| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『ルナ Orphan's Trouble』
> 三島浩司著/増田幹生イラスト
> ISBN-13: 978-4198616953
> 徳間書店
> 1900円
> 2003.6.30発行
 列島をぐるりと取り囲んだ謎の海面物質「悪環」から放射・拡散されるウィルスによって、日本は壊滅的な打撃を被った。同時に海岸線を襲った「デヴィルレイズ」という見えざる電離性放射線。そのため、孤立した日本国内では、深刻な食料不足、エネルギーの枯渇、円の大暴落、自殺者の増加、果てには国家非常事態宣言。
 「鎖国」状態に陥ったこの日本で、天間留奈、有働仁たち「孤児」は如何に戦い、如何に生き抜いていくのか!?
 選考委員長・筒井康隆氏をして、「作品が孕んでいる熱気はただごとではない」と言わしめた、第4回日本SF新人賞受賞作

『MURAMURA 満月の人獣交渉史』
> 三島浩司著/増田幹生イラスト
> ISBN-13: 978-4198619886
> 徳間書店
> 1900円
> 2005.3.31発行
 伊佐チエはいわゆる普通の女子高生……だったはずなんだけど……。彼女が卒業した小学校が、この世から忽然と消えてしまうという怪事件をきっかけに、何の因果か、ケッタイな獣たちが蠢く不可思議な世界へ行く羽目に。そこはチエの曽祖父・小五郎のつくった夢の世界、夢羅(ムラ)。曽祖父が使役していた夢羅に住む鷹と狼犬や、同級生のコザケンらを従え夢羅に潜り、果敢に闘いを挑むチエ。伝説の化け狐・キトネを追え! 操るは、先祖伝来の滅魔の銃!

『ダイナミックフィギュア(上・下)』
> 三島浩司著/加藤直之カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4152091956, 978-4152091963
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 各巻1800円(早川文庫JA版もあり)
> 2011.2.25発行
 栂遊星が赴任した香川県善通寺市に本拠地を置く対キッカイ要撃組織・フタナワーフの部隊は、彼のの驚異的な活躍もあり、第一次要撃戦にかろうじて勝利する。だがその代償はあまりに大きく、フタナワーフは精神的支柱たる全権司令官を失っていた。また、遊星のガールフレンド・公文土筆(くもんつくし)は、日本政府に軍事技術の放棄を迫る思想集団と行動を共にするようになる。その裏切りとも取れる活動と逃亡の事実を知らされ、遊星は計り知れない無力感を覚えた。だがそんな最中にも、対キッカイ第二次要撃戦の予定日は刻々と近づいていた……。進化を繰り返し強大になっていくキッカイを倒すことは可能なのか。地球に現れた渡来体の真の目的は何なのか。異星生命体と二足歩行兵器との、誰も見たことのない驚愕の総力戦が待ち受ける。

『シオンシステム[完全版]』
> 三島浩司著/影山徹カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4150310578
> 早川文庫JA
> 940円
> 2012.2.15発行
 新種の原虫アイメリア・シオンを体内に取りこみ免疫力を向上させる、「虫(ちゅう)寄生医療」の開発者・新海英知。失った過去の記憶を取り戻す療養中に、体の欠損部の“再生”に気づいた常和峰。親友の二人が人生を懸け夢を叶えようとするのはなぜか……。無邪気な少女ハルカに秘められた“弱竹(なよたけ)の姫”の願いとは? 人類の夢たる医療革命が倫理の一線を突破するとき、シオンは宇宙の秩序を問う試金石となる――。傑作メディカル・バイオSF完全版!

『ガーメント』
> 三島浩司著/fake graphicsカバーデザイン
> ISBN-13: 978-4041104873
> 角川書店
> 1800円
> 2013.5.30発行
 大学生の花輪めぐるが美少女ツゥと出会い戦国時代にタイムスリップ! 現代に戻るためには「ヌキヒ」という鎧をまとい、歴史に楔を打つ=歴史を変えなくてはならない。同じように戦国時代にタイムスリップした仲間たちとともに、工夫を凝らし現代へ戻ろうとする。突然現れたツゥの秘密とは!? なぜ歴史を変えなくてはならないのか?? タイムトラベル・ジャンルへの新たなアプローチ!!

