| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

シャンダイア物語

第六部 統治の指輪
第一章 女王の帰還

福田弘生

 名も無き星の青空に、白い鳥が花びらのように舞った。
 シムラーの島からクラハーン神の神官デクトが放った伝令鳥が、シャンダイアの各地に女王の帰還を知らせたのだ。鳥達が伝えたメッセージは次のようなものだった。
「女王が戻られた。剣を持てシャンダイアの戦士共、聖宝の守護者達と共にソンタールの将を迎え撃て。決戦場は守りの平野セントーン」
 名も無き星の月光の下に、黒の神官の念による伝達が飛び交った。ねじくれた表現と勝利後のおぞましい報酬についての内容を省くと、内容はおおよそ次のようなものであった。
「ソンタールの皇帝ハイ・レイヴォンは強大なり。汝らの魂をかけてお仕えせよ。聖宝の守護者を滅ぼせ、戦場はセントーン」

 この呼びかけに両軍の戦士達は奮い立った。緑の要塞を奪回したソンタール帝国のマング・ジョール侯爵は、兵を整えて南からセントーンに侵入する計画を立てていたが、海上からはザイマン王国の貴族デル・ゲイブが指揮する艦隊が隙あらば攻撃を仕掛けようと機会をうかがっていた。
 バルトール征伐に向かったソンタール帝国第六の将パール・デルボーンは、誤って起動したガザヴォックの罠によって壊滅的な打撃を受けたため、やむなく残った二万の軍勢を率いて首都グラン・エルバ・ソンタールへの帰還を図った。しかしランスタイン大山脈を越える街道の入り口の都市リナレヌナには、バルトールのマスター・トンイ率いる二万七千のバルトール軍が守りを固めていた。
 さらに追撃して来たロッティ子爵の四万の兵から激しい攻撃を受け、追われるように東に逃れた。そしてセントーン北方の都市ソーカルスに兵一万を率いて駐留しているマコーキンと合流するため、北からセントーン平野に侵入した。
 ソンタール大陸の中心部にあるエルバン湖の湖上要塞にいるゼイバー提督は、艦隊を率いて水上からセントーンに向かいたいと熱望していた。しかしエルバナ河に築いた砦がカインザー王国のトルソン侯爵の激しい攻撃を受けており、首都のおびえた貴族達はゼイバーの遠征を許さなかった。
 ユマールの将ライケンはすでにセントーン南方の都市ダワへの上陸準備を完了し、キルティアの別働隊もダワに近づいていた。さらに南海のグーノス島では海賊王ドン・サントスが己の身の安全を守るためにどうすればいいか思案に暮れていた。
 そんな中、サルパート王国のマキア王だけは、自分の役割と判断したトルソン侯爵への補給を淡々とこなし、自分自身が兵を率いて遠征する事など思いもよらなかった。
 復興を目指すバルトール王国は、首都ロッグにいる神官ナバーロ、巫女の長マスター・メソルを中心にまとまりつつあった。しかしユマールのマスター・ケイフは商人への転職を考えているようで、さらにグラン・エルバ・ソンタールに潜入しているマスター・ジザレは何を考えているのか誰にもわからなかった。
 ソンタール帝国の首都では、即位したばかりの皇帝を中心に六人の大老による政治が続いていた。現皇帝ハイ・レイヴォンを擁立したハルバルト元帥、ゼイバー提督、魔法使いガザヴォックの三人が事実上の支配者であったが、貴族議会のケルナージ大公、商人ギルドの長レボイム、巫女の長メド・ラザードは表向きは従うふりをしながらも、裏では長年の諍いを水に流して結託し、権力の奪取を目指して策動しているようだった。

 この緊迫した状況に最も闘志を燃やしたのは、他ならぬセントーンのゼリドル王子と、攻め手の総大将である東の将キルティアであった。
 この両軍はセントーンの中心部にあるルボン平原において繰り返し激突した。
 ゼリドル率いるセントーン王国軍はキルティアの軍と七回戦って三回勝ち、四回負けてついにミルバ川の上流の大都市トラゼールまで退却して十万の兵と共にたてこもった。キルティアは濃紺の鎧の三十万の大軍をもって包囲したが、その軍が二つに割れた。グラン・エルバ・ソンタールから派遣されていた十万の軍が、ライケンと合流するためにダワに向かって大挙移動を開始したのだ。キルティアはトラゼールの包囲を完了させると、容赦なく離脱した軍に後方から攻撃を仕掛け、ガリガリとその軍勢を刈り取った。この内紛で、追い詰められていたゼリドル王子の軍は時間をかせぐ事ができた。

 シャンダイアの王家の末裔アーヤ・シャン・フーイは、聖宝の守護者達の力でガザヴォックの虜になっていた魂を取り戻した。その女王を中心にした聖宝の守護者達を乗せた高速艇がセントーンの首都エルセントに戻ったのは、トラゼールが東の将に包囲されたとの知らせがエルセントに届くのとほぼ同じ頃だった。
 シムラーに行く時には不滅の鷲デルメッツの先導を受けて闇に閉ざされた海を渡ったが、帰りはその闇の力が海を閉ざしていなかった。黒い冠の魔法使いはすでにセントーンに上陸し、守護者達の行動には今のところ注意を払っていないようだった。船はホックノック族のチッチ・ヒッチの先導で南に向かう海底海流に運ばれて戻って来た。
 チッチ・ヒッチは船を送り届けると、海の女王ミッチ・ピッチの元に戻った。海の精霊達は戦闘そのものに参加するつもりは無かったのだ。
 エルセントに着くと、カンゼルの剣の守護者セルダン王子とミルカの盾の守護者エルネイア姫はミルトラの泉に向けて旅立った。すでにミルトラの水の効力は切れ、セントーンの兵士達は守護神の庇護の無いままに戦っていた。ミルトラ神の力を復活させなければセントーン軍に勝ち目は無い。
 バザの短剣の守護者ベリック王とカスハの冠の守護者ですでに王となったブライスはダワに向かった。ライケンの上陸には間に合わないかもしれないが、ダワにはトーム・ザンプタやアントン・クライバーらの大切な仲間達がいたのだ。
 アスカッチの指輪の守護者アーヤとリラの巻物の守護者でサルパートの巫女であるスハーラは、魔術師マルヴェスターと共にエルセントに残った。マルヴェスターは出かけてゆく守護者達にアーヤの無事を約束した。
 ブライス達が出発した数日後、セントーンの王城エルガデールにライケン上陸の報が届いた。

 (第二章に続く

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