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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『サムライ・ポテト』
> 片瀬二郎著/北澤平祐装画
> ISBN-13: 978-4309622262
> 河出書房新社
> 1700円
> 2014.5.30発行

 解説は、牧眞司さんの「懐かしいSFのたたずまい、その奥にある理不尽な状況との対峙」を読んでもらうのが一番。
「サムライ・ポテト」
 インタビューでも触れている通り、AIが人間のように思う(感じる)としたら、それはそうプログラムされているからで、それ以上でもそれ以下でも無い。しかし、人間から見てAIが人間のように思えるなら、人間だと認めても良いと思う。

「00:00:00.01pm」
 仮想現実の中にしかこの設定は生じないと思ったのだけど、よく考えれば、真空エネルギーと同じくプランク定数未満の超短時間内の話なら何でも出来るぞ。怖い(笑)

「三人の魔女」
 記憶の限り過去をシミュレートできたとしたら、登場人物はそこで何を感じるか。自分自身も完全にはアップロード出来ないだろうし、ましてや他人の胸の内は……
 もし現実世界ができの悪い冗談だとしたら、これまた怖いぞ。

「三津谷くんのマークX」
 二足歩行の巨大ロボットの破壊のさまが溜飲を下げる(笑)

「コメット号漂流記」
 宇宙もの。理不尽で異常な状況に追い込まれた女の子、たった一人の反撃。自走型巨大土木機械も出てきます(笑)
 最初に読んだときは、ベスターではなくて、小川一水先生の「フリーランチの時代」のラストを思い出したのは内緒(汗;)


『スリル』
> 片瀬二郎著/藤田新策装画
> ISBN-13: 978-4757504820
> エニックス
> 1300円
> 2001.8.3発行
 生き残った者一人だけが大金をもらうことが出来るという闇のゲーム「スリル」。5人の男女は、それぞれの思惑を秘めたままゲームに参加するが、ゲームの流れはどうすることもできない……
 ENIXエンターテインメントホラー大賞受賞作。

『チキン・ラン』
> 片瀬二郎著/吉田朋カバー・帯・章扉デザイン
> ISBN-13: 978-4757507258
> エニックス
> 1100円
> 2002.8.16発行
 エリートとして人生を送っていた目黒邦彦は、たった1回の過ちで奈落へと転落、そのあげく徐々にモンスター化してゆく。そのモンスターを追いながら、引き返せないところまで来てしまった人間達のチキン・レースがはじまる…。
 『スリル』を書いていて満たされない部分があった、それは殺しても死なないようなバケモノが出てこなかったからだという作者が、思いのたけをぶつけた怪物アクションホラーです。

『NOVA 9』
> 大森望責任編集/西嶋大介イラスト
> ISBN-13: 978-4309411903
> 河出書房
> 950円
> 2013.1.20発行
「ペケ投げ」眉村卓
「晩夏」浅暮三文
「禅ヒッキー」斉藤直子
「本能寺の大変」田中啓文
「ラムネ氏ノコト」森深紅
「サロゲート・マザー」小林泰三
「検索ワード:異次元」「深夜会議」片瀬二郎
「スペース蜃気楼」宮内悠介
「メロンを掘る熊は宇宙で生きろ」木本雅彦
「ダマスカス第三工区」谷甲州
「アトラクタの奏でる音楽」扇智史

『NOVA 10』
>大森望責任編集/西嶋大介イラスト
>ISBN-13: 978-4309412306
>河出書房
>1200円
>2013.7.20発行
「妄想少女」菅浩江
「メルボルンの想い出」柴崎友香
「味噌樽の中のカブト虫」北野勇作
「ライフ・オブザリビングデッド」片瀬二郎
「地獄八景」山野浩一
「大正航時機綺譚」山本弘
「かみ☆ふぁみ! 〜彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件〜」伴名練
「百合君と百合ちゃん」森奈津子
「トーキョーを食べて育った」倉田タカシ
「ぼくとわらう」木本雅彦
「(Atlas)^3」円城塔
「ミシェル」瀬名秀明

