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シャンダイア物語

第四部 打ち捨てられた都
第六章 クリルカン峠

福田弘生

 鬼は考えた。近づいて来るガザヴォックのくびきの鎖から逃げてみようかと。しかしただ逃げるだけでは、結局どこかで捕まってしまうと思った。それでは戦ってみようか、だがガザヴォックが差し向ける追っ手は極めて手ごわい相手のはずだった。でもそれも良いであろうと鬼は思った。背中に背負わされた苦しみから逃れるためには、捕らえられるより自らが死ぬような激しい戦い方をすれば良い。
 そして最後に思い付いた。こちらに近付いているもう一つの魔法。小さな剣とそれと一緒にやって来る強大な翼の神の魔法ならば、自分を解放してくれるのでは無いかと。
 色々と思案した末、結局鬼は待つ事にした。何が来ようと、自分もまた強き者の一体なのだから。

 マスター・マサズはあの歓迎の宴が行われた部屋でベリック達を待っていた。薄暗く明かりが落とされた部屋の絨毯の上には、呼び付けられたらしい市民の代表が三十人ばかり並んで座っている。前回と同じ屋根が付いたクッションの上に横たわっていた醜い老人が、ベリックを見て耳ざわりな喜びの声を上げた。
「これはこれは、王、わざわざお呼び立てして申し訳ございません。しかしここでしか女神の声を聞く事が出来ないのです」
 と言うより動けないのだろうと少年は思ったが口には出さなかった。ベリックはニコニコしてマサズに応じた。
「私も早く女神の声を聞いてみたい。でも女神は悲鳴しか上げないという話を聞いたけれど」
 マサズの顔に不快の表情が一瞬浮かんだが、すぐに抑えられた。
「ソンタールの兵がロッグに近付いております。この危機に私が呼び掛ければ必ずや我々に進むべき道を示してくださるでしょう」
 ベリック達は市民代表達の前に用意された椅子席に着くように案内された。フスツが怒りの表情を浮かべた。
「これではまるで家臣のようでは無いか」
 全員が着席すると、黄色い衣を着た長身のピスタンがマサズの後ろのカーテンの陰から現れた。マサズの息子の手には黄色味がかったモッホの粉が金の皿に盛られている。マサズは粉を手に薄くすくって口に入れると、横にあった紫のワインで飲み込んだ。それを見たサシ・カシュウがヒッと小声で悲鳴を上げた。
「あれは自殺行為に近いのでは」
 フスツが吐き捨てるようにつぶやいた。
「そうであって欲しいくらいだが、あの男は死なんのだ」 
 マサズはゆっくりと白いソファーの上で仰向けになった。ブヨブヨした巨体はまるでソファーに同化してしまったかのようにさえ見える。やがて蝋燭の灯りが鼓動のように明滅を始めた。ピスタンかトンイが、魔法でささやかな演出をしているのかもしれない。
 息が詰まるような沈黙が部屋を満たすと、ロッグを統治するバルトールマスターはうめくような声でつぶやき始めた。それはまるで女性のような甲高い声だった。ベリックがナバーロを見ると、女神の声を伝えるはずの高僧は首を振った。マサズの絞り出すような声が部屋の中に響き渡った。
「やって来る、ソンタールの使いの者がやって来るぞ。その者の言葉を聞け」
 マサズはその後も意味不明の言葉を話し続けた。しばらくそんな状態が続いていると、突然ベリック達の後ろの扉がバタンと開いた。床に座っていた者達が一斉に振り向くと、部屋の中に黒いガウンのような服と頭巾をかぶった男が入って来た。
「我が名はイバブク。ガザヴォック様の命によりこの地に派遣された黒の神官である。月光の要塞を出発された竜の将マコーキン様のお言葉を伝えに来た」
 マサズは身を横たえたまま目を見開いて、ゴロゴロした自分の声で答えた。
「黒の神官殿か、竜の将の言葉を述べてみよ」
 バステラの神官はロッグの支配者を馬鹿にしたように見下ろして言った。
「マコーキン様がここを支配下に納める事になった。出迎えの準備をせよ」
 マサズは苦しそうに答えた。
「将軍のお言葉、しかと承った。直接将軍に会って話をうかがいたい。私が自らお迎えにうかがうつもりであると伝えよ」
 黒の神官は冷酷な表情でニヤリと笑った。
「それからもう一つ。ここにバルトールの要人がかくまわれているという噂がある。そのような者がいるのならば、捕らえて将軍に差し出すように」
 マサズは厳しい声でこれに答えた。
「この都は私がしっかり掌握しておる。そのような人物はおらん。ご安心くださるように伝えるがいい」
 黒の神官はフッと笑ってきびすを返した。その後ろ姿を見送るとマサズは気を失うようにソファーに崩折れた。ピスタンが終わりを告げ、一行は夕暮れの町中を縫うようにして宿に連れ戻された。
 部屋に戻ってベリックが椅子に座ったのを待ってサシ・カシュウが言った。
「どうやってモッホの粉を飲みながらマサズはあの演技をしたのでしょう」
 フスツが鼻を鳴らした。
「粉が偽物だったのだろう。黒の神官もグルだ」
 サシはちょっと残念そうにうなった。
「そこまでやりますか。茶番が過ぎる」
 しかしマルヴェスターの表情は厳しかった。
「油断するな。マサズは早々に手を打って来るはずだ」
 老魔術師の予測は的中した。その日の深夜、部屋の扉を叩く音でベリック達は目を覚ました。フスツが急いで招き入れると、善人そうな宿の主人がブルブル震えながら王の前にかしこまった。
「ベリック王様、マサズ様の部下達が宿を包囲しております」
 サシが思案顔で顎に手をあてた。
「王をマコーキンに引き渡すつもりでしょうか」
 マルヴェスターがうなずいた。
「その可能性は高いな。どうするベリック」
「こちらから出てみましょう」
 ベリックは即答すると、先頭に立って宿の外に出た。フスツがあわててベリックの前に立った。外に出てみると、無数のかがり火に照らされて箱型の巨大な輿が宿の前に停まっていた。輿の両側にはピスタンとトンイが背の低い護衛の者達に囲まれて立っている。フスツが一歩踏み出して大声でどなった。
「これは何事だ」
 マサズの長男のピスタンが進み出た。
「マコーキンがやって来る。王には我々が交渉する間、しばらく身を隠していただく事になった。我々に同行していただきたい」
「それにしては深夜に物々しい出迎えだな」
「昼間では市民の目につき過ぎる。マコーキン来襲でただでさえ人々は動揺している、これ以上不安にさせてはいけないだろう」
 ベリックがフスツの横に並んだ。
「マコーキンの問題は王である私が対応する」
 輿の戸が開いてマサズの姿が見えた。
「それはなりませぬぞ。我々がバルトールの代表として交渉を行います」
 ベリックは夜目にも白々としたマサズの顔を見た。老人は異常な目つきでベリックを見返した。この老人にこれ程の集中力があるとはベリックには意外な印象だった。そしてこの老人を甘く見てはいけないと気持ちを引き締めた。
