Author Interview
インタビュアー:[雀部]
「ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地」
  • 高木刑著
  • 株式会社ゲンロン
  • kindle版378円
  • 2018.5.17発行

またもや神の子が死んでいる。
 異邦人来訪から約100年を経た17世紀はじめ、地球から遠く離れた不毛の植民惑星。そそりたつ十字架の上で、キリストそっくりの死体が磔になって現れた。

地球・バチカンから派遣された奇跡調査官たちは、次々に信じがたい地異に見舞われる――。

「ラゴス生体都市」
  • トキオ・アマサワ著
  • 株式会社ゲンロン
  • kindle版378円
  • 2018.11.14発行

21世紀半ば、泥沼の9年戦争により破綻寸前に陥ったナイジェリアを救ったのは、「ネオモート」と呼ばれる生体装置を用いてラゴスをアーコロジー「生体都市」へと発展させる措置だった。
 国家存亡の危機は免れたが、格差は拡大、市民の心は生体都市による「ムード制御」の管理下に置かれた。出生も都市に管理され、セックスが禁じられた。
 映画監督ブギ・ナイツはこれに反発、ポルノ映画の製作を始める。「ゲットー」と呼ばれる貧困層がブギに共鳴し、ポルノ映画は社会現象になる。
 政府機関「保全局」によるゲットー粛清が間近に迫る中、保全局のリムーヴァー・アッシュは、政府側に身を置きながらブギ・ナイツと密通し、ゲットーに与する。幻の映像「X-ビデオ」を入手したアッシュは、この映像が人の心を動かし世論をひっくり返す強力なムード喚起力を秘めていると知る――。

「逆数宇宙」
  • 麦原遼著
  • 株式会社ゲンロン
  • kindle版378円
  • 2018.11.14発行

「宇宙の果て」をめざし、ふたりは光の船〈方舟〉で旅立った。
 だが出発から四億年後、〈方舟〉がある惑星に衝突。
 脱出するために、この星の生命が技術文明を築き、〈方舟〉を宇宙へ放出してくれるまで導かなくては……。

『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』
  • 大森望編
  • 早川書房
  • 1600円
  • 2017.4.25発行

2016年4月、書評家・翻訳家・SFアンソロジストの大森望を主任講師にむかえて開講した「ゲンロン 大森望 SF創作講座」。東浩紀、長谷敏司、冲方丁、藤井太洋、宮内悠介、法月綸太郎、新井素子、円城塔、小川一水、山田正紀という第一線の作家陣が、SFとは何か、小説とはいかに書くかを語る豪華講義を採録。各回で実際に与えられた課題と受講生たちの梗概・実作例、大森氏による付録エッセイ「SF作家になる方法」も収録の、超実践的ガイドブック!

『2018 SCI-FIRE』
  • Takahashi Fumiki
  • 1000円
  • 2018.11.25発行

特集名は「ライフハック」——生活を改善するためのライフハックは現在もさまざまなサイズで世の中を流通し、人々の耳目を集めています。そこで、「30世紀のライフハック」みたいなぶっとんだ設定で創作したら面白いんじゃないの? ということから本誌の企画が生まれました。

『2017 SCI-FIRE』PDF版
  • Takahashi Fumiki
  • 500円
  • 2017.11.23発行

ゲンロン主催「大森望 SF創作講座」の第1期受講生が中心となって発足したSF創作誌のPDF版(A5サイズ)です。全208ページの大ボリューム!

雀部  >

今月は、「ゲンロンSF新人賞」が第二回目ということで、大森先生と新人賞を受賞されたトキオ・アマサワ先生と優秀賞を受賞された麦原遼先生に著者インタビューをお願いすることになりました。

大森先生おひさしぶりです。前回は『現代SF1500冊』でしたから、13年ぶりなんですね。

「ゲンロン 大森望 SF創作講座」「アイドル追っかけ」「翻訳業」とご多忙な中ありがとうございます。

最近翻訳業では、『カート・ヴォネガット全短篇 4: 明日も明日もその明日も』や、コニー・ウィリス女史の『クロストーク』等ありました。このお二人は大森先生の訳ですよね。

