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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『はい、チーズ』書影
『はい、チーズ』
> カート・ヴォネガット著・イラスト/大森望訳
> ISBN-13: 978-4309206561
> 河出書房新社
> 2000円
> 2014.7.30発行
収録作:
「耳の中の親友」「FUBAR」「ヒポクリッツ・ジャンクション」 「エド・ルービーの会員制クラブ」「セルマに捧げる歌」「鏡の間」 「ナイス・リトル・ピープル」「ハロー、レッド」「小さな水の一滴」 「化石の蟻」「新聞少年の名誉」「はい、チーズ」 「この宇宙の王と女王」「説明上手」

『うどん キツネつきの』
> 高山羽根子著/クリハラタカシCover Illustration
> ISBN-13: 978-4488018191
> 東京創元社
> 1700円
> 2014.11.28発行

 創元社のサイン本販売でゲットしました。サインの左横のうっすらしているのは、同梱してあったお名前にちなんだ“鳥の羽根”です。

「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞 佳作)
 変な小説です。生まれたてのヘンテコな仔犬を拾った三人姉妹の日常を描いた作品。題名もヘンテコですが、読み終えると正に題名通りの短編だったことに驚くという……(笑) 読み返さないとわからない伏線が多々あるので、二度読みは必須です。
 昔のニューウェーブ作品で、パミラ・ゾリーンの「宇宙の熱死」という短編がありまして、上下二段組みで、片方に熱力学法則を、もう片方に普通のオバサンの日常生活が書いてあって、その対比というか相関具合が格好良かった。
 この「うどん キツネつきの」は、その片方(日常生活部分)だけを取り出した短編だと考えると、我々オールドファンにはわかりやすい(笑)
 つまり、二度目は解説部分を補完しながら読むんですな。うどんと名付けられた仔犬の出自とか、どうやって地球にやってきたか、どういう生命体がどんな文明を持っているかとか、どこに説明を持ってくるかも考えながら読むとまた面白いですね。
 基本的には『スター・トレック モーション・ピクチャー』のボイジャーを送り返してきた機械生命体が、何年後かに地球を訪れるみたいな話という理解で良いのかな?(笑)

 以下ネタバレが入ってますので、fontの色を白に変えてます。反転させてお読み下さい。
「シキ零レイ零 ミドリ荘」
 グェンさん:宙に浮く。体の中心が光る。
 キクイムシは、喰い跡で叙事詩を紡ぎ出すのかも(笑)
 犬=グーグルストリートビュー撮影車
「母のいる島」
 優れた視覚神経とそれを活かす運動能力(投擲力とか)の遺伝子
 落ちは、たぶん「数で上回る」(笑)
「おやすみラジオ」
 情報の洪水を乗り切る方舟と希望を運ぶ鳩
 3.11と怪情報・放射脳
「巨きなものの還る場所」
 人の作ったでかいもんは、古くなると命を持つ・学天則
 オシラサマ(女と馬の姿で一対のご神体)
 田中舘愛橘(地震・地磁気の研究)
 自分の居場所と一族を想う想い・国引き・沖縄返還・シャガール・3.11
 魂は、自分自身の中ではなくて、所属している集団・場所にあるのでは。
 凄くヘンテコだけどとても面白い短編集。ヘンテコなことが起きているんだけど、普通に日常生活はおくれるよ的なところあり。そういう点から言うと、北野勇作さんがお好きな方には大推薦。
 共通の設定・背景があるかなと思い書き出してみましたが、あまり無さそうではあります。
 ゆるやかな心地良いまとまり感はあるんですけどね。
 しいて言うなら、SFでは良く語られる「人間とは、つまるところ情報である」という観点からすると、「巨大な情報はそれ自体が命を持つ」と(ビッグデータとは違うけど)
 学天則とか巨大ねぶたとか巨大オシラサマとか。
 「シキ零レイ零 ミドリ荘」でも何かがデータ集めているみたいだし。
 「おやすみラジオ」では、怪情報自体が一人歩きして混乱をもたらしている。
 「母のいる島」では、数(情報量)で勝負してるけど(笑)

『原色の想像力』
> 大森望・日下三蔵・山田正紀
編集/岩郷重力+WONDER
WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488739010
> 東京創元社
> 1100円
> 2010.12.24発行
 

雀部> 今月の著者インタビューは、第一回創元SF短編賞の佳作を受賞され、昨年の11月に『うどん キツネつきの』を出された高山羽根子先生と、選評で「うどん キツネつきの」を高く評価されていた大森望先生です。
 高山先生初めまして、大森先生お久しぶりです、よろしくお願いします。
高山> 先生だなんて、なんか、すみません。こちらこそよろしくお願いします。
大森> どうも、御無沙汰してます。よろしくお願いします。
雀部> お二人ともお忙しいところありがとうございます。
 高山先生は、多摩美の絵画学科をご卒業ということですが、ご専門は何だったのでしょうか。卒業生の中でSF界で一番有名なのは、故真鍋博画伯だろうなぁ……。
高山> 専攻は日本画です。卒業生は美術作家以外だとアニメやゲーム、漫画関係に行かれる方が多いです。漫画は詳しくないのですが、数少ない知っていて好きな漫画家の、はるき悦巳さんも真鍋さんと同じく油画だとなにかで見て知りました。ファインアート出身で文筆に携わる方はさほど多くないと思います。武蔵美のほうが文筆仕事されている方は多そうです。勝手なイメージですけど。
雀部> そうなんですか。>武蔵美のほうが文筆仕事
 はるき悦巳先生って、TVアニメにもなった『じゃりン子チエ』を描かれた方ですよね、多摩美の油絵科ご出身なのか。
 武蔵美の卒業生には、故伊藤計劃先生がいらっしゃるからなぁ。印象は強い。
 日本画ご出身といわれて、作中でちょっと納得したシーンもありますね。『夏色の想像力』収録の「不和 ふろつきゐず」の冒頭で、頭の中にパッと、薄墨で描かれた白い割烹着を着た姉さまかぶりの女性が浮かんだんですよ。
高山>  武蔵美には直木・芥川賞作家もいますしね。(遠い海から来た方と、限りなく透明に近い方)当時多摩美の学長は辻惟雄さんという方で、世の中的にも奇想系の日本画が見直されたり、一方で現代美術でも村上隆さんのような日本画出身の作家が出てきたりしていた頃で。純粋に面白そうだなという思いで専攻しました。
雀部> 脱線するんですが、奇想系の日本画って、辻惟雄先生の『奇想の系譜』に収録されているような日本画でしょうか。
高山> はい、私が受験生の時、本当に若冲が流行って、それまでは日本画っていうと「浮世絵とか水墨画?」って言われていたんですけど、その頃には「若冲みたいなやつ?」って言われるくらい浸透していました。まあ、どちらも今の王道という感じではないとは思うんですが……。
雀部> 伊藤若冲の作品を評するのにSF的との言葉があり驚きました。海底都市とか火星の植物を思い起こさせる蓮の画というのも初めて見ました。ネットでも若冲の沢山の日本画が見られますね。ひょっとして、若冲の画の雰囲気と高山さんの作品世界の雰囲気って似ているところがありませんか。
高山> 有難いというかむしろ恐れ多いです。SF的だという評があるというのは私も初耳でしたが、奇想系、と言うジャンルが私たちみたいな一般人に浸透したという時期でもあったと思います。個人的には藤枝静男作品の「庭先からぐぐっと広がっていくワンダー」みたいなものに近いなあと考えています。
雀部> そういえば、奇想とか伝奇とか良く聞いた時期がありました。
 先日(3/28)に『奇跡の江戸絵師』で、伊藤若冲・歌川広重・円山応挙を取り上げ、同日に「美の巨人たち 伊藤若冲『乗興舟』天才絵師の問題作!モノクロ絵巻の特殊技法とは?」もありました。
 円山応挙は時代を先取りした3D絵画(香住の大乗寺の障壁画に代表される空間プロデューサーとしての側面)を追求、歌川広重は「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」の鳥瞰図、伊藤若冲が「樹花鳥獣図屏風」の独創的な枡目による作図を取り上げていました。ジョルジュ・スーラが点描法を完成させる百年前なんですね。
 昔一般教養で美学を学んだときは(遠近法と鏡像しか覚えてない^^;)ヨーロッパで紹介されて絵画に多大な影響を与えたと言われているのは聞いていたんですが、当時の日本画ってユニークでかつ先進的でもあったんですね。
