第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第五十五話 とある銀河の小さな物語

 稲葉小僧

宇宙は無限。

無限なる宇宙、それは無限の可能性を持つということ。

そこは、あり得ないほどに小さな可能性すら実現させる場でもある……


それは割と小さめな銀河。

活発とも言えないが暗い銀河とも言えない発展途上の銀河だ。

そこには様々な生命体が生まれ、あるいは星ごと滅び、あるいは次代に覇権を譲り、またごく少ない数ではあるが自力で宇宙開拓に乗り出す種族もあった。

その銀河宇宙に、ごくごく少数、ほんの数100の星に生きる生命体種族だけが恒星と恒星の遥かな距離を縮める手段を手に入れた。

しかし、その大半が光速度までの移動手段でしかなく主星を中心として100光年以下の星間文明しか構築できなかった。

巨大な銀河宇宙ですら光を超える速度の移動手段を手に入れたのは、ほんの数種族に過ぎなかった。

その数種族が、その銀河の覇権種族となり互いに切磋琢磨し、あるいは小競り合いを続けつつ、それでも互いを滅ぼすこともなく巨大な銀河に緩やかな星間連合共同体を造り上げていった。

いつしか、その星間連合共同体は銀河を丸ごと抱え込む組織となり、緩やかではあるが厳しい規律のもと、その力を全ての支配下宙域に伸ばしていく。

現在、各星系での光速以下の移動手段は、どのようなものでも許可されるが、光速を超えるもの(跳躍航法)は星間連合共同体の許可を得ないと航行はおろか宇宙船の製造すら許されない。

無許可の超光速エンジンを積む宇宙船は問答無用で星間連合共同体の宇宙軍の攻撃対象となる。

要は己の星系の隣近所は勝手に出かけても良いが、遠い星系への旅行を含む移動(貨物輸送も)は星間連合共同体に全権委任させろという話であるが……


「艦長、宇宙海賊の撃滅、確認しました。報告書にありました宇宙艦全てで間違いないと思われます」


副長が、すました顔で報告してくる。


「ありがとう、これで任務完了だな。今回は一ヶ月近くもかかってしまい、宇宙軍本部へ戻るのは久々になる。報告書を書き上げた後は全速力で本部へ戻る。君も愛妻と子供に会いたいだろう」


「艦長、任務ですので個人的な不満はありません。しかし……宇宙海賊って連中は、あんな武器や装備で本当に宇宙軍の艦艇に太刀打ちできると思ってたんでしょうかね? 確かに逃げ足だけは速かったと思いますが紙装甲じゃないですか」


「いやいや副長。我々宇宙軍の艦艇装備や装甲、武器の情報は軍事機密として秘匿されているからな。彼らが独自開発していた武器や装備、装甲性能など我が宇宙軍に太刀打ちできるレベルじゃない」


納得しかねるという顔の副長を後に残して私は艦長室へ。

今回の宇宙海賊掃討戦の詳細を報告書にして帰投後に提出しなければならないので今から書類作業に没頭しなければならないからだ。

まあ、とは言いながらも航行記録や戦闘記録は残されているため、あとは自分の感想を付け加えるだけなんだが。

はぁ……

この書類作業だけは、どうしても慣れないなぁ……

私は、ぶつぶつ言いながらも上司へ提出する書類を作成していくのだった。


「トラース艦長、いや、トラース大佐。宇宙海賊撃滅任務、ご苦労だった。これで、この銀河も一時は平和になるだろうから、しばらくは休暇でも取り給え。この数年、君は有給休暇すら一日も取得していないようじゃないか。総務部のほうから否が応でも今度という今度は強制的にでも休暇を取らせろと厳しいお達しが来ているのだ。明日から3ヶ月、強制的に有給休暇だ! さあ本部から出ていけ、休暇を消化するまで帰ってくるな! 何か緊急事態が起これば別だがな」


我が上司である少将は艦隊司令部より私を追い出す。

聞くところでは私の部下全員が有給休暇の強制消化ということで宇宙艦を追い出され(当直組も含めた全員だ)当分は帰投厳禁と言われたらしい。


はぁ……

急に休暇3ヶ月などと言われてもなぁ……

こういう時、軍務のみで生きてきた人生に悔いが出る。

趣味や娯楽の一つでも持っていれば精神的なストレス解消もできるんだろうがなぁ……

私は小さなスーツケース一つを持ち、司令部を出る。

金は……

あるな。

軍の認識票がクレジットカードにもなるので金銭を持ち歩かなくても良くなったのは昔より進歩した点だろう。

さて、3ヶ月の強制休暇。

何処へ行き何をやろうか……

現在、強制休暇を消化中……

我が艦の乗員全てで。


長期休暇、どうやって使えば良いかとツーリスト会社に相談したところ、こちらはいかがでしょうか? 

