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SF読者のための量子力学入門

前期量子論 Old Quantum Theory
2. 光量子仮説 the Light Quantum Hypothesis

白田英雄

金属板に光を当てると電子が飛び出してくることが知られています。飛び出してきた電子を電極で集めることでそれを確認することができます。今でも光電管 Photomultiplier Tube という真空管の形で用いられていますが、今の半導体の CCD なんかがなかった時代には光電管で映像を記録していたという話も聞いたことがあります。
この電子が飛び出てくる現象のことを光電効果 Photoelectric effect といいます。(デジカメやビデオで使われているCCDもこの光電効果を利用したものです。)

光電効果は19世紀にヘルツの実験中に発見されましたが、その奇妙な性質のために、物理学者は頭を悩ませていました。
普通、海の波や音などのエネルギーは波の振幅によって決まってきます。小さい音よりも大きい音の方がエネルギーが大きいということはわかりやすいと思います。
さて、前回書きましたように、19世紀にはマックスウェルの方程式から光が電磁波という波であることがわかってきました。波なら音などとの類推から振幅が大きいほどエネルギーが大きくなってよさそうです。
ところが、光電効果で観測される電子のエネルギーを測定すると、いくら光の強度つまり振幅を大きくしても、電子のエネルギーは変わらなかったのです。さらにいくつかの性質がわかっていました。
・光の波長を短くすると電子のエネルギーが大きくなる。(光のエネルギーは波長に反比例する。)
・光の波長が長いと、いくら光の強度を強くしても電子は出てこない。(光のエネルギーは光の振幅によらない。)
・光が放射されるとすぐに電子が飛び出してくる。(光が波だとすると、エネルギーは電子に徐々に蓄えられる
と考えられるが、そうではなくてエネルギーは瞬間的に電子に移る。)
それまでの波としての光の性質をどう解釈しても光電効果を説明することはできませんでした。

そんなとき、特殊相対性理論を発表した同じ年に、かのアインシュタインはこの現象を説明付ける仮説を立てました。
アインシュタインはそれまで波と考えられてきた光の正体を粒子であると考えました。そして、光の粒子(=光量子または光子)が持っているエネルギーは光の周波数に比例すると考えたのです。(粒子と考えたのに、波の性質を持ってくるのは変な話ですが、少なくとも光の波としての性質はマックスウェルの方程式から導き出せますので、それをそのまま使うことにします。) そして、光の粒が金属板の中にある自由電子に吸収されることによって、電子がエネルギーを得るとしたのです。

光の粒子はエネルギーのかたまりですから、それが電子にぶつかることによってエネルギーは光の粒子のエネルギー分を一挙に獲得します。ところが、金属板の中の電子は金属に束縛されているので、ある一定以上のエネルギーを与えられないと金属の表面を振り切ることができません。光の速度は一定なので、光の周波数は光の波長に反比例します。そのため、ある程度波長が短くないと、電子は金属板から外に出ることができなかったのです。
実験から、金属板から電子が飛び出すために必要な最低限のエネルギーは金属によって違うということと、光の持つエネルギーが光の周波数に比例するということがわかっています。その比例係数はプランク定数と呼ばれ、量子力学において非常に重要な定数となっています。
ちなみに光の強さは飛び出してくる電子の個数に関係していることがわかっています。
アインシュタインの光子に対する仮説を光量子仮説と言いますが、彼はこの光量子仮説の成果によって1921年のノーベル物理学賞を受賞しています。
注:実際にアインシュタインが1921年のノーベル物理学賞を受賞したことを知ったのは、1922年11月10日、日本へ来る途中の船の上のできごとでした。
デジカメの例だけでも十分身近かもしれませんが、他にももっと光量子効果を体感できる現象があります。
日焼けです。
赤外線ストーブでは日焼けはおきませんが、紫外線ランプでは日焼けが起きます。赤外線ストーブは無い家庭もあるでしょうね。こたつでは日焼けが起きない、と言い換えましょうか。赤外線は波長が長い電磁波なのに対して、紫外線は波長が短い電磁波です。
そのため、紫外線の方が持っているエネルギーが大きくて、皮膚の細胞に影響を与えることができるのです。

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