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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT』
> てり著/Deイラスト
> ISBN-13: 978-4062838276
> 講談社Box
> 1200円
> 2013.1.7発行
 30手前でフリーランスの配管工として独立し、埼玉に小さなマンションを買った。華も金もない人生ではあるが不自由はない、ありふれた独身男の俺は人よりも少しばかり“目がいい”。肉体を持たずに生まれ落ちたこの世の不具合、バグと呼ばれる魑魅魍魎を見ることができる。ある月の夜に俺は、アスファルトからドゥルンと立ち上がる美形のにーちゃんと出会う。アスファルトの精だというその男、サリーはやたら馴れ馴れしい女言葉で俺に絡む。「ねぇん、いつになったらチューしていいのん?」その日から俺の周りはにわかにバグで賑やかになる。男色吸血鬼、半裸の少年、セミの亡霊に空飛ぶ鯨――騒乱の影で、平穏が静かに食い荒らされているとも知らず!
(出版が、講談社BOX-AiRということで、帯の代わりに箱に入ってます。ということで、書影は箱入りのままスキャンしました)
雀部> 今月の著者インタビューは、1月7日に講談社から『サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT』を刊行された、てり先生です。
 てり先生よろしくお願いします。
てり> 45歳の新人ラノベ作家、てりです(笑)。よろしくお願い致します。
雀部> そういえば、75歳の黒田夏子さんが芥川賞を受賞されたようで、たとえ何歳になっても作家になれる可能性はある!ということですね。
 てり先生には、半年ほど前に「セントポールの勇者たち」を、我が「アニマ・ソラリス」に掲載させていただいた経緯があるので、プロデビューされたのは人ごととは思えません。おめでとうございます。
 ちなみに、プロデビュー前に「アニマ・ソラリス」に投稿下さった作家の方では、上田早夕里先生についでお二人目です。
 「セントポールの勇者たち」を掲載した当時、すでに講談社 第11回 BOX-AiR 新人賞を受賞されていたんですね。「アニマ・ソラリス」に投稿して下さったのは、なにか理由があるのでしょうか?
てり> はい。「アニマ・ソラリス」さんに投稿したあと、講談社BOX-AiRで新人賞を頂いて、「アニマ・ソラリス」さんに掲載して頂いたあと、プロデビューという形になりました。
 ライトノベルレーベルからデビューしましたので、ラノベ作家と名乗っていますが、実は一番書きたいのは「セントポールの勇者たち」のような『近未来を舞台にしたライトSF』で、そこを最初に拾い上げて下さったのが「アニマ・ソラリス」さんだったというわけです。
 その節は、本当にありがとうございました。とても励みになりました。
雀部> おっと、そういう順番でしたのですね、こちらこそありがとうございました。
 ライトSFがお書きになりたいとのこと、お好きなSF作品はどのようなものでしょうか。
てり> ナンと言っても、アシモフのロボットシリーズですね。無人島に持って行く一作を選べ、と言われたら、迷わず「堂々めぐり」を選びます。
 それから半村良先生の「妖星伝」。もし『半村良賞』ができたら、きっと一生追い続ける(笑)。
 今は『山田風太郎賞』を目標にしています! と、大きなことを言っておこう。
雀部> なるほど、アシモフ以外にも、伝奇ものもお好きであると。山田風太郎賞、いいですねぇ。ぜひ受賞して下さいませ。
 この“BOX-AiR 新人賞”は、応募要項を見ると“書き下ろし未発表の小説作品に限ります。アニメーション映像としてのイメージを喚起する刺激的な作品を求めます。”とあり、かなり映像化を意識した賞のような気がしますが、この賞に応募された経緯など良かったらお聞かせ下さいませ。
てり> BOX-AiR新人賞は年に五回も公募があって、各回で新人賞を受賞した五作品の中から一作品だけがアニメ化されるという、とても特徴のある賞なんです。
 本が売れない時代ですから、最初からアニメ化というメディアミックスが用意されている新人賞というのは、とても魅力的でした。
 残念ながら『サリマグ(サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT)』は、アニメ化を逃してしまいましたけれど……。
 ちなみに2011年は、『シンギュラリティ・コンクェスト』で第11回SF新人賞を受賞されている、山口優先生の『アルヴ・レズル』がアニメ化作品に選ばれています。
雀部> アニメ化は残念でしたね。山口先生の作品は、読んでみなくては(汗;)
