第三章 銀河団のトラブルバスター編

第十二話 アンドロメダ銀河到達!

 稲葉小僧

俺は今、猛烈に感動している。

ついに、ついにやって来たぞ、アンドロメダ大星雲! いや、アンドロメダ銀河と呼ぼう! 


いやー、20世紀や21世紀のSF小説のビブリオファイルや、宇宙からの侵略勢力としてのアンドロメダ銀河は有名だったもんね。

漫画やアニメのビブリオファイルだと、どっちかつーとファンタジー系統で有名なアンドロメダ星雲だったりするんだが。


ま、いいや。遠い銀河系より、はるばる旅してやって来ましたよぉ、アンドロメダ銀河様! 


「マスター、意識を飛ばさないでくださいよ。私にとっては銀河系からアンドロメダ銀河まで跳ぶことなど、まだまだ主機負荷の1%にも達しない距離ですから」


「ちぇっ、少しくらい感慨に耽らせてくれたって良いじゃないか、フロンティア。今現在の銀河系や大小のマゼラン雲の生命体にとっても、 このアンドロメダ銀河への旅は命がけとなるんだぜ。まあ、お前さんにとっちゃ、お隣へ行く気軽さなんだろうけど」


「それでも、我が主。アンドロメダは全く見知らぬ銀河なのです。最初のデータ収集くらいは真面目にやって下さらないと、何時、どんな危険が潜んでいるかも知れないんですから」


「プロフェッサーは、あいも変わらず心配症だなぁ。今現在、フロンティアは、ずいぶんと拡張工事が進んで……あれ? 今、直径何km?」


「はいマスター。今、私の船体の直径は、およそ50km超えです。大マゼラン雲での瓦礫を質量として貰ったのが良かったですね。 あれで一気に船体拡張工事が進みました。今も私の中では拡張工事が進んでいますが、船体としての基礎部分は完全に復旧しました。 これからは、付加装置やエネルギーサブシステムの設置場所、そして、これからも増え続ける搭載艇群を収容する余地を設けていくことになります。 最終的には主砲の設置と運用を主目的とします」


直径50km超えた宇宙船。もう宇宙空間に浮かぶ巨大な要塞か、あるいは超巨大な宇宙空母と言ったところ。戦術兵器じゃなくて戦略兵器だ、こうなると。


「ちなみに、フロンティア? 今の時点で搭載艇の総数は?」


「はい、マスター。超小型を一機づつ収容していては発進や収容に時間がかかりすぎますので、超小型と小型搭載艇については、 母艦に当たる大型の搭載艇を開発しまして、そこに収容してあります。大型搭載艇の総数、およそ300機。 一機当たり、超小型と小型搭載艇が200機まで収容可能です。ただし、全てが100%搭載とは行っていないのが現状ですが。 ただ今の時点で、計画の60%というところですね」


うわお! 立派な宇宙空母だな、それ。フロンティアに敵対できるものなんか存在するのか? 

あ、そうか、あったな。遥か昔にフロンティアを太陽系にたたき落とした存在が。

俺も薄々は気付いているが、フロンティアが話したくなさそうなんで質問しない。

まあ、いつか話してくれるだろう。設計時の無敵モード時でもフロンティアが敗北した存在が、どんなものなのか。


俺達はアンドロメダ銀河の縁に近いポイントで待機しながら、先行潜入した情報収集用搭載艇群からの情報を集めていた。

今回のアンドロメダ銀河も退屈しないで済みそうだな、こりゃ。


「我が主、悪い顔してますな。いつになったら、トラブル好きの困った性格が治るのやら」


悪かったな、プロフェッサー。トラブル解消は俺の生きがいなんだ。死ぬまで治らんだろうよ。


とりあえず事前の情報収集は終わったんだが、何だ? 何が起きている? このアンドロメダ銀河で。


「プロフェッサー、フロンティア。とりあえず、ロボット2人の意見を聞きたい。この状況は一体どういうことだと思う?」


俺達フロンティアクルー全員が見ているのは搭載艇が収集してきたアンドロメダ銀河の現在の様子を撮ったチップを、でかい画面で表示させたもの。そこに映っていたものとは……


「マスター、彼らは明らかに地球で言う「中世時代」の文明に生きているようですね。生活全てに、その中世時代、封建時代、王制国家の影響が見られます」


「我が主、これは我々が手を出すと文明の急加速現象になりかねませんよ。慎重に行動すべきではないかと考えます」


「ふむ。生命体としての感想も聞きたいな。エッタ、ライム、感想を」


「分かりました、ご主人様。私の見たところによりますと中世文化なのですが、やけに綺麗な町並みや服装、肌ですね。 中世時代の文化程度だと、お風呂や衛生観念が低かったりで街中に尿や糞がまき散らされているのが普通ですが、この町並みには、そのような光景は見られません」


「キャプテン、私も1つ。金属が普通に生活に用いられているようですが、その使い方が中世風ではありません。まるで、中世の環境で現代人が暮らしているような感じですね」


「分かった。中世風の文化だけど、その中に現代人としての衛生観念は徹底されている暮らしってわけだな。 じゃあ質問。なんで、こんな変な文明が育ってるんだ? フロンティア、アンドロメダ銀河にも宇宙船の存在は確認されてるよな、データチップにあったぞ」


「マスター、宇宙船の存在は確認済みです。かなり高性能な跳躍機関でアンドロメダ銀河内部なら充分に交易や警備が可能な性能と武器も備えています。 ただし熱線ブラスターやレーザー等の高熱兵器が主のようですが」


うーん、ますます意味が分からんぞ。少なくともアンドロメダ銀河を代表するような勢力があるくらいの文明程度がある。

しかし、惑星には高度な文明を代表するような建築物は見当たらず、大きくとも城塞国家規模の町ばかり。

これが縁だけ特別で中央星系に行けば文明程度に見合った建築物があるかと思えば、中央星系でも中世風の建物ばかり。

アンドロメダ銀河、ここには何か秘密があるに違いない。俺達は、その秘密を探ることにした。


「こんにちわ、アントニオ公の町へようこそ。ここへは、どういう事情で来られましたか?」


俺達は中世風の衣装(中程度の貴族風)を着込んで馬車に乗っている。馬車を動かす担当、御者はプロフェッサー。

人間じゃ、馬(6本足だけど、この星系じゃ「馬」と呼ばれてる土着の動物だ)を制御するのも難しかったから。


「我が主は奥様と娘、執事と私を連れて観光の旅をしておるのです。こちらが手形、こちらが旅行の証明書となります」


プロフェッサーが、えらく旅慣れた風に応える。


「はい、確認いたしました。この町が気に入ってもらえると嬉しいですね。宿は、もうご予約済みですか?」


「いいえ、観光がてら、宅のご主人様と、その土地の一番豪華な宿に泊まるのを楽しみにしておりますの。そういうお宿、ご存知かしら?」


ふふふ、エッタも堂に入った台詞を。


「おお、それでしたら、私のほうでご案内しましょう。宿も食事も豪華ですよ、お勧めです」


「では、ご案内をお願いいたします。御者、着いて行きなさい」


さて、なんとか地方星系に潜り込んだぞ。この星間航行技術と中世文化って溝を埋める何かがあるはず。


辺境星域の一惑星の、とある大陸の一部、小さな都市国家に、俺達は宿泊している。

地元通貨はどうしたって? 

