第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第六十三話 トライアングル物語
稲葉小僧
ここは万物を創造した神に見捨てられたかのような、草木一本見えない、ただただ砂と岩の星。
ここに動くものは激しい風に飛ばされて砂嵐となる砂くらい……
いや!
砂嵐の中を、ゆっくりだが進む3つの人影が!
3つの人影のうち、1つは女、後の2つは男。
こんな故郷の生存環境とは全く逆の、生きとし生けるものの存在を徹底的に拒むような悪辣と言っても良い環境の星に何故、こんな少し幼さすら見える男女3名がいるのか?
いや、そもそも何を好き好んで、こんなサバイバル訓練すら適当とは思えない、食料となるような草も動物もいない、こんな星に何の用があって来た?
「たくみ、ひろし。砂嵐が酷くなってきたわよ。そろそろビバークするポイント見つけないと夜通し行軍やる羽目になると思うけど?」
「はいはーい! ここは、ゆいこ隊長の言う通り、どこか適当な洞窟でも見つけてビバークするべきだと小官も思いまーす!」
「……隊長、ここから500mほど離れたポイントに大岩の影で崖になった地形が見えます。そこならビバークも良いかと」
「分かったわ、ひろし。たくみ、斥候よ。先へ行ってポイントとして安全かどうか確認して頂戴」
「りょーかい! たくみ一等兵、斥候任務に就きます!」
その声と共に素早く消える人影。
どうやら、たくみ一等兵とはオチャラケに見えても実力者のようだ。
しばらく経つと人影が戻ってくる。
「ゆいこ隊長、現場は理想的ですね。強風は障害物で遮られ、仮テントを建てるにも障害なし。久々に本部へ今の状況を伝えられるかも知れません」
「分かったわ、たくみ。ひろし兵長、聞いた通りよ。もう少し歩いてビバークポイントで数時間の休憩とします。通信設備の設置をお願いね」
「……了解、隊長。アンテナが強風でへし折られないことを祈ってくれれば、それで設置は完了する」
「分かったわ。さあ、二人共! 久々の長時間休憩が出来るポイントよ! さっさと行きましょう!」
「「アイアイサー! キャプテン!」」
彼ら3名は、また歩き出す。
数10分後、目的のポイントへ到着した三名は、そこで長時間のビバークに耐えるだけの設備を設置し始める。
「いやまぁしかし、俺達の装備ってのは一昔前の軍隊と比べたら理想的と言っても良いんじゃないの? 超強力通信機、食料に水、武器に爆薬。軍隊に欠かせない全ての物資を持ちつつ、それで最小三名小隊で敵に本格的な攻撃がかけられるってんだから。ん? どしたの、ゆいこ隊長。隊長が、そんな暗い顔してたら俺達の士気に悪影響だよ?」
「……たくみ一等兵、戯言は、そこまでにしろ。斥候の腕前は師団トップだったかも知れんが、ここは俺達には未知の星。俺達には考えも及ばぬ不安にかられるのも優秀な隊長だからこそだ。女性ならではの危険察知本能を強化した隊長は俺達とは別の感性をお持ちだからな」
「ひろし兵長、あなたも、そこまでよ。ひろしの言う通り、あたしの危険察知レーダーにビンビンと引っ掛かってるわ。何がとは具体的にわからないけれど、あたしたち強襲レンジャー部隊に危機が迫りつつあるのは確かね。あー、ヤダヤダ。危機察知のシグナルってのは頭痛だって知ってた? あたしは聞いてないわよ、もう! 頭痛薬や痛み止めが飲める状況じゃないのが余計に悔しい!」
喋りながらも手元でカチャカチャと何か組み立てていた、ひろし兵長。
完成したようで、ゆいこ隊長へ報告。
「……隊長、通信機が完成しました。アンテナ設置も完了してますので、これで本部と連絡取れると思われます……ただし、砂嵐がひどいので通信環境は最悪かと」
ひろし兵長の報告により本部へ連絡をとろうとする、ゆいこ隊長。
軍用通信機のスイッチを入れると数十秒後に切れ切れの音声が聞こえてくる。
「バリバリバリバリ! ……こち……本部……斥候部隊の定期連……求め……周波数全体……酷いノイズ……送信可能な……現状報告と……」
デジタル通信は1かゼロ。
これでは軍として通信用途に使えないので、アナログ要素も残した特殊なモードの軍用通信を彼らの軍隊は使う。
まあ、このように丸一日中、雑音だらけの星の場合、少しでも内容が伝わる特殊モードがあると助かるという見本だ。
ちなみに、このモードのデジタル部分には敵に聞かれては困るリアルタイムの作戦指示書データとか現地からのリアル映像データとかを乗せることが多い。
それはそれで別の星での紛争には役立っているようだ。
どこまで本部に通じたかは、その後の雑音が酷くなりすぎてノイズ混じりの音声すら聞き取れなくなってしまったため、ゆいこ隊長には分からない。
危機察知本能が届けてくる、これでもかこれでもかという頭痛を和らげるため、さすがに就寝前には痛み止めと頭痛薬を飲んで寝る、ゆいこ隊長だった。
休養時間をたっぷりと取り、3人は出発する。
「ところで、ゆいこ隊長? 目標とするポイントって、どこなんです? あてもなく歩いてるわけじゃないですよね?」
たくみ一等兵が質問する。
「はぁ……もう話しても大丈夫でしょうね、我が軍のベースからは遠く離れちゃったし。いいわ、目標ポイントは、この大陸の突端よ。どうやら、そこに我らが故郷の星を脅かす敵軍の基地があるようなの。軍の資材や武器、食料の集積所になってるようなんで、この集積地を叩くことに成功すれば故郷の星が荒らされることを少しでも遅らせることになる! やりがいは、ある作戦よ」
「……現在地は、ちょうど俺達のベースと敵基地の中間地点だ。問題は敵のセンサーが大きなエネルギーを的確に拾い上げて集中爆撃してくるってこと。だから俺達は移動速度は遅くとも、徒歩にて敵に補足されないようにしてるわけだ。そうですね? ゆいこ隊長」
「そうよ、ひろし兵長の言う通り。こういう環境に便利な車やバイクでもあれば良いんだけど、そのエネルギーと熱源を探知されて集中攻撃を受ける可能性が大きいってことで徒歩にて敵基地まで移動して最小限度の小隊で攻撃をかけろって命令なのよ……確かに、あいつらのセンサーでも人間三人くらいの熱量じゃ、この星の自然が出す熱量と変わらないんで探知は不可能なんだろうけど。だけどねぇ……考えてみりゃ無茶な命令よ。いくら異空間収納庫が便利すぎて数トン単位のものでも気軽に持ち運べるって言ってもねぇ……敵基地の規模は、ちなみに師団クラスだそうよ。急襲した後は一目散に逃走ね。戦闘状態になったら一瞬で皆殺しよ、多勢に無勢だわ」
「要するに相手が油断してるとこに忍び寄って一撃で食料や資材を焼き払ってこいってことだよね? 本格的な戦闘なんてのは放っておいて。司令部も無茶苦茶な命令をするよね、いくら俺達の小隊が、そんな無茶な命令をいくつも成功させてるとは言うものの、さ」