 その時、突然マサズの顔が苦痛にゆがんだ、そして狂ったように叫び声を上げて輿の中で横転した。その叫び声は女性の声だった。
「きああ、ベリック、ああベリック、我が元に参れ。ベリックよ参れ」
 ピスタンとトンイは驚愕の面もちで父親を見た。
「マサズ様」
 マサズは蒼白だった。
「バリオラ様だ、ご自分から呼びかけてこられた」
 その時、サシ・カシュウの後ろでナバーロもうめいてくずおれた。吟遊詩人が振り返ってバリオラ神の神官を支えた。
「どうした」
 ナバーロは驚いたような顔で答えた。
「マサズの言う通りです。女神の方から声を届けに来ている」
 マサズの周りにいた者達がどよめいた。その時、暗がりの中からイバブクと名乗った黒の神官が馬で現れてマサズの輿に走り寄った。
「マサズ、何をしている。早くベリックを捕らえてマコーキン様に差し出すのだ」
 フスツがそれに気付いた。
「なる程、マサズは黒の神官も抱き込んでいたわけだ。イバブク、貴様もベリック様を差し出して昇進か、マサズと組んで今まで好き放題にしてきたんだろう」
 イバブクは怒ったようにどなり返した。
「あたり前だ、こんな田舎に送られた者の気持ちにもなってみろ。さあ、マサズ」
 ところがマサズの横にいたトンイが、剣を抜くといきなり馬上のイバブクの脇腹に突き刺した。神官は驚愕の面もちで太ったマサズの息子を見下ろした。トンイが剣をグルリと回して引き抜くと、黒の神官は血しぶきを上げて馬から転げ落ちた。横にいたピスタンが目を見開いた。
「トンイ、何のつもりだ」
 トンイは輿の中の父親に言った。
「ベリック王を行かせましょう。どうせマコーキンの手の中に入るのです。マコーキンに対してどう対処するのか見てみましょう」
 輿の中でマサズは迷っていたようだったが、しぶしぶとうなずいた。マルヴェスターがトンと杖を突いた。
「どうやら決まったようだな、私達は明朝、出発する」
 かがり火がどよめきながら揺れた。
 翌朝、バルトールの正当な王であるベリックは数少ない供の者を連れてロッグを出発した。朝もやの中に王を見送る人々の姿がまばらに見えたが、マサズに気を遣ってか表だって送る者の姿は無かった。都市の中央を通ってバリオラ神の聖堂跡の横を通り過ぎる時、ベリックはトリロに命じてザークの爪を取って来させた。マルヴェスターが尋ねた。
「どうするんだ」
「我々人間の始祖の爪です。盾にします」
 フスツがウッと息を飲み込んでマルヴェスターを見た。
「ちょっと待ってください、ザークは我々の始祖なんですか」
 マルヴェスターはそうだよといった顔をした。
「もちろん。と言うより、人間型生物すべての始祖だな。あの小鬼ゾックですら、遠い祖先を辿れば我々とは同系なのだよ」
 フスツは頭を振ってうめいた。
「聞かなければ良かった。私は殺し屋だが、親を殺そうとは思いませんよ」
 馬の上でマルヴェスターは笑った。
「大鬼ザークを殺そう等とは思っていない。我々の目的は女神の解放だけだよ。それよりベリック、マコーキンは西の将の要塞に捕らえられていたお前を憶えているだろうか」
 ベリックは首を振った。
「どうでしょうか。僕は巨竜ドラティによって西の将の要塞に運ばれましたが、その後すぐに地下牢に入れられてしまいました。マコーキンは出撃してそのまま要塞に帰らなかったので、たぶん憶えていないでしょう」
「ふむ。セルダン達が助け出したあたりのいきさつはあまり世間には知られていないから、マコーキンも知らんだろうな」
 こうしてベリック達はロッグを離れた。ベリック、マルヴェスター、サシ・カシュウ。ナバーロにフスツ。そして、ビンネ、クラウロ、バヤン、トリロの四人である。風はランスタインの峰を吹き下ろし、南に向かうベリック達は頬を切られる程の風に向かって馬を走らせた。夜は冷たい夜空に三日月がかかり、流星は荒野に散った。サシ・カシュウの年老いた馬は行軍のきつさにいなないたが、マルヴェスターの乗る牝馬に優しくたしなめられた。そしてロッグを発して三日目、一行は月光の要塞からまっすぐ東に向かう街道とロッグから南に向かう道がぶつかる地点にたどり着いた。ベリックが馬上から正面に横たわる広い道を見渡した。
「ここですね。ここを西からマコーキンがやって来る」
 マルヴェスターも手綱を引き絞った。
「そうだ。竜の将を待つなら、あの広い街道の南側の丘の上がいいだろう」
 フスツが王に馬を寄せた。
「私はこのまま東に向かってマコーキン軍から離れる事を強く進言させていただきます」
「いや、ここでマコーキンを待つ」
 ベリックは寒さに強い低い木々が茂る丘の上に、高々と黄色い旗をかかげてマコ−キン軍を待ち受けた。旗の横には旅芸人の時に使っていた黄色い縦縞の小さいテントがフスツの部下達によって張られた。そして数日が経った。その間に手先の器用なトリロがザークの爪を削って小型の盾を作った。トリロは両手で盾を持って王に手渡すと言った。
「王にはまずこのくらいの大きさが手頃で扱いやすいと思います。爪の残りは私が大切に保管しておいて、王が大人になったら大型の盾をお作りさせていただきましょう」
 ベリックは嬉しそうだった。
「頼むよトリロ」
 丘に陣取って四日目の朝、ベリックが目を覚まして外に出ると、ベリック達のテントのやや後ろの丘を下った所にいくつかの小さい不格好なテントが張られていた。そして日が経つにつれてテントの数は増えていった。
 興味を持ったサシ・カシュウがマルヴェスターと共にテントの群れを観察していると、テントに粗末な装備のバルトール人達が出入りしているのが見えた。ロッグの都から王の後を追ってはせ参じた者達だった。
「どうしましょう、ロッグの住民達の心を掴んだのは嬉しい事ですが、このままでは無駄死にををさせてしまいますよ」
 マルヴェスターも辛そうに首を振った。
「悲しい事だ。しかし、それが必要な時もある。ベリックの考えは正しい」
 サシは老魔術師の深い皺が刻まれた顔を見つめた。マルヴェスターは続けた。
「バルトールが復興するためにここで大切なのは、ベリックの言う通りソンタールに立ち向かう事だろう。そして絶対に生き残らなければならないのは帰還した王であるベリック一人。そのベリックはわしが守る」
 サシは寂しい顔をした。
「後は全滅してもかまいませんか。しかしそれではベリック王の心が死んでしまう」
「だろうな。他の者達も助けてやらねば」
 そこでマルヴェスターは深いため息をついた。
「この人数では踊る戦陣も出来ん。そもそもカインザーのオルドン王ですら破ったマコーキンだ。バルトール人には荷が重過ぎよう」
「それではどうなさいます」
「逃げるのは簡単だが、逃げないためにここにいる。交渉しかあるまい」
 翌日にはテントの数はさらに増えた。