雀部> 今月の著者インタビューは「花と少年」で、第二回創元SF短編賞特別賞を受賞され、今年の五月に河出書房新社"NOVA COLLECTION"から短編集『サムライ・ポテト』を出された片瀬二郎先生と、同じく河出書房新社の河出文庫から出ている、《NOVA 書き下ろし日本SFコレクション》シリーズの責任編集者、大森望先生です。
 片瀬先生初めまして、大森先生お久しぶりです、よろしくお願いします。
片瀬> こちらこそよろしくお願いします。
大森> 雀部さん、どうもご無沙汰です。よろしくお願いします。
雀部> 片瀬先生は、2001年に『スリル』で、ENIXエンターテイメントホラー大賞を受賞され、翌年に『チキン・ラン』を出されたそうですが、それ以後はどうされていたのでしょうか。
片瀬> 何やってたんでしょうかね、ほんとに。
 何を書けばいいかわからなくなって、書けなくなったんですね。そのうち出版社さんとの連絡も途絶えてしまった、という感じです。
雀部> 『スリル』『チキン・ラン』先の読めない展開で面白かったです。この二作とも主要登場人物が見事なクズ野郎(あ、女性も居るか^^;)ばかりで、映画『藁の楯』で清丸国秀役の藤原竜也さんが、「最近はクズの役しかこない」と笑わせていましたが、この中でだれをやらせたらぴったりくるか考えてしまいましたよ(笑)
 で、クズ野郎が多いのは、ひょっとして惨殺される後味を軽くするためかと考えたのですが、いかがでしょうか?
 牧野さんのホラーみたいに、真面目な人間が理由も無く不幸の連鎖に見舞われるというのは、陰々滅々してくるからなぁ。でも怖いもの見たさと面白さで読んじゃうという(笑)
片瀬> あの当時はクズ野郎が好きだったんですよ。書いてて楽しかったし、ひどい目にあわすのも楽しかった。(笑)
雀部> なんとまあ(笑)
 ホラー小説とかホラー映画でお好きな作品(監督・作家)はどれ(誰)でしょう。
 当然、キング氏あたりはお好きなんでしょうけど?
片瀬> モダンホラーブームにどっぷりはまってたので、キング、マキャモン、バーカーとか。
 キングにはかなり影響を受けましたね。読めばわかると思いますが。(笑)
 学生時代は翻訳ものばっかり読んでて。最近もそうですが。
雀部> 翻訳物のホラーは、日本のものに比べると「怖さ」という点では気楽に読める(笑)
 ウルトラマン・シリーズはお好きでしょうか?
片瀬> ウルトラマンとセブンはわりと見てるし、好きですね。
 帰りマン以降はリアルタイムで見てるはずなんですが、なんかレオがずぶ濡れになりながら負けてるところとか兄弟がブロンズ像にされちゃうところとか、そういうとこしか覚えてない。平成になるともうさっぱり…
 怪獣ものは映画の方が見てるんじゃないかな。
雀部> 子供が小さい頃に、よく一緒に見ていたもんで。>《ウルトラマン》シリーズ
 怪獣映画というとゴジラとかガメラとかでしょうか。
片瀬> そうです。
 最近は日本で作られなくなって寂しいですね。
 ALWAYS続三丁目の夕日の冒頭のCGゴジラを見た時は、まだ東宝は作る気あるんだなーと期待したんですが。
雀部> あれは確かに意表をつかれましたね(笑)
 同じく、SF小説とかSF映画でお好きな作品(監督・作家)はどれ(誰)でしょう。
片瀬> 『虎よ、虎よ!』が自分の中の不動のオールタイムベストです。
 ああいうのが書けたら最高ですね。
 で、次点がウィンダムの『海竜めざめる』だったりします。
 作家で言うとギブスン。シモンズ。
雀部> 『虎よ、虎よ!』は私も好きですが、今でも人気が高いですね。
 『海竜めざめる』は、私もウィンダムのベストかと。海竜との攻防がたまりません。
 シモンズは、ゾンビものも書いてますよね。ホラー系では『愛死』が一番好きです。
 あげられた中ではギブスンがちと異色かも。
片瀬> ギブスンもニューロマンサーの時に『虎よ、虎よ!』を参考にしようとしたとかしないとか、なんかのインタビューでいってたと思います。うろ覚えですが。
 キングも『リーシーの物語』でべスターを「二十世紀最高の作家」とかいってるし。
 全てはベスターから始まってるのかもしれません。
 と、こじつけてみました。
雀部> ベスター氏の作品はSFの中では異彩を放ってますよね。ノワール系SFとよべるかもしれませんね。
 ということは、「三津谷くんのマークX」のラストはまんまだし、「コメット号漂流記」も、『虎よ、虎よ!』へのオマージュの意味があるんですね!