たくみ一等兵が呆れ果てたように感想を言う。
「そうね、無理と無茶の合わさった無茶苦茶な命令よ。でも、こうやって私達が敵基地目指して歩いてる時にも我が故郷の星は侵略されているわけ。大々的に反攻作戦も計画されてはいるけれど、まだまだ敵の攻撃力のほうが大きいの。ここで私達が集積基地を焼き払うってのは反攻作戦に結びつく大切な枝作戦の一つなのよ」
ゆいこ隊長の発言を聞いていたひろし兵長が、
「この惑星中に充満してる電波ノイズの嵐も敵のせいかも知れないな。俺達よりもテクノロジー的には上の種族らしいんで奴らには、このノイズだらけの環境でもコミュニケーションを取る方法があるんだろう。こうなると、どうやっても敵基地の機能を麻痺させる必要が出てくる……ちなみに、ゆいこ隊長。俺達が帰還するための信号も、このノイズが充満してる環境じゃ発信できないと思うんだ」
はぁ、とため息一つの、ゆいこ。
「そうよ、ひろしの言う通り。ここから、敵基地が見えるまではお互いに身分敬称略で行きましょ! たくみも同じくよ。さっきも、ひろしが言ったけど私達が急襲成功したって信号すら、この酷いノイズ環境じゃ拾ってもらえる可能性が低いわけ。だからこそ敵基地の資材や食料を焼き払うだけじゃなくて、なんとかして基地機能の一部、通信妨害を与えてる機器にダメージ与えないと帰る手段すら無くなるってことなのよ。あたしだけでも、あなたたちだけでも駄目なの! この三人で急襲攻撃を成功させ、ベースからの集中攻撃へ繋げないといけないのよ」
「お? 俺達の奇襲が成功した後にベースから集中攻撃隊が来るって? 初耳だよ、ゆいこ。おいおい、それじゃ俺達の作戦は枝でも最初の大事な失敗できない作戦ってことじゃないか! たった3人の小隊に、どんだけ無茶な命令を与えれば気が済むんだ、司令部の***(汚すぎる罵倒なので伏せ字)野郎どもが!」
「……無茶だと俺も思うけど、その無茶が成功する確率が一番高いのが俺達だからだよ。俺達以外、こんな出たとこまかせに近い作戦、成功するわけがない」
「あいも変わらぬ無節操な会話よね。軍規違反で軍法会議にかけられない理由が思いつかないわ。一等兵と兵長……今更ながら、あんたたちの階級が低い理由が分かるわね。こんなの少尉や中尉にしちゃったら軍の規律が弾け飛んじゃうかもね」
「それを言うなら、ゆいこだって。あれだけ感状と勲章の山を獲得してるのに未だに少尉なんておかしいだろ。それもこれも上司の命令に細かく茶々入れたり、これは無理ですって当たり前のように命令書を破り捨てたりしてるって話だそうだけど……よくもまあ。君こそ軍法会議ものだよね」
あ、あははは……
虚しい笑いの、ゆいこ。
「上の部署が無理と無茶の塊だって知ってるけど、それにしても、この頃の参謀本部や将校本部はおかしいわ。誰が見ても無茶と無理の塊、それこそ命がいくつあっても足りない無駄な突撃命令が、いくつ出されたことやら……あたしたち以外なら、この作戦だって一撃入れてハイ全滅! って代物よ。最初は、もっと無茶な小隊単位の突撃命令に等しかったんだから。両本部に乗り込んで、こっちから命令変更の案を出して、ようやく納得いく代物にした任務なんだからね。ちなみに、あたしの中尉への昇進は、これでパァになりましたとさ」
三人の深ぁいため息が聞こえたとか聞こえなかったとか……
そんな愚痴をこぼしながらも、小隊は進んでいく。
敵の最前線支援基地へ向かって……
通信機が事実上、役に立たないので3人は愚痴やら内輪ネタやら他の兵士や将校などに聞かれたら危なすぎるような話をしながらも着々と敵基地に近づいていく。
重い荷物が無いためか、その足取りは軽く、半月越えの予定も、その半分の日程で越えていく。
「ようやく敵基地が見えたわね」
砂嵐と砂丘、岩しか見えない毎日から開放されたのが、よほど嬉しかったのか、ゆいこが嬉しそうにはしゃぐ。
「おっと、ゆいこ。まだまだ敵基地まで遠いから安心だろうけど、もう少し緊張してくれないと。こっちから見えるってのは、向こうからも見えるってことなんだから」
たくみが軽く注意するが、浮足立つような気分の、ゆいこには届かない。
ルンルン気分でスキップ気味に歩き出そうとするのを、さすがに制止する、ひろし。
「ゆいこ、いや、ゆいこ隊長! ようやく命令書にある目標に到着するんですから、もう少し、気を引き締めてください!」
ひろしのキツイ一言で流石に我に返る、ゆいこ。
「はっ! 分かったわ。ひろし兵長、もう少し近づいたら爆薬や小型ミサイルなどの実弾兵器リストに基づき、強襲攻撃の準備をしてちょうだい。たくみ一等兵は敵基地の弱点ポイントを見つけてきて。攻撃のタイミングと目標ポイントは、その斥候の報告待ちね」
「アイアイサー、ゆいこ隊長! では!」
すっと消える、たくみ。
「いつ見ても鮮やかな技よね、たくみって。あれで軽い性格と女癖さえ直したら模範的な指揮官になるでしょうに……ひろし、そこで笑ってるあなたもそうよ! 何を考えてるんだか、自分より若い指揮官の命令を無視する行動が多すぎるのよ。まあ、その行動の全てで小隊の危機を救ってるんだから軍法会議にかけられなくて済んでるんだけど。あなたも、もう少し軍規を守る姿勢さえ見せれば技術部隊の指揮官なんて目の前なのに……まあ、そんなあんたたちを指揮統率出来るのが私くらいだって上も知ってるから、こんなギリギリの3人小隊なんて組まされるんだけど」
「そこまで理解してて、なんで俺達を放り出して、もっと上を目指さないんだ? ゆいこ。俺達二人は軍からのはみ出し者だから、どこの最前線に放り込まれても生きて帰ってくるが、お前はそうじゃない。俺達と違う本物の指揮官の素質があるんだから、もっと上、参謀本部すら目指せるだろうに。この戦いが終わったら、この小隊から抜けて、まともな部隊の指揮を取れるように俺達二人が進言してやるよ。以前の上官たちで俺達の眼鏡にかなったものは、みーんな将校クラスへ行ってるぞ」
滅多に聞けない長い、ひろしの台詞。
「ひろし、あんた普通に喋れたのね……って、そんなことじゃない! あんたら二人共、自分の欠点を重々に承知してるんじゃないの! 欠点さえ直せば凄腕の技術士官、いえ、あなたの腕なら将校も目指せるでしょうに。たくみだってレンジャー部隊の大隊を率いるくらいは簡単に出来るくらいの腕だし。もったいないわよねぇ」
「ふっ、お前に言われたくないよ、ゆいこ。俺達は3人で1人前……1流の1人前という但し書きが付くがね。斥候の名人、たくみ。作戦立案と運用の天才、ゆいこ。そして自他ともに認めるメカマニアにして爆発物の天才と紙一重の俺。この3人が揃うなんてのは確率としてありえないことなんだけどな」
