Author Interview
インタビュアー:[雀部]
『乙女文藝ハッカソン(1)』
  • 山田しいた著
  • 講談社コミックDAYSコミックス
  • kindle版648円
  • 2018.11.14発行

作家志望の安達倉麻紀が入学した地方大学の文藝部は、ちょっと変わった先輩たちの巣窟だった(笑) そこに既に文学賞を獲りデビューした新入生“焚”が加わり、文芸に特化した大学寮生活が始まる。

『乙女文藝ハッカソン(2)』
  • 山田しいた著
  • 講談社コミックDAYSコミックス
  • kindle版648円
  • 2019.4.10発行

大学の准教授を審判として、ハッカソン前の小手調べに、麻紀たちと焚のミニ・ハッカソンバトルが始まる。果たして高評価を受けるのはどちらだ!?

『乙女文藝ハッカソン(3)』
  • 山田しいた著
  • 講談社コミックDAYSコミックス
  • kindle版648円
  • 2019.7.10発行

チームで一日のうちに5万字の小説を書きあげる過酷な名物行事「文藝ハッカソン」の予選。はたして主人公のチームは予選を制することができるのであろうか!

「残業警察」
  • 山田しいた著
  • Kindleインディーズマンガ
  • 0円

残業が犯罪となった近未来の日本。今日も残業をせざるを得なくなった会社があった!

「DIYベイビー」
  • 山田しいた著/小野寺ひかり編集/山家由希デザイン・編集
  • NPO法人日本独立作家同盟
  • kindle版216円
  • 2018.2.15発行
  • NovelJam2018【米光一成賞】受賞作品

ブラックマーケットから通販で購入した精子と卵子と培養液。着床率は相当低いものの、体外で人口受精児を生み出すことは不可能では無かった!

『2018 SCI-FIRE』
  • Takahashi Fumiki
  • 1000円
  • 2018.11.25発行
  • 「《乙女文藝ハッカソン》発売記念 山田しいたインタビュー」掲載誌
雀部 >

今回の著者インタビューは、今年になって連続して著者インタビューをお願いしている「ゲンロン 大森望 SF創作講座」受講生の皆様方のなかで、早くから著作が書籍化されたお一人で先日《乙女文藝ハッカソン》シリーズ全3巻が完結された山田しいた先生にお話をうかがうことになりました。

山田先生初めまして。よろしくお願いします。

山田 >

よろしくお願いします。なるほどそういう経緯があったんですね。インタビューの順番はどのように決めたのですか?

雀部 >

《乙女文藝ハッカソン》は、そもそも“ハッカソン”というものがよく分からず、Webで検索したり、知り合いの元社員の人に聞いたりしました。このマンガの面白さは、ひとつにはこの“ハッカソン”と大学の文芸部(とリレー小説)の組み合わせにあると感じたのですが、このアイデアはどういうところから思いつかれたのでしょうか。

山田 >

(インタビューの質問が流されてしまったぞ……)

もともとシステムエンジニアでIT系のネタは好きなのでハッカソン自体は知っていて題材にできないか考えておりました。

ただエンジニアリング自体を題材にして共感を得つつ面白い物語にするにはエンジニアリングもストーリーテリングも力不足と感じました。

エンジニアリングはともかくストーリーテリングの力不足解消のため物語論の勉強を始めたら、それ自体が面白く、企画の題材にできそうと感じました。

同時に当時SF創作講座で企画コンペの悲喜こもごもを体験して、創作コンペが人間ドラマの題材になりそうと思いました。

創作コンペを題材とするクリエイターものをやる際に、作家キャラ一人で悶々と悩んでいると漫画として成り立たないので、ホームズに対するワトソンのような、相談役が欲しいと感じました。

また、対立構造・キャラ同士の物理的な距離の近さ・実現できそうで難しいぐらいのリアリティ、などがエンタメとして欲しいと思いました。

それらを押し込めるのにハッカソンが都合が良かった、そのような経緯です。

雀部 >

その試みが見事にはまったわけですね。

どんな話になるんだろうと読み進めていくと、「麻紀ちゃんと一緒に1冊選んでみよう!」のページではまりました。リストにある9冊、“お主出来るな”と(笑)

ミステリとSF(ファンタジー)要素を併せ持った有名作品ということで良いでしょうか。

私ならこれを入れたいけど、これなんかは若い子は知らないだろうなとか、次ページの勧誘理由を考えたりしたら一日つぶせますね。

この9冊を選ばれたのにはどういった基準があったのでしょうか(無かった?)

