Book Review
レビュアー:[雀部]&[岡本]&[大熊]
『眉村卓の異世界物語 トリビュート作品集』
  • 「眉村卓の異世界物語」刊行委員会
  • 岡本俊弥編集、村上知子協力
  • オンデマンド版1320円
  • 2022.10.20発行
 冒頭に入り口として、眉村先生の短編を置きラジオから聞こえてくる不思議な呼びかけが続き、マイクロノベルから顔を覗かせる奇妙な妻と娘のありさまや、遠未来の官吏たちを縛る矛盾した使命が語られます。大学教師と学生が入れ替わり、受注に苦しむ中小下請けの姿は、会社員時代の眉村さんとの立場逆転を思わせます。どこか可笑しなファンたちの言葉遊び、容姿についての閉塞感に満ちた独白、殺人事件で残されたダイイングメッセージ、よみがえる半世紀前の音声があり、あの学園の人たちのその後、落語めいたロボットたちの会話、見知らぬ原稿に書かれていたこと、手品師の帽子に潜む宇宙と現実との落差が顔を覗かせます。
 掉尾には、異世界から現実への出口として、もう一組の父子のお話が置いてあります。
 巻末は、当時の視点の検証で読み解く、眉村卓インサイダーSF論で締めくくられています。(以上、『眉村卓の異世界物語』編集後記より引用)
【詳しくは『眉村卓の異世界物語』関連本】と、【トリビュート作品の並び順の意図(合いの手いり。著者略歴もあり)】も参照して下さい。
『静かな終末』
  • 眉村卓著、日下三蔵編、まめふくイラスト
  • 竹書房
  • 1430円、Kindle版1287円
  • 2021.3.3発行

初収録作品多数、日本SFの巨匠の知られざるショートショート傑作集
大きな戦争が起きて、どうやら世界は終わるらしい。しかし、そんなニュースは流れない。戦争の噂はデマだったのだろうか……。
不気味な“日常”を描いた表題作ほか、ムダをはぶき効率化を突きつめた企業の行く末「ムダを消せ!」、クイズ番組に人生を賭けるクイズのプロたちの熱き戦い「テレビの人気者・クイズマン(人間百科事典)」等、未収録作品と未文庫化作品を多数収録。実は眉村先生は、あの星先生の二倍以上の作品数を書かれてます。

『仕事ください』
  • 眉村卓著、日下三蔵編、まめふくイラスト
  • 竹書房
  • 1430円、Kindle版1287円
  • 2022.9.1発行
 仕事仕事仕事ください……。意のままになる奴隷を求めた男の前に現れた“やつ”は仕事を求め続ける……。表題作ほか、不思議で哀切なる猫SF「ピーや」、恋人との会話がどんどん食い違ってゆく「信じていたい」、戦争の傷痕を異様な迫力で描く「酔えば戦場」などに加え、第一長篇『燃える傾斜』の原型となった「文明考」などの初期未収録作3篇を収録。
 読めば世界がずれてくる、ぶれてくる。気づいたとき、あなたはすでに別世界。現実と幻想の狭間に迷い込む傑作短篇集。
『日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空』
  • 眉村卓著、日下三蔵編
  • ハヤカワ文庫JA
  • 1650円、Kindle版1485円
  • 2017.12.6発行

現代日本SF第一世代作家6人の傑作選を日下三蔵の編集により刊行するシリーズ。第3弾はアイデアSFの名手、眉村卓。SFコンテスト佳作のデビュー作「下級アイデアマン」、醜い宇宙人をめぐり美醜の基準を問う「わがパキーネ」ほか“異種生命SF”13篇を第一部に、人間とそっくりなロボットが共存する社会の陥穽「準B級市民」、ジュヴナイル中篇「産業士官候補生」ほか、組織と個人の相克を描く“インサイダーSF”9篇を第二部に収録する初期傑作選。

スマホ等で書影・粗筋が表示されない方は、こちらを見て下さい。

雀部 >

昨年7月にブックレビューさせて頂いた『眉村卓の異世界通信』に続いて、オンデマンド出版された『眉村卓の異世界物語 トリビュート作品集』が今年の10月に出たので、またブックレビューをさせて頂くことになりました。
 編集の岡本俊弥さんと刊行委員会の大熊さん、よろしくお願いします。

岡本 >

よろしくお願いします。

大熊 >

よろしくお願いします。

雀部 >
この二冊の発刊に携わって、大熊さんは、どうだったのでしょうか?
大熊 >

眉村さんの教え子(生徒)さんの文章を集めることは、この企画で私がぜひやりたかったことなので、満足しています。
 カルチャーセンター関係は私が担当しました。しかし生徒さんに直接の知合いはいません。眉村さんの教室を新しい講師の方が引き継がれている場合は、その方にとりまとめをお願いできましたが、引き継ぎ手がなくて教室自体がなくなってしまったセンターもあります。
 カルチャーセンターに問い合わせましたが、すでに一年以上経過しており記録が残っていないとのつれない返事。まあ個人情報ですからね。