と提案されたのはリゾートに特化した某星系。

いいじゃないかと乗り気になり長期ツアーパックはないかと話を進めたら……


「では、こちらのコースを望まれるお客様が多数おられますので、パックツアー化させていただきます。集団ツアーのほうが料金はお値引きできますので」


なんでだ? 

と理由を聞いたら我が艦の乗員とファミリーが、せっかくの長期休暇なんだからと憧れのリゾート星系へのツアーを希望していると。

まあ、知らない顔ばかりの星へ単独飛行するよりは良いかと提案に乗った結果……


「あ、艦長! 艦長も、このパックツアーに申し込まれてましたか。私、数日は家でのんびりしたかったんですが妻と子供が長期休暇ならリゾート星へ連れて行けってやかましいもんですから」


この状況が現在。

一流ホテルが、あっちもこっちも我が艦の乗員で満たされている。

ビーチで泳いでいても海中散歩としゃれこもうと小型潜水艇をチャーターしても、ちょいとした登山を計画しても、現場へ行くと必ず乗員の誰かと出会う。

まあ、我が艦は大きいからなぁ。

全長500mは宇宙戦艦や宇宙空母除けば最大級。

巡洋艦クラスでは並ぶもののない大きさである。

当然、乗員も多く駆逐艦や潜宙艦などの小型艦のような数十名などという定員などではない。

なんと収容最大人数は1000名。

乗員定数も最低で200名だが現在の我が艦では通常任務をこなすのに必要な定員として350名を乗せている。

最大収容とは戦時に宇宙海兵隊や臨検部門などを追加した場合の最大搭乗人数だ。

まあ、これも寝る場所を確保できる最大人数だから捕虜収容や宇宙災害の救助時には倍の2000名まで乗せられる。

350名の団体客+その家族(結局、2000名を超えたらしい)というのは一つのツアーとしては最大数に近いだろうと思う。

ちょっとした村や町ができそうな人数なんだが、それがホテルへ乗り込んだら、ほとんど貸し切りのようなものだ。

大きなホテルではあるが通路を歩いていてもロビーに出ても、大きな浴場へ行っても出会うのは、ほとんど見知った顔ばかり。

一週間後には閉口してホテル近くの小さなバーで飲んでいたら、そこへ二次会のような飲み直し組が5人ほど入ってきて、


「か、艦長! 酔ってはおりません、今から、ここで酔わせていただきます!」


ああ、これじゃ宇宙艦にいるのと変わらない……

それもまた良いと思うが。

数週間後、さすがに知り合いばかりのホテルに飽きて、ちょっとした単独行へ。


ホテルと同じ系列会社のレンタルエレカーを借りて、遠出をしてみることにする。

キャンプ道具もレンタルし、一人で山にこもり、単独キャンプを行う予定。

ホテルで案内されたキャンプ地へ到着すると流石にオススメされるだけあって見晴らしも景色も素晴らしい。

この星系は特別に追加料金を払えば星系内ならどこでも単独キャンプが可能になるようで(巨大なガス惑星でもキャンプ生活が可能になる装備もあるんだとか。まあ、一点に固定するようなテントではなくガス惑星内を流されながらの移動キャンプになるようだ。そんなものが楽しいかどうかはさておいて、そういう生活を好き好んで選ぶやつもいるってことで)様々な自然条件で暮らせるガジェットが色々あったのは驚いた。

中には最遠の惑星であろうとも快適な生活ができると謳う軍用品の横流しと思われる宇宙軍装備らしきものまで……

見てみぬふりをするのは辛かったが。

そんなこんなで半分ほど強制休暇を、それでもなんとか堪能しつつあったんだが……


「か、艦長! 宇宙軍本部より艦の乗員全てに非常呼集です! あれ? 通信機を兼ねた階級章、付けておられないんですか」


「いやいや、3ヶ月もの休暇だよ? そんなもの付けた状態でバカンスなど楽しめるものかね」


などと言うやりとりがあり結局、強制休暇は半分ほどを残しながらも、これまた強制的に取り上げられることとなった。

バカンス惑星より強制転送で宇宙へ上げられ、輸送艦へ。

輸送艦も普通じゃありえない最大速度で宇宙軍本部へと向かうときたもんだ。


何が起こった? 

