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SF読者のための量子力学入門

古典量子力学 Classic Quantum Mechanics
11. 量子統計 the Quantum Statistics

白田英雄

前々回にスピンの話をしました。そのときに電子のスピンは1/2であることに触れました。
量子はみな固有の量子数としてスピンを持っています。電子といっしょに、これまでも何回も登場している光子はスピンが1となっています。電磁波である光のスピンが1とは如何。実は光には偏光という性質があるのですが、光が偏光を持つのはスピンが1であることから来てるのでした。他の例としては原子核を結びつけている強い力を介在しているπ中間子が持っているスピンは0です。原子核の中に入っている陽子や中性子はスピン1/2となっています。このように、スピンには整数の場合と1/2の奇数倍の場合の2種類があって、実はそれぞれで量子の性質が異なってきます。
スピンが整数のものをボーズ粒子(ボース粒子)といい、1/2の奇数倍の場合をフェルミ粒子といいます。ボソンとフェルミオンともいいます。

ボソンとフェルミオンの性質は光子と電子の性質に端的に表されています。
光は重ね合わせることによって、一カ所にいくつでも押し込むことができます。それに対して、電子はパウリの排他律でも説明しましたように、同じ状態にはひとつの電子しか存在することができません。
もう少しわかりやすいことばで説明すると、光は波の性質が強く、電子は粒子の性質が強くでているということなのです。
この性質のことを量子統計という言葉で説明することもあります。ボーズ粒子はボーズ統計に、フェルミ粒子はフェルミ統計に従うということです。
なぜ統計などという言葉を使うのかというと、状態の数の数え方が関係してくるからなのです。
ふたつの箱とふたつの粒子があって、箱に粒子を入れる場合の数を数えてみましょう。
古典的には次の4つの場合の数があります。

粒子が左右に分かれて存在する確率は、4つの場合の数のうち2つということで1/2となります。
それではボーズ統計の場合はどうなるでしょうか。ボソンは重ね合わせることができるので、片方の箱に2つ入ることが許されます。ところが右に入っている粒子と左に入っている粒子の区別をすることができなくなるのです。量子力学ではふたつの同じ性質の量子があったときに、そのふたつを区別することはできないと考えます。考えるだけでなく、実際に計ってみるとその通りになっているのです。この場合、場合の数は次の3つになります。

粒子が左右に分かれて存在する場合の数は1つしかないのですから、粒子が左右に分かれて存在する確率は1/3になります。明かに古典論とは状況が違ってきます。
さて、それではフェルミ統計の場合はどうなるでしょうか。量子が区別できないというのは先程の通りです。スピンが+1/2と-1/2の場合(スピンが上向きと下向きと言います)は、スピンという状態が違ってくるので、ひとつの箱にいっしょに入ることができますが、スピンも同じ状態になっていた場合、箱に入れる量子の数はそれぞれ1個です。つまり場合の数は次の1個しかありえません。

粒子が左右に分かれて存在する確率は1となります。
古典量子力学の世界での話では、こういう風に数えるよ、という話だけになってしまうのですが、いずれ話す予定の場の量子論の世界でボーズ粒子とフェルミ粒子が再びクローズアップされてきます。フェルミ粒子は物質そのものを表わすのに対して、ボーズ粒子は物質を結合させるための力を媒介する粒子ということになるのです。しかし、その話はまたそのうち、ということで。

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