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Author Interview

インタビューア:[雀部]&[向井]&[藁品]

『アイオーン』
> 高野史緒著/たまいまきこ画
> ISBN 4-15-208449-9
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1900円
> 2002.10.31発行
設定:
 かつて栄えたローマ帝国が人工衛星を打ち上げるほどの科学技術を持ちながら核戦争によって滅び、放射能汚染がはびこる13世紀のヨーロッパ。聖職者が説く「人間の魂は、功徳を積むことによってのみ天に召される」という信仰が支配し、物質の力を行使する科学は悪であり異端であるとされていた。
 見習い医師のファビアンは、放浪の青年科学者アルフォンスに出会い、自らの信仰に疑問を持ち始めるが……
収録作:
「エクス・オペレ・オペラート」「慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において」
「栄光はことごとく乙女シオンを去り」「太古の王、過去の王にして未来の王」
「S.P.Q.R.」「トランペットが美しく鳴り響くところ」

 アーサー王伝説、マルコ・ポーロの『東方見聞録』、教皇のバビロン捕囚など歴史の様々な史実に題材を取りながら、それをもう一度違うやり方で組み立て直して見せてくれたともいえる力技の歴史改変SFの連作です。

音楽とSFの幸福な結婚形態

雀部 >  今月の著者インタビューは、昨年末に('02/10/31)ハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『アイオーン』を出された高野史緒先生です。高野先生よろしくお願いします。
高野 >  お招きいただきましてありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。
雀部 >  また高野先生の熱心なファン代表ということで、向井さんと藁品さんにも加わって頂きました。向井さん、藁品さんよろしくお願いします。
向井 >  よろしくお願いします。
藁品 >  はじめまして。私ごときミーハーなファンが、このような真面目なところに参加させていただくのはお恥ずかしいかぎりです。よろしくお願いします。
雀部 >  『カント・アンジェリコ』では、電気技術の黎明期である十八世紀のヨーロッパが舞台、『ヴァスラフ』では、コンピュータ技術が進んだ二十世紀初頭のロシア帝国が舞台ですよね。今回の『アイオーン』も、時代(十三世紀)が違いこそすれ、やはりヨーロッパが舞台なのですが、高野先生はいつ頃から、またどういうきっかけで、中世から近代にかけてのヨーロッパに興味を持たれるようになったのでしょうか。

高野

 

