Author Interview
インタビュアー:[雀部]
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『鍬ヶ崎心中 幕末宮古湾海戦異聞』
  • 平谷美樹著/横山明装画
  • 2021.5.12発行
  • 836円
  • 小学館eBooks(Kindle版)
 明治時代の幕開け、幕府の再興を信じて闘う名も無き多くの若者たちが血を流していた。年期明けを前にした盛岡藩宮古鍬ヶ崎の女郎・千代菊は、主の弥右衛門からまだ借金が三両残っていると聞かされ気持ちが沈んでいた。そんな時、店に佐幕派の榎本武揚に連れられて足が不自由な青年・七戸和磨がやってくる。宮古に残り絵図を作る使命という体の良い厄介払いをされた和磨と、そんな男にいつしか想いを寄せるようになる千代菊。
 函館戦争の行方を決定づけたと言われ、日本で最初の本格的な海戦とも言われている宮古湾海戦を通して語られる二人の運命は……

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『幕末梁山泊 口入屋賢之丞、江戸を奔る』
  • 平谷美樹著/宮川雄一装画
  • 双葉文庫
  • 741円
  • 2018.2.18発行

    麻布谷町の山吹屋。そこは主の賢之丞の差配で、様々な求めに応じて人を斡旋する口入屋だ。武家や商家、普請場など斡旋先は多岐に亙るが、時に怪しげな依頼も混じってくる。花火師と猟師と鉄砲鍛冶を揃えてくれという浪人にきな臭さを感じた賢之丞は、読売屋や女郎、忍など多彩な仲間たちとともに、幕末の江戸を揺るがす陰謀に立ち向かう!

『幕末梁山泊 口入屋賢之丞、江戸を奔る』
『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び(上巻)』『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び(上巻』
『伊達藩黒脛巾組 独眼竜の忍び(上・下)』
  • 平谷美樹著/安里英晴装画
  • 富士見新時代小説文庫
  • 上巻620円、下巻600円
  • 2015.12.20発行

天正十八年、豊臣秀吉から減封処分を受けた伊達政宗を陥れようと、徳川家康は配下の伊賀忍者を奥州へと差し向けた。家康の動きを察知した政宗は、精鋭忍者部隊・黒脛巾組に企ての阻止を命じる。伊達藩の伝説の忍者集団“黒脛巾組”vs徳川家康“伊賀忍軍”の東北忍者戦争、ここに開幕!
 徳川家康の仕掛けた罠に嵌り、伊達政宗は豊臣秀吉から上洛して偽造密書の釈明をするよう命じられた。黒脛巾組の活躍もあって、何とかこの危地を脱した政宗だったが、秀吉から改めて葛西大崎一揆の鎮圧を命じられる。家康は政宗を葬るべく、伊賀忍軍を使って更なる罠を仕掛ける……。

『義経暗殺』
  • 平谷美樹著/苗村さとみ装画
  • 双葉文庫
  • 741円
  • 2018.2.18発行

1189年、兄頼朝に追い詰められ、平泉に逃げ込んだ義経。頼朝の圧力を受けて、奥州藤原氏・泰衡が衣川で義経を討ち取ったというのが歴史の定説である――しかし、この物語は通説を覆し、義経が妻子とともに自害したところから始まる。ただ、自害とするには現場の状況、義経の心理面などを考慮すれば不自然なことも多い……この謎に「吾妻鏡」に驚異の博覧強記としてその名が上がる、“頭脳の人”清原実俊が挑む。中級の文官である実俊だが、相手によって対応を変えるということが苦手なため、たとえ泰衡相手でもぞんざいな口の利き方しか出来ない難儀な性格である。それを苦心して諫めているのが従者の葛丸(男装の若い女性)。泰衡、頼朝の刺客、弁慶、藤原一族。実俊がさまざまな“容疑者”を調べ、義経暗殺の謎に迫る傑作歴史ミステリー小説

「義経暗殺」
『蘭学探偵 岩永淳庵 海坊主と河童』
『蘭学探偵 岩永淳庵 海坊主と河童』
  • 平谷美樹著/さやか装画
  • 実業之日本社文庫
  • 593円
  • 2014.8.15発行

