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SF読者のための量子力学入門

古典量子力学 Classic Quantum Mechanics
7. 複素数の波 Wave of Complex Number

白田英雄

シュレーディンガー方程式は波動方程式ですから、解けば当然波動関数が得られます。ただ、普通の波動関数と違って、シュレーディンガー方程式の解は複素数の波になっていたりします。複素数と聞いて、う、と思ってしまった方も多くいるかと思います。波動関数がどうたらこうたら、と言われてわけわからなくなってるところに、複素数の波とはなんぞや、という感じでしょう。
そこで、まずは複素数の話をして、それから普通の波、複素数の波と説明していきましょう。
普通の数は実数といいます。二乗(同じ数同士で掛け合わせること)すると正の数になる数のことです。それに対して、二乗すると負の数になる数のことを純虚数といいます。この実数と純虚数を足し合わせた数の集まりのことを複素数と言います。
複素数を使うと何が都合がいいのでしょうか?
実数は数直線で表されるように直線的です。それに対して、複素数は平面的に表すことができるのです。

図を見て下さい。横軸上に乗っている数が実数で、縦軸上に乗っている数が純虚数になります。複素数はこの横軸と縦軸で表される平面の点のことだと思ってもらえればいいです。丁度平面をX座標とY座標で表しているのと同じことです。足し算で表してるところがちょっと違いますけど。余談ですが、複素数のようにふたつの数の組でなくて、4つの数の組で表す数もあります。四元数といって、4次元つまり相対論的な世界を表すときに使われることもある数です。
平面上の点はXY座標で表す他に、極座標で表す方法もあります。複素数の場合でもそのような表現ができます。原点からの距離を、その複素数の大きさといいます。

さてお立ち合い。
原点中心で、ある半径の円をこの複素数の平面に考えます。それで、この円の上を反時計まわりに一定速度でぐるぐる回転してると考えましょう。実はこれがいわゆる波の元になるものなのです。
この円上の点の動きについて実数軸上の値だけに注目してみましょう。きれいなサインカーブを描いてるのがわかります。

波動方程式の解である波の特徴のひとつに重ね合わせができるというのがあるのですが、それを使うとサインカーブから任意の波を作ることができるのです。これは色んな半径で色んな速度でぐるぐるまわる円からできるサインカーブを足し合わせることを意味します。

海の波も、音も光も、この複素数の平面上の円に還元することができます。複素数の平面上の円を考えた方が物理的には扱いやすいので、よくこのような表現が使われます。
ではシュレーディンガー方程式の解である波動関数はどうなのでしょうか? 上で考えた波は円の半径(=振幅)が実数でしたが、シュレーディンガー方程式の解では、この振幅が複素数になってしまうのです。
さて困りました。量子の性質を表す根本の方程式の答が複素数になってしまうということは、実際の量子の性質を説明するのに非常に都合が悪いことです。なにせ、上の普通の波の説明にもありましたように、実数の波なら振幅が実数なので、現実世界の振幅と関連付けることができますが、複素数だとそうもいかないからです。
1926年、ボルンは実験結果との比較から次のように考えました。
シュレーディンガー方程式の解である波動関数の二乗を取ると、それが粒子の存在確率となる。
複素数の話をしてるうちに大変なことになってしまいました。なんと粒子は確率的にしか存在しないということになってしまったのです。
この解釈は現在の量子力学では主流の考えではありますが、これが絶対正しいとは誰も言えない状況だったりします。
ある意味、この複素数の波の正体には目をつぶりつつ、そこから得られる周辺的な情報を計算するというのが現在の物理学でのありかただったりします。
このテーマについては後日、回を改めて解説することにしましょう。

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