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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ
『「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ』
> 谷岡一郎著
> ISBN 978-4-16-660110-3
> 文春新書
> 690円
> 2000.6.20発行
 日本の調査の過半数はゴミである。デタラメ社会を脱却するために、今こそゴミを見分ける目が必要だとする著者による、アンケートや調査のプロセスでやってはいけないことを実例付きで解説した著作。

『データはウソをつく』
> 谷岡一郎著
> ISBN 978-4-480-68759-3
> ちくまプリマー新書
> 760円
> 2007.5.10発行
 『「社会調査」のウソ』に続き、ではどうすべきなのかを中心に、若い人々にも分かりやすく解説した著作。「マスコミが事実をねじ曲げる手法」から、分析の手順、本物と偽物の情報を見分けるコツを解説。
 『SFはこれを読め!』と同じく、ちくまプリマー新書から出ているこの本は「マスコミはいかに事実をねじ曲げるのか」という章で、実名をあげて「世論の誘導」「意図的な省略と曲解」「データの誤用と悪用」などについて書かれています。昨今のマスコミはちょっと変だと感じられている方は、ぜひ読んで本物の情報を嗅ぎ分ける能力を身につけて下さい。谷岡先生の本が売れれば、またSF関係の本が出せるはずです(笑)
データはウソをつく

SFはこれを読め!
『SFはこれを読め!』
> 谷岡一郎著/横山えいじイラスト
> ISBN 978-4-480-68783-8
> ちくまプリマー新書
> 760円
> 2008.4.10発行
 「SFは、科学を通じた現代社会への賛歌である。テーマ別のオススメ本を通じて、社会とは何か、生命とは何か、人はどう生きるべきかなどについて考えてみよう。」ということで、大のSFファンである著者が、古今東西のSF本について熱く語った一冊!

『脳がよろこぶ 思考力アップ!パズル
―エレガントに解ける魅惑の66題―』
> 谷岡一郎著
> ISBN 978-4-569-70141-7
> PHP研究所
> 950円
> 2008.8.22発行
古今東西の優れたパズル書の中から、厳選した66題を紹介した著作。
脳がよろこぶ 思考力アップ!パズル

雀部 >  「アニマ・ソラリス」のこのインタビューを読まれた方からメールを頂きましたので、紹介します。
 『私もお二人に歳が近いので、インタビューを大変面白く読ませて頂きました。谷岡先生にお聞きしたいのですが、南カリフォルニア大学で犯罪学を修められたとなると、いろんな研究機関や記録保管所で膨大な犯罪の公式記録を目にする機会がきっとおありだったでしょう。あちらの大学では教授から課題を出されて、公的機関に電話を入れて調べてこい、というのがありまして、実際、そこら辺の情報公開というのは、アカデミックな面からアクセスすると結構協力してくれるそうです。ひょっとしてFBIとかにも協力をお願いしたことがおありでしょうか』
谷岡 >  FBIは、ワシントンD.C.近郊のアカデミーを訪れて、いくつか実習や研究所をみせてもらったことがある程度です。地元のLAPDには、教授に連れられて、麻薬犯の取締りのSWATによる討入り(?)を安全な場所から見学したことはあります。情報は基本的にすべて公開ですから、学術機関からの頼みは、だいたい聞いてくれるはずです。
雀部 >  続きです。
 『専門家である谷岡先生が、犯罪という視点から人間というものをどう見ておられるか、まあ、ちょっとこれはインタビューでは収まりそうにない大変なものになりそうな気がしますが、いかがでしょう(笑)』
谷岡 >  私は基本的に性悪説に立ちます。人間とは、不断の努力によって躾けられないと、自分の欲求に従って行動してしまう。つまり自然と悪いことを考えたり、やったりするものだということです。これ以上話をするとキリがないのでやめておきましょう。
雀部 >  そういえば、谷岡先生は第9章で、ソウヤー氏の『ホミニッド』を高く評価されてましたね。ネアンデルタール人が世界の中心になった世界の話で、個人の行動を全部記録し、犯罪を犯した人物の係累まで断種するという徹底ぶりでした。