片瀬> 「三津谷くんのマークX」のラストはほんの少し意識しました。といっても書いてから、あ、同じだな、と気づいた感じで。
 「コメット号漂流記」は考えませんでしたねー。
 あれは《スペース1999》みたいな話を書きたいったところが出発点なので。
 途中で言及される小惑星に住む人々のくだりはベスターネタですけど。
雀部> 《スペース1999》、気がつきませんでした(汗;)
 キング氏の作品はずいぶん映画化されてますが、ベスター氏のもずいぶん前に映画化の話があったようには記憶してますが、それっきり音沙汰ありません。
片瀬> 映画はハリウッド版ゴジラがいまはひたすら楽しみです。
雀部> 新作出ましたね。私も楽しみにしています。
 怪獣というと『パシフィック・リム』もありましたね。怪獣と巨大ロボットの組み合わせ好きです(笑)
片瀬> あれもいい映画なんですが、やっぱり海の真ん中ででっかいもの同士が闘ってもイマイチというか。
 都市の真ん中に怪獣と巨人が格闘できる広さの更地があった後期のウルトラシリーズみたいな残念感がありました。
 ハリウッド・ゴジラはそこらへんを払拭してくれるんじゃないかと期待してます。
雀部> (爆笑)>都市の真ん中に怪獣と巨人が格闘できる広さの更地があった
 ところで、創元SF短編賞に応募された経緯は、どうだったのでしょうか。
片瀬> ホームページで告知を見たんだったと思います。
 ENIXの受賞から十年くらい経ってて、ほとぼりも冷めてるかなと思って応募してしまいました。
 ひさびさのSFの短編新人賞だということ、審査してくださる方が全ての応募作を読んでくれるということで、じゃあやってみようかと。
 この人たちに読んでもらえるなら落ちてもいいや、って感じです。
雀部> 『スリル』『チキン・ラン』『サムライ・ポテト』と「検索ワード:異次元」「深夜会議」、「ライフ・オブザリビングデッド」と読ませていただき、「花と少年」が一番異色な気がしました。私も、あの頭に生えた花が役に立たないと分かったと、ガクッときた口なんです(笑) あの外しは、創元SF短編賞用の対策(?)なのでしょうか。
片瀬> いや、そういうわけでは…。
 あれは私にとってはとても素直な展開ですよ。
 大森さんには「ロボットアニメのアンチテーゼ」と言われましたが、それすら言われてはじめて「なるほど、そういえばそうだな」と思ったくらい。
 特に創元だからこうしようっていうのはなかったですね。
 それにしても全部読まれてるとは…。なんか、恐縮です(笑)
雀部> 私も「ロボットアニメのアンチテーゼ」と聞いてなるほどなぁと納得しました。で、変わった切り口から侵略ものを描かれたのかと。
 すみません、「素直な展開」というのを説明していただいてもよろしいでしょうか。
片瀬> 創元だからこうしようとか、この審査員だからこうすればウケるだろうとか、そういうことは考えなかったと言うか。
 どんでん返し的な意外性を狙ったわけでもなく。ひねりもせず、最初に思いついたストーリーをそのまま書いたというか。
 ちなみに「侵略もの」だという意識もなかったですね。
雀部> そうだったんですか。
 今回あらためて読ませていただいて、やはりホラー味があるのかなという感じは受けました。ホラーだと考えると、頭に花が咲くのも青春の通過儀式の変形として許容範囲だし、そうするとその後の展開も含めて一風変わった『成長の儀式』(アレクセイ・パンシン)なんだろうなという結論に達しました(笑)