雀部 >

最近は個人情報保護法がありますからね(汗;)

大熊 >

そこで村上知子さんのお手をわずらわし、お通夜とお葬式の芳名帳から、〇〇センター生徒といった添え書きのある方をピックアップ、それらの方の住所に寄稿依頼状を送っていただきました。追悼文は私宛にメールしていただいたのですが、この方たちは、眉村さんが亡くなって教室がなくなってからもグループを作ってつながっておられました。
 そんなわけで、お葬式には所要があっていけなかった仲間がいるのですが。どうぞどうぞ。ということで、ずいぶんな人数になりました。それらの追悼文は(雀部さんもお読みになられたように)本当に心がこもっており、且つ、全部読みますと、眉村さんがいったいどのような講義をなさっていたか、どのように生徒さんと心を通わせておられたか(講義後も含めて)が、一枚の絵のように合成されてきまして、なかなか大変ではありましたが、ああこれぞ編集冥利だなあと感激したことでした。

雀部 >
良いお仕事をされました。
 今回は作家としてのご参加ということで、どういったところに心を配られたのでしょうか。“テイニー”で村上知子さんの「丸池の畔で」と呼応されているのは偶然ですよね。
大熊 >
偶然です。しかし、ご承知のとおりテイニーは『その果てを知らず』に登場するテレポート技術ですから、「呼応」は、ある意味必然でもあります。笑。
 今回、トリビュート作品集ということでまず思いついたのが、眉村さんの小説の文章を使って、それを切り貼りし、眉村さんぽいストーリーをでっち上げる、というものでした。つまりコラージュ小説ですね。
 目のつけどころはよかったと思うのですがなかなか、これが言うは易しやるは難しで、時間が潤沢にあればなんとかなったかもですが、どう見積もっても締め切りに間に合わない。ということで、いったんは提出を諦めたのでした。締め切りまで一ヶ月を切って、ふと、「うどん足」(言うまでもなく出典は『その果てを知らず』)という表現が自己増殖し始め、かつ、コラージュは無理でも文体模写ならなんとかなるかも、と、急にその気になり、岡本編集長にお願いして締め切りを延ばしてもらい、山の上ホテルはさすがに分不相応、京都のビジネスホテルに自主カンヅメして書き上げました。その辺のいきさつは作中に反映されていますね。
雀部 >

確かに。執筆に七転八倒する様が目に浮かぶようでした(笑)

大熊 >
ラストの設定オチの部分は「時のオデュセウス」を借りていて、原典では、ムラは一本の時間線を護持するいわば単一時間線派で、拙作のムラ(ムラだったのです!)もそこは同じなのですが、ピッツ(小松さん?)とハーク(筒井さん?)の立場は原典とは違っていますので、念のため(笑)
雀部 >
そうなのですね。「時のオデュセウス」には全く気が付いてませんでした(汗;)
ところで、『眉村卓の異世界通信』が“「ネクパブPODアワード2022」優秀賞”を受賞されたそうで、おめでとうございます。
 上記ページで「2022年3月23日に行われた、オンライン授賞式」も観ることが出来ますね。これを拝見すると、『眉村卓の異世界通信』に込められた想いが、きちんと評価されての受賞のようで、大変良かったです。
岡本 >
そうですね。「ネクパブPODアワード」はノンジャンルの賞なので、その趣旨やユニークさが重視されるということもあり、評価されたのだと思います。
雀部 >
オンデマンド本というと、「アニマ・ソラリス」の初代編集長の-卓-さんも出したことがあるのですが、昔で言うと個人出版の本を対象とした賞みたいですね。
岡本 >
個人が大半ですね。団体や個人出版社も含まれますが。ただ、Amazonの考え方は少し違います。大手のプロ出版でもニッチな本はオンデマンドで扱います。たとえば洋書を注文すると、海外から送られてくるのではなく、日本で印刷されて届くとかがあるんですね。
 USではプロ出版を含む紙の本の1割が、オンデマンドになっているという話もあります。
雀部 >
えっ、そうなんですか。まったく知りませんでした。
 手元に、送っていただいた表紙カバー付きのものと、Amazonで購入したカバーのないものと二種類があって、Amazonで購入したものには、ISBNコードが付いてました。奥付も若干違いますね。
岡本 >
Amazon直と、旧来のネクパブ・オーサーズプレス経由との2種類を作りました。Amazonではカバー付きが作れないためですが、ネクパブはコストが高くなるので、今回一般向けには使いませんでした。
 カバー付きは著者用・寄贈用専用です。中味はどちらも同じですから、優劣を付けるためではありません。寄贈版をお持ちの方も、よろしければAmazon版をお買い求めください。
雀部 >
買いました(笑)
 よく知らないのですが、作家のトリビュート作品集というのは、珍しいのでしょうか。
岡本 >
海外ではそうでもありませんが、日本では少ないと思います。最近だと、伊藤計劃トリビュートがありました。あれと本書では、ずいぶん雰囲気が違いますけどね。
雀部 >
確かに。
 『伊藤計劃記録』には、アニマ・ソラリスのインタビュー記事も収録されました。最初で最後かも(汗;)
 昨年の『眉村卓の異世界通信』とはコンセプトが違うので、ご苦労されたところも違うのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
岡本 >