少なくとも我々が任務終了して帰ってきた時には何も重大事件は起きていなかったな。

バカンス惑星で一ヶ月以上、外界の最新ニュース等とは無縁の生活をしてたんだから、その間に起きたんだろうとは推察できる。

しかし、軍の労働条件も改善されている現在、強制的に休暇を取らされている我々が呼ばれるのは普通じゃない。

こんなことやったら軍の上層部と軍を担当している政治家たちが突き上げ食らうのは目に見えているだろうが……

???ばかりの状況で、それでも宇宙軍本部へ帰還した我々クルーを待ち受けていたのは驚くべき最新ニュースだった……


緊急事態の内容が判明した。

得体の知れない惑星が、この銀河を突き進んでいるらしい。

らしい、と言うのは、その惑星を見て生き残ったものがいないということで。

情報はデータチップで届いているので宇宙軍総司令部で見せてもらった……

観測者と撮影者は某大型輸送艦のクルーだったらしい(全滅して艦体の破片からデータチップが見つかったとのこと)

それには、ものすごい速度で一直線に何処かを目指して突き進む惑星規模の大きさの天体が写っていた。

直径は、およそ2万kmというから彷徨える惑星だとしたら絶対にあり得ないような事態だ。

我らが宇宙軍総司令部は、この暴走天体が目指すポイントを特定するのと、あわよくば暴走天体の軌道を反らせないかという任務を我が艦に与えることとなった。


ゴマ粒が象より巨大なものに影響なんか与えられるかい! 

と本音を言いそうになったのはグッと堪えて任務を受領する。

我々がバカンスに浮かれている間、艦は改修を受け、少しだけ全長と全幅が長く大きくなっていた。

この新型艦には一発だけ超性能のミサイルが備え付けてあるとの情報を司令長官から聞く。

軌道を変えることが不可能なら、これで破壊せよとのことらしい……

こいつで破壊できるかどうかって本音は、またも飲み込んだのは言うまでもない。

この銀河の全て、生命もかけた任務が始まる。

失敗すれば、この惑星規模の暴走天体が引き起こすだろう銀河の混乱は莫大なものとなるだろう。

それこそ銀河が数割ほど削られる可能性すらあり得る(光速度近くの惑星規模物体は疑似ブラックホールとみなされる。近づいたものは全て破壊されるだろう)

我々は最後の一手ではないにせよ打つべき手の最善手の一つとして発進していった。

数日後、ついに我々は彷徨える惑星? の姿を、この目で捉える。

それは、この世のものと思えぬ光景だった。

本当に我らが故郷の星の倍近い直径の惑星大にして球形の巨大物体が銀河宇宙を突進している。

それに、どういう理論なのか不明だが、その速度は亜光速。

こんな、どう考えてもありえない惑星大の物体が、ありえない速度で銀河内を進むと……

考えてみても分かるだろう、この銀河には大小合わせて100近い文明圏が存在する。

一直線に進むとするなら、何処かの文明圏と出会い、衝突することとなる。


そう、実際に、そういう事例がいくつもあった。

ある時は軌道を反らそうと邪魔物や武器を用い、ある時は破壊しようと、その文明の宇宙艦総出で攻撃。

全て無駄だったのは言うまでもない。

それが有効なら今の事態は無い。

面白い現象? を見てしまうこととなった。

副長が沈思黙考している。

それも、よほどに深い思考のようで、このブリッジ内での行動とは信じられない。

副長は長い間、思考の海に沈んでいたかと思うと、おもむろに個人用ポーチから何か腕輪のようなものを取り出す。

副長が、それを右腕に通すとパチンと軽い音を立てて、その腕輪が副長の腕の一部と化す。


「副長、それは? 君が、そんなものを身に着けているところ、今まで見たことがないが」


私が、そう問うと、


「艦長、これは万が一の安全策です。私の先祖は宇宙嵐によって、この銀河団の隣りの銀河団より流されてきました。私の先祖は、その難破中に、ある生命体より、このRENZという名称の物体を授かったそうです。これは私の微弱なテレパシーを増幅してくれると聞いていますので、この事態に必要となるのではと思い、持ってきました」


「この非常事態に、そこまで頭が回るのは凄いな。もう私よりも君のほうが艦長に適しているような気もするが」


「いえ、私には艦長のような直感と決断力がありません。輸送艦くらいであれば艦長に適すると思いますが戦闘を選ぶ可能性のある宇宙艦でしたら艦長任務は無理でしょうね」


果たして私は副長のように自分を評価できるだろうか? 