そんなもの、フロンティアに言えばいくらでも製造、してくれませんでした、実は……


「マスター、いくら何でも私に偽造通貨を作れという命令は。こればかりは未成熟な星系に住む生命体の文明を壊すことになりかねませんので、お断りします」


「フロンティア、しかし、お前が造ったものなら、本物通り越した純粋金貨になるんじゃないか? それ、偽物と言わないだろ」


「しかし、地元の星系政府や国家が正式発行していない通貨であることは明白です。出来が良かろうが、偽物には変わりがないでしょう」


「うーん、そこまで拒否するか。じゃあ、どうする? 俺達には、この文明程度に合せた交易品なんか船に積んでないぞ」


「では、こうしたらいかがでしょうか、我が主。文明を壊さない程度の日用品を、とある発明家が造り出した、ということで、売りだすというのは」


「お、いいね、プロフェッサー。具体的に、何にする?」


「はいはーい! 提案がありまーす!」


「おや? 珍しいな、ライム。思いついたアイテムでもあるのか?」


「はい、キャプテン。この時代背景ですと、台所仕事に必要な「火」を用意するのも大変かと思います。地球で流行した「使い捨てライター」なんて、いかがですか?」


「ライム、いいアイデアだ。エッタは、どう思う?」


「そうですね、ご主人様。種火として保存しておく技術はあると思いますが、種火を消してしまえば、もらい火しか手はないので、これは良い案かと」


「よーし、決定! んじゃ、フロンティア。100回位で使えなくなるように壊れやすく加工したライターを、 ここの文明で使われてる材料で試作してみてくれ。具合がいいようなら、町の雑貨店へ試作品を持ち込んでみる」


「分かりました、マスター」


ということで、すぐさま地球文明のデータベースから引っ張りだした使い捨てライターを試作するフロンティア。

船内工廠に実験室みたいな区画を作って真剣にやってるが、大丈夫か? などという俺の心配など吹き飛んだのは翌日。

見事に試作ライターは完成していた。しかし……ライターというよりも火付け棒だよな、この長さだと。

材質は、この惑星で採れる資源で作り上げてあり、捨てても惑星の土に戻るように素材を加工している。

俺は早速、この「ライターもどき」を雑貨屋に売り込みに行った。主人は俺のことは胡散臭そうにしてが(まだ身分証も作ってなかったからね)商品には目の色を変えた。


「あ、あんた! 他の店や問屋には、この話、してないだろうね?! よござんす、ウチが買い取りましょ。とりあえず、いくらの価格を付けるつもりだい? この画期的商品に」


「いやー、きまぐれで試行錯誤してたら出来ちゃったんですね、これが。ところで、ワタシ、この町へ来て間がないんだけど、 この町の貨幣基準って、どうなってます? 一応、最低貨幣の百枚分くらいで売るつもりなんですけど」


「ふむ、貨幣だと最低が石貨、これが10枚で鉄貨、鉄貨10枚で青銅貨、またこれ10枚で銅貨、10枚づつで銀貨、金貨と上がってくよ。 これ以上だと大金貨とか白金貨とかあるけど、でかい取引で使われるだけ。通常は金貨までだよ」


「そうすると青銅貨一枚ってところかな? 価格付けだと。ご主人、どう思う?」


「ウチの店としちゃ、安かったら大量に売りさばけるんで有難いけれど。ダイジョブかい? そんな激安価格で」


「あ、やっぱり安いと思いますよね、ハハハ。でも、あまり高くて貴族様以上の人しか買えないものより、普通の人たちに使ってもらいたいじゃないですか。青銅貨一枚でお願いします」


「よござんす。あちきも商売人です。大儲けになりそうな話を自分で潰してでも使いやすいものを皆に使ってもらうって考え、 あちきも乗ります! でも大量に売れるよ、こりゃ。毎日の卸、大変だよ?」


「はははは、それは大丈夫! じゃ、明日から1000個単位で持ってくるからね。待ってて」


で、それからはフロンティアに製造ラインを急遽作ってもらって、ライターの大量生産! 

原料タダだし(惑星の大気中のゴミから原料採取してます。大気は幾分かキレイになったかもね)造るのはロボットラインだから品質は一定化してます。

これで売れないほうがおかしい。翌日持ってった1000個は、またたく間に売れ、その情報を聞いた近辺の雑貨屋や卸問屋が店にやって来た。

口コミで、またたく間に広がったライターは、いまだに雑貨屋の主力商品となっている。


現在、上記の商売から3ヶ月目。

いまだにライターの品質は俺にしか保てないため(構造は簡単だが、壊れやすすぎて、他のやつが作った偽商品は100回の使用に耐えないのだ)注文は尽きること無し。

おかげで、こちらの懐も潤い、にわか貴族に変装して調査旅行してるわけ。

しかしなぁ、この変な、歪な文明と文化の解明には、まだ手がかりすら無い。どうして、こんな変な文明ができたんだろう? 


宿も取って馬車も収容させてもらい、馬たちは宿の馬丁達により食料・水を摂取している。ここで一旦、集めた情報を整理するか。

それにしても宿は広い一室が取れて幸運だった。俺は思い思いに休んでいるクルーの面々に声をかける。


「みんな、集まってくれ。今までの情報を整理したい」


全員が少し大きめのテーブル(食事のテーブル兼ねてるんだろうな、 お貴族様は一般市民とは一緒の食卓に着けないとか言って自室に持ち込ませる奴も多いんだろう)を囲んで向かい合うような形になる。


「揃ったな。じゃ、フロンティアから、搭載艇群の現在までに情報収集できたところまで報告してくれ」


「はい、マスター。中世の町並みから容易に想像できたのですが、この城塞都市には電波の発信源はありません。 アンドロメダ銀河内での宇宙船の存在は確認されておりますので搭載艇群に捜索させたところ、 この惑星には広い砂漠地帯の真ん中に宇宙港が1つ発見されました。そこからの電波交信は活発なのですが、 その宇宙港以外からの電波交信は確認されておりませんので、推測ですがアンドロメダ銀河内では何らかのタブー、 あるいは宗教的な意味か、あるいは考えたくはないですが一種の「隔離政策」をとっていると思われます」


「ふむ。意図的に宇宙へ出る手段と地区を民衆の目から遠ざけている、あるいは使わせないようにしてるということか。根が深そうだな」


「では次に私が報告します、我が主。町へついて、あちこち出向いてまいりましたが結構な数の酒場がありましたので、そこで飲んでいる方たちに町の噂を聞いて回りました」


「で? 何か面白そうな話は、あったのかい、プロフェッサー。小さな町みたいだから何もなくても当然のような気はするけどな」


「はい、あまりにも酷い、嘘と如実に分かるものは排除しましたが、数点だけ興味深い噂が有りました」


「ほぅ、ぜひとも聞かせてくれ。この変な文明を解明する糸口になるかも知れない」


「はい、では。この噂、数点有りましたが、どうも出所は同じと思われます。細部が違っていますが、どの噂もメインストーリーが同じなのです」


「ますます面白くなってくるね。どんな噂だ?」


「はい、この町に限らず、周辺の町から一定数の子供が定期的に消えているという噂です」


「ん? 家出とか両親が亡くなって親戚の町へ行った、とか言う事じゃなくて普通に生活してる子供が、定期的に一定数、消えている?」


「そうです、我が主。惑星の警察機構は、これにより何らかの危機感を覚えたようで、町中を巡回して消えた子どもたちを捜索しているようです」


「変だな。フロンティア、その消えた子どもたち、搭載艇群の捜索で見つからないか?」


「はい、マスター。やろうと思えば可能ですが今のようなステルス状態での子供の捜索は無理ではないかと推測されます。 ただし、その子どもたちが最終的にどこへ行くか? は容易に推察できます」


「え? 最終的に、どこに行くか? そうか。あちこちから一定数を周期的に集めてるんだから結構な集団になるはずだよな。それを運ぶ……あっ!」


「我が主、宇宙港ですね、多分。そこから別の星系へ運ばれるわけです」


「プロフェッサー、フロンティア、ビンゴだ! 搭載艇群は宇宙港を重点的に監視してくれ。 特に交信が活発になったら報告してくれよ。それまでは俺達はこのまま旅を続ける。いいか、子どもたちを乗せた宇宙船、逃すんじゃないぞ! 大ヒントになる可能性が高いからな!」


