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Sugar Room Babies

第一章

中条卓

 

 この物語が始まる時点で、奇数章の語り手である「私」は二重の意味でまだ生まれていない。生まれていないはずの語り手が登場人物たちの言動をまるで実際に見聞きしていたかのように得々と語るのは近代的な物語作法に照らしてルール違反のそしりを受けそうなものだが、「私」は彼らの行動をつぶさに観察し得たのみならず、彼らが思い浮かべながら実際には言葉にしなかったさまざまな考えさえも知ることができたのだ。そうしたありとあらゆる情報のアーカイブからいずれ「私」も切り離され、この上なく無力な存在として外の世界〜二重の意味での外界〜に放り出されることも「私」は承知している。だがそれはとりあえずずっと先の話、この物語の終わりに近いできごとだ。
 
 胎児の記憶についてお聞きになったことがおありだろうか?
 
 胎児の五感は意外にもじゅうぶん発達していて、羊水の味や匂い、子宮内に響く母親の鼓動(というよりは血管雑音のようだが)、さらには緊張して薄くなった母親の腹壁を通して父親の声や降り注ぐ陽光までも感じているのだという。巧妙な心理学的実験によって胎児期の記憶が新生児期から幼児期、具体的にはことばを使うようになる頃までは保持されていることが明らかになっている。
 だがここに大きな疑問が生じる。年余にわたって残るような長期的記憶は脳の配線図である神経回路自体によって保持されるというのだ。では、いまだ神経細胞のシナプス形成による配線がほとんど始まっていない胎児期の記憶はいったいどこに蓄えられるというのだろう? 脳以外の外部記憶装置の存在を仮定しないかぎり、胎児の記憶というのは説明し得ない現象なのではないだろうか。
 「私」がここに記す出来事は、そのような超個人的な外部記憶装置にアクセスすることによって引き出された情報に準拠している。ここで問題なのは、その外部記憶装置が基本的にはアナログ・システムであることだ。アナログ・システムの問題点は……いや、こんな話はそろそろ終わりにして物語の発端を語り出すことにしよう。はじまりはごくありふれた奇跡、すなわち妊娠である。

*   *

 レイには生理の始まる直前にときどき見る夢があった。墜落の夢だったり、飛び立とうとして走路をひた走る夢だったりするが、いつも最後には地面に倒れ伏している。土は黒く湿っていて、舌には血の味がするのだった。

 その日、レイは中学校時代の夢を見ていた。陸上部の練習で、同じトラックを何度も繰り返して走っている。奇妙なことに、走っている自分を観察しているもうひとりの自分がいて、その目の前を左から右に横切るのは体操服を着た中学生の自分なのだ。走りながら/それを見ながら、自分は今夢を見ているのだとなんとなく理解している。地面はふわふわと頼りなくて、走っているうちにだんだん身体が軽くなり、ストライドがどんどん伸びていく。ついには月面を走っているみたいにぽーんぽーんと跳ねていくのだ。やがて離陸の感覚があり、身体が宙に浮く。とたんに分離していた自分がひとつになり、一緒に校庭を見下ろしていた。いつのまにか体は地面と水平になり、凧のように両手両足を広げたまま空に上がっていく。唐突に高校で習った人工衛星の原理を思い出す。アトムとあだ名されていた物理のフルカワ先生の声が耳元でひびく(そうだたしか彼の名前はツトムだった)

(大砲の弾をだんだん遠くまで飛ばしてやるとする。弾を撃ち出すスピードが増すにつれて着弾点は次第に遠ざかっていく。射出速度が充分に速くなると、ついには弾は地平線の向こう側に落ちていくようになる。ところが地球は丸いから弾はどこまでいっても地面に着かずに落下し続ける…)

 校庭が、校舎が次第に小さくなり、緑の多い町全体が眼下に広がる。見たことのない、でも見覚えのある町並み。空き地で野球をしている子供たちの歓声が聞こえてくる。アイスクリームのような雲。蜜とミルクの味。ますます高く昇りつめ、ついには外界から町を隔てている山脈と海までが見えてくる。こんなふうにこの町を見下ろしたことは一度もないはずなのに、どうしてこんなに鮮やかにすべてが見えるのだろう。あたしはこのまま人工衛星になってしまうんだろうか…

 はっと目覚めてトイレに立った。てっきり生理が始まったのかと思ったがそうではなかった。それから2週間似たような夢を見続けても、ついに生理は来なかった。
 
 この物語の主要な登場人物のひとり、レイこと麻生玲がはじめての妊娠を自覚したのは結婚3年目の秋だった。取り立てて避妊には気を使っていなかったが、大学病院の放射線科講師として仕事に追われているうちあっという間に3年が過ぎてしまい、周囲からそう言えばおめでたはまだなの、などと尋ねられるようになった頃のことである。聞かれるたびに「エタノールを常用してると妊娠しにくいんだって」などと言い訳しながら、まあそのせいもあるのだろうけれど、たぶん本当のところは夫のタクミがレイの排卵日をしっかり把握していて、飲んでいるときには妊娠しないよう気を使ってくれているのだろうとはうすうす感じていた。レイの方では排卵日だろうが何だろうがおかまいなしに毎日のように酒を(あら、ビールとかワインはお酒って言わないのよぉ)飲む(たしなむって言って欲しいなあ)ので、結果的には効率よく避妊できていたというわけだ。月経周期は規則的な方だったが、学会や講義の準備などで体力にものを言わせて徹夜を続けたりすると乱れることもあったので、少々生理が遅れても気にはならなかった。しかし、見慣れた墜落あるいは転倒の夢が飛翔の夢に変った時、レイは自分の体内で何かしら新しいプロセスが始まったのを感じていた。

 ある夢の中では高いビルの屋上にいた。学生時代に下宿していたアパートの小さな部屋で木製の丸椅子(幼稚園のころ家にあったやつだ)を足がかりにライティングデスク(これは大学を出るまで使っていたもの)によじ登り、さらに本棚(青いマジックで落書きしてある、お母さんは怒らなかったな、「何を書いたの」「オバケ」)へと順に登っていったらいつのまにかそんな所にいたのだった。小学校の校舎のようでもあり、何かの工場のようでもある。平らなコンクリートの屋根にはボイラーのパイプや換気口があるばかりで寒々としている。屋上の端には手すりがなく、乗り出したら危ないな、と思ったときにはすでに下を見ていた。渋滞した道路の脇を市場へ向かうリアカーが野菜を積んでのろのろと進んでいく。踏み出したら落ちるぞ、という思いと自分は自由に空を飛べるはずだという思いが交錯して、いつしかその思いのままに空中を上下している自分に気づく。気を抜くとすぐに降下しはじめてしまうが、地面に向かって意識を集中し、そう、あたかも「気」を叩きつけるようにすると、はずみで体が持ちあがるのがわかる。やがて、不器用ではあるが高さを調節しながら飛び続けられるようになる。まっすぐ北に向ううち、眼下に黄色い巨大なテントが見えてくる。遠足で訪れたことがある、あれは確か青物市場のはずだ…

