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Bookreview


レビュー:[雀部]&[卍]&[エマノン]&[白石]

おもいでエマノン

ISBN4-19-905008-6 C0193

梶尾真治著/鶴田謙二イラスト

さすらいエマノン

ISBN4-19-905037-X C0193

梶尾真治著/鶴田謙二イラスト

徳間デュアル文庫 562〜762円 2000/9/21〜2001/2/28
 長い髪にジーンズ、吸い込まれるような深い瞳と僅かなそばかす。E.Nとイニシャルを縫い込まれたナップザックを抱えた少女。彼女がエマノンだ。なんと彼女は「地球に生命が発生してから今までの40億年分のことを全て記憶している」というのだ。

黄泉がえり

ISBN 4-10-440201-X C0093

梶尾真治著/森流一郎装画

新潮社 1700円 2000/10/15
 熊本市の市役所では、不思議な電話を受けた。それは数年前に鬼籍には入った家族が戻ってきたので、戸籍を回復して欲しいという市民からの電話であった。やがて、この現象は熊本市に限定されるものの、老いも若きも、死んだ当時そのままの姿で黄泉がえってきているという事実が判明する。しかし、黄泉がえった人々は、姿形はそっくりで、本人しか知らない粗密の事柄も記憶しているのだが、何故か微妙な違和感が付きまとっているというのだ。
[雀部]  今月号の著者インタビューは、早川書房のアンケート「1990年代SFベスト」で、『サラマンダー殱滅』がベスト6にランクインした梶尾真治先生です。梶尾先生よろしくお願いします。
[卍]  梶尾先生の作品をこよなく愛する卍ともうします。よろしくお願いします。
[梶尾]  こんなマイナーなもの書きで、よろしいのでしょうか。
 こちらこそよろしくお願いします。インタビューは受けるときの気分で答えが変わったりもしますので、その点はご容赦ください。私も自己矛盾が多い方なので・・・・
[卍]  エマノンの話は、最初からシリーズ化するつもりで書かれたのですか。それとも、途中から、シリーズ化の話が出たのでしょうか?
 もし途中からだとしたら、シリーズ化のきっかけになった出来事など、その経緯をお聞かせ願えないでしょうか。
[梶尾]  単発のつもりだったのです。書く動機は一人で船旅したときの妄想からですね。シリーズ化したのは、当時のSFアドベンチャーの編集さんと電話で話してて、ほめられて。いい気になって同じキャラクターを活躍させましょうかと言い放ったのがきっかけ。それから毎回、苦しむことになった次第です。
[卍]  最初に書かれた作品に出てくるエマノンと、最近「SF Japan」誌上に掲載された作品に出てくるエマノンは、「同じ人物」なのでしょうか?
[梶尾]  描いているエマノンは、世代こそ違いますが、同じエマノンです。「おもいでエマノン」のときからすれば、娘エマノン、孫エマノンまでは活躍していることになりますか。一応、計算しているつもりですが。作品毎に母・子・孫と分類できるはずです。
[卍]  単行本、文庫本などで、それぞれにイラストがついているのですが、梶尾先生ご自身が気に入っている「エマノン」のイラストはどれでしょうか。あるいは、具体的に、どんな感じの姿の女性をイメージしながら書いておられるのでしょうか。私は単行本の時のイラストが好きなのですが。徳間書店のデュアル文庫の鶴田氏のイラストは、ちょっと、ぽっちゃり系でイメージが違うと(^^;。もっと、スレンダーで大人っぽい女性イメージしていました。
[梶尾]  いちばんイメージに近かったのは、SFアドベンチャーに掲載された「おもいでエマノン」のタイトルイラストでしょうか。描いていた方は忘れましたが。新井さん、鶴田さんともに大好きな方ですので、作者としてそれぞれに楽しませて頂きました。
 話はちがいますが、諸星大二郎さんの連作で異世界の都市を放浪する少女が登場するコミックがありますが、あの主人公を見たときイメージに近いなあと思ったことがあります。
(注:初出のイラストは中村銀子さん。新井さん→新井苑子さん。鶴田さん→鶴田謙二さん。諸星さんの連作は、連作でありながら、その最初の作品(「女は世界を滅ぼす」)が単行本未収録、しかも一冊にまとまることなく、短編集にときどき収録されているという「ゼピッタ・シリーズ」ではないでしょうか。代表的なものに「コンプレックス・シティ」(同タイトルの作品集−双葉社−)や「広告の町」(だったかな。「子供の王国」集英社に収録)など)
