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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『ショートショートの世界』
> 高井信著
> ISBN 4-08-720308-5
> 集英社新書
> 660円
> 2005.9.21発行
目次:
ショートショートの定義  
ショートショートの歴史 世界の流れ・日本の流れ
ショートショートの書き方 新鮮なアイデア・完全なプロット・意外な結末
私のショートショート作法

『名古屋の逆襲』
> 高井信著/熊田正夫イラスト
> ISBN 4-575-50644-3
> 双葉文庫
> 514円
> 1998.5.15発行
粗筋:
 2182年、新入社員である俺は、過去の世界でサバイバル研修をするために1997年の東京へと旅だった。しかし実際に着いた先は、あの名古屋だった。名古屋は、1992年に排他都市宣言をし、他の都市・国家との関係を極力避けた道を歩んでいたのだ。
『ショートショートで日本語をあそぼう』
> 高井信著/神崎夢現デザイン
> ISBN 4-480-03886-8
> ちくま文庫
> 660円
> 2003.12.10発行
"日本語の乱れ"――いわゆる誤用をテーマにしたショートショートに解説を加え、これまで書いてきた日本語ネタのショートショートをカップリングした作品集。

『ダモクレス幻想』
> 高井信著/小島鐵男装画
> ISBN 4-88293-120-6
> 出版芸術社ふしぎ文庫
> 1456円
> 1996.6.20発行
収録作:「ダモクレス幻想」「第二走者」「挫折の果て」「幸福地獄」「不運の星」「瞳の奥に」「懐中時計」「ロールプレイング・ワイフ」「揺り返し」「至福の時」
 いずれの作品も、主人公が不条理かつ悲惨な目に遭い、それを読む読者はわくわくし面白がるという不思議なショートショート集(笑)
雀部 >  今月の著者インタビューは、9月16日に『ショートショートの世界』を出された高井信先生です。高井先生よろしくお願いします。
高井 >  ええ、こちらこそよろしくお願いします。
雀部 >  まず高井先生が、『ショートショートの世界』を書かれようと思い立ったきっかけは、何だったのでしょうか?
高井 >  まずは、ショートショートについて調べようと思ったきっかけから話さないといけませんね。
 本には、2000年に専門学校のショートショート講座で講師を務めることになったから、みたいなことを書いていますが、実は、その2年前――1998年の秋に、別の学校でショートショート講座の講師を、という話がありまして……。2時間の講義で、まあ、そのくらいは何とかなるだろうと、適当にレジメを作って講義に臨んだんですけれど、2時間は予想以上に長くて、結局、大幅に時間を余らせてしまったんです。で、これは申しわけないと、2時間の講義に耐え得る準備を始めたわけです。1年後に、またショートショートの講義をしたんですが、そのときは2時間ばっちり。いま思い返してみると、『ショートショートの世界』の原型は、あのときすでにできていましたね。
雀部 >  なるほど、ショートショート講座の講師の任を受けられたのが契機だっんですね。それはどういう分野が専門の学校だったのでしょうか。
高井 >  もともとは漫才や落語の脚本の書き手を養成する学校なんですが、そこに、エンターテインメント小説を扱う講座が新規開講しまして、でまあ、ぼくはショートショートを受け持つことになった、と。この講座には、現在でも年に数回、出講しています。
雀部 >  小説家を養成する講座なんですね。生徒さん達の間でショートショートの評判はいかがですか?
高井 >  最初は「ショートショート? 何それ。読んだことない」という人もいるんですが、ぼくの講義を通じて、多くの生徒さんがショートショートの魅力を知ってくれます。で、なかなか面白いショートショートを書くようになるんですよ。これが嬉しくて講師をしています。
雀部 >  ショートショートを読んだことのない生徒さんが、ショートショートを書くようになるんですか。それは講師冥利に尽きますよね。
高井 >  ええ、ほんとに。生徒さんの作品が「小説現代」や「コバルト」のショートショート・コンテストに入選したりすると、最高の気分です。あ、そうそう。12月発売の阿刀田高編『ショートショートの広場17』(講談社文庫)にも、生徒作品が収録されるんですよ。まだ本が出ていないので確認していませんけれど、たぶん4編が収録されていると思います。
 で、話を元に戻しますが……。
 本格的にショートショートの研究(ショートショート集の収集)を始めたのは、本にも書いてある通り、2000年からなんですが、準備としては、1998年から始まっていたわけです。
 ショートショート集がどんどん集まり、知らなかった情報がどんどん得られて……。本が集まれば集まるほど、知識が増えれば増えるほど面白くなって、完全にハマッちゃいました。もちろん、それまでショートショートの入門書が存在していなかったという事実、それに、ここ10年以上ショートショートに全く元気がないという現実も、大きなモチベーションになりましたね。はっきりとは覚えていませんが、2000年の夏ごろには、ショートショートの入門書を書きたいな、と思っていました。
 初稿が完成したのは2003年の春なんですが、それから紆余曲折あって、ようやく今年、上梓することができたんです。本を手にしたときには嬉しかったですねえ。
雀部 >  おめでとうございます!