小説と追悼文(エッセイ)という違いはあります。前回は一般の書き手が多く、各担当者(制作委員)は集めるのが大変でした。今回は執筆者が限られましたので、とりまとめの苦労は逆に少なかったかも知れませんね。編者としては、どう並べれば印象が高まるかを主に考えました。

雀部 >

その印象が高まる並び方のご苦労とは、どんなところなのでしょうか?
 音楽家(歌手)がアルバムを製作する際の、楽曲の順番的なところなのですか。

岡本 >

音楽プロデューサではないので良くは分りませんが、そういうことなのでしょうね。ばらばらだと思われたのなら失敗ですが、読まれてみてどうお感じになりましたか?

雀部 >

どの作品からも眉村先生のミームを感ずることができるという統一感はあります。
 最初は、異世界への門が開いて、段々と異世界(異境)に連れ出され、また現実世界へと誘われるという構成かとも思ったのですが違いますね(汗;)
 音楽プロデューサーとか編曲家の本を読むと、CDアルバムだと冒頭はこういう曲で、締めはこういう曲でというのがあるし、4曲目にはヒット曲を入れてその次に自信作を入れるとか(LP時代はまた違う)
 まあ音楽畑と比べてもしょうがないのですけど、アンソロジーなんかにも順番の法則があったら知りたいなと思いまして……

岡本 >
冒頭に眉村さんのこの作品を置いたのには、いくつかの理由があります。
 まず、「異世界の入口」というのはあとがきに書いたとおりですが、眉村さんの作品は、電子版のない近作がなかなか入手できないという事情があります。日下三蔵編コレクションでレアな初期作が読める反面、(ピンポイントで古書を探せばありますが)ちょうど良い時期の作品がない。読めばお分かりのように、これも初期作より洗練されていますので、忘れられるのはもったいないですよね。
 次の芦辺さんの作品は過去に戻って70年代の記憶、北野さんや私の作品(ちなみに「養成所教官」は「二〇〇一年宇宙の旅」初公開時を記念した、SFマガジン宇宙SF特集号に載ったものです)はその前後の時代がベースです。
 藤野さんの時代はずっと後ですが、これはショートショートなので長めの作品の間に挟んでいます。雫石さんは個人のナマの体験と《司政官》をソフトに結んだものですね。高井さんは70年代の原体験がベースとなるショートショートで、これも読む順番を考えて配置しています。
 管さんの作品は短編集の表題作にもなった重量級の作品ですが、眉村作品との結びつきは今回初めて明らかになりました。重い作品の後は、竹本健治さん河内実加さんの作品で気分を変えていただいて、次の朗読再生で一挙に過去へと戻っていただくという趣向です。
 椎原さんの後日譚は正統派のトリビュート、深田さんはちょっと捻った作品でモデルとなった作品はないと思います。大熊さんは晩年の作品のパロディ、石坪さんは今風の中高年リストラをインサイダーSF風に描くと「宇宙の熱死」になったという不思議な作品です。これら4作品は読みやすい配置にしています。
 村上知子さんの作品は、眉村さんと知子さんがロンドンを旅した際の雰囲気を反映した作品です。SFではないのですが、あり得たかも知れない対話に父娘の関係が浮かび上がります。つまり、現実への出口というわけです。
 順番に読んでいった際に、テーマや長さなど、強弱、軽重がお互いの作品同士で干渉し合わないように並べたものですね。
雀部 >
詳しくありがとうございました。年代順とか明暗とかの単純な並べ方ではなかったのですね。
(この並び順の意図については、リンク先に私が合いの手を入れたバージョンがあります。ぜひこちらも参照して下さい)
眉村先生というと、私にとってはまず『司政官』がありまして、SFマガジンを読み始めた頃に連載されていた短編とか連載長編(特に『EXPO'87』とか)が印象に残っているのですが、ファンタジー系の作品の方がはるかに多いんですね。
岡本 >

