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Interview


かめくん

『かめくん』
ISBN:4-19-905030-2

北野勇作著

インタビューア:[雀部]

徳間書店 648円 2001/01



[雀部]  今月の著者インタビューは、本年1月31日に、『かめくん』を出された北野勇作先生です。北野先生、よろしくお願いします。
[北野]  よろしくお願いします。とりあえず先生はやめてください。北野さん、でいいです。
[雀部]  では以後は北野さんと呼ばせていただきます。
 '92年に『昔、火星のあった場所』、'94年に『クラゲの海に浮かぶ舟』と出された後、なかなか単行本が出ませんでしたねぇ。
 もしかして、役者業がお忙しかったとかいうのもありますか?
[北野]  基本的には年に2回の劇団の公演だけですので、役者業は忙しくありません。
 いちおう書いてはいたのですが、なかなか本にしてくれるところがなかっただけです。「かめくん」も、じつはどこに持っていっても相手にされないだろうと思って小松左京賞に応募したのです。まあ、小松左京賞にも相手にしてもらえませんでしたが。
[雀部]  ありゃ、そうだったんですか。まあ第一回小松左京賞受賞作の『エリ・エリ』 は、神と人間を正面から扱っていて、小松左京賞の雰囲気に合っていると言えな くはないのですが。歌と同じで、軽く歌っているようで、実は上手い歌手の人が 本当の実力者であるように、北野さんは一見軽く見える作風でいながら、重いテ ーマも扱い、しかもそれを感じさせないという得難い資質を持たれていると思い ます(重いテーマを重厚に扱うという作風も、それはそれで好きなんですけどね)
 短編では、「肉食」(『死者の行進』井上雅彦監修のアンソロジー<異形コレク ション>シリーズ、以下の短編も同シリーズ)、「シズカの海」(『月の物語』所 載)、「螺旋階段」(『グランドホテル』所載)、「楽屋で語られた四つの話」( 『俳優』所載)等と、後はSFマガジンに数本でしたよね。
 北野さんは、長編と短編ではどちらが書きやすいんでしょうか、また描き方が異なるということはおありでしょうか?
[北野]  書くのは30枚くらいの短編がいちばん好きです。好きだからといって書きやすいわけではないですけど。描き方はたぶん同じだろうと思います。でも、長編は100枚とか200枚とか書いたところでやっぱりダメなことがわかって全部捨てたりすることがけっこうあるので、効率はかなり悪いです。
[雀部]  そ、それは大変ですね。そういう没になった長編は再び日の目を見ることは無いのですか。長年経つと発酵して、別な話に持っていけるとかは?
[北野]  そうなるように願ってはいるのですが、今のところはあんまりそういうふうにはなっていません。でも、けっこう大事にとってあったりするんですけどね。
[雀部]  これからどんどん長編を上梓されると、きっと上手く行くようになるんだと思いますけど。私が思っていてもどうにもなりませんが(汗)
 某所では大阪市北区SFではないかとのお話も出ていましたが、この舞台はやはり下町がモデルなんでしょうね?
 それと、この世界は『昔、火星のあった場所』のどこかで世界と繋がってませんか?クラゲ荘という名前も『クラゲの海に浮かぶ舟』を連想させますし、あのクーラーも『火星』に出てくる謎の直方体の箱に似てますね。あ、もちろんタヌキ饅頭も。
[北野]  北区SFであることに異論はないです。あと前に住んでいた甲子園口のアパートも混じっています。まあいろんな好きな場所を組み合わせて作った箱庭みたいなものですね。とりあえず私は小説の、とくに長編の舞台を作るときそういう作り方をすることが多いので、自然と繋がってしまうかもしれません。意識的にそうしているわけでもないのですが。
 クーラーのことは今言われて初めて気がつきました。そう言われるとそうだ。どうも私はクーラーというものに胡散臭さを感じているようです。なんかマックスウエルの悪魔でも入っていそうじゃないですか。
[雀部]  箱の中で、せっせと活発な(熱い)分子を取り込んで、動きの悪い(寒い)分子は外に放り出しているんでしょうね(笑)
 冒頭あたりに「推論したり決定したりするために設定された情報の枠組み」として“フレーム”という単語が出てきますが、これは人工知能研究の領域で「フレーム問題」(ある行為に関連することと、関連しないことを効率よく見分けるにはどうすれば良いかという問題)のことですよね?
[北野]  そうです。認知科学なんかで使われるあの「フレーム」ですね。
 いろんなことを説明するのにかなり有効な概念だと思います。
[雀部]  そうすると<かめくん>は、色々な場合を想定したフレームを持っているわけですね。フレームと言う言葉が一般的でなければ、モードでしょうか。通常勤務モード、お仕事モード(フォークリフト運転等)、戦闘モードとか。なにかサラリーマンが、会社と家庭の二つの顔を持つようなものかな。
 となると<かめくん>って、日本人をシンプル化したモデルとも言えるような気がします。<かめくん>に自分を重ね合わせると、色々なことが見えてくる気がしました。
[北野]  まあ、酒や運転で人格が変わる人はざらにいますから、そんな感じかもしれません。あんまり日本人というのは意識してないんですが、まあぼくが暮らしているのは日本ですから作る箱庭も日本を反映したものにならざるを得ないんでしょうね。
