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六畳間シアターより愛をこめて

センタースピーカーの逆襲(前編)

ゾンビ

逆襲シリーズは続きます。
前回に引き続き、雑誌の引用から。この夏「長岡鉄男ホームシアターのすべて」というムックが刊行された(音元出版)。長岡氏は去年惜しくも亡くなられたオーディオ評論家だが、生前のホームシアターに関する文を集めたのがこの本だ。
157頁、ドルビーデジタル対応スピーカー自作の記事に、以下のような記述がある。「AVにセンタースピーカーは不要、というのが筆者の主張。センタースピーカーの置き場がないのだ。(中略)センタースピーカーはセリフが中心だからレンジは狭くてもよい。この考え方は支配的で、センタースピーカーの選び方がAVのポイントとされた。センタースピーカーは何がよいかというアホな記事も多くみられた。この方式は人が喋りながらスクリーンのはしからはしへ歩いていくと、中央に来た時に声の質ががらりと変わり、身長ががくんと小さくなる。
しかしそんなことに驚いていてはAVマニアにはなれない。AVマニアというのはソフトの中身を重視し、画質、音質には無関心なのである。それはそれでいいと思う。逆にいえば、VAマニアというのは画質、音質を重視し、中身には無関心な人たちである。」
この言われかた。センタースピーカーユーザーはアホバカ呼ばわりである。
どうですか、実際センタースピーカー使われている方、ちょっとムッときたでしょう(笑)
かようにして、センタースピーカーに対する風当たりはきつい。先月からの延長になるが、ピュア派がAVアンプの次に攻撃対象にするのがセンタースピーカーなのである。
センタースピーカー不要論の根拠は3つある。

1.従来のステレオは左右2チャンネルで、ちゃんとセッティングすればボーカルが真ん中に定位する。つまりこれまでの音楽再生はすべからくセンターファントムだったのだ。よって映画であっても、ピュアオーディオ2chのアプローチにより、適切にセッティングすることで台詞は中央に定位するはずだ。

2.センタースピーカーをどこに置くのだ。実際問題、画面の上か下に置くしかなく、画面と音像の位置が合わないこと、音像が水平にパンした場合は真ん中に移った時点で上か下にブレるなど、不自然であり、全てセンターなど設けずにファントムで解決する。

3.大きさ、グレードについて、左右フロントに釣り合うセンターが無い。3本に統一性を欠くことによる不自然さ。JBLやタンノイの巨大フロアスピーカーに合わせられるセンタースピーカーが有るか。無理矢理小さいものを置いてトータルのグレードを下げることはない。

ところで、ファントム再生であるが、整理しておくと、ドルビープロロジック時代とドルビーデジタル・dts主流の最近では、その処理は異なっていることに留意いただきたい。プロロジックにおけるファントム再生では、そもそもの2チャンネルステレオからセンター成分を抽出しセンターに分離再生するということをあえてやめ、本来の2チャンネルのままで再生するものであったが、DD・dtsでははじめから右・中・左と分離した状態で収録されたソースの、中の部分を左右に振り分けるというプロセスによるものだ。

先の長岡氏の意見についても、96年:ドルビープロロジックからドルビーデジタルへの移行期の頃だったことに注目したい。氏もこの記事を書かれた時点ではドルビーデジタルを本格的に聴いたことがなかったことが、文の後半を読んでいくとうかがい知ることができる。つまり氏のセンタースピーカー不要論は「プロロジックにおける」という前提条件を踏まえてのものなのだ。

私がここで主張したいのは、「センター不要論はプロロジック時代ではともかく、DD・dts時代では説得力を持たない」ということ。

ホームシアターにおけるセンタースピーカーの存在意義とは?広い劇場では、その音エネルギーのいわゆる「中抜け現象」防止のため、というまた別の存在理由があったのだが、狭いマイルームでの単なるダウンサイジングは説得力が無い。それならば?

実際のところは、以前私もセンター無しでしばらく通していたのだが、長岡氏の言うように充分おっけーというものには程遠かった。確かに台詞の位置が、画面との違和感は無く至極自然ではあるが、BGMや効果音と混然一体となり、前に出てこないのだ。さらに悪いことに、ピーク時(例えばアポロ13のロケット打ち上げ、ロストインスペース冒頭の宇宙戦等、システムの踏ん張りどころだ)でフロントが突然毛布で覆われたかのようにくぐもってしまい、白けることこの上無かった。
この現象は、ファントム再生から、センター追加して本来の5.1再生に切り替えると発生しなかったので、たまたまファントム再生不良の機種を当ててしまったのか、当該のアンプはもう他人の手にあるのでこれ以上追及のしようがないが、最近の雑誌で機種によってはファントム再生のロジック不良があるという記述もあり(左右に振り分ける時にビットがオーバーフローするらしい)、それだったのでは、とも思っている。

ドルビーデジタルにおけるファントム再生は、本来3つに分離している信号の内1つを残り2つに振り分けるロジックを、ワンクッション「かます」わけだから、それだけピュアでなくなるのがなかなか皮肉でもある。

そのようなことで、私はセンタースピーカーをやむなく導入し、しかしながらファントム再生不良を起こさない新しいアンプになった今でも、センタースピーカーは必須だと感じている。台詞位置の不自然さという点も、センターの上下位置を画面下部ギリギリまでシフトさせ、リスニングポイントに向ける仰角を注意深く調整することで、視聴中はほとんど気にならないレベルにまで追い込める。正直なところは「それほど気にならないよな、うんうん」と自分に言い聞かせていることに気づいたりすることもあるが。

