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シャンダイア物語

第六部 統治の指輪
第五十五章 魂の監獄と毒の娘

福田弘生

 

 メド・ラザードの娘ティズリはあまりの展開にとまどっていた。いや、困っていたと言ったほうが正確だろう。
(あたしはどうしたらいいのかしら、このままではレリーバは消えてしまう、デッサは死んでしまう。黒い巻物も手に入らないだろう、あたしは何も出来ずにグラン・エルバに戻る事になる)
  ティズリはなぜか初めてレリーバに会った日の事を思い出した。
  もうずいぶん昔の事になる、しばらく旅に出ていた母のメド・ラザードが、自分と同じ年頃の三人の娘を連れて首都の中心部にある広大な屋敷に帰って来た。おびえた三人の娘は母の実験室に連れて行かれ、やがて一人の不思議な娘が戻って来た。
  その日からティズリと、レリーバという新しい名をもらった娘との対立の日々が始まった。
  偉大な母に気に入られようと、ティズリはそれなりに一生懸命に魔法の勉強をし続けてきた。しかし母の実験の結果、三つの魂を持った怪物のようになったレリーバにはいつもかなわなかった。
  ある日、レリーバと毒を使った魔法で争ったティズリは顔に大きな傷を負った。やがてレリーバが東の将の魔法使いとなり、毒の専門家となった時、ティズリは迷わず毒を封じる氷の力を自分の魔法の中心に据えた。
  そのレリーバが今、目の前で千切れそうな白い魂となって悲鳴を上げている。
  その横ではテイリンという若い魔法使いが、冷や汗を流しながらガザヴォックの強大な圧力に抵抗していた。薄い茶色の髪は、寒さにもかかわらず流れ出る汗で額に貼りつき、細い顔はいまにも押しつぶされそうにゆがんでいる。
  その隣に立つ二人の男女は美しかった。
  マコーキン将軍は、その姿と振る舞いで魔法使いの娘達の中でも人気の高い将軍だった。彼の家柄が低い事は、貴族とは別の組織の魔法使い達には関係なかったのだ。
  魔術師ミリアの美しさはティズリの予想を超えていた。魔力は美しさに比例するのかと、ティズリは真剣に考えた。
  その二人が手を握り合って、光と闇の魔法の均衡を支えようとしている。
  その人々を見守るシャンダイアのエイトリ神はいかにもひ弱に見えた。おそらく本人が言う通りさほどの力は無いのだろう、もともと精霊程度の存在なのだ。太古の猫デッサは良く知っていたが、周りを飛び回っている小さなてんとう虫が、伝説の情報の獣ジェ・ダンだと知った時には驚いた。ティズリは思った。
(あれを捕まえて帰れば、かあさまは喜ぶだろうな。それで今回の不手際を許してもらえないかしら)
  その時、全身の血液の中を這いまわる母の力を感じた。ティズリは絶望にうめいた。
(いつもそうだ、母に子供の頃から飲まされてきた薬、あれが私の体の中に母の力を導く道をつくってしまったのだ)
  ティズリは生まれて初めてこの力に抗ってみたいと思った。目の前に展開している巨大な魔法の進行に、自分の意思で参加してみたいと願った。しかしそう思う間もなく意識は落ちて行った。
  やがてティズリは暗い箱のような部屋の中に立っていた。
(いつもそうだ、かあさまがあたしを操る時、ここにあたしの魂は落とされる)
  しかし今日は何か雰囲気が違っていた。不思議に思って部屋の中を見回したティズリは、部屋の中央に黒い服を着た綺麗な少年が立っているのに気付いた。
「ティズリだね」
  少年は威厳のある声でたずねた。
  ティズリはその少年の正体に気付いて驚いた。
「皇帝陛下、ハイ・レイヴォン様」
  少年は微笑んだ。
「ここはガザヴォックが他人の魂を捕らえた時に使うたくさんの部屋の一つ。しかしいつの間にか君の母上が細工して、この一部屋だけがガザヴォックの魔法の監獄から隔離された。ここで起きた事はガザヴォックには知られる事は無い」
  ティズリは驚いた。
「あたしは小さい頃からここを使っていました。母の魔法かと思っていましたが、まさかガザヴォック様の魔法の中だったなんて」
「メド・ラザードが準備していたんだろう、君が黒い秘宝の魔法使いになった時に、ガザヴォックに魂を握られないように。レリーバの誕生でもわかる通り、ガザヴォックの弟子である君の母上は魂を操る魔法にも精通している」
「陛下はどうしてここをお知りになったのですか」
「ガザヴォックに魔法を習っている最中に見付けたのさ」
「なぜ今ここにいらっしゃるのですか」
「ガザヴォックとメド・ラザードが大きな魔法を使っていた、だからここに来れば何かわかると思ったのさ」
  ティズリは目を丸くして少年を見つめた。
「どうした」
「陛下の魔力の大きさに驚いているのです」
「いや、たぶんまだまだだろう。今もガザヴォックやメド・ラザードが何をしているのかさっぱりわからないのさ、君にわかる範囲で説明して」
  ティズリはタルミの里で起こっている出来事を説明した。少年はうなずいた。
「重要なのは秤の魔法の存在と、魔法の消滅と誕生だね。レリーバやその男達の人生は彼ら自身の問題だ」
  ティズリは少年の聡明さに背筋が寒くなった。
(評判は高い人物だが、これは予想以上。もしかしたらとてつもない魔法使いになるかもしれない)
  少年はティズリを見上げた。
「僕はまだ若くて未熟だ、だからガザヴォックや君の母上の力が必要だ。かつてシャンダイアの聖宝の守護者達も見た事があるが、彼らは僕よりは年上だけどやはり未熟だった。でもこの戦いに決着を付けるのはガザヴォックでもメド・ラザードでもマルヴェスターでもない、彼らの次にやって来る魔法にかかわる僕らだと思う。ティズリ、君もまだ成長するだろう」
「もちろんそれを望んでいます」
「それでいい、今はここでタルミの里の結末を見守ろう」
「陛下はご自分でそのような事をお考えになったのですか」
  少年はウインクした。
「僕には師が二人いる、一人はガザヴォック」
「もう一人は」
「これは誰にも内緒だよ、ガザヴォックも知らない。もう一人の師は大鬼ザークさ」

 (第五十六章に続く


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