 黒龍旗を軍団の先頭に立てたマコーキン軍は、大地を轟かしてロッグ近郊へ近付いている。軍の中央を進む黒い鎧のマコーキンの元に、偵察に放っていた斥候が戻って来た。男はハキとした声で報告した。
「マコーキン様、ロッグの南の丘陵地帯に旗が立っています」
 参謀のバーンが馬蹄の響きに負けない大声で問い返した。
「どんな旗だ」
「無地の黄色い旗です」
 普段は沈着冷静なバーンもこれにはさすがに驚いた。
「他の土地ならただの旗だが、ロッグ近郊で立っているのならばバルトールの王旗だ。マコーキン様、まさかとは思いますがベリック王がマサズとの間を修復して起ったのかもしれません」
 バーンは斥候にどなった。
「兵はいたのか」
 若い斥候も大声で答えた。
「兵と言って良いものか、数十人の人間が旗の元に野営しています」
 マコーキンは首を振った。
「面倒を起こしている時間は無い。通り過ぎよう」
 バーンはその言葉に反対した。
「しかし、もし反乱を起こしているのならば見過ごすわけには参りません。グラン・エルバ・ソンタールの、マコーキン様を支持していない貴族達につけ入る口実を与えるわけにはいきますまい。バルツコワに行かせましょう」
 マコーキンはバーンに馬を寄せた。
「戦いにはならないだろう、気が変わった。ベリック王の顔を見てみたい」
 ベリックは丘の上から遙か地平の彼方に見えるようになったマコーキンの軍勢を見つめていた。ふと目を下ろすと、街道の真ん中を一騎の馬が駆け寄って来る。程なくしてその馬は丘を駆け上がり、ベリックのテントの前に停まった。馬上には黒い衣装の小男がまたがっている。待ち構えていたフスツが進み出て男を迎えた。
「災いがお前と一緒にやって来るのは、いつになっても変わら無いなイサシ」
 イサシはストンと馬から降りた。
「それはお前も同じだフスツ」
 イサシはベリック王の前にひざまずいた。
「あなたにどういう態度を取ればいいのかわかりません。しかしこの旗の元にいる方には敬意を払わなければならない」
「イサシか、自分の主を誰にするか決心はついたか」
「いいえ、まだ。しかしあなたは何を考えておられる、この数でマコーキンの前に立ちふさがったところであの竜の将の軍にかすり傷さえつけられますまい」
「そんな事が問題じゃ無いんだ。王が無条件でマコーキンの軍にロッグを明け渡してはいけないのさ」
 イサシは小さい指導者を不思議そうに見た。
「マスター・マサズはそう思っているでしょうが、マコーキンの目的地はロッグではありませんよ」
 フスツがケッとつばを吐いた。
「だろうと思った。マサズは戦々恐々としているぞ。ベリック王を捕らえようとさえした」
「だが、そういう噂を流さなければ。とっくにマスター・マサズと王は衝突していただろう」
「それは確かだな」
 ベリックが笑った。
「礼を言うべきなのか、イサシ」
「私には私の都合があります」
「なる程。ところでマコーキンの目的地ってどこ」
 イサシは少し驚いた。
「私の言葉をお信じになりますか」
「僕達にも情報がある。それに照らしてみればすぐにわかる」
「ふうむ、ならば申し上げましょう。マコーキンの目的地はクリルカン峠です。なぜあんな所に行くのかはわかりませんが、ソンタールでこの手の怪しい命令が出される時はほとんどがガザヴォックからのものです」
 ベリック達は顔を見合わせた。ナバーロがうなずいた。
「間違いありません。クリルカンはランスタイン大山脈の東の端にある峠です。近くには村すら無い辺境です」
 イサシの目が鋭くなった。
「相当に重要な何かがそこにあるようですね」
 フスツが手の上で短剣をポンポンと叩いた。
「一緒に行くか」
「俺達が同じ方向に向かう時は、一緒では無く生き残った一人だ」
「わかってるじゃないか」
 後ろで聞いていたマルヴェスターが得意のポーズで言った。
「よし、後はどうやってここを無事に抜け出してマコーキンより先に峠に着くかだな」
 イサシは身軽く馬に飛び乗った。
「どうやらロッグでゴタついている場合では無いようですね。マスター・マサズと話をしてきましょう。これからロッグに参ります」
 イサシが馬に鞭を入れた、それを見たフスツが馬に飛び乗って追いかけた。
「俺との決着はいつ着ける」
「あずけておこう。それまで死ぬな」
 イサシはそう言い残してあっという間に丘を駆け下って去って行った。こうしてバルトールで最も危険な二人の男は別れた。まだ時刻は昼に近く、日差しは高く風は冷たい。