「ひろし、あんたが必要以外喋らない理由が分かるわ。必要以上にしゃべると、あっちこっちボロボロになるのね。普通の会話ができないんじゃ、このハミダシ小隊に来るしか無いってことか……ん? もしかして、たくみも同じ? いや、あいつは口が立つのよね……」
「たくみの場合は、ただ単に部下の面倒見なんて退屈でやってれないからだ。あいつは単独で中隊規模の斥候部隊と同じ成果を上げられるんだから」
「あっそ。なんか、すごい人員配置よね、この小隊。普通は最低でも5人規模なのに、あたしたちは3人で、およそ大隊規模の軍隊と同じ成果を上げちゃってるんだもの」
そんな会話をしていると、すぅっと影が戻ってくる。
いや、影ではない、たくみ一等兵だ。
「斥候任務完了。口頭報告だけど、あれは敵基地なんて生易しいもんじゃない、大規模な要塞だ。うちの上層部は地上部分が小さく見えるんで基地だと勘違いしたらしいが、外と内から細部に渡ってデータをとってきたが、ありゃ巨大要塞だ。帰りがけの駄賃で小型爆薬でも仕掛けてこようかと思ったが、そんなもんじゃ食料や弾薬庫の扉すら破れないことが分かって、すごすごと引っ返してきたわけ。あれに奇襲攻撃かけろって? たった3人だぜ?! はっきり言わせてもらうが、やるだけ無駄だ。奇襲攻撃かけた途端、俺達の位置もバレバレになる。そんで皆殺しになるのが落ちだ。このまま引き返すのが一番の戦術であり戦略だと進言します! ゆいこ隊長!」
ひろし、ゆいこの表情が暗くなる。
「まさか地下要塞の偽装で小規模基地に見えているとか? この事実だけでもベースに持って帰らないと、あたしたちがこの星に来た目的すら無駄になるじゃない! ……命令です、たくみ一等兵。敵要塞の詳細データをベースへ届けなさい。あたし達二人は、そのための時間稼ぎをします。数秒になるか数時間になるか、どっちでも良いけど。少なくとも、たくみに攻撃が向かうことはないようにするからね!」
「おいおい、ゆいこ……その命令を俺がハイハイと聞けるとでも? 何年、一緒に小隊組んでると思ってるんだ? 6年以上だろうが! 少なくとも俺が戦って、ゆいこがベースへ向かうってんなら承知するけどな」
明確な命令違反をする、たくみ。
こうなると、ゆいこの隊長としての選択は一つしか無い。
「たくみ一等兵、命令不服従の罰により戦時下特権で隊長の私が命じます。これについては反抗できません。反抗したが最後、銃殺です。たくみ一等兵……最前線へ特攻し、私がベースへと敵要塞のデータを届ける時間を稼ぎなさい!」
命令を発する、ゆいこは目に涙を浮かべている。
それを聞く、たくみと、ひろし。
「……俺はリモート爆薬と火器管制で現場を離れられないんで、たくみと残る。ゆいこ、幸せになってくれ……俺と、たくみの分も!」
3人は今までに流した分より多くの涙を流しながら、お互いに最後の別れと、抱き合う。
最後に3人大きなハグの形を作ると……
「ぐすっ! で、では、武運を祈ります!」
「「隊長こそ、ご無事で!」」
ゆいこと、たくみ・ひろしの別れは終えた。
ゆいこは足早に敵基地から遠ざかっていく。
「さて、お前とは最後まで腐れ縁だったな、ひろし。最後に一言……俺には過ぎた奴だったよ!」
「……たくみ、お前も俺には勿体なかった……お前だけでも、ゆいこと共に生きて欲しかったよ」
「それ、今更言ってもな! ってことで、いっちょう、やったるぜーい!」
小隊の持ってきた異空間庫には1トン近い爆薬と数十基にも及ぶ小型ミサイルが入っていた。
それに加え、ひろしの発案で小麦粉大袋100を出し、それを要塞へ向かってぶちまける。
ミサイルと爆薬の破裂に加え、大量の小麦粉が風に舞い、敵要塞へ。
かなり大きな要塞だったが地上の出入り口は割合に小さく、そのため地上からの換気口が大きかった。
「あ、あれは換気口! 小麦粉の粉が吸い込まれていくぞ、ひろし! ミサイルを一発でいい、あそこへ撃ち込んでくれ!」
「よし分かった! アンテナ系統の破壊用に、ほとんど使っちまったけど、予備に5発だけ残してある。これで終わりだ」
ひろしは器用にミサイルを誘導し、目的の換気口へ。
どん!
という通常のミサイル爆発音に遅れること数秒……
どずずん!
低めの音量と共に地下から上がってきた火柱と共に換気口や地上への出入り口も吹き飛ぶ。
「やったぁ! さっすが偉大な粉塵爆発現象様だ! あとは任せた、たくみ一等兵、いや、地獄のレンジャー部隊唯一の無傷生還者、奇跡のたくみ大尉、だったっけ?」
にやりとわらう、ひろし。
「その二つ名はやめろ! お前こそ、技術部隊の鬼っ子、メカと爆薬の申し子、破壊の天才ひろし少佐……と呼ばれるはずだったんだろ?」
「あー、やめてくれ、暗い過去だ。俺ら二人共、ゆいこのために軍人人生、棒に振ったんだから」
にやりと笑い合う、ふたり。
最後にハグしあうと、たくみは影のように消えて、敵要塞の中へ突入していった。
ひろしは数分の休憩を取ると、おもむろに無線装置を組みたてる。
先に、ゆいこの使っていた無線装置ではない、もっと簡単なものだが性能は段違い。
ひろしの技術的興味にまかせた魔改造されたカスタム軍用無線機だ。
「ん……ノイズは無くなったな……テス、テス……本部へ。強襲は成功。隊長のみ、ベースへ帰還予定。たくみ一等兵、ひろし兵長両名は最前線にて死亡予定……以上、報告終わり」
それから数時間後……
「あー、成果は追撃部隊で確認済だ。で、一つ聞かせてくれないか? 君ら小隊は、何処の星の、どの部隊の、何を破壊したのかね?」
ここは、ゆいこたち3人の小隊が出発したベースとなる基地。
あの強襲攻撃から半日。
今、小隊3名が揃って上官、ベース基地を管理する中佐に呼び出され、あの攻撃に対して報告を求められている。
「あのー……報告書には詳細に敵要塞の外・内の様子も画像つきで載せていますが……中佐、なんの冗談です? 我々は指令書通りに攻撃ポイントへ到着し、奇襲攻撃を加えて、あれほど厄介だった空電ノイズの発生源を潰したんですが?」
そろーっと手を上げて発言した、ゆいこ少尉の意見を聞くまでもないなと……
「ふんっ! 貴官らは重大な成果を上げた。それは確認したし、その報告書も一箇所を除いて間違っていない」
中佐は憤懣やるかたなしという表情を崩さない。
たくみ一等兵が発言する。
「中佐、一兵卒ごときが発言することを、お許し願います。私が敵要塞の全てを確認しております。あれは敵基地などという規模ではありませんでした。まさに要塞でした」
「たくみ一等兵……懲罰降格で中尉から一等兵か。銃殺刑にならなかっただけマシなくらいの違反を犯したな。ああデータは確認済みだよ……私が聞いているのは目標を、なんで取り違えたかということだ」
目標を取り違えた?
ひろし兵長が、そんなことはありません!