高山> 日本画の定義自体がそんなに古いものではなくて、(ぼろが出ることが確実なのでざっくり書きますが)明治以降洋画と区別するためのものというか(まあよそから来るまで境目なんてわからないもんですし)。ストレンジ(エキセントリック)スクールと言われる現在の人気者も、当時は異端だったり「こんなの日本画じゃない」とか書かれてたり。再定義や細分化を繰り返して学問となっているのはどこも一緒な気がします。
雀部> 高山さんの作品は、浮世絵的な感覚ってありませんか。同時代の西洋の風景画は遠近法に則って描かれることが多く、浮世絵は平面的でどこから見ても良いのです。これだという主題は特になくて、小説の中の同じ平面上に各ピースが同等な感じで散らばっていて、全体として統一感がある感じがしました。
高山> わあ、有難いです。浮世絵からずれて申し訳ないのですが、以前「ブリューゲルの動く絵」という映画の中で『一枚の絵の中に、物語は多いほど良い』みたいなセリフがあって(うろ覚え)、当時どちらかというと現代漫画的というか、視線が集中しやすい作品を描いていたというのもあり、なんだかものすごくはっとしたというのを今思い出しました。ボスの作品にもそういう感じがあると思います。
雀部> ヒエロニムス・ボスですね。遠近法は使っているんですが、細かく描かれていて、若冲に通ずるところがある気がします。
 創元SF短編賞関連だと酉島先生も大阪美術専門学校卒ですね。SFと美術は相性が良いのかも。
 作品にご自身で挿絵を描かれることはないのでしょうか。
高山> 文章の挿絵、というのは苦手なほうかもしれません。
 酉島さんや、倉田タカシさんと写真やイラスト、モノなどを交えたウェブ上の創作をしているんですけれども、その中でも文章の挿絵というよりは、文章で書かれていないものを絵にしたり、逆に絵に描けないことを文章にしたりという感じで進めることの方が多いと思います。描き切れたら書かないし、書き切れたら描かなくなってしまうかも。どちらも下手くそなので、どちらもやっているのかなとも思います。
雀部> 「旅書簡集 ゆきあってしあさって」ですよね。
 日本から別の国に行けばそこの風習があるわけで、それがまた風変わりで奇天烈で面白く、お三人ともにヘンテコな話を競い合っているようでこれまた面白い。貨幣単位が「踊り」という国の話は、ほのぼの面白かったです。
 お互いに影響し合って、どんどんヘンテコなお話を紡ぎ出していくというのは、面白そうではありますが、大変さもあるのではないかと思いました。
高山> 私に限ってはですけど、たぶんアイデア自体それほどでもなくて、逆に三人でやっているから一人では出てこないようなものが出てくるというのはあるのですが、今ゆきあっては少し、なんというか自分以外の方々が忙しくなってしまっているので、自分だけ個人的に書き続けているような状態で、申し訳ない感じもしてしまいます。
雀部> 大阪芸大ご出身の作家の方から、ストーリーより先に話のワンシーンの画が浮かんでくると聞いたことがありますが、高山先生はどのようにしてストーリーを考えつかれているのでしょうか。
高山> それは本当に、話によってまちまちです。会話からということもあるし、ちょっとしたアイデアからということもあります。テキストを書く前に絵を描く方、私の周りにも結構いらっしゃるんですが、あまりそういうことは出来ないほうで。やってみてもワチャワチャになってしまいます。ただ、タイムチャートとかフィッシュボーンチャートみたいな、図で整理することはあります。
雀部> そうなんですか。美術出身の作家の方は同じかと思ってました(汗;)
 そもそも何故に創元SF短編賞に応募されようと思われたのでしょうか。
高山> 当時、自分の書いた話を読んでいただいていた知人の女性がいて、その方がアンテナというか、面白いことを嗅ぎつける力が鋭かったんです。で、今度新しくネットで応募できる賞ができて、高山さんなら(変だから?)良いんじゃないか。みたいな感じで言っていただいて。
雀部> 変だから創元SF短編賞に応募したら、というのはものすごく納得ですねぇ(笑)
 最初に「うどん キツネつきの」だけを読んだ時に、“基本的には『スター・トレック モーション・ピクチャー』のボイジャーを送り返してきた機械生命体が、何年後かに地球を訪れるみたいな話”かと思ったのですが、他の短編も読ませていただくと、どうも異生命体が人類に対して悪さをしているような感じをうけるんですが、どちらが設定に近いでしょうか。それともそういう設定は一切無しとか?
