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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『カラー図解 宇宙のしくみ』
> 福江純著
> ISBN-13: 978-4534044556
> 日本実業出版社
> 1600円
> 2008.10.20発行

第1章 真実の章
第2章 古代の章
第3章 日月の章
第4章 星辰の章
第5章 銀河の章
第6章 開闢の章
第7章 次元の章
第8章 起源の章
第9章 生命の章

◆ページをめくるだけで“楽しい”宇宙の本!
〈ゼロからのサイエンス〉シリーズの新たな柱となる「カラー図解」の第1弾です。
昨年、月探査に成功した「月周回衛星かぐや」や、日本が誇る「すばる望遠鏡」、「太陽観測衛星ひので」などが撮影した写真をふんだんに掲載し、パラパラとページをめくるだけで、恒星や惑星の美しさと雄大さを感じられる本です。
ページ構成は、〈ゼロからのサイエンス〉シリーズの基本である1項目2ページ、わかりやすい文章で解説していく入門書です。


『天と地の理をさぐる 地球学と宇宙学』
(リベラル・アーツナチュラルサイエンスシリーズ)
> 福江純、小西啓之、吉本直弘、廣木義久、松本桂著
> ISBN-13: 978-4903814278
> プレアデス出版
> 2000円
> 2009.11.2発行
第一部 大気と水に包まれた青い地球
 1,水はどんな役割を果たしているのか
 2,地球に大気があるのはなぜか
 3,雨や雪はなぜ降るのか
 4,地球は温暖化しているのか
第二部 溶けた内部と動く大地
 5,地球はなぜ丸いのだろうか
 6,火山の噴火が岩石をつくる
 7,堆積したり熱の作用で違う岩石ができる
 8,地層を読むと地球の歴史が読める
第三部 星々に満ちた無辺の宇宙
 9,月はなぜ姿を変えるのか
10,太陽はどうして輝いているのか
11,ブラックホールは視ることができないのか
12,われわれの住まう宇宙の真実

『カラー図解でわかる光と色のしくみ』
> 福江純、粟野諭美、田島由起子共著
> ISBN-13: 978-4797344257
> ソフトバンク クリエイティブ株式会社
> 952円
> 2008.8.24発行

 私達の身の周りの世界を彩る光と色。ただ私達はその恩恵を受けるだけで、実体について考える機会をもたないで過ごしている。そこで本書では、光とはなにか、色とはなにか、という基礎知識から、さまざまな物理現象、星や地球、生物がつくりだす彩りあふれる世界について、写真や図をふんだんに使って解説してゆく。

第一部 光とは色とはなにか
第二部 星の色、天の光
第三部 空の光、地球の色
第四部 生物の色、命の輝き


雀部 >  先月のお話では、「ブラックホールの大きさは単純に質量に比例するので宇宙の質量と同じブラックホールだと、だいたい宇宙の半径ぐらいになります。」とのことでしたが、これはシュバルツシルト半径が、現宇宙の半径の半分くらいになるということなんですか。
 なんかとてもデカイ気がします。恒星間(銀河間)の距離だけ縮めればそのまま宇宙が入りそうな(笑)
福江 >  まぁ、宇宙自体が閉じた体系なので、逆に、違うと、相対論がおかしいことになって、それはそれで困りますが。
雀部 >  相対論が違うとなると、まあそれは大変でしょうね。
 最近は「ブラックスター」とかいうものも話題になっているようですね。
福江 >  えっと、聴いたことがあるような、ないような。
 「グラヴァスター(gravastar)」とは違うヤツでしたっけ。
 グラヴァスターはブラックホールに替わる代物として提案されている天体ですが、実は、こっちも名前ぐらいしかしらない(笑)。
雀部 >  特異点を持たないブラックホールもどきみたいな話でした。グラヴァスターも検索してみましたが、なんか色々出てきてますねえ(笑)