『高天原探題』
> 三島浩司著/前嶋重樹カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4150311278
> 早川文庫JA
> 640円(電子書籍もあり。同価格)
> 2013.8.23発行
 突如現れた謎の土塊に生き埋めとなった少女が救われた事件を発端に、京都周辺に数多く出現し始めた謎の弁別不能体・不忍(シノバズ)。それは見た人間の動機を無くしてしまうため存在を感知できず、見た者は行動不全に陥る。7年後、シノバズの討伐・処理組織「高天原探題」に出向した寺沢俊樹。彼は、かつて第一号墳墓が出現した際に、自らが救い出すもシノバズと同じ能力を持つ異能者「玄主」として強制隔離されてしまった少女・皆戸清美との再会を望むが……。比類なき独創性を放つ闘いと純愛の伝奇SF。

雀部> 今月の著者インタビューは、2011年に『ダイナミックフィギュア』を出され、その後も『シオンシステム[完全版]』『ガーメント』等々で楽しませて頂いている三島浩司先生です。
 三島先生初めまして、よろしくお願いします。
 『ダイナミックフィギュア』を読んでインタビューを待望していたんですが、こんなに遅れてしまって申し訳ないです。
三島> こちらこそよろしくお願いします。このインタビューを機に『ダイナミックフィギュア』は大爆発しましょうから、喜ばしいことです。
雀部> えっ!プ、プレッシャーが(汗;)
 最初にお聞きしたいのは、ダイナミックフィギュアについてなんですけど、加藤直之画伯の表紙画に描かれているのは、シキサイとカムカラですよね。
 三島先生は、どの程度までダイナミックフィギュアの造形について決められていたんでしょうか。
 「ダイナミックフィギュアの作り方」によると、加藤画伯ご自身は、苦労しつつ楽しまれて描かれたようですが。
三島> 自分が頭に描いていたイメージ……、どうでしたかね。忘れちゃいました。というのもカバーイラストを加藤先生に手がけていただいて、実際に拝見し、それから今日まで時間がたって、あたかもあの機体を当初からイメージしていたような錯覚をすっかりもってしまっているもので。このような錯覚に陥ることを期待していた部分はありました。
 作中では機体のディテールに対する描写はありません。私のダイナミックフィギュアの創作テーマは概念でありディテールではありませんでしたから。その概念は機体の内部に隠された内燃機関であり、主系/従系の操縦システムでした。
雀部> なるほど、最初に造形ありきではなかったと。
 その「概念」、SFマガジン(2011/3)に掲載された三村さんとのインタビューの終わりに“本作において、僕が僕自身に課したテーマは「概念」なんです。新しい概念づくり。突き抜けた発想。それが『ダイナミックフィギュア』なんです。”とありました。キッカイが「走馬燈」に蓄え次世代に伝えようとしているのも新たに獲得した「概念」ですよね。『ダイナミックフィギュア』で使われている「概念」という単語は、一般的な「概念」の意味合いより広義な感じを受けたのですが、どうなんでしょう。
三島> 広義であるか狭義であるかは聞き手も答え手も頭がこんがらがってしまうのでほどほどにしておきましょうか。
 まったく知識をもたない存在にとって、はじめて見る人型や鳥の翼はあらたな概念であり、走ったり跳んだりする動作もあらたな概念であるわけです。キッカイはこのあらたな概念を走馬燈という器官に蓄え、次世代の個体を進化させます。ですがその一方で、『ダイナミックフィギュア』という作品を創作するにあたっては、この走馬燈という発想自体が私にとってはあらたな概念のつもりでした。
 ニーツニー(減衰率ゼロのエネルギー変換)という発想も、人間的他感作用という発想もあらたな概念のつもりでした。私がなぜこのあらたな概念にこだわるのかというと、文明や文化を唯一進歩させることができるものこそがあらたな概念だと思うからです。誤解と非難を恐れずにいえば、あらたな概念がふくまれていない作品は文化を前進させたとはいえません。
雀部> 「走馬燈」を介して「概念」が次世代へ伝わりキッカイが進化するというのは、凄いアイデアだと思いました。これによって人類側の対処法が全く別物になりますもんね。