 マコーキンは丘にたなびく黄色い旗を遠くから眺めてバーンに尋ねた。
「ベリック王に間違い無いと思うか」
「確実に」
 その時、斥候が息せききって駆け寄せた。
「丘の北に数千の兵がいます」
 バーンが眉を上げた。
「こんな所に軍団は存在しないはず。何者だ」
「わかりません」
 その時風に乗って、遙か北の方から太鼓の音が聞こえてきた。その音は激しいリズムで小刻みに音が連なり、轟くように大地を這った。それを聞いた丘の上のべリックは、なぜか心が激しく躍動するのを感じた。
「何でしょう」
 北に兵の姿を認めたマルヴェスターが教えた。
「激情の舞の陣太鼓。マサズの兵だ」
 サシ・カシュウが驚いた。
「マサズ本人ですか」
「いや、息子の方だろう」
 北の地平に小柄で質素な身なりの兵が見え始めた。先頭に太った男が不格好な鎧を着て馬にまたがっている。サシが目をすがめた。
「トンイか、驚いたな。しかしやはりマサズの一族はかつての首都を支配しているだけの事はあると思う。これだけの数の兵を動員出来るマスターは他にいないでしょう。私は兵の数を数えるのに慣れていません。あれでどの位いますか」
 馬から降りて横に並んだフスツが答えた。
「三千という所だ。ロッグには三万の人間がいる、戦いに出られる男の数は七千。半分近く連れてきたという事だ。思い切ったな」
 サシは西を指差した。
「あっちにはどのくらいいます」
「一万。しかしたとえ数が互角でもかなわない。カインザーのトルソン侯爵か、それこそセルダン王子がカンゼルの剣をかかげて戦わないと無理だろう」
 ベリックがクラウロとバヤンに大声で指示した。
「丘の下のテントにいる人達を急いで集めて来て。サシ、暁の舞の音楽を演奏出来る」
 サシ・カシュウはマルヴェスターを見た。マルヴェスターが言った。
「ザイマンの舟歌で『ベンゲの宝』と言うのを知っているか」
「ザイマンの船乗りが北の海で宝を手に入れる歌ですね。ええ、それは憶えました」
「その最後の宝を数える所を繰り返し弾いてみてくれ」
 サシは竪琴を抱えて首をかしげながら、ポロポロと弾くと、力強く繰り返した。そして手を止めると何度か首でテンポを取って弾き始めた。そこにはロッグに着いた日にマサズの宴会で聞いたテンポが取り入れられていた。
「さすがだ。完璧」
 サシは優雅におじぎをした。クラウロとバヤンがロッグの市民達を引き連れて来た。ベリックが手を振ると、心得たクラウロがサシの演奏に合わせて市民達に歌うようにうながした。サシが竪琴を弾きながら感心した。
「なる程、歌詞もあるんだ。こんなところに伝統の文化を隠しておくとは、バルトール人とは恐るべき民族だなあ。今度世界各地の歌を研究してみましょう」
 べリックが上着を脱ぐと、皆の前に立って暁の舞を踊り始めた。人々の歌声が一段と高くなった。それを見たマルヴェスターがナバーロに顔を寄せてささやいた。
「あれはちょっと寒く無いだろうか」