山田 >

思い返すとヒヤヒヤしながら選んだのですが、「世にある無数の名作の中でなぜこれを?」という説明ができる作品を、国内外の文学賞やメディア化など対外的な評価と個人的な思い入れを含めてまず考えました。

「麻紀ちゃんと一緒に1冊選んでみよう!」のページの前でどういう文芸部が存在しているか前フリをしていたのもあり、純文学・歴史・怪奇・ティーンズ・幻想・海外・恋愛・ミステリ ・児童、などの作品を、本来は各ジャンルに属しつつSFともミステリとも結び付けて語るロジックを作れる作品をその上で考えました。

入れたかったけど事情により泣く泣く除いた作品もありました。

「現代の女子大生の選書ではない」という指摘を受けることもありますが、なるべく「このキャラなら読んでいそう」という作品にしたつもりですし、逆に言うとキャラの読書傾向から人格形成が決まったシーンでもあります。

雀部 >

確かに、世代間のギャップは相当ありそうですね。

うちのカミさんは、女子大出の国文科出で寮住まいだったので読ませてみたのですが、画の感じは好きだけど、ミステリーと一般文芸以外はわからんかったようです。女子寮あるあるは、色々教えてくれました(笑)

私も最近の読書傾向は、マンガ>SF>アニメ>時代小説>ミステリー>ノンフィクションなんですけど(汗;)

山田 >

なるほど。

雀部 >

マンガを読むのが一番楽なんで(汗;)

うちには石ノ森章太郎先生の《マンガ日本の歴史》全集があって、息子たちはそれを読んで育ったんで、日本史だけは得意だったです(笑)

《乙女文藝ハッカソン》は、小説の創作方法がマンガでわかる。私なんかは、わかった気になるだけですが(汗;) 作中で披露されている創作時の「ライフハック」は、ご自身の体験に基づいたものなのでしょうか。

山田 >

はい、自分の体験も多いです。

創作活動はもちろん、システムエンジニアのときの業務や同人活動における合同誌作成などの集団作業で感じた体感なども混ざっていると思います。

ただそもそも、私は集団執筆をやったことがありませんし、小説は素人芸です。

そちらは文書や取材により知見をいただき考えたり、想像や憧れを織り交ぜています。

そんな訳で「ありえない」と見向きもされないことは覚悟していたのですが、プロの文筆家の方々からの好意的な感想を初めてお見掛けしたときは、恥ずかしながら驚きました。

雀部 >

たぶん本質を突いているのではないかと。

2017マンガ大賞を受賞し映画化もされた『響 〜小説家になる方法〜』(『スペリオール』誌連載)は、女子高生が出版業界で無双(芥川賞と直木賞をダブル受賞したり)する話ですが、小説の書き方は書いてないです。小説を書くに当たってさほど努力をしているようにも見えないし(笑)

『響』がこれだけ売れているということは色々あるのでしょうが、小説家になりたい人、なりたかった人、または作家という職業に興味がある人がけっこういらっしゃるんだと思います。

また、音楽理論とか少し勉強すると音楽の聴き方が広がったりしますが、同じように小説の書き方のイロハが分かってくると、小説の読み方が広がり楽しみも増える気がします。そういう面からも《乙女文藝ハッカソン》は、SF・ミステリファンだけでなく、読書が好きな一般の方にもお薦めできるのではないかと。

山田 >

ありがとうございます。

音楽の方が理論として体系化している印象があるので、並行して調べたかったのですが時間が足りませんでした。

雀部 >

当然考えられていたんですね。続編があるならぜひその線で!

あと、《乙女文藝ハッカソン》は、何気にスポ根マンガ要素を入れられてませんか? まあ、そこが面白いんですけど。

山田 >

スポ根はあまり先行作としてチェックしたものはありませんでした。

審査競技ということもありどちらかというと料理漫画を意識しています。

女川准教授という審査員キャラクターがそれを体現していて、実作のオーバーリアクションと考察をしてくれて、実在しない劇中作を「読んでみたい」と思ってもらえるよう働きかける役割を担っていただいています。

雀部 >

なんと料理漫画のほうでしたか(汗;) そういわれれば確かにあの准教授氏は、グルメ評論家としても通りそうですね。

チームでバトルするから、これはジャンプ路線かなと思いました(笑)

それと、劇中劇というか、マンガの中で創作されるマンガ面白いですね(ショートショートを短いマンガに仕立てている)。カミさんもこちらは笑い転げていました(笑)

読者から、こちらも長いバージョンを書いて欲しいという要望はないのでしょうか?