と発言。
「中佐に申し上げます! この私が命令書の攻撃ポイントと実際の要塞があるポイントとの一致を確認して攻撃開始のスイッチを入れております。万が一にも攻撃指示ポイントを間違うなどということは、ありえません!」
「ひろし兵長か……君も懲罰降格の口だな……技術少佐が目の前にあるというのに何をやらかしたら兵長まで下がるかね。ちなみに追撃部隊は普通に敵基地を破壊したぞ。君らがやっつけた、謎の要塞から出ていた妨害電波が消えていたんで簡単だったと報告があった。ということで最初に戻るぞ。君らが完全破壊した、あの謎の要塞と思われる建造物だが、何処の何者が造って、どういう意図で運用されていたのかね?」
「はい? 指令書に書いていったポイントと違うところに強襲かけて、敵じゃない施設を破壊したと……そういうことなのでしょうか? 中佐殿」
表情を曇らせながらも、ようやく気づいたかと言わんばかりの中佐。
「まあ、そういうことだ。君らの功績は認める。あの要塞の破壊が先行しなければ後続部隊の敵基地攻撃は不可能だったと報告が出てきている。問題は君らが破壊した要塞のような巨大設備は何だったのかということなんだよ」
ゆいこ、ひろし、たくみ。
三人の表情が過去回想モードになる。
「そういえば急襲攻撃で敵要塞の兵隊を見なかったな。保全のみの設備で管理する人員が少ないからだと思ってたが……たくみ、お前の斥候中、敵兵の姿を見たか?」
「あ、そう言われると……外にも中にも兵士の姿はなかったな。あれほどの巨大要塞が無人で維持管理されてた? いやいや、それこそ、ありえないだろ。中佐、攻撃後に要塞の確認に行ってる部隊があるはずですよね。その部隊、死傷者の確認はしましたか?」
「そういう質問が来ると思ったんでな、確認した。死者も負傷者も、なーんも確認できなかったと報告が上がっている。いいか、生命体の気配すらなかったそうだ」
? ? ? ? ? が一杯になり3人の頭脳は混乱する。
俺達は何を攻撃したんだ?
いや、指令書に書かれたポイントと実際の要塞があったポイントとの一致も確認している。
それじゃ、敵以外に俺達や敵生命体を敵視している勢力があるってことか?
あの空電ノイズは害意のあるものだと感じられる。
しかし、要塞だと思われた建造物は実際には無人の、妨害電波発生アンテナが建っているに過ぎなかったと?
中佐含め、そこにいる全員、巨大な謎に包まれた星が、いま自分たちがいる足の下にあると思った……
「問題は私達が何故、何ゆえに間違った目標を攻撃しちゃったのかということよね」
中佐との面会で再開した3人。
たくみ、ひろしとは死に目にも会えないと思っていた隊長、ゆいこは神の裁量に感謝し、他の2人は憮然としている。
「そういえば、結局、あの巨大要塞って無人だったんでしょ。あなた達と分かれて一生懸命に走ってたら追撃部隊に発見してもらって私は救助されたんだけど、たくみとひろし、どうやって救助されたの?」
素朴に質問を投げかける、ゆいこ。
「ああ、そのことか。いやまあ実際のところ俺もひろしも要塞攻撃が成功してノイズが綺麗サッパリ無くなった時には、これで死んでも良いと覚悟したんだけどね。いつまで経っても敵からの攻撃もなければ俺達を探しに来るような様子すら無い……これは変だと、ひろしが言うもんだから」
「……後は俺が。たくみに戦果報告用のデータを拾ってきてもらって、その後は味方との合流を目指して撤退。で、歩いてる途中で追撃で敵基地の攻撃に成功したと思われる一隊と遭遇し、帰還するってんで隊に合流させてもらったということ。ベースに到着したら隊長と離れ離れにさせられて、ようやく会えたのが、さきほどの中佐殿との面会の場。俺達も苦労したんだって、ゆいこ隊長」
3名とも同様な境遇だなと確認後、ゆいこから。
「それにしても中佐、なんで怒ってたのかしらね? 成果を上げたんだから、それは褒めてくれても良いんじゃないかな?」
お気楽、ゆいこの発言に、ため息まじりの、たくみ。
「はあ……それはね、ゆいこ。俺達が命令違反と大戦果を両方出してしまったからだよ」
ひろしも、それに続いて、
「その通り。命令違反だけなら、いつもの通りに俺達を罰すればいいだけ。まあ、罰しようにも、ゆいこは命令違反を犯してないし俺達は降格の極みまで来てる。後は銃殺になるくらいか……それよりも中佐が頭を痛めてるのは、あの巨大要塞に見せかけたハリボテの妨害電波発生装置設備だろうな。あれを造った生命体は、あれほどの規模の建設物に見張りすら置いていなかった……これが何を意味するか分かるか?」
「いいえ、私には理解できません」
間があいた後、きっぱりと、ゆいこが発言。
思わず力が抜けそうになる、たくみとひろし。
「そ、そうか……じゃあ、ゆいこにも分かるように話そう。あの巨大無人要塞を造った何者かは、この星にいるのは間違いないだろう。じゃあ、俺達にも敵勢力にも接触してこないのは、どういうことだと思う? 妨害電波なんて発射されて両方の勢力が怒らないわけないよな? いたずらと言うには、あまりにリスクの多い登場の仕方じゃないか?」
「えーと……そう、私が考えるに第3の勢力が出てきたってことよね。我々にも敵にも味方はしないけど、こちらからも敵勢力からも攻撃されるのは良い……あれ? 何か変じゃない?」
「ようやく理解したか、戦大好き乙女が。そう、両方に対する明確な攻撃意思はないが友好的に付き合う気もありませんよって宣告のようなものだと思うんだよ、俺は。たくみ、どう思う?」
ひろしから質問を振られた、たくみ。
「うーん……正直に言うと、よくわからん。この第3勢力、どんな力を持って、どんな目的があるのやら……だいたい、どんな生命体なんだろうね? それすら理解できてない段階じゃぁね」
それじゃぁ!
ということで、3名は分かれて、この星にいるらしい謎の勢力を分析することにした。
「時間はあるんでね。功績は功績として上げるけれど攻撃目標を間違えたという命令違反は、とりあえず基地内から出るなと言う罰則にするらしいわ。言われなくとも作戦以外で基地の外に出ようなんて、今の状況じゃ不気味だってのよ」
それから3人して部隊内の各部署へ。
情報局はもちろん技術部、工作部隊、砲兵部隊に機械化部隊、挙げ句のはてには海兵隊まで訪問。
まだ見ぬ敵の正体に迫る情報があるか?
正体のわからぬ敵の情報はなくとも、先の戦いで、元々の敵勢力以外の情報は?