さて、ようやく動き出したぞ、アンドロメダ銀河の謎。解明に到れるか? それとも、最初からやり直すか。一種の賭けだ。

搭載艇群には惑星唯一の宇宙港に張り付いてもらい、電波交信の解析と宇宙船の発着監視に努めてもらう。

俺達は手分けをして、この町だけじゃなく周辺の町も含めた、子どもたちの消失事件を詳しく追うことにする。

一応、各自の安全を図るため、完全ステルスモードにある超小型搭載艇を各人に一機づつ護衛としてつける。

(まあ、そこまで手荒い手段に出ることはないと確信してるけど、未知の仮想敵も)


でもって各自がバラバラになり、夜になるまで様々なところで情報収集することにした。

夜になったら宿に集まり、各自の情報を共有・統合する。俺達が動き出してから4日目の夜。今夜も各自の情報を話し合う。


「まずは、俺からだね。顔を覚えてもらったせいか、ようやく打ち解けて話してくれるようになったよ、皆さん。そこで、今日のニュースだ。消えた子どもたちの一人の親に会えた」


「マスター、見事に当たりましたね。で、どうでした? 消えた子どもたちには共通の条件でもありましたか?」


「まさにビンゴ! だったよ、フロンティア。その親が言うには、消えた子どもたちには、頭がいいって共通点があった」


「はい? 我が主。残念ながら、親が子供の頭がいい、賢いというのは、どの親も同じですよ」


「プロフェッサー、違うんだよ。普通に賢い子供くらいじゃ、消えてしまうグループには入らない」


「え? ご主人様、そうすると、ただ頭がいい、賢いとかのレベルではない、知能の異常発達のような子どもたちだとでも?」


「お、エッタ、正解だ。ここの文明程度は中世なんだが、消えた子どもたちの言動や行動から推測すると、 いわゆる知能段階が突き抜けているような子どもたちらしい。なにせ、その親御さんから聞いた子供の発言や行動が、この世界を壊しかねないものだったらしいからな」


「キャプテン、でも、いくらなんでも子供の発言や行動などで、かなりしっかりした社会体制に思える、 この社会を壊せるでしょうか? 銃や爆薬の発明でも、あまり急激に社会体制は変わりませんよ?」


「そう、普通の発明や行動なら、な。ライム、その子どもたちの発想力や行動力は普通じゃなかった。 そう、核エネルギー理論や俺達が普通に使ってる「跳躍航法」とかを普通に考えだしたり研究してたりしたらしい」


「どこで、そんな高度な知識を学んだのでしょうか? それが気になりますね、マスター」


「うん、俺もそう思う。この惑星には、そんな高度な知識や学問体系などを教えられる学校など無いんだからな」


「他にニュースになりそうな情報は……無さそうだな。では情報収集する手がかりは、 もう1つ増えたってことで。消えた子どもたちは超天才ばかりだってことだ。明日も、みんな、頑張ってくれよ。 特にフロンティア、宇宙港の方、搭載艇群の監視に解決の糸口がかかってる」


親から怒られそうだが。こりゃ、面白くなってきたぞ! 


俺達が調査行動に移ってから、もう10日過ぎた。消えた子どもたちの詳細については、若干の追加情報があった。

元々は超天才のような才能や行動など、ついぞ無かったのだが、一年ほど前からじわじわと思考や行動が変わっていったのだそうだ。

何が原因だったのかは親御さんたちにも分からないと、気落ちした表情で告げられる。

この星の一年前に何が起こって、どんな存在(集団? 機構?)に、この惑星文明とは隔絶した超高度な知識や情報を教えられたのだろうか? 

俺は、その点に興味をおぼえる。毎夜、皆で集まって情報開示と共有を行っているのだが、どうも手詰まりなようだ。

これは、捜査の方法を根本から考えなおさないとダメかも……その夜の情報共有定例会議。やはり、その日も進展はなかった。

フロンティアに確認したのだが宇宙港の方も無線通信を含めて極端な増減は見られないし、宇宙港に発着する宇宙船すら確認出来ない、とのこと。


「マスター、完全に手詰まりですね。これ以上は相手が動かないと、どうしようもないと思われます」


「我が主、こちらも同様です。酒場での情報収集も、もう近隣の町は全て回りつくしました。これ以上は場所を変えてみるしか方法がありません」


ライムもエッタも、うなずいている。でも、まだ1つ探してみる箇所があるんだよ、実は。


「よし、分かった。これからは、ちょっと探し方を変えようか。今までは、消えた子どもたちと、その行く先と思われる宇宙港を捜索・監視してたよな。明日からは、探す目標を変えようか」


「え? ご主人様、消えた子どもたちの捜索は中止ですか?」


「違う、エッタ。今の状況じゃ子どもたちの捜索も原因解明も手詰まりだから、方向を変える。ライム、子どもたちは急激に知恵をつけたんだよな」


「はい、関係者は異口同音に約一年前から思想や行動がおかしくなったと言ってます。が、これをどう解釈するんですか?」


「解釈なんかしないよ、そのものズバリ真実だと思う。じゃあ、ライム、一年前に何があったと思う?」


「そりゃ、普通に考えれば、宇宙船。他の星の生命体が来て、この子どもたちを特殊な機械で急速に教育したと思われます」


「ん、そうだよな。だけど、この星、いや、この星系だけじゃなく惑星への寄港は厳しく制限されてるはずだな、 このアンドロメダ銀河では。そんな中、フロンティア並のステルス技術を使って惑星に侵入した者がいる。で、とんでもない事をしてくれるわけだな」


「マスター、分かりました。アンドロメダ銀河を支配している種族と敵対している種族・集団があるんじゃないかということですね」


「正解、フロンティア。子どもたちを探すなら、その教育を施した存在を探したほうが早いんじゃないかと思う」


「我が主、何か腹案があるんでしょ?」


「ふっふっふ……ステルスやっても宇宙船や高度な教育システムなど使っているなら搭載艇群のエネルギー探知機に反応するはずだ。 少なくともシステムやエンジンの排熱までは遮蔽できないはずだからな。排熱までリサイクルして省エネと遮蔽効果を完璧にしているのはフロンティア本体と搭載艇ぐらいのもんだろ?」


「はい、マスター。確かに。私の排熱リサイクルシステムは普通ならコストパフォーマンスが悪すぎて使わないでしょうね。 私の武器システムがエネルギーを奪う物中心だからできる芸当ですので」


「と言うことで明日からは捜索対象を変える。あ、もしものことがあるので宇宙港の方は監視を緩めるなよ。 それ以外の搭載艇は、この町を中心として同心円上にエネルギー探知を始める。くまなく探せよ、地中にあるって事もあるから」


ということで目先を変える。さて、何か見つかれば良いのだが、何が見つかるのか……


今日から捜査方針変更だ。フロンティアに言って探査用の搭載艇群を呼び寄せ、予想では微弱とは言えないだろう廃熱エネルギーの探査を開始する。

俺の予想では、かなり巧妙に隠されてはいるだろうが、見つからないという事は無いはず。

なぜなら、いくら高度とは言えフロンティアほどの科学力を行使している様子が見られないから。

消えた子供たちの教育方法が分からないだろう、って? 確かに。しかし、急激な教育方法は俺自身も体験してる。

(プロフェッサーのやった冷凍睡眠中の急激な睡眠教育だよ。後で聞いたら、あのスピード教育は俺以外なら間違いなく発狂していたでしょうなと断言された。無茶するよ)

フロンティアと遭遇してなくても、あれだけ特殊な超高速睡眠教育が可能なんだ。そんなに超高度な科学力がなくとも実現可能だろう、子どもたちの短期集中型の睡眠教育は。

探査が始まって、そろそろ3時間。


「フロンティア、どうだ、搭載艇群の探査の進み具合は?」


「はい、マスター。順調です、この町を中心として、今は半径3kmの円内を探しています。町の付近には無さそうに思えますが、いかがしましょうか?」


「探し漏れ地点を作りたくないからな、このまま広げていく方法を取ってくれ。時間がかかるとは言っても、人手を使って捜索するより確実で短時間だろう」


さて、後は見つけた報告が入るのを待つだけだ。


(ここから、話は変わって、アンドロメダ銀河の支配者層にある種族の会議室の模様をお送りします)


