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プログレカフェ夜話
―SFと音楽のスパイラル―

マリリオン:UK ◇ ブレイブ 1994
(中編) 

KONDOK

 実はマリリオンには、もう一枚傑作といわれている作品があります。初代ボーカリストのFishが在籍した当時のスラジオ録音3枚目『Missplaced Child』(1985年)がそれです。
 丁度、私が初回のプログレ学習期間を終えた直後でしたね。当時のレコード屋にそれは並んでいたのですが、既に関心が薄くなっており、昔の軍隊調の服を着て腕に小鳥を従え、何か不機嫌そうに見る者を睨み返している少年が描かれたジャケットにあまり興味はありませんでした。
 それで、まったく忘れていたのですが、たまたま『一人芝居の道化師』の中古LPにめぐり合い、改めてマリリオンという稀有のバンドの存在を知り、この3作目を再認識したのです。
 プログレに限らず、多くの優れた音楽作品は、はじめの数小節で聴く者にその全体のイメージを意識付け、更に数人にはその世界に浸りこんで同化させるのに成功するのです。そうなったら、もう抜け出られない深い森に迷い込んだようなものですね。
 それにしても、なんて物悲しいイントロでしょう。それでいてエキゾチックな香りが神秘的に漂い、聴く者をこれからの冒険の予想にぞくぞくさせます。因みに曲名は『Pseudo Silk Kimono』。偽母なのか何処かの婦人なのか、女性のしなやかな影もちらつきます。この時期は、Fishの少年時代や過去の経験からくる心象が多く語られているそうです。 おっと、今回はこのアルバムではなく、『ブレイブ』でしたね。『Missplaced Child』についても、あなたが我慢して一杯付き合ってくれるのならば、またいずれお話しましょう。

 そうそう、今かかっている『ブレイブ』の一節、聞き取れましたか。日本語で『何かを感じるまで一気に止めて。・・・・それでいいのよ。なれるのよ。』って言っていると思います。場所は阿片窟かな。つまり、神秘的な東洋人の魔性の誘い。落ちて行く悲しさと美の麻薬に痺れ、まるで、その後のベースがこころの時を刻んでいくようですね。
 さっき話した『Missplaced Child』と『ブレイブ』に1点共通のポイントがあります。いえいえ、メンバーや曲ではありません。それは、ジャケット。
 『Missplaced Child』では少年が睨み返していますが、『ブレイブ』でもまるでこの世の全てを呪うかのような少女の顔がクローズアップされ、われわれを見返しています。それはしかし、『Missplaced Child』の少年よりもっと物悲しく、痛々しい悲鳴に見えますな。なぜなら、少女の睨み返す瞳はもはや何も見据えては居ないからです。
 この顔の迫力はクリムゾン大王の大きく口を開いた赤い顔に匹敵しますが、何分こちらはモンタージュで、顔に影をさす隈に、思わず目を背けたくなります。
 1985年の『Missplaced Child』から1994年の『ブレイブ』へ。ボーカルがFishからボガースに変わり、マリリオンは破壊的な自己の主張から、社会的な問題への関心へと視点を変えて行きます。
 解説によると、アルバムのモチーフは、ボガースがアルバイト中に車のラジオから流れてきた1編のニュースに有るそうです。
 それは、英国の幹線道路の一つM4の近くの橋の下に一人の家出少女が見つかったと言うニュースでした。しかし、少女は記憶をなくしており、警官の問いかけにももはや反応することが出来ない有様でした。
 「どうしてなんだ。一体どうしちまったんだ?少女もこの国も。」
 ボガースは悩みながら、ペンを走らせます。まるで、曲に心情を写しながらそれをたどれば少女の痛みが分かるかのように・・・・・・。あ、済みませんな。これは少々私の勝手な想像が入ってます。まったく、最近「ノーマッド」がことのほか効きますんで。
 それから、ボガースの曲を中心にマリリオンのメンバーでアレンジを加え、完成させたと言います。およそ、派手なロックの曲調は少なく、売れそうなポップの部分も全体の一部で、全曲70分に及ぶトータルアルバムです。
 まあ、日本では売れないことが約束されたような、考えられない代物でしょう。
 それでも、大手レコード会社のEMIから発売され、全英アルバムチャート10位まで登ったそうです。また、その発売に伴って行われたライブは盛況で、パリでの様子がライブCD『Maid Again』に収められています。
 これが英国、あるいはヨーロッパなのかも知れません。ファンの方は、底力と表現されていますが、まったくその通りだと思います。
 もっとも、その後EMIの期待ほどではなかったため、方針を変えたEMIのリストラの原因にはなったそうですが。
 ということで、マリリオンは現在Sanctuaryを経てIntact Recordingsというレーベルからアルバムを発表しています。息の長い活動で、2004年10月には『Marbles』を出していますね。いずれ、日本に来てもらいたいバンドの筆頭です。

 ああ、そろそろ曲は佳境に入り始めました。少女はハインラインの『夏への扉』を探す猫のように、自分の居場所を求め次々に扉を開けては打ちのめされて舞い戻ります。 また家出をしてはアヘンに浸って、身体を売り、身も心も疲れ果てて、少しずつ少女の精神がこの世からずれ始めます。少女の魂がすがりつける人は今何処に居るのでしょうか?
 それを求めてさ迷う少女の魂と、少女を見つめていながら何も出来ない孤独な男の魂。その2つが出会う場所はあるのでしょうか?
 ボガースの歌声は切々と、「きみはなんて勇敢な少女だ。大きな嘘からの逃避行をするなんて。ああ『ブレイブ』だ」と、歌い上げます。きっとボガースの今ここにある魂は、とうに少女に遅れてしまった自分と、少女とめぐり合えない自分のもどかしさを乗り越え、少女への賛歌へと連なっているはずです。
 こんな勇敢な少女が最後に選択するのは何でしょう?何処へ向かうのでしょう?

 本当は、今ここで終えてしまいたい気持ちなんです。私は本来軽薄で、あんまり勇気を持ち合わせていないもので。あっ、はいはい。それは最後まで演奏するマリリオンに失礼ですね。それに、少女にも。それでは、このトータルアルバムの白眉『The Great Escape』を粛々と聴いてみる事にしましょう。

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