 さて、第7章は「戦闘・活劇――リーダーの成長と決断」ということでテーマ本が『エンダーのゲーム』と『無限の境界』ですね。どちらも活劇あり、考えさせられるところもありのお薦め本だと思います。谷岡先生が騎士道―"ノブリス・オブリッジ"(高貴な者の責務)に言及されていたのは我が意を得たりですね。
 中編集『無限の境界』の中で表題作の「無限の境界」が一番面白いというのは、まさにその通りなんですが、私の一番好きなのはヒューゴー賞受賞作の「喪の山」です。これは統治する者の悩み・難しさが良く出た作品だと思いました。谷岡先生はどう思われましたか。
谷岡 >  「喪の山」も捨てがたい魅力を持った作品です。でも、「無限の境界」の奇天烈な設定に軍配を上げざるをえませんでした。集団(社会)心理学的にも学ぶことの多い作品です。雀部さんにお聞きしたいことは、なんで他の二作品が賞をとって、これが賞をもらえなかったのかということです。不思議じゃないですか?
雀部 >  アメリカ人も感動するのが好きなんでしょう(笑) 面白いだけという作品は、受賞という面からは、なんか不利な気がしますね。
 集団心理じゃないですけど、敵の捕虜にされたという点では一致する「宇宙のウィリーズ」はお好きでしょうか。私は大好きなんですけど(笑)
谷岡 >  口先三寸で、宇宙全体をとんでもない方向に持っていくやつですね。ユーモアのセンスが秀逸でおもしろい作品でした。
雀部 >  日本にもあんな政治家がいれば応援するんですが(笑)
 スペオペといえば、私は《銀河辺境シリーズ》が好きだったんですが、谷岡先生はいかがでしたでしょうか。
谷岡 >  いっぱいありますね。ノウンスペース・シリーズ、デューン、レンズマン・シリーズ、人類補完機構モノ、知性化シリーズ(スペオペから少々はずれるものもあるかいな?)、むろん銀河帝国興亡史モノおよび銀河辺境シリーズなどなど。そして忘れてならないのは、日本の誇る銀河英雄伝説でしょうか。若い頃の原点は、レンズマンでしょう。
雀部 >  確かにレンズマンは、私らの世代ではスペオペの原点ですよねえ……
 銀英は、『SFはこれを読め!』でも"further readings"として紹介されてますね。
 ニュースペオペでは、他にお薦めは《スコーリア戦史》があります。
 ハード度は、ヴォルコシガン<スコーリアと言ったところかな。お話の巧さというか完成度は、ヴォルコシガン>スコーリアでしょうが。 《スコーリア戦史》はどうでしょう?
谷岡 >  え〜?未読です。ネットで調べてみたら、ロミオとジュリエットの宇宙版とか。エヴァンゲリオンのイカリ君もそうですが、ウジウジした男は、正直あまり好きになれませんが、読むべきですか?
雀部 >  いえ、ヒーローがうじうじしているというよりは、ヒロインが男前なんです(笑)
 そういえば、《スコーリア戦史》のブックレビューやってます。作者が女性科学者ということもあって、スペオペには珍しくハードSF度も高いです。
 "further readings"では、『終わりなき戦い』も上げられていましたね。まあこれは、リーダーの決断とは無縁な延々と続く闘いの話ですが。
谷岡 >  『終わりなき戦い』と『虎よ!虎よ!』のどっちが好きか、という設定で、7人の友人グループで4対3に分かれたことがあります。私はホールドマン派でした。ところで、私の本の中で『終わりなき平和』を続編と書きましたが、これは別個の話ですね。
雀部 >  書かれた年代が違いますからねぇ。
 『終わりなき戦い』と比べるんだったら、ディクソンの《ドルセイ》とかハリソンの『宇宙兵ブルース』あたりはどうでしょうか?
谷岡 >  設定を比べるのでしたら、それもあるでしょうね。ただ、高校時代の友人達と、どっちがおもしろいかという見解が分かれただけの話です。
雀部 >  う〜ん、面白さの種類が違う気が(笑)
 第8章は、「人工知能――パソコンが自我を持つ日」ということで、テーマ本が『月は無慈悲な夜の女王』と『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。
 『月は無慈悲な夜の女王』に出てくるAIのマイクロフト君は確かに魅力的ですよね。色々面白いジョークを研究しているところなんか、ツボです(笑)
 魅力的なAIというと、日本では筒井康隆先生の「お紺昇天」はどうでしょうか?
 クルマに搭載されたAIではありますが。
谷岡 >  雀部先生のポケットは、無尽蔵にSFがつまっていて楽しいですね。クルマのAIとしてはタニス・リーものが有名ですけど、そう言えば「お紺昇天」もそうですね。よく覚えていませんが、かなり強烈な個性だったような・・・。
雀部 >  ポケットにはSF以外何もないんです(笑)
 「お紺昇天」は、AI搭載のクルマに寿命が来て廃棄処分にされる際の泣ける話でした。
 タニス・リーもAI搭載のクルマSFって、読んだことありません。『銀色の恋人』は耽美的でちょっと面白かったですが。
谷岡 >  雀部先生は泣ける話が好きみたいですね。将来パソコンが自我にめざめて、個性を持った時のことを考えておいた方がいいですね。私には廃棄できないかも。よっぽどヤナやつなら別ですが(笑)。
雀部 >  泣ける話は、SFファンなら絶対に好きなはずです(笑)
 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ですが、映画『ブレードランナー』はどうでしたでしょうか? 私は、ディックの映画化された作品の中ではダントツと思ってます(笑)