「今回、議題に上った[アンドロメダ銀河内における航宙の自由化と経済の活性化]についてであるが、いかがなものか?」


議長らしき生命体が議題を読み上げる。すると、猛然と反対意見が。


「議長。議題として取り上げるなら、もうすこしマシなものをお願いしたいですな。 我がアンドロメダ銀河内では宇宙航行の自由というのは限定的に惑星間のみであって恒星間や銀河内の航宙は厳しく制限されるのが 原則でありましょう! こんなもの議題として上げる者は性格を疑われますよ?」


そうすると、今度は肯定派が一言。


「さきほどの***議員の意見に対し真っ向から反対するものである。 今のアンドロメダ銀河は文明発展の度合いが明らかに低下しておるのが老害たる***議員には全く理解できぬようですな。 現在、利権だとか派閥だとかバカな固定概念に縛られている場合ではないのですぞ! 新しい思考、新しい種族、新しい血をアンドロメダ銀河内に注ぎこむ事こそが急務!」


さあ、そこからは罵倒とヤジの応酬が始まる。興奮した一議員は、その種族特性か、触手を振り回して敵派閥を襲う。

しばらくして、ようやく落ち着いた議会に、議長の声が響き渡る。


「今回の議会は、これまで! これ以上やるなら議会内部に放水させる! 頭を冷やして考え直して来い!」


アンドロメダ銀河には戦争はないが政争で、とんでもない事態になっているらしい。


【レジスタンスの一工作員の日誌】

我々の組織は、いまだ小規模。

我々「アンドロメダの鎖を断ち切る剣」は、今の状況、各星系に閉じ込められた何も知らない罪なき人々を救い上げる組織。

しかし、我々は無力。

宇宙船として、小型の汎用個人宇宙艇数隻しか持たない組織なので、各惑星の宇宙港を占拠して隔離政策を暴露し、民衆の意識変革を促すなどという大規模行動など不可能である。

この惑星には、極秘任務で別星系へ赴くはずだったのだが途中で跳躍機関のトラブル発生、仕方なしにステルス機能だけ発生させて不時着した。

あいも変わらぬ惑星孤立化政策。

中央の役人と、既得権益にまみれた政治家や大交易商人共の企みも知らされることなく、ことによっては、宇宙へ出る手段すらも知らずに一生を終える一般市民たち。


俺の手は、こんなに小さいが。こんなに無力だが。なんとか、なんとかならないか?! 

大人はいい、子供だ! 子供たちに大宇宙へ旅立つ可能性すら与えてやれない今の政治状況は絶対におかしい! 

俺は、もう飛び立てない宇宙艇のエンジン部を見ながら、この惑星に何か貢献できないか考える。

ちょうど、極秘任務で使用する予定だった、最新式の教育機械があるじゃないか! 俺の頭に、インスピレーションが閃く! 

宇宙船の偽装に一週間かかった。一番近くの町からも数10km離れているため、作業中に惑星警察機構や、宇宙港から派遣された捜査団からも発見されることなく隠れ通せた。

宇宙艇のメインエンジンが破損し、大きなエネルギーを発生してなかったことが見つからなかった理由だろう。

その他の生活必需品と教育機械に必要なエネルギーは小さなサブエンジンから供給しているため、ステルス機能を使っていても問題はない。

さて、準備はできた。俺は近くの町から定期的にやってくる子供の団体(付き添いの大人は数名いるが、そちらは対処可能)を今回の目標とする。

宇宙艇が不時着した辺りは山と河があり、そこの付近の森に宇宙艇が鎮座している。子供たちは年間スケジュールの通り、ここにバカンスを兼ねて野外生活を体験に来るのだそうだ。

俺は言葉巧みに案内人となり(工作員だからね。このへんはお手の物)子供たちを現場まで誘導していく。

宇宙艇の近くまで来たら、付き添いの大人たちにはショックビームで眠ってもらう。数人だから簡単だ。

次は、子供たちの教育。アンドロメダ銀河の中央星系でも最新式の教育機械だから、子供の高等教育にはピッタリだろう。

一人づつではあるが、数十分交代で全員、教育機械にかかってもらう。で、ものになりそうな子供たちを選抜し、


「もっと最新の知識を知りたいなら、後で、この場所へおいで」


というメモをポケットの中に入れておく。後は全員、眠らせて、大人と一緒に別の場所へ移動させる。

俺のことや教育機械の事は全ての記憶を消しておくのは言うまでもないこと。

さて、これで、どれだけの子供たちが今の境遇に気づくかな? 

その答えは、数ヵ月後に出る。

その日は休日だったが、俺はいつものように捜査隊に注意を払っていた。その俺の目に、子供たちの集団(4人ほどだった)が写る。

俺の使命が決定した。このような閉じ込められた惑星でも中央星系と同じような教育を実現させよう! 

俺は子供たちを歓迎し、さっそく中央星系のレベルと同等の教育を行う。これを繰り返せば、いつかは惑星から飛び立つ子も出てくるだろう……

ーーー名も無き工作員の記録よりーーー


「プロフェッサー、この記録、どう思う?」


俺は問いかける。自分でも答えの出ない問いだな、これは。


「答えは出ないと思います、我が主。この手記を残したものは、こうするのが最善だったと確信していたのでしょう。 この数人の子供たちが最初で、それから何回も、この宇宙艇と教育機械は受け継がれていったのでしょうね」


「でも、ご主人様。少しづつ子供たちが友人を呼び、人数が増えていったのは理解できますが……なぜ、 今回だけ子供たちが町から消えたのでしょうか? あ、いえ、訂正します。近年になって、なぜ消えるようになったのでしょうか?」


「マスター、それについての回答らしき情報が入ってきました。中央星系を担当している搭載艇からですが、 支配者層の一部が、より一層の宇宙航行制限を課そうという議案を提出する用意があるようですね。 これが可決されてしまうと惑星間航行すらも規制されてしまい、本当に鎖国状態になりかねませんよ」


「その議案提出を辞めさせる、あるいは妨害する事を決意したってことか……」


内政に干渉したくはないんだが、ここまで酷くなったら仕方がないか。アンドロメダ銀河の支配体制について、面白いことが判明した。

種族的には酸素呼吸生命体で、生体機能を比べると俺と同じ、哺乳類、つまり人類と同じ種族と言っても差し支えない。

遺伝子構造も似通って、こりゃ、先祖は同じじゃないかと俺は類推する。

面白いこととは、支配者の種族と、このように中央星域以外に居住する種族とは、種族として違う点があると言うことだ。

フロンティアの情報収集により判明したが、このアンドロメダ銀河には多種多様な生命体が過去には存在したそうなんだが、 現在の酸素呼吸生命体(人類)により人為的に駆逐された痕跡があるとのこと。

銀河系に散らばった太古の人類達は、その生存に大半の闘争本能を燃やして、文明程度が上がってからは(地球人を除く)争いを避ける傾向にあったのだが、 このアンドロメダ銀河では支配者層の種族が、はるか昔に支配しやすいように自らの種族以外を他の星系に移住させてしまった過去を持つようだ。

(その歴史は削除されたり書きなおされたりして、支配者種族に都合のいいものとなっているが、現状の支配体系を見る限り、緩やかではあるが宇宙へ出ることを禁じた圧政に他ならない)

この支配体制、実は世紀単位で続いているそうなんだから、面白い。

今の大人や老人たちには、宇宙の記憶がない。生まれた時から惑星べったりで、星の世界へ憧れても、この星から出ることなど一部の人間にしか無理だろうと思い、諦める。

その宇宙に出る一部の人間も、そのほとんどが古代のロケット推進エンジンを装備した惑星間航行ロケットが関の山。

生まれた星の星系を離れること、そして、アンドロメダ銀河内を自由に航行することが現在、可能なのだとは考えもしないのだ。

俺は、他のクルーと話し合う。この、ほんの一部が宇宙航行を独占しているアンドロメダ銀河の現状を、どう思うか? と。


あ、ちなみに、消えた子供たちの行方は、あの日誌発見から数日後、ようやく分かった。無謀にも、子供たちは自分たちで宇宙艇を修理しようと部品の調達に奔走していたようなのだ。

不時着した宇宙艇の付近に、子供たちの一人が現れたので、とりあえず捕まえて話を聞く。

最初は逃げようと暴れる子供、しかし、俺が宇宙から来たのだと話すと、お願いだから、宇宙へ連れて行ってほしいと頼まれる。

その子に頼み込んで、他の子供たちも説得してもらうことにしたら、これが上手くいき、消えた子供たちは全て発見された。

その後、俺達に全て任せて欲しい、君たち子供が宇宙へ出られるようにしてあげるから……

と誠意をもって話してやると、とりあえずは納得して、それぞれの家に帰っていった。

さて、子供たちの願いを背負った俺達が、このアンドロメダ銀河でできること。それは何だろうか? 