 『カラー図解 宇宙のしくみ』の8章「宇宙は開闢時にとてつもない急膨張をした」で、高温相の真空から、現在の低温相の真空に相転移して、膨大な潜熱が放出されビックバンが起こったと書かれてます。この高温相の真空は、現在の宇宙に存在している可能性はないのでしょうか。ブラックホールの近辺とか。
福江 >  宇宙全体で同時に相転移が起こるとは考えにくいので、各所に高温相の真空が(少なくとも)一時的には残っている可能性はあるでしょう。
 さらにすべてが低温相の真空に相転移した後にも、そのような遅れて相転移した領域は位相欠陥として残ってしまう可能性もあります。
 位相欠陥が面上の場合をドメイン、線上の場合をコズミックストリング、そして点状の場合がモノポールになる、そうです。
 そういう部分では重力場も高温相の真空の名残なので、コズミックストリングなどは存在すれば重力レンズとして働きます。
雀部 >  残っている可能性はあるんですね。
 グレゴリイ・ベンフォード氏は、コズミックストリングを何でもぶった切れる武器として使用してますが、そういう用途にも使えますか(笑)
福江 >  はい、それはもうばっちりです。
 何しろ時空の欠陥ですから、この世に実在する物体ならば、確実にぶった切れます。逆にドメインを使えば、この世に実在する物体が決して通過できない時空の盾となります。
 ここらへんは、以前に拙著、『SFアニメを科学する』(光文社)で議論したこともあるんですが、時空の矛(コズミックストリング)と時空の盾(ドメイン)をぶつけたときにどうなるかは、謎のママなので、矛盾は残っていますが(笑)。
雀部 >  この宇宙が終わっちゃって矛盾は起こらなかった結末になるとか(笑)
 超ひも理論もカラー図解で、けっこう分かりやすかったです。
 ブレーンワールドの概念も面白いですねぇ。 重力が、ほかの"力"に比べて極端に弱い力なのは、11次元のバルクを自由に動けるので、その分目減りしていたからだとは(笑)
 ブラックホールの中では、こういうブレーンワールドも更に圧縮されているのですか?
福江 >  ブラックホールはブレーンワールドよりは低次元の存在なので、むしろ、高次元のブレーンワールドの中で、ブラックホールはどんなものなのかが問題のようです。
 高次元ブラックホールはいろいろ研究されているんですが、難しすぎて、もうそこまでは手が届きません(笑)。
雀部 >  高次元ブラックホールというのもあるんですか。ブラックホールだけでも難解なのに、さらに難しいのは想像できません(笑)
 『天と地の理をさぐる 地球学と宇宙学』出版に際しては、福江先生以外の執筆者も総て大阪教育大学の若手の先生方ですね。まさに総力を挙げての執筆かと。
福江 >  はい、地学のスタッフの総力戦みたいな感じですが、“以外”という点が悲しい。。。
雀部 >  す、すみません。執筆者は、福江先生も含めて総てお若いと訂正します(笑)
 地学は「天文学」「気象学」「地質学」「岩石鉱物学」を含む総合的な学問分野であるとされてますが、数学・物理・化学・生物の教養向けシリーズのほうが先に出来上がったようで、地学は遅れたとか後書きに書いてありましたね。
福江 >  と後書きには書いちゃったんですが、企画としては、地学が遅れてしまったので、後から追いかけて頑張りすぎたのか、物理と生物を追い抜いてしまいました(笑)。
 あ、でも、決して、拙速な内容ではないですよ、はい。
雀部 >  あれっ、そうだったんですか(爆)
 著者インタビューさせていただいた作家の方では、藤崎慎吾先生が海洋学者さんで、海洋学というと、海洋地質学・海洋物理学・海洋化学・海洋生物学・海洋気象学・海洋環境科学などと多岐にわたっているそうなんですが、海洋学と地学の関連も深いですよね。
 地球温暖化など、これからは地球環境維持のための学問ももっと進んでいかなければならないのに、授業に地学が無い高校がほとんどだそうで、危機感を覚えてます。私が焦ってどうにもなるものじゃないですけど(笑)
福江 >  ぼくも焦ってもどうにもならないんですよ(爆)。
 でも、地学に限らず、科学というものは、知れば知るほど面白いので、できるだけ、あちこちでその面白さを伝えたくはありますね