 他の賞への応募は、どうだったのでしょうか。"岩崎書店 第29回 福島正実記念SF童話賞 一次審査通過"というのは、「セントポールの勇者たち」の著者紹介にも書いてありましたが。
てり> 2010年の4月に過労で倒れまして、布団の中で死の恐怖と戦いながら、“世の中に一作品も残さずには死ねない”と思ったのが、小説を書き始めたきっかけなんです。
 生死の境を彷徨って、自分の本当の夢がそこにあったことに初めて気がついた。
 それから一年は、書き上がった作品をページ数の合う締め切り間近の賞に送る、という無軌道なスタイルで執筆していたのですが、ことごとく一次落ちでした。
 二年目に挑戦した福島正実記念SF童話賞は、傾向と対策を意識して臨んだ初めての賞だった、と言えると思います。
 アシモフの『鋼鉄都市』が大好きで、その翻訳をされているのが福島正実先生だったことが大きなモチベーションになりました。
雀部> おっとそんなご経験があったとは。
 そういえば、ブログで、「サリーとマグナムの原形は、どうも 『鋼鉄都市』 のR・ダニール・オリヴォーとイライジャ・ベイリだったようです。」と書かれてましたね。個人的には、熱い友情が主題の大人向け『ワンピース』という感じもしましたよ。
てり> あー、確かにそうかもしれませんね。ただ「サリマグ」は、主人公マグナムの一人称小説ですので、マグナムから見えていない場所のバトルシーンが書けないんですよ。
 こっちではルフィが戦っていて、あっちではサンジとゾロが戦っている、というような同時進行の展開ができない。
 それでも『友情』とか『チームワークの妙』みたいなモノを感じ取って頂けた、としましたら、とても嬉しいです。
雀部> あと、駄洒落のセンスもなかなかのものとお見受けしました。特に“甲殻機動隊”は、あまりのことにコーヒー噴きだしちゃいましたよ(爆笑)
 笑わせる小説は、苦労する割には評価されにくいけど、頑張って下さいませ。
てり> ヘイケガニの清盛が仲間を引き連れて助太刀に来るあのシーンは、とても気に入っています。
 “ブモーっ!”の雄叫びは、そのあとの“うる精やつら”にかけてあるんですが、さすがにこれは通じなかったかな(笑)。
 登場人物たちも、電婆(デンバー)、雨爺(ウジー)、小原巴里(通称オッパリ)など、色々と遊ばせてもらいました。
 あとは吸血鬼ジュードと、狼男ロウで、ジュード・ロウとかですね。マグナムにも「ヘイ、ジュード」なんて言わせていますし。もう、おっさん全開です。
雀部> 「ヘイ、ジュード」は気が付きましたが、ジュード・ロウには気が付かなかった(汗;)
 同じくブログに“執筆の空調エンジニアてり”と書かれてますが(マグナムもエアコン関係の仕事だし)ご本業なのでしょうか。
てり> はい。普段は空調設備のメンテナンスの仕事をしています。
 受賞後、編集さんから“冒頭で作品の世界観と、主人公がどうやって家賃を払っているのかを明確にして下さい”と言われまして。
 そこですぐにエピローグのエピソードが頭に浮かんで、一瞬にしてマグナムは私と同じ空調エンジニアになりました。
 結果論ですが、マグナムをこの職業にしたのは大正解だったと思います。空気の流れだとか電気に関する知識が、話の節々でちゃんと効いている(笑)。
雀部> ですね。メタン子さんだ(笑)
 うちの空調が故障(直ぐにフロンガスが抜けてしまう)したとき、それを取り付けた業者じゃ原因が掴めなくて、別な会社に頼んだら、そこの担当が優秀な人で、一日天井裏をはいずり回って判明しなかった原因が、一時間強で解決しちゃいましたよ。同じ空調屋さんでも、こんなにスキルに差があるとは……
てり> ガス漏れの対応は、経験の差がモロに出ますからね。漏れやすい場所は決まっているので、一つ一つ油が噴き出したあとがないかをチェックしていくんです。
 一人目の方が見つけられなかったとしたら、室外機の上の角じゃないかなぁ。知る人ぞ知る死角があるんですよ。おっと、話が逸れました。
雀部> 一人目というか、3人来たんですけどね。原因は、室内機の一台のドレーンの先が、浄化槽の出口に突っ込んであって、逆流防止弁が無かったんで、ホースから上がってきたアンモニアによるパイプの腐食でした。
てり >  うわっ、それは見つからない。呼ばれたのが私じゃなくてよかった(笑)
雀部 >  おっと、てりさんも手を焼く故障個所だったとは(笑)
  サッカーのライターもなされていたようですが、マグナムと同じく“高校時代、練習試合で現日本代表に、けちょんけちょんにされたことが秘かな自慢”だったりしますか?(笑)
てり> 実は……、サッカーは体育の授業以外、やったことがないんです。
雀部> ありゃま(笑)
てり> 2002年の日韓ワールドカップを機にエスパルスにハマって、年に30試合くらい応援に行くようになりまして。ブログで観戦記を書いているうちに、ライター募集の告知を見つけて仕事をもらえることになって。すぐに本業の方に奪われちゃいましたけれどね。