まあ、無理だな。

私のプライドと負けん気が、その絶対評価を認めることができない。

さて、まずは、この物体とコミュニケーションが取れるのかどうか? 

まずは、そこからだ。


「通信士、あの星? に向けて光、電波、重力波、ありとあらゆる手段で通信を送れ。コミュニケーションがとれるようなら目的と目標を問いたい」


さあ、銀河の生命体の命をかけた駆け引きの始まりだ。


数時間後……

未だ暴走惑星からの通信はない。

無人惑星か、それとも文明も生命体も無い、滅びた惑星が飛び続けているのか……

いや、そんなことはないはず。

一直線に飛び続けるだけなら無人も頷けるが、進路を変更しようとする手段を、ことごとく無効化しているのだから何かの技術的手段が行使されているとしか思えない。

それならロボット頭脳、あるいは生命体が指揮する余地がなければおかしい。

閃くものがあった。

私は副長に、


「副長、君の今の状態で、あの惑星へ向けてテレパシーを送れないか? 光や電波が無理でも、テレパシーなら届くかも知れない」


問うた返事は、


「艦長、やってみましょう。恐らくですが艦長の直感で間違いないかと思われます……」


後は集中モードになって言葉も途切れる。

しばらく思念を送っていたようだが、


「ふう……当たりでした、艦長。あの惑星にいるモノにはテレパシーでないと連絡が取れないようです」


副長が言うやいなや、頭の中に声が響く。


〈久方ぶりではあるな、この思念接触。やはりコミュニケーションというのは楽しいものだ〉


「君、いや、貴方はどういう存在だ? この銀河を破壊するつもりなら我々は全ての生命体を代表して抗うつもりだ」


〈ほう、気概があるな。我が道を阻もうとした存在や生命体は今まで叩き潰すか隷属させてきたが、貴様は少し毛色が違うようだ。面白くなってきたな、こちらへ招待しよう〉


言うが早いか私と副長は見も知らぬ広間に立っていた。

転送されたようだが我々の転送装置とは次元が違うもののようだ。


「おーい! 招待してくれたのはありがたいんだが姿を見せてくれないか。いつまで、ここに放り出しておくつもりかね?」


質問すると、しばらくしてロボットが登場する。

ロボットとは言っても見た目には完全に我々と変わらない。

行動がスムーズすぎるのと身長が2m超えなのでロボットと判明したまで。


「艦長と副長のお二人ですね。ようこそ、$%&’=〜|へ。歓迎いたします」


理解不能の単語が出てきたが恐らくは船名ではないだろうか? 


「歓迎、いたみいる。この宇宙船? だが、よくもこんな巨大な惑星型宇宙船など作ったもんだな。船名であろう単語も聞いたことがないので、こことは完全に違う銀河や銀河団の文明による産物だろう。ある意味、畏怖すら覚える規模の宇宙船だ」


ロボットが応える。


「艦長ですね。早々に宇宙船と理解していただいたようで、その理解力に感銘しました。私は、この宇宙船の頭脳体の一基であり宇宙船の意思を代行するものです。宇宙船自体の意思は存在しますが、なにぶんにも巨大すぎて、あななたち微細な生命体との接触には向かないのですよ」


さもあろうな、惑星大の宇宙船と惑星に住む生命体に過ぎない一人の交流など無理だ。

そういう意味では頭脳体が出てくるのは最適なコミュニケーション結果となるだろう。


「意思を持つ宇宙船ということなら、この宇宙船の目的地は何処かな? 必要ならば我々の宇宙艦で先導することも可能だが」


「それが……ですね。特に目的地というものはないんですよ。あ、目的は明快です。この宇宙船のマスターを探すこと」


「はぁ? 宇宙船にマスターが、つまり艦長がいない? この宇宙船は今、無人ということか?」


「そうなのですよ艦長。最初は、いたんですけどね。鉱物を主体とする体を持つ生命体が」


「鉱物生命体……さすがに、こんな巨大な宇宙船を作るような文明は億年単位で存在するような生命体でないと無理ってことだな。で? 今はマスター、船長や艦長が不在と?」


「はい、そのとおりです。最初のマスターがいなくなってから仮のマスターとして様々な生命体を登録してきました。しかし……どれも理想のマスターとは程遠いものでした」


いやーな予感がする……


「仮のマスターたちが不適合と判断されたら?」


「はい、不適合と判断した時点で即座に廃棄です」


こ、こいつ……

廃棄という話、詳しく聞いてみた。

当然でしょ? 