>  きっかけはやっぱり音楽でした。小学校の高学年の頃からクラシックを自主的に聴くようになったのですが、そうした西洋音楽を好きになればなるほど、その音楽の背景となった歴史やヨーロッパそのもののことを知りたくなったんです。
雀部 >  ということは、そういう雰囲気のご家庭で育たれたということでしょうか。
 ピアノのお稽古に通われたとか、ご両親にそういう趣味がおありだったとか。
 うちでは、電蓄(ふ、古っ)の時代に親父が一度クラシックのLP(「田園」でしたなぁ)を買ってきたことがあるのですが、それっきりです。まあ、私がその電蓄をバラしてしまったというのもありますが(笑)
高野 >  いや〜、もう、ゲージュツもへったくれもない環境でした(笑)。だからこそ憧れがあったのかもしれませんね。でもそういえば、どこからそんなことを聞いてきたのか、私が生まれた頃、父親が「赤ちゃんのためのクラシック」みたいなLP(ふ、古っ)をわざわざ東京まで行って買ってきて聞かせていたそうです。もっとも、物心もつかないうちから絶対音感があったり楽器をやりたがったりしたわけではないので、その効果があったとは思えませんが。
雀部 >  『アイオーン』は少し違いますが、題材がクラシック、オペラ、バレエと音楽関係のテーマが多かったように思います。音楽はどういう分野に一番興味がおありですか。ジャズとかポップスとか歌謡曲は聴かれませんか。
高野 >  本拠地はクラシックですが、その中でも、メインストリームの「名曲」よりは、そこから一歩引いたような近現代ものや古楽などが中心です。ジャンルのことは特に考えないですね。意識的にトランスジャンルを目指すとかいうのではなく、ただ考えていない(笑)。たまたま聴く機会があって気に入ればCDを買ったりアーティストについて調べる、興味が持続すればどんどん追求する、というだけです。
 テクノは最近、ワタクシ的には低調で、脊髄反射で買うのはBTくらいになっちゃいましたが。アンダーワールドは迷ってから買う(笑)。ジャズはクラシックと重なっているあたりを中心に興味を持っています。ジョン・ハールとか、ユリ・ケインとか(ハールはジャズでさえないかも知れませんが)。歌謡曲に関しては、最近の興味の中心は八十年前後の「自分がカラオケで歌う曲」ですね(笑)。今現在聴き倒しているCDはシールの新譜です。
雀部 >  ということは、執筆中もそういう音楽をBGM的に流されているのですか。
 私は『アイオーン』では、ありきたりですがワーグナーを聴きながら読んでみました。あまり合わなかった気が……(爆)
高野 >  そうですね。作品のイメージに合った曲を聴いていたほうが集中しやすいですし。
 中には「テーマ曲」を持っている作品もあります。
向井 >  と、いいますと、例えばどの作品が……というのはお教えいただけないでしょうか。
藁品 >  ちなみに、『アイオーン』執筆中に、何か聞いていらっしゃった曲はありますか?
高野 >  『薔薇の騎士』の第一巻はトーゼンという感じで、リヒャルト・シュトラウスの『薔薇の騎士』で、第三巻はワグナーの『マイスタージンガー』、第五巻はレハールの『メリー・ウイドウ』ですが、第二巻はフィリップ・グラス&クロノス・カルテットの『ドラキュラ』、第四巻はアルヴォ・ペルトの『アリーナ』です。
 『アイオーン』の場合は、例えば「アッラー……」はBTのMemories in a Sea of Forgetfulness、「太古の王……」はラ・ネフのPercevalという感じで、一遍一遍違う曲がテーマになっちゃってます。って、何か、誰にも相手にしてもらえないようなマイナー話をしてますね(笑)。すみません。

 もちろん、読み手の方がそれぞれのイメージで読んでくださるのは大歓迎というか、望外にありがたいことだと思っています。読者さんから「自分としてはこういうイメージだと思った」というお話を聞かせていただくのは大好きですし、すごく励みになります。
雀部 >  ううむ、ほとんど知らない曲ばかりだ。
 でも、読者の方で「おお、そうなのか!」と膝を叩いていらっしゃる方は大勢いらっしゃるに違いないなあ(汗)
 声楽もやられたそうなんですが、歌いながら(鼻歌とかも)書かれることもおありですか。
高野 >  いや〜、マルチタスクじゃないんで、歌いながら書くのは不可能です(笑)。
 オペラ・アリアなんかで歌える曲もありますが、「歌うだけ」ならできても、「演技しながら歌う」のはできないかも(爆)。
雀部 >  音痴の私からすると、アリアをお歌いになられるだけでもたいしたもんだと思いますが(爆)
 フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドとブルックナーを例に挙げて、テクノとクラシックがリミックスという交差点で出会ったという話も読ませて頂いたのですが、一連の音楽SFとも呼べる著作は、音楽とSFの幸福な結婚形態を目指して様々なリミックスを繰り返しているようにも思えます。
 また音楽と小説とは、不特定多数を相手にする作家(作曲家)のコミュニケーション手段であるとも言えると思いますが、高野先生の中ではこの二つはどういう位置づけになるのでしょうか。
高野 >  正直に申し上げて、それもまた「考えていない」ですね(笑)。というか、多分、より正確に言うのなら、意識の上で考えているのではなく、無意識の領域で考えているのかもしれません。バックグラウンドで作業(笑)して生まれてきた考えは、小説として表現されればよいのであって、私個人が「私はこう考える!」とかいって表に出てべらべら喋るべきではないとも思っています。私という人間とではなく、小説と読者さんが対話してほしいですね。
 いずれにせよ、不特定多数を相手にする創作者と受け手のコミュニケーションという意味では、小説と音楽に限らず、映画、絵画、漫画、演劇その他もろもろについて言えることですし、小説と音楽だけが特別な存在ではないと思います。ただ、私が個人的にこのあたりが一番ツボというだけで(笑)。

