第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第五十三話 宇宙台風

 稲葉小僧

宇宙には、こんな種族もいるんですよってことで……


久々に、気になる銀河を訪問することにするガルガンチュア。

楠見のテレパシー能力に、ちょっと気になる精神波が届いたためだ。


「珍しいですね、マスターが自分から目的銀河を指名するとは」


「いやいや、トラブルシューティングがメインだからな、ちなみに。トラブルの匂いがプンプンするんで、ちょいと訪問してみる気になったってところだよ」


それは一万年を越える遥かな過去におさらばしたはずの懐かしい銀河系と、そっくりの形をした星雲。

両腕部では渦巻きの形も見られるし、全体的にレンズ状の綺麗な形にもなっている。


「へー、こりゃ珍しい。ここまで銀河系と同じような形をしてる銀河ってのは久々に見たよ」


キラキラした目で目標銀河を眺めながら、見た目中年男の楠見が少年のようにはしゃぐ。


「師匠ぉー……お年がお年なんですから、いい加減、その気味悪いはしゃぎようは止めて下さいよー」


あまりにあまりな楠見の姿を見て郷がついに本音を漏らす。

それで自分がやってた行為に気がついた楠見は、ちょっと恥ずかしそうにワクワクドキドキはしゃぐことを止める。


「あー、コホン。まあ、たまに感情に負けたはしゃぎようも見てみぬふりをしてくれると嬉しいんだがな……それより、皆。銀河の端から5万光年ほど離れた場所にあるアレ、見えるか?」


恥ずかしさを隠そうと仕事モードに切り替える楠見。

楠見の指差すアレこそ恐らくは、この銀河、それどころか周辺銀河も含めてトラブルの元となっているもの。


「あれって……超巨大ブラックホールって言葉で形容できるものじゃないですよね。明らかに異常な現象だと思いますが……宇宙嵐? いや、それとも違うな……」


郷にも理解不能な程の巨大な異常現象が目前の銀河の直近に存在する。


「うーん……渦を巻いているのは見えますね。ブラックホールのように超重力の塊というものじゃなさそうですが……惑星でちょくちょく起きる現象で言うと台風とかハリケーンとかいう現象に近いんでしょうかね?」


エッタが発言する。

え? 

あんた元は精神生命体でしょ? 

よく台風なんて自然現象、知ってるね。


「ご主人様のビデオデータ集からニュース映像として見たことあリますので。まあ半径数万光年という台風現象なんて普通はあり得ないと思うんですが」


「キャプテン、私の故郷の星にも台風現象はありましたよ、遥か昔ですが。でも、ここ宇宙空間ですよね。台風は気圧差と海面水温で発生して低気圧と高気圧の境目を進むと記憶してますが……宇宙に気圧差なんて無いんですけれど」


ライムがそう言う。

ライムの故郷の星は干からびた地表しか知らない楠見だが、遥か昔には大洋があって船なども使われていたらしい。


「そうだよなぁ……宇宙の台風。どう考えても存在する理由のない現象だな。こういうのは大体において理由がありそうだ」


楠見は直感でそう発言する。


「俺や郷を含めた有機生命体グループで、この銀河を探ろう。他のロボット生命体メンバーは、あの宇宙台風の監視だ。何か変化があったら連絡が欲しい。ちなみに俺が帰還するまで宇宙台風への干渉は禁止する。何が原因か、どうすれば良いのかも何も分かっていないんだから」


了解! 

と全員の返事を聞いてガルガンチュアは行動に移る。

よくよく観察すると宇宙台風、この銀河を目標としているだけで無く周辺銀河も被害に遭っているようだ。

これは相当な宇宙災害である。

何とかしないと眼の前の銀河含めて周辺銀河のいくつかが虫食い穴だらけになりそうだ。

面白いのは中心部は食い残しているように見えること。

さすがの宇宙台風も銀河中心部の巨大ブラックホールは嫌いなようで(笑)


宇宙からの観察は終了。

楠見たちは目標とする銀河へ侵入していく。

使うのは郷をマスターとしている大型の搭載艇母艦。

長さは10kmもあるが球形艦ではない。

搭載艇の投入・帰還時間の短縮に拘ってガルガンチュアが設計した特殊艦だ。

通常の銀河団航行に使われる球形(とは言えないかも。6面体の宇宙船もあるし独楽形状の宇宙船もある。基本形が球ってだけか? )の巨大船では搭載艇の保有数は膨大だが、その出動や帰還に時間がかかりすぎる(全数出撃など一時間で終了しない)

よって、この搭載艇母艦では搭載艇の出入口の数がやたらめったらとある。

出入口の数だけではなく、その大きさも通常の150%に増大させ中型搭載艇以上の発進と帰還をスムーズにしている。

これにより同数の搭載艇を放出、帰還させる場合、必要時間はフロンティアやガレリアなどと比べて半分ほどに時間短縮されている。


「郷、これだけ銀河内に入れば大丈夫だろう。搭載艇を出して情報収集にかかってくれ」


「了解です、師匠。搭載艇母艦ヒョータン1号、情報収集だ。小型、超小型搭載艇、全数発進!」


ブワッと母艦の周りが霞みがかかったようになり、数10秒後には晴れる。

これで情報が集まるまで、しばらくの間、待機だ。



その宇宙台風が迫っている銀河の中……

とある星系、銀河の中心ではなく、とちらかというと端っこの方、辺境と言っても良い位の位置にある星系に、その人物はいる。


「それ、貧しいものよ、心寂しき者よ、我と共に来るが良い。不安も苦しみも全て我が教祖が癒やしてくれるであろう」


顔立ちは整っている、どちらかというと二枚目とかハンサムとか言うレベルにある4名の男、そして同様に、いや、それよりもレベルが高いだろうと思われる美女や美少女4名が、その後に続く群衆を率いて行進している。