「うーん、まるでセノイ族だねえ」

 落ちる夢が飛ぶ夢に変ったという話をタクミにすると、例によって聞き慣れない固有名詞が返ってきた。タクミときたら政治経済スポーツ芸能にはとことん疎いくせに、一般常識からかけ離れた特殊な知識に関しては雑学事典の執筆を任せたいくらいに博識なのだ。シャーロック=ホームズ型の知識分布なのさと本人はうそぶくのだが、それをオタクと言うのだとは本人はご存知ない。

「いやね、六十年代のカリフォルニアあたりで流行った話でさ、夢見を自由にコントロールできる種族がどこそこにいるっていうね、どうも自称文化人類学者のなんとかいう男がでっち上げたほら話だったらしいんだけど、最近になってまた実は根拠のない話でもなかったっていう議論が蒸し返されててね、カスタネダなんかも似たような話を書いてるし、そもそも夢見というのは古代人にとっては」
「ストップ! 古代人はどうでもいいから。つまり、夢の内容が変化するっていうのはよくあることなのね」
「どうかな」あえなく長広舌をちょん切られたタクミが短くなった舌を打ち鳴らして呟く。「変化するっていうよりも、自分の意思で変えちゃおうっていうのが夢見の技法なんでね。そんな技術を習得しようっていうカルチャーセンターができるくらいだから、よく見る夢の内容てのはそうそう変わらないものなんじゃないかな」
「そうよねえ。でも、体調が変化したら夢の内容も変化するんじゃないかしら」
「体調って」
「たとえばにん……」しんと言おうとしてレイは思いとどまった。「げんだって動物なんだから、ホルモンだとか食べ物だとか、あとはそうね、当然薬物によっても体調が変わって、それが意識状態に反映されるって言うか」
「ああもちろん、セロトニンだのドーパミンのレベルは高次の精神活動にも影響を与えるし、意外なところではインスリンっていうか、血糖値も人間の判断力に影響するって話だからね、食べ物の中にはドラッグ様の作用を有するものも多くてさ、そうだね、そういえば確かに食生活と夢の関係なんてあんまり研究されてなさそうだな、早速インターネットで調べてみようか」
「そうしてちょうだい」
 内心いささかうんざりしながら、でも表面はにっこりと微笑みつつレイはタクミをパソコンの前に追いやったのだった。
 
 医者の間には「女を見たら妊婦と思え」という格言が流布している。例えば吐き気やだるさなど、つわりから来る症状を風邪と見誤ってむやみに薬を処方してはいけないし(そう言えば悪名高きサリドマイドは当初つわりの薬として広く用いられたのだった)、腹痛と貧血で外来を訪れた患者の子宮外妊娠を見落としたら命に関わる。正常な、あるいは異常な妊娠に付随するさまざまな症状を他の病気と見誤られないよう、妊娠可能な年齢の女性を診察する際にはまず妊娠の可能性を疑え、という意味であるが、レイの専門である放射線科では、X線を使って検査をする前には患者が妊娠していないかどうかを確かめろ、という意味でもある。問診だけではあてにならないので、放射線科の外来には妊娠判定キットが必ず常備してあるのだった。というわけで…

「ひゃあ、できちゃってたか」

 ピンクの十字が浮き出たキットをまじまじと眺めながら、放射線科外来奥の個室でレイはとんきょうな声を上げた。喜びや驚きよりもまずはようやく合点がいったという安堵の念があり、次いで酒が飲めなくなるなという思いがちらっと頭をかすめ、ピンクレディーという名前がなぜか頭に浮かんだ。ドライジンに卵白とグレナデン・シロップ、チェリーを添えるんだったかな、キットをティッシュにくるんで備え付けのごみ箱に捨てかけて思いなおし、持ち帰ってタクミに見せることにしたが、よく考えたら使用済みのおしっこ付きのやつをわざわざ持って帰るくらいなら未使用のやつを拝借して家で試せばよかったと気づき苦笑する。といってもう一度同じことを繰り返す気にはなれなかった。妊娠判定薬の精度はきわめて高いのだ。今夜は祝杯の代わりにとっておきの紅茶を淹れるかな、そうそう、このキット、同じのを薬局で買って返しておかなくちゃ。

 タクミはレイの身体の変化にやたら敏感なので、わざわざ病院から持ってきたキットを見せなくてもじきに気づくだろうとレイは踏んでいたが、まさにそのとおりだった。

「ええっと、あのさあ、ひょっとして妊娠してる、なあんてことはない?」セックスの後、軽く汗ばんだレイの乳房をもてあそびつつ、ひとことひとことを区切りながらタクミは言った。
「おおっとビンゴ! ……でもどうして?」
「そりゃあ」ベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、タクミはメガネを掛け直す。
「乳輪が大きくなったとか?」
「まだそんな時期じゃないでしょ。おっぱいがずっと張ってるみたいだし、やけに高温期が長いなあって思ったからさ」
「ふうん、そうなんだ」

 レイは今更のように感心した。世の中には2種類の男しかいない、95パーセントの鈍感な男と5%の敏感な男、タクミは後者なのだった。目が極端に悪いぶん他の感覚が発達してるんだよ、サバイバルのために神様が授けてくれた贈り物さ、こともなげにタクミは言うのである。身近な女性の月経周期ならカレンダーみたいに正確にわかるね。それは言動や気分の変化といった高次の情報処理によるのではなく、もっと原始的な感覚、例えばかすかな口臭や皮膚温の変化によるものであるらしい。つまり生理中の女は独特な匂いがするし、排卵日の女はひんやりしているというのである。

「それでさ、ママになった感想は?」
「んなもの、まだ実感なんてあるわけないじゃない。キミだってパパになった感想は?なんて聞かれたら困るでしょう」
「うわーパパってのはやめて欲しいな」
「あたしもママは勘弁してほしい」
 
 父親か、まいったなどうも。自室でパソコンのキイを打つ手を休め、タクミは椅子に背をあずけた。軽いうつ病の気があってしょっちゅう自己嫌悪の発作に苛まれるタクミとしては、たとえ結婚しても子供は作りたくないという思いがどこかにずっとあった。子供は好きだし子供に好かれるタイプでもある、でも自分に似た子供となると話は別だ。好きになれなかったり、逆に溺愛してしまったり、つまりはうまく距離が取れそうにないんだよ。タクミは中学のときに3つ年下の妹を白血病で亡くしているので、子供がその遺伝子を受け継いでいたら、という漠然とした不安もある。果たしておれは子供を欲しいのか欲しくないのか、釈然としないまま次の読影に取り掛かろうとした矢先に仕事用の電話が鳴った。

「はい、コバヤシです」
「桜ヶ丘病院の放射線科ですが、緊急読影をお願いします。第二CTの五番目の患者さんです」

 タクミは自宅のパソコンに病院から画像データを送ってもらい、CRT上で診断して報告書をファックスで送り返すという仕事で生計を立てている。病院に勤めているわけでも開業しているわけでもない、医者には珍しい在宅勤務で、はやりの言葉で言えばSOHOということになる。通勤の必要がなく、比較的自由に時間を使える反面、急ぎの仕事があればどこにいても呼び出されるのがちょっと難だった。へいへい今すぐいたしますよ、通信用のソフトを立ち上げ、ISDN経由で病院のコンピューターにアクセスし、今日の日付がついたフォルダにある五番目のファイルをダウンロードしはじめる。六〇〇キロバイトか。ファイルサイズが比較的小さいので頭部の単純CTだろうと見当がつく。ダウンロードがすむまでの間に読みかけのMRIのレポートを仕上げてしまおう。