[卍]  今後のエマノン・シリーズの執筆継続について。具体的な予定は決まっておられるのでしょうか。もし、決まっているなら、お聞かせ願えないでしょうか?
[梶尾]  みんなからそれを聞かれるんですよね。いつも頭の中でもやもやしていて。19世紀末の西インド諸島が舞台というぼんやりとしたものはあります。キーワードは、ハーン・ゴーギャン・クレオール民話・ゾンビ・滅び去った生き物たち、そんな長篇。今、資料を集めていますが、マルチニーク島で1902年に大噴火があり島のほとんどが崩壊したのですが、詳細の資料をお持ちの方は、おられませんかねえ?「あしびきデイドリーム」の後、短編でいくつかアイデアが浮かびましたが、発表舞台はどこになるのかしらん。
[雀部]  デュアル文庫の『おもいでエマノン』の後書きで“ゴーギャンや、ラフカディオ・ハーンたちとゾンビ狩りをする話(笑)”と書かれてますね。楽しみです。
 「おもいでエマノン」で言うと、私も1971年に名古屋の親友と名古屋から「サンフラワー号」に乗船してるんですよ。男の二人旅です(苦笑)だから、あの雰囲気は良く分かって読んだ当時とっても切なかったです。
 このエマノンシリーズは、「○○***」というひらがなとカタカナの洒落た感じの単語の組み合わせになっているのですが、これは最初から意識されてつけられていたのでしょうか。
[梶尾]  いや、そうではなく、たまたま二作目で「たそがれコンタクト」とつけてしまったので、三作目で、初めて意識してしまい、よし、このパターンで通そうと思いました。でも、最近は、タイトルをつけるのもしんどくなってしまいました。
 あ、それからご指摘の通り、船は「さんふらわあ号」を意識しています。私もよく乗ってましたので。
[雀部]  初期の「さかしまエングラム」を読んだとき「あ、これはハミルトンの反対進化へのオマージュなのでは?」と感じたんですが、どうなんでしょう。ラストはかなりエスカレートしてますけど(笑)
[梶尾]  それはありません。
 偶然の結果・・・・というより、潜在意識下にあったのかな。
 光栄です。
[雀部]  もう一つ、重箱の隅にこだわりますが「いくたびザナハラード」に出てくる“雑音は複数の情報が輻輳したもので、すべての情報が入っている”というのは、SFマガジンの64年11月号に載った、レイモンド・F・ジョーンズ『騒音レベル』に出てくる「雑音理論」と関係あるのでしょうか。
[梶尾]  さすが、マニアックな雀部さん。年齢がわかります。R・F・ジョーンズの「ノイズレベル」を読んだのは、私が高校生の頃。けっこう、刷り込みが深くてねえ。なーるほどと感心してしまった作品です。「雑音にはすべての情報が含まれる」というトンデモ発想はいつか使おうと思っていたんです。
[雀部]  私は、確かに馬齢は重ねてますが(笑)「ノイズレベル」の件は、堀先生にお聞きしたばかりなので、まだ記憶に新しいんです(ポリポリ)
 私は梶尾先生の作品群を、「エマノン」や「時尼に関する覚え書き」にみられる時間+ロマンチシズム系、<怪傑ミイラ男>などのユーモア系、『OKAGE』に代表される伝奇ホラー系、『泣き婆伝説』『黄泉がえり』などの地方を舞台にしたもの(これも伝奇系かなぁ)、『サラマンダー殱滅』のようなSFしているものなどに分けているんですが、梶尾先生ご自身は、どれが書きやすいとかいうのがおありでしょうか?
[梶尾]  何も考えず、ストリーも予定せず書いたのは「ミイラ男」系のバカ話でしょう。短編が、実は一番書きにくい。「美亜」とか「時尼」とか「エマノン」とか。
 地元のネタにすると、やたら書きやすいのは何故でしょうか?
 「サラマンダー」は、こんなSF映画を観たい!と、自分を楽しませるように書きました。だから、非常に視覚的でしょう?
[雀部]  「サラマンダー」は、おっしゃられる通り視覚的ですね。ラストの<マトリョーシカ>作戦は、凄い迫力です。でも、まともに作ると映像的にはホワイト・アウトしちゃったままになりそうですね。
 しかし、短編が一番書きにくいとは意外でした。いくらでもバリエーションを無尽蔵に生み出し続けられている気がしてましたから。