山田 >

ありがとうございます。エゴサ—チしていて稀にお見掛けすることはありますね。

雀部 >

アイデアと効率の部分からいうと、短い作品より長い作品の方が物語を作る上では効率が良い気がするので、大変だったと思います。

ゲンロンSF創作講座の受講生ではマンガ家志望の方は少数派だったと思いますが感覚の違いのようなものは、感じられましたか?

山田 >

その頃は投稿時代だったので漫画は32Pでまとめることを目安にしておりました。

ゲンロンSF創作講座の実作は2万字の小説です。

漫画32Pは小説2万字に対して語れることが少なく、分量感というか設定の風呂敷の広げ方に違いを感じました。
雀部 >

2万字の短編と32Pのマンガではさすがに語れる分量が違いますよね。

一般的なサイズ(マンガは週刊少年誌サイズで、小説は単行本サイズ)で同じページ数だとどちらの方が語れることは多いと思われますか。

山田 >

個人的な体感だと漫画だと思います。早い場面描写が得意なメディアなので。ただ描写や演出にもよるし、漫画表現の方が得意な私の意見菜のでちょっとアンフェアな意見かもしれません。

ちなみに、ゲンロンSF創作講座のときの20,000字(50P程度)の小説で書くつもりだった1,200字梗概(2〜3P)は28〜32Pの漫画になりました。

NovelJam の3,000字(8P程度)の小説は漫画にしてみたら4Pでまとめられました。

小説の文字数に対するページ数はページあたり40字×17行×2/3(改行による密度減少)という計算です

雀部 >

ページ数だと、マンガが小説のだいたい半分強くらいにあたるんですね。ありがとうございます、永年の疑問が一つ氷解しました。

山田先生の「DIYベイビー」は「NovelJam」の成果だと思いますが、ブラックな感じがたまりませんね。「NovelJam」は、いわゆる「小説ハッカソン」的なイベントだとトップページに書いてありますが、次回はマンガ家としての参加はアリなのでしょうか?

山田 >

漫画と小説の分量感の差は先に申し上げた通り演出や描写により変わってきますので(わりと極端な)一例として見ていただければと思います。

「NovelJam」というイベントは、私が参加した際は「参加者が物理的に一つの場所に集い、生活時間を含めて約40時間で3,000〜10,000字の掌編小説を、デザイナーおよび編集者ロールの人と組んで、電子書籍として出版・販売し、プロモーション含めて成果を競う」というレギュレーションのものでした。

このレギュレーションにおいて、字数をセリフの文字数とし、カテゴリを「ビジュアルノベル(欧米圏のコミックのカテゴリ)」とこじつけて横紙破りの成果物、漫画を提出しようかと参加時に少し考えもしましたがやめました。まず普通に間に合いそうにありませんでしたし、参加には「乙女文藝ハッカソン」における小説執筆の取材という目的もあったのですがそこから外れますし、仮に漫画を成果物として受理していただけたとしてもただただ突飛なだけで別に面白くもなんともないからです。なので「NovelJam」にマンガ家として(漫画を提出することを前提にして)参加することはないと思います。仮に「ComicJam」のようなイベントが開催されたとしたらその時考えます。

この記事の公開時期によっては空振りになるお知らせですが2019年11月2〜3日に「NovelJam」の第四回が行われるそうなのでご注目ください。レギュレーションは変わるので都度公式サイトを確認いただければ幸いです。

雀部 >

おっと、なんとか間に合うかな。

「ComicJam」も面白そうですね。現場で見てみたい。

電子書籍については、どうお考えでしょうか。場所をとらないのは当然として、私は老眼なものでして50インチと65インチのTVをモニターとして使ってます。3mくらい離れて見ると丁度よい加減なのです(汗;)

山田 >

わたしも電子書籍は好きです。

5.5インチのiPhone と12.9インチのiPad Pro で読んでいます。30センチくらい離して読みます。

雀部 >

『SCI-FIRE 2018』のインタビュー記事で、マンガを読むときの読者の目線の速度を意識されていると発言されていて、えっそこまで考えて書かれているんだと感じ入ったのですが、これは電子書籍の場合でも同じでしょうか。

小説だと、画面サイズ・フォントの大きさによって違うと考えられますが。

山田 >

漫画のハウツーでよく俎上に上がる目線誘導や吹き出し内の文字数の話題ですね。多くの漫画家さんは意識的にせよ無意識的にせよやられている気がします。上手くできているかはわかりませんが私も心がけています。

漫画の電子書籍に関しては、拡大縮小を伴う場合は読み味を損なってしまうリスクがありますね。ディスプレイサイズ、その中でもスマホビューは、漫画家さんや編集者さんと話していて割とよく上がる話題なので、皆さん意識されていると思います。「乙女文藝ハッカソン」はそもそもウェブ連載だったのでスマホビューを前提にして、見開きはなくフォントもコマもそこそこ大きめにしたつもりです。雑誌連載だったらまた違った描き方になっていたと思います。