 キッカイは、死ぬことによって概念を伝え、次世代になって能力が開花します。『ルナ』に出てくる「悪環」も人間を吸収すると自らも死滅しながら遺伝子を組み換えて化けますね。どちらも「死」が契機となっているのですが、三島先生は種全体に対して、個の「死」というものをどういう風に考えられているのでしょうか。
三島> 本気にしろ錯覚にしろ、人とは「もう死んでもいい」と感じた体験をしてきているものではないでしょうか。誰しもとはいいません。たとえ話として、私などは執筆期間中は終盤に向けて生に対する執着心が上昇してゆきます。書き終えたときに、執着心が平常値に戻ります。それ以下になるとまでいっておきましょうか。
 女性の出産などはどうなのでしょうね。なにかを達成し、それが未来や次世代に遺せると確信したとき、この執着心の落ちこみ度はある種の幸せのバロメータになるのかもしれませんね。
雀部> その考え方は面白いですね。出産は孤介時間ならともかく、現実には男は経験することは出来ないのでよくわからないですけど。
 そういえば、三島先生の作品に登場する女性キャラは、男性キャラよりも尖っていたりどこか歪んでいたり、ちょっと性格が極端に走る傾向があるように感じるんですが、これはなぜなんでしょうか。それとも勘違いなのかな。
『ダイナミックフィギュア』では、香月純江・安並風歌とか土筆ちゃんとか続初ちゃん。『ルナ』の島谷ツバメ・天間留奈。『シオンシステム』の新矢すみれ。
三島> キャラクターづくりの点は、私のなかでもっとも発展の余地を残した部分です。作品のなかに困ったちゃんを配置してゆくとき、印象の強さを期待して男の子よりも女の子を選んでしまってきたのかもしれません。
雀部> それは『MURAMURA 満月の人獣交渉史』や『ガーメント』においても同じなのでしょうか。三島先生のキャラづくりは、ラノベのキャラづくりにさらに一手間かけた感じがして面白いですね。
三島> そうだとしたら、ひと手間かけたことが必ずしもよい結果を生んでいないと自覚していますが、これから作品を重ねるごとに徐々に改善されると思いますよ。発展の余地――最近よくいわれる“のびしろ”の多い部分です。
雀部> 『ダイナミックフィギュア』も『ルナ』も、また少し形は違うけど『シオンシステム[完全版]』も主人公(主要登場人物)の死で幕が引かれます。ここに描かれた「死」の形は「愛」の最高の昇華形態と思っても間違いないでしょうか。
三島> 「死」と釣りあうものがなかなかありませんから、この質問については間違いないと思います。基本的に、「死」やら「殺人」は極力書かないようにしています。私はこの手の要素を「下駄を履かせる」と個人的に呼んでいるのですが、要するに作品の魅力というか読者の興味を安易に底上げしてしまう。私はその部分を馴染みのない概念で興味を補おうと努めています。『ダイナミックフィギュア』の上巻で是沢銀路という人物を死によって退場させたのは、彼が存在していれば執筆がもっと楽に進んでいたのにそれでは進歩がないと思ったからです。生じた穴は別のアイデアで埋めてゆく。そして一度使ったアイデアはどんどん捨ててゆく。話が逸れてゆく一方なのでこのあたりでやめておきましょう。
雀部> なるほど、了解です。
 「愛の反対は、憎しみではなくて無視だ」というのは良く言われている言葉だと思いますが、既出のインタビューの中で、三村さんの“外界と遮断された閉鎖環境が繰り返し登場してますが”という質問に“僕自身に籠もり(孤介)の気があるのかも知れませんね。”と答えられていますよね。
 「孤介」という概念だけでなく、『ルナ』における「孤児(血縁関係者に対する拒絶感)」や、『シオンシステム』における「(抑鬱の極みにある)イナホ」とか外界との関わりを絶つ存在と対比させた「愛」の描き方が見事だと思いました。これは、やはりねらって出されているんでしょうね。
三島> お世辞にも見事といわれれば、これからインタビューで尋ねられることがあったらねらっていたと答えることにしましょう(笑)。あとにも述べますが、作品を構想するにあたって、第一に閉鎖的なものありき、というわけでもありません。必要だから入れざるを得なかった。「また閉鎖的なものがでてきちゃったな」と思うことはいまでもあります。