「マスター、分かってるでしょうが、その身を危険に晒すことは絶対に認めませんよ」


「我が主。子供たちの願いを叶えてやろうとすれば、待つのは支配者たちとの交渉、あるいは戦いになりますよ」


「ご主人様、無茶はしないで欲しいです。でも、あの子供たちの願い、宇宙へ出たいという願いは叶えてやりたいのですが」


「キャプテン。私は1つの星に閉じ込められる過酷さ、分かっているつもりです。ですから、どうしても、あの子供たちの願いは実現させてあげたいと思います!」


まあね、ライムは、そう言うだろうと思ってたよ。危険じゃなきゃ、フロンティアも思いは一緒だろうし。よし、決まった! アンドロメダ中枢星域へ行くぞ! 


「フロンティア、進路は決まった。この星、引き払って、アンドロメダ中枢星域へ向かう!」


まず、アンドロメダ銀河の中枢星域へ向かう前に、作戦を練ろう。


「フロンティア、今回は、ちょいと本体に活躍してもらうぞ。具体的には、だな……」


俺の考えたアンドロメダ銀河の支配体制をひっくり返す仕掛けの詳細を話していく。


「了解です、マスター。しかし、私の単独航行ならまだしも、その作戦だと恒常的に航宙路を設定しないと、後が続きませんよ」


「それは、こういう手を使うんだよ。いいか? 大型の搭載艇母艦があるだろ? あれを20機ばかり使ってだな……」


「はい!? その手が有りましたか! それなら、銀河系の技術水準でも可能な航路設定ができますね」


「という事で、すまないが、例の機械生命体文明から貰った証明バッジを持って、至急、銀河系へと跳んでくれないか。俺の依頼声明は、今から吹き込んでおくから」


「では、声明ファイルの作成が終了したら、本体で銀河系へ行ってきます。予定時間は、10日前後としておいて下さい。種族代表を集めて回る時間がけっこうかかりますので」


「頼むな、フロンティア。俺達は、搭載艇で一足先にアンドロメダ銀河の中枢星域へ向かう。 とりあえず、先に和平交渉と各惑星の鎖国体制を解く交渉も始めておくからな。頼むぞ。今回の平和交渉と鎖国解除のカギは、銀河系政府の態度次第なんだ」


1時間後、巨大小惑星としか見えないフロンティアは、とてつもない速度で惑星近傍空間を離れていく。

アンドロメダ銀河内での速度は、どうしても抑えたものになってしまうとのことだが、銀河間での速度はとてつもなく速い。

まあ、銀河団間での最高速に比べたら、とてつもなく遅い(銀河間でも浮遊物質の濃さの問題があるそうだ)とはフロンティアの言葉だが。

それにしても、銀河系とアンドロメダ銀河を往復して、かかる時間が10日前後……

今更ながら、とんでもない宇宙船のマスターになってしまった。

さて、残された俺達も中型搭載艇で中枢星域へ向かわねば! 

(ちなみに、この中型搭載艇でもアンドロメダ中枢星域へは一週間くらい。本体が、いかに超技術の産物か想像もできないレベルだ)


さて、これからはタイミングが重要になる。

特にフロンティア本体が銀河系評議会の重鎮たちを連れてくる時期が、俺達がアンドロメダ銀河支配種族と交渉してる最中に到着するのがベストタイミングとなる。

あまりに早いと、下手すると銀河系とアンドロメダ銀河との戦争に突入してしまう恐れがあるし、遅すぎても交渉団の俺達の信用度が無くなり、交渉が決裂する。

ここは慎重にやるとしよう。


しかし、こうなると、フロンティアの性能の高さが今回ばかりは災いとなる。

あまりに宇宙船の速度が速すぎて、どのような通信手段をとろうとも、フロンティア本体と連絡がつかない(*これについては後述します)

何か考えたいところだが、それこそ無限の距離を瞬時に飛ぶような通信手段でないとフロンティアに搭載する意味がない。

(今でも、どんな宇宙船よりも早く跳べるのがフロンティア。自分の速さが自分を縛るのは、何と言うかなぁ……)

まあ、本当に必要になったら通信専用船として快速搭載艇でも開発することになるだろうな(無人化して親書やファイルのみを届ける高加速と長距離跳躍の郵便船)

そんなことを考えていたら俺達の存在、まあ、中型搭載艇を感知したんだろうが中央星系目指して跳んでる最中に向こうから通信が入って、こちらを誰何してきた。


「所属不明の巨大宇宙船、応答せよ、応答せよ。この宇宙では許可された宇宙船しか航行を許されていないはずである。所属と乗員の身分・姓名を述べよ」


おーおー、紋切り型だけど完全に上から目線だな。ちなみに巨大宇宙船と言われてるが、これでも中型の搭載艇だ。

全長250m超える涙滴船だが小型搭載艇を20機ばかし積める立派な小型宇宙空母だよ。こちらも応答してやらねば。


「こちら宇宙船フロンティア搭載艇、ティア1。お隣の銀河系より、はるかな宇宙空間を突破して、このアンドロメダ銀河へやってきた。 この銀河の航宙許可と中央星系への訪問許可を申請する。ちなみに本体の宇宙船は、あまりに巨大なため、縁で待機中である」


さて、爆弾発言だぞ。案の定、返事が。


「ぎ、銀河系からの訪問者だと?! そこで加速を中止されたし。こちらで中央星系に許可を申請するので、しばらく待機願いたい」


おーおー、いつもの官僚発言では困った事態になると気付いたんだろうな。ずいぶんとお優しくなる役人様です。


「了解。しかし、早急に願いたい。こちらは銀河系評議会を代表し、和平交渉の場を設けられるように望むものだ」


爆弾発言その2。


「銀河系との和平交渉?! $%&……わ、分かりました。至急、許可を取るので待機願いたい」


自分の仕事範囲を超えたな、これは。官僚制は、この手が効くんだ。航行許可と中央星系への進入許可は、すぐに出た。まあ、役人の仕事なんてのは、外圧で早まるもんだからね。

俺達は、中央星系目指して進んでいく。途中から、護衛と称して、明らかに戦力誇示のためだと思われる宇宙艦隊が、俺達の中型搭載艇の近傍空間に現れる。

艦隊を率いる「護衛隊隊長」と自称する輩、その実、アンドロメダ銀河の主力艦隊を統率する、おそらくは「提督」クラス。宇宙軍のヘッドだろうな。


「幾多の困難を排除して、はるか遠き銀河系より来られた友人であるからして、我々護衛艦隊が万難を排して、中枢星域まで、そしてアンドロメダ銀河皇庁の御前会議までお送り申し上げる」