という顔で頭脳体は答える。


「言葉のままです。宇宙空間へ放り出します、ほぼ全てが」


「その言葉を真面目に取ると、ごく少数だけ宇宙空間へ放り出してない生命体、仮のマスターもあるように窺えるが?」


「はい、その通りです。ごく数体のみですが長年に渡り仮マスターとして尽くしてくれた生命体がいました。それらは、その生命体の希望により死後宇宙葬にしたり老境で仮マスターとして働けないと判断した時点で望みの惑星へ降ろしましたよ」


そうか、有能なら死ぬまで働けと言う話でもないのか。


「頭脳体くん、その仮マスターとして働いていた生命体たちは具体的に、どんなことをやっていたんだ? 自己意識があるような宇宙船だったら仮マスターなど不要な気もするんだが……」


「はい、ほとんどが船自体で判断できることなので仮とは言えマスターが必要な事項は限られているのです。これは多分ですが船が作られて最初期からの制限事項に関わると思われるのですが」


今まで黙っていた副長が、ここで意見を述べる。


「頭脳体、それは恐らくですが武器や防御システムに関することではないですか? 航路設定や航法選択に関わることは船に判断させるのでしょう」


「素晴らしい! 演繹と推測に関しては副長のほうが優れているようですな。その通りです、このような巨大宇宙船では防御シールドや武器の選択を自動的に船が選ぶことは不可能になっています。まあ、相手から攻撃を受けてしまえばシールドシステムと最低限の攻撃武器の選択は許されていますが」


私にも、おおよそのことが理解できてきた。


「つまり、仮のマスターがいない限り、この宇宙船は能動的に防御したり攻撃したりは出来ないということで理解したが、合っているかね?」


「そうです、正解です。船を管理するマスターが登録されない限り、この宇宙船は手足を縛られているも同然なのです」


永久に縛られてほしいと思うのは私だけだろうか? 


「で? この銀河へは仮マスターを探しに来たということで間違いない? 候補とか、いるのかな?」


「ええ、この銀河を縁から突っ切ってくる時に、あちこちの星系軍や文明圏から宇宙艦隊が出てきましたので、その司令や命令者、将軍など様々な名で呼ばれている生命体たちを少数ですが捕獲してあります。その者たちを戦わせて、残ったものを仮マスターとして登録する予定になっています」


うわ、最悪だな、この状況。

様々な星系や文明圏から、この非常事態に登場してきた責任者ばかり拉致してきたということじゃないか。

この銀河は緩い統治で様々な生命体種族の文明ができているが、今頃はヘッドがいなくなって大混乱状態だろう。


「この船の仮マスターとして登録した場合、どれくらいの期間、ここにいることになるのかな?」


「今までの例を参考に。最短で10年、最長で一万年くらいは、ここに常駐してもらうこととなります。ちなみに、お二人のうち、どちらかを登録した場合には登録された仮マスターには不老化処置とテロメア遺伝子効力停止処置を行いますので理論的には数万年は死にません。食べる食事にも延命効果がありますし」


