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秘密の仕事

doru

 

 まさるくんは絵が好きな子どもでした。おともだちと一緒にくれよんで絵を描いては遊んでいました。
 ある年の暮れ悪い病気にかかってしまい、お医者さんから太陽の光をあびるのはよいことだけど、あまり長い間遊んでいても体によくないと言われて、一日に一時間以上外に出ないように約束させられていました。
 ベッドの中で退屈な毎日がすぎ、一月たち二月たちついには三月になってしまいました。
 三月の病室の窓からはいる風はまだ寒く、花も咲いていない寂しい庭を見ているうちについうとうと眠ってしまいました。
 まさるくんが眠ってどれぐらいたったでしょうか。太陽は沈んでなくなり、かわりにきれいな月が病室を照らしていました。枕元においてある時計を見ると夜の十二時を指しています。
「まさるくん、まさるくん起きてちょうだい」と言う声が聞こえてきます。まさるくんと同じぐらいの男の子が病室の庭から呼んでいるではありませんか。
「きみは誰」まさるくんは聞きました。
「太郎と言うんだ。庭に出てこないかい」太郎は緑色の毛糸の帽子をかぶり、手には何色ものくれよんを持っています。
「大丈夫だよ。月がこんなにきれいな夜は病気なんか吹っ飛んじゃうよ。それより頼みたいことがあるんだ。きみのくれよんでぼくと一緒に花にいろいろな色をぬって欲しいんだ」月の光を浴びて無数の白い花が庭のいたるところに咲いていました。
 まさるくんは病気になる前は、外で遊ぶのが大好きな子どもでしたし、くれよんで色をぬるのも大好きな子どもでした。
 こうして太郎とまさるくんは白い花に色をぬりはじめました。白い花に白い色をぬるとそのままですが、黄色いくれよんをぬれば白い色は黄色い花に変わります。赤いくれよんでぬれば白い花は赤い花に変わります。太郎とまさるくんは夢のような時間を楽しくすごしました。
 東の空が明るくなったころ、「ああ、もう時間だ。いかなくちゃ。いいかい、このことは誰にも言っちやいけないよ。ぼくたち二人だけの秘密の仕事なのだから」
「うんわかったよ」
「じや明日の夜も来るよ」
 朝になってまさるくんの具合がよくなっているのに気がついたお医者さんはびっくりしました。だって昨日までは起き上がることもできずに病室に寝ていたまさるくんが今日は元気に廊下を走り回っているのですから。
 肺に聴診器をあてては首を傾け、心臓に聴診器をあてては首を傾け、お医者さん看護婦さんそしてまさるくんのおかあさんも不思議なことがあるものだとお互いに首を傾けながら話しあいました。
 太陽は西に沈み、月は東から昇り、夜の十二時になりました。
「まさるくん、まさるくん起きてちょうだい」庭から太郎の声が間こえてさます。まさるくんは起きて太郎と白い花にくれよんで色をぬりはじめました。途中で色をぬったところで夜が開けてしまいました。
 次の日の朝もまさるくんの体がよくなっているのにお医者さんと看護婦さんとまさるくんのおかあさんも首を傾けながら不思議がりました。
 三日目の夜も「まさるくん、まさるくん起きてちょうだい」太郎は呼びます。
 まさるくんは起きました。太郎とまさるくんはすべての花にくれよんで色をぬりました。次の日、すべての病室の窓から見える花はくれよんで色をぬったようにきれいに咲いていました。
 きれいに咲いた花を見たみんなは春が来たと知りました。
 まさるくんのおかあさんも、花が咲いたのをまさるくんに知らせようとしましたが、まさるくんは笑みを浮かべ、手にくれよんを持ったまま死んでいました。
 まさるくんはろうそくの火が消える前のように、ぽっと命の火がついたのだとお医者さんと看護婦さんは話しあいました。

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