とか、通信で言ってきた。こちらが、わざわざ搭載艇で来ているってことを重視しているな。

本体宇宙船の武装や性能が全くわからない状況で、俺達に攻撃を仕掛けたらどうなるか? ある程度は理解しているようだ。


「了解した。わざわざの護衛艦隊派遣、感謝する。では、中枢星域までの案内を兼ねて、護衛をお願いする」


どっちもどっちの、腹の探りあいだ。しばらくは、この状態で跳び続ける。

数日後、ようやく中枢星域に到着する。

ここで、艦隊から小型の駆逐艦のような小回りの利く艦船が離れ、俺達の護衛として、言い方を変えると、監視役として、つかず離れずの位置をキープする。

さすがに、ここからはアンドロメダ銀河の政治と権力の中枢部もあるだけに、宇宙軍としても大げさな行動は取れないんだなと判断する。

中枢星系。星の密度が多いので、今までよりも進行速度が大幅に制限される。

デブリや浮遊惑星も多いが、これは人工的なものか? と思われるような偽装された人工惑星らしきものも見受けられる。

戦いになって、相手が中枢星系へ攻めこんできたら、この人工惑星を砲台にするんだろうな。よく考えられてるわ。


しかしなぁ、銀河系もそうだけど、こんな武装や兵器に多額の予算つぎ込むなら、その分、中枢以外の星系を開発するために予算注ぎ込めよって。

戦いなんか馬鹿らしい、平和になれば、より一層の文化や生活水準、科学技術の発展に金を使えるだろうに。

自衛より大きな武器システムは、自己破壊に繋がるだけだと、早く気付いてほしい。

と、とりとめもない考えに浸ってたら、アンドロメダ銀河皇庁のある星系に到着したようだ。


ここからは、さすがに護衛の駆逐艦も入れないようで。俺達の中型搭載艇のみが星系への進入を許される。

数時間後、俺達は皇庁より少し離れた宇宙港へ着陸を許可される。中型搭載艇が着陸すると、付近に他の宇宙船が無い。さすがにVIP待遇ってことか。


「銀河系よりの訪問者よ。ただ今、歓迎委員会の方々の到着が少し遅れているので、もう少し、宇宙船の中でお待ち頂きたい」


さすがに、最初の通信より数日しか経ってないため、相手も相当にうろたえているようだ。さて、これから歓迎式典と実務交渉が待っている。

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*大マゼラン雲の章にて、銀河と、それ以遠との連絡手段として、FAXモドキが採用されたと書いておりますが、それは、この回より未来の話ですので、お間違えの無きように。

この回の「現在」では、フロンティアも、どこにも、超光速を使用する宇宙船より速い連絡手段は所持しておりません。



銀河系代表としてアンドロメダ銀河の支配勢力(アンドロメダ銀河皇庁と言うからには、 アンドロメダ銀河は帝国の形態をとっている全体主義国家ということだろうか)に会うために中型搭載艇を用意して中枢星域に乗り込んでは来たものの……正直、 俺達は、この状況に困惑している。


「なあ、プロフェッサー。この状況、どう解釈する?」


「はい、我が主。予定では、もう既に平和条約を締結するための会談と会議が行われていても不思議じゃないのですが」


「やっぱり、プロフェッサーも、そう思うか。なんだろうね、この熱狂的な歓迎ぶり」


そう、俺達は熱狂的を通り越しているんじゃないかと思われる、神の降臨を目にしたような人々の騒ぎ様を見ている。


「これって、あれか? もしかして。やっぱりアンドロメダ銀河の住民の先祖も先史文明からの時間移民だったのか?」


「肯定するしか無いかと、我が主。遥かな故郷、もう永遠に届かないと無理やり納得した遠き銀河系よりの使者。 もう、デウスエクスマキナ(機械じかけの神)の登場するオペラみたいなもので、この息苦しい政治体制を、神の力で一気に覆すことができるとでも思っていたりするのでは?」


おいおい、また神様扱いかよ。もう、勘弁して欲しいんだが、実のところ。

しかし、それが分かっただけでも、こちらのポイントである。神なら神らしく、この宇宙鎖国政策を止めるように導いてやれば良いのか。

そんな話をしながら、しばらく、中型搭載艇の中で待っていると、ようやく歓迎委員会なる集団が現れた。

やはり役人の集団らしく、中型搭載艇を囲んでど派手に騒いでいる市民たちを強制排除しながら、こちらへ進んでいくる。

手荒なことはしていないようだが……そうか、中枢星域の市民だから、おそらくは皇帝の血縁者や、高官の家族もいるだろうから手出しは最小限にしてるのか。

だが、人の波状態になっている中型搭載艇の回りの人々を、できるだけ傷つけずに排除するなどというのは、かなり困難な事だ。

案の定、排除のための人手が足りなかったと見えて、応援を呼んで、ようやく俺達クルー4名(ロボット1名、生命体3名)が搭載艇の外部扉を開けて外に出られるようになる。


「お出迎え、ご苦労です。さっそく、会談と行きたいのですが?」


歓迎委員会の代表らしき人物に話しかけると、


「もう少々、お待ちいただけますか。あ、宇宙船での待機ではなく、これからご案内します、王庁宮殿でくつろいでいただく事になっておりますので」


まあ、仕方がない。大規模なセレモニーとか準備してるんだろうな、こりゃ。

俺達は、真っ青な絨毯を敷かれた宇宙港に降り立ち、エアカーのような(空気噴射じゃない、重力制御で浮くようだ)車両で、王庁宮殿とやらへ運ばれる。

皇庁宮殿に入ると、さすがに好待遇だなと思わせる一室に通される。さりげなく2D絵画が飾られていたり、 3D彫刻や、その上の多次元アートまで、銀河系から来た俺でも、これらには感動をおぼえる。しかし、


「銀河の暗黒空間をはるばる渡ってきたら、くつろげるはずの部屋で監視や盗聴されてるなどというのは如何なものかなぁ?」


大声は出さずに普通に喋ってやった。俺やライムのテレパシー能力を舐めてもらっちゃ困るよ。

機械の存在は分からんが、それを操るものの考えは読めるんだぜ。それからしばらくして、盗聴や監視をする人物の思考が無くなった。

上の方から、あわてて諜報作業を全て中止するようにとお達しがあったんだろう。数時間後、ようやくドアノッカーが鳴らされる。


「お待たせいたしました。皇帝陛下、及び、御前会議のメンバーが全て揃いましたので、銀河系評議会代表殿を、お迎えに参りました。こちらへどうぞ」


執事(なのか? 服装と雰囲気は、それだが)に案内されて俺達はアンドロメダ銀河の皇帝と、その御前会議に臨む事となった。

まあ俺にとっては幾日も腹の探りあいする会議が続くよりスパッと一気に決定される頂上会議のほうが良いけどね。

さて、声を掛けても届かない(会議机の、ずーっと奥にいる、薄暗くて見えないところにいるのがアンドロメダ銀河皇帝陛下らしい)から、ここは一発、恒例のテレパシー宣言と行くか! 

そう思った途端、


『ようこそ、アンドロメダ銀河帝国へ。朕が、このアンドロメダ銀河の皇帝である』


おおっ?! 俺に匹敵する強さではないが、少なくともライムや太陽系宇宙軍のエスパー隊に匹敵する。先手をうたれたか。

俺と皇帝、ここでは一言も発していないのだが、早くもテレパシーで腹の探りあいを始めていた。

お互いが強力なテレパスのため、表層意識しか探れないのだが、それでも探索のテレパシー波を送って相手の隙をうかがう。

さっきは皇帝のほうが先手を打って、意識的に強いテレパシーを送った。じゃあ、次はこちらの番だな。


〈強力なテレパシーの歓迎、いたみいる。では、こちらも意識的に強いテレパシーで返答しようではないか〉


俺達の仲間は、時折、俺のテレパシー強化訓練に付き合って貰っているから慣れているだろうが、通常なら、このクラスの強さのテレパシー受けたら頭痛がするはず。

案の定、皇帝除く御前会議の面々は、頭痛に耐えかねて立っていられない奴や、皇帝より強いテレパシーにショックを受けてる奴、脂汗流してる奴やら様々。

さすがに皇帝陛下は、顔をしかめるくらいで済ませている。でも、ショックは隠し切れない。

自分より強いテレパスなどいないと思ってたんだよね。表層意識の壁が一瞬だけ崩れた時に、気弱な思考を確認したんだよ。

テレパシーのやりとりでは勝てないと認識したのか、ようやく皇帝陛下が口を開く。


「失礼した、遠き銀河系からの和平の訪問者よ。我々も、隣の銀河系との和平交渉は、望むところである。これが2つの銀河の友情と友好の架け橋になると期待するものだ」


ふふふ、うまくリカバーしたと思ってるな、皇帝陛下。では、俺からも一言。


「銀河系を代表して、アンドロメダ銀河帝国皇帝陛下にご挨拶申し上げる次第です。 和平交渉と通商条約、そして相互通行と、災害時の相互即時救援派遣条約の締結。 そして、でき得るならば、アンドロメダ銀河の宇宙航行鎖国状況の改善策を話し合いたいと考えています」


はい、さっそくですが、ぶっちゃけました。ダラダラと腹の探りあいだけの会談や会議なんか不要なんだよ。ちゃちゃっと行こうぜ、皇帝陛下! 