群衆に続くのは、その新興宗教団体を取材しているメディア集団。

これも独占取材ではない、密着取材を要望するメディア全てに許可を出しているから。

その後に続くのは、やじ馬集団。

こういうのに付きものと言うか何と言うか、それでもバカにならない数の群衆となっている。

デモ集団ではないので警察も群衆の監視と誘導をするだけで、それ以上に手を出すことはしない。

美男美女に率いられた群衆は長い行列となって、少し離れた巨大ビルへ吸い込まれるように入っていく。


「はい、入信希望者の皆様。ここで本心から入信を希望される方は、あちらの受付へどうぞ。あなた達の困りごと、気がかりなことを解消するためのお手伝いをさせていただくメンバーが控えております」


美男の一人が口を開く。

それに連れて群衆の一団が受付へ向かう。

彼らの表情は一様に暗い。

それぞれが何らかのトラブルを抱えているのだろう、それを解決するため、話題となっている新興宗教教祖にすがりたいと思って、ここまで来たのだ。


「本心からの入信ではなく体験入信されたいという方たちは、あちらの体験者用受付へ、どうぞ。完全な入信者ほどではありませんが困り事やトラブルの解決に教団がどこまでお力添えできるか、少しでもお力にならせていただきます」


美女の一人が次に誘導するのは体験入信のグループらしい。

また群衆の一団が動いていく。


「メディア関係者の方々は、こちらへ。教団取材の腕章とパスを発行しますので、これを常に身に付けていて下さい。それとインタビューできるレベルが違ってくる方々がありますので、その詳細が書かれた説明書も、よくお読み下さい。ではメディア関係者は、こちらへ」


結構な数の集団が、また一人、案内役についていく。

残りは、やじ馬集団。

迷惑極まりない集団だが、それも対応しようとする宗教団体の者たち。


「入信も希望されない、体験もされない、メディアの関係者でもない方々は見学者とさせていただきます。今から見学通路へご案内しますのでウロウロしないようにお願いしますね。勝手に歩き回られると各部署の警備員につまみ出されてしまいますので案内人に付き従って下さい。では、こちらへお願いしまーす!」


案内人が美男と美女とくれば、やじ馬たちに否やもなし。

おとなしく集団は移動する……

数人、見学でもないグループがいるようだ。

入口から入ってきて施設の説明用ブースにいる案内役に食ってかかる。


「うちの娘を返して下さい! 親が認めていないのに勝手に入信してしまったんです!」


息子だったり親戚だったり様々だが要件は上記。

この件は……

上司を呼ぶ案内役。


「親御さんやご親戚の方々ですね。教団幹部のカワギシと申します。ご説明をいたしまして、それでも入信を諦めさせてくれと言われるようでしたら教団としては引き止めません。こちらへどうぞ……教団の活動の子細をお話しましょう。時間かかりますので別室で」


「暴力や洗脳を行うと聞いていますが?!」


「とんでもない誤解です。教団として個人の考えや意識を曲げることは決してやりません。力で個人の尊厳を踏みにじって何が利益になると? そんなものはバカなものの象徴ですよ」


とりあえず暴力や洗脳などの手段を使っているわけではないと納得すると教団活動を知るために別室へ行く抗議集団と、教団幹部カワギシ。

別室で様々な活動を行っている教団の実態と、今までの宗教団体とは違う包括的宗教活動とも言える教団の活動と、その目的を伝えるカワギシ。

小一時間ほど経ち抗議集団とカワギシが別室から出てくる。

抗議集団は、とりあえず納得したようだ。


「お話は聞かせていただき、とりあえずは娘たちに危害はないということで様子を見ることにします。教団内での教育が終わったら娘たちは家に戻してくれるんですよね」


「ええ、それはお約束します。ご家庭がある人たちや未成年の方たちは原則的に教団内部での生活は推奨しませんので」


カワギシの言葉を聞いていると宗教団体とは言うものの、ずいぶんと緩い規則のようだ。

すぐにではないが息子や娘、親戚が教団内部で閉じ込められるような生活をするのではなく家に戻ってくるということで抗議団体は、この場から引き上げる。


「やれやれ。ああいった誤解を解くためにメディアの取材も解禁しているんだがな。未だ、ああいった抗議集団が来るのは偏向報道しているメディアがあるせいか……困ったもんだ」


仕事が終わったので気が緩み、愚痴をこぼすカワギシ。

部屋を出て抗議集団を見送ったその足で、また別の方向へ歩いていく。

しばらく歩いて今までいた部屋とは逆方向にある部屋の前に立つ。


「カワギシです。入室許可を」


シュッ! 

という音と共に、壁に見えた、ドアとは思えなかった箇所が開く。

通常のドアから入っていたら絶対に入室できない隠し部屋だろうか……

カワギシは薄明かりしか灯っていない通路を歩いていく。

巨大ビルとはいえ奥が見えないほどに長い通路……

こんなもの、どうやって作り上げたのだろうか? 


カワギシは勝手知ったる通路のように小走りに歩いていく。

突き当りに小振りなドアが見えると、そこで止まる。


「テイラー様、入りますよ」


了承も得ずにドアを開けるカワギシ。


「なーんだ、カワギシ君じゃないか。教団員の苦情対応、いつもご苦労さん」


「教祖、いえ、テイラー様。あまり人前に出ないように、お願いしますよ。あなた、カリスマだけは人一倍あるのにメディアや群衆の前に出ると全くもってダメダメなんですから」


「えーっ?! なんでだー。ボクも民衆を導くのに一言言いたいのにさぁ」


「一言だけなら大丈夫なんですけどね……なんで一言だけのはずが漫談になっちゃうんですか! 台無しですよ、まったく!」


「あ、そこはサービス精神と言うか昔取った杵柄と言うか……受けてるんだから良いでしょ」


「良くありません! あなたは今、教祖なんです! ピン芸人だったのは、ずっと昔の話でしょうが! 教祖が爆笑漫談やってるなんてクソの役にも立たないんです! カリスマが消えるだけなんですから自重して下さい! ……はぁはぁ、いつもながら疲れる会話だ」