 東西に延びる街道を進むマコーキンは、道の右側から波のように丘を下り降りる歌声と左側から轟く陣太鼓にさすがにとまどった。
「これは何だ」
 バーンがハタと気が付いた。
「踊る戦陣でしょう。かつて月光の将もこれで大苦戦したそうです」
「危険か」
「いえあの数では。左側の軍が鍛錬されているのならばやっかいではありますが、そうとも思えません」
「よしバーン、状況が変わった。ここは通り過ぎる」
「しかし、このままではグラン・エルバ・ソンタールで問題になります」
「大丈夫だ。ザークさえ捕まえて帰れば良い。それよりここで時間をくってランスタインが大雪になる方がまずいだろう」
「それはそうでございましょうが」
 バーンは納得しない顔だったが、マコーキンは全軍に直進を指示した。黒い軍団は馬蹄の響きを轟かせて速度を上げた。そして一気にベリックのいる丘の前を駆け抜けた。丘の上からその大軍勢を見下ろしたベリックは、さすがに足が震えるのを抑えられなかった。そしてすがるような目でマルヴェスターを見上げた。
「マコーキンの軍と言うのはこれ程の迫力があるものなのですか」
「良く見ておくがいい。お前がこれまで見てきた軍隊と言うのはサルパートで見た北の将の軍だろう。あれは老将に率いられた辺境の守備隊だ。これはソンタールの精鋭だ、いずれ戦わなければならない時が来る。この軍と元帥ハルバルトの皇帝直属軍が陸上のソンタール最強兵団だ」
 ベリックはつばを飲み込んだ。
「それでは海上では」
「ゼイバー提督のエルバナ海軍と、ユマールの将ライケンの艦隊だろう。もっとも、南に向かったブライスが南の将に敗れてしまったら、グルバの勢力がライケンより強大になるはずだが」
「ブライス王子とセルダン王子がいるんだから決して負けませんよ。さあ僕らは、マコーキンの後を追いましょう」
 マコーキン軍の通過を見計らうようにして、街道の北側のバルトール兵の中から体にあわない鎧を着たトンイが部下と共に駆け出すと、丘に登って来てベリック達の前で馬を降りた。
「ご無事でしたかベリック王」
「援軍ありがとう」
 トンイは困ったような顔をした。
「あなたの首尾を見届けると言ってロッグを出て参りました。我々の兵は隠しておいてマコーキンには見せないとマサズ様に約束して来ましたが、この状況では仕方が無い」
「礼を言うよ、助かった。僕はマコーキンを甘く見ていたようだ」
「いえ、その勇気は大したものです。ところであなたを連れて帰らなければなりません」
 ベリックは東に去って行くマコーキン軍の方に顔を向けた。
「それは困る。逃げたと言ってくれないか」
「しかし、先程イサシが通り過ぎて行った。ここの状況はマサズ様に筒抜けですよ」
「イサシならば大丈夫さ」
 トンイがベリックの後ろにいるフスツをチラリと見た。フスツが答えた。
「イサシの事は大丈夫だ。あいつにはあいつなりの目的があるらしい、むしろお前が気を付けた方がいい」
 トンイはやや不安気な顔になったがしぶしぶとうなずいた。
「それでは王、お気を付けて。ここに集まった市民達は連れて帰ります」
「罪は問わないでね」
「私より罪が重いという事は無いでしょう」
 こうしてトンイと別れたベリック一行は、ようやくクリルカン峠を目指して木枯らしの吹く道に馬を駆け込ませた。風に向かって馬を走らせるベリックの後にサシとマルヴェスター、そしてフスツと部下達が続く。