「わ、我が方への内政干渉では有りませぬか、銀河系からの使者殿?」


大統領か外務大臣か知らんが、木っ端役人の発言など耳にも入れない。発言者の顔を済まし顔で見つめてやると、俺がテレパスだと改めて思い出したのか、あわてて顔と思考をそらす。


「アンドロメダ銀河が帝国体制で良かったですよ、皇帝陛下。貴方の一言で、銀河系との和平も相互協力も、 このアンドロメダ銀河に住む一般市民達の宇宙へのカギも、全て開かれるのですからね」


はい、発言は大人しいですが、完全に恫喝ですな、分かってますよ。でも、最初から、このくらい発言しとかないと、あなた達は本気にならないじゃないか。

皇帝陛下以外の面々の意識を読んだら、かなりこちらを舐めてかかってるみたいだから、爆弾発言を続けましたよ。


「さて、そこでですね。こちらからは典型的な大災害である「宇宙震」に遭った星の救助模様を録画したものをお見せしましょう。まずは、そこからです」


銀河系だけじゃなく、大小マゼラン雲でも遭遇した宇宙震災害。一個の星系が巻き込まれた場合の甚大なる被害模様と、それを迅速に救出する宇宙救助隊組織。

とりあえず、30分にまとめた映像だが、中央星系にあぐらかいて、その他の星域に関心すら向けていなかった、ここにいるバカどもには相当な衝撃だったろうな。


「はい、この映像チップはコピーして、そちらにお渡しします。 そして、この映像で使用されている災害救助用の小型艇、そして、さまざまな救助用ツールは全て設計図のコピーファイルをそちらへお渡しします。 まずは、それが、こちらの誠意だとご理解ください」


え? 

とか、

こちらに設計図のファイルをくれるって? 

とか、

回りがざわめいている。だんだんと、御前会議らしくなってきたじゃないか。

これくらい白熱しなきゃ会議じゃないよ。ワーワー、怒鳴り合うような騒がしさになってきたところで、さすがに皇帝陛下の一喝が入る。


「静まれ、皆のもの! 銀河系からの使者殿が、我々にとてつもない贈り物をくれるというのだ。 ありがたく、いただこうではないか。では、使者殿、これから会談と実務会議に入りたいのだが、よろしいか?」


「はい、皇帝陛下。ご決断の速さ、さすがは皇帝陛下と感心しております」


向こうにも面子ってものがある。あまりに銀河系が上から目線だと、まとまるものも決裂する。

かと言って、交渉事は静かなる戦争。上位に立つほうが主導権を握れる。

これにて御前会議は終了、しばらくしてから、和平交渉会談と、その他の事案の実務者会議となる。

俺達が控えの間で休憩していると、フロンティアから待望の連絡(*これについては後述します)

銀河系からの派遣メンバーを乗せて、アンドロメダ銀河に到着し、今現在、こちらへ向かって驀進中らしい。

ただし、完全ステルス状態で。

会談中に到着するか、それとも実務会談中になるか。なんにせよ、もうすぐの到着だな。

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*通信手段が無いと先に書きながら、どうやってフロンティアからの連絡を受け取ったのか? 

超小型搭載艇を十機ばかし、アンドロメダ銀河の縁に並べてました。

フロンティア本体が到着すると、その到着信号を受けて超小型艇が最高速度で跳んだわけです。

さすがにフロンティア本体は、アンドロメダ銀河内部では最高速は出せませんので、超小型搭載艇のほうが速いわけです。


もうすぐ、フロンティアはアンドロメダ中央星系まで跳んでくるだろう。それまで、俺達が繋ぎの会談と条約締結のお膳立てまでしといてやるとするか。


「さあ、まずは和平会談だ! こいつがまっ先に無いと、後の条約も会談・会議も何も進まんからな」


控えの間にノックがあったので、俺はクルー4名を促して、和平会談の場へと向かう。

案内は、やはり同じ執事さんである(もしかして、執事長?)御前会議の場とは違う、もう少し歩いた場所へと案内されると、これも大きな扉が開かれる。

おう、心構えはしていたが、やはり広い部屋だ。ダンス大会でも開けるんじゃないかと思うほどの広い部屋の中に、 大中小、いくつものテーブルや椅子、テーブルなしの椅子のみ、の場所がある。

テーブルには軽食が乗っていたり、食事の用意もあるテーブルも。ああ、これ、会談相手の文化や習慣が分からないので、いくつものパターンを用意したんだな。


「ようこそ、銀河系からの使者殿。そちらの文化や習慣が分からないゆえ、どのような会談形式をしたら良いのか分からなくてな。 お好きなテーブルと椅子の形で、胸襟を開いての会談と参りましょう」


皇帝陛下が口を開く。やっぱり予想通りだったな。では、俺は、こちらを選ぶとしよう。


「心よりのおもてなし、感謝いたします、皇帝陛下。では、あまり形式ばるのも何ですから、こちらで、ゆっくり、お話をいたしましょう」


俺が選んだのは、軽い飲み物が置かれたテーブルで、中位のもの。これなら、俺達4名(後から追加1名)とアンドロメダ銀河側5名くらいが、ゆったりと話し合えるだろう。

俺が選んだ席に、俺達4名と、アンドロメダ銀河側4名が着席する。

さて、これからは、ざっくばらんに言っちゃうぞ。実務者会談とか実務会議とか、後は俺の担当じゃないからね。


「では、アンドロメダ銀河と、銀河系との友好が結ばれることを祝して! 乾杯!」


言語辞書が乾杯! と訳しているが、こういう主旨の単語かどうかは分からない。まあしかし、祝賀ムードなんで、間違っているわけじゃないだろう。

皇帝陛下の音頭で会談が始まったが、こっちは正直、隠すものなんてのは、フロンティアの超科学装備だけなんで、あまり関係ない。

(俺自身がフロンティアの超科学装備を全て把握してるわけじゃないし、その理論も全て理解してるわけじゃない)

向こうは、皇帝陛下以上のテレパスが相手だということで、心を読まれないように心理ブロック張ってるな。


「では、皇帝陛下。この場にて、先ほどお約束しました大規模宇宙災害対応の小型宇宙艇と搭載装備全てのデータが入りましたチップを、 そちらへお渡しします。エッタ、そちらの侍従長さんへ、チップを渡してあげなさい」


「はい、ご主人様。こちらが小型宇宙艇、こちらが各種装備の設計データです。 銀河系と、大小マゼラン雲でも同じ規格のものが使用されておりますので、こちらでも同じものを使っていただくと相互救助が楽になりますよ」


皇帝陛下以下、閣僚や軍人の皆様が驚愕している。まあね、普通は平和条約締結してから以降、こういう最先端技術に近いものは贈られるものなんだろうが。

こっちは、そんな常識にゃ囚われぬ! 