 (おお、かなりマジモードです)。
雀部 >  第6章の「岩石を融かしてマグマにするには、熱を加えるのではなく圧力を下げる」という話は、初耳でした。聞けば成る程なあと思いましたが。
福江 >  そうそう、まさにこれがそうで。
 ぼくも高校では地学を履修したし、地学関係のすぐそばに居たわけですが、本書を書くまでは、よく知らなかったことです。
 一応、地学全般には精通していた、と思っていた人間ですが、本書全体の監修をしていて、目ウロコの話が多く、自分自身がとても勉強になりましたね。
 小さい出版社から出てはいますが、地学の教養書としてはイチオシのいい本ですよ(笑)。
雀部 >  地学の専門家が少ない大学におかれましては、ぜひご採用を(笑)
 『カラー図解でわかる ブラックホール宇宙』と同じソフトバンクのサイエンス・アイ新書シリーズで、『カラー図解でわかる 光と色のしくみ』という本も出てますよね。この本は粟野諭美さんと田島由起子さんとの共著なのですが、教え子二人に任せて福江先生は監修だけされたのでしょうか(笑)
福江 >  いえいえ、ちゃんと書きましたよ。
 主に、第1部の光と色の基礎をぼくが担当して、第2部の天界の光が粟野さん、第3部の空の光と第4部の生物の色が田島さんでした。
 それぞれで補い合った感じですね。
雀部 >  失礼しました(笑)
 ということで、粟野さん、お久しぶりです。
 岡山天文博物館と岡山天体物理観測所には何か新しい動きはあったでしょうか。
粟野 >  お久しぶりです。
 山の上は特に変化はありません(笑)
 、、、が、新天文台計画も少しずつ進んでいます。
 また実は来年は、観測所・博物館が開館してから50周年を迎えるということでいろいろ検討中です。
雀部 >  それは楽しみです。福江先生が記念講演会をされるとかが、もしあれば是非聴講に参じたいと思います。
 田島さん、初めまして。よろしくお願いします。
 自然教育事務所「宙」(そら)主宰とのことですが、どのようなご活動をされているのでしょうか。
田島 >  はじめまして、よろしくお願いします。
 そうですね、事務所といっても個人で始めたことで、まだまだ駆け出しなので、できることなら何でもするんですけど(笑)
 星空を眺めたり、公園や森で遊んだりしながら、その体験から自分自身や自然環境について気づきを持ってもらえるような、そんなプログラムを提供する活動をメインにして(したいと思って?)います。
雀部 >  科学する心を持った子供が育ちそうなプログラムですね。人材を育てて技術立国するしか日本の将来展望は無いと常々思っているんです。
 対応範囲はどこらあたりまででしょうか。
田島 >  西洋的な科学する目と、東洋的な全体を直感的に感じるこころを合わせ持つことがとても大切なんだと思っています。
 私の場合、特に活動範囲があるわけではなく、どこでも行きます(^^)
 南大阪に住んでいますが、今度もご縁があって、九州の小さな島で子どもたちと星を眺める予定です。
雀部 >  それは夜空が澄み渡ってそうですねえ。
 田島さんにも、SFの薫陶は授けられたのですか?
福江 >  いや、案外と研究室とか呑み会ではSFの話はしないんですよ。
 恋バナは多いですが。
雀部 >  女性の天文学者は男性に比べると少ないのではないかと想像しているのですが、世界的にみて、女性天文学者ならではの特異点(笑)、研究成果とかはあるのでしょうか。
福江 >  え、これ少し質問の意味が、???
 まっとうなブラックホール特異点の意味ですか。
 それとも女性天文学者の特異点ですか?
 ま、いいか、天文学の研究や教育など天文業界で、最近は女性の割合はかなり増えてはいるんですが、それでもまだまだ少ないですね(とくに日本では)。
 女性ならではというか、ぼくの(とても少ない)見聞範囲では、女性はマジメで几帳面な人が多く、コツコツ仕事するタイプの人が多いようです。
 ま、あと、(ほんとにとてもとても少ない)見聞範囲では、怒らせるとコワイ人も多いですね、誰とは言えないけど(笑)。
粟野 >  誰でしょうね!?