 でもゴールシーンを文章で再現することは、バトルシーンを書くための最高のトレーニングになったと思います。
 あと、『登場人物の人間関係をサッカーのポジションで理解する』という感覚は、常に頭のどこかにあるかもしれません。たとえばサリーとマグナムは、フォワードとトップ下の『縦の関係』ですね。これ、分かる人には分かる、すごくいい説明だ(笑)。
雀部> な〜る(笑) ←フォワードとトップ下
 各賞へ応募するにあたって、特徴に応じた書き分けとかはされていたのでしょうか。
てり> 福島正実記念SF童話賞に関して言えば、児童文学の公募ですから、主人公は子供であり、ストーリーを通して主人公たちが成長する、というファクターは絶対に外せません。
 ですから、とても真面目に書きました(笑)。
 その反動で生まれたのが「サリマグ」で、こちらはもうお下劣極まりない。
 ネット公開された新人賞の選考会でも、作品の特徴として「かなりの頻度で男性器のポロリがあります」と言われたくらいです。
 何しろ原題は「おかまのサリー」でしたし、主人公のマグナムは、○○○がデカいから『マグナム』。
 ただ、この作品は、書いている時からとても手応えがありました。
 実体験からお話しさせてもらえば、特徴に応じた書き分けは必要ですが、それは受賞するための『テクニック』ではなく、実力をアップするための効果的な『トレーニング』なんだと思います。
雀部> 原題が「おかまのサリー」だったとは(笑)
 書き分けがトレーニングにもなるんですね。
 眉村卓先生の講演で、「小説を書くトレーニングは、ともかく最後まで書いてみることだ」と聞いたのですが、今までに何作品くらい書かれたのでしょうか。
てり> デビュー前に最後まで書き上げたものは、十作品くらいですね。
雀部> やはり、みなさん実行されているんだなぁ。
 もう一つ眉村卓先生が「文学賞に応募したら、結果を待たずに次の作品を書き始めるのが良い。そうすれば一つの賞の結果がダメでも、結果に落ち込むことなく別の賞に応募する作品が書ける」と話されていたのが印象的でした。てり先生は、いつ頃くらいから小説家になろうと意識しておられたのですか。
てり> 最初は十五、六年前、三十歳の頃です。まず超能力モノを書いて、さらに調子にのってスピンオフを二作も書いて、ジュブナイル系の公募に三作同時に応募したんです。
 そうしたら三作目が、千作品以上の応募のうちの十作品に選ばれたんですよ。つまり、いきなり最終選考に残った。
 本当はそこで編集部に猛アタックするべきだったらしいんですが、『受賞』は逃がしたんだから、結局その程度の才能しかなかったんだって納得して、スッパリ諦めちゃったんです。
 まさか四十歳を過ぎてから、しかも過労で倒れたことをきっかけにして、再び作家を目指すことになるなんて思ってもみませんでした。
 『結果を待たずに次の作品を書き始める』というのは、とても重要なことだと思います。三つくらい賞をとれれば……、つまり三つくらいの編集部とパイプができれば、デビューしてからも生き残れる可能性がグッと高くなるはずですから。
 実際、現時点(2013年1月現在)で私も、結果待ちの公募が三つあります。
雀部> 最終選考に残るというのは、それだけで励みになりますよね。
 山田風太郎賞はと…… おっとこれは、刊行済みの小説が対象なのか。
 超能力ものは好きなので、ぜひ読んでみたいですね。
 次作の出版予定はもうお決まりでしょうか?
てり> 電子雑誌 BOX-AiR の3月発売号に、読み切りの短編が掲載される予定です。十数人の作家による競作ですので、もしかしたらこれがアンソロジーとして出版されるかもしれません。されたらいいなー(笑)。
雀部> おっと、それはぜひ読ませて頂きます。
 今回は、お忙しいなか、インタビューに応じて頂きありがとうございました。
てり> こちらこそ、ありがとうございました。また「アニマ・ソラリス」さんにも投稿させて頂きますね。
雀部> アシモフがお好きということなので、SFミステリ希望します!
てり> それではライトに、SFミス『てり』で(笑)。
雀部> あ、お見事(笑)


[てり]
1967年、東京都杉並区生まれ。45歳にして、講談社 第11回 BOX-AiR 新人賞を受賞。デビュー作は「サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT」。
[雀部]
本文中にあるように、自著刊行より前に「アニマ・ソラリス」に投稿して頂き掲載の運びになったのは、上田早夕里さんについで、お二人目です。超短編部門では、何度も投稿頂いているたなかなつみさんの作品が、《異形コレクション》シリーズに掲載されてます。

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