「ありがたいことではあるが、よろしいのか? 未だ和平会談すら終了してない、平和条約の締結も終わってない状況での、このような、外部機密に近いデータを引き渡すという事は」


さすがに軍人らしき人が一言。ふっふっふ、こんなものは、マル秘事項でも何でも無いのだよ、将軍。


「はい、大丈夫です。もう、銀河系でも大小マゼラン雲でも、同じ規格で作られた宇宙艇や救助機材を使う宇宙救助組織が大規模に設立されているのですからね。 できれば、アンドロメダ銀河でも、同じく宇宙救助隊の設立をお願いしたいのです」


そう、俺の狙いは、これである。大規模な宇宙救助組織を創ろうとするなら、中枢星系だけじゃなく、田舎星系や縁の星系だって、その組織に入れなきゃならない。

そのうち到着するだろう、銀河系からの実務集団には、 この宇宙救助組織の公共性は絶対に確保しろと厳命した書類をフロンティアに持たせてあるので、ここは実務会議でも揺るがないだろう。

この巨大規模の組織が立ち上がれば、宇宙航行鎖国令などというタワゴトのような法律は消えてなくなる。

(中央星系のみで銀河内の全ての災害に対応するのは、人員的にも距離的にも、そして金額的にも無理だからだ)

でもって、この組織。そのまま高度な自衛組織になるので、無茶な予算を食いつぶす宇宙軍などは自然消滅することになる。


軍の関係者は、その可能性を予想したのだろう、蒼い顔をしている。大丈夫だよ、軍人は救助組織には最優先で入れる。

さて、最後の爆弾発言と行きますかね。


「さて、皇帝陛下、及び、関係者の皆様。私の役割は、ここまでです。後は、銀河系からやってきた実務責任者たちがやってくれるでしょう。では、皇帝陛下、楽しい会談でした」


部屋に走りこんできた伝令と入れ替えに俺達は会談の部屋を出て行く。 俺はフロンティアと一緒に歩いてくる銀河系からの実務者集団(結局、100名を超える人数になったそうな)を迎えた。

後は、うまくやってくれよ。


銀河系評議会安全保障関係の閣僚報告抜粋


先に言ってしまおう。

平和・友好条約と激甚災害発生時の相互援助条約の締結は、何も問題なしに進んだ。

それに関した様々な問題は、今まさに協議中だ。今、深刻な問題は、ただ一つ。

アンドロメダ銀河の政治形態から来る、宇宙航行の一部種族のみによる専有問題。

いわゆる「宇宙空間鎖国問題」である。

最初、この議題を論議するのに猛烈な反対がアンドロメダ銀河側から起こった。


「貴方達、銀河系評議会は相手国家の内政にまで干渉するのか?! これは交渉とかの問題ではないだろう!」


そう言われたが、こちらも引くわけにはいかない。


「では宇宙救助隊設立は無限延期という事になりますが? 大災害が起こっても、今の組織内で迅速な救助や援助に駆けつけることが可能なのですか?」


こちらの返答と疑問に、相手は答えられない。宇宙航行鎖国体制を解くことは、宇宙救助隊の設立に不可欠な基本条件だから。

だいたい、フロンティア側から基本の救助メカや救助用小型宇宙艇の設計データは渡されているではないか。

後は機材を用意して生産に入るだけ。まあ、その数が膨大になるのは避けられないが。


「宇宙救助隊の組織は、原則的に各星系に一分隊以上の設置を計画していますからね。宇宙航行の基本的禁止などという法律は、存在してもらっちゃ困るんですよ」


ここまで言っても反対派は頑固だ。


「そんな数、実際問題として設置できるはずがないではないか! 銀河系では実働している組織だというが計画より半分くらいの数ではないのか?」


はい、お決まりの反対意見来ました! でもね。


「では、お手元のデータチップに銀河系での宇宙救助隊、ああ、今では「氾銀河救助隊」と名前が変わっていますが、その分隊や各本部、 大隊と総本部の可動状況を転送しますね。はい、それをご覧になると理解できますでしょうか。 現在、銀河系では各文明圏の旧軍隊組織全てが氾銀河救助隊の下部組織として組み込まれています。 兵器などあっても使わなければ何にもならないですからね。使わない、出動できない軍組織よりも、何時でも稼働できる救助組織のほうが効率は良いでしょう」


ううむ、し、しかしなぁ。

などと、まだ言い張るアンドロメダ銀河側。ついに、あまりに煮え切らない態度にアンドロメダ銀河皇帝の声が飛ぶ。


「いい加減にせよ、腐りきった役人ども! 朕が、ここに座って聞いているだけでも、 どちらが我がアンドロメダ銀河にとり有益か、自然と理解できる! おのれら、 一部の独占的な宇宙商人に賄賂でも握らされているのであろうが?! 銀河系の方々に対し、見苦しいとは思わぬのか?」


キツイ一言である。

皇帝陛下そのものは汚職とは縁のない崇高な方ではあるが、やはり閣僚や役人がレベルの低い者ばかりだったのが、今の宇宙鎖国とも言える法律を作ってしまったようだ。

皇帝は法律を自分で造ることはできないようで、なんとか独裁者としての暴走は歯止めがかけられているようである)

まあ、この場合、それが足を引っ張ったのだが。


悪法も法、皇帝自身も人民が作った法律には従わねばならない、のだが、法律を造るものが中枢星域に住む貴族や豪族・豪商ばかりなら、こんな歪な法律にもなろうという事だ。

結局、数カ月以内にアンドロメダ銀河全ての住民を対象に、宇宙航行禁止条項を含む悪法の無効と撤廃を決める総選挙を行う事で決着した。

既得権益を守ろうとした一部の宇宙商人達には、賄賂の関係で当局の捜査が入り、証拠品と契約書のコピーや実物が次々と押収されたとのこと。

これで、アンドロメダ銀河にも賑やかな宇宙船の往来が戻るだろう。


しかし、この大元を計画した、あの伝説の地球人と、銀河系に突如現れてアンドロメダ銀河での騒動を報告し、 銀河系との友好条約を締結するためにと、様々な種族の代表を銀河系評議会から半強制的に拉致していた、 これも伝説の超科学宇宙船「フロンティア」は、どこへ行ったのだろうか? 

まあ、フロンティアは、そのまま現時点の銀河系の科学力でもアンドロメダ銀河と往復できるようにと、255万光年の距離を20隻の大型搭載艇で結んだ飛び石航路を設置してくれた。

現在の銀河系の科学力では、もう少し遠距離までの跳躍が可能であるが、この距離間隔なら故障もトラブルも発生しないだろう。

銀河系と、アンドロメダ銀河は、ついに航路で結ばれた! 

まあ、行って半年、帰って半年の往復一年かかる大航路ではあるが、すぐに短縮できるだろう。


以上、報告終わり。

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この報告より300余年、今ではアンドロメダ銀河、大小マゼラン雲、銀河系と、後に追加されたアンドロメダ銀河の近くにある小銀河も含めて、 大銀河連合という組織が創設される事となる。

大銀河連合の発足に伴い、アンドロメダの独裁体制の終了と民意制への移行、大小マゼラン雲の種族統合と政治体制の統合、銀河系評議会の解散と、 大銀河連合の発足に関して、全ての重大事案に関わっている地球人と、その乗機であるフロンティアの取り扱いが議案となった。


「もう、お遊びは止めてもらって、大銀河連合の統合議会議長に就任してもらえないものだろうか?」


機械生命体、球状生命体、水素呼吸生命体やアンドロメダ銀河元皇帝らは両手を上げて賛成を示す。しかし肝心の太陽系代表は渋い顔をして、こう発言する。


「肝心なことは、これを、フロンティアに、誰が伝えるか? という事ですな。お忘れか? 皆様。フロンティアは、 今現在、我々の観測域から遥かに離れた星雲、あるいは銀河団を飛び越えておるかも知れないと言うことを。我々の科学技術も、 300年前に比べたら驚異的な発展を遂げましたが、しかし、フロンティアのような超科学の産物は未だに建造する糸口にも立っていません。 そして、もし連絡がついたとしても、あの男が、はいそうですかと、こんな窮屈な椅子に落ち着くかどうか? 私は、今の状況のままのほうが未来にとってより良い選択だと思いますが」


反論は無かったと記録には書かれている。