「みぎふぞくきりょういきにけいやくごせんちてんたんぼうせいののうしゅがみられてんてぃーわんきょうちょうがぞうにてこうしんごうをしめしている」

 ヘッドホン一体型のマイクに向かって呪文のような言葉を吹きこむと、音声認識ソフトがワンテンポ遅れて文字列に変換していく。

『右付属器領域に径約五センチ、単房性の嚢腫が見られ、T1強調画像にて高信号を示している』

 婦人科からオーダーされた三十四才女性、骨盤のMRIを読み終えたところでいったん音声認識を中断し、次のレコードの入力に切り替える。

「認識停止」

 音声入力ソフトが休眠状態に入った。ここまでは報告書作成用のデスクトップマシンの作業だ。診断用の画像表示はもう1台のコンピュータが担当している。マウスを持ち替え、取り込みの終わったファイルを開く。圧縮されていたCTの画像がメモリ上に展開され、二台並んだ十七インチモニタにきちんと整列する。画像を見る前に、まずはどういう患者で何を疑って検査がオーダーされたのか、臨床医が依頼票に書きこんだ情報をチェックしなくてはならない。

「えーなになに、『実姉が脳卒中で亡くなっているので念のため検査を希望されています。明日外来を受診する予定なのでレポートを急送してください』、んだとぉ?」

 いったいどこが緊急なんだ、ぶつぶつ呟きながら画面を眺め回す。おまけに何の異常もないと来たもんだ。正常パターンの書式はあらかじめ用意してある。クリックひとつで報告書が仕上がり、送信されていく。FAXモデムの動作音を聞きながらタクミはまだ腹の虫がおさまらない様子だった。

「……ったく、今晩中にレポートを送って欲しいんだったらそう書いておけば済むっての。何も今すぐ大急ぎで報告する必要なんかないじゃないか、電話代のムダだし仕事のリズムが乱れるしさあ、だいたい」

 はっと自分の独語に気づいてタクミは軽いショックを受けた。もともと人づきあいが悪い上に電話嫌いと来ているので、へたをするとレイが帰ってくるまで一日中誰ともひとことも言葉を交わさずにパソコンと向き合っている、そんな生活を続けているとついついひとりごとが多くなるのだった。前より怒りっぽくなったような気もするぞ。いかんなあ、左手を伸ばしてCDラックから緑色のラベルを貼った自作CDを取り出し、パソコンのドライブにセットする。CD-ROMライターを使って好みのBGM集を作成してあるのだった。緑は心を静めたいとき、青は憂鬱なとき、赤は眠気を覚ましたいとき。ランダムに再生されるようにしたので、何が最初に掛かるかはお楽しみだ。

「認識再開」

 ヘッドセットを掛けなおすとスピーカーからエンヤのピアノ曲が流れはじめた。

*   *

 自分がほんとうに子供を欲しがっているのかどうか、中絶する理由も勇気もないのだからそんなことをあれこれ悩んでも仕方がないのだが、基本的に優柔不断なタクミがぐずぐずと考えあぐねているうちに、そんな躊躇を吹き飛ばすような事実が発覚した。

「じゃーん。ちょっとしたビッグニュースよ」

 初めての検診に付き添って行った大学病院の産科外来で、診察室から出てくるなりレイはのたもうたのだった。

「なんだいその、ちょっとしたビッグニュースってのは」
「珍しくはないけど私たちにとっては大事ってこと。あのね、ふたごだったの」

 双子! 初めての妊娠でふたごかい、まさにダブルパンチってやつだね、などと駄洒落を飛ばそうにも声にならず、タクミの脳裏にはロムルスとレムス、カストルとポルックス、ルルとミミ、ルネとルッキオ、キキとララ、それからほらなんだっけ、「シャイニング」に出てきた女の子たち、あるいはユーシーとユージー(シュラとマリア?)、とにかく古今東西の双子の事例がめまぐるしく浮かんでは消えた。

「あらそんなにショックだった? でもね、心配ないって。あたしの身長と骨盤の大きさならまず問題なく育つだろうって先生が」

 ああなるほど。そうかスペースの問題なのか、タクミはあらためて身長一八〇センチ超、タクミより頭ひとつぶんは優に高いレイの姿をてっぺんからつま先まで眺め渡した。おっぱいだって最低ふたつはあるもんな。

「うん。まあ、めでたい限りだよね。生まれてからが大変だろうけど、そんなことはこれからゆっくり考えればいいか」
「そうそうそ、そういうこと」

 ゆっくりどころかこの先ずっと考え続けるはめになろうなどとは、この時レイもタクミも想像だにしなかった。

*   *

 忘年会のシーズンだというのに通称うわばみ・底なし・ざるを通り越して「枠」呼ばわりされているレイが一滴も酒を呑まないとあって、医局員や病棟のスタッフにはあっという間に妊娠の事実が知れ渡ってしまった。男たちの反応は驚き先行型だった。「へえー、あの麻生女史が妊娠?(そうか、やるこたぁやってたんだ、なんて言うとセクハラになるから言わないけどさ)」というのから「え、麻生先生って結婚してたんですか(そんなのひとことも言ってなかったじゃないか、ちくしょう今夜はやけ酒だぁ)」というのまで。女たちの反応は暖かな祝福というのがほとんどだったが、若い看護婦や研修医の中には失望に似た感情を味わったものもいたようだ(えーっ、あこがれのレイ様がママになってしまうのね、がーんショックだわ)。職場の連中に対する告知はそんなこんなで済んだが、問題は肉親である。レイの妹は大学を出て早々に結婚し、すでに3人の子持ちなので彼女の両親はそうそう騒ぎ立てることもなさそうだったが、一人っ子のタクミの両親にとっては待望の初孫しかもダブルヘッダー、万一つわりがひどいなどとこぼそうものならこちらが夫婦そろって医者だろうが何だろうがお構いなし、通信販売で仕入れたり民間伝承に則って自ら調合した薬を山ほど抱えて横須賀からすっ飛んで来そうな気配なのにはいささか閉口した。

 つわりといってもいつもの旺盛な食欲が落ちることはほとんどなく、ただやたらと眠くなるのにレイは閉口した。医局会や診断カンファレンスといった集まりで部屋が暗くなりスライドの映写が始まろうものなら条件反射的にすぐさま眠りこけてしまう。もともと居眠りはお手のもので、傍から見るかぎり目をつぶって何やら熟考している風を装いつつ実のところはいびきもかかず舟も漕がずに熟睡するのは得意中の得意だったが、困ったのは学会の座長である。大学のティーチングスタッフともなると学会参加のdutyが多くて断りきれず、やりたくもない司会を頼まれることが多々ある。今日もいやいや新宿くんだりまで出かけて壇上にしつらえられた座長席に座っているのだった。一生懸命準備してきた発表者には悪いと思ったが、どこかで見聞きしたようなありきたりの演題が続くとどうしようもなく眠くなって仕方がない。似たり寄ったりの発表が二題続いていたのでディスカッションは後でまとめて行うことにいたしますとアナウンスしたところまではよかったのだが、二題めの演者を紹介し発表が始まったところでつい気がゆるんでしまったらしい。はっと気がつくと会場がすっかり明るくなっていて、発表を終わった若いドクターが困り果てた表情でちらちらとこちらを見ている。「いけない!」何か言わなくてはと思うのだがとっさに言葉が出てこない。だいたいこの発表者はオザワ先生だったかしら、それともオオサワだったかしらと慌ててプログラムを開こうとしたとき、会場から聞きなれた声が響いてきた。