谷岡 >  私も同感です。ただしこの前観た「<ピ〜〜〜?(検閲済)>」は特におもしろくなかった(歳のせいですかねぇ)。ま、しかし映画化されたSFの90%以上は、小説の方がおもしろいから、しょうがないと言えばそのとおり。
雀部 >  まあ『ブレードランナー』も、原作の味はほとんど感じられませんが(笑)
 第9章は「タイム・スリップとパラレル・ワールド――歴史のifについて」、テーマ本が『戦国自衛隊』と『発狂した宇宙』です。
 "あなたが突然江戸時代後期にタイムスリップしたら、あなたは現代人の利点をどう活かしますか"という谷岡先生からの問いがありますが、これなかなか難しいですね。現代文明の利器の数々は、工業製品なので工業の裾野がちゃんと出来上がってないと作るのが大変です。う〜ん、私だと戯作者として頑張ってみますか。馬琴が『南総里見八犬伝』をまだ書いてなかったら、先に書いてしまうとか(笑)
谷岡 >  話の筋は覚えていても、馬琴と同じようなおもしろさで、しかも江戸の人々に受けるかどうかは別問題ではないですか。雀部先生の筆力を疑うわけではありませんが。
雀部 >  谷岡先生、それを言っちゃあ(爆笑)
 further readingsとして、『エロス』、『リプレイ』、『七回死んだ男』、『パヴァーヌ』があげられています。この中で西澤保彦さんの『七回死んだ男』は、殺される男の孫が時間の反復落とし穴に嵌り込んだという設定のミステリですごく面白かったです。西澤さんは、他にも『人格転移の殺人』『瞬間移動死体』『ナイフが町に降ってくる』とか題名だけでも設定の異様さ―(笑)―が直ぐ分かるSFミステリを沢山書かれてますね。
谷岡 >  『七回死んだ男』はだいぶ前に読んだキリで、本人が殺される話と思って、本文で間違ってしまいました。この場を借りて訂正させてもらいます。なんせ、再版の予定がないもんで・・・。西澤さんのSFモノでは、「人格転移…』が強烈な設定でした。でも彼はやっぱりミステリー、中でも匠千暁シリーズがいいですね。私のイチオシは『麦酒の家の冒険』です。
雀部 >  あ、それ読んでないかも。φ(..)メモメモ
 西澤さんでは、《神麻嗣子の超能力事件簿》シリーズもとぼけていて好きです。
 第10章は「テクノロジーの進歩/ハードSF――ブラックホールと中性子星」ということで、テーマ本が『竜の卵』と『リングワールド』です。
 一番SFらしいSFがこのジャンル。もはや古典ですが、クレメントの『重力への挑戦』はどうでしたでしょう。中性子星には及びませんが、重力が地球の700倍という巨大惑星が舞台です。大好きで、高校の時に十数回読みました(笑)
谷岡 >  たしかに名作ですけど、十数回読みますかねえ。雀部先生はむかしから変人扱いされてたでしょ(笑)。
雀部 >  変わっているというのはSFファンにとっては誉め言葉ですから喜んでおきましょう(笑)
 まあ、高校生の時からコントラクトブリッジを始めて、大学1年生の時に歴代最年少の全日本学生リーグ委員長となった谷岡先生に比べれば、私なんか単なる田舎の変わり者です(爆) コントラクトブリッジの一番の魅力は何でしょうか。私も何度かプレイしたことはあるんですが。
谷岡 >  知的で社交的でエレガントで…、なんて、どうでもいい。ブリッジの本当の魅力は闘争でしょうね。ライバルを倒した時、特に論理思考で上回った時の喜びはとても書けません。あとは、次の手を見る時のワクワクする気持ちもいい。でもブリッジの一番より、やはり雀部先生の方が変人度は上でしょう(笑)。
雀部 >  こんなところで変人争いをしようとは(爆笑)
 『竜の卵』と『重力への挑戦』の共通点として、異星人の考え方がきわめて人間ぽいところがあります。これは読まれてどうでしたでしょう?(私は必要悪だと思ってますが)
 反対な設定なのが、人間には全く理解できない『ソラリス』(笑)
谷岡 >  私は逆に、異星人とて、一定方向に進化して、知能の高い生物が出現したとしても、似たような性格や思考になるのでは、と考えています。「ソラリス」みたいに、なるかなあ…。
雀部 >  ただの一例も、異星生命体が見つかっていないので、分かりませんよね。
 further readingsが『スタークエイク』『中性子星』『楽園の泉』『タウ・ゼロ』『天の筏』『さよならジュピター』『宇宙船オロモルフ号の冒険』です。
 最近の日本も、ハヤカワSFシリーズ Jコレクションだけでも小林泰三さんの『海を見る人』『天体の回転について』、林譲治さんの『ウロボロスの波動』『ストリンガーの沈黙』『進化の設計者』、野尻抱介さんの『太陽の簒奪者』などハードSF系のものが増えてきて喜ばしい限りです。
 最近の日本のハードSFはどうですか?
谷岡 >  そもそもハードSFは、日本人に向いていると思います。書くのも、読むのも、です。一般的な科学の啓豪書を最も身近に手に入れられる国は日本だと信じています。林譲治さんのもいいですね。JコレクションはSF目ききの編集人がいるように思えます。
雀部 >  同感の嵐(笑)
 Jコレの編集人は、確かSFマガジン編集長の塩澤さんだと思います。
 第11章は「センス・オブ・ワンダー――究極のホラ話」ということで、テーマ本が『星を継ぐもの』と『ハイペリオン』です。両方とも文句なく面白いっす(笑)
 ホラ話というと、真っ先に出てくるのはラファティ氏あたりなんですが、よりSF度が高いベイリー氏の『時間衝突』はいかがでしたでしょう。時間の二つの流れが衝突するというまあ凄い話ですが(笑)
谷岡 >  『時間衝突』も重要な候補でした。ただ、高校生あたりの読者におススメを選んでくれ、ということでしたので。でもイケそうな気もしますね。
雀部 >  高校生がメインの対象だったんですか。なるほど、そう言われるとセレクションにも思い当たるところがありますね。