「そりゃ、それだけリキ入れて話してりゃ疲れもするよ。神経科で診察してもらうと良いと思うけど」


「誰のせいだと思ってるんですか! 誰のせいだと! ……あーっ! こんな人が銀河の運命を担ってるなんて誰が決めたのかねぇ……他の人物なら、こんなに気疲れすることもないだろうに……」


「まあまあ落ち着いて。悩んでも仕方がないよ」


誰のせいだと……

という怒号が通路の外まで漏れて(完璧な遮音になってるはずだけど)壁からヒソヒソ声が聞こえると、また教団ビルの七不思議が増える結果になる。

数時間後、群衆が帰ったり教団員が増えたり、苦情を言ってくるグループが途切れたりして来る頃、教団ビルの広い会議室に明かりが灯る。

会議室にいるのは教祖テイラーと、その補佐役カワギシ。

しかし壁面いっぱいに映っているのは遥か離れた星にいる教団支部の幹部たち。

全て含めると100名近くいるだろうか。


「じゃあ、教団会議を始めるよ。まずは、宇宙台風の現状から、だね」


数時間前のダラーッとした顔とは180度変わり、真剣な顔つきになっているテイラー教祖の発声で会議が始まる。

気疲れしたような顔をしていたカワギシも、いつになく真剣な顔をしている。


「それでは、私、カワギシが、いつもの通り議事進行役とさせていただきます。では銀河周辺部の監視砦となる宇宙ステーション常駐のヤクーモ少佐、お願いします」


「はい、こちらヤクーモ少佐。宇宙台風の進行ですが通常速度で、こちらへ向かっております。銀河周辺部へ上陸するのはまだまだと思われますが加速する可能性もありますので油断出来ない状況ではあります」


「そうですか、危険と判断したら、すぐに全部隊の撤収をお願いしますね。監視業務も重要ですが虎の子部隊の消耗は認められませんので」


「はっ! 温情篤き総司令のお言葉、肝に銘じます! なーに、まだまだ頑張れます」


「おいおい、ボクは汎銀河教って新興宗教の教祖だよ。総司令じゃないから間違えないでね、少佐」


「はい、では報告は以上です。テイラー教祖様」


「宇宙台風に状況変化なし、でした。次、宇宙台風迎撃準備に関してですが……」


とても宗教的な会議だとは思えぬ言葉が交わされる。

これは宗教団体の皮を被った強大な軍事組織の定例会議だ。

会議室の向かい側には何処とも知れぬ星系を模した、太陽と主たる緑の惑星をデザインした銀河統合宇宙軍の旗が飾られている。

しかし銀河統合宇宙軍は、ずっと昔に銀河が戦乱状態になった時、参加星系の大勢力が軒並み抜けてしまい有名無実の組織となって過去の遺物と化したはず。

ここにいる、明らかに種族も所属する星系も宇宙軍も違う参加者たちに共通するものは、さっき「総司令」と間違って呼ばれた教祖テイラーへの忠誠心。

これは何が起きているのだろうか……


テイラー教祖はカワギシを引き連れて、珍しいことに教団主催の催しものに出席している。

カワギシ、今日は朝から胃が痛い。

いつになくテイラー教祖が真面目な顔で演説し、ゲストや教団員たち、銀河の様々な勢力の高官たちとも真面目に受け答えしているからだ。

いつから教祖はこんなに演技が出来るようになったのだろうか? 

カワギシは痛む胃を庇いながらも、そんな事を考えていた。

確かに教祖の話術は天才的なものがある。

十数年前、若い頃にピン芸人やってた頃(わずか数年間)には、あっちこっちでメディアの芸能賞を総舐めするような爆笑ギャグで一時代を築きながらも、


「芸人、飽きた」


の一言で芸能界を去り、その足で何と宇宙軍の募集所へ入ったという逸話を持っている。

勿論、その頃のテイラーの芸人の腕を知るものばかりだったから募集所でも審査官に、


「もう一度、考え直したほうが良くないか? 君の才能を必要とする場所は芸能界とホロカメラ、そして演芸場の全ての観客だと思うんだが」


3度も忠告されたが、その時のテイラーの回答が今でも募集所の語り草になっているという。


「平和な場所で笑いを取るのには飽きました。ミサイルや光子魚雷、レーザーやフェーザーが飛び交う中で、それでも人は爆笑できるのか? 私は、それが知りたい」


そう、テイラーは答えたそうな。

募集所の課長は二の句が告げずに黙ってテイラーの応募書類に最高判定入隊推薦の大判を押したと言われる。

宇宙軍に入ってからのテイラー二等兵は訓練期間が終了すると前線へ……

送られるような体力も強化外骨格の操縦免許も無かったので書類を扱う部署へと送られたという。

しかし、そこでテイラーは思わぬ才能を発揮する。

宴会部長? 

確かに宴会でのテイラーはイキイキと裏作業を進んで行い、上司、そのまた上司、そのまた……

と上の方たちに顔と名前を憶えられるのは早かったと言われる。

しかし! 

彼の真骨頂は宴会芸ではなかった。

彼の特技は、あらゆる組織のトラブルを見抜き、またたく間に組織の活動を円滑にするという隠し技だった。

書類が一枚テイラーに渡ると、それが申請された日付と自分に回ってきた日数を比較し、またたく間に、どこで書類が滞っていたのかを見抜き、その部署に赴き、わざわざトラブルシューティングを無償でやって、その部署の風通しが良くなると……

自分が怠けはじめる。

最後の悪癖がなければ数年で尉官への昇任は確実だったと言うからトラブルシューティングの腕はとてつもないものだったのだろう。

いつしか宇宙軍総務部では、こんな噂が囁かれるようになる。


「テイラー上等兵が居眠りから覚める時、総務部の中に重大トラブルが発生したと思え」


まあ軍隊組織などと言うものは、どうしても風通しが悪くなるものなんだが、テイラーはいち早くそれを嗅ぎつけて、こう一言。


「また良からぬ風が吹き始めたよ……出動の時だね」


うたた寝していた席から、ひょいと離れると数時間後に戻ってきて、また居眠りを始める。

宇宙軍総務課長は、この時、総務部長たる中佐へ連絡を入れるそうだ。


「あ、中佐でありますか。はい、またテイラーのやつが動きました。どこかで偽造書類が紛れ込んだか、それとも何処かの部署で不正経理が発覚したか……はい、今は戻ってきております。解決済だと思われます、はい。では、定期報告終了いたします!」