個人的には、ヴォネガット氏は「SFファンが読んでも面白いSFっぽい作品も書くことのある変な作家(失礼^^;)」。ウィリス女史は、「SFファン以外の人が読んでも面白い本格派SF作家」と感じてますが。

大森  >

どうも、ご無沙汰です。よろしくお願いします。

ヴォネガットは、短篇というと『モンキー・ハウスへようこそ』のイメージしかない人が多いと思いますが、没後に未発表の短篇がどんどん発掘されて、短篇集が何冊も出て、とうとう短篇全集まで刊行されたと。ぜんぶで98篇のうち、生前発表されたのは49篇なんで、亡くなってから短篇の数が倍になったという(笑)。その中でSFは2割くらいですが、むしろ普通小説に面白い作品が多いですね。ミステリやホラーもあって、まとめて読むと、ヴォネガットのイメージが変わると思います。

ウィリスは『航路』以来16年ぶりの現代ものの長篇ですが、一言でいうとSF設定のラブコメですね。主役3人の勤務先が、iPhoneに対抗するスマートフォンの新機種を開発中の携帯電話メーカーということで、けっこう身近な感じで読んでもらえるんじゃないかと思います。

……と、つい話が長くなりましたけど、今回の主役はトキオさんと麦原さんということで。ゲンロンSF創作講座出身者のホープです。 

雀部  >

了解です。

「ゲンロン 大森望 SF創作講座」に関してはWebで参照して下さいということで。

トキオ・アマサワ先生、麦原遼先生、初めまして。よろしくお願いします。

アマサワ>

どうぞよろしくお願いします。

麦原  >

よろしくお願いします<(__)>。

雀部  >

アマサワ先生は、どういう経緯で「ゲンロンSF創作講座」に参加されたのでしょうか。 

アマサワ>

もともと僕は東浩紀さんのファンで、ゲンロンカフェのイベントの熱心なウォッチャーでした。ゲンロンでスクールが始まると知って、地元の滋賀県から上京しました。SFについてはまったくの初心者で、講座のプログラムにどこまでついていけるか不安でしたが、未知の世界に触れたいと思い、また大森先生はじめ講師の方々に自作を講評してもらえるのは大変なことだと思い、申し込みをしました。

雀部  >

滋賀県にいた時には文芸活動はされていたのでしょうか。

アマサワ>

滋賀では長編を一本だけ書きました。

短編はSF創作講座で提出した最初の実作が初短編でした。

小説の執筆を始める時期は人によってかなり違いがあると思うのですが、自分の場合はそこそこ遅かったです。

文芸活動とは少し違うのですが、小説を書き始めるより前から美少女ゲーム・ノベルゲームのシナリオを書く仕事をしていました。このことは小説を書き始めるにあたって良い経験になりました。

雀部  >

ゲームのシナリオを書かれていたんですね。

受賞作の「ラゴス生体都市」はナイジェリアが舞台と言うことで、アフリカぽい雰囲気で異質感がよく出ているように感じました。舞台をナイジェリアにされたのは、どういう狙いがあったのでしょうか。

アマサワ>

アフリカを舞台に決めた理由は二つあって、一つは自身が音楽を中心にブラックカルチャーに興味惹かれていること、もう一つはSF創作講座2期の一年間を通じていくつか異国モノを書き手応えを感じていたことです。

アフリカの中でも特にナイジェリアを選んだ最初のきっかけは、TEDのビデオ「ノリウッド — 今をときめく映画産業」を見たことです。ナイジェリアはアフリカ最大の経済大国で、映画産業はハリウッドを抜いてインドに次ぐ第二位、音楽もアートも非常に盛んです。一方で国家の汚職や腐敗が長らく問題になっていて、例えば国家批判をしたミュージシャンが軍隊に襲撃され死傷者が出るなどの事件も起きている。これらの事柄を下地に、サブカルチャーの熱気と国家の圧政を対立軸にしたディストピアものを作れないかと考えました。

雀部  >

実際に「ノリウッド」って言われているんですね。熱気と疾走感が半端なくて一気に読ませていただきました。異国物といえば「サンギータ」はネパールが舞台ですね。これも異国情緒というか混沌たるアジアの熱気に圧倒されました。個人的には身体改変ものとしてリチャード・コールダー氏と相通じるものを感じましたが、コールダー氏より更にえぐかったです(笑) 短編なので、引き続きその後の世界の変化の様を読みたいです。