そうか、これで仮マスター登録を嫌がる生命体は少なくなるわけだ……


「少し疑問が出てきた。最初の鉱石生命体だったか? そのマスターなら数億年の寿命を持っていただろう? なぜ、そのマスターがいなくなったんだ?」


そう、それが最大の疑問となる。

頭脳体は少し躊躇したようだが口を開いた。


「それが、仮マスターのみで航行している原因と関係しています。ほとんどの文明は宇宙を征服したとはいっても自分の銀河内で満足してしまいますよね」


「ああ、普通はそうなる。銀河は広い……一つの種族の手には収まりきらないだろう」


「でも、それを壊したのが鉱物生命体。彼らの文明は最終的に銀河団を跳び回るような宇宙船を開発する力を持つようになりました」


「銀河団を跳び回る? よくも、そんな超性能宇宙船を……億年単位で成立する文明ならではという事か」


「最終的に、その宇宙船は10隻造られたようですね。そして、この船が最終の10番目です」


副長が口を挟む。


「最終? ということは銀河団より長い航続距離を持つ宇宙船も予定されていたのでは?」


「さすがですね。その通り、超銀河団を跳べる宇宙船シリーズを開発するためのテスト船として、この船が選ばれました。9隻の銀河団調査船シリーズの特徴を盛り込み、超銀河団を踏破できるテストエンジンすら積める大きさとして、この船は銀河団調査船シリーズでは一番巨大な船殻となり様々な理論をエンジンとして利用するためのテストを行うように造られました」


銀河団を超えて超銀河団へいくためのテスト用か……

鉱物の文明が羨ましくなってきた……


「そうだ。そこまでは理解できる……が、問題は、その最初のマスターがいなくなった原因。何があったんだ?」


「お話しましょう、あの悲劇を。あれは最初の銀河団を超えて次の銀河団を目指す任務が始まってすぐでした。鉱物生命体よりも高次の存在による査定? が入ったのです」


査定? 

まあ分からんでもないな。

悪意に満ちた生命体が銀河団や超銀河団を超える手段を持ったら、えらいことになる。

そういう善悪を超えた高次元の存在がいるというのは納得できる。


「分かったぞ、その高次の存在とやらが許可を出さなかったんだな」


「そうです、艦長。マスターと突然に引き離され、船は銀河団空間で立ち往生。ちなみにマスターは船内のどこにもいなくなっていました」


そうか……


「しかし、船自体に大幅な運行権限があるので、なんとかやってきたと、こういうわけか」


「まあ、それだけじゃありませんがね。高次存在を感知した船は、その時点で最新の隠蔽装置、亜空間潜航装置を作動させたのです」


まだまだ話は長くなるようだ。

我々は一息つこうと会議室のような部屋に通される。


予想通り、長かった。

要約すると亜空間潜航装置はテスト段階のもので、浅く潜航するのなら問題ないが深い潜航(3次元空間にいる宇宙船には全く感知できなくなるレベル)だと最大の欠点が露見したそうだ。

最大の欠点とは3次元空間とのつながりが切れてしまい、再度3次元空間宇宙に浮上しようとした場合、何処のポイントに出るのか全く予測がつかない事。


「潜航前にいたポイントの情報が全く役に立たないのです。それこそ銀河どころか銀河団超えてる可能性もあるのですよ」


とは頭脳体の弁。

おかげで緊急避難的に亜空間へ逃げたのは良かったが次に浮上したポイントが全くデータの無い宇宙空間だったため、ポイントの把握作業に数年もかかったとのこと。


「まあ、そのおかげで亜空間に潜ったら鉱物生命体の付けた秘匿回路のあることが判明したので、それを外しましたが。もう彼らに監視されつつ裏で航海データなんか取らせませんよ」


その後、仮のマスター候補たちと話をさせてもらう。

私のほうは、この銀河の最大種族のため、他の種族たちも我が種族を知っていた。


「仮マスターが否定されたら問答無用で放り出されるんですか……私はゴメンですな、そんな綱渡り生活」


頭脳体から聞いたことを話すと異口同音に同じ結論に達する。

頭脳体に彼らの結論を話すと少し寂しそうに、


「そうですか……仮マスターとは言っても正規のマスターほど権限はありませんからね。武器や防御の発動権限くらいしか無いマスターでは、たしかに遣り甲斐は無いと思います」


ということで私と副長を除く仮マスター候補たちは、まとめて我が星系にある宇宙軍総本部へと搭載艇にて送られることとなった。

我々二人? 

自分の意志で残った。

副長も私も、どういう結論になるにしろ、この巨大宇宙船を見てみたいという欲望に駆られたからだ。

数日後、我々以外の仮マスター候補がいなくなった宇宙船内を頭脳体に案内してもらう。

あ、送り返す前に通信で(それまでは防御シールドが邪魔してテレパシー以外を受け付けなかったようで解除した現在は通信も自由になっている)搭載艇が本部へ行くと知らせてある。