 もう一つ。有史以来の総ての人類が、巨大な河岸で生き返るという凄まじい設定であるファーマー氏の《リバーワールド》シリーズはどうでしたでしょうか。ちょっと腰砕けの感はあるんですが(笑)
谷岡 >  体調の悪い時にスタートして、好きになれず、途中でやめた本もたくさんあります。「リバーワールド」シリーズもそうですし、C.J.チェリイももう一度トライするべきか悩んでいます。それと、ローダン・シリーズは最初からあきらめました。
雀部 >  チェリイ女史とローダン・シリーズは置いとくにしても(笑) 《リバーワールド》のヒューゴー賞を獲った第一巻『果てしなき河よ我を誘え』は、ぜひトライしてみて下さい。
 この章で谷岡先生が"センス・オブ・ワンダーの終点"で書かれてますが、SFのムーブメントとして、ニューウェーブとかサイバーパンクとかがありましたが、そういう要素も自家薬籠中の物にしているイーガンとかチャンのような作家がもっと増えるとSFの将来も安泰ですね。
谷岡 >  そう願っています。誤解されるといけないので付言しておきますが、私はナノテクやサイバーパンク(70年代ではなく80年代?)の作品も好きです。文中で「チマチマした…」と表現したのは、宇宙と比較しての話です。
雀部 >  あ、私も谷岡先生はサイバーパンクはお嫌いなのかと思ってました(笑)
 サイバーパンクについては、ギブスンの「クローム襲撃」('82) 『ニューロマンサー』('84)ですから、80年代のムーブメントだと思います。
 巻末の「座談会1――短篇の楽しみ」と「座談会2――オール・タイム・ベストSF」も楽しく読ませて頂きました。谷岡先生のセレクトで、両方にコードウェイナー・スミス氏が入っているのが嬉しかったです(大ファンなもので)
谷岡 >  息子の好みは私に似ているでしょう? あたりまえですが、息子は私の書庫から、私のおススメを読み続けたので、そうなっただけの話です(笑)。コードウェイナー・スミスは、私も息子も大ファンで、すべて読んだはずです。
雀部 >  えっ"辰郎"君って先生の息子さんだったんですか(驚)
 じゃ"ひろ子"さんは?
谷岡 >  "ひろ子"さんは私の元秘書でした。大阪商業大学(他に例は知りませんが)では、職員が週に1コマ、業務免除で好きな授業をとっていいんです。彼女も変人(「恋人」ではありません、念のため)の栄冠に輝く人間でした。辰郎は知る人ぞ知る、本オタクでして、今年24歳になります。幼少の頃より、私の書棚を荒らしまくっておったのです。本人はジョージア工科大生ですが、私の授業もゲストで来てもらったので登場させました。
雀部 >  今の秘書さんも変わった方なのですか(笑)
 親子二代でアメリカ留学なんですね。憧れるなあ……
 さて、楽しい時間はあっというまに過ぎてしまいました。まとめとして、SFを読む効用についてお伺いしたいと思います。まあSFは面白ければ良いというのも正論には違いないのですが(笑)
 「小松左京マガジン」29巻で、オックスフォード大学の下村先生が、「さよならジュピターのミステリ」と題され、「環境問題」という面から『さよならジュピター』を解読されています。その中で、地球温暖化をテーマにした映画『不都合な真実』と、地球温暖化は科学者によるでっち上げだというクライトン氏の『恐怖の存在』という相反する立場の作品を取り上げ、どちらにもデータの扱いに不備があることを指摘されています。しかし、この両作品には多大な影響力があったと感じてます。
 作品の整合性を何より大切にするSFを読み慣れた読者なら、こういった都合の良いデータや文献だけを引用するやり方に気が付いて、眉に唾を付けて読むんじゃないかなと思うわけですが……
谷岡 >  どっちも読んだら恐くなって、なんとなく納得させられるわけですが、まあ半日もたつと「本当かいな」と考えるようになる。もっと慣れると、読みながら「本当かいな」と考えられるようになります。しかし今の平均的(?)人々は、嘆かわしいことに何日たっても疑わないようですな。SFは少なくとも考える力をつける効用があると信じています。でも雀部先生のおっしゃるように、夢のある「おもしろさ」こそSFの核でしょうね。
雀部 >  確かに。
 それと関連しますが、谷岡先生の書かれた『データはウソをつく――科学的な社会調査の方法』や『社会調査のウソ』も、いかに世の中にいい加減な調査がはびこっているかが糾弾されていて小気味よかったです。
 統計調査でウソをつくというのは知っていましたが、都合の良い結果に誘導するやり方がこんなにあるとは目から鱗でした。
 これらの本を書かれた最大の眼目は何でしょうか?
谷岡 >  眼目なんか別にありませんね。文春新書の人から、何か書いてくれ、と頼まれまして、書きたいのは「SF」、すぐにでも書けるのは「社会調査」だと答えたんです。すると、社会調査にしてくれと(笑)。あの本は授業で教えていた内容や、新聞の切り抜きをまとめただけで、3ヶ月で仕上がりました。苦労した本ほど、力を入れた本ほど、そして売れてほしい本ほど売れないもんですねえ。
雀部 >  え、そんなこと公言していいんですか(笑)
 谷岡先生、長期間にわたってインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 最後に、現在執筆中の本、近刊予定がございましたら教えて下さい。このご時世、SF関係の本は無いとは思いますが(笑)
谷岡 >  PHPから『脳がよろこぶ 思考力アップ!パズル ―エレガントに解ける魅惑の66題―』という本を出しました。今、パズルにハマッておりまして、自作のペンローズ・タイルを作ってみました。