品川沖に突然海坊主が現れたという。続けて仙台堀では河童も出た。若き蘭学者岩永淳庵は火盗改の依頼を受け、辰巳芸者の豆吉とともに、騒動を解決すべく推理をめぐらせるがそこには驚きの真相が隠されていた。―「海坊主と河童」
「高櫓と鉄鍋」江戸で話題の<高櫓廻り>。出そうに無い温泉掘りには天下を揺るがす恐るべき陰謀が秘められていた。
「鬼火と革紐」瓦版を賑わす<鬼火火事>。火事になった商店の主は、何れも評判の悪い御仁だったが……
「吉と橘」盗賊が狙う隠し金。淳庵と豆吉は火盗改とともに盗賊一味を追って東北へ向かう。

『蘭学探偵 岩永淳庵 幽霊と若侍』
  • 平谷美樹著/さやか装画
  • 実業之日本社文庫
  • 620円
  • 2015.6.15発行

 辰巳芸者・豆吉が毎日のように寺に通っているのを不審に感じた若き蘭学者・岩永淳庵。実は亡くなった父親の幽霊に会うためだったと語る豆吉だが、裏に必ずからくりがあると踏んだ淳庵は、蘭学の知識を駆使して真相に迫る―「幽霊と若侍」
「蚕と毒薬」死体に付着していた蚕の糞と芥。そこから推理されるものは……
「犬と砂」拐かしの犯人は極悪人の"不知火の甚吉"?身代金受け渡しに仕掛けたカラクリとは。
「球と箱」発見された死体から類推される死亡日時。容疑者の剣客のアリバイ作りに源内が絡む!?

『蘭学探偵 岩永淳庵 幽霊と若侍


雀部 >

今月の著者インタビューは、5月に『鍬ヶ崎心中 幕末宮古湾海戦異聞』を小学館文庫から出された平谷美樹先生です。平谷先生、前号に引き続きよろしく願いいたします。
 『鍬ヶ崎心中』(2018/3)は、年代的には『大一揆』(2020/3)や『柳は萌ゆる』(2018/11)とほぼ同時代(正確にはやや後の明治元年)を描いた作品ですね。
 『柳は萌ゆる』は、岩手日報朝刊で足かけ3年(2016-2018)にわたって連載された作品で、連載前には書き終えられていたということですが、『鍬ヶ崎心中』と同時期に執筆されていたのでしょうか?

平谷 >
『鍬ヶ崎心中』の方が後です。構想は同じような時期だったかと思います。『大一揆』は、『柳は萌ゆる』の単行本化で大幅カットした部分を、独立した別の視点の物語として書こうと構想したものでした。
雀部 >
詳しくは2004年のインタビュー記事を参照下さいませ。
 ということは、ほぼ同時期に構想を練られていたんですね。
 女郎の見た幕末という視点が平谷先生ならではで面白かったです。
 「鍬ヶ崎」現地に行ったことはないのですが、ストリートビューで探索してみました。 歴史的に有名な海戦なのに、不勉強で全く知らなかったのですが、浄土ヶ浜には「宮古港海戦記念碑」が、臼木山には「宮古港海戦解説碑」があるんですね。

平谷 >
臼木山の碑は取材の時に見てきました。藤原埠頭近くには、流れ着いた旧幕軍の兵の供養碑があったと思います。作品を書いてしまうと、取材で見学した場所や資料の内容がすっかり頭から抜け落ちてしまうので、不確かな情報ですみません。
 「遊女の純愛物語」にしたいと思い、七戸和磨に“しかけ”をしました(笑)
雀部 >
それは和磨くんのあの"秘められた過去"の部分に違いない(笑)
 文庫版(と電子版)の後書きで、縄田一男先生が“本作は作者の新境地である”と高く評価されてますね(縄田先生の書評にリンクします)
 あと、ネットで見つけたのですが「ダンス借景~小説「鍬ヶ崎心中」を読みながら~」、情感たっぷりの踊りで良いなあ。作中の重要ポイントの映像もあるし。
平谷 >