「アイネットのコバヤシです。まずオクザワ先生にお聞きしたいのですが、FLAIR法による描出能についてご経験があれば教えて頂けますか?」

 タクミの声だった。若いドクターはようやくほっと落ち着いて説明を始めた。どうやらあらかじめ想定してあった質問で、答は手に持った原稿の末尾に書いてあるらしかった。

「サンキュー、ほんと助かったわ」

 プログラムの前半を終え休憩に入った会場ロビーでタクミを見つけたレイは急いで駆け寄り礼を言った。

「いやぁ、けさ家を出るときからひどく眠そうだったからさ、なにかミスしやしないかと心配で来ちゃったんだよね」
「なんだか娘の発表会をこっそり覗きに来た父親みたいね。でもよかった。あぶなく大恥かくところだったね。なんだかさ、意識が半分あっちに飛んじゃってなかなか戻って来れなかった感じ。……仕事残ってるんでしょう?」
「うん、夕方までにFAXしてくれっていうのがあるから、これで帰るわ。今夜は湯豆腐だからね」
「うん、楽しみにしてる、じゃあ」

 夕飯の仕度は家にいる時間が圧倒的に多いタクミの仕事なのだった。

(またあんな格好で来て)

 インターネット通販で手に入れた旧東ドイツ空軍払い下げの濃いモスグリーンのジャケットにくたびれたジーンズという、およそ医者らしからぬ姿で会場から遠ざかるタクミを見送りながらレイは安堵とあきれたのと半々のため息をついた。まあいつもの作務衣に下駄ばきで来るよりはましよね。

*   *

 その年はしし座流星群が数十年に一度のピークを迎えるというので何週間も前からマスコミが大々的に取り上げていた。いよいよ地球が流星雨に突入するという晩、夜中の2時にタクミはむっくりとベッドから身を起こした。掛けておいた目覚しは直前にボタンを押したので鳴らずじまいだった。大事なことがあれば何時でも望みの時間に起きられるのはタクミの特技なのだった。一度眠り込んだらめったなことでは目を覚まさないレイはシムスの体位で熟睡していた。通りには世紀末の天文ショーを鑑賞せんとする人々が三々五々連れ立って歩いていた。高校生ぐらいの若者たちにまじって老夫婦がゆっくりと歩いているのが微笑ましい。みんなどことなくうきうきとした足取りだ。
 河原には花火大会でもあるのかというぐらいの人が出て夜空の一角を眺めていた。皆と同じ方向に頭を向けてぼんやりとしばらく眺めていると、わっと歓声が上がり、何人かが右手の頭上を指差した。

「見えましたか」
「いえ、今のは見逃しちゃいました」
 タクミの近くで若い女性と中年男性が言葉を交わした。
「あのあたりから出てきて、三六〇度ぐるっと全方向に飛ぶらしいですよ。だからあんまり一点を見つめないでぼやっと眺めてた方がいいようだ」
「そうなんですか。もうずいぶんご覧になりました?」
「二時間で二十五個数えましたよ。三十個見たら寝に戻ろうと思ってるんですけどね」

 ついっと今度は左手に落ちたのをタクミも確認することができた。流れ星を見るなんてほんとに久しぶりだ。医学生時代に東北の無医村にボランティア活動で出かけたとき以来じゃないかしら。よく晴れた夏の夜、訪問先の家庭から活動拠点の小学校まで戻る途中だった。街灯の一本もない道で、見上げると文字どおり降るような星空だった。ペアを組んでいた看護学生とキスしたのはその後だったろうか…

 突然、空全体がフラッシュを焚いたみたいにぱっと明るくなり、どよめきが起こった。何が起こったか理解できないまま、興奮ぎみの若者たちが指差す方向を振り仰ぐと、奇妙な文字のような光の線が空に刻まれていた。照明弾のような感じだが落ちてくる気配はなく、ゆっくりと風に流されながら形を変え、やがて消えてしまった。

 流星痕という聞き慣れない名前をその朝届いた新聞で知った。比較的大きな流星が大気圏を通過する際の摩擦熱で大気がプラズマ化して発光するらしい。流星の署名、というか遺言状みたいなものだろうか。そうだ、生まれてくるこどもが大きくなったら今夜見た流星痕の話をしてやろう…

 流星雨流星痕を書きなぐる

 句帖がわりのデータベースソフトに入力しておいた。タクミはパソコン通信仲間で作った俳句の同人誌に参加している。機会があればどこかの句会に出してみるつもりだった。句会といっても出不精のタクミはもっぱらパソコン通信上で行われるオンライン句会に投句することの方が多いのだったが。

*   *

「ほら、まだ安定期には間があるし、電車も飛行機も混むでしょう。お父さんも疲れてるんじゃない……ああそりゃそうだけど、いいじゃない、たまには二人で水いらずの正月だって…うん、大丈夫。タクミさんがやってくれるから。うん、それじゃね」

 受話器を置いてレイはほわーっと思いきり大きなため息をついた。

「まったくうちの母親にもまいるよねえ。クリスマスにオーストラリアとニュージーランドをはしごしてきたっていうのに、正月はこっちに来るっていうのよ。孫がマゴが、って言ったって、まだ影も形もないのに」
「お義母さんらしいね。相変わらず元気だねえ」

 レイよりはだいぶ背が低いものの、幅はゆうに2倍、体積ならタクミの3倍はありそうなレイの母親が、その巨体とよく響く大声をひっさげてこの狭い家にやってきたら、正月休みどころではなくなってしまう。折り合いが悪いというのではないが、タクミはレイの両親と会うのが苦手だった。(女房の親と会うのが楽しみなんて男がこの世にいてたまるかい)義父は学者肌のもの静かな紳士で、七十才を過ぎた今でもいくつもの医学部の名誉教授として講義をこなし、学会とあれば世界中のどこにでも出かけていく。レイと対等に渡り合えるほどの酒豪であり、酔うほどに加速度的に冴えわたる弁舌の持ち主でもある。タクミは常々言うのだった。

「ぼくは思うんだけど、あなたのお父さんって人はさ、普段は極端に無口だけどあれは決して口下手だからとか話すのが嫌いだからとかいうんじゃないね。ほんとうはいろんなことを話したいんだよ、でも頭の回転が速すぎて舌がそれについていかないんだ」
「そうかなあ」
 タクミはソファに並んで腰を下ろしたレイの腹部をちらっとのぞき込んだ。
「まだあんまり目立たないね。…酒が入るとあれだけ舌が回るようになるのはさ、頭の回転が少しペースダウンして、逆に舌が回るようになり、つまりはギアがうまく噛み合うからなんじゃないのかな」