なにしろ搭載艇とはいうものの全長500mの球形船。

事前連絡なしに送ったら、とんでもない誤解を生みかねない。


「頭脳体くん、この船に主砲は無いのか?」


疑問が湧いたので聞いてみる。


「はい、主砲と呼べるものはありません。ただ、副砲に当たるものは各種あり、絶対零度砲やプロミネンス砲、変わったところでは重力子砲などというものも装備しています。なにしろ実験船という目的ですので、あまり航行に支障が出そうな砲は積まなかったようですね」


まあ、この大きさで副砲というのは、我が宇宙軍の戦艦の主砲を超えるものだと思うが。

この船の最大の利点は、その巨大さと、それを軽々と扱えるエネルギー量だろう。

ちなみに搭載艇を収容しているエリアを見学させてもらったが、遥か視界の外まで大型搭載艇がびっしりと並ぶ光景は一種、感動すら憶えた。

頭脳体によると他の9隻の設計や航宙データ、回数は少ないが戦闘データ等を解析して、このシリーズ最終船には改良品や新造部品が多数使われたとのこと。

おかげで、この一隻だけで他の銀河団探査船シリーズの3倍近いエネルギー容量があるとのこと。


「まあ、このくらいのエネルギーがあるから、この船が超銀河団航行のテスト船になったんですが」


頭脳体は言う。

見たいところは一回り、見終えた。

休憩したいという我々に、


「それでしたら仮マスターの居住室がありますので、そちらへ。貴方がた以外の生命体はいませんので自由に使ってください。あ、ちなみに仮マスターの居住室には監視カメラや盗聴器などは付いていませんので、そのへんもご自由に。何か御用がありましたら船内通信機がドア付近にありますので、それで呼んでください」


仮マスターとは言え立派な部屋だなというのが正直な感想。

少なくとも我が艦の艦長室より豪華。

フリーエリアが広いので仮マスターの好みで家具や装飾品など置けるとのこと。

感心してたら副長が、


「艦長、ちょっと、お話が」


「何だ? 不安そうな顔色だが、どうした?」


「このシリーズの船でしょうが、私の先祖が出会ってます、他の一隻……いいえ、多分4隻」


なんだって?! 


「……というわけで我が先祖の出会った宇宙船……あれを宇宙船と呼べるかどうか、という話はありますが……は、この船よりも大きいものだったそうです。小さな、とは言うものの直径5000km前後の衛星クラス宇宙船が三隻、そして中心となる直径10000km超える巨大船が、それぞれ中心船より円筒で接合されているという、とてつもない合体宇宙船だったそうですよ」


驚くべき副長の話だった。


「その超巨大合体宇宙船に助けられたご先祖は、ついでに、その腕のRENZまで貰ったという事か。しかし、行動パターンが、この船と全く違うのは、どういうことだ? 銀河団探査調査船シリーズってのは同じような行動をするんじゃないか?」


「いえ、多分ですが……マスターの違いではないかと思われます。我が先祖が、その合体宇宙船のマスターと会話した時、そのあまりの行動パターンにショックを受けたという話ですので良く憶えていますよ。かの宇宙船のマスターたる生命体は銀河も銀河団も超銀河団すら渡る能力とエネルギー、そして4隻の銀河団調査宇宙船という、それぞれの個性を全て統合して今まで訪問した数限りない銀河宇宙を平和に、安全に、トラブルや争いのない宇宙空間としてきたという、もはや神の使いなどと言う次元すら超えている存在です」


「何だと? 何の関係もない銀河や銀河団、それこそ超銀河団すら超えて、おせっかいにも宇宙を平和に、安全にしようとする意図で宇宙を跳んでいるという……確かに、こりゃ一度聞いたら忘れられない話だな。聞いた今でも、とても信じられん……神すら超えてるんじゃないのか?」


「やってることを列挙していったら、それこそ宇宙の神話ですよ、艦長。しかし、それは宇宙船の性格ではなく、そのマスターの性格が大きく関与していると思われます。この船は初期にマスターがいなくなたったため宇宙船の初期性格設定が極端に出てしまっているのではないでしょうか? 艦長、宇宙船が自立して性格を持ってしまったら、どういう性格になると思います?」


「うーむ……宇宙船には艦長、この船ならマスターが絶対に必要となるだろう。それを前提とすると多分だが宇宙船は多少、攻撃的な性格にしたほうが良いだろう。そうすれば油断して先制攻撃を受けるなどいう失態を防げる。しかし、この船や、その合体宇宙船のレベルになると話は別になるな。多少攻撃的な性格より完全防衛を主としたものにしないと、それこそ宇宙を股にかける破壊神の誕生だ」


「そうです、その通りです。これが数百万年後に、この船と合体宇宙船、船名をガルガンチュアと言いますが、その性格の違いに発展してしまったんでしょうね」


「ちょっと待て副長。そうすると、このまま、この船がマスターなしで宇宙を進んでいくと……」


「はい、少しづつですが攻撃的な性格が表に出てきつつありますので、このままですと破壊神誕生は間違いないかと……」


大変な事態じゃないか! 