敬礼して通信機を置く課長。

この頃のテイラーが何の任務で総務部にいたのか自分でも語ることはないし関係者に当たっても口が重い。

よほど重大な任務かと思いきや退役兵士への慰労金や年金業務などの小規模な停滞事件も関わっているし、それこそ将官で退役された方々の慰問業務にも携わっている記録がある。


入隊したのが、まだまだ若い時期だったので(二十代前半で芸人として頂点を極め、中盤にして軍隊へ入っているのだ)女性兵士にモテるだろうと思いきや、その方面は、さっぱり。

今もアイドル並にカリスマはあるが性的魅力は無きに等しいと思われ未だに独身の四十代、新興宗教教祖だったりする。

ともかく宇宙軍総務部へ配属され、そこに3年間いたと書類には記述されている。

それから何を間違えたのか理解不能ではあるがテイラーは宇宙軍の将官付き秘書となって様々な戦場と参謀本部を行ったり来たりの忙しい生活に急変する。

ここで目覚ましい活躍をしたという記録はないが、そこから数年後、未だに理由は不明だがテイラーは最前線にて駆逐艦の艦長を務めている。

昇進理由も不明なら、その階級すっ飛ばしの理由も不明。

数年前には秘書官としてテイラー伍長だったはずの人物が、あっという間に、


「銀河統合宇宙艦隊、駆逐艦かみかぜ艦長、テイラー少佐」


になっている。

この頃、テイラーは艦長として、とても信じられない数の敵を倒している……

テイラー少佐が艦長であった銀河統合宇宙軍駆逐艦「かみかぜ」の戦果を軍の公式記録だけで表記。


撃沈・大破させた敵艦総数100

内訳

空母6

戦艦4

重巡洋艦15

軽巡洋艦15

駆逐艦30

潜宙艦30


ちょっと信じられない数である。

これが、かみかぜという一隻の駆逐艦だけで沈めた敵艦だとは公式記録だと言われても眉唾だと言うものが多いだろう。

大体、宇宙空母や宇宙戦艦など一介の駆逐艦風情が沈められるものじゃない。

銀河統合宇宙軍の元軍人たちの中では半ば伝説のように語られる「かみかぜ」という駆逐艦。

実は相当な老朽艦だった。

テイラー伍長が大抜擢で少佐に上げられた時、かみかぜを指揮していた前任の艦長が直前に食中毒で退任している。

前任の艦長であった人物も、かみかぜの歴代艦長リストに載っているが、十数名の歴代艦長たちはテイラー以外あまり目立った活躍をしていない。

どちらかというと後詰め部隊のほうで物資輸送隊護衛を主としていたのが、かみかぜだったようだ。

これが、テイラー少佐が艦長になった途端、初戦で挙げた戦果が、


戦艦1撃沈

空母2大破

重巡3大破

軽巡、駆逐艦、各々10撃沈


もう、この時点で普通じゃない。

大海戦と後々まで語り継がれる大軍同士のぶつかりあいになったペリル岩礁宙域海戦でテイラー少佐が艦長デビュー。

あまりの大戦果に参謀本部も将軍たちも一気にテイラーを中佐、あるいは大佐に昇進させるつもりで動いていたが……

本人曰く、


「いやー、たまたまの幸運です。まだまだ、この艦の実力、こんなもんじゃないので」


昇進を断り、その代わりに艦の武装強化を希望したという。

その成果は次の戦いで発揮される。


空母1撃破

戦艦1大破

重巡5撃沈

軽巡、駆逐艦、潜宙艦、それぞれ5、5、3撃沈


大海戦ではなかったが、この戦果は特筆すべきもの。

テイラーを大佐に昇進させ、重巡あるいは戦艦艦長へ着任させようと上司たちが様々な説得を試みたが……


「大佐への昇進は受けます。でも小官の居場所は、かみかぜですので」


副官以下、感動に打ち震えたと書類にはある。

以降、出る戦い全てにおいて、かみかぜは敵を痛打し、自らにはかすり傷ひとつ負わないという奇跡が起きる事となる。


艦長歴5年。

かみかぜの退役と共に艦長を降りたテイラー大佐は、その功績により2階級昇進、少将となる。

参謀本部詰となったテイラー少将。

参謀として参加する作戦には次々と新作戦を提示。

緒戦において敵を殲滅に近い状況に追い込むことも、しばしば。

反感を持つ参謀もいたがテイラーは実力で自分を認めさせる。

2年も経たぬうち少将は中将、大将となりテイラーは軍で極め付きの位となる。

テイラー大将が35歳を少しすぎた時、老境に入った将軍たちは次々と鬼籍に入るか引退。

自分が望まぬものではあったがテイラー大将は参謀本部より軍統括本部の司令長官に推挙される。

自分が固辞しても代わりになる者がいない状況、テイラー大将は、しぶしぶ司令長官の座につく事となる。

テイラー司令長官のもと和平交渉推進派へと変貌した銀河統合宇宙軍は昨年まで殺し合ってた敵勢力も陣営に取り込むことに成功する。

銀河に平和が戻って司令長官は。


「軍にも飽きたなぁ……ボクが居なくても、もう大丈夫でしょ。じゃぁね!」


自分に辞表を書いて軍を去ったという……

その壮絶とも言えるテイラー教祖の過去を知っているだけにカワギシは思うのだ。


「この人が飽きないこと。それは何だろう? お笑いも宇宙軍も、この人を満足させなかった……宗教だって、いつか飽きるだろう……その時、我々がすがるものは何? 誰?」


眼の前の人物が急に得体の知れない何物かに変貌したようにカワギシは感じ、身震いするのだった。

どうしても聞きたいことがあると、催し物が終わってから自室へ帰るテイラー教祖を引き止め、カワギシは質問する。


「テイラー教祖様。あなたが、この汎銀河教の中心人物だということは、この団体にいるもの全てが承知しております。そこで、どうしても聞いておきたい事がありまして」


不思議な顔でカワギシを見つめるテイラー。


「え、カワギシ君が? 君は、この教団の最古参グループの一人だよね。ボクのことなら全て承知してるはずなのに何が聞きたい?」


「テイラー教祖、いえ、テイラー様が、いずれ宗教というものにも飽きてしまわれるのではないかという事です。ご存知のように宗教団体というものは一人の教祖に全ての教団員が信仰と情熱、そして神への愛を捧げています。あなたが、この汎銀河教に飽きてしまったら、この教団は、その時点で崩壊しますよ」