 ふだんの料理は大半をタクミが作るのだが、おせち料理だけは私が作るとレイが言い張って、やや手抜きながらもいちおうは伝統的なおせちが出来上ったのは大晦日の夜だった。タクミがテレビ嫌いなので紅白を眺めるということもなく、早めに年越しそばを食べてしまうとやることがなくなってしまった。

「靜かだね」
 ふだんはほとんど気づかない近所のお寺の鐘の音がずいぶん大きく聞こえる。
「うん」
「カードゲームでもやる?」

 タクミはあまりいい顔をしない。コンピュータゲームはともかくとして、ポーカー花札麻雀の類はほとんど心得がないのだった。レイの博才は、ふたりがまだ病院に勤めていたころの医局旅行で目の当たりにしている。「あ、そうだ」さっと席を立ったレイは自分の部屋から何か平たい紙箱を出してきた。「キミこういうの好きでしょ」

 ぽんとこたつの上に置かれたのは1000ピースのジグソーパズル。クリムトの「接吻」だった。

「へえ、どうしたの、これ」
「カタログ通販。看護婦さんと覗いてたら欲しくなって、つい注文しちゃった。好きなんだ、この絵」
「そりゃぼくも嫌いじゃないけどさ、どうすんの、こんなに大きいと大変だぜ。場所ふさぎだし、埃になるし」
「大丈夫、ちゃんとプラスチックのカバーのついた枠も買ってあるのよん。正月休みを利用してだね、一気にかたづけてしまおうという壮大な計画なのだよ、コバヤシくん」

 そんな暇なんてあるものか、とタクミは思ったのだが、直線を含むピースを選り分けて外枠を完成するころにはすっかり作業に没頭していた。

「あたしは顔担当ね」
「えーそれって一番楽なところじゃん」
「妊婦は胎児に血を取られてあんまり頭が回らないから、難しいところはやっちゃいけないのよ」

 なんだかなあ…髪と肌の色を手がかりにしてレイがピースを選り分けはじめたので、仕方なくタクミは絵の一番下に描かれた色とりどりの花が咲き乱れる花畑とおぼしきあたりを担当することにした。青、黄、赤、ピンクそして緑…背景の基調が金なのでピースを選り分けるのは簡単だったが、いざ組み立てはじめるとこれが大変、当たり前の話だが花なんてどれも似たりよったりで特徴がないのだ。スタジアムを埋め尽くした大観衆のジグソーパズルなんてものがあったとしても、これよりはまだましなんじゃなかろうか。

「こりゃ大変だよ」
「へっへーん、あたしなんてもう女の子の顔が完成しそうだもん」
「こんな難しいのはエッシャーの版画以来だな」タクミはぶつぶつ呟いている。除夜の鐘は後半に入って撞き手が変わったようで、いくぶんテンポが速くなった。
「エッシャーのどんな絵?」
「タイトルは忘れちゃったけど、上とか下っていう概念を取っ払ったような世界でさ、上下前後左右の6方向に重力のベクトルが向いてるの。階段の裏側を降りてくる人物とか壁を横向きに歩いてる人物とか、おまけにモノクロで色が手がかりにならないし」
「はーそれは難しそうね。あ、女の子の唇完成っと。で、どうしたの、そのジグソーパズル」
「挫折してお蔵入り」

 画像診断医に必要な能力はおおざっぱにいうとふたつあり、それぞれ男性と女性が先天的に秀でた能力なのだという論文を読んだことがあった。男性が得意なのは2次元の画像をもとに頭の中で立体的なモデルを組み上げる、いわゆる3Dの画像再構成。狩猟のために地形を把握する必要から発達したのだと言う。それに対して女性が得意なのは、2枚の絵を並べてその異同を検討する、いわば間違い探し。家の中でこまごまとした物品を管理していくうちに培われたものなのだそうだ。だから、とその論文では結論づけていた:男性も女性もともに画像診断には向いているのだ、と。自分の脳はかなり女性的だとタクミは思ってきた。立体的な関係を把握するのは苦手だけど、間違い探しは得意なんだ。大きめの花を2,3個完成させた時点でタクミは方法論を変えることにした。よく似たピース同志のつながりをあれこれ模索するのはやめにして、絵柄が特徴的なピースを選び出しては、そのピースがはまるべき位置を、ジグソーパズルの箱に印刷された絵を頼りに探すことにしたのだ。いわば相対座標から絶対座標への切り替えだ。この青い花の花びらの形とピースの端にほんの少し見えている金色の線……ほら、これだ、ひざ立ちになっている女の足元。
 とある文化人類学者の言によれば、完全な右利きや完全な左利きは存在しないらしい。ボールを投げる、箸を持つ、ひもを結ぶ、ベルトを締める、こういった日常動作のひとつひとつについて利き手を調べていくと、自分はまったくの右利きで左手はろくに使えないと主張する人でも実際には何かしら左利きの動作をしているものなのだという。タクミはもともと生まれつき右利きだが、左手もわりと器用な方なので左右の脳の発達のバランスが取れた両手利きなのだと自称していた。レイに言わせればそれはバランスが良いのではなく未分化なのに過ぎないと言うのだが……今、タクミはジグソーパズルのピースを無意識のうちに左手に持ってはめ込んでいることに気づいた。なんだかこの方が能率がいいような気がするのだ。パターン認識をつかさどる右脳が左手をコントロールしているせいなのだろうか、そんなことを考えながらタクミは次々とピースをはめ込んでいった。

 翌朝はすなわち元旦だったがふたりが起き出したのは昼近かった。

「ふわぁねむ…君ったら徹夜でやってたの? 相変わらずこういうことになると気合が入るねえ」

 いちばん簡単そうな部分−−接吻する恋人たちの頭部〜をさっさと仕上げてレイは先に寝てしまったのだが、そのあとタクミはせっせと作業を進めて、ふたりが立っている/跪いている花畑、画面の一番下の部分を完成させたのだった。

「いやそれが、ここのところだけ見つからないんだよね。何回も探したんだけど」

 タクミが指差したのはパズルの左下隅に近いあたりで、一ピースだけぽっかりと欠けている。

「その辺に落ちてないかしらね」

 レイは今まで自分が横になっていたあたりをまさぐったり、こたつ布団を持ち上げたりしている。

「まあ落としたんだとしても、この部屋から外に出ることはないから、そのうち見つかるでしょ」

 しかし結局ピースは見つからず、製造会社に注文することになったため、パズルが完成したのは一月も半ばのことだった。

*   *

 二月に青森で開かれた画像医学研究会にレイは出席した。妊娠とわかる前に演題を出していたせいもあるが、安定期に入ったのを利用して学会会場近くの温泉で息抜きしようとタクミが提案したのだった。医者の学会というのは地方ではたいがい観光地のそばで開催される。観光目当てで参加する医者の数を増やそうという主催者側の魂胆なのだろう。日本だけかと思ったらそういうわけでもないらしく、タクミがいちおう正会員になっているマイナーな国際学会はというとニューオーリンズにハワイ、ラスベガスと世界中のおのぼりさんを集めそうな場所でばかり開かれているのだった。