高山> うどんでは絶望とか希望めいたものを盛り込まないように留意したのですが、書き様が呑気なのでどちらかというと楽観的になってしまいますよね。
雀部> う〜ん、確かにほのぼのとした感じは受けました。変だけど(笑)
 「うどん キツネつきの」では、“陽一”くんが出てきて大いに親近感覚えました(笑) 登場人物の名前は、どのようにして付けられているのですか?
高山> わあ、ありがとうございます、って言っといてなんなんですが、名前に関しては、実はあまりこだわりがないと思います。しいて言うならキラキラしないように気を付けた……っていうと失礼になってしまいますでしょうか、すみません。
雀部> いえいえ、六十数年前の名前ですからして。
 それと名前と言えば“うどん”の名前の由来って、どこかにありましたっけ? 個人的には“きつねうどん”からかもと思いましたが(笑)
高山> うどんは実際にいた犬の名前です。様々な事柄について由来を求めることの滑稽さについては結構頻繁に考えていて、文章の中にも書いていきたいなあと思ったりはしています。
雀部> 以前、小浜さんから「きょうびの短編集は連作にしないと売れない」とお聞きしているのですが『うどん キツネつきの』は、連作短編集なのでしょうか、又は共通のテーマがあるのでしょうか?
高山> 小浜さんには、家族の物語というような感じで連作が出来ればとお話をいただいていました。
雀部> 家族の物語という括りなんですね。それは納得です。
高山> そのほかハイヤーセルフというかアナザーセルフというか、一方その頃というか、並行なり直行なりの様々な場所にいる方々と、本人がスピリチュアルな意図を持たずに、全く物理的に出会ってしまうことってあるある、みたいな……いや、ほんとうに、こんなの短く巧く言えたら書いたり描いたりしませんよね……。
雀部> それはSF的に言うと「平行世界」とか「多元宇宙」に属するテーマでしょうか。
 はたまた「ミンコフスキー時空における非因果領域」の話なのかな。
高山> ああなるほど、数値で言うと少しは言いやすいのかも、と今何となく気が付きました。とはいえ気がついても言えないんですけど。
雀部> まあ数値を出すのは野尻先生とか林先生とか小林先生に任せて(笑)
 その出会いの感じは、「巨きなものの還る場所」を読んでいるときに感じました。
 月並みですが、影響を受けた又はお好きな小説家・画家(漫画家)・映像作家はどなたでしょうか。
高山> 影響を受けたなんて言うと烏滸がましいですが、谷崎や志賀は不動として、牧野信一や藤枝静男、三浦哲郎の作品も好きです。
 中高生になったら本より雑誌を買うことが多くなって、ログインとか、おもしろいライターさんの文章を切って取っておいたりしてました。今考えると恥ずかしいです。
 子供のころあまり海外の作品を読んでいなかったので、文章を書くようになってから(といってもかなり前ですが)ジュニア向けの海外のものを読んで、ああ、こういうもの書けたら楽しいなあと思いました。ルイス・サッカーとか。
 あと、アニメは海外のものが好きで見ます。ディズニーやピクサー、ドリームワークスの作品がほとんどです。
 好きな映画監督は本当にたくさん居るんですが、元気がなくなるとつい見てしまうのがコーエン兄弟の「オー・ブラザー!」です。あんな文章が書けたらって、見終わるといつも思います。
雀部> 『オー・ブラザー!』は、凄くエネルギー感ありますね。ものすごくいい加減なストーリー展開ですけど(笑)この音楽は好きです。ルイス・サッカー氏の物語はけっこうピシッとはまる感じがSFやミステリにも通ずるような気がします。
 ちょうど去年、ねぶた祭りを見てきたので「巨きなものの還る場所」はどうなるんだろうなとワクワクしながら読ませていただきました。『遠野物語』的な雰囲気も感じられたのですが。
高山> サイバーなフィクションを、なるたけ、そういう用語を使わずに……と考えていくと、そういうのは民話に山ほどあるんですよね。