好きな小説家あれこれ

雀部 >  なるほど。そこらあたりのお考えは、読ませていただいた対談などでもおっしゃられていましたね。読者が各々感じ取るものだと。
 小説家では、コクトーが大好きだとお聞きしたのですが、お好きなSF作家とかはいらっしゃいますか。レムなんかも読まれていらっしゃるようですが。
高野 >  レムいいですねー! 好きです。深読みをすれば何処まででも深くなるので、なかなか気軽に読み返すというわけにもいかないですが。中高生の頃は(意外なことに)アーサー・C・クラークをけっこう読んでました。もっとも、一番気に入った作品が『楽園の泉』だったりするあたり、「お里が知れる」という感じですが(笑)。フィリップ・K・ディックも好きですが、長編より短編のほうが好みです。
雀部 >  レムといえば、SFマガジンの今月号(04/01)がレムの小特集ですね。国書刊行会からレム・コレクション(6巻)も出たようだし、再評価されているんでしょうね。高野先生も、音楽がテーマのレムばりのSFをお書きになる予定はございませんか。
高野 >  う〜ん。どうでしょう? 結果として「レム系になる」というのはあり得ないことではないですが、「レムばり」を目指して書く、それを目的として書くということはあり得ないですね。結果として読者にSFと認識されることはあり得ても、よーしSFを書くぞーとは思わないのと同じです。
雀部 >  いやそれはその通りなんです。言い方がまずかったですね、レム氏のように哲学的でなおかつSFファンの琴線に触れて面白く読める音楽SFを期待しております。「ぎぇ〜っ。宇宙における音楽とは、実はこういうものだったのか!ふ、深い!」と感嘆したいんです(笑)
高野 >  それからSFというよりはスリップ・ストリーム系というんでしょうか、ジョン・クロウリーが大好きです。国内ものに関しては、影響を受けることを恐れる気持ちがあるというか、「ああ、自分もこういうふうにしなきゃ売れないのかな」等と考えてしまいがちなので、なかなか読めないんです。中学生の頃は星新一をかなり読みましたが(でもショート・ショートの技法は全然身についてませんが(笑))。
雀部 >  うっ、ジョン・クロウリー。『リトル、ビッグ』は読み通すのが大変で、SF者にはしんどい作品でした(汗)
 『エヂプト』も96年には刊行されるはずだったんだけど、どうなってるんだろ。
高野 >  以前は時々早川書房の方にどうなってるのかとお聞きしてたんですが、だんだん雰囲気が重くなってきたので(笑)、最近は聞いてません。どうなっちゃったんでしょうね……(遠い目)
雀部 >  《夢の文学館》シリーズがよほど売れなかったとか(爆)
 ウィリスの『ドゥームズデイ・ブック』は文庫に落ちましたが。
高野 >  国内の最近のものでは、認めたくない!と思いつつ、「特殊作家」としての牧野修が好きです。ごく最近のエンターテイメント色の強いものは、残念ながら好みではないのですが。
雀部 >  牧野先生ですか、ちょっと意外だなぁ。
 個人的には、コードウェイナー・スミス氏の著作との共通点を感じました。
 特に初期の短編、『第81Q戦争』あたりです。また『アイオーン』の教会組織は、人類補完機構と近しいものを感じたりしたのですが。
高野 >  うわ〜、すみません。どれも知りません(大汗)。インタビューって、思わぬところで無知をさらけ出すハメになったりするので、コワイですね(笑)。
雀部 >  そういうつもりは(笑) 単に私が好きな作家だもんで (^_^ゞポリポリ
 人類補完機構は、アニメの『エヴァンゲリオン』で名前だけは有名になりましたけど。そういえば、アニメはいかがですか。『ナウシカ』の巨神兵に似た巨人も出てきますが。
高野 >  ナウシカはテレビで放送された時などに人並みには見ていますが、特別な思い入れとかはないですね。まあ、破壊する巨人というイメージはナウシカ独特のものではなくて、ユング的に言えば、人類が共通に持つアーキタイプの一つですから、別に珍しくもなんともないと思います。『アイオーン』のあれは、私としてはギリシャ神話の、蟻から作られた人造人間でトロイア戦争の際に戦力となったミュルミドン人のイメージで書いています。