アマサワ>

「サンギータ」は、SF創作講座の課題「神がいる世界でのリアルな話を書きなさい」に応答して書いたもので、ネパールの現人神クマリが負う「三十二の条件」を全て揃えると神が出現する、という話です。クマリの条件は例えば「獅子のような胸」、「鹿のような脚」といったもので、本来は達成不可能なものが揃っているのですが、作中では身体改変技術がこれを達成可能にしています。着想にあたりアーサー・C・クラークの「90億の神の御名」からヒントを得ました。

実作を書く上ではネパールの文化・風俗とSFガジェットの親和性が予想以上に高く、良い化学反応が起きたと思います。講座1期2期を通して提出した実作のなかでも特に気に入っているものの一つなので、機会があればあの世界をさらに展開してみたいです。

雀部  >

お待ちしてます!

「90億の神の御名」との類似は確かに感じました。クラーク御大のほうは、あれ以降は続けようが無いんだけど(笑)

「山の海嘯」と「赤羽二十四時」も、舞台こそ大正時代(熊・アイヌ・マタギ)と現代(未来?のコンビニ)と異なりますが、独特のドライブ感とエネルギー感が溢れていてグイグイ来ます。また血(漿液)もドバドバ流れますが不思議と悲壮感はないですよね。

題材が多彩で、どの作品を読んでも面白かったです。「Uh-Oh, 生き馬どものゴールドラッシュ」も、登場するのが実在の企業のイメージという、悪役の方の企業には怒られそうな作品も面白かったです←これもハイテンション。

アマサワ>

ハイテンションな作風は、必ずしも意図している訳ではなくうっかりそうなってしまっている場合がほとんどで、現段階だと恥ずかしながらあまりコントロールできていません。今年の執筆目標は「緩急をつける」、「もうちょっと落ち着く」にします(笑)

作中でやたら血が流れることについては自分でも「なんでだろう」と思っており、目下考え中です。前はホラーや怪奇小説、あとは例えばデヴィッド・リンチあたりの映画が好きなことと関係がある気がしていましたが、最近はもう少し民俗学・文化人類学的な興味なのではないかという気もしています。

雀部  >

第5回日経「星新一賞」グランプリ受賞作のロングバージョン「Final Anchors」は、「サリーは恋人」や「お紺昇天」のようなAI自動車ものを思わせる導入から、いやいや「方程式」ものなのかと思う展開を見せ、なんとこちら側に着地だったと楽しめました。

実は、八島先生の創元SF短編賞受賞作の「天駆せよ法勝寺」と高木先生のゲンロンSF新人賞受賞作「ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地」(もう一つ中里友香先生のキリスト教の神と吸血鬼が題材の『黒十字サナトリウム』)をほぼ同時期に読んだのでより一層楽しめました。

高木刑先生の「西中之島の昆虫たち」は石黒達昌先生を彷彿とさせる研究論文的なコメントが入ったクールな短編に思えましたし、二進法で会話する動物たちの冒険「キッド・ラクーンの最期」もスタイリッシュに感じました。

創元SF短編賞やゲンロンSF新人賞等を読ませていただくと、SFマガジンが隔月刊になった後でも、多種多彩な才能ある作家の方が育っているなあと感じるのですが、マーケット的にはどうなんでしょうか?

SF的な作品(マンガアニメ映像を含む)は増えていると思うのですが、SF小説自体の勢いはよく分かりません。

SFは、論理的な思考(ミステリも同じですが)と、少しだけの科学知識があるとより楽しめる分野だと思うのですが、やはりハードルは高いのですかねぇ。

大森  >

日本SFはいまどんどん有望な新人が出ていますし、宮内悠介さん、小川哲さん、高山羽根子さんなんかの活躍もあって、出版業界全体の中でも注目度が飛躍的に高まっていますね。マーケット的にも、固定読者がついているジャンルなので、SFの企画が通りやすい状況にはなっていると思います。