パズル集合
パズルピース

 言わずと知れたキングギドラとゴジラのモチーフです。あとは、刑法の本を執筆中です。どうもありがとうございました。
雀部 >  わっ、これは素敵ですね。ネクタイにしたいなあ。
 『脳が喜ぶ』も早速読ませて頂きました。問題5までは連続正解だったんだけどなぁ(汗)
 谷岡先生のところの大学生は、どれくらいの正解率なんでしょうね。
谷岡 >  うちの学生は知らんはずです。本の紹介ありがとうございました。


[谷岡一郎]
1956年大阪生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、南カリフォルニア大学行政管理学部大学院修士課程修了、同大学社会学部大学院博士課程修了(Ph.D)。専門は犯罪学、ギャンブル社会学、社会調査方法論。現在大阪商業大学教授、学長。
著書に、『データはウソをつく――科学的な社会調査の方法』(ちくまプリマー新書)、『ギャンブルフィーヴァー』(中公新書)『ツキの法則』『カジノが日本にできるとき』(以上、PHP新書)、『「社会調査」のウソ』(文春新書)、『こうすれば犯罪は防げる』(新潮選書)等々がある。
[雀部]
1951年岡山生まれ。やはり谷岡先生とは、話が合いました。
ちょっと二人だけで盛り上がりすぎたかも(笑)

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