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ふたりでお茶を
たなかなつみ

 気のせいだと思っていた。
 それには形がなく、色もない。目をすがめるとぼんやりと、もやもやしたものがあるようなないような。
 いつからそれがいたのかはわからない。最初は気のせいだと思い、けれども、何度も何度もそれが目に入るたび、気づかざるをえなかった。
 それはそこにいる。わたしのすぐそばに。つかず離れずの距離で。
 そら、いまはそこ、ダイニングのテーブルの向こう。お茶を飲むわたしの向こうで、もわもわとしている。わたしがカップに口をつけると、もやもやがもわもわと動く。
 おまえ、これが欲しいの?
 そう問いかけてやると、目に見えてもごもごと動く。でも、残念だね、見たところ、おまえには口がない。これを飲むのは無理じゃないの?
 試しに新しいカップにお茶を入れて、それの目の前に置いてやる。それはもわもわと動き、けれども、カップはそのままだ。
 でも、こういうのは悪くない。ふたり分のお茶。ふたり分の空間。わたしはお茶に口をつけては目をすがめ、そこにいるもやもやを確かめる。
 おまえが口をきければもっと楽しいのに。
 けれども、もやもやは何も言わない。ただ、もやもやと、そこにいるだけだ。

 夏の日射しは暑いから、外出するときは帽子をかぶる。わたしについてきたもやもやは、ぎらぎらと照りつける太陽光を浴びて、家のなかにいるときよりも、ほんのすこうし元気がないように見える。
 おまえのために、日傘を買ってあげようか?
 でも、残念だね、見たところ、おまえには手がない。日傘を持つのは無理かな。
 なるべく日陰を選んで歩いて、ときどき振り返って確かめる。もやもやがそこにいること。そして、やっぱり、いつもよりはほんのすこうし、元気がないように見えること。
 小さくしぼんで、動き方も小さいよね。
 どうしてやれば、おまえ、元気になれる?
 まるで独り言のようなふりをしてそう口にのぼせてみるが、おまえはやっぱり何も言