電子出版や文学フリマの定着もあって、紙の本の商業出版以外にも、発表ルートは増えていますね。SF創作講座の元受講生が出している同人誌『SCI-FIRE』もそうですが。これはお二人も寄稿してますね。

雀部  >

注目度上昇中なんですか。それは嬉しい驚きです。

その同人誌『2018 SCI-FIRE』掲載の「竜頭」は、視点をずらすとよく知った物が全く別の顔を見せるというSFでもよく使われる手法で描かれていて、「すばる」誌あたりに掲載されてもおかしくないちょっと怖い作品でした。SFぽさはあまり感じなかったんですが、そこらあたりは意識して書かれたのでしょうか。

アマサワ>

「竜頭」では、SF創作講座提出作の題材が外へ外へ広がっていったのとは反対に、SF的なアプローチにあまりとらわれず、自己の内側に潜ってみようと考えました。舞台は滋賀の地元の町で、問題設定としても実際の個人的葛藤をナマに近い形でごろっと転がした上でこれと取っ組み合いをしました。そのためこの小説は、リアルワールドの経験をアレンジ・編集したもの、という側面が強くあるかもしれません。

雀部  >

なるほど、バラード氏のインナースペース的な感覚ですね。

麦原先生は、どういった経緯で「ゲンロンSF創作講座」に参加されようと思われたのですか。

麦原  >

しばらく一人で小説を書いていたのですが、この先の方向性を考えたい、等々思うようになり、2016年の秋ごろだったでしょうか、当時第1期が開講中だったこの講座のことを知りました。

トキオさんが言われているように、自作を講評してもらえるというのは大きいことでした。また、ウェブ公開されていた参加者の方々の小説を読み、参加したいという思いが強くなりました。

競い合うということなどへのハラハラを凌ぐ魅力で、ドキドキしていました。

雀部  >

講座に参加されると何か触媒作用のような事が生じて、作風とか物語作りに変化が生ずるのではないかと想像しているのですが、どうでしょう?

麦原  >

そうですね。書くときに色々な視点が増えました。

それと、自分の場合は、そもそも意識してSFを書くのが初めてだったので、変化というか……もうよくわからないレベルで作風について新規開拓された気がします。

雀部  >

ありがとうございます。

アマサワ先生はどうでしょうか。

アマサワ>

「毎月提示されるお題に沿って〆切までに書く」という講座のシステム自体が、変化を生むための触媒として機能しているように思います。例えば「〆切に間に合わせるためにとにかくまず書き切らないと」とゴールもわからず書いていると時々全然想定してなかった変な場所にたどり着いたりします(これはとても気持ちがいいです)。

また講座生同士の相互作用も大きいと感じます。めいめい多彩で向いている方向も一見様々だが、やっぱりつながっている部分もあって、裏でみんなして変なでかい生き物を育てている、という感じがします。

雀部  >

やはり一人で書いていては得られないものがあるようですね。

ところで、麦原先生は、SFはお好きなのでしょうか。

麦原  >

SFについては、講座受講前は、あまり読んでいないという自覚があって、好きだと自分から話すのをためらっていました。今でも多く読んでいるとは言えないのですが、SFは大切です。特別な出会いをしてきました。

SFにも多面的な魅力があると思いますが、強く感じた二点について、以下、しゃべります。(すべてのSFが当てはまるわけではないかもしれません)

まず、個人的に、SFは、最も情緒にくることのあるジャンルの一つだと思っています。狂おしさのような。

時間的彼方、空間的彼方、思考的彼方について描かれていることが、その必然性で迫ってくる。存在自体を懸けている感じです。荒々しくでも馬鹿馬鹿しくでも、やってくる。野蛮なところ(後天的にインストールした社会モジュールを剥がしたところ)を刺激します。

また、SFには、可能性の楽しさを覚えます。

自分にとって、それは飢えや理不尽さ、悔しさとリンクしているかもしれません。世界はもっと自由であるはずだ、世界には色々な可能性があるはずだ、っていう。

この両面というのが、収束と発散みたいな感じなのかもしれません。論理的唯一的に来るための情緒と、可能性の発散でロジックの遊びを行う面。あるいは、突き詰めるからこそ遊ぶことになるのかもと思えますが。