 レイの発表は初日だった。自分の発表を無事に済ませ、めぼしい口演を聴き展示を眺め終わってみるとさて、タクミが到着する予定時刻まではまだだいぶ間があった。今晩泊まる予定の宿はいくぶん山奥に入ったところだが、地図を見るとその手前にも温泉がいくつかあって、宿泊客でなくても入浴できるようだった。観光案内のパンフレットの写真につられて、ふらっとバスを途中下車したレイがフロントでたずねると入浴時間まではまだ少し間があったので、ロビーのソファに腰掛けて時間をつぶすことにする。背もたれに体を預けるとさすがにお腹が目立つが、なに構うものか、頭のうしろに腕を組んで思いきり背伸びしてみる。床から天井まで一枚ガラスの向こうには小さな石庭がしつらえてあってさらさらと水が流れている。

「入浴お待ちのお客様、掃除終わりましたのでどうぞ、こちらです」

 フロントでもらった入浴券、といってもただの赤い紙片にスタンプを押しただけのものを入り口で渡し、引き換えにタオルをもらって脱衣場に入る。午後の早い時間とあって先客は誰もいないようだった。これなら大きなお腹を見咎められずにすむ。(たいがいの温泉の注意書きには妊娠初期と末期には入浴を控えるよう注意書きが貼ってあるものだ)

「うひゃあ、生き返るなあ」

 透明な湯に体を沈めると思わずオヤジくさい嘆声が漏れてしまう。露天風呂は真新しく、近頃のはやりに従った女性専用で、霧のかかった谷川からうっすらと雪をまとった遠くの山までが墨絵さながらに見渡せた。外気温が低く、湯船との温度差が大きいためか風呂の表面には湯気が白い幕を張っており、それが風に吹かれてさっと晴れたかと思うとまた渦を巻いて押し寄せる。まるで霧の立ち込めた野原か海を見下ろしているようで、レイはなぜか戦場を思い浮かべた。鼻まで湯につかりながらそろそろとネス湖の恐竜よろしく進んでいくと、風呂場に配置された巨石が岩山のように見える。タクミならきっとソラリスの海を連想することだろう。

 露天風呂から上がって髪を洗っている間じゅう、おなかの左側がひくひく動いていた。(ははあ、ぼくちゃんだな)よく動くほうが男の子でおとなしいのが女の子と勝手に決め込んでいた。母親がお風呂に入ると胎児も気持ちいいのかしら、そうよね、そうそういつもいつもぬるま湯ばかりにつかってられないよねえ。

 仕事を終えたタクミが合流したのは夕食の仕度が始まろうかという時分だった。大急ぎで一風呂浴びて部屋に戻るとすっかり準備が整っていた。

「お疲れ様、ささどうぞ」

 浴衣に着替えたレイがよく冷えたビールを差し出した。Lサイズのを出してもらったのだがやはり袖が短い。グラスに半分ほど注いだところで交代する。

「じゃあちょっとだけ」
「乾杯!」

 ちょっとだけなどと言いながら大半を飲み干したのはレイだったが、さすがに2本目を開けることはなく、料理を平らげはじめる。山菜のてんぷら、土地の漬物、ちょっと変わったところで猪豚の鍋仕立て、鯉の洗いに鯉こく…

「鯉は妊婦にいいらしいよ、とくにお乳の出が悪いときに食べると効果てきめんなんだってさ、まああなたにはそんな必要なさそうだけど」

 タクミはビールふた口ほどですっかり多弁になっている。最後のせりふは日毎にますます豊かになるレイの胸を覗き込みながら言ったのだった。

 ふたりともテレビが嫌いなので風呂に入ってしまうとあまりすることもなく、互いにマッサージしあおうということになった。レイはマウスショルダーに悩まされるタクミの肩を、タクミはむくみが出るには早いにしても今から慣れておくにこしたことはないレイの足を、互いに叩いたり押したりしているうちになんとなくそれが愛撫に変わりセックスへと発展した。

「お腹に体重かけないでね」
「わかってるさ」

 わかってはいるが腕立て伏せの体勢を続けるのはきつい。もうちょっと体を鍛えないといけないかな。でもそのうち正常位なんてできなくなるだろう・妊娠中のおすすめ体位を調べておいた方がいいかしらん。学会発表と温泉のはしごが効いたのか、終わってすぐにすうすうと寝息を立て始めたレイの髪を撫でながらタクミは考えていた。

*   *

 なんだかこの子たちには検診のたびにびっくりさせられるなあ、超音波診断装置の前で頭を抱えてしまった担当医を眺めながらレイは思った。

「身体はふたつある。一方は男児、ここまでは間違いのないところなんです」
「はあ」
「もう一方はたぶん女児。これも9割がた信頼してくだすって結構です。でも肝心の頭が!」
「ないわけじゃないんでしょう?」

 皮肉や冗談のつもりではなくて、これはレイのいわゆる天然ボケなのだが、どちらにしてもモリタ医師はさらさら注意を払う様子がない。超音波検査の間に撮りまくった写真…サーマルプリンタで感熱紙に記録した白黒の画像…を診察机いっぱいに並べたまま、さっきから彼はレイの言うことなんかひとっことも聞いていなかった。パジャマ代わりにしていたらしいグリーンの検査着の突き出た腹にスパゲティミートソースの染みができているのを目ざとく見つけながら、あの染みはいったい何日前のものだろうかとレイは自問した。無精ひげの伸び具合から見るかぎりこのドクター、三日はお風呂に入ってないわね。でも検査着の汚れ具合ときたら軽く一週間ものだわ。でも職員食堂のメニューにはここしばらくミートソースの姿は見かけないし、とすると…

 ぶるぶるっとレイが身を震わせたのにも気づかずにモリタ医師はしゃべり続けていた。

「うんと近くに並んでいるふたつの頭があたかもひとつみたいに見える、そんなことなら考えられんでもないんです」
「シャム双生児の可能性がある、ということですか」恐る恐るレイがたずねてもモリタ医師は自問自答するばかり。
「でも超音波画像は基本的に断面を見ているわけだから、いや、それよりなにより、一体全体これは何なんだ?」

 頭を掻きむしった拍子にぱらぱらっとふけが落ちる。ふけの積もってなさそうな写真を一枚、爪の端でつまみあげてレイは覗きこんだ。画面には丸いものが三つ見分けられた。どれも同じ大きさのその円は胎児の頭…というか、頭蓋骨の輪郭を表しているはずだった。画面中央にくっきりと描かれた円は胎児の頭がひとつしかないことを意味している。しかし、画面の両端にはもうふたつ、似たような円が描かれているのだ。そしてよく見るとこれら三つの円の中間にも幽霊のような無数の円が続いている。なるほどこれじゃあ胎児の頭がいくつあるのか数えられないわ。まさか三つということはないでしょうけど(キングギドラじゃないんだから)、ひとつのようでもふたつのようでもある。

「フレームメモリがおかしいんじゃありません?」

 自信なさげに発したレイの言葉に、ようやくモリタ医師は顔を上げた。

「フレーム?」
「ええと、簡単に言えば二重写しになっているんじゃないかってことなんですけど」
「あなたの検査に入るまでこの機械は順調に動いていました。それに、胎児のほかの部分を診ている時にはこんな絵にはならないんですよ」
「じゃあこの子たち、ものすごい勢いで頭を揺すってるんですわ。ほら、「もののけ姫」に出てきた森の精みたいに」
「はあ?」