[雀部]  それとこの作品では、ほとんど現在の日本に近い状態(自転車があって、ピカチュウやドラえもんも居る世界)があって<かめくん>とその回りだけが異質なんですね。それが妙にしっくりと一体化している様に、北野さんの巧さを感じました。現実の世界に<かめくん>が入ってくることによって、世界が「相対化」されて、愚かしさやくだらなさが際だってくる手際が見事でした。特に『進歩の塔』は傑作ですね。肥大化して動きの取れないどこかの官僚組織のようにも見えますし(笑)
[北野]  言ってしまえば、「オバケのQ太郎」とか「ドラえもん」と同じやり方なんですよ。ああいうものが普通に街を歩いていて、なんとなく認知されている世界ですね。まあさすがにいろいろと言い訳はしていますが。
 母親の話によるとぼくは、アトムよりオバQの好きな子供だったそうです。
[雀部]  あ、そういう世界だったんでしたか。恥ずかしながら、そういう方向に発想がいきませんでした(汗)
 関係ないですけど、アトムは私の世代ですと唯一無二なんです。アニメと言えばアトム。その次が鉄人28号の世代ですからぁ。オバQも好きには好きなんですけど、それらを見た時にはもう刷り込みが終わってました(笑)
 話が戻るんですが「小松左京マガジン」創刊号に載っている“第一回小松左京賞発表”に、小松左京先生の『かめくん』に対する選評が載ってまして、SFには落ち(意気込み)を求めるとありました。かめくんの世界とドラえもんの世界が同類項だとすると、確かに小松先生の言われるような落ちとは無縁の世界ですね。アニメ世代にはこういう歌い上げない結末というのも、受け入れやすいのではないかと思いました。これは当然意識されて書かれているんでしょうね?
[北野]  正直、あの選評は、よくわかりませんでした。
 他の候補作には落ちがあったんですか? まだ読んでないんですけど。
 うーん、落ちはともかくとして『かめくん』という小説は、意気込みだけはけっこうあったと思ってるんですが。
 こんなこと自分で言うと馬鹿みたいですけど、知性と宇宙の関わりみたいなものに自分なりのやり方でSF的なアプローチを試みたつもりですし、最後の方ではけっこう大技も決めたつもりですけど。  まああのまま埋もれてしまわずにこうして出版できたわけですから、その辺の判断は読者にお任せしましょう。
 『かめくん』を拾いあげてくれた徳間デュアル文庫に感謝します。
あと、歌い上げない結末というかすべてが解決されない結末というのは、かめくんの視点で語っているこの小説においては構造的な必然だと思うんですが。アニメ世代云々というより、ごくあたりまえに小説としての整合性を意識しただけです。
[雀部]  作中で、何回か出てくる<かめくん>の世界像。最初は、世界は大きな甲羅のようなものだと考えていたようですが、最後のほうになると、自分は甲羅のなかにいて、そして甲羅のなかにも世界があり、その中にも甲羅を背負った自分が居て・・・と考えるようになってきます。これはカメの中で、ケプラーの「コピー説」から発展してデカルトの「こころ」による認識説が芽生えてきたことを現していると考えてもよろしいのでしょうか?(この描写を読んで、かめくんの心の動きに感動したもので・・・)
[北野]  とりあえずかめくんの思考形式として決めたのは、
「なんでも亀に例えようとする」
「亀に似ているか似ていないかを価値判断の基準にする」
 という二点くらいであとは流れにまかせてましたから、そんなに意識してやったわけではないです。でも、たしかに途中から「なんだかわからない不思議な気持ち」になったりするようになって、甲羅の外側のことを考えたりするようになってますね。そんなかめくんとしては、わりと自然にたどり着いた世界観ではないでしょうか。
[雀部]  そうですね。自分(の知り得た知識)を基準にして世界観を構築するというのは、人間もやってきたことですから、かめくんの思考形式には普遍性がありますよね。そこらあたりの描き方も上手いなあと関心したところでありますし、かめくんが成長しているようで、読者としては嬉しかったりします。結末は個人的にはちょっと寂しいんですけども・・・
 最後になりますが、今後の出版予定とか、現在構想中のお話がございましたらお聞かせ下さい。
[北野]  これまでもずっとそうだったんですが、特に予定はありません。書いてしまうまでどうなるかよくわかりませんし、出来上がってからどうするか考える方ですから。まあタイトルと最初のところだけは決まっているのがあって、『牛丼DNA』といいます。タイトルからお分かりの通り、本格牛丼バイオSFですね。まあ200枚くらいまで書いて捨ててしまう可能性もかなりありますけど。
[雀部]  『牛丼DNA』、また凄いネーミングですが、どういう話になるかぜひ読みたいですね。バイオテクノロジーで大量生産された牛丼の話かな(なわきゃないだろうφ(゜°;)バキッ☆\(--: コラッ!)
 今回はお忙しいところインタビューに応じていただき、まことにありがとうございました。私は元来がSF者ですので、普通のインタビューとは違う方向に走っているかも知れませんが、この記事を読まれた方が、北野ワールドの虜になられることを願ってやみません。
[北野勇作]
1962年、兵庫県生まれ。甲南大学応用物理学科卒。
1992年、『昔、火星のあった場所』(第四回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作新潮社刊)
1994年、『クラゲの海に浮かぶ舟』(角川書店刊)
劇団『虚航船団パラメトリックオーケストラ』の役者でもある
ホームページ『北野勇作的箱庭』(http://www.jali.or.jp/ktn/)
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/

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