笑)
 引き続き、素晴らしい作品の投稿をお待ちしております。
小林 >
ありがとうございます。
 カクヨム内で自主企画の「カクヨムSF研2」にぜひともいらしてください。ゲスト作家様はプロで活躍されている十三不塔さんの「猿よ、猿よ!」ほか、ライトノベル作家の七瀬夏扉さんも参加予定です。他にも実力派作家の参加が予定されています。9月30日までです。
[小林ひろき]
 1989年生 カクヨムでウェブ小説を書いています。感想、ご指摘お待ちしています。
[雀部]
 1951年生。子どもたちは、ゲーム・アニメ・ラノベは好きです(汗;)
 インタビュー時のSF的設定に対する突っ込みは“「小林ひろき自作を語る」関連”としてサブファイルにしてあります。