カワギシは日頃の思いを全てぶちまける。

そう、カワギシが恐れているのはテイラーが現在、宗教的情熱を持って運営と発展を目指している汎銀河教という巨大宗教団体の崩壊である。


「大丈夫だよカワギシ君。まだまだ、この宗教団体はボクにとって必要不可欠なもの。まあボクの子供や子孫にとっても不可欠なものになるかも知れないが……なんせ、この宗教団体で、あの宇宙台風キャサリン(仮称)に立ち向かおうってんだからさ」


あっ! 

と思うカワギシ。

こいつ本気だったんだ……

ずいぶん昔、汎銀河教という宗教団体が、まだまだ小さなものであり国家どころか地方自治体すら認識外だった頃の話を思い出したカワギシだった……


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「なぁ、カワギシ君よ。この汎銀河教、未来にはどうなると思う?」


その頃は宇宙軍を辞して一年も経っていなかったため未だに入信希望者よりも元の宇宙軍関係者からの面会希望(つまりは、もう一度、軍へ戻って下さい! の懇願団体)を取り次ぐのが大変だったカワギシにテイラー教祖が語った。


「テイラー教祖、いや、テイラー様……これを口癖にしないと宗教団体としてマズイからな……まだまだ汎銀河教は大きくなるとは思うけど四大宗教を超えるのは無理じゃないか? と私は思う、正直な所。だって、この汎銀河教、テイラー様のカリスマで保っているようなものだから」


「いーや、違うよ、カワギシ君。この汎銀河教、この宇宙、この銀河でも有数の強力な教団にしてみせるさ。ボクは銀河統合宙軍の司令長官だった時に見た一枚の宇宙図が未だに忘れられないんだよ……あの全てを飲み込むような宇宙規模、いや銀河規模の災害、宇宙台風のことだ」


カワギシは、この時初めてテイラーから、銀河の数十分の一という、とんでもない規模の宇宙災害が存在すること、そして、この銀河宇宙に向かって、その宇宙台風現象が向かって来つつつあることを知らされる。


「恐ろしい話ですな、それは。で? この銀河が宇宙台風に巻き込まれるのは、どれだけの年数が経ったらですか?」


「それがだねぇ……たった数万年だよ」


「は?」


「だから最短で4万年以下、最長でも10万年はかからない。そんな、ちょっとした未来に宇宙台風が襲ってくるんだってば!」


カワギシは、その時は人外の物を見る目でテイラーを見つめていた。

この男、本気か? 

本気で数万年先の銀河規模災害を防ごうとしているのか? 


「テイラー様のお考えは理解しようとしても普通の人間たる私には理解不能だと思います。決定事項だとは言え何処の誰が数万年先の大規模銀河災害を本気で心配して今から対策を練ろうと思うものですか?! 普通なら、そんなことは未来の子孫へデータとして書き残すか、それとも石碑とかに彫るべきものでしょうが」


普通ならカワギシの考えることのほうが常識である。

しかしテイラーは違った。


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この会話から10年以上経つがテイラーの予言通り汎銀河教団は、この銀河でも有数の巨大で強大な力を持つ宗教団体へと成長した。

通常、一つの星で発生した宗教団体が、文化や種族、生命形態すら違う別の星系で受け入れられることは滅多に無い。

それが、言葉は悪いが病原体のウィルスが突然変異して宇宙中に蔓延でもするかのように汎銀河教の教えを説くエバンジェリストと入信希望者は今でも膨大な星系にまたがって増え続けている。

カワギシは自分の目が曇っていたことに気づく、今更ながら。


「テイラー様、あなたは神ならぬ身で神の如き愛と宇宙の如き心で、この銀河全ての生きとし生ける者たちを救おうと未だにあがき続けているのですね! このカワギシ、今更ながら気づきました! 愚かなるこの身、恥じております!」


テイラーは当然のごとく、こう語る。


「数万年を見る目があるか? という問題だよ、カワギシ君。普通の者は見ることも考えることも不可能さ」


そう言うテイラーだが、その目に映るのは今の景色か? 

それとも宇宙台風の襲い来るだろう未来の景色か? 

凡人なるカワギシに、それを判断する事は不可能だった……


それからも定例会議で宇宙台風の迎撃手段を議論したが、今いち、これという決め手がない。

テイラーは未来の惨憺たる光景を思い浮かべることが出来るのに対し他の者たちには数万年という遥かな未来を思い描くことそのものが難しいためでもあるのだが迎撃しようとする相手が巨大過ぎる。

何しろ直径で10万光年はないにせよ、それに近い大きさの宇宙台風。

そんなものに対して対抗できる手段そのものがあるのかどうかすら……

例えば一つの星系そのものを物理攻撃でぶつけたとしても、直径10万光年に近い巨大な相手に、どれだけのダメージを与えることができるのやら。

テイラーは、あまりに迎撃手段がないことに呆れ一つの指針を出す。


「巨大過ぎる相手だけど一つだけ迎撃する方法があると思う……とはいうものの、これは今のテクノロジーじゃ造れないので未来の子孫たちへの宿題になるだろうけど」


テイラーからの意見に色めき立つ参加者たち。

さっそくカワギシが質問。


「テイラー様、それは、どういうものになるのでしょうか? 巨大すぎる宇宙台風に一撃でも食らわせることができるんでしょうか?」


「ああ、相手が巨大だと言ってもエネルギー的には僕らの銀河のほうが圧倒的だろ? 言ってみれば、この銀河の全ての恒星のエネルギーを集めて銀河砲とも言うべき巨大エネルギー砲を作って相手にぶつけてやれば良いと思う。アイデアとして、もう一つあることはあるけれど聞く?」