宮古の人たちは、ずいぶん気に入って下さって、ダンスや演劇など創作をしてくれました。

雀部 >
「みやこ市民劇第二回公演『鍬ヶ崎エレジー~激闘!宮古港海戦~』も面白かったです。
  こういう試みをみるにつけ、平谷先生(とその作品たち)は地元の方々と相思相愛でなんともうらやましい限りですね。
平谷 >
岩手を舞台にした作品はとりあげてもらいます。わたし自身も岩手の歴史を勉強できるので、ここのところそういう作品が多くなっています。
雀部 >
幕末が舞台というと『幕末梁山泊 口入屋賢之丞、江戸を奔る』(2019/2)もそうですね。口入屋というと江戸時代の斡旋業というか、有能な派遣社員を束ねる社長といった役どころ。前半の有能な仲間を一本釣りしていく下りは、けっこう阿漕な手も駆使してたいへん面白いです。もう少し長めにして上巻がヘッドハンティング編で、後半を実戦編と二冊にする計画は無かったのでしょうか。もしくはシリーズ化とかは。
平谷 >

シリーズ化を考えて書いたんですが、これもまた売れ行きが悪かったんでしょうね(笑)
 続編の話はありません。わたしは面白いと思ったんですけど。

雀部 >
ちょっと『七人の侍』を思わせるところもあって、続編が読みたかったです。
 惚けた仲間を尻目に一人武芸に励む、徳川の伊賀組同心加藤佐助を汚い手段で仲間に引き入れる下りが特に好きです(笑)
 伊賀忍者というと、『独眼竜の忍び』では、主人公達黒脛巾組と丁々発止の闘いをする家康配下の伊賀者たちがいい味出してます。
 黒脛巾組の組頭小源太と伊賀の十蔵の駆け引きも面白いですね。伊賀者はこの当時は凄く有能そうな忍者軍として書かれてますが、『幕末梁山泊 口入屋賢之丞、江戸を奔る』ではお役目が鉄砲隊になっていて、この頃には忍者としての需要は無くなっていたのでしょうか。
平谷 >
江戸時代、ある程度需要はあったようです。隣藩の情報収集などやはり必要ですからね。幕末には各藩、情報収集のために盛んに使っていたらしいです。
雀部 >
今も昔も「情報を制するものが戦いを制する」というのは変わってないですね。
 『独眼竜の忍び』では黒脛巾組と伊賀忍者の闘いのほかに、秀吉・家康と伊達政宗の裏の裏をかく知略合戦も読みどころ。どこまでが史実か分からないけど面白かったです。
平谷 >
例によって歴史的事実を妄想で繋ぎました(笑)
 歴史ではどういう展開になるのか判っていれば、出来事と出来事の間に、どういうどんでん返しを入れられるかが考えられるので、1からストーリーを考えるよりも簡単かもしれないです(笑)
雀部 >
そういうところは、歴史小説とSFは似てますよね。ある程度時代背景を知っていたほうが面白く読めますし。平谷先生の歴史小説は、その時代背景がわりと書いてあるので、初心者にも優しいと思います。
 歴史を想像で補完するというと『義経暗殺』も凄かった。妻子と共に刀に貫かれて死んでいた義経。暗殺か自刃か、黒幕は奥州藤原氏の誰かか、それとも頼朝か?
 この謎に平泉之庁の大帳所(文書庫)の司を務める清原実俊が挑むという展開で、黒幕の容疑者は限定されるものの、謎が謎を呼ぶというか二転三転四転五転くらいする(笑)
 『義経になった男』で読んだ義経像と一致するところもあるけど少し違う面も。弁慶は頭も切れる!。
 『義経暗殺』の黒幕は、最初からこの人と決められていたのでしょうね?
平谷 >
あの時代の資料を読んでいると、「ある目的をもって平泉に来た義経を暗殺する人物」は、あの人しかいないんですよね。ストーリーの組み立ての段階から決まっていました。
雀部 >