 最近ショートショートが元気がないとのお話なのですが、それはなぜなのでしょう。軽薄短小が持てはやされる昨今からすれば、もっと作品集などが出ても良いと思いますが。
高井 >  さあ、どうしてなんでしょう。それがわかれば苦労しないんですが……。
 いずれにしても、ショートショートを読むのも書くのも好きな人間にとっては、悲しい現実です。
雀部 >  ご自分でショートショート書いてみようと思われたのはいつ頃からでしょうか?
高井 >  初めて小説らしきものを書いたのは中学3年生でした。当時、星新一さんのショートショートを夢中になって読んでいて、自分も書いてみたいな、と。出来はともかくとして、いちおうショートショートと言えるでしょうね。
 真剣に書こうと思ったのは、高校1年のとき、筒井康隆さんが主宰されていた同人誌〈ネオ・ヌル〉に入会したときです。それで書いたのが「森」という作品で、さっそく投稿しました。これを眉村卓さんが入選作に選んでくれまして、天にも昇る心地でした。
 実は同じ号に「目覚時計」という作品も投稿しています。これは残念ながら入選しませんでしたが、筒井康隆さんから「いいアイデア」という選評をいただきました。これ、「奇想天外」デビュー作の原型なんですよ。
 ぼくがプロ作家になった原点は、誰が何と言おうと〈ネオ・ヌル〉にあります。尊敬する眉村さんや筒井さんに評価していただいたことは自信になりましたし、励みにもなりました。いまでもおふたりには感謝しています。
雀部 >  私も、ショートショート=星新一でしたから。昔あった『ボーイズライフ』誌で、星先生が一時選者をされていたショートショートの投稿コーナーに投稿したことがあります。当然没(笑)
 高井先生が、高校生の頃に書かれたショートショート「シミリ現象」拝読させて頂きましたが、うまい!(『ショートショートで日本語をあそぼう』所載)
 現在そういうコンテストみたいなものは無いのでしょうか?
高井 >  メジャーなところでは、まずは「小説現代」の〈ショートショート・コンテスト〉、続いては「コバルト」の〈ベスト・ショートショート〉、そして「SFマガジン」の〈リーダーズ・ストーリイ〉でしょうね。あと、創作サポートセンター主宰の〈大阪ショートショート大賞〉なんてのもあります。これは年に1度の募集で、堀晃さんとぼくが選考委員を務めています。
雀部 >  けっこうあるんですね。なんか投稿してみたくなったなぁ(笑)
 実は、昔書いたショートショートがあるんですが、寸評を頂けたら励みになります(汗)
 (その拙作はこちら
雀部 >  この『ショートショートの世界』は、ショートショートという文学分野において、すごい資料的価値があると思うのですが、いったい何冊くらいのショートショート集を読まれた(集められた)のでしょうか。
高井 >  短い短編小説集ということでリストアップしてある本は現在、約2000冊。ショートショートを数多く含む短編集や掌編小説集も含まれていますので、ショートショート集と言えるのはその8割くらいでしょうか。で、リストアップしてある2000冊のなかで入手しているのは、1800冊弱です。
 読んだ冊数というのは、全く見当がつきません。いちおう、手元にある本すべてに目は通しておりますが、数編しか読んでいない本も多いです。ただ短いだけでショートショートではない本を読み通すのは、ぼくにとって苦痛です。
雀部 >  そうするとショートショート集だけで1600冊くらいなんですね。そんなに出ていたとは(驚) 目を通すだけでも、大変ですね。やはりショートショートに対する愛情がないと出来ないことですよ。
 日本では、まず星新一先生の存在がありショートショートが隆盛を極め、星先生がショートショートを書かれなくなった頃に下火になったと解釈しても間違いではないでしょうか?