カワギシ以下、テイラーの妄想にも近い迎撃手段を聞いて呆気にとられる。


「そ、それは凄い、と思います。まあ、それこそ遠い未来の子孫でもなければ開発は無理だと思いますが……もう一つの案とは?」


「うん、それはね……この銀河中心部にある超巨大ブラックホールへ宇宙台風を誘い込むんだ。これも多大な犠牲と、向こうが知性を持たないって前提で話してるけどね。罠は知性体には通用しない……宇宙台風が知性体でない確証もないんで、こっちの案は提唱しなかったんだよ」


テイラーの意見を聞いて宇宙台風が知性を持つ可能性に思い至る会議参加者。

それは、ある意味、悪夢そのもの。

人類も、その他の文明でもそうだが自分より一万倍以上のサイズ差がある物体や生物に対し、それに知性があるなどとは考えられないし考えたくもない。

思考実験してみれば理解できるだろう。

自分が体内に取り入れた風邪のウィルスが知性体だとして、それに対して薬を飲むということは知性体を集団抹殺している行為に他ならない。

宇宙台風が知性を持つ生命体だとすると、それを殺すような行為は病原菌が宿主を知性体だと知らずに殺してしまうようなものである。

逆に考えると宇宙台風に対してエサが、こう語りかけるようなものだ。


「あなたが今、食おうとしているのは知性を持つ生き物だ。知性体を、それと知って食えるのか?」


普通ならエサに語りかけられたら考え直す。

しかし一万倍どころではないサイズの差がある生命体同士がコミュニケーションなど不可能だ。

もしかして万が一、宇宙台風が知性をもつものだとしてもコミュニケーションをとる方法が皆無な状況では迎撃手段を考えるしか無い。


テイラー教祖、そんな周りの者たちの考えを知ってか知らずか、いつもの如く、のほほんとした表情に変わる。

会議の結論として迎撃案を未来へ残そうということになる。

一応、罠に落とすという案も併記するということになったが、まあそっちは別の話で、と言う形。

本命は巨大銀河砲の実現のほうだろうと思える。

ちなみにだが宇宙台風キャサリン(仮称)の進行は宇宙空間を真っ直ぐではなく少し角度を付けていることがあるのも確認された。

それは宇宙台風が通り過ぎた別銀河の観測で分かった。

宇宙台風キャサリン(仮称)は気に入った銀河は食い散らかすがエネルギー的に小さい銀河は美味くないようで、少し進行しては、そのまま角度を付けて別銀河へ目標を変える事もあるようだ。

あまり大きな角度ではないが少しづつ方向を変えていくという事もあるようで今の状況からは予想しにくいが、この銀河から逸れていくことも考えられるとのこと。


「あんまり希望的観測は、しないほうが良いとは思うけどね……」


とはテイラー教祖の言葉である。

策としては最悪の事態を考えて行動することだと、テイラー教祖は付け加えるのだった。


「ふーむ……遠い未来へ指針を残すのは良いけれど今と近未来はどうしようかねー、カワギシ君。もう少しで、この銀河周辺部に差し掛かるよね、宇宙台風キャサリン(仮称)は」

定例会議が一段落して、ここはテイラーの執務室にしてプライベートルーム。

テイラーが一番の右腕とも頼むカワギシに、よんどころない意見を聞こうとする。


「はい、キャサリン(仮称)監視チームの報告によりますとですね……宇宙台風キャサリン(仮称)の中心部は、まだまだ数万光年単位で離れてはますが、その勢力圏の影響が、あと数年で銀河周辺部に到達しそうですね。幸いにして到達部となる予定の周辺部宙域に生命体の存在する星系は無いことが確認されております。不幸中の幸いと言いますか宇宙台風の影響が、どういったものなのかが検証できると宇宙物理学者たちは喜んでいる始末ですが……研究バカの典型と言いますか何と言いますか困ったものですよ」


「そうかい。まあ、あまりに星系被害が大きいようなら迎撃計画を前倒しすることも考えないといけないね。ところで、カワギシ君?」


「はい? 何でしょうか、テイラー様」


「君、この宇宙台風キャサリン(仮称)気になる点は無いかな?」


「え? 気になる点と言われましても……そうですね。知性があるのか無いのか微妙な点、そして自然現象ではありえない、ブラックホールより厄介な、動きまくる……いえ走り回っていると言っても良いところでしょうかね」


「やっぱり、君もそう思うか……僕も変だと思うんだ……定例会議では、あまり追求しなかったけど、こいつは、もしかして……」


「あ、もしかして、テイラー様は、この宇宙台風現象が知性体により引き起こされていると?」


「いやいや、そこまで陰謀論者ではないけどね、僕は。で、僕は思うんだよ、カワギシ君」


「何かアイデアが? テイラー様」


「いや、アイデアがあるわけじゃなくて……知性体が関係してるのなら僕らを超える知性が、この件に関わってくるかもよ……僕の直感に過ぎないけどさ」


「何を突然。宇宙台風に匹敵するような知性体が乗り出してくるとでも?」


「うん……この銀河だけじゃなく、隣接した銀河にも古くから伝わる伝説と言うか何と言うか……カワギシ君も知ってるよね?」


「大昔からの言い伝えですか? こっちじゃ子供向けの絵本にもなってますな、その伝説……遥か宇宙の彼方より飛来してきた、あまりに巨大すぎて他の星に近づけないほどの大きさの宇宙船に乗った、あまりに優しい神の使いが、あらゆる災害や争い、悲しみから、あらゆる生命体を救い続けている……でしたか。荒唐無稽過ぎて子供の憧れにすらなり難いレベルですよね」