物語の土台作り

雀部 >  なるほど。私は先に『ナウシカ』のほうを見ているので、そのイメージが刷り込まれちゃってるようです(汗)
 SFマガジン'98年12月号の大森望さんのインタビューで、この連作を開始されるにあたって「キース・ロバーツの『パヴァーヌ』に近いかもしれない」とのご発言をされていらっしゃいますが、そう言われれば設定的には似てますね。
 SFの分野でもっと近しいというと、やはり'60年にヒューゴー賞を獲ったウォルター・ミラー・ジュニアの『黙示録3174年』でしょうね。ホロコースト後の西暦3000年のアメリカを舞台に、理想主義的なカトリックの修道院と修道士を描いていることもあり、雰囲気的にもよく似たものを感じました。『アイオーン』は、そういう中世の教会勢力のありようが濃密に描かれていて、外国の著名作家(ウンベルト・エーコの書いたSFとか紹介されると)の作品の翻訳ですと言われたら信じちゃいますよ。
 そうとう下調べとか取材はされたのでしょうか。
高野 >  いきなりウンベルト・エーコが引き合いに出されるとかえってあせりますが(笑)。
雀部 >  あ、すみません。SF以外の本はあまり読まないので、他に思いつく作家がいなかったんです(爆)
高野 >  調べものは確かにやりまくりました。でも、もともと学部生の頃は中世史が専門だったので、資料はけっこうありましたし、どのへんをどう調べれば必要なものが出てくるか、どの資料が信頼できるかということはそこそこ分かっていたので何とかなりました(汗)。取材は『アイオーン』のために何処かに行ったということはありませんが、ヨーロッパに行くと必ず教会や古い建物は見に行っているので、そういう「いつ使うか分からないけどとりあえず蓄積」した経験が役に立ちました。
雀部 >  やはり。そういう蓄積がないと、細部に神は宿りませんよねぇ。
 お茶の水大の人文研究科の修士課程を修了されたということなのですが、どういう研究のされ方をしてらしたのかお教えいただけませんか。高野先生の作品は分類するとすればファンタジー風味付けの歴史改変SFなんでしょうけど、物語の進め方が理論的で、SF者にとって取っつきやすいし面白いと感じるんですよ。
高野 >  り、理論的……(うっとり)。あ、失礼しました。ありがとうございます(笑)。
 理論的にしよう、と思ってやっているわけではありませんが、ファンタジックなアイディアをやるにしても、それなりに土台を固く作っておかないとやりにくいですね。修士論文の準備が進むにつれて長編が書けるようになっていったので、理論的に論文を書く訓練は無駄ではなかったと思います。無駄ではなかったと信じたい(笑)。
 大学院ではフランス革命史を専攻していました。フランス革命ネタの小説も考えていますが、あまりに構想が大き過ぎてまだ手がつけられません。
雀部 >  理論的じゃない論文だと、読む教授が大変でしょう。
高野 >  理論的じゃない論文なんかいくらでもありますよ〜。特に文系は(笑)。
雀部 >  あらま、そうなんですか(爆)
 もうひとつ、『アイオーン』では、科学を悪とするキリスト教会が描かれていますよね。キリスト教には相当お詳しいようですが、信者であられるとかはおありでしょうか?
高野 >  自称無所属無党派隠れキリシタンです(笑)。いや、やっぱりそれなりに歴史を知ってしまうと、人間が作った宗派、派閥の何処かに「ここがいい!」と意識的に判断して属するのは難しいです。
雀部 >  『アイオーン』のなかで特に好きなのは「慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において」と「太古の王、過去の王にして未来の王」の二篇なんです。後書きで「太古……」は、言わずと知れたアーサー王伝説が下敷きになっていると書かれてましたが「慈悲……」のほうにもそれを感じました。タンホイザーとヴェーヌス夫人の物語なんですが、どうなんでしょうか?
高野 >  「慈悲……」のほうは、あとがきでもちょっと触れましたが、パリで会った自称作家のおじさんの妄想(?)が元ネタです。自分を捨てていった恋人との「前世からの運命」という考えに耽溺しちゃってて……パトリス・ルコントの映画のように哀愁が漂ってました(笑)。いや笑っちゃいけなんでしょうけど。申し訳ないけど格好のネタでした。あのおじさん、今はどうしているのやら〜。
雀部 >  東洋の国で、おじさんがモデルになった短編があると知ったら驚かれることでしょうね。それとも、当然だと思ったりして(笑)