高井 >  いや、これはあくまでも、ぼくが把握している限り、ということです。知らない本もたくさんあるでしょうから、ショートショート集は2000冊くらい出版されているのではないでしょうか。ページ数の関係で果たせなかったんですが、『ショートショートの世界』にショートショート集リストを載せられなかったのは残念です。「え? こんな作家がショートショート集を?」と驚かれると思います。
 まあ、それはともかく、こうしてショートショートの歴史を振り返ってみると、あらためて、星さんの偉大さを感じますね。星さんが休筆宣言をされたのは1983年で、すぐに「下火になった」わけではありませんが、ショートショートの現状は、星さんの休筆が大きく影響していると思います。
雀部 >  まあ、素人の私でもそう感じますから。惜しかったなぁ……
 では海外では、現在ショートショートはどの程度書かれているのでしょうか。
高井 >  はっきり言って、海外の現状は、全くわかりません。ただ、もともと海外では、ショートショートというものが独立した分野として成り立ってはいないのではないかなあ、なんて思っています。
『超短編小説序論』(白帝社)や『中国科学幻想文学館』(大修館書店)によれば、中国では人気があるようです。
雀部 >  そうか、そういえばアメリカあたりでは、ショートショートという分類は無いとどこかで聞いたことがあるような気がします。
 スレッサーの『夫と妻に捧げる犯罪』(30篇)を読み返してみたら、なんか古い感じがしたんですが―ブラウンの『まっ白な嘘』(17篇)とか『天使と宇宙船』(16篇)はそれほどでもありませんでした。こういうのは、やはり内容によるんでしょうね。星先生も、時事ネタは扱わないようにされていたし。
高井 >  『ショートショートの世界』では海外ショートショートの御三家として、雀部さんの挙げられたブラウン、スレッサー以外に、レイ・ブラッドベリを挙げました。三者三様、それぞれ全く作風が違うんですね。共通しているのは、短い小説をたくさん執筆し、それが面白いという点だけ。
 ショートショート度(なんて言葉はありませんが)の高さは、ブラウン、スレッサー、ブラッドベリの順番と思います。で、ぼくは、ブラウンの作品が最も好きです。
雀部 >  私もブラウンの作品が一番好きです。ミステリも含めて翻訳本は全冊制覇しました(笑)
 高井先生の『ダモクレス幻想』(10篇)はとても好きな短編集なんですが(特に男女の恋愛に絡めたやつ)これはショートショート集といっても良いのでしょうか。長さ的には、ちょっと長めのが多いけれど、完全なプロット・斬新なアイデア・意外な結末(特にこれが効いている作品が多い)と三拍子揃っているように感じましたが。
高井 >  ありがとうございます。そういう読み方をしていただけると、とても嬉しいです。ぼくの短編は原稿用紙30枚前後の作品が多いのですが、『ダモクレス幻想』収録作に限らず、それらの多くは「長いショートショート」と言ってもいいかもしれません。もちろん、短さはショートショートの命ですから、ショートショートと言うのは難しいんですけれど。
 たまたま短編の執筆依頼があったから短編にしただけで、ショートショートの執筆を要請されていれば、これらの短編はショートショートとして書かれていたかもしれません。たいていのアイデアはプロット次第でショートショートにも短編にもなりますから。
雀部 >  短い作品集というと、最近では、眉村卓先生の『妻に捧げた1778話』(新潮新書)とか室井佑月先生の『クルマ 3分間小説×89篇』(中公文庫)のようなショートショートとエッセイの中間のような作品もあるようですが、これらもショートショートの仲間に入れても良いものでしょうか?眉村卓先生の本には、感動しましたし、室井先生の本は、毒が効いていて面白かったのですが。
高井 >  『妻に捧げた1778話』には、ショートショートもありますが、エッセイに近い作品も多いですね。すべての作品の背景を考えると、胸に迫るものを感じます。
 室井佑月さんには『ぷちすと』(中央公論新社)もあります。でも実は、室井さんの作品は1冊も読んだことがないんですよ。ですから、ノーコメント。
雀部 >  高井先生の名古屋弁爆笑SF『名古屋の逆襲』や『ショートショートで日本語をあそぼう』を読ませて頂くと、とても日本語を大切にしてらっしゃるなと感じました。
 私なんかは、今の言語の乱れというか若者の語彙が少なくなってきていることに危機感をおぼえています。このままでは小説自体を読む人が無くなってしまうのではないかと。ショートショートは短くて取っつきやすいですから、読むにしても書くにしても格好の教材になると思うのですが。
高井 >  まずは、「今の言語の乱れというか若者の語彙が少なくなってきている」という点ですが、全く同感です。語彙が少ないものですから、勝手に新しい言葉を作り出すんですよね。まあ、仲間内での符牒みたいな使われ方をしているのでしたら問題はありませんし、ぼくも若いころには、そういった言葉遊びを楽しんでいました。ただ、使うのは仲間内だけで、それ以外の人と話すときには、そんな言葉は使いませんでした。いまの若者たちは、そういう意識が全く欠如していますね。