「そう……でもね、この宇宙台風が、もし知性体の成し得ていることだとするなら……その巨大過ぎる宇宙船に乗った神の使いが介入してくる原因、重大トラブルになると思わないか?」


「率直な感想を言わせていただいてもよろしいですか?」


「どーぞ、どーぞ。ここには君と僕の二人っきりの部屋だよ。本音を、いくらでもどうぞ」


「では……どう考えても超人と邪神が戦うような、もう、この世の終わりとしか思えない光景しか思い浮かびませんね。しかし出来ることならば……多分、絶対に無理でしょうが……その人智を超えた戦いと言うか、やりとりを死ぬまでに見たいと思いますよ、個人的に」


テイラーは、


「見ることは不可能だろうけど……その成果は見られるかもよ……」


と、意味不明な言葉を返すのみだったと言われる……



こちら、ガルガンチュア船内。


「さて、と。色々と裏工作して宇宙台風の影響がすぐにも来ると思われる星系は住民ごと引っ越しさせたし……そろそろ実力行使で強制的にコミュニケーション作戦、やってみるか」


楠見の言葉に反応する郷。


「え? 師匠は、あんな宇宙台風なんて超自然現象みたいなものが生命体だと考えてるんですか? 直径が10万光年弱の生命体……な、なんか目の前がクラクラしてきましたよ。どうやったら、そんな考えになれるのか教えてほしいもんです」


郷、気持ちは分かる。

もう超自然現象とか言われたほうが理解しやすい宇宙台風が、よもや生命体だなどとは思う方も超自然現象に近い思考形態だろう。


「だってなぁ、郷さんや。宇宙台風の今までのコースを考えてご覧。銀河と銀河の間を食い散らかすように抜けてるだろ? 急激に方向変えてる地点もあるし、こりゃ思考力のない自然現象と考えるほうが不自然じゃない?」


「いやでも、だってですねぇ……はぁ、仕方がない、認めますよ。宇宙台風が、ある程度の思考力を持つ生命体だって事は。でも惑星とか太陽とか言うレベルを超える大きさのものに対して、どうやってコミュニケーションとろうって言うんです? 近づくことも出来ないじゃないですか、危険すぎて」


「まあ、確かに。近づきすぎて、その勢力圏内に入ってしまったら、さすがのガルガンチュアと言えどもダメージは免れないだろうな……食われたりとか破壊されることは絶対に無いだろうけど」


ガルガンチュアほどの宇宙船に対してもダメージを与えられるほどの宇宙台風。

そんなものに対し、いくら宇宙最強レベルとは言え人間一人が何を、どうすれば良いのやら……


「フロンティア、ちょいと相談がある。ガルガンチュアを構成する船、4隻の全てのエネルギーを使ってシールドを展開したら宇宙台風に突っ込めるか?」


楠見の言葉にガルガンチュアの総力戦となりそうな気配を感じて宇宙船同士での会議が始まる。

とは言え宇宙船同士は顔を見なくとも会議など簡単。

頭脳体も交えて4隻と4人での仮想空間会議が始まった。


「マスター、一時間ほど下さい。ガルガンチュアの総力を結集すれば宇宙台風の喉元まで近づけるかと……では、会議に入ります」


ガレリアもトリスタンもフィーアも黙り込む。

これからはデータの問いと答えの応酬となる。


1時間半後、ようやく4名の宇宙船頭脳体が動き出す。


「意見がまとまりました。今のガルガンチュアの総エネルギーを使えば、あの宇宙台風の中に飛び込んで中心部を目指す事は可能です。しかし、宇宙台風の中が、どうなっているかが全くわからない状況で中へ飛び込むのは、いささか準備不足と言わざるを得ません」


「ガルガンチュアとしての総括だな、ありがとう。ところでトリスタンは宇宙台風で何か情報を掴んでいないのか? 特殊センサーで、ここしばらく宇宙台風を監視してたよな」


「はい、確かに。私が掴んでいるのは、この宇宙台風が特殊なものだという事実です」


「宇宙台風現象そのものが特殊だと思うんだが、それでもトリスタンが観測して特殊だと思うのは、どうしてだ? もしかして中の様子が観察できたのか?」


「いえ、中の様子が観察できたわけじゃありません。逆に中が見えないことで推察できることがあるのです」


「え? どういう意味だい、トリスタン。見えなきゃ意味がないだろう」


郷が聞く。


「私のセンサーは特殊なものです。通常では捉えきれないものまで感知することが可能ですが……あの宇宙台風の中は見えないのではありません。中に何もないのですよ」


「ん? どういう事だ? 宇宙台風は存在するが、その中はスカスカということか?」


「いえ、スカスカというよりも吸い込んだものを吸収しているのではないかと……つまり、質量のエネルギー化です。ブラックホール現象でも質量のエネルギー化は起こりますが、どうも、そういう形ではないようです」


「と言うと……文字通り「食っている」ということか?」


「そうですね。食っているという形容が正しいと思います。ブラックホールであれば自重と回転速度により動かなくともエネルギーに事欠かないくらいの星間物質や惑星恒星衛星など大きな質量が確保できますが宇宙台風は質量的には軽すぎるほどに軽いと思われます。具体的に言うと……多分、星系一個ほどの質量もないでしょう」


「ええっ! あれだけ銀河を食い破るほどに強力な宇宙台風がスッカスカで軽いものなんですって?! 何なの、それ?」


ライムが驚きの声を上げる。


「エッタ、お前なら理解できるかもな。あれは、お前の同類かも知れないぞ」


楠見に言われたエッタは、


「そう言われてみれば……精神生命体となって幼体から成体となってからは、この3次元宇宙でのエネルギー消費は少なくなりましたが、それまでは、どうにかして自分の存在を存続させつつ、成長のためのエネルギーも確保しなきゃいけなかった記憶がありますけど……でも、宇宙台風なんて物騒なものじゃなかったですよ、私の場合」


「これで判明したな、あの宇宙台風の正体。どうにかして宇宙台風の中心部まで行き、中心にいる存在とコミュニケーションをとる。そして、はた迷惑な今の状態から成体となって超空間エネルギーで生きていけるように教育してやるのがトラブル解決の骨子。さあ、行くぞ!」


数時間後、宇宙台風は自然消滅した。

観測していた宇宙軍の一部隊は緊急警報を出す。


「宇宙台風キャサリン(仮称)消滅! 繰り返す、宇宙台風、消滅! 原因不明だが宇宙台風は消滅した!」


宇宙台風消滅のニュースは、それこそ超光速で銀河全体に広まった! 