SFについてしゃべると家の庭から無敵のシャベルで土を掘る感じで地球が掘りつくされるまで続くかもですね。掘り出された地球は地球なんでしょうか。

雀部  >

たぶん、地球を掘る人の数だけ地球があるのではないかと……

受賞作の「 逆数宇宙/the Reciprocal Universe」は、冒頭からしてかっこいい数理系SFだなとという印象を受けました。大森先生は、ベイリー氏やイーガン氏を引き合いに出されてますが、私が最初に想起したのは、石原藤夫先生の『宇宙船オロモルフ号の冒険』でした。

あと、お名前の「遼」を「りょう」と読んでいたので、後書きで「はるか」と読むんだと気がついて(恥;) そういえば、第一回創元SF短編賞の「松崎有理」さんも最初男性だと思っていたんです(汗;)

麦原  >

ありがとうございます。名前はどう読んでいただいてもOKです! 自分でも一つに決めておりません。(実のところ、作品ごとに作者を設定したいと思ってもいました)

雀部  >

あらま、そうなんですか。

ともかく数学系のSFを書かれる作家の方は貴重なのでとても嬉しいということを言いたかっただけなのですが、数理系SFを書かれるにあたってのご苦労とかおありでしょうか。

麦原  >

そうですね、数理系のSFを書くとき、どうも、ロジックを考えるモードと、登場人物のことを思い執筆をするモードが、分かれていると思ったことがあります。

両方であまりに話が通じない(そのモードで書いたものをお互い読むと、日本語はわかるけれどピンと来る感じが違う)ので、文通のようなことをしていました。

ノートに、「意味がよくわかんなくてもこのことを(作中で)説明して」とか、「展開的にこういう舞台が必要そうだから考えて」とかいったことを書いておいて、モードを切り替えてから相手が読む感じ。

ただ、それは、アイデアとテーマの噛み合わせの問題かもしれず、そこが変われば、なんか解決策が出てくるのかもしれません。そしてそこは解決しても、大変なことがHeyと出てくるかもしれません。

雀部  >

あ、そこんとこ読んでいてちょっと感じてました。「循環螺旋の浜辺より」は梗概の最後に“数学の定理や公式になった気分で読んでもらえたら、うれしいです。”とあったので読んでみたら、定理や公式にはなれなかったけど、なんか凄いことが起こっている感じがあってワクワクしました。『宇宙船オロモルフ号の冒険』の戦闘シーンとか、円城塔先生の作品に繋がる“よくわからないけど、凄いぞ”感です(汗;)

麦原  >

ありがとうございます。(見抜かれていた)

『宇宙船オロモルフ号の冒険』は読んでいて随所で笑ってしまったのですが、ガジェットの扱い方にもしかしたら共通点があるのかもしれません。

円城塔先生の作品は、読んでいると、やはり、頭の芯で笑う箇所があります。『宇宙船オロモルフ号の冒険』のときが外的な笑いなら、内的な笑いというか。

雀部  >

麦原先生は本質的なところでは円城先生と似てらっしゃる感じを受けました。

それと、石原先生は「惑星シリーズ」というユーモア系のドタバタハードSFも書かれてますからね。

麦原  >

そうでした。「循環螺旋の浜辺より」の件について話しますと、当時の自分の素が一番出ている作品だと思います。

記憶が曖昧なのですが、物理学的世界観から数学的世界観を離脱させて描きたいというようなことも考えていたかも。

想像しうる世界について想像することが、なんというか、我々にとっての「我々であること」の楽しみかもしれないなと思うのです。

例えば光速度が違う以前に光がないとか、座標系が違う——そもそも自然界の理論を打ち立てる空間が有限次元のユークリッド空間と局所的にも同じようでない、いや、そもそも世界の叙述法がこういう空間概念ではない、云々……。

とにかく、考えることが可能なものであればありだと。というと「存在する」みたいに既存宇宙と(時間的に)並立して(いるみたいに)語られかねませんが、この時点で、たとえば時間というものだって特殊なひとつの次元としての存在はしていないかもしれない。べつになくてもいい。別の存在で類似したものがあるかもしれない。って感じ。