雀部> あと『ダイナミックフィギュア』で面白く思ったのは、その是沢銀路司令の出獄前の時代がかった名調子。雰囲気出てますね。また、安並女史が司令になってからの第一声が、任侠調で受けました。これはひょっとして、部下に対すると同時にマスコミにも向けたものだったのでしょうか。女は司令官としては頼りないのではないか、しかしヤクザの親分の娘なら度胸も据わっていて、出入りにも慣れているかもしれないから向いているかもしれないという(笑)
三島> まず戦闘の様子を描くにあたって、構想段階でかなり頭を悩ませたといういきさつがあります。要撃行動を最低一〇回は入れなくてはならないと思っていたもので。一〇回に“十人十色”のバリエーションで変化をつけるのは至難の業だなと思いました。
 たとえばダイナミックフィギュアとキッカイの肉薄戦闘を描くにしろ、右のパンチをくりだし左のキック……、これが書けたとしても読み手が飽きてしまう。私が読み手なら「これは1回だけでいいよ」とうんざりしてしまう。本という媒体ですから、ではいくらでも変化のつけられる「文句」でなんとかしようと考えました。もう何年前ですかね、アメリカではオバマ氏が大統領選挙に向けての選挙戦をしていました。私はその報道を見て、「オバマ氏も大統領になった暁には大統領演説をするんだな」と想像しました。そこでちょっとしたひらめきがあったのですが、時代はさかのぼってケネディ大統領のような人心をつかむ演説風の指令をしてみたらどうかと。そのような運びです。というわけで、オバマ氏からサインを求められたらいつでも応じる準備はできています(笑)。
雀部> 毎回の要撃シーンは、楽しませてもらいました。キッカイも進化するので難易度がだんだん上がってくるのが素敵です。退治する側は大変だけど(笑)
 指令が、アメリカ大統領の演説がネタ元だったとは驚きです。なるほどねえ。
三島> 安並風歌の仁義口上ですが、あの部分は惜しかったです。本当は腰を落として手を低く差しだすようなポーズもくわえたかったのですが、べつにその映像がフタナワーフじゅうに流れるわけでもありませんし(そういうカメラ機能はパノプティコンにはない。その機能は人類の存亡がかかった戦いには余計。そのような浮ついた機能を搭載したら初日で負ける。これはちびっ子アニメじゃない。……略)、キャビンの中でひとりそのポーズはまぬけだと思って無理でした。なにはともあれ、司令官のタイプに変化がほしかったわけです。
雀部> 個人的には、もっと安並指令の活躍が見たかったです。
 『ダイナミックフィギュア』は、ダイナミックフィギュアとそれを活かす設定が経糸(たていと)だとすると、栂遊星くんのビルドゥングスロマンが緯糸(よこいと)で、上巻では前者に下巻では後者に重きを置いて書かれているように感じたのですが。
三島> たしかに馴染みのない設定がある作品ですから、下巻であとだしの形は避けて上巻に詰めこまなくてはならないという条件はありました。一方、主人公の成長に関しては、たかだか二年の物語ですから、そのあいだで完結させるためにも後半に比重が偏ったということはあるのかもしれません。もともと三部作の構想で“巻き”がはいったという事情もあります。
雀部> これも三村さんとのインタビューに言及がしてありましたね。キッカイには北上して瀬戸内海を渡る際に水泳技術を身につけ、中国地方から更に北を目指して欲しかった。と、岡山県民である私はそう思います。岡山での一次撃退線は、今は建設中の国道二号線の高架バイパスあたりかな。
 その三部作はどういう構想だったのでしょうか。
三島> キッカイの親玉はカラスという地球外生命体です。そしてこのカラスの天敵がクラマという無敵の創造物です。上巻でキッカイとの戦いをメインに、中巻ではカラスと、下巻ではクラマという単純な流れを考えていました。舞台は四国の次に中国地方でした。私は郷里が広島県の福山市なもので、親戚筋から「福山を書け」というしがらみがありまして。三部作にして、はたして実際はどうなっていたのかはわかりません。なかだるみにならないようにするにはたいへんだったでしょう。
 しかしカラスとの戦いをもっと書いてみたいという思いはありましたよ。上巻の最後で主人公の栂遊星は宣戦布告としてSTPFに向かって銃弾を放ちます。つまり相手はクラマではなくカラスだったわけです。あえてあの部分は構想がずれても残しました。「本当は三部作だったんだぜ!」という見苦しいメッセージです。
雀部> そういう形での三部作構想だったんですね。実は、岡山市より福山市に近いところに住んでいるので、『ダイナミックフィギュア福山版』はぜひ書いて欲しかったです(笑)