あまり安易にSF作家と呼ばれたくない

藁品 >  ところで、SFといえば科学文明の発達した未来が舞台…というものが多いですが、この『アイオーン』は、科学文明が崩れ去った後の世界が舞台です。
 物語の世界では、科学は「物質による悪」として考えられていますが、高野さんご自身は、「科学」というものについてどうお考えですか?
 否定的、肯定的…いろんなご意見をうかがいたいです。
高野 >  科学自体に善も悪もないと思っています。それを「どう使うか」が問題ですよね。
 もっとも、「善とは何か?」「悪とは何か?」という根本的な問題はまた別にあると思いますが。
藁品 >  SFの中ではどうしても「科学」というものを扱っていくと思うんですよ。
 「サイエンス・フィクション」なわけですし。
 その中で、物語の基調として、またはそこに描かれる世界のコモンセンスとして「科学」または「科学技術」というものを、「善なるもの」として捉えるのか「悪しきもの」として捉えているのかによって、物語のカラーががらっと変わっていくと思うのですが。
 科学を「善なるもの」として捉えていくと、ユートピア論みたいになってしまいそうだし「悪しきもの」として単純に「自然のままがもっとも良い」というのではSFにならないし・・・
 やはりその辺の矛盾を描いていくのが物語に深みをあたえるのでしょうか。
高野 >  そうですね。私はマイク・レズニックの『キリンヤガ』もオールタイム・ベスト的に好きなんですが、これもそういうテーマですよね。憧れますけど、これほどのレヴェルのものはそうそう書けないですよね(嘆)。
雀部 >  『キリンヤガ』は、日本人の好みに合致した素晴らしい連作短編ですね。
 ブックレビューでも3年前に取り上げました。
 そういえば『アイオーン』の中世の雰囲気と、『キリンヤガ』の科学的なことは呪術師のところでストップさせて、昔ながらの部族の生活を守るというのは、似ているような気がします。藁品さんのおっしゃる、いわゆる文明社会と科学を捨てた社会の対比というのは、SFの永遠のテーマの一つかもしれません。
藁品 >  ちなみにこの現代社会は、科学を善にも悪にも乱発乱用している時代といえますね。
 ここから何が生まれていくのか・・・。
高野 >  それはハードSFの人にお任せしましょう(笑)。
向井 >  そういえば以前に、あまり安易にSF作家と呼ばれたくない、といったような発言をなさっていた記憶があるのですが、『アイオーン』に関して、SFを書こうと意識して書かれたのでしょうか? もしそうだとしたら、書き手側の意識の差のようなものがあったかどうかという点についてお聞きしたいです。
 ジャンルを意識しないとすると、ここまでSFっぽい作品に「たまたま」なっていたということでしょうか? それとも、「もっとSFっぽくしてほしい」とかいった類いのことを言われたりしたんでしょうか。
高野 >  別に、SF作家じゃなくてミステリ作家とか純文学作家とかの肩書きが欲しい、という意味ではありません(笑)。もちろん、読み手に対して「『アイオーン』や『ムジカ・マキーナ』をSFと呼ぶな!」などと言うつもりもありません。SFに限らず、ナントカ作家と但し書きをつけられること自体がイヤなんですよね。なんか、外から扉を閉められて鍵をかけられているような気持ちになりますし。
 『アイオーン』も「SFをこそ書くべし!」と決意して書いたわけではありません。