雀部  >

そういう本来は書けない(想像すら出来ない)世界の話を構築するというのは凄くワクワクしますよね。

麦原  >

とはいえあの作品では、語り手を人格的存在にするべく、昔ホモ・サピエンスにより人格付与された定理が繁殖させられた、という歴史的イベントが入っています。

と、読み返したら序盤がまだるっこしく……どうにかしたいとも思ったりしました。

雀部  >

定理が繁殖させられたのか。ブリン氏の作品にイメージ的にちょっとだけ似た世界のシーンが出てきたような気がします。

あと、『2018 SCI-FIRE』掲載の「GかBか(ガール・オア・ボーイ)」の着想はちょっと凄いですね。『宇宙消失』が“観測者に対するシュレディンガーの猫の反撃”だとするなら、「GかBか(ガール・オア・ボーイ)」は、もう一ひねりして“シュレディンガーの猫の状態を知ることが、観測者の生死を左右するとしたら”という思考実験ですよね。

うう〜ん、宇宙規模で扱った「GかBか(ガール・オア・ボーイ)」アイデアの長編を読みたいです。

麦原  >

そのように読んでいただけるとは、大変ありがたく思います。

自分ではある日思いついたことを書いたという感じで(汗)。

執筆時は、オタクカルチャーとの融合とかについて考えていました。

雀部  >

なんとオタクカルチャーとの融合とは。そうなんですか←分かってない(汗;)

あと、麦原先生の短編では"生きた歩く家"が主題の「家の人」もお薦めです。これは数学成分少なめですが、意識して作風を変えられたのでしょうか?

麦原  >

なるべく色々なことにチャレンジしたいと思っていました。結果的に作風も変わっているのかもしれません。

雀部  >

課題があるので連作短編みたいなのは出来にくいですよね。

最後に「ゲンロン 大森望 SF創作講座」掲載の短編で、これは大推薦できるとか私はこれが一番好きだという短編があれば教えて下さいませ。

各課題で一番得点を獲得した短編は当然なのでしょうが。

大森  >

「これが一番」というのはむずかしいんですが、トキオ・アマサワさんだと、ファミリーマート赤羽西六丁目店が野生化してセブンイレブン蓮沼アスリート通り店を襲う「赤羽二十四時」、麦原遼さんだと、銀行の社内SEをリストラされて地方の実家に戻った朱実が新たな物々交換サービスを立ち上げる「電脳に餓鬼はふたたび死ぬ」あたりが読みやすくて面白いんじゃないでしょうか。どちらも日本が舞台なので、ゲンロンSF新人賞の作品とはかなり趣が違います。

もうすぐ大詰めの第3期では、ものすごく個性的でぶっとんだ作品が目立ちますね。琴柱遥(ことじ・はるか)さんの「四国狸の化して恐竜となる話」とか、谷美里さんの「手ぶくろをはめたチェリスト」とか。SFらしいSFが読みたい人には、斧田小夜さんの「フィオナの空、ロアの海」がおすすめです。

アマサワ>

好きな作品がいくつもあり、タイミングが違えばまた別の作品を推すかもしれませんが、今日の気持ちで以下を推薦します。

3期では死後の世界の天文台勤めの男が雲に乗って月を目指す小野十郎さんの「おむかえの距離」。エレガントでユーモラス、またラストには静謐なカタルシスがあり、あまり味わったことのない珍しい読後感を味わいました。

2期では月の地中に詰まった肉を掘り出して像を造る彫肉師《シェイパー》の師弟の物語、神津キリカさんの「肉月」がいちおしです。グロテスクで秀麗なイマジネーションと和的な無常観に酔うことができ、素晴らしいです。

1期では高木刑の全作品です。多大な刺激と影響を受けました。今でも憧れています。

麦原  >

高木刑さんは、たとえば「コランポーの王は死んだ」も「チコとヨハンナの太陽」も、歴史とSFの融合が烈しく格好いい。

コランポーはシートンとXXXXですし、「チコとヨハンナの太陽」は天文学。

そう。ヨハネス・ケプラーの雇い主でもあった天文学者ティコ・ブラーエは、決闘で鼻を削がれて金属の義鼻をつけていたらしいのですが、「チコとヨハンナの太陽」では「チコ」と「ヨハンナ」という二人の「先生」なる人物が義鼻をつけているのですよね。あとブラーエの死因で議論された部分も展開とリンクしていたり……。こういったアレンジにしても格好いい。