などなど、あらゆる(敵情報以外)情報を収集する。
もちろん基地統括の責任者である中佐には予め一言、こちらは正体不明の敵らしきものが浮かんできたんで情報収集します、と言ってある。
この一言で3人の行動を邪魔するやつはいなくなった。
「かーっ、やっぱり親玉さんには話を通しておくもんだね。データや情報がポンポン入ってくるわ。中佐、さまさまだ」
「たくみ、そんな軽口言ってると、また上層部に目をつけられるわよ。その軽口が降格された元凶だって自分で分かってるんでしょ?」
「あ、はははは。そーんなこと言われてもなぁ……この性格は軍人になろうが何だろうが治らんよ。上層部にゃ早々に諦めてもらうのが一番だと推察します、ゆいこ隊長!」
「あー、もう。中佐から嫌味言われるのは、このあたしなんだから。ちょっと、そこのムッツリスケベさん……ひろし! あんたも技術部や工作部隊から苦情が来てるわ。欲しいデータは渡すから堂々たるハッキングは止めてくれって……あんた、何をやってるの?!」
「……欲しいデータを言葉にしても相手が適切に対応してくれないから、その目の前で欲しいデータを吸い出しただけだ。ちなみに必要部分をコピーしただけなんで元データには一切、変更はないと断言しておく」
「ああ、もう! 天才のやることは凡人には理解できないって言葉の意味を、あんたは本気で理解して無いようね。自分のやる行動を、逐一とは言わないけど怪しまれないほどには説明しないと駄目じゃないの! あんたら2人は揃いも揃って全く……軍人として破綻してるわよ!」
「……ゆいこ隊長。軍人の基本を云々するより各自の持ってきたデータを突き合わせるほうが大事だと思うんだが? 今は味方の悪意よりも見えぬ敵の正体を突き止めることが一番だろう」
「そーそー、小さかった頃のゆいこは目の前に目標があったら脇目も振らずに突き進んでたんだけど。今は脇目をふる余裕でもできたのかな?」
「あのねぇ、たくみ。そりゃ、士官学校入る前の、あたしよ。今は少尉、あたしは軍の階級を登れるだけ登ってやるんだ! そのためにゃ今は我慢の二文字! って何を言わせるんだ、あんたら。はいはい、データ突き合わせ、やるよ!」
そうして、各自のとってきた情報やらデータやらを突き合わせ、それぞれ単独では分からないものを繋ぎ合わせるように姿なき敵対者のイメージを浮かび上がらせていく。
数時間後……
「はぁ、はぁ……これで終わりね。私にも、ようやく見えない敵の姿が見えてきた気がするわ」
「でもな、ゆいこ。これで浮かび上がってきた敵の姿って……」
「そうだ、たくみも同じイメージを持ったと思うが……これは圧倒的な強者、というか超越者のようなイメージだな。俺達が敵対したとて、いや、俺達と今の敵とが共闘して当たったとしても多分、蚊に刺されたくらいにも感じないんじゃないか? この仮想敵……敵対することそのものが物騒極まるエンドにしかならないと思うんだが……敵と思うか、それとも「神の手」だと思うのか、どう考えるかが余計に分からなくなってきたぞ……」
「そ、そうね、ひろしの言うとおりじゃないかな? 完全に敵対すると、この星そのものが私達に向かって牙を剥くような気さえするのよ。恐ろしい存在だけど、やってることは躾のなってない他人のペットの躾教育よね。厄介なのは、このペットたちが知性を持っていることじゃないかな? 向こうの立場になってみると、せっかく争いを収めようとノイズ発生源を置いたのに、わざわざその施設を破壊してまで戦争を続けたい大バカ生命体が私達ってことになる……」
「ゆいこも、ひろしも同意見か。まあ唯一つ言えるのは、あの要塞と間違えたほどの妨害電波発射施設を破壊したって未だ見えない神には痛くも痒くも無いだろうってことだね。多分、この瞬間にも俺達の無益な戦いを眺めて、ため息ついてるんだろうなぁ、きっと」
「……いつまで経っても戦いを止めない俺達に対し見えない神は、どう出るだろうな? ゆいこ、どう思う?」
「ひろしの質問には答えかねるわ。あたしは神じゃないんだもの、卑小な人類の身では神がどう思うかなんて理解できるはずもないじゃない」
数多いデータの中に、この星の地中を高空から探査したデータがあった。
そのデータでは、この星は穴だらけ。
最大の口径で直径10km近いものから、一番多いのは直径800m前後のもの。
直径10kmは一つしか観測されていないが、直径800m前後の穴は無数にある。
しかし目を凝らしても、どこにも無数の穴なんか見えない。
「しっかしなぁ。何処の誰が、こんな穴ボコだらけの星に無数の蓋をしたんだろ? ちょうど穴ボコを塞ぐ形で、ほとんど全ての穴に深さ100mもの岩と土の蓋がされている。高空写真がなきゃ、誰も気づかなかったぞ、多分……」
たくみの呟きに、ゆいこもひろしも、何か想像もできないような存在がいるということを想像し、背筋に小さな恐怖が走る。
ゆいこの小隊は敵勢力との戦闘配置を一時的に解かれて今現在、敵の勢力とも味方の勢力とも関係のない、岩と砂しか無いように見える荒野に来ている。
「荒野って言うが、この星には植物すら観測されていないんだ。どこもかしこも、こんな風景なんだよな。普通、岩の惑星でも水分は湧いてるものなんだが……衛星軌道上からの観測でも、地上にも地下500mまでの岩盤地帯にも水分は観測されていないと……」
たくみの発言に、ひろしが付け加える。
「……それに加えて、この穴ボコだらけの星には、なぜか大気がある。水がないのに大気があるって、おかしいよな。かてて加えて、この星自身がおかしい……ゆいこ、この星が、この位置で発見されたのは、いつ頃だと思う?」
突然に指名された、ゆいこ。
「えと、えと。確か500年前には発見されてたはずよね」
「……そう、公式発表には、そう書かれている。しかし、俺が軍のデータから吸い出したデータでは、少し違う記述がされている。500年前に突然発見された惑星、だ」
たくみが疑問を呈する。
「ひろし、そりゃおかしい。惑星なんてものが突然に発見されるなんてことは考えづらいぞ」
「ああ、普通は観測機器の発達で小惑星などが発見されることは稀にあるよな。しかし、こいつの大きさは惑星クラス。直径で1万km軽く越す大きさの惑星なんて、いくらなんでも突然に発見されるわけがない。ちなみにだが、衛星クラスの物が3つ固まって発見されてもいる……ただし、こいつらの軌道は、ここの太陽に近すぎて宇宙船の接近は不可能。不思議だと思わないか? 惑星と衛星3つが突然発見されてるんだ。まるで何もなかったポイントに突然、するっと入ってきた形で。この惑星も、その衛星3つも軌道的に、そこにあって当然というものなんだが……」
「じゃ、じゃあ何よ。宇宙のどっかにいる神様みたいな存在があると仮定して、そいつが何らかの理由で、この星と衛星3つを、この安定軌道へ持ってきたって言うわけ? そんなの、もう宇宙神話だとかのレベルじゃないの! 無茶苦茶よ、荒唐無稽だわ! そんなこと、信じるほうがおかしいって言われるわよ?!」
ゆいこが全力で否定すればするほど、たくみとひろしの話が信憑性を帯びてくる。
「なあ、ゆいこ。こう考えたら、どうだ? 神様じゃなくて神に近い超のつくテクノロジーを持った文明から探査隊が、この星に派遣されたとする……見るべきものとてない星系だが両隣の星系同士は争い合ってるなと、そいつは考えた。じゃあ、この星系を両星系同士の戦争の緩衝地帯としようじゃないかと考えて、この星と衛星を、ちょうど空いてた軌道へ滑り込ませた、と。それから数百年後、俺達と敵勢力は、その超越生命体の思惑通りに、この星に基地を作り戦争をおっぱじめた。小規模の戦いぐらいなら見てるだけにしようって思ってた超越存在は、いつまで経っても戦いを終わらせない、それどころか、だんだんと戦いをエスカレートさせていく俺達と敵勢力を見かねて、あのノイズ発生源を置いた……あの施設のあった位置は両勢力の基地から同距離だったと報告が入ってるから、これで間違いなかろうな」
「ちょ、ちょーっと待ちなさい、たくみ。あの大規模要塞モドキが、ただ妨害専用の駒だったって話?」
「……いや、それどころか、この星や太陽付近にある衛星3つも俺達と敵さんとの戦争を止めさせる道具かも知れないんだ。星を一個、道具として使うなんて発想、何処の誰が思いつくんだ? それを考えても俺達や敵さんのようなレベルに収まらない超越存在としか思えない。ちなみに、この星系すら……いや、そりゃ考えすぎか。いくらなんでも太陽すら生みだす存在はいないな。まあしかし、ここまで考えると、この超越存在が俺達や敵勢力に対して害意を持っているのかどうかも怪しくなってくる。動物やペットの躾くらいに考えてるんじゃないかとも思えてくるね」
「ひろし……あんた、まともにしてると今すぐにでも参謀本部へ引き抜きたくなるような有能さね。これで、ある程度の情報すり合わせは終わったんだけど……あんたらの言う「超越存在」と、どうやって連絡を取るかということよね。もし、そんな存在が、この星にいると仮定して、どうやって私達の存在を知らせるのか? だって、その存在から見たら私達って野蛮な動物か、躾のできてないペットのようなものでしょ? こっちが呼びかけても無視されるのがオチよね。じゃあ無視されないようにするには、どうするか?」
ゆいこの疑問に、たくみは沈黙したが、重い口を開くように、ひろしが答える。
「……無視できない呼びかけは簡単だ……しかし、それをやって俺達が無事に生きていられるかどうか? それが問題だ」
「ひろし、それって、もしかして、あのノイズ発生施設破壊の犯人は俺達ですと名乗り出る?」
「……ああ、たくみ、大正解だ。あの施設破壊の現場にいたのは、より端的に言うと俺とたくみ、2人だけ。ゆいこは直前に脱出しているんで、あの破壊作業には関わっていないと言い張れる。俺達2人で済むなら、それに越したこと」
ばちッ!