田島 >  先生も怒られたことがありそうですね(笑)
雀部 >  とても少ない見聞範囲の中ということは(笑)
 個人的には第1部20項の「黄色は何色?」が印象深かったです。たしかに、黄色光を見た時にも、赤色光+緑色光を見たときも、同じ黄色と認識します。あくまで人間の脳が認識したものが「色」というわけなんですね。
福江 >  そうですね。ぼくも色の専門家ではないですが、物理的な色と生理学的な色はまったく別物なんでしょう。とにかく、色とか光は、とても面白くて、調べれば調べるだけ、わけがわかんなくなります。
雀部 >  遠近法とか、鏡に上下はそのまま映るけど、左右は反対に映るとかいう問題と、根っ子のところは似ているような気がしました。
 第2部1項「電磁波とスペクトル」で『宇宙スペクトル博物館』の紹介がありますが、このムック本も、福江先生・粟野さん・田島さん(+北本先生・衣笠先生)の共著ですね。
 『カラー図解でわかる光と色のしくみ』を書かれるにあたって、気を付けられたところは、おありでしょうか。
福江 >  ええっと、あったっけ>粟野さん、田島さん
 これは最初からフルカラーで出してもらえるということで、何だか嬉しくって、綺麗な画像を一所懸命集めたぐらいかなぁ。
粟野 >  そうですね。あと(特に天文の分野では)できるだけ最新の画像を載せようと、いろいろ画像を選びましたね。
田島 >  『スペ博』では星と宇宙がメイン素材でしたけど、『光と色』では切り口を変えた分、地球上の身近な例をたくさん取り上げることができましたね。
 その分、写真を集めるのが大変でしたけど、楽しかったです(^^)
雀部 >  やはりカラーとなると綺麗な分かりやすい画像が要りますよねえ。
 第2章23項の「死にゆく星たち」の惑星状星雲の写真、綺麗ですねぇ。これらは合成画像なんでしょうか。
粟野 >  はい、そうです。
 デジタルカメラなどで写真を撮る場合は、三原色(RGB)が基本になっていて赤緑青それぞれのフィルターを通して撮影した画像を合成していますが、ハッブルなど天体観測用カメラは、ある特定の狭い範囲の波長で観測できるフィルターがたくさんとりつけられています。例えば赤でも、橙色に近いとか紫に近いとか、波長によって色が違うので、撮影する天体にあわせてフィルターを変えて撮影して、それらの画像を合成して綺麗な一枚の写真にしています。
雀部 >  一度に撮るんじゃなくて、三回かそれ以上撮るんですか。なかなかご苦労もありそうですね。
粟野 >  たしかにフィルターごとに観測するのは大変ですよね。不安定な天気で途中曇っちゃったりしたら泣けてきます(笑)。
 でも最近のカメラは、一度に複数のフィルターで同時撮像できたりととても便利になってきてますね。
雀部 >  おっと、便利な機器も出来てるんですね。
 24項の「天の川銀河」。赤外線写真では、まさに渦状銀河を横から見たように見えるんですが……
粟野 >  そうですね。
 近赤外で全天サーベイ観測を行うプロジェクト2MASSで観測された画像(エリア)をつなぎ合わせたものがこの画像です。
 銀河面は星間物質やガスがたくさんあるので、可視光ではそれらにさえぎられて遠くを見ることが難しいのですが、赤外はガスの向こうの天体も見ることができるので、フォルムというか構造が良く見えていますね。
雀部 >  赤外線というと、電波寄りの光というイメージを持っているのですが、赤外線と電波では、どういう撮り分け方をされているんですか。
粟野 >  私は赤外というと近赤外のイメージが強いので、電波と言うよりは可視光よりですね(笑)。
 どちらもガスを通り越してその先を観測することができますが、例えば(近)赤外では可視光ではガスに覆われて見ることが難しい誕生したばかりのちょっと温かい星をとらえることができます。オリオン星雲などはその例ですね。さらに電波では、その生まれたばかりの星が放つ電波をとらえるだけでなく、まだ卵の状態の星が放つ電波も観測することができます。これは分子雲や暗黒星雲といって、可視光で見ると真っ黒な雲のかたまりにしか見えませんが、実はその奥にある星の卵は特徴的な電波を放っていて、それを観測することができるんです。
 そのほかもちろん赤外線を強く出している天体・電波を強く出している天体それぞれに合わせて使い分けています。
雀部 >  そういう使い分け方でしたか。
 では、反対にγ線とかの領域は使われないんでしょうか。
粟野 >  もちろんガンマ線の観測もしてますよ。
 超新星残骸とか、極超新星爆発のときに起こると言われているガンマ線バーストの検出に使われています。地上ではできないので、ガンマ線観測衛星が打ち上げられています。
雀部 >  やはり物騒なγ線は宇宙で観測なんですね(爆)
 現在では難しい粒子、例えばニュートリノ望遠鏡が出来るとどんな星が観測しやすくなるんでしょうか。
福江 >  そうですね、まずは、光(電磁波)では観測できない太陽の内部を観ることができます。現在でも太陽から飛来するニュートリノの数を数えて、間接的には太陽内部を観測してはいるんですが、直接的に見えるようになるでしょうね。
 地球の内部なんかもレントゲン写真のように撮影できるようになるでしょうね。
雀部 >  それは楽しみです、出来るといいですよね。
 26項の「活動銀河」。クェーサー3C273のジェットは、右下にしか見えないんですが、これは何故なんですか?