《司政官》は(『引き潮のとき』を除けば)、眉村さんの作家歴からすると中期ですからね。今回の書き手の皆さんの年代とずれるのでしょう。本当は宇宙SF枠の作品も欲しかったのですが、内容をあらかじめ規定したわけではないので、結果的にこうなったというわけです。

雀部 >

宇宙SF枠となると、コアSFの薫り高い岡本さんの「時の養成所」も少し外れますか。
 記憶を呼び起こすために昨年出たショートショート集『静かな終末』と、今年出た短編集『仕事ください』を読み返してみました。
 なるほど。
 どの物語にも眉村卓先生のミーム(脳内の複製可能な情報)が確かに息づいてます。
 そう言えば、『眉村卓の異世界物語』の扉に“その返信は時を超え過去に遡り、われわれの遺伝子配列に書き込まれていたのです。”とあり、これは至言だなぁと感じ入りました。

岡本 >
フィクションに昇華したトリビュートと言うより、もっと直截的に顕われてきているような感じですね。集めた作品の結果としては。
雀部 >

巻末の堀晃先生による「インサイダーSFはいかに生まれたか」を除外すると、15作品が収録されています。
 私の独断と偏見でサブジャンル分けをしてみると、うち10作品が私ファンタジー(妻ファンタジー含む)、SFが2作品(過去の音源含む)、インサイダーSFが3作品、ホラーが2作品、ハチャハチャ系が2作品(マンガを含む)。15作品を超えているのは重複ありだからです(汗;)
私ファンタジー系の作品が多い気がしました。

岡本 >
ジャンルに分けるより、各作家がどの時期(中学生、高校生のとき)、あるいはどの作品(「奇妙な妻」とか「あの真珠色の朝を」とか)に影響を受けたのか、で分けた方が分りやすいのではないでしょうか。
雀部 >

読み返して以下に簡単にまとめてみました。
『眉村卓の異世界物語』関連本
 こうやってみると、確かに眉村先生のトリビュート作品集になってますね。
 各作者の年齢層が比較的近いのも我々の世代には取っつきやすい印象です。
 『眉村卓の異世界物語』を出された目的というか意義を想像してみたのですが、追悼という意味合いは当然として、我々はこういう形で眉村先生のミームを継承していますという決意のようなものが感じられました。

岡本 >
そう受け取っていただけるのなら嬉しいですね。
雀部 >
眉村先生のミームが広まることによって、眉村先生の作品そのものも末永く愛され続けることを願っています。
大熊 >
私もそう願っています。
雀部 >
岡本さん、大熊さんありがとうございました。そしてご苦労様でした。
[岡本俊弥]
SF宝石、SFアドベンチャーで創刊から終刊まで続いた「SFチェックリスト」欄や、週刊読書人で書評欄を担当。『最新版SFガイドマップ』の監訳、サンリオSF文庫、創元推理文庫、ハヤカワ文庫の解説や、最近でもSFマガジンや、オンライン読書サイトのシミルボンで記事を執筆。『海外SFハンドブック』『ハヤカワ文庫SF総解説2000』、星雲賞受賞の『サンリオSF文庫総解説』に寄稿している。
2015年以降THATTA ONLINE、チャチャヤング・ショートショート・マガジンなどの媒体に小説を執筆。短編集『機械の精神分析医』を2019年に、『二〇三八年から来た兵士』『猫の王』を2020年に、『千の夢』を2021年にそれぞれアマゾンPOD、キンドルで出版。また、海外オンラインのFudoki Magazine、Lockdown Sci-Fiなどでも英語翻訳版の紹介がある。
[大熊宏俊]
1955年生。大阪府出身。中学生のとき深夜放送MBSチャチャヤングを聴き、その後の人生が決定する。大学入学と同時に入会したSF研究会で(のちの)西秋生と出会い、チャチャヤング・ショートショートコーナーの後継創作誌「創作研究会」に誘われ入会。創作研究会分裂に際しては西秋生・宇井亜綺夫(中相作)の「風の翼」に所属するも、「創作研究会」にも寄稿するというヌエ的行動をとっていた。
2003年より「眉村卓さんを囲む会」主催。2013年、眉村卓さんデビュー50周年を期してチャチャヤング・ショートショートの会を発足し「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」創刊、編集担当となり現在にいたる。
 眉村卓さん応援サイト「チャチャヤン気分」https://blog.goo.ne.jp/kumagoro0529
[雀部]
 1951年生。大学生の時にSF研に入れなかった落ちこぼれ(汗;)
 大熊さんに誘っていただき、故眉村先生にインタビューさせて頂く機会(たぶん定例の懇親会)があったのですが、どうしても都合が付かず断念したのは痛恨の極みでした。