 東にベリックとマコーキンが向かう頃、カインザーのロッティ子爵は馬を器用に御しながら、サクサクと雪を踏みながらサルパートの山道を登っていた。すでにバルトール人の兵達はマスター・モントの部下にあずけてある。白い息を吐いて進む尾花栗毛の愛馬の金色のたてがみが、雪を宝石のようにまぶしてキラキラと輝いている。
 見上げるサルパートの山の頂の美しさを、ロッティは生涯忘れる事は無いだろうと思った。やがて目が良いロッティは雪の中に巫女の学校を見つけた。雪よりもはるかにまぶしく窓のガラスが光を跳ね返していたのだ。その学校のさらに上、黒い剣の魔法使いギルゾンに焼き払われた神殿跡には小さな仮の神殿が建てられているはずだった。
 雪道を進んでいたロッティは、学校を囲む森の中にいくつかの人工の仕掛けがあるのに気が付いた。サムサラ砦の攻防戦の頃、クライバーの元にいたバンドンに山賊の仕掛けを習っていたおかげだ。最初のうちはバンドンの部下が学校を守るために仕掛けたのかと思った。しかしすでにソンタールの勢力は駆逐され、サルパートの貴族達も聖王マキアの元で兵の鍛練を始めている。ここに罠が必要な理由がわからなかった。そしてロッティは逆では無いかと思った。
(何者かがこの学校を狙っている。あるいは学校の誰かを狙っているのか)
 ロッティは横目で注意しながら山道を登った。それはかつてセルダン達が登り、エイトリ神の幻を見た道だった。すると突然、ロッティの周りを男達が取り囲んだ。ロッティはそのみすぼらしい身なりの一団を見下ろした。
「山賊か」
 山賊達は手にした刀を振り回した。その中の痩せたイタチのような顔の男が大声でどなった。
「おめえどこに行く」
「この先にあるのは学校と神殿のはずだが、俺は今のところ神殿には用が無い」
「学校か、エレーデを連れに来たか」
 ロッティは納得がいった。
「エレーデの父親だった男の一味か」
「そうだ、エレーデはこの山から出させねえ」
「それはエレーデが決める事だろう」
「いや、マキア王の赤の要塞から東の様子がおかしいんだ。エレーデは連れて行かせねえ」
 ロッティはホウとつぶやいた。
「お前達はエレーデを守っているのか。あの仕掛けも侵入者を防ぐための物だな」
「あたりめえだ、むごい所もあったが親方は俺達に優しかったんだ、その娘のエレーデはおら達が守ってやる」
「なるほどな。人を殺した数では俺はお前らの親方の比ではあるまい。殺された者達からしてみれば俺は大悪党だ。ところで赤の要塞の東に何が起きている」
「昔の西の将のマコーキンが動いた」
「何だと、おかしいな、バルトールの情報網はそれを伝えて来ていないぞ」
「バルトール人等信じられるもんかい」
 ロッティは考え込んだ。
(カイトの所で、アシュアンとエラクとモントが留まっているのがおかしいと思っていたんだ。何を考えている)
「わかった。俺はカインザーのロッティ、エレーデを連れて行くわけでは無い。話をしに来ただけだ。エレーデを守ってやってくれ。お前の名前を聞いておこう」
 山賊のリーダーらしい男はとまどったようだったが、ロッティを見上げて答えた。
「バンダラでさあ」
「憶えておく。俺はこの先、北で戦う事になると思う。何かあったらたずねて来い」
 山賊と別れたロッティは、馬を進めて学校の庭に入って行った。そしてロッティが馬の頭をポンと叩くと馬が一声キヒヒンといなないた。その声に呼応するように、建物の向こうから別の馬の声が聞こえた。
 馬と話が出来る少女エレーデは建物の中の自分の部屋で勉強をしていたが、厩の方から馬の呼ぶ声が聞こえたので庭に出てみた。すると雪の積もる庭には美しい馬がいて、その横に小柄だが姿勢の良い男が立っていた。
「どなたですか」
「ロッティと言います。巫女」
 エレーデは一瞬誰だかわからなかった。ロッティはにこやかに笑った。
「北の将の要塞で、遠くから挨拶だけさせていただいた事がございます。カインザーの子爵です」
 エレーデは驚いた。
「ロッティ子爵様。気が付かなくて申し訳ございません、巫女長を呼んで参ります」
「いえ、私はあなたに会いに来たのです。馬の気持ちについて話をお聞きしたいと思ったのです」
「馬の気持ちですか」
「そうです。私の家は代々騎馬戦を得意としてきました。そのため領地のほとんどは牧場になっています」
 エレーデは胸の前で手を握った。
「まあ素敵。でも馬が戦場に連れて行かれるのは可哀想です」
「そうですね。私もそう思う、しかし馬には馬の気概があると思います。戦場での馬は実に勇敢だ」
 エレーデは首をかしげた。
「私の知っている馬は皆臆病です。ロッティ様の馬が勇ましいのならば、それは主を助けたいと思っての事でしょう」
 ロッティは一瞬胸にこみ上げる物を感じた。
「彼らにそこまでの気持ちがあるのでしょうか」
「ええ、一度父の部下が荷を積んだ馬を引いて一人で山道を歩いている時に落石に遭いました。父の部下は気を失いましたが、馬は逃げずに助けが来るまでいなないて場所を教え続けた事があります」
 ロッティは感心した。
「どうやったらそこまで馬を仕込めますか」
 エレーデはにこやかに笑った。
「仕込むのではありません。共に歩むのです」
 ロッティはうなずいた。
「それが私の目指している事です」
 ロッティはエレーデに連れられて学校に入ると、伝令鳥を借りてバルトール人の若者を教練しているエンストン卿とサムサラ城のカイト・ベーレンスに命令を出した。
(バルトール人の若者達を赤の要塞に移動させる)
 