あの、ラストの流れるような謎解きからすると……やはり!です(笑)
 『蘭学探偵 岩永淳庵 海坊主と河童』では、冒頭の「高櫓と鉄鍋」があっと驚くとんでもない謀略が発覚するという出だしで、途中で淳庵から、【東丹国史】と耶律一族に関する話が出てきたので、おっとこれは《風の王国》シリーズがらみなのか!?と思ったら違ってました(汗;)。まあ、帯に“江戸の怪事件、科学の力でご明察!”と書いてあったのを忘れていたんですけど(笑)

平谷 >
わたしの小説は歴史物、時代物、ホラーでも、ストーリーの発想やアイディアはSFの手法で考えることが多いですね。それから、別の物語のキャラクターや背景を入れ込むことも多々あります。ちょっとしたお遊び(笑) わたしの作品をよく読んで下さっている読者さんは「にやり」としてくれるかなと(笑)
雀部 >
あ、やられたと(汗;)
 最後の「海坊主と河童」は、途中で読者も「海坊主と河童」の正体に気がつくと思いますが、あの有名人が関わっていたのには驚きました。まあ、いっちょ噛みしていてもおかしくは無い人物ではあります(笑)
平谷 >
あの人物は敵として大活躍してもらうつもりだったんですけど、やはり売れなかったんで続きが書けません(笑)
 わたしも編集者も面白いと思っても、売れ行きが伸びないシリーズばっかりですよ(苦笑)
 売れ行きがいいと、レーベルがなくなったり(笑)
 単発のつもりだったのに、続編をと言われたり(笑)
 世の中、思うようになりませんよね。まぁ、書かせてもらっているからいいんですけど。
雀部 >
NHKあたりで、作品がドラマ化されないかなぁ。
 あの人物は、二作目の『蘭学探偵 岩永淳庵 幽霊と若侍』でも暗躍してますね。連作短編で江戸幕府を揺るがす大事件に絡んで欲しいぞ(笑)
 『義経暗殺』の清原実俊に仕えている雑色葛丸は男勝りの男装の少女なんですが、なんとも可愛いですよね。また、岩永淳庵と同居している辰巳芸者の豆吉も、元は武家の娘ということで淳庵より武芸に秀でていてしかも色っぽいという、SFファンが大好きなキャラ(笑)
 ここらあたりの造型は平谷先生の好みが現れているのでしょうか、それとも編集さんの要望があったとかでしょうか?(笑)
平谷 >
男性にしろ女性にしろ、主要人物は物語にしっかりと絡んでほしいと思っています。ということで、わたしの書く女性はみんな強くなってしまうという(笑)
 「原敬」には弱い女性も出て来ますが――。 弱い女性を書くのは苦手かな(笑)
雀部 >
そういうことからなんですね。それはお伺いしなければ判らなかった(汗;)
 今回も大変な時期にインタビューに応じていただきありがとうございました。
 「原敬」、完成をお待ちします。《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズもよろしくです。


[平谷美樹]
1960年、岩手県生まれ。大阪芸術大学芸術学部を卒業後、2000年に『エンデュミオン エンデュミオン』(ハルキ・ノベルス)でデビュー。『エリ・エリ』(ハルキ文庫)で、第1回小松左京賞を受賞。14年には「風の王国」シリーズ(ハルキ時代小説文庫)で、第3回歴史時代作家クラブ賞・シリーズ賞を受賞。「採薬使佐平次」シリーズ、「江戸城 御掃除之者!」シリーズ、「よこやり清左衛門」シリーズ(ともに角川文庫)や「草紙屋薬楽堂ふしぎ始末」シリーズ(だいわ文庫)、など、多岐にわたるジャンルにて活躍している。電子版のみの小説《百夜・百鬼夜行帖》シリーズが昨年100巻超えを果たしました。
[雀部]
岡山の片田舎の開業歯科医。前回100巻を超えた懸案の《百夜・百鬼夜行帖》シリーズ、やっとインタビューが出来ました。平谷美樹先生関連書籍リンクはこちら→