雀部> なるほど。と思ったんですが、ということはサイバーなフィクションを書かれようとしているということなんですか。
 「うどん キツネつきの」のロケットに犬を積んで飛ばしていたとかの解説の部分とか、「巨きなものの還る場所」で“フライングスパゲティー”の下りとかは、そういう意図で入れられているのでしょうか。
高山> あ、すみません、自分の作品の意図として、というよりは一般的とか模式的な言い方になってしまったかも。細かな要素については、ノイズだとかそうでないものを全て選択していくのが良いことなのかどうかはこれからもずっと悩み続けるような気がします。
雀部> ノイズというと、ミステリで言うと偽の手がかり的なものですか。「シキ零レイ零 ミドリ荘」でいうと グェンさんが宙に浮いたり体の中心が光ったり、後キクイムシの喰い跡が叙事詩に思えたりするところとかかな〜。
高山> そういっていただけることはすごくうれしいです。そのあたりは読み手の方にご判断頂くのが何よりだと思うので。
雀部> そう言われると読み手の質を問われるようで実はしんどいところもあります(汗;)
高山>  いえいえ、読んでいただいている時点でどう結び付け&削っていただいても大変にありがたいので……。
 それはそうと、ねぶたって本当に良いですよね。あんな光る巨大なものがいくつも並ぶお祭り、世界にもそうそう無いと思います。
雀部> ねぶたは近くで見ると確かに迫力ありますよね。ねぶたが集団で空へ還って行ったらさぞかし(笑)
 あと、「うどん キツネつきの」に宇宙船に乗った“アヌビス神(?)”が出てくるし、「シキ零レイ零 ミドリ荘」の、銀玉と犬の関係もありますよね。ひょっとして高山ワールドでは、犬がかなり重要な役目を負っているのでしょうか。
高山> 犬と言う生き物の特殊性は、おそらく多くの人と共有できるのではないかと考えているという所はあります。猫や他の生き物も飼っていましたし可愛かったですけど。犬は情緒にしても感覚にしても、生き物としてのステージが人の上に在る感じはします。
雀部> 一時、犬は二匹飼っていたことがあります。ほぼ同時期に病死しまして、それからは飼う気にならないのですが。犬って、飼い主を裏切らないし、愛情には愛情を持って応えてくれるし。う〜む、人間全般だと当てはまらない特性だな(笑)
 生き物としてのステージとは、どういったところを想定されているのでしょうか。
高山> 人って、生き物としてはさほど特殊ではないんじゃないかと思うんですよね。情緒もあんまり安定しないし、言うほど疎通もできてないし。生き物は同じ種類が複数いるとほんとおもしろいですね。私もデグーというネズミを二匹飼っていたことがあるんですが、絶えずなんか話していて、通じていないのが自分だけ、という感覚がすごく楽しかったです。
雀部> 犬は上下関係がきっちりしているというのは感じました。下克上は無理(笑)
 高山先生の作品は文章のうまさとか小説世界にすっと入り込める描き方とか読みどころはあるし、『うどん キツネつきの』収録作品の人気投票を見ると、様々な感想が寄せられていて面白いです。
 大森さんから見た高山ワールドの魅力はどんなところにあるのでしょうか。
大森> 落語でいう“フラ”みたいな、ジャンルや手法に還元できないおもしろさというか、独特の個性が魅力ですね。表題作で言えば、パチンコ屋のゴリラに始まって、拾ってくるピースがいちいち楽しい。そういう妙ちきりんなかたちのピースが合わさって、なにか巨きなものに接続されてゆくところにSF的な興奮があります。
雀部> あ、それは「巨きなものの還る場所」で特に強く感じました。
 SF的要素を持った奇想小説というところというと、パスカル短編文学新人賞を受賞されてその後芥川賞を受賞された川上弘美先生と立ち位置が似ているような気がしているのですが、どうでしょうか。