ゆいこの平手打ちが、ひろしの左頬に炸裂する。
「情けないこと言わないでよ! 隊長のあたしが責任取らないで、どうするの! ? 死ぬんなら、あたしだけ。または3人一緒!」
ボロボロ涙を流す、ゆいこ。
3人共、いつしか涙を流して抱き合う形となる。
しばらくして、ゆいこ、たくみ、ひろしは立ち上がり、互いに手をつなぐ。
「超越存在なら電波や音波よりもテレパシーや想いをぶつけるしか無いわね。一心に祈るのよ、どこかにいる、あたしたちを越えた存在に。あたしたち施設破壊犯は、ここにいますって!」
3人は現在、見知らぬ空間にいる。
「どこよ、ここ」
「さあ? 俺達は祈ってただけ。数分後には、ここにいた。ひろし、お前は集中してても目を瞑ってなかったよな。どういう状況になった?」
「俺にも理解不能だよ。俺達は祈ってた。集中してたのは確かだろうが、ある瞬間、まさに一瞬で俺達は、この空間にいた。こいつは噂に聞く「転送」ってやつかな? 軍の技術局でも研究してたが、まさに研究段階。実験モデルすら設計前だよ。それが、この当たり前のように最先端理論を使って思うがままの転送されている現在。俺達を、ここに転送した存在こそ、いわゆる超越存在だろうな。少なくとも俺達にとっちゃ超越存在と思えるやつだろう……悔しいが、敵さんのテクノロジーレベルも俺達と、そう変わらないと報告が来ているから敵性技術じゃないことも確かだ」
しばらく3人の間で沈黙が続く。
沈黙の間にも、ひろしとたくみは目配せにより見知らぬ空間の調査を始めている。
ゆいこは……
「たくみ、ゆいこはしばらく使い物にならないだろうから、お前に任せる。俺じゃ、ゆいこを落ち着かせることは無理だから」
「いやいや、なんでそこで俺に振るかな? ひろし、お前が理路整然と話せば……」
「いや、俺じゃ駄目なんだ。ゆいこも多分、本能的に俺じゃ恋愛対象にならないと気づいていると思う」
「は? なんで、俺は良くて、ひろしは駄目なんだよ! ? 本能的? 説明になってないだろうが!」
その時、不意に人の気配が。
さすがに他人の気配がした途端、ゆいこも気づいたか3人は一斉に振り向く、
そこにいたのは彼らより年配、より言えば中年男。
冴えない顔は生まれつきだろうが、そこに内在するエネルギーのようなものに3人は圧倒される。
「あなた、誰? とてもじゃないけれど普通の人間とは思えないわ。かと言って噂の超越存在とも思えないんだけど」
中年男(外見は)は口を開く。
「ようやく君らの言語が解析できて教育機械で超速成教育やってきた。君らのテレパシーは受けとったが、あの通信妨害設備を、あれだけ破壊してくれたのが君ら3人だったとはね。いや想定外だった。もっと大軍で来ると思ってたんで気を抜いてたのは間違いないが、まさか偵察部隊だと軽く見ていた小隊に、あれだけやられるとは……郷もプロフェッサーも呆けてたがシールドバリア張る前に総攻撃されちゃ、ああなるのは当たり前だな。更に粉塵爆発とは……あれは凄い作戦だ。個人的には、あれを思いついた個人に褒美を上げたいくらいだよ」
3人は無言。
数分後、ようやく口を開く、ゆいこ。
「いまの言葉で納得するしか無くなったわけだけど。あんた何を考えて、あたしたちと敵の両方に妨害なんてかけたのよ! それも一撃で潰れるくらいの防御性能ペラペラの見てくれだけの要塞基地まで建設して!」
中年男は答える。
「あれは君らの行動力と攻撃力を読み違えていたからだ。本当なら君らは斥候隊だっただろ? 君らが帰った後で本格的にシールドバリアを張るつもりだったんだが、あそこで持てる攻撃力全てをつぎ込むとはな。この俺にして久々に読みが外れたよ。いやー、愉快愉快。俺も人間だったんだな、間違えるんだなと思い起こさせてくれたのは凄いね。本当に感謝してるんだぞ、子どもたち」
子どもたちと言われて、カチンと来たのが、たくみ。
「あなたのことを何と呼べばよいのか分からないんで、今は「あなた」と呼びましょう。確かに学徒出陣の3人ではありますが、子どもたち呼ばわりは失礼ではありませんか?」
言われてみればと、もう一度、ゆいこ、たくみ、ひろしを見回す中年男。
「いや、これはこちらが悪かった。いつもは最初にテレパシーで互いの感情やら印象やらを交換するのが普通でね。俺の名前は「楠見糺」、タダス・クスミ、どちらで呼んでもらっても構わないが君らも、ゆいこ、たくみ、ひろし。同じような姓名の文化があるんだな……いやー宇宙は広いわ! まさか超銀河団渡ってまで、ここまで同じような表意文字の文化がある星など想像もしなかったよ」
その言葉に、ある意味衝撃を受ける、ひろし。
「超銀河団、渡った? クスミさん、あなた、もしかして遥かな宇宙の果ての星の出身?」
「お? 余裕が出てきたようだね。そうだ、ひろしくん……ひろしさんと呼ぶほうが正しいのかな?」
その呼び方に何を感じたのか、たくみ。
「おい、おっさん……じゃなかった、クスミさん! いくらなんでも、ひろしは男だよ! 俺達は幼馴染なんだ!」
それに対して、
「ん? 幼馴染にしちゃ、君らのほうが、ひろしくん? さん? の本質を理解してないな。ひろしくんは両性体だぞ。男でも女でもあるわけだ」
「いつか言おうとは思ってたんだ、ゆいこ、たくみ。僕は生まれつき特異体質なようでね。まあ、ずっと昔のおじいちゃんか、おばあちゃんが両性体として生まれたらしい。本来、双子だったらしいんだけど成長途中で一人に収縮したというか吸収されちゃったと言うか、それでも意識的には2人いるんだよ、僕と私の両方が」
衝撃的な告白に、ゆいこ。
「あ、それで私の恋愛対象から本能的に、ひろしを外してたのね。感覚的に妹みたいな姉のような、それでいて弟と兄貴も感じさせる不思議な人だとは思ってたんだ」
「そうか……それで、俺達は恋の鞘当てのようなことにならず、ここまで来たってわけか。ひろし、俺も戸惑う時があった。お前を女性と感じる時があったからなんだが、それは自然だったんだな」
「そう、そうだよ。本当なら俺は君らの中に入るべきじゃなかった! 引っ掻き回すつもりはなかったんだ。ただ幼馴染として暮らして行きたかっただけなんだ」
固いはずの三角形にヒビが入っていく……
絶対のはずのトライアングルがバリバリと音を立てて崩れていく。
「で? ひろしのことは、ひとまず置いとくとして。クスミさん、俺達を原子分解しない理由は? まさか少人数でノイズ発生施設を破壊したのが気に入ったからなんて理由じゃないよね?」
たくみが、無理やり気持ちを切り替えて楠見に尋ねる。