 その夜エレーデの部屋を、聖なるリラの巻物の守護神エイトリが訪ねた。この頃ではエイトリはすでに少年というよりは青年に近い体格になっている。知恵の神は美しい顔をエレーデに向けて言った。
「春になったら、この学校を出る準備をしておきなさい。ここにわずか一年しかいられないのは残念だが、ベリックがお前を必要としている」
「はい」
 そしてクスリと少女は笑った。
「次にお会いする時には、エイトリ様だとわかるでしょうか」
「スハーラが着々と知恵をためてくれているらしい。私の成長もはやくなっている」
 エイトリは嬉しそうに言うと姿を消した。

 シャンダイアの外交官達は朝が早い。カイト・ベーレンスが朝早くロッティからの報告を持ち込むと、アシュアンは何か書き物をしている際中だった。
「ロッティから伝令鳥で連絡が入りました。バルトール人の兵が北に移動するそうです。子爵は鋭い人ですから何か気づいたのでしょう」
「だろうな。バルトール人の兵の移動にどのくらいかかるんだ」
「ポイントポートの西からここまで一か月、赤の要塞までさらに一か月」
「ならば我々が出発の準備にかかる時間は十分にあるな」
 カイトはアシュアンの手元を覗いた。
「それで、結局誰の書状をもらうんですか」
「おや、まだ言っていなかったか。書状はあきらめた、ユマールに渡る」
「ええっ」
「もしモントの言う通りソンタール皇帝が空位ならば、帝国の三大権力者の一人ゼイバーと通じる事は、即ソンタールを割る事になってしまう。それならば確実に皇子と呼ばれる人物がいるユマールに先に行ってみようというわけだ。策略好きなモントは手ぐすね引いて、すでにユマールのバルトールマスター・ケイフに連絡を取っている」
 カイトはまじまじとアシュアンを見つめた。
「どうした」
「正直に言っていいですか」
「もちろんだよ」
「私はあなたを九諸侯の中では一番気が弱い、戦いに向かない人だと思っていた」
 アシュアンは顔をあげてカイトのほうを向いた。
「それは間違い無いように思うが。わしとテューダの家は代々文官だったし、ランバンの息子も文官の道を選んでいる。わしはそのテューダやランバンよりも気が弱い」
「しかし少なくとも勇気は一番あるのかもしれません。他の者は常に強力な軍隊に囲まれていますが、あなたは裸同然だ」
「そうだよ。だからその前にレイナに手紙を書かねばいかんのだ。明後日、我々はネイランに向かって立つ」
 そう言って小太りの伯爵はまた机に向かった。そして部屋から出ようとしているカイトに思い出したように声をかけた。
「わしらが出発したら、マキア王に牙の道に温泉を建設するように頼んでおいてくれ。もし帰る事が出来たら入ってみたい。それからこの部屋にも火を入れてくれ、外にいて動き回っているお前達は気が付かんかもしれんが、建物の中でじっとしているいると寒い」
 カイトは片手を上げてわかったと合図をして部屋を出て行った。やがてアシュアンの元に届けられた薪には上等のワインが添えられていた。