「カワギシくん、どう思う? これって、やっぱり僕の思う存在が介入したのかね?」


「うーん……神ならぬ身には判断のしようがないんですが……結果だけ見ると、かの存在と宇宙船が介入したってのが正解なんでしょうけどねぇ……これが事実だとしたら、安心すると言うよりも空恐ろしくなるんですけどね」


「え? そりゃまた、どうして?」


「だって考えてもみてくださいよ。テイラー様にも成しえない事をなせる存在、宇宙に生きる存在としてはごくごく小さな存在である我々としては宇宙台風にすら影響を及ぼせる存在って、もう神にも匹敵する存在ですよ……それこそテイラー様の統一銀河教団を崇拝するより現世利益が確約されるってもんでしょ?」


「カワギシくん、その答えは、ここだけにしてくれよ。まあ、確かに大正解なんだろうけどね。もう統一銀河教団の意味も無くなっちゃたしなぁ……」


「ストーップ! それ以上は言っちゃいけません! 前にも言いましたよね、今、テイラー様に飽きられてしまったら我々と信徒、教団そのものが崩れますよ」


「だよねぇ……これからは嫌々ながらも教団のために働かなきゃいけないのかぁ……」


「あのですねぇ……今現在、いくつの星系と支部が、この銀河にあると思ってるんです? それこそ、大きさとして教団員だけで小さな星間帝国くらい成立するんですよ。そのトップにある貴方が、やる気を出してくれなくてどうするんですか?!」


気分のままにあっちこっち仕事と仕事を変えるのが趣味でもあったテイラー。

しかし、それも宗教の教祖でおしまいとなりそうだ。

後は早く身を固めてしまえとばかりに周りから攻められる運命が待っているとは、それこそ神ならぬ身のテイラー……

己の未来は予想できなかった……



変わって、こちらガルガンチュア。


《だから、そうじゃなくてね……ああ、それじゃ宇宙台風に逆戻りだ! ……ちょっと待ってね……》


「エッタ、バトンタッチだ。ようやく話が通じて自分が精神生命体の幼体だって納得してくれたんだが、ちょっと厄介でね、この子。どうあっても自分の居場所は、ここ、3次元宇宙だと言い張るんだよ。まあ親とはぐれて宇宙をさまよってたんで食べ物も玩具も全てがこの宇宙にあると思いこんでしまったんだろうなぁ……説明と、超空間からのエネルギー摂取方法、教えてやってくれ。まずは、それからだ」


「はい、ご主人様、了解です。はいはーい、精神生命体の赤ちゃんですよねー、あー、可愛い可愛い。大きさも中心部だけなら直径100km前後じゃないですか。まー、将来が楽しみですねー……」


「ふぅ……何とか宇宙台風状態から通常の精神生命体状態へと落ち着かせたぞ。しかし、俺もまさかとは思ったが、あの宇宙台風が幼体の精神生命体が興奮状態になった状態とはねぇ……」


お疲れ様です、と声をかけながら、ライムと郷が。


「はい、お茶です。今回は、いつにも増して緊張感、漂ってましたよね、キャプテン。そんなに厄介ですか? 精神生命体って宇宙の管理者たちの一族じゃなかったでしたっけ?」


「ああ、ありがと、ライム。あー、麦茶が美味い……厄介ってのはね、相手が幼体だからだよ。赤子と地頭には逆らうなって諺もあるくらい、いくら精神生命体とは言え物の道理も何も理解できてない赤ん坊状態じゃね。宇宙台風の状態から落ち着かせて根気よく話を聞いてみれば生まれたのは、ほんの数十万年ほど前だとさ。親が近くに居たんだけど突然の宇宙嵐で保護空間ごと銀河団を超えちゃったらしいんだな。超自然の力とか言われて恐れられてたらしいんだが手近な星やデブリを食い尽くしてしまって、食欲のあまり宇宙台風状態で移動しつつ周辺銀河を食べてたらしい」


「はぁ、何と壮絶な生命力ですな。で、師匠。ひとりぼっち迷子の精神生命体の赤ちゃんですが、どうする気ですか?」


「ああ、それは考えてある。さすがに若すぎて今のあの子では仲間と連絡とることも不可能だろう……だから俺がやってやるのさ」


《宇宙の管理者! ここまで思考次元上げたら聞こえるはず。さまよってた、君らの仲間だろうと思われる幼体を発見、保護しつつ超空間エネルギーの摂取方法も教えている。一刻も早く引き取りにきてくれないか! 》


「さて、これで返事待ちとなるわけだが……」


〘噂のガルガンチュアと、お前が度々、我らの会議で議題となるクスミか。今回は礼を言おう、その子の親からは再三再四、救助と捜索の要請が出ていたのでな。その子が食い散らかした周辺銀河も我々で修復するので安心してくれ。しかし、そっちに行っておったとはな……想像以上の強度を持つ宇宙嵐が保護空間を襲ったとみえる……まさか超銀河団を超えた先に飛ばされるとは……〙


「我が主。今、何かの大いなる力と思われるものにより、より小さな力が吸収されて無くなりました……精神生命体でしょうか?」


「ああ、そうだ、プロフェッサー。呆れるほどに遠くまで飛ばされてしまった赤ん坊を保護しに来た宇宙の管理人たちの一人だよ……さよなら赤ちゃん。親御さんが待ってるぞ」


赤ちゃんが居なくなっちゃたぁ! 

と叫ぶエッタをなだめつつ、楠見は、あの赤ん坊の将来を思うのだった……