片瀬> 頭がホラー脳だったんでしょうね。
 最近はSF脳に移行してきたのか、ホラーな発想がなかなか出てこなくて。
雀部> ありゃま、それも困りものかもしれませんね。発想の間口は広い方が良いだろうし。
 創元SF短編賞特別賞を受賞された後は、『NOVA』アンソロジーに何回か寄稿されていますが、やはりこれは大森望さん繋がりなのでしょうか(笑)
片瀬> そうです。
 創元SF短編賞の授賞式でご挨拶して、その時原稿があるなら見せてくれという感じで。
 その時お渡ししたのはホラーだったのでボツだったのですが、次が「00:00:00.01pm」で。長かったので短くすることになって。改稿したのと一緒にお渡ししたのが「サムライ・ポテト」。
大森> ホラー短編が達者なのは、第一回創元SF短編賞の応募作(「検索ワード:異次元」と「深夜会議」)でよくわかってたんですが、「サムライ・ポテト」はホラー要素がまったくなくて、いきなりSFど真ん中に照準がぴたっと合ってたので驚きました。これは、次の《NOVA》でも核になる作品だな、と。改稿していただいた「00:00:00.01pm」もよかったんですが、《NOVA》初登場には「サムライ・ポテト」のほうがインパクトがあるだろうと思って、掲載の順番を逆にしたんです。
片瀬> 初稿は「ポテト・チップ」というタイトルだったんです。
 大森さんに「ダジャレはちょっと…」と言われて、主人公の名前をタイトルにしました。
雀部> 「サムライ・ポテト」は、コンパニオン・ロボットが自意識を持ち出す瞬間を描いて読ませますね。この分野の先達としては、楳図先生の『わたしは真悟』がありますが、マンガやアニメはお好きなんでしょうか。
片瀬> アニメの影響は否定できませんね。
 特に80年代ロボットアニメ。
今回短編集でまとまったのを見て、なんとロボットが登場する話が多いんだろうと。隙さえあればなんとかして人型の二足歩行機械を出そうとしてるのに気づきました。
 最近のアニメはあまり見てないんですが。
 マンガも好きです。『私は真悟』は読んでないです。楳図先生といえば『おろち』ですねー。
雀部> 『漂流教室』とか『14歳』とかも。単行本では持ってないんですが、掲載紙(ビッグコミック)を定期購読していたもので。
 そう言えば多いかも(笑)>ロボットものの短編
 『スリル』の著者略歴に、青山学院大学経済学部卒で兼業作家であると書かれているんですが、お仕事は何をされているんでしょう。
片瀬> IT関係です。
雀部> やはり。「三津谷くんのマークX」のプログラミング関連シーン、あれリアルっぽくてわくわくしたもので。SF作家の中では、ご自分でプログラミングされる方が何人もいらっしゃいますが、片瀬先生もされるのでしょうか。
片瀬> おじさんなのでもうコードを組んだりはしてないんです。
 若い人が開発してるのを見て雰囲気をいただいてる感じですね。
雀部> ホラー・ファンタジー・SFを含めたテーマ・アンソロジー・シリーズとしては、《異形コレクション》がありますが、描き下ろしのSFアンソロジー・シリーズというのは、《NOVA》シリーズが日本では初めてだと思います。『NOVA 1』の後書きで出版当時の状況を読んで感じたのですが、あの当時、時が熟し大森先生が触媒のような役割を果たして《NOVA》が始まったような印象を受けました。ただ、同時期に創元SF文庫から〈年刊SF傑作選〉が出て創元SF短編賞が新設され、角川文庫からはSFのテーマ・アンソロジー・シリーズ《不思議の扉》が立ち上がり、そのすべてに大森先生が深くかかわっていることを思うと、ただの触媒ではなくて、「行動する触媒」であられるなあと深く感じ入りました(笑)