三島> いつになるかわかりませんが、また別の作品でということになります。福山市長がサインを求めてきたら……、やめておきましょう。
雀部> 福山の友人に頼んでおこう(笑)>市長からサイン
 STPFとキッカイの設定があまりにも魅力的なので、クラマとカラスの正体は不明のまま日本は、ダイナミックフィギュアで戦い続けるというバージョンも読みたかったですよ。
三島> そういっていただけると嬉しいです。ただ重要なのは、読んでみたいという以上に、その作品からいろいろと連想できるものであるべき、ということです。私だったらこういう展開にするのに、私なら別の角度から描ける。
 非常に突き放した言い方ですが、連想というのは万人にとって容易です。連想できないのが、しつこいようですが概念なのです。概念には連続性がありません。連続性がないから大きな進歩が得られるのです。ダイナミックフィギュアというロボットがある。エンジンはニーツニーで操縦には主系と従系がある。敵である怪物は走馬燈というやっかいな器官をもっている。キッカイに翼を見せてはいけない。空にはSTPF。一日に二度、とある時間帯になったら人は行動できにくくなる。しかしなかには耐性をもった人間もいる。ダイナミックフィギュアを出動させるには五加一干渉の壁を越えなくてはならない。これだけの部品からまったく違う『ダイナミックフィギュア』は他にもできるでしょうね。
雀部> え、そうなんですか。全く違う“ダイナミックフィギュア”は、どうなんでしょう。かなりクリティカルな設定と、そこにピタリとはまる非常に良く考察された“ダイナミックフィギュア”像だと思うのですが。まあ、天才的な“概念”をあみ出す作家さんが出てくれば可能かもしれませんが。
三島> とあるロボットアニメでも、原作者を離れてシリーズ化はできています。野茂英雄が一番偉いです(喩えがズレているし、深いようで浅い)。
雀部> ??(汗;)
 “五加一干渉”の設定も面白いですね。いままでも怪獣との闘いで破壊されたモノはどうするかという問題を取り上げていたロボットものや怪獣モノはありましたが、これは新機軸ではないでしょうか。出獄前のピリピリしたシーンにもかかわらず、あまりの面白さと“アルアル感”に思わず笑っちゃいましたよ。
三島> “五加一干渉”に関しては、五加一干渉ありきではなく、私の頭のなかでシミュレーションをした結果、必要なものとして誕生しました。日本は専守防衛であり、他国を攻撃する積極的な戦力をもてない。そこに戦略兵器のロボットなどを装備したら、やはり隣国が干渉してくるのではないかと。私の作品はほとんど共通してシミュレーションなんです。とある不思議な現象や出来事が起きたら、それにともなって社会はどのように変化してゆくのか。そこに既存の憲法や法律や海外との条約は無視できません。あと、構想段階では、五カ国と一政府に対して、ダイナミックフィギュアの部位を稼働させる権限をもたせる、というのもありました。たとえばアメリカだけ出撃を認めなければ左脚だけ動かないとか。ちょっと稚拙で自分自身で却下しましたが。
雀部> 左脚だけでも動かなかったら、出獄できても役に立たないです(笑)
 『シオンシステム』での中医協の描き方も良かったです。かなり取材はされたのでしょうか。私も直接見たことはないのですが、中医協のメンバー(日本歯科医学会理事)の方のお話は聞いたことはあります(某献金事件直後(汗;))
三島> 取材費もありませんし、私のような人間が訪ねても「あんた誰?」となりますから『シオンシステム』は可能な限り文献をあたりましたね。あれも中医協ありきではなく、必要だから泣く泣く調べた記憶があります。
雀部> その調査の成果が出ていて面白く読ませて頂きましたよ。
 虫歯だけでは無くて歯周病は免疫システムと大いに関連していると思いますので、日本歯科医師会メンバーが登場しなかったのは残念でした。まあ薬剤師会も看護師もあまり活躍してないのでしょうがないか(笑)
三島> そうそう。周囲から「あれを書け」というリクエストがあるとハードルが高くなるので、私は孤介になって耳をふさぎます(笑)。
雀部> 『シオンシステム』では鳩が重要な役割を果たしていますし、鳩レースのシーンもリアルですよね。三島先生も鳩レースはされたことがあるのでしょうか?