 ただ、連載の場がSFマガジンだったので、中世の空に人工衛星を描いたら「何のことだか分からない」などと言われたりしないかな、なんていう心配をしないで、やりたいことをやれたのは確かです。読者さんから「SFらしいSF」をもっと読みたい、というご要望もいただいていましたし、ちょうどよかったかもしれません。
向井 >  高野さんの作品だと『架空の王国』はちょっと異質というか、他と違うような印象を持っているんですが、何か心境の変化みたいなものがあったんでしょうか?
 また、この作品は一種のミステリだと思いますが、ミステリというジャンルについてはどのようにお考えでしょうか?
高野 >  実は『架空の王国』は、私にとっては初めての長編だったんです。もっとも、出版したヴァージョンは、原型をとどめないほど改稿したものですが。院生の頃に『架空の王国』初期ヴァージョンを書く→自分にも長編が書けるかもしれないという手ごたえを得る→『ムジカ・マキーナ』を書く→テビュー→『カント・アンジェリコ』→『架空の王国』の出版ヴァージョン、という順序ですが、実はこの間に何度も『架空の王国』は改訂していたんです。というわけなので、別に『カント・アンジェリコ』の後に何かが変わった、というわけではないと思います。
 ミステリは大好きですよ〜(笑)。『架空の王国』に限らず、どの作品も、謎解き的な骨組みを意識していますし。私にとっては、そうするのが一番、話を進めやすいんですよね(笑)。まあ、中高生の頃に読んだもののうち、量だけを問題にするのなら、クラークやアシモフよりエラリー・クィーンやアガサ・クリスティなどのほうがはるかに多かったです。今現在書いている長編も、全然SFではなくてミステリです。歴史ネタのミステリですね。
雀部 >  歴史改変SFということはないですよね?(笑)
 ミステリとSFは、相性が良いのでこれからも謎解き的な骨組みを持ったSFをぜひお願いします。
藁品 >  貴重なお話をうかがえて、とても感激でした。本当にどうも有難うございました。
 これからも楽しみに読ませていただきます。どうぞがんばってください。
高野 >  近刊の情報ですが、来月発売の異形コレクション28『アジアン怪綺』に、「空忘の鉢」という一篇で参加しております。異形に寄稿したものの中ではもっとも長いです。しかしこれ……ホラーかなぁ……
一同 >  それは楽しみです。ぜひ読ませてもらいます。


[高野史緒]
'66年茨城健県生まれ。お茶の水女子大人文科学研究科修士課程修了。'95年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『ムジカ・マキーナ』で作家デビュー。以降芸術をテーマに、史実に科学技術をエキストラボレートした『カント・アンジェリコ』『ヴァスラフ』などを発表。他の作品としては『架空の王国』『ウィーン薔薇の騎士物語』などがある。
[雀部]
ファンタジーも読むハードSF研所員。
『小松左京マガジン 11』所載「小松左京自作を語る」にインタビュアーとして登場してます。書店で眼にされたら、パラパラ見て下さいませ。
[向井]
大学院生/SFファン。高野史緒作品には雑誌掲載時の「エクス・オペレ・オペラート」から入ったので『アイオーン』再読時には当時の鮮烈な印象を思い出したりしていました。
「散漫雑多」というサイト、やってます。http://www.din.or.jp/‾mukai/
[藁品]
SF読みの夫にハードSFの世界へ染められつつある、ファンタジー好きのんびり主婦。

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