粟野 >  うーん、すみません、わかりません。
 数年前(?)、これについてはまだ詳細はわかっていないという記述を読んだことがあるのですが、その後、進展はあったのでしょうか?
福江 >  ええと、昔から、片方だけ(右下)にしかジェットが出ていないという考えと、両方出ているけどサーチライトを正面から見るように片方だけが目立っている(専門的にはドップラーブーストと呼んでいます)という考えがありますが、どちらが正しいかはわかっていないですね。
 おかげで、まだ研究のネタが尽きません(笑)。
雀部 >  まだまだ、研究ネタは沢山あるんですね。
 同じく、スターバースト銀河M82の写真で、電離水素ガスが吹き出してるように見えますが、これはどういう活動が起こっていると推測されるのでしょうか。
粟野 >  赤いガスはHαで観測された合成画像なんですが、ここ50年ぐらいの観測で、M82の中心部では活発な星生成 (スターバースト) や超新星爆発が起こっていることがわかってきて、スターバースト銀河に分類されるようになりました。
 中心部分の活動によって、高温の電離した水素ガスが銀河の外側まで噴出して、Hα線として見えているようです。この現象は「スーパーウィンド」と呼ばれていて、銀河内の物質を銀河の外側へ運び出し、銀河間空間を加熱する重要な役割を持っていると考えられています。M82の中心近くにはブラックホールも見つかっていて、M82はいろいろ興味深い格好の研究対象のようですね。
雀部 >  ブラックホールもありの星生成もありというと、かなり忙しい銀河なんだ(笑)
 27項「銀河団」で、大規模構造の写真があって、写真提供が「国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト」とあるんですが、これはどういうプロジェクトなんですか。
粟野 >  実際に世界中の天文台で観測された観測データを元に、宇宙の姿をリアルに再現し、かつ立体映像で見てもらおうというものです。国立天文台のプロジェクトなんですが、Mitakaという宇宙空間を自由自在に行き来できるソフトを使って、ちょっとした宇宙旅行を楽しみながら宇宙のスケールを体感することができます。また「月の誕生」や「銀河の衝突」「大規模構造」などなど、シミュレーションムービーもあって、宇宙をまるで見てきたかのように目の当たりにできます(笑)
 実は去年の春から岡山天文博物館にも初代の4次元シアターが入って一般上映をしているんですが、とっても好評です。やはり宇宙のスケールを目で体感できること、そしてスタッフの(最新のネタを交えながらの?)生トークは、宇宙に興味がある(特に大人の)方々にはとても面白いみたいですね。
雀部 >  あれま、地元でやっていたとは(汗)
 ぜひ、見に行かせて貰います。

 第3章「空の光、地球の色」では、「空が青いわけ」「夕焼けが赤いわけ」から始まっているのですが、孫が小学生くらいになったら、この本を使って説明してやろうと(笑)
田島 >  小学生と分光器を作った科学講座でも、熱心な子に聞かれました、まさにこの理由を!