 50年ほど前には、鳩を飼い、レースに参加している中学時代の同級生が何人か居ましたし、鳩舎も見せてもらったことがあります。
三島> 鳩レースは絶対におもしろいですよね。なぜもっとメジャーにならないのでしょう。日本人の頭はどうかしている。――いえいえ、私も鳩レースはしたことがないんです。ただ、ブラックボックスが大好き。岡山から放った鳩が大阪に帰ってくる。そのあいだはどうなっているんだろう。わからないけど、とにかく帰ってきた。ここに萌えなくては人間じゃない(笑)。
雀部> 鳩って、抱いてやると体温高いし鼓動は早いしで、生きている感を凄く感じますね。
 趣味つながりでお聞きしますが、『高天原探題』の被官が仕置きに赴くシーンで、先鋒次鋒と順番が出てきますよね。剣道をされてらっしゃる(又はされていた)のでしょうか。(私は全然なんですが、長男が剣道五段なんで)
三島> 柔剣道は、吉本興業のギャグでもある通信教育レベルでしか経験はありません。
 作品のなかで武闘の五人チームでメンバーに序列のある設定ならば、先鋒→次鋒→中堅→副将→大将はエッセンスとして使いたい呼称ですよね。ちなみに七人制だと五将と三将が中堅をはさんで並ぶそうです。こういうトリビアは好きです。
雀部> その最新作の『高天原探題』なんですが、「バスコル」とか「クビキ」や「シノバズ」も三島先生の新しい「概念」ですよね。
三島> 「バスコル」に関しては、耳慣れない言葉ですが、ユダヤ世界やキリスト世界では「聖霊」という意味で用いられている既存概念です。「軛(くびき)」や「頚木」は縛りや制約をあたえる意味で小説のなかではしばしば用いられているようですが、動機を奪ったり動機を殺したりという意味づけの点では創作概念です。「シノバズ」に関しても、そもそも“見える”とはどういうことなのか、というひとつの解釈のしかたをあたえた概念です。
 創作にあたって意味のない単語を勝手につくったことはなかったと思います(あるかな? 玄主という言葉はないが玄室の主という意味で)。シオンシステムにでてくるセンテナリアンという耳慣れない単語も一〇〇歳以上という意味の英単語です。
雀部> 「玄主」や「シノバズ」が放つ「クビキ」は、『ダイナミックフィギュア』の「STPF」の「究極的忌避感」と似てますね。一見地味なんですが、じわじわきます。「動機を殺す」という心理作用がことのほか気に入りました。
三島> 動機を殺されるとその相手が見えなくなる、というのが『高天原探題』の核です。
 一度“見えざる敵”の作品を手がけたかったもので、ユニークなステルスの原理はないかと考えた末に生まれた発想です。光学迷彩やステルス機をそのまま使ってしまうのは私のSFではありません。
雀部> 「バスコル」と呼ばれる不可識存在って、我々の世界を満たしていながら不可知の存在で、いわゆる「神」ではないのかという設定ですが、ダークマターの別形態のような気もしたのですがどうなんでしょう。
三島> ここまでインタビューを続けてきましたから、三島という人間はよっぽどのことがない限りダークマターの存在を引用しないだろうと想像されていると思います。ただ別形態といわれると、不可識の存在ですから該当しますね。もともとバスコルは生物であったという設定です。
雀部> 生物なんですか。ま、玄主との間には若干の相互理解が生じているようですから、『宇宙消失』のような全く理解不能な存在ではないよなと思いました。
 “日本は持戒国家である”と国民性を看過されたのにはなるほどなあと。だから日本にはシノバズが出現しやすい土壌があったのかとも思ったり。
三島> 『高天原探題』も当初の構想では上下巻の『ダイナミックフィギュア』と同じくらいのボリュームがある作品でした。それが“大人の事情”で四分の一に圧縮されました。その上巻では、実際の作中では一箇所のみで触れられた芥田翔子(玄主になってしまいながら高天原探題の被官に抜擢された女)を主人公に描こうと思っていました。そして実際の作中では主人公クラスの皆戸清美を神秘的な少女として。
雀部> 芥田翔子が主人公ですか。それも読みたいです。作品世界に長く浸れるので、長いのは大好きです(笑)
三島> 四倍のボリュームのなかでは、社会的な部分で寺社も描いて持戒についてもっと掘り下げるつもりでした。現代の日本では「お坊さん =(すなわち) 持戒者」というイメージをもっている人は多くないと思うので、新鮮だったかもしれません。高天原探題が寺を巡り歩いて僧侶のなかから被官候補をスカウトする……、ありですね(笑)。
雀部> 被官候補生をスカウトですか。各職業別で被官候補生発生割合をカウントしたら面白いかもですね(笑)
 ツムカリがシノバズを仕置きするとき、特殊鉄棒で殴打しますね。これがシノバズ(バスコル)に対する最善の対抗手段みたいなのですが、なぜたたくだけで?