 その頃、ソンタール帝国の首都グラン・エルバ・ソンタールでは、黒の神官の総帥ガザヴォックが神官達を集めて指示を与えていた。ここに集まっているのは獣の魔法使いの次に位置する高位の神官達である。大魔法使いは静かな声で言い渡した。
「時は来た。セントーンに総攻撃をかける」
 その時、ガザヴォックの体が青白く光った。そして魔法使いは世にも恐ろしい笑い顔を見せた。いつもは思慮深い静かな老人が突然見せた笑い顔を見た神官達は、あまりの恐ろしさにそれから一週間は夜ごとうなされる事になるだろうと悟った。神官達が恐怖の目で見つめる中で黒い指輪の魔法使いガザヴォックは思わず声に出してつぶやいた。
「いた」
 ガザヴォックは手の中に光と共に現れた魔法の鎖をたぐり寄せ、遠くカインザー大陸にいるアーヤ・シャン・フーイの魂を縛り上げた。
 
 ロッグを通り過ぎて半月後、マコーキン軍はクリルカン峠の麓に野営を張った。バルツコワが兵に指示を与えている声を聞きながら、マコーキンはランスタインの白い峰を見上げた。
「雪に間に合わなかったな」
 隣でバーンが寒そうに手をこすった。
「まだ降り始めです。深くなってはどうしょうも無いが、これなら何とかなります。軍を使って鬼を追い込みますか」
「いや、無駄なような気がする。私と一部の兵だけで良い」
「それではこれ程の兵を連れて来る必要はありませなんだか」
「いや。ガザヴォックがどうやって鬼を魔法で捕まえるのかわからないが、連れて帰らなければならない。道中の治安の維持に兵は必要だ。さあ、明日の早朝からザークの探索を開始する」
 そう言ってマコーキンも設営されたテントに寒そうに駆け込んだ。

 マコーキン軍の後を追ったベリック達は、速度はマコーキン軍より速かった。しかしクリルカン峠の近くまでは東に向かう街道がただ一本の道であったため、マコーキン軍を追い越さずに慎重に後を付けながら進んだ。やがて遠くにクリルカン峠が見えると、早目に街道を南に逸れてランスタインの山地に踏み込んだ。ナバーロやフスツが山の案内に詳しかったため、一行はマコーキンの兵の監視をうまく避けて、数日後には峠を見上げる洞窟にもぐり入んだ。皆は一休みして落ち着くと、マルヴェスターに目を向けた。
「わかったわい。お前達はそういう奴らだ」
 翼の神の一番弟子は文句を言いながらも鳥に変身して周りの偵察に飛び立った。やがて白い鳥の姿の魔術師は洞窟の前に戻ってくると、バタバタと着地して人の姿に戻り、手をさすりながら洞窟に飛び込んで来た。
「ええい寒いぞ、寒いぞ。隣の谷にマコーキンがいる」
 マルヴェスターはトリロが用意した熱いお茶のカップをいとおしそうに両手で包んだ。そこに洞窟の奥からサシが出てきた。
「かなり奥まで繋がっていますが、私の勘ではどこかに通じています。通り抜けてみましょう」
「よし、試してみよう」
 乾いた洞窟の中は怖いくらいに静かだった。気温は低いが風が無いので骨に染み入る程の寒さは無い。何も見えない真っ暗な空間の中をサシ・カシュウの手を握りながらベリックは進んだ。そしてふと気が付くとサシの顔が見えた。光が戻ったのだ。吟遊詩人が指差す先には洞窟の入り口をふさぐ、明るい白い雪の壁があった。力自慢のビンネが拳で雪を突き破ると、冷たい空気がどっと流れ込んで来た。雪をかき分けて洞窟を出たベリックは、目の前の谷に何者かが立っているのに気が付いた。そして風の向きが変わり、吹雪の切れ目に視界が開けると、その者が巨大である事を知った。その巨大な生き物は人の声で轟くように叫んだ。
「待っていたぞ短剣の守護者」
 ベリックの後ろに仲間達が立った。魔術師マルヴェスターが少年の肩に両手を置いて鬼を見上げた。
「久しぶりだな、ザーク」

 (第七章に続く)

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