トキオ・アマサワさんは「Uh-Oh, 生き馬どものゴールドラッシュ」という企業擬人化アメリカンバトルものも腹筋に来ます。固有名詞。

また中編でしたら最終課題もおすすめです。第1期第2期

それと、今思い出した範囲でとはなりますが、2期で印象的だった作品をいくつか挙げます。

朱谷十七さん「笹舟渡し」笹舟が川を渡っていくという静かな話。

高丘 哲次さん「17と13」素数ゼミになった少年少女の青春。他にも、ファンタジーの世界の中を通る歴史に関するような作品を書かれています。

甘木 零さん「わざとまちがえてみました」6年過ごすたび12年巻き戻るという年の取り方をした俳優の一生。他作品でもざらざらした人間を描かれていました。

ティウ・モーデンさん「マドレーヌ・トイレット」トイレといじめ。なぜか印象に残っています。

鵜川 龍史さん「味の彼方へ」平成のジャンル分けでいうなら硬派なライトノベルなのかもしれない。ジュブナイルではなくて、諦観の前に何かを求めたいという。

菊地 和広さん「書き込まれた女」その世界観の展開をみたい、物理との摩擦のうえで火をみたいと思いました。

沖田正誤(ロバ)さん「処刑台のセヴンティ」平成。長い平成。

架旗 透 (かはた とおる)さん「バイオ総武線フライ」(梗概のみ)

ゲンロンのウェブサイトには色々な作品が公開されています。どこかでYour Favoriteがみつかるかもしれません。応援してくださればと存じます。

雀部  >

それは確かに。同じ作者でも、作品によって題材と構成が違いますし、まして作者が異なれば、さらにバラエティに富んで来るので、探せばどこかで趣味に合致した作品があるのではないかと思います。

皆様、今回はお忙しいところご協力いただきありがとうございました。

あと、かまわなければ、現在執筆されている著作、また電子出版を含む出版予定がありましたらお教え下さいませ。

アマサワ>

こちらこそありがとうございました。

実はここしばらくスランプ気味で書けておらず、少々悩み中です。

講座が終わったことで課題に応えなければいけない制約がなくなりましたが、これは同時に自転車の補助輪を取るようなことでもあったのだと感じています。自分に何が書けるのか、何が書きたいのかをこの機会にじっくり見つめ直して、然る後に書きまくりたいと思います。

雀部  >

どこかの出版社の編集から締め切りをきられての執筆依頼が来ると燃えますよね!!

麦原  >

こちらこそありがとうございます。

測度論、というか、面積というか体積というかを題材にした話を書いています。

1シーンもののつもりなのですが、構想が二転三転するかも。です。

よろしくお願いいたします。

雀部  >

またとっても変な話を構想されてますね。楽しみです(笑)←褒めてます!!

[高木刑]
1982年生。<ゲンロン 大森望 SF創作講座>第1期を受講し、最優秀賞にあたる「第1回ゲンロンSF新人賞」を受賞。大森望編『SFの書き方』(早川書房)に短篇「コランポーの王は死んだ」が掲載された。
https://school.genron.co.jp/works/sf/2016/students/chimpsha/
[トキオ・アマサワ]
<ゲンロン 大森望 SF創作講座>第1期、第2期を受講し、第2期の最優秀賞にあたる「第2回ゲンロンSF新人賞」を受賞。
https://school.genron.co.jp/works/sf/2016/students/obakeguitar/
https://school.genron.co.jp/works/sf/2017/students/obakeguitar/
[麦原遼]
1991年生。<ゲンロン 大森望 SF創作講座>第2期を受講し、「第2回ゲンロンSF新人賞」で優秀賞を受賞。
https://school.genron.co.jp/works/sf/2017/students/mhrx/
[雀部]
堀晃先生主催の同人誌<ソリトン>元同人。そもそも「アニマ・ソラリス」はソリトンの同人が中心になって創刊されたのでした。