大森> 《年刊日本SF傑作選》を始めてみたら、意外と日本SF短編の需要があるなということがわかって、その割りに供給が足りてないと。書きたい人も読みたい人もいるんだから、じゃあ媒体をつくればいいだろうと思って《NOVA》を企画したんです。そのあと新人賞として創元SF短編賞を立ち上げて、そこから出た人の受け皿として《NOVA》を使うこともできた。片瀬さんの場合は、それがいちばんうまく行った例ですね。
雀部> 東京創元社と河出書房新社を横断している。まあ大森先生だから大丈夫なのか(笑)
大森> 正賞と優秀賞(佳作)の受賞者に関しては創元でフォローしたいという意向があるみたいですが、SF媒体を持ってるわけじゃないので、全員は面倒を見切れないだろうと。《NOVA》はもともと、すでにデビューしてる人の投稿はいくらでも受けつけてましたから、書きたい人はじゃんじゃん送ってきてください、と。
雀部> 創元SF短編賞の場合、応募短編を数編読んだだけで、この人はもっと書けそうだというのは、どうやって判断されているのでしょうか。
大森> 書けそうな人に頼んでるわけじゃなくて、書きたい人はだれでも書いて送ってください、と。あとは届いた作品を読んでから採否を判断してます。そもそも書いてこない人のほうが多いんですよ。どんどん書いて送ってくれたのが宮内(悠介)さんとか、片瀬さんとか。
雀部> そうなんですか。書いて送ってくれる作家の方が少ないとは思いませんでした。
 片瀬先生の場合は、既にホラーの長編を二冊出されていたし、応募作がホラー短編だったということもあるので“ホラーが達者なのはよくわかってた”は当然だとして、“「サムライ・ポテト」はホラー要素がまったくなくて、いきなりSFど真ん中に照準がぴたっと合ってたので驚きました”とのことですが、SFも書けるんじゃないかなというのはどこからわかったのでしょう。
大森> 「花と少年」を読めば、SFを書くセンスや技術があることはわかりますが、SF読者向きにチューニングできるかどうかは、書いてみないとわからない。ぼくが読んでる印象だと、宮内さんは「スペース金融道」で、片瀬さんは「サムライ・ポテト」でジャンルSFに開眼した感じですね。
 片瀬さんの場合、今回の書き下ろし新作3本も、SFど真ん中にしっかり焦点が合っています。ずっとジャンルSFの中で書いてきた人にとっては、真ん中過ぎて正面から扱いにくい題材なんですが、あえてそこを選んで、ちょっと違う角度からアプローチすることで個性が出ているというか。
雀部> ジャンルSFに開眼しないほうが売れ行きが良かったかな、というのは置いといて(笑) 『サムライ・ポテト』の帯の煽りで、池澤春菜さんの“懐かしいのに新しい、こんなSFど真ん中なことをされては褒める以外に言葉がないじゃないか!!”とあるのも全く同意するところです。
 業田良家先生のマンガ『機械仕掛けの愛』は、ビッグコミック(増刊号)に連載されているので、面白く読んでいるのですが、“ココロを持たないロボットが「生きたい」と叫ぶ…”という煽りで、ラジオドラマ化されたほどですから、こういう趣向の小説は一般にもニーズがあると思います。
 ただ、「サムライ・ポテト」は、それにとどまらないような感じも受けました。