「え? 将来性豊かな青少年たちを原子分解なんて、しないぞ。君たちには君たちに相応しい仕事をしてもらう予定でね。もちろん軍人なんて非効率の塊みたいな職業じゃなくて、もっとやり甲斐と満足感の高い仕事だ」
「ちょっと! クスミさん、だっけ? 少尉なんですが、少なくとも、あたしは。そりゃ、戦いだけの軍人なんて職業は非効率の塊かも知れないけどさ。でもでも、このあたしには向いてると思うのよね」
ゆいこが精一杯頑張って反論する。
まあ反論しながらも、それが事実だということは変えられないが。
「単一性の女性である君が小隊長とは。まあ軍隊ってのも時に面白い配置を成すもんだな。君、ゆいこさんが中心となり、そこをたくみくん、ひろしちゃん(? )という二人が固めている。このチームが効率的であることは認める。軍に所属しなくても、このチームなら、もっと効率的に、より高い成果を出せるだろう。どうだ? 俺の勧める方向への進化と言うかチームごとの引き抜きと言うか……ちなみに君らの上司は早々に君らを見限ってる。成果は上げているが軍隊は規律が第一だから君らのような問題児の集まりだけど優秀なチームなんてのは扱いづらすぎて、そのうち最前線で使い潰されるのが落ちだぞ」
はぁ……
と溜め息をつく、ひろし。
「やはり、そうでしたか。いくら問題児ばかり集めた3人小隊とはいえ最少人数で増員の予定すらないってのは変だと思ってましたよ。あの基地司令、俺達を厄介払いするために、わざと違うポイントを指定して全滅する覚悟で施設破壊命令を出したな……」
「そこで、だね。君らが了承するなら、ちょいとした教育を君らに施すことになる。ああ、安心してくれ、思想教育とか洗脳とかの教育ではない、もっと高度な知識と能力の使い方をレクチャーするものだということは保証する。思想制御とかを行っていると考えるなら教育は毎回、一人づつってことにしても良い。そうすりゃ終了後に3人で話し合って思想的に偏向されたら気づくはずだろ?」
超越者と思える楠見から、ここまで言われれば断ることは難しい。
おまけに宇宙の彼方の超越者の知識や知恵の一端を授けてくれるとまで言っているのだ、乗らない方がおかしい。
「分かりました……小隊を代表して隊長の私が了承します。私たちに別の可能性があるのなら、それを教えてください」
それを聞いて楠見の顔がほころぶ。
満面の笑顔になりつつ、
「分かった。それじゃ無骨な軍服なんぞ着替えて、まずはこの宇宙船、ガルガンチュア……まあ今現在は4隻合体ではなくフロンティア一隻だけの分割型だが。この宇宙船を案内するとしようか」
数時間後……
呆れ返った顔の3人がいた。
「はぁー……未だに信じられないわ、自分の目が。頭が、ここが宇宙船の中だということを拒否するのよ……クスミさん、の代役だっけ? ゴウさん。ここが、あたしたちや敵勢力の基地がある惑星の中だってホントなんですか? いやいや、証拠は山と見せてもらいました。証拠としては充分なんですよ……だけどねぇ……直径が1万km超してる宇宙船なんて馬鹿げた代物、頭が認めるのを拒否するのよ」
ゆいこが正直なところを吐露する。
たくみも、
「あっけにとられるとは、このことかな。あっちこっち転送されながらフロンティアって名前の宇宙船を見て回ってる形なんだけど、どう考えても、これ惑星上の巨大宇宙軍本部か巨大宇宙船工厰を見学してるとしか思えない……宇宙船の中? 何処の誰が、こんな宇宙船を造ろうと思ったんだか?」
「たくみとゆいこの言うとおりだね。今でも信じられないことばかりだけど本来のガルガンチュアは、このフロンティアに直径5000kmを超す大きさの衛星クラス宇宙船3隻が超大型のパイプのようなものを使って合体してる状態だって? 俺、もう想像力が枯渇してるのかな、とてもじゃないけど通常状態のガルガンチュアがイメージできないよ」
郷は、それを聞きながら、
「君らの言いたいことは理解できる。この俺も実際にガルガンチュアを見た時には衝撃を受けたから……しかしなぁ、ガルガンチュアで長いことクルーやってるが本当の意味で脅威なのは実はガルガンチュアという宇宙船じゃなくて全ての宇宙船のマスターという地位にある師匠、楠見さんだぜ。あの人、能力的には人類という範疇を逸脱してるのに未だに人類であることに拘ってるんだ。信じられるか? 考えただけで星を砕ける人物が太陽のノヴァ化や寒冷化すら食い止められる宇宙船に乗ってるんだぞ……俺も含めて、この宇宙船のクルーは大半が生命体というものを逸脱してると言いたいね」
あまり聞けない、郷の心情を吐露した言葉だろう。
3人は、あんたも化物の仲間だろうという言葉を飲み込みながら言いたいことは理解できるのだった……
「ってことで、さっきも言ったが。あんたら3人は、もう少し経ったら、この宇宙船ガルガンチュアで特別な教育を受けてもらうこととなる。教育内容を詳しく言うと、まあ救助機器の使い方と、その救助機器を搭載する搭載艇と、その母艦の操縦方法を学ぶってのが中心となるわけ。あ、様々な救助機器があるんで、その理論も憶えてもらうのは当然だが。でもって教育終了後は3人でチームを組んでもらい、この銀河の災害救助と災害対策・予防と各星系への災害対策機器運搬設置まで任せようと思ってる」
ゆいこが質問。
「戦い以外の何でも屋ってことよね、それ。まあでも、生命体を殺すなんて気の滅入る仕事より、よほどやりがいあるわ。で? その仕事に使う機器や宇宙船……搭載艇? は、どうなるのかしら? 私達専用の宇宙船をもらえるって形になるのか、それとも貸与と言う形を取るのかしらね?」
「ああ、搭載艇の500mクラスの船を一隻、あげるよ。小型と超小型は、それぞれ100隻以上、その母艦に搭載されているし、超小型以外にはコンパクト化された救助機器が収納されている。たった3人で操縦できるのかという疑問もあるだろうが、こいつはガルガンチュアのテクノロジーでほとんど自動化されてるから、艦長・パイロット・その他の機器操作と最低限3人いれば動くからね」
「嘘だろう……直径500mクラスの宇宙船が最低3名の乗員で運用できるなんて……ほとんど魔法じゃないか」
技術関係に詳しい、ひろしが唖然として呟くのも当然。
故郷の星の宇宙軍では一番小さな駆逐艦であっても最低乗務員数は50名を超す。
特に防衛と攻撃関係には最低でも20名を要すと言うのに。
彼ら3名、これより軍人ではなくなり、ガルガンチュアで教育の日々を費やすこととなる。