大森> 世代的なこともあるかもしれませんが、川上さんの作品のほうが、僕にはもっとわかりやすいですね。高山さんのは、「なんでこうなるの?」っていうか、よくわからないところがけっこうあって、そこがおもしろい。純文学畑で評価されておかしくない才能という意味では、共通していると思いますが。
雀部> ちと話がずれるのですが、川上先生というと、芥川賞の選評で、常に深く読み込まれているし、温かい選評をされているのが印象的です。前衛的な作品に関して、門前払いみたいな選評も多いのですが、あれはそれにもめげずに書き続けようとする作家の方を選別するという意味合いもあるのでしょうか。
大森> 川上さんの選評も、よく読むと、温かくやわらかい言葉で門前払いしてたりしますけどね(笑)。選考会の場は文学観のバトルロワイアルみたいになりますから、円城塔が受賞したときの石原慎太郎みたいに、おれはこの作品をぜったい認めない!と言う人もいるわけです。ただ、芥川賞に関しては、いまはずいぶん許容度が高くなってると思います。エンターテインメントのほうがむしろ保守的かも。お作法重視というか。
雀部> 純文学は先鋭化しないと生き残れない気もしますねぇ。SFとどちらが売れているんだろう。
 芥川賞の許容度が高くなったというのは、円城塔先生の事例もでしょうか(笑)
 大森さん翻訳の『はい、チーズ』バラエティに富んでて面白かったです。ヴォネガット氏の作品は深読みできるし、古びないですね。"While Mortals Sleep"の翻訳も楽しみにしております。
大森> ありがとうございます。年内……は無理かもしれませんが、来年にはなんとか。 
雀部>  楽しみにお待ちしてます。
 Webで見たのですが、高山先生は様々なペットを飼われたご経験があるそうですが、一番好きというか、一般にはあまり知られてないけど、こいつを飼ったら面白い体験をしたというペットはあるでしょうか。
高山> 今飼っているのは実験用の水棲ガエルなんですけど、独身時代から飼っていて(しかもカエルってことは既に成体)、かれこれ六年を超えているんですがまだ一向に死ぬ気配がなくて、調べたらウシガエルみたいなもので40年くらい生きるのもいるんです。カエルって長生きなんですね。一回、すごい膨れてしまってびっくりしたんですけど、水に塩を入れたら一週間くらいで元に戻りました。
雀部> それはナメクジに塩をかけると死んじゃうのと正反対な事例みたいですね。
 うちの前の用水路にも、ウシガエルが一匹居て、もう十年以上夏になると大変うるさいです。
 最後に現在執筆中の作品、近刊予定がございましたら差し支えない範囲で教えて下さいませ。
高山> うちの庭にもカエル出るんですこの時期。交通量が少ないわけではないので心配しています。作品は……長いのも短いのも書いてはいますが、特に行先はないです。また公募なんかに出そうかなあとは思っていますけれど。もしお目にかかることがあれば、何卒よろしくお願いいたします。
雀部> え、東京創元社から第二弾は出さないのですか。←小浜さ〜ん
 今回は締め切りでお忙しいときにインタビューに応じていただきたいへんありがとうございました。次回作、ぜひ拝見させて下さいませ。

[高山羽根子]
1975年富山県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒。2010年、「うどん キツネつきの」が第1回創元SF短編賞の佳作となる
[大森望]
1961年、高知県生まれ。京都大学文学部文学研究科卒。翻訳家、書評家。責任編集を務めたアンソロジー“書き下ろし日本SFコレクションNOVA”全10巻(河出文庫)で第34回日本SF大賞特別賞、第45回星雲賞自由部門を受賞
[雀部]
アラカンの気まぐれインタビュアー。10年前に比べると仕事のスピードが半分以下になった気がする(汗;)



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