 でも、それより大きい問題は、マスメディアにあります。10年前と現在では、情報の伝達速度が全く違います。むちゃくちゃな若者言葉を、さもそれを知っていることが嬉しいみたいに使いまくるタレントたち。まともな日本語が話せず、しかしそれを恥ずかしいとも思っていないアナウンサーたち。――彼らの責任は大きいと思います。若者に迎合しているとしか思えない姿勢には、腹立ちさえ覚えます。
 ショートショートが「読むにしても書くにしても格好の教材」というご意見は、本当にありがたいと思います。『ショートショートの世界』でも書きましたが、現在の若者たちはショートショートを読む機会が少なく、その魅力を知らないのです。どこか大きな出版社が〈ショートショート・フェア〉を開催してくれれば、状況は一変するのではないでしょうか。いまや絶版になっている傑作ショートショート集を復刊して……。あるいは、各作家の傑作ショートショートだけを集めた『ショートショート全集』を出すとか……。そんな企画が実現するなら、全面的に協力します。
雀部 >  はい! 『ショートショート全集』読みたいです。
 名作ショートショートがTVドラマ化されるとか、ないですかねぇ。
 古今の名作ショートショートは、この『ショートショートの世界』の中で書名が上げられてますが、現在入手可能なショートショート集で、高井先生のお薦めの本というと……
 高井先生のものだと、前述の『ショートショートで日本語を遊ぼう』なんかは爆笑の連続でしたし、中古市場で手に入れば『うるさい宇宙船』や『夢中の人生』も傑作ショートショート集ですね。
高井 >  なんと言っても、星新一『ボッコちゃん』(新潮文庫)でしょう。これは必読。ほかには筒井康隆『怪物たちの夜』(徳間文庫)、『小松左京ショートショート全集(全5巻)』(ハルキ文庫)、『都筑道夫恐怖短篇集成(全3巻)』(ちくま文庫)、阿刀田高『食べられた男』(講談社文庫)などなど……。古い作家では、『城昌幸集 みすてりい』(ちくま文庫)は絶対のお勧め。アマチュアの作品でも、星新一編『ショートショートの広場1』(講談社文庫)はまさに傑作アンソロジーだと思います。
 海外の作家では、ブラウン、スレッサー、ブラッドベリはもちろんですが、ともあれ《異色作家短篇集》(早川書房)ですね。最近、全20巻の新編集版の刊行が開始されましたし、ぜひ読んでいただきたいと思います。あと、《奇想コレクション》(河出書房新社)もお勧めです。モーリス・ルヴェル『夜鳥』(創元推理文庫)もいいですよ。
 まあ、詳しくは『ショートショートの世界』を参考にしてください。新刊で買うのは難しくても、図書館には所蔵されている本が多いです。
雀部 >  今回は、お忙しいところインタビューに応じていただきありがとうございました。おまけに拙作に寸評までいただき恐縮しております。
 最後に、近刊予定とか執筆中の作品がございましたらお教え下さい。
高井 >  12月17日、講談社・青い鳥文庫から『おかしなおかしな転校生』という長編が刊行される予定です。これはぼくにとって初めてのジュブナイルSFです。シリーズ化を考えていますが、それは第1巻の売れ行き次第ということで……。書店に行った際、児童書のコーナーにも足を運んでいただければ嬉しいです。
『おかしなおかしな転校生』
> 高井信著/たなかしんすけ絵
> ISBN 4-06-148710-8
> 講談社青い鳥文庫
> 620円
> 2005.12.15発行
 野球部でレギュラーをはっている中学二年生の友太郎は、学校からの帰り道、すごい美少女と出会った。しかも、なんとその美少女が友太郎に微笑みかけてきたのだ。えっなんで?実は、彼女は友太郎と同じマンションに三年前から住んでいたというのだが……
 
多分SFシリーズものになるかと(笑)


[高井信]
1957年名古屋生まれ。東京理科大理学部卒。79年に「奇想天外」誌にショートショート二編が掲載され、作家デビュー。今回取り上げた作品の他にも『超能力パニック』『スプラッタ・ラブ』等の作品集がある。90年以降は、ロールプレイングゲームに材を取ったファンタジーでも活躍、『風雲のズダイ・ツァ』『女王アイラスの受難』等の長編や、「ソード・ワールド・ノベル」「妖魔夜行」といった連作シリーズでも活躍中。
日本作家クラブ、日本推理作家協会会員。
[雀部]
下手の横好きショートショート好き(笑) 某所で、200〜400字の短いショートショートを、みんなと楽しく書いていたことがありました。自分で書いてみると、プロのすごさと巧さがよく分かります(汗) 今回は、本邦初のショートショート解説本が出たので、喜び勇んでインタビューさせて頂きました(嬉)

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