「師匠。教育を始めましたが、ガルガンチュアのテクノロジーレベルに追いつくには、ずいぶんと時間がかかりそうですよ。彼らの星系と敵の星系とは隣接してるそうで光速以下の宇宙船でも数年かけて飛べば大丈夫ってことなんですって。跳躍航法を教えても大丈夫なんですかね?」
「まあ、種族としては宇宙文明ではないかも知れないが、あの3人だけなら例外としても良いだろう。精神的にも攻撃衝動は少ないし軍人としても学徒動員で徴兵されたと言ってたし。まあしかし、この星系が両方からアクセスしやすい中間距離にあったってのは何かの偶然か? それとも神の采配? 互いに互いの故郷を攻撃しあうような馬鹿な真似をしないだけ良かったね」
「良かったね……って他人事のように! 両星系の諍いを予測して1000年前からフロンティアだけ、さも昔からの惑星だよって風に、ちょこんと今の位置に滑り込ませたのは師匠じゃないですか! ガルガンチュアを分離しようって意見が出た時には俺は師匠が何を考えてるのか分からなくなりましたよ……まあ、師匠の超天才の分析能力にも改めて敬意を評してるとこですが」
「しかしなぁ、郷。さすがの俺も、あんな3人が出てくるとは思わなかった……というか、あの3名は突然変異に近い精神的なミュータントだろうが。教育機械に対して宇宙文明段階ではない人間が、あんなに素直に受け入れるのを見るのは久々だ」
他愛もない、それでも3人に対する衝撃的な秘密が明かされつつ、その準備は整っていく……
それから数ヶ月後の、とある星域での風景。
「ゆいこ! もう少しだけ船体を接近させてくれ! もうちょい、もうちょい……よし! ストップ! 凄いなぁ、この性能。ロケットノズル方式だったら、俺、間違いなく押しつぶされてた」
たくみが言うのも、ごもっとも。
流星群に突っ込んだ宇宙船の救出に出向いたチーム・トライアングル(チーム名)は今現在、宇宙船の救出行動中。
直径500mの球型船の、ほんの数m先には救出用の金属ロープをフックに引っ掛けている、ひろしの姿。
そうすると今、球型船の操縦は、ゆいこ一人が担当していることになるが……
「いやー、すごいわ、この船。オートパイロットで無人操縦ながら、たくみの誘導通りに動くんだもの。最後の50cmなんて有人でも無理な機動よね」
それを聞いた、たくみ。
「ははは……有人操縦より上手い自動操縦装置って……航行理論からして違うからなぁ、こうなるか。げに恐るべきはフィールド推進なり、だな」
呟き程度だったが、それを聞き逃すような、ひろしではない。
「おいおい、頼むよ、たくみ、ゆいこ。俺達は巨大な金属の塊に挟まれてるような状況なんだから、もう少し慎重にだな……」
とは言うものの作業そのものは順調に進み、故障(後で調査するとエンジン部に小規模な隕石が衝突して噴射が困難な状況になり、自動的にロケットノズルを停止・遮蔽させたらしいことが判明)したロケットを流星群から引っ張り出すことに成功する。
そのまま航行用フィールドエンジンを起動させ、バリアを兼ねた強化フィールドを通常時よりも拡大させた球型船が、救出対象ロケット船を抱き込むような形で依頼元の星系へ牽引していく。
数時間後には、
「いやー、ありがとう、ありがとう! 近頃、評判の宇宙のなんでも屋だけのことはあるね。我々だけだと大規模な救出チームを組むことになるんだが大型宇宙船に乗員3名だけで様々な事故や惑星内の重大災害対応までやるって大変だろう? どうかね、君らの活動ベースとして、この星系を使ってもらうというのは……」
願ってもない申し出だが、その裏を読めないリーダー(ゆいこ)ではない。
ベースを使うリスクや使用料、宇宙船の整備にかかる資材やら経費、それらを瞬時に計算し、宇宙港の管理長と折衝する。
数時間後、してやったり顔のゆいこと、げっそりした顔色(宇宙港管理長)が会議室から出てくる。
「では、宇宙港管理長様。さっき双方合意のもとで用意しました契約書の通り、この星系を我々、チーム・トランアングルがベース基地として使わせていただきます。管理費や整備費は協定通りにお支払いしますが宇宙船への課税やチームへの人頭税は免除ということで、お願いしますね!」
爽やかな笑顔で再確認された宇宙港管理長は、さらに青い顔でうなずくしかなかった。
ガルガンチュアは、もう、この銀河にはいない。
チーム・トラインアングルの発足と同時に惑星軌道を離れるとガルガンチュアを構成する他の3隻、ガレリア、トリスタン、フィーアと、それをつなぐ巨大パイプ(今は内部が詰まっていて空洞ではない。転送が船内移動の主たる手段となった時点で、もう接続パイプは空洞である必要が無くなり、その空間は搭載艇が占めることとなる……これにより今までのガルガンチュア搭載艇の最大値は、それまでの倍以上になっている)は元通りに接続されて、ガルガンチュアは、その異様な偉容を再現させることとなる。
ちなみに、このガルガンチュア再現作業を目の当たりにしてしまったチーム・トライアングルの3名は、しばらく開いた口が塞がらなかった。
「たくみ、ひろし。これって現実よね? 悪夢か何かを見てるって可能性、無いわよね」
「大丈夫、ゆいこ。俺にも見えてる。脳が、これを現実だと認めたがらないんだけど」
「たくみ、俺も同じだよ。これが現実なら世界の全てのことは些末で泡のような些細な出来事だろう……俺達は宇宙で数名しか目撃できない特別なことを目に出来る幸運の持ち主かも知れない」
この後、チーム・トライアングルとして活動を開始した3人は、この銀河で救助を求める声を聞けば、それっとばかり急行し、他の星では見たこともない直径500mの巨大宇宙船と、その救助機材を縦横無尽に駆使して、あっちの星、こっちの星系、今日は暗黒星雲、明日は中性子星の近傍星域と活躍の幅を広げていく。
「ゆいこ、もう戦争なんてやってる場合じゃないよな。この宇宙船と俺達のチームがありゃ、どんなトラブルも敵じゃない」
たくみが、そう豪語すると、
「おいおい、たくみ。それもこれもガルガンチュアとクスミさんのおかげだろ? ちなみに今現在でもガルガンチュアは他の銀河を救っているんだぜ、きっと」
「ひろし、人間を超えてる人たちと私達を一緒にしても仕方がないわよ。この銀河の人たちを救うことだけ、それだけ私達は頑張れば良いの!」
ゆいこの言う通りかも知れないな、と、ひろしもたくみもうなずく。
数年後、巨大救出劇の日々が一段落して、互いが互いの気持ちに気づく日が来る。
その時3人が、どういう結論を出したのか?
それはまた別の話となる……