雀部 >

元々スマホビューが前提だったんですね。

実はマンガは雑誌掲載時にしか読まないので、週刊誌サイズが一番読みやすい。でも単行本は息子たちのとカミさんのものがけっこうあったりします(汗;)

掲載されていた『コミックDAYS』、ヤバイですね。知りませんでした、読み切れない量のマンガがある。はまると無料のものだけでも凄いことに。ホント困りますね(汗;)

山田 >

発信する側としてもコンテンツ溢れは「埋もれてしまう」という困った面もあります。知ってもらえる努力はするつもりですが、作家読み・掲載媒体読み・レビュアー読み、ストレスなく楽しめる読み方をしていただければと思います。

雀部 >

埋もれてしまうというのは凄く切実な問題ですよね。そういうこともあって、最近は著者自ら、TwitterとかFaceBookとかで情報発信することが求められてますし。

「残業警察」は、落ちの前段が効いていて読後感がとても良かったです。“Kindleインディーズマンガ”として電子出版されているので、読むのは無料なんですね。これも知らなかった(汗;)

山田 >

Kindle インディーズは、Amazon の電子書籍自費出版サービスKDP(Kindle Direct Publishing)の1カテゴリですね。正直あまり知られていないサービスなので見つけていただけてありがたいです。2019年8月現在では、読まれた量に対して独自の基金から分配という形でAmazonから支払いがあるため、ダウンロードは無料ですが作者に還元があります。今後の動向と漫画業界への影響が気になるところです。

「残業警察」は2018年9月頃に描いていた読切なのですが、あと数ページで脱稿という頃にDAYSさんにお声がけいただけて連載企画(乙女文藝ハッカソン)に集中するため執筆を中断したものでした。

出来が気に入っていたのですが、初商業作品連載中なのにどこかのコンペに出すのもいろんな意味でダメな気がしました。後ろ倒しにするほどに絵が古くなっていくので、どこか早く発表できる媒体はないものかなとTwitter でぼやいたら、友だちの作家さんがKindleインディーズを教えてくれたのでそこで発表しようと思いました。

残りの課題は未完成部分でした。2019年正月のタイミングで「乙女文藝ハッカソン」を作家陣のローテーション休暇のようなもので一度休載することになりました。時間ができたので、作画スタッフさんに手伝ってもらいつつ発表できました。こうして雀部さん含めいろんな方に読んでいただけてとても嬉しいです。

雀部 >

掲載時、結構人気があったみたいですね(以下の“note”に情報あり)

山田しいた先生のマンガは、“note”にまとめられていて、賞を獲られたマンガも読むことが出来ます。「孤島のシエラ」好きです!

山田 >

ありがとうございます。汗顔の至りです。。

note は最近あまり上手く使いこなせていないので使い方を考えたいものです。

「孤島のシエラ」はAmazonの飛行船倉庫の記事を読んでなにか描けないかと思ったのですが、クライマックスに向けて前フリを積み上げていくのが上手く行かず、コンペでも勝てそうにないのでお蔵入りしてしまったものでした。そのように言っていただけてとても嬉しいです。

雀部 >
Amazonという現代を代表する巨大企業と、どこかアナログな懐かしい感じのするロボットの対比がほのぼのとしていてとても良い味出てます。
最後に、本筋とは全然関係ないうえに、もうどこかで言及されているのかもしれませんが、ペンネームの「しいた」はラピュタのシータからとられたとかは?
山田 >

いいえ。高校時代のあだ名からです。

シータ王妃のせいもあってかよく女性に間違えられます。

雀部 >

間違えるところでした(笑)

今回はお忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。

Webや電子出版でマンガが現在どうなっているか知ることも出来てもの凄く有意義でした。《乙女文藝ハッカソン》の続編(本戦?or大学対抗戦)も楽しみにしております。

山田 >

こちらこそありがとうございます。

ところでなんで最初の質問は流されたんですか?

雀部 >

あれっ、そうでしたっけ(すっとぼけ)

インタビュー順にはもの凄い隠された秘密があるので後で私信でお知らせします :-)

[山田しいた]
漫画家で候。連載歴「乙女文藝ハッカソン」(コミックDAYS、全3巻)。最近は中華ITが好き。twitter.com/yamada_theta。
[雀部]
考えてみたら、マンガ週刊誌は一週間に10冊強(隔週刊を含む)読んでる。しかし週刊誌しか読まないので、最近のマンガ業界の事情には全く疎かったと思い知った(汗;)