 作中で、二人の技術員が“バグではない。ロジックにおかしなところはないが、それは起こる”“<人とのふれあいで成長するロボット>て゜すからねえ”と言ってますが、だんだんと人間に似てくるようにプログラミングされたロボットは、必然的に自意識を持つようになると暗示している気がします。たぶん動物たちにも自意識があるのだと。
 もしくは、チューリング・テストではないですが、プログラミングされたロボットが人間から見て、自意識があるようにしか見えないとしたら、それは確かに自意識があると認めても良いのだろうと言わんとしているのかなと感じました。
片瀬> まさにそうですね。
 動物でも、人と一緒にいて、人を理解しようとするうちに自意識みたいなものは芽生えるんじゃないかというところが出発点でした。ペットとか。
 ヒトのそれと同じものではなく、擬似的なものだったとしても、当事者としては自意識なわけで。
 ただ、それが、同じく自意識を持つヒトと、共感しあえるとはかぎらない。安易にコミュニケーションを成立させるのはなんか違う気がしました。
雀部> ま、それを言えば人間同士だって。カミさんとの間でちゃんとコミュニケーションが成立しているかどうか自信がないです(笑)
片瀬> (笑)
雀部> 「00:00:00.01pm」も時間ものの名作だと思いましたね。特に感心したのが、あのオバさんへの反撃方法。私も考えたんですが、落とし穴くらいしか思いつかなかったし、よく考えたら落ちる前に渡りきっちゃうのに気がついた(汗;)
片瀬>  ありがとうございます。ノープランで書いているので、解決策を見つけるのにはいつも苦労してます。はでな描写もあるしいいかなあと。(笑)
雀部> 『サムライ・ポテト』の中で、5作品中3作品がロボットもので「00:00:00.01pm」と「三人の魔女」が少し異色かなと感じたんですが、よく考えると「三人の魔女」は仮想現実ものとも言えるし、この短編があるから「00:00:00.01pm」もそっち系なんかなと思いついたわけなんですけど。
 ホラー短編集なら別に科学的な理屈は要らないんだけど、SF短編集という枠内で考えてみると他に選択の余地は無いです(笑)
片瀬> 作品のセレクトは編集の方にお任せしてました。私にはどう選んでもバランスが悪くなる気しかしなかったので選べなかったんです。
 ゲラをいただいて、何が選ばれたか知ったという…
雀部> あ、悪のりで書いただけなので気になさらないでください。
 ということは、渡された作品は他にもあるってことですね。
片瀬> 『NOVA』掲載作は他にもあるので。
 ホラーっぽいのばっかりですが。
 そこからどれが選んでいただけるのかなあという感じでした。
雀部> なるほど。
 今回作品を読ませて頂いて気がついたのは、底に流れるビターな視点。「サムライ・ポテト」もジンとくる話とか思いきや……だったし。最初は、ほのぼの系ゾンビものかなとも思った「ライフ・オブザリビングデッド」のラストの物悲しさはなんだ。
 これは片瀬さんの持ち味なんでしょうか。
 それとも編集者の方が、そういう作品をセレクトされた結果なのでしょうか。
片瀬> ビターじゃないとつまらないじゃないですか。
 ただ、「ライフ・オブザリビングデッド」のラストが哀しいという意見はネットでも見たんですが、狙いを外してしまったなあって感じですね。
 なんかいろいろ派手に爆発とかして終わればよかったのかなあ…
雀部> 狙いとは、何だったのでしょうか?