 交通事故とか落下でも自滅するみたいなので、加速をつけた衝撃に弱い(支配が出来なくなる?)ということなのか。
 宇宙が10次元で、各次元で共通して働く「力」が重力(だから他の力に比べて極めて弱い)だけという見地からすると、重力と加速度は相対論では等価なので、たたくことはバスコルに影響を及ぼす唯一の「力」なのかもと想像してるんですが(笑)
三島> 思考のエネルギーを惜しみなく使っておられるようで頭が下がります。
雀部> SFバカなんです(笑)
三島> 暴力とは破戒行為(×破壊行為)ですから、その実行によって持戒の影響力が消滅するという単純なものです。バスコルとの決別の意思表示という意味で。暴力のもっとも単純なかたちとして“叩く”を用いました。
 SF作品において、攻撃力がどんどん新鋭化して強力になってゆく傾向に、私個人に抵抗がありまして。必殺光線があるならはじめから浴びせましょうよ。荷電粒子砲とやらがあるならあらゆる局面で使いましょうよ。話は変わりますが、世界征服・世界転覆をもくろむ敵のアジトがわかっているなら少々の犠牲を覚悟で核ミサイルを撃ちこみましょうよ(※いまだかつて人類は世界征服の危機に遭っていない)。
『ダイナミックフィギュア』では防衛主体であるフタナワーフの最大火力を九〇式(改)戦車のライフル砲に低く抑えました。レーザービームにしなくてもバトルものはおもしろくなると私は思うのです。そういった意味で『高天原探題』では“叩く”というもっとも原始的な攻撃を用いたかったのです。
雀部> あ、それは確かに感じてました。『MURAMURA 満月の人獣交渉史』でも、最初の武器は火縄銃でしたし。レーザービームなんて、宇宙空間ならともかく、コスパが悪い気がします。
 「概念」で言うと『ガーメント』では、題名となった“garment”もそうだし、壮大な「輪廻」の新しい解釈もぞくぞくしましたよ。
三島> 『ガーメント』は第一に“戦国もの”ということで、“タイムスリップ”を用いる必要がありました。その逆ではありません(“タイムスリップもの”の戦国時代行き)。描く時代は桶狭間の戦いから本能寺の変までとの条件がありましたので、二二年間の常駐型は難しすぎるので往還型になりました。タイムスリップの手法として、どのような順序で“世の実相”(世が本当にそのような仕組みになっている)・“天下一統”のスタイルになったのかはもう忘れてしまったのですが、構想をはじめてから『鶴女房/つるのおんがえし』があたえてくれるイメージに手応えがあったので徹底的に絡めることにしました。『シオンシステム』では『竹取物語』でしたが、あのイメージよりも強いものでした。
雀部> あ、『ガーメント』には最初から時代制限があったのですね。ツゥが“開けないで”いうのを無理に開けたらタイムスリップというアイデアには笑わせてもらいましたよ。
三島> 話は若干逸れましたが、一般に知られる輪廻はおそらく世の実相ではないと思います。しかしその輪廻を信じるのならば、『ガーメント』のもうひとつの輪廻を否定することはできないと思います。宇宙が膨張して、また収縮したその次には、まったく同じ膨張をするかもしれませんね。
雀部> それは故フレッド・ホイル博士の説に近い考え方ですよね。
 『ルナ』『ダイナミックフィギュア』『シオンシステム』がSF路線としたら、『MURAMURA 満月の人獣交渉史』『ガーメント』はファンタジー系の感じがしました。そして『高天原探題』は、サイエンス・ファンタジーという意味のSFかなぁと。SFとファンタジーが高い次元でうまく融合してる。だから個人的に一番完成度が高く感じて面白く読めたのは『高天原探題』ですね。ハードSFファンなんだけど(笑)