 お孫さんとのそんなコミュニケーションに使っていただけると、私たちとしてもとても嬉しいです。
雀部 >  ちゃんと覚えておかなくては(汗;)
 朝焼けより夕焼けのほうが赤く見えることがあるのは、人間の活動で出てくる塵やゴミのみたいで、ちょっとがっくりきますね(笑)
田島 >  夕焼けって、ちょっと暖かい感じや懐かしい感じ、逆に寂しい感じなど、みんななにかしら思い出と結びついたイメージを持っていて、だから余計にがっくりしてしまうんでしょうね。
 でも山で仕事をしていた頃、お盆などで工場が休みになるときに大阪平野を眺めると、夕焼けがいつもと全然違って赤くなくて、本当にビックリしました。人間活動恐るべし、ですね。
雀部 >  人間活動でそんなに違うんですか。やはり人間活動による温暖化もありそうですね。
 13項「電離圏の妖精」。電離圏での発光現象であるスプライツや、もう少し上空で起こるエルブズは興味深いです。エネルギーの元は何なのでしょうね。
田島 >  本当に、興味深い現象ですよね。
 スプライトの方は、正極性落雷という普通の落雷とは違うタイプの落雷が起こった直後に、電荷の不均衡を補う形で雷雲から電離層に向けて電流が流れる現象だそうです。規模でいうと普通の雷の100倍くらい大きな落雷でないと起きないとか。
 一方エルブスの方は、同じような落雷が起こったときにでる電磁波が、空気分子にぶつかって起こる発光現象だそうですが、まだまだ詳しいことは解ってないようです。
 2009年1月に東北大学のスプライト観測衛星(SPRITE-SAT)が東大阪のまいど一号なんかと一緒に打ち上がったのですが、直後に不具合が発生して、まだ観測が開始できてないようです。なんとか回復できて、面白い研究結果がでてくるといいですね。
雀部 >  ハヤブサ君が健気に頑張っているんで、SPRITE-SAT君も復活して欲しいです。
 田島さんは、もしどこでも行けるとしたら、どこを選ばれますか。
田島 >  どこでもいいんですか?!
 うーん、それだったら、まずは太陽系グランドツアーで惑星を間近で見て回って、それからやっぱり、連星系の降着円盤から宇宙ジェットが吹き出しているのを見に行きたいですね。欲張りかな?(笑)
雀部 >  福江先生の教え子さんらしいお答えで(笑)
 粟野さんは、どこが良いでしょうか?
粟野 >  まずは月や惑星旅行をしてみたいです(笑)
雀部 >  それはまた堅実な(笑)
福江 >  “だれとでも”行けるなら、どこでもいいですよ!?
雀部 >  というと、意中の女性でも?(笑)
福江 >  ははははははははははははは…
雀部 >  意中の女性ありということで(笑)
 第4章は「生物の色、命の輝き」ということで生物の色についてですね。
 超好熱細菌の例として「ブラックスモーカー」の写真がありますが、この種類の菌は、だいたい黒色なのでしょうか。
田島 >  この章は、実は福江先生が書いてくださったので、私は余り詳しくないのですが(^^;
 ブラックスモーカーから出る黒煙は鉄や硫黄などを主成分としたミネラルのようです。
 超好熱細菌そのものの色は、どうなんでしょう?