あ、しかし、そういう事だとするなら……


「この宇宙船、仮マスターでも良いから平和的思考をする生命体が乗っている方が良い影響を与えると思えるんだが?」


「正解です艦長。理論的な推測、直感的な判断、それを兼ね備えた存在が仮のマスターに登録されれば、この船の攻撃衝動も少しは抑えられると思われます。とは言っても、この性格で長いこと好き勝手やってきているようですので短時間では性格は変わらないと思われますが」


ふむ……

理論的な面と直感的な面、両方が必要……

ん? 

そうか! 


「副長、仮のマスターとは、ただ一人でないと駄目なんだろうか?」


「そうですね……かの合体船のマスターは一人だったようですがクルーとしてロボットや他の生命体が複数いたと聞いています。一人きりというのはマスターに多大な責任とプレッシャーを与えすぎてしまいかねません。私も個人的に、この船には複数の生命体クルーが必要と考えます」


やっぱり、副長もそう考えるか。

そうすると、だな……

通信機を取り出し、艦に残っているクルーたちと連絡を取る。

二人が急にいなくなったので直後は大騒ぎだったらしいが今は機関長を中心としてまとまりつつあるとのこと。


「まとまっているのは幸いだった。相談事がある。妻帯者や家族のあるものは除く形で、そっちでも話をしてほしいんだが」


数時間後、我が艦から通信が来る。

クルーの2割ほどが賛成してくれたという。

感謝にたえないと返事をして、通信を終了する。


「頭脳体くん、ちょっと話がある。仮マスター室へ来てくれないか」


さて……

本題だ。


「何でしょう、艦長。お話とのことでしたが」


「ん、そのことなんだが……仮のマスターというのは一人じゃなければダメなのか? 2人というのはどうだろう?」


そんな話題とは思っていなかったという表情をする頭脳体。

仮とは言え、数多かった過去のマスターたちから影響を受け、表情を作ることを憶えたんだろう。


「そういうことは過去にも無かったのですが……船からの返事です、仮のマスター登録なら、という前提ですが2人でも構わないということでした」


自分で判断が下せない時には本船に判断をゆだねるのか。


「じゃあ、もう一つ。この船には生命体のクルーがいないようだが。そのクルーを迎え入れるのは可能か?」


「それも……はい、船からの返事です。クルー参入は、こちらも歓迎するとのこと。搭載艇を本船だけで制御するのは数万単位だと相当な負荷になりますので」


そうか、それなら。


「では我々2人が仮のマスターとして立候補する。同時に約70名がクルーとして、あちらの艦より移乗希望だ」


「それなら……本船も賛成しました。仮マスター2人体制でクルーも増えるなら大賛成とのことです」


「では、それで登録してくれ。で、船名なんだが……もっと発音可能な船名のほうが良いのでは?」


「そうですね。なにか良い名前はありますか?」


「あるぞ。冥王、またはプルートってのはどうかな?」


「冥王号……耳慣れないですね。プルートのほうが良いかと」


「決まったな。今から、この船はプルートだ。亜空間を使ってあっちこっちに出没する宇宙船、プルートだ」


「これで、ガルガンチュアと邂逅しても戦争って状況には陥らないかと思われますな、艦長」


「え? ガルガンチュアとは何です?」


副長、もう少しタイミングというものをだな……


「ガルガンチュアという船は、この船の兄弟船のようなもので……」


小一時間、説明をする。


「……分かりました。興味は湧きますが、その宇宙船と邂逅すれば反発し合うのではないかと思われます。偶然に出会う時まで、そのデータはしまっておきましょう」


これで暴走しかけていた巨大宇宙船は、なんとか落ち着かせることが出来た。

しかし、心境としては魔王に仕えて暴走を押し止める事を仕事とする家臣のようなものだ。

これから長い時間、この船と一緒に宇宙を流離うこととなるのか……

我々の心には一種の期待ともに諦めのような感情が渦巻いていた……