三島> ハードSFファン、大いにけっこうです。王道あっての外道であり、その逆は成立しませんから。私の作品を分類するとおっしゃるとおりになりますね。あと、あらゆるSF作品にはからくりが用意されているものですから、推理しにくいミステリの要素がふくまれているといえましょう。
雀部> そういう意味では、『高天原探題』の冒頭から半分くらいまでの「ん??これはどうなっているんだ。まだ詳しい説明無かったよな〜」感は凄かったです(笑)
 『ルナ』の有働仁と天間留奈、『MURAMURA 満月の人獣交渉史』の伊佐チエと古座賢は中学生だから少し違うけど、『ダイナミックフィギュア』の栂遊星と公文土筆、『シオンシステム』の常磐峰とハルカ・パンターニ、『ガーメント』の花輪めぐるとツゥ、『高天原探題』の寺沢俊樹と皆戸清美。三島先生の著作の面白さは、作中にくりだされる新しい「概念」と男女の様々な愛の形であると思って間違いなさそうですね。
 特に『高天原探題』での二人の恋模様は、他の作品と違いごく普通の出自の男女なだけに等身大に描かれていて一番感情移入が出来て良かったです。一号墳墓事件がなければ出会いもしなかっただろうし、ほんとに運命的なものを感じました。
三島> 恋愛をふくめた人間関係とSF的要素、どちらに比重を置くのかは考えどころですよね。ウケるには前者のボリュームをもっともっと増やしてもいいのかもしれません。ただ私の場合は詰めこみたい後者にいまのところ不自由していないので、ないがしろにしているわけではないですが、ページ枠として全体がふくらみすぎるので前者を抑えているところはあります。このバランスに大きな変化があったとき「三島もアイデアが枯渇したんだな」と思っていただいてけっこうです。
雀部> アイデア枯渇ではなくて、新しいジャンルに挑戦された時ではないでしょうか!
 最後に現在出版準備中の作品、または執筆中の作品がございましたら、かまわない範囲でご紹介くださいませ。
三島> 『ダイナミックフィギュア』が三〇代に手がけた代表作ならば、現在執筆中の作品は四〇代の代表作になるかもしれません。あとは、某編集部さん伝いのお話で、某国民的ヒーローの一大企画に長編なり短編なりで関与させていただくかもしれません(某が多い)。
雀部> 今回はお忙しい中インタビューに応じて頂き、たいへんありがとうございました。
 国民的ヒーローというと、アトムか009か、はたまたウルトラマンあたりかなぁ。
 四〇代の代表作も、首を長〜くしてお待ちしております。
三島> こちらこそありがとうございました。さて、三島はこれから侵攻します。要撃行動の準備を整えておいてください。


[三島浩司]
1969年生まれ。関西大学工学部電子工学科卒。電気関連会社退社後、小説執筆を続ける。『ルナ Orphan’s Trouble』で第4回日本SF新人賞を受賞し、同作で2003年にデビュー。2011年、ハヤカワSFシリーズJコレクションより『ダイナミックフィギュア』を刊行。従来の二足歩行兵器のコンセプトを更新する、最先端のリアル・ロボットSFとして広く話題を呼び、ベストSF2011『国内篇』第3位にランクインした。
ホームページは「三島浩司のネルカレー」HP内の「著作活動」のご自身による作品紹介が的確。ま、少しネタバレあり(笑)
[雀部]
ファンタジーも大好きなハードSFファン。SFのバックグラウンドで「愛」を語る三島浩司先生。希有な存在だと思います。

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