今更ファントムにはできない。台詞の位置というデメリットより、情報量の多さ、迫力、細かいニュアンスの伝わり方におけるアドバンテージを私は取る。台詞がこもる、前に出てこない、というのは、映画鑑賞では致命的マイナスファクターだから。これは上等なスピーカーを適切に配置すれば、実在感のある音像が中央にできるはず、などというひとことで解決しないのは、やってみればわかる。上質であるかどうかはともかくとして、私もDVDと同じ位の時間(それ以上かもしれない)CDを聴きこみ、2チャンネル再生で中央にヴォーカルがきちっと定位する程には、セッティングできているはずなのに、そのままで映画を観るとやはりぱっとしないのだ。試しにセンターのみを鳴らし左右のボリュームを絞る、そしてその逆、という実験をしてみてほしい。後者の場合ではほとんど鑑賞に耐えないのに対し、前者の場合、しばらくは「おかしい」ことに気づかないこともある程だ。
プロロジック時代と異なる、こんにちのDD・dts再生の音響効果、演出方法のポイントがここにある。ストーリー進行上一番重要な台詞、打撃、銃声、衝撃音、音響面での主役は、前面に出るように分離されたセンタースピーカーからの音であり、左右スピーカーは残響音で深みを増したり、BGMで気分を盛り上げるなど、あくまで引き立て役なのだ。各チャンネルの役割、重みづけが違う。先の長岡氏が例にあげたような、主人公がしゃべりながら画面を横切るなどという、まるでステレオ再生のデモのようなわざとらしいシーンを観たことがありますか。DD・dtsの映画は、各チャンネルの役目を立体的に生かそうとする演出なり編集がされていることは、映画一本観れば容易に納得できるはずだ。
以上の理由から、6畳間マイルームシアターでは、私の意見としては、ピュア派の言葉に迷うことなく、積極的にセンタースピーカー導入を検討して欲しい。ピュア派がファントム再生で充分再生できると主張するケースでお使いのスピーカー、及びそれを鳴らす部屋や音量は、我らが6畳間のそれとは全く別世界のものなのだから。センターチャンネルの情報量の多さを考えると、さしあたってリアスピーカーは数千円のサテライトタイプで構わないにしても、そのようなクラスをセンターに持ってくるのは禁物、ということも大体おわかりかと思う。
例えば、雑誌に出てくるユーザー。左右はある程度立派なフロア型なのに、センターは安易にチープなもの(それも床直置き)だったりするから、ピュア派の格好の攻撃対象にされてしまうのである・・・・(次号に続く!)

おすすめDVD
1:Akira Special Edition
鉄男からみということで(笑)。この夏R1で一番注目された一枚かも。数量限定スペシャルエディションのアルミ箱、重厚な造りが素晴らしく、買って良かったと実感できる。amazonでプリオーダーしていたのだが、カートから入れたり出したりしている内に品切れになってしまった。慌てて他を探し求め、なんとかカナダの店から購入できたのだが、輸送中に盤が中留めからはずれてしまい(開梱する前に振ってカタカタしたら覚悟を決めましょう)、本編のディスクは傷だらけ(涙)。再生は途中でフリーズ。CD修復用の研磨材で何とか再生できるようにはなったのだけれど。
10月には殆ど同内容と思われるR2盤が出るが、9800円(R1は送料こみで40ドル以下)。違いは、R2は日本語も5.1収録。日本語字幕については今更なくてもいいだろうが、一方日本語5.1に倍もの金額を払う必要があるかどうか。確かにR1では英語の5.1再生の方が、同時収録されている日本語プロロジックより一層迫力が増しているので、多分英語再生がメインとなると思う。それゆえ英語吹き替えなんて我慢ならん、という方は今から9800円キープしておきましょう。ただし、(R2盤がどういう装丁になるかはわからないが)このR1スペシャルエディション、「箱モノ」として所有する満足度は大きい。

2:Enemy At The Gates(邦題:スターリングラード)
第二次大戦、ソ連とドイツそれぞれの狙撃手のエキスパートがスターリングラードで祖国の威信を背負って対決。なんといっても、冒頭の大規模な戦場シーンが圧倒的。今年の暫定サラウンドベストに決定(多分パールハーバーが出るまでだけど)。プライベートライアンのオープニングもすごかったが、本作では加えて上空からの機銃操射に爆撃と、その高さ表現、高速移動がデモに最適である。又台詞が聞き取りやすい(ドイツ人とロシア人がそれっぽくナマった「英語」を話すというのも妙といえば妙だが)こともありがたかった。

3:シャイニング(R2)
R1が数か月前リマスター、5.1で再発されたので、カートにいったん入れたのだが、「待て待て、ワーナーだぞ」とR2が出るのを待ちました。この作品、5.1になって怖さが倍増。冒頭、峡谷をひた走る車。通常サーチしようとリモコンに手が伸びるところだが、BGMシンセとコーラスの不協和音が5.1になって6畳間の天井を浮遊霊のごとく漂います。ダニーが無人のホテル廊下を三輪車で走るシーン。その角を曲がるとあの「双子」が・・・と思うと怖くてここでStop。まだ全部観てません。

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