 ゾンビになっても会社勤めから離れられないというか、他にすること無いんかい(笑)
 この浜田さんと「サムライ・ポテト」の主人公ロボとどちらがより人間らしいだろうかと考えてしまいましたよ。
片瀬> 「ライフ・オブザリビングデッド」はスラップスティックな話を狙ったので。
 「かつての生活を惰性的になぞるゾンビの滑稽さを描いた」つもりでした。「ゾンビになってもかつての生活から逃れられない哀しさ」は意識しなかったんですよね。
雀部> スラップスティックな面は感じたんですけど、ゾンビと言っても元は人間なわけで、あまりの社畜ぶりにふと物悲しさを(笑)
 今回はお忙しいところインタビューに応じていただきありがとうございました。
 片瀬先生には、多彩な短編に加えて、ぜひ長編も書いていただきたいと思います。二足歩行ロボットが出てきて、異世界から攻めてきて、ゾンビも出てくるとか(笑)
片瀬> こちらこそありがとうございました。
 なんでもありの全盛りですね。完全に趣味の世界になってしまうな…(笑)
 これからもよろしくお願いいたします。
雀部> お待ちしております〜。
 大森先生にお聞きしたいのですが《NOVA》シリーズは“第1期、完結!!!!”とのことなのですが、第2期の準備は着々と進んでいるのでしょうか。
大森> とりあえず、秋に1冊出す予定で、すでに何本か原稿が集まっています。
 今回は《NOVA》の日本SF大賞特別賞受賞記念企画ということで、参加メンバーは、今年の日本SF大賞で候補になっていた酉島伝法、野崎まど、長谷敏司、藤井太洋、宮内悠介の5氏と、去年の受賞者である月村了衛、円城塔の両氏、それに宮部みゆきさんを加えた8人の予定です。
 相当おもしろくなりそうなので、ご期待ください。
雀部> そ、それは豪華絢爛。楽しみです。
 《NOVA》シリーズは、書き下ろし短編集と言うことで、電子書籍との相性が良いように思うのですが、普通の書籍版に比べて売り上げの方はどうなんでしょう。
(私は老眼なので、電子書籍はTVの大画面で読んでいますが^^;)
大森> 電子書籍化されているのは『NOVA1』だけです。1編あたり100円(+税)でバラ売りもしてまして、「屍者の帝国」のプロローグは単体でもけっこう売れました。
 といっても、売り上げ報告などの手間も増えるので、短編単位の販売は、まだコスト的には引き合わない感じですね。
 創元SF短編賞のように、受賞作を単品売りするのはいい手だと思いますが。他ジャンルとくらべると、SFは全体的に、電子書籍版の売れ行きがいいようです。
雀部> SF者は目新しいガジェットには目がない(笑)
 電子書籍は、場所とらないし、アクセスが容易だしメリット多いと思うのですが。
 ま、時々版元が潰れて読めなくなるのが困りものなんですよね。
 何かとお忙しいようですが、ご本業の翻訳本のほうは順調に推移しておられるのでしょうか。
大森> カート・ヴォネガットの、生前未発表だった短編14編を集めたお蔵出し作品集『はい、チーズ』(Look at the Birdie, 2009)が河出書房新社から7月23日に発売される予定です。ハードカバー368ページで、税別2000円。
 ヴォネガットは、『チャンピオンたちの朝食』で卒論を書いたくらい思い入れのある作家なんですが、ずっと浅倉(久志)さんが訳してらっしゃったので、自分で翻訳することになるとは思いもせず……。なので、いまちょっとドキドキしています(笑)。
 超ミニ宇宙人がペーパーナイフみたいな宇宙船に乗ってやってくる話とか、古代の蟻が高度な文明を築いていた話とか、SFもいくつか入っていますのでお楽しみに。個人的には、たいへん楽しんで訳せた本です。
雀部> ヴォネガット氏の翻訳が出るのは久しぶりではないでしょうか。楽しみです。
 片瀬先生、大森先生、貴重な時間をお割きいただきありがとうございました。
 ますますご活躍のほど、期待しております。


[片瀬二郎]
1967年、東京都生まれ。青山学院大学経済学部卒。2001年、ENIXエンターティンメントホラー大賞受賞作『スリル』でデビューし、翌年に『チキン・ラン』(ともにEXノベルズ)を刊行。その後10年近くの沈黙の後、2011年、「花と少年」(創元SF文庫『原色の想像力2 創元SF短編賞アンソロジー』所収)で第二回創元SF短編賞特別賞を受賞し、再デビュー。
[大森望]
1961年、高知県生まれ。京都大学文学部アメリカ文学科卒。翻訳家。書評家。訳書にウィリス『ブラックアウト』、ディック『ザップ・ガン』他。著書に『新編 SF翻訳講座』『21世紀SF1000』他。
[雀部]
最近草臥れ方の激しいオールドSFファン。面白いSFに出会うと、少しだけしゃきっとします(笑)

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