 あんぐりと口を開けたモリタ医師の目の前でコダマの真似をして見せながら、レイは立ち上がった。

「男の子と女の子、ふたりいるのは確かですよ。けとばし方が全然違いますから。写真、一枚頂いていきますね」

閉まったドアに貼ってあった製薬会社のカレンダーを一瞬ぽかんと眺めていたモリタ医師は再び猛然と頭を掻きむしり、爪の間にたまったふけをほじくりながら、なおも散乱する写真を見つめていた。

*   *

「それ、若い女の子?」

 産科検診から戻ってきたレイが鼻歌まじりの読影の手を休め、入局一年目のホリゴメ医師に突然声を掛けた。彼がモニターしていたCRTには頭部の単純CTが映っている。

「当たりです。二十才の女性、でもどうして……」

 言い終わらないうちにレイはもうずかずかと大股でCT室を横断していた。コンソールの脇に載っていた検査依頼票を覗き込む。

「造影しますか?」

 その体型からトドとあだ名されているトウドウ技師が見かけによらず軽快なお尻を浮かしかけたが、それには答えず手早く全部の画像を見終わったレイは「その必要はないわ。終わりにしてください」と宣言した。

「頭部外傷ってことでしたけど、何かありましたっけ?」ホリゴメ医師が自信なさげに尋ねる。
「ううん、何も。頭の中にはね。でもちょっとおかしいと思わない」
「何がです?」

 今度は詮索好きな看護婦のムラマツさんが首を突っ込む。巨体のトウドウ技師、長身のレイそしてグラマラスなムラマツさんに囲まれるとただでさえ細くて頼りないホリゴメ医師は消え入りそうに見える。

「見たところぴんしゃんしてる、はたちの女の子がよ、自分の家の階段から足を踏み外して落ちるなんて妙だと思わない?」
「酔ってたか寝ぼけてたんじゃないの? あたしなんかしょっちゅう酔っ払ってトイレのドアに頭をぶつけてるけど」
「でも救急外来に運び込まれたりはしないでしょう?」
「そりゃまあ……」

 患者にカルテを渡すためドアを開けたムラマツさんの後を追ってレイもCT室の外に出た。

「タカギさん、お疲れさま。CTを見たかぎりでは心配なさそうなんだけど、三十秒で済むからちょっとだけ診察させてくれる? そこに腰掛けて」

 患者はかすかな苛立ちの色を見せたが、レイが先にどっかりと廊下の長椅子に腰を下ろしてしまったので仕方なく端っこにちょこんと腰掛けた。漂白されたような白っぽい茶髪が頭に巻いた包帯から四方に飛び出している。レイは患者の脈を取り、まぶたを押し下げ、瞳孔を覗き込んだ。

「はいどうもありがとう、あ、最後にちょっと『イーッ』てしてみせてくれる?」

 大ぶりな前歯をむき出してみせるレイにつられて女の子は唇の端を引き上げ、前歯の先がほんの少しだけのぞいた。カルテを手渡され、行き先の説明を受けた女の子がエスカレーターに姿を消すが早いかムラマツさんがレイを振り向いた。

「先生でも診察することがあるんですね。脈なんか取っちゃって、なんだかお医者さんみたい」
「えーと、あたしもいちおう医者なんだけどな。でも脈なんか取ってないの、ほんとうは。手と歯を見ておきたかっただけなんだ」
「は?」
「そう、歯。たぶんあの娘、拒食症よ」

 あっと主治医に電話しなくっちゃ、と言い捨ててCT室に駆け込んだレイと行き違いになったホリゴメ医師はムラマツさんと顔を見合わせ、それからふたりとも同時に首を傾げた。

*   *

「おめでたなのね?」

 帰宅途上のシーサイドライン、タイヤ履きで高架を走るバスとも電車ともつかない乗り物でレイの隣に座った話好きそうなおばあちゃんが尋ねてきた。

「ええ、予定日は7月のはじめで、はじめてのお産なんですけど、ふたごなんです」

 用意してある模範解答でさらっと受け流そうとするが、おばあちゃんは俄然勢いづいて身を乗り出して来る。

「まーふたご! 初産がふたごじゃ大変ねえ。でもその割にはお腹がそんなに目立たないわね」
「お医者はふたごとしてはごく普通の大きさだっておっしゃるんです。でもわたし、こんな体格ですから」

 おばあちゃんの頭はレイの肩より下にある。立ち上がったら胸より下に来るだろう。

「そうだねえ、言われてみれば」と、じろじろ見回しながら「あんたハーフかい、それともバレーボールの選手か何かやってたの?」
「ええ、よくわかりますねえ。結婚退職するまでは。実業団リーグですけど」

 レイが口からでまかせを言うとおばあちゃんはしきりにうなずいてみせる。

「そうだよねえ、あたしもてっきりそうじゃないかと思ってたんだ。実は孫が高校でバレーボールやってんのさ、チャッカーっての? ボールを打ちやすいところに投げてやるんだとさ」
「はあ、そうなんですか。あれは大変なんですよね」チャッカーって何だろうと考えながら適当にあいづちを打つ。
「そうなんだってさ。ああ、あたしゃここで降りるんだった。あんた、ふたごなんて大変だけどがんばんな。一度に済ましちまえばあとは楽だよ」
「そうですよねえ。ありがとうございます。がんばります」

 にこにこと手を振りながら自分も降りる駅だったと気がついたのは、おばあちゃんの姿が階段に消えた後だった。

*   *

「ただいま」

 おかえり、と言っているらしいくぐもった声が仕事場のドアの向こうから聞こえて来る。

「またこんな寒い部屋で仕事してたの?」
「うう、ガスファンヒーターは空気が汚れて頭が痛くなるし、電気ストーブは空気が乾燥して喉が痛くなる。暖房は電気毛布が一番さ。手がかじかんじゃうけどね」
「ばかねえ、こんなに冷えちゃって。ひゃあ」

 タクミがレイの手をふりほどいて腰に手を回し、おなかを引き寄せたのだった。

「赤ちゃんの鼻がつぶれちゃったらどうすんの」
「大丈夫、あなたの子供なら鼻はもともと高くない」
「ひどいなあ」
「つぶれるで思い出したけど、むかし超音波を教わりに行っていた病院でね、若い初産婦をみたんだけど、彼女、看護婦さんにおしっこを溜めておいてくださいって言われたのを忠実に守って、ぎりぎりまで我慢したんだ」
「えっ、ひょっとして検査の途中で漏らしちゃったとか」
「いや、漏らしはしなかったんだけどさ」