 地元ネタというと「熊本日々新聞」日曜版に連載された『黄泉がえり』は、そのまま熊本市が舞台でしたね。SFファンじゃない新聞読者の反応はいかがだったんでしょうか?
[梶尾]  “奇想小説”(SFとうたわないのが地方新聞らしくていいでしょ)を連載するにあたっての自己規制。骨格はSFだが、新聞読者の老若男女が抵抗感持たずに毎回読める話・・・と決めました。「死者が還ってくる話」とひと言でくくれるものと決め、実はフィニイの「盗まれた街」へのオマージュです。侵略ものの裏返し。
 身近にいそうな人物たちで物語をすすめ、どのエピソードを読んでも完結していること。読んで、いやな気持ちにさせないこと。などです。中年以上の女性、おとしよりから、「すごく面白かった」「こんな話、初めて読んだ」と言って頂きました。SF知らずの人々へ「あれがSFなんです」というと、皆驚いてましたね。
[雀部]  『黄泉がえり』私も大好きで、ラストの方は涙を流し頷きながら読んでしまいました。
 骨子となるストーリーは、昔からあるSFの王道なんですけど、登場人物がみんな魅力的で優しくて・・・全員に感情移入しちゃいました。こんなことが全世界的規模で起こったら、エマノンが人類の行く末について悲嘆にくれることもなくなり、梶尾先生もネタに困るんじゃないんですか?(笑)
 あと、エマノン・シリーズとも共通するんですが、梶尾先生は、本当に今の世の中を憂えてらっしゃるなぁと。でも同時に人間の可能性も信じてらっしゃるなぁと実感します。
 中学の教科書から鴎外・漱石が消えていくという記事がありましたが、梶尾先生は、中学の教科書掲載を望まれたら、許可なさいますか?
[梶尾]  ううん。それって複雑な気持ちですね。私は学校で教わるものに偏見を持ってて、漱石やハーン、龍之介のおもしろさに気付いたのは学校を卒業してからでした。教科書アレルギーというんでしょうか。でも、許可するかもしれないなぁ。私の小説が教室で読まれて「この航時機の性能を100字以内にまとめよ。句読点はのぞく」なんてやられて可哀相だなあ。立たされる生徒は、本屋で私の本を見るたび、いやな記憶が蘇るんだろうなあ。
[雀部]  ぎゃはは(爆笑)う〜ん、確かにそれも困りますね。
[エマノン]  はじめまして。いきなり非難を浴びそうなハンドルですが、エマノンこと牧山です。「おもいでエマノン」でファンになってもう十数年です。ああ、なんかすごく怖い。
 勝手にエマノンと名乗っているのですが、この不届きな奴をいかがいたしましょうか?磔獄門が適当でしょうか?(すいませんすいません。問題アリなら即刻ハンドルに使うのを止めます)
[梶尾]  いえ、いえ。どうぞご自由にお使い下さい。嫌いな名前をハンドルネームに使うことはないでしょうから。ハンドルの由来を尋ねられたら、エマノンをPRして頂ければいいと思います。嬉しいです。
[エマノン]  emanonをIDなり電子メールのアドレスに使っている人が少なからずいる様なんです(無料メールで使おうとするとまま蹴られるんだよね)自分の作った名前が(梶尾先生がお考えになったんですか?なんか、凄く基本的な事を知らない様な気がする)世間で使われている、っていう事について、どの様にお考えでしょうか?
[梶尾]  昔、「エレホン」というユートピア小説を読んで「NO WHERE」の逆だということで、すごく心に残りました。それで、こんな名を考えたんです。女性の名前として響きもぴったりだったし。で、最初の本が出た頃にサザンが「Emanon」の曲だしてたし、アメリカ映画でも「エマノン」ってありました。それは主人公はホームレスの親父だったのですが。上京したとき、烏森神社近くの横丁で「エマノン」という飲み屋がありました。これってほぼ同時発生的な「100匹の猿」現象かなと思ったりしました。
[エマノン]  梶尾先生の作品の中で、エマノン・シリーズが一番映像化しやすいだろうと思ってます(「泣き婆伝説」も結構イケるかなあ。でも美しく無いよね(^^;)。
 実力のある方が撮れば「時をかける少女」をも凌ぐ作品になろうと思っているのですが、テレビなり映画なり、そういう企画があったら、先生は許可されますか?
[梶尾]  私、映画をはじめ、ビジュアルなものは大好きなので、すぐに許可します。大林宣彦さんがエマノンを撮りたいと言ってはくれているのですが、仲々、実現しないままです。でも、見てみたいなあ。