福江 >  ぼくも詳しくないけど、この写真が黒いのは、おそらく本当の色じゃないでしょう。
 たいていは半透明で黄色とか赤色が多いようですね。
雀部 >  光を利用する必要がないから、色はあまり関係ないのかと想像してました。
 黄色とか赤色は、硫黄とか鉄系の色が出ているんでしょうか。
福江 >  おそらくそうでしょうね。かなり適当ですが;;
雀部 >  18項の「タマムシの構造色」の話も不思議ですね。ある種の蜂にも見られますが、あの金属色は、鞘翅と18層も重なったクチクラ層によって光の分散・散乱・回折・干渉が起こり出てくる色合いなんですね。
 なんで、そんな構造をしているんでしょう。
田島 >  生きものの構造色は、その種類によって、大きく散乱によるものと干渉によるものとに分けられるのですが、タマムシの色は多層膜による干渉で見えるそうです。
 構造色を持つ理由も、生きものによっていくつかあって、異性に存在を示すための場合もあれば、捕食者対策の擬態のため、逆に捕食者を威嚇するための場合もあるようです。
 タマムシの場合は、オス・メスとも同じ色だから同じ種の存在を見分けるための印なのでしょう。
 いずれにせよ、そういうサインのためにミクロサイズの構造が発達してきたことに、神秘を感じます。
雀部 >  進化の不思議さですねえ。
 最後に、近刊予定とか現在執筆中の本がございましたらお教え下さい。
福江 >  ええとですね、高校の先生たちと一緒に、20人ぐらいかな、小中高など現場の先生や、文科系向けに、天文学の入門書を書いています。大学教員が書くものとは違った視点で、面白い本になるとは思うんですが、なかなか進み方がゆっくりでして。来年の前半には恒星社厚生閣から出ればいいかなぁ。
 ああ、それから、近々、『SFアニメを科学する:最新版』が日本評論社さんから出版予定です。こちらは脱稿はだいぶ前に終わっていて、いま絵やレイアウトに入っているので、春ごろには出るんじゃないかなぁ。ガンダムやエヴァはもちろん、ハルヒやハチクロや、もう完全に趣味に走ったディープな本です。出たら、また紹介してくださいね(笑)。
雀部 >  ぜひ紹介させて下さいませ〜
 しかし、ハルヒはともかく、ハチクロってSFネタありましたっけ?
 三男坊が読んでいるんで、少しは読んでいるんですが(笑)
福江 >  そこは読んでのお楽しみ(笑)。
 いや、もちろんSFじゃないんですけど、すっごい好きだったので、著者特権で押し込みました。
 他にも“文学少女シリーズ”とか、およそSFらしくないのもあります。
 “のだめ”も入れたかったけど、もう紙数がなくて諦めました。
 キーワードは“科学”“(SF)アニメ”“美少女”です!
雀部 >  著者特権!いいなぁ(笑)
粟野 >  近刊予定ではないですけど、スペクトル博物館の改訂版が出せたらいいねえという話は福江先生や田島さんとときどき(笑)しています。
 落ち着いたら、、、といってると、なかなか出来そうにないですが(苦笑)。
田島 >  そう、早く手を着けないと、ってときどき思い出すんですけど、なかなか進まないんですよね(笑)
雀部 >  天文の世界も日進月歩ですから、新しい知見や画像がどんどん出てくるでしょうから、改訂版は欲しいところですよね。
 某出版社の方、よろしくお願いします(笑)
田島 >  その他は、有志で環境教育の実践プログラムを開発していて、それらをまとめていきたいとは話していますが、まだ少し先のことですね。
雀部 >  地球環境から宇宙までと、視野を大きく持った大勢の少年少女たちが育っていくと、楽しみがさらにさらに増えますね。


[福江純]
1956年、山口県宇部市生まれ。78年、京都大学理学部卒業。83年、同大学大学院(宇宙物理学専攻)を修了。大阪教育大学助手、助教授を経て、大阪教育大学天文学研究室教授。理学博士。専門は理論宇宙物理学。天文学者としてだけではなく熱心なSF、アニメファンとしても有名で、SFアニメやSF小説のアイデアを天文学の立場から考察した著書も多数ある。
[粟野諭美]
東京都出身。岡山天文博物館館長。天体スペクトルのデジタルカタログ製作をきっかけに天文教育の道へ。おもな著書に、サイエンス・アイ新書『宇宙はどこまで明らかになったのか』(編著)、共著として、『宇宙スペクトル博物館シリーズ』(裳華房)、『マンガ 手作り宇宙』(裳華房)、『星空の遊び方』(東京書籍)等々。
[田島由起子]
ちはや星と自然のミュージアム学芸員を経て、現在、自然教育事務所宙(そら)主宰。天文から自然・環境にフィールドを広げて自然体験教育に取り組んでいる。共著として、『宇宙スペクトル博物館シリーズ』(裳華房)、『マンガ 手作り宇宙』(裳華房)。
[雀部]
熟年天文マニア。へたれなので屋外の天体観測は苦手です(汗;)


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