 タクミはおかしくてたまらないという思い出し笑いに頬をぴくつかせながら

「ぱんぱんにふくらんだ膀胱と仙骨の間に胎児が挟まれてさ、大の字になって手足をぱたぱたさせてんの。助けてくれーってさ」

 タクミは椅子の背に背中を押し付けて両手をばたばたさせてみせた。お世辞にもかわいいとは言いかねるが確かにこっけいな格好ではある。

「ところで検査はどうだった?」

 椅子から身を乗り出し、ふくらんだレイの下腹部に頬をつける。

「おおむね順調。赤ちゃんの頭がぶれているのをのぞけばね」

 食後のお茶を飲みながらタクミはレイが持ち帰った超音波の写真を検討した。

「……たしかに妙な写真だね。頭がいくつもある、というか、ひとつだけの状態とふたつある状態の間を揺れ動いているみたい、そう、揺れている振り子のストロボ写真にちょっと似てるかな。両端にある時はスピードが遅いからはっきり写っていて、その中間ではぼんやりと写っている。でも、真中の頭も両端に負けず劣らずはっきり写っているから、振り子運動をしているわけでもない、と。まるで分身の術を使ってるみたいだな。どの写真もみんなこうだったの?」

 レイは無言で頷く。

「とするとこれはあれですよ、マクロスコピックな量子状態があなたの胎内で起きているんだ。ひとつでもなく、ふたつでもなく、そのどちらとも決定不能な状態。げに女の胎とは恐ろしきかな。小宇宙とはよく言ったもんだ」
「何言ってるんだかこの人は」
「とにかくあなたは気にしてないんでしょ」
「うん、全然」
「ならいいさ。世の中少しはミステリアスでなくっちゃ」

 タクミがトポロジーに興味を抱いたのは中学の時だった。一筆書きに関するオイラーの定理とか、四色問題とかそういった話題を扱った学生向けの本……たぶん講談社のブルーバックスか何かを読んだのがきっかけだった。図形を構成する線をいくらでも伸ばしたり縮めたりできるゴム紐みたいなものと考えてごらんなさい、そんなふうに本には書かれていたものだ。例えばアルファベット。CとIとLとMとNとSとUとVとWとZ(セリフのない字体で考えてくださいね)、これらはすべて引き伸ばせば1本のまっすぐな線になる。DとO、AとRは相互に移行することができる。そしてJとTとYだけでなく、EもFもGも同じグループに所属してしまうというのだ。立体はゴムの膜でできていると考えればいい。
 医学部に入って解剖を学び始めた時、タクミはふたたび人間の身体をトポロジカルに単純化するという考えに取りつかれた。例えば、口から食道までがひとつながりの管にすぎないとしたら、人間の身体なんてつまりは一本のチューブに過ぎないではないか? しかし人間の身体の内部には外界とは交通のない閉ざされた空間が存在している。ならば人間の身体は浮き輪のようなドーナツ状の構造、トーラスと呼ばれるようなものに頭と手足をくっつけただけなのだろうか? いや、体腔と呼ばれる閉ざされた空間は、さらに横隔膜によってふたつのコンパートメントに分けられている。口に近い方が胸腔、肛門に近い方が腹腔で、前者には肺と心臓が、後者には消化器や泌尿生殖器が含まれている。それなら人間の身体は最近の子供用浮き輪みたいに二段構造になっているわけだ。多少複雑になっても所詮は浮き輪なのさ。

 女性の身体が膣という名の外界に開かれた通路、浮き輪のアナロジーに固執するならば空気を注入する吹き込み口に相当する部分を有していることを知った時、タクミは強烈なショックを受けた。男と女の身体の違いは表面の多少の凹凸なんかじゃなかったのだ。開かれた体腔を持つか、閉ざされた体腔を持つかの違い…これは外性器の見かけなんか比べ物にならない根本的な差違ではないだろうか。X染色体とY染色体のトポロジカルな差異さえ、この違いの前ではかすんでしまう。

 膣〜外子宮口〜子宮頚管〜子宮内膜腔〜卵管。これだけの経路を介して女の腹腔は外界と通じている(より正確に言うなら、排卵日以外は子宮頚管の粘液栓が文字通りこの通路に栓をしているのだが)。妊娠というのはこの経路が子宮のところで絶たれて、子宮の中に他のどことも通じていない別世界が生じることだ。でも、とタクミは考える。ふたつの世界を隔てているのは羊膜と絨毛膜というただの膜だ。胎児が十分に大きく育てばその動きは外から見たり触ったりできるようになる。その時胎児を外界から隔てるのは今言ったふたつの膜の他に薄く引き延ばされた子宮筋層、二重になった腹膜そして腹壁(腹筋と脂肪と皮膚と)……何層にもなっているといっても全部合わせたところでたかだか二、三センチ。胎児は外界の音を聞いているだろうし、今が朝か夜かの見当ぐらいついているかも知れない。子宮や腹壁の緊張のぐあいから母親の機嫌だって感じていそうなものだ。

「最初は自分の腸が動いてるんだかなんだかわからなかったの、でもね、もっとすばやい動きなのよね。ひこひこって、おなかの中で魚が撥ねてるみたいな感じかな」
「ふうん」
「最近はどんどん動きが激しくなってね、蹴飛ばしてるのがわかるのよ。ふたりの個性っていうかね、違いもはっきりしてきたみたい。右側にいるのが女の子でね、とても大人しい子なの。こっち側は男の子でかなり活発ね。でも君に似て好奇心が旺盛なのか、あたしがちょっと変わったことをしてたり見聞きしているとじっとそれを観察しているの」ほら、とレイはタクミの手を自分の下腹部に導いた。
「どう?」

 たっぷり一分間は手をあててから、タクミはようやく頭を上げた。

「なるほどね、言われてみると左右で動きが違うような気がしないでもない」

 そう、だんだんとこうやって子供の存在が確かなものになっていくんだわ。わたしにとっても、あなたにとっても。そして多分、この子たち自身にとっても。

 ほらまた動いてる。自分たちが今どんなところにいるか感じているのかしら。電車に乗ってるとよく動くわね、この子たち。うとうとしかけて、ふとレイは斜め前の女子高生たちの会話が妙なのに気づいた。音は聞こえているのに意味がさっぱりわからない。外国語を聞いているみたい、というよりも見知らぬ動物の鳴き声を耳栓ごしに聞いているようなのだ。はっとして意識を集中している間は「ちょーむかつくよね。でもね、あの子のカレシってさあ…」などと聞こえているのだが、そうこうしている間にも再び自分の意識の一部分が彼女たちのことばを純然たる音として捉えていることに気づく。そのうちに言葉以外の音も渾然一体となって意識に流れ込んできた。隣に座った中年女性が文庫本のページをめくる音、ドア越しに外を眺めている小学生が口ずさむアニメの主題歌、リズミカルな窓ガラスのきしみ、外では風が吹いている、遠くを車が走っている、ちがう、そうじゃないわ。リアルタイムで音を聞こうとするに従って、音のひとつひとつが声高に自己主張しはじめる。ぜんぶが違う音。違うことだけはわかるけれど、もう何が音を立てているのかわからない。ここにあるのは世界の音。音が世界なんだわ。

「だいがくびょういんまえ、だいがくびょういんまえ。つぎは…」

 はっとわれに返ったレイは閉まりかけたドアを間一髪すり抜けてホームに立っていた。あの音の感じは聴き覚えがある。あれは、そう、留学中に通っていたスイミングクラブのプールの中に流れていた音楽に感じがそっくりだった…

−つづく−

参考URL: http://www.jali.or.jp/club/nakajo/note/links.html

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