[エマノン]  これを期待せずにいられようか、ですねえ。
 ぜひ実現して欲しい。欲しい欲しい。絶対欲しい。
[雀部]  さて、真打ちに登場してもらいましょう(笑)では、梶尾真治先生とおなじく熊本在住のカジシン・ファンとして自他共に認められている白石さんです。
[白石]  梶尾先生を追っかけて熊本にやってきた白石です。
 もし、なんの制限もなく長編を書き下ろすとしたら、どういったものを書きたいでしょうか?主人公にしてみたい人物像などありましたら、教えてください。
[梶尾]  昔、好きな映画で「素晴らしきヒコーキ野郎」というのがありました。
 飛行機の初期の時代設定でレースをやるんですが、これ好きだったなあ。
 で、同じ設定でさまざまな時間理論で構築されたタイムマシンたちがレースをやるという・・・あ、タイムボカンシリーズのようなものではありません。けっこう面白いものになると思います。群衆劇でしょうね。
[白石]  デビュー当時に比べて、熊本のSF度に変化はありますか?
 いろいろな文章で、SF大賞を受賞したときにかなり奇異に見られたようなことを拝見しましたので・・・)
[梶尾]  そうですね。やはりまだ、一般の方にはSFというと特殊な読みものというイメージのようです。だから「黄泉がえり」はSFだと称せずに、まあ黙ってお召し上がり下さいというふうに載せてもらったら、年輩の方も、けっこう楽しんで頂きました。若い方々は、まず抵抗ないですね。
 今度、夏に熊本の近代文学館で「奇想の小説たち〜SFの世界」展をやりますが、それで、SF喰わず嫌いの方々の啓蒙ができればと考えています。
(注:7月24日から9月まで。7月29日の日曜はミニSFコンベンションみたいなものになる予定。詳しくは白石さんのホームページをご覧下さい)
[白石]  熊本以外で舞台にしてみたい街はありますか?
[梶尾]  自分の想像世界の街になってしまいますね。横嶋市とか・・・。
 あるいは、ヤミナベ・ポリスとか。
[白石]  梶尾さんに是非RPGをプロデュースしてみていただきたいと思っています。実際に作るとしたら、どんなものになるでしょうか?
[梶尾]  内緒です。なんちゃって・・・・何にも考えてないです。
 でも、小説を書くときは、絶対にゲーム化できないものを考えたりしていますから逆の発想で作ることになるでしょう。「ガンパレ」チームの娘に、何かゲーム化したい話はないかと訊ねられますが「ない!!」の一言です。
[雀部]  最後に、かまわなければこれからの執筆予定をお教え下さい。
 SFファンとしては、梶尾先生が自分を楽しませるように書かれたとおっしゃられる『サラマンダー殱滅』のようなコアなSFも待望しておるのですが。
[梶尾]  今、SFジャパンの手塚治虫特集のための小説版「鉄腕アトム」を書いていますが、短編です。秋から200枚くらいの読みきり文庫の話があるので、時間モノを書こうかと思っています。「極道捕鯨船」も、まだとりかかってないし。人間とも宇宙人ともいえない主人公の怪物ハンターの話も書きたいです。シリーズになりそうですが・・・・これけっこうコアSFな設定と思います。
[卍]
[エマノン]
[白石]
[雀部]
 お忙しいところ、質問にお答えいただき、ありがとうございました。これからもず〜っと応援していきますので、いつまでもよろしくお願いします。

[梶尾真治]
 '47年生まれ。福岡大学経済学部卒。'71年「SFマガジン」誌上にて、「美亜に贈る真珠」でデビュー。
 '79年「地球はプレイン・ヨーグルト」、'92年「恐竜ラウレンティスの幻視」で星雲賞短編部門賞受賞。'91年『サラマンダー殱滅』で第12回日本SF大賞受賞。
 作品リストが充実している"いどりす"さんのホームページ
 http://www1.mint.or.jp/‾idris/

[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[卍]
卍書房・店主
[エマノン]
電気回路設計兼プログラマモドキにして放浪願望者。
[白石]
 熊本の某書店・店員
 梶尾真治先生の掲示板もあるホームページ
 http://www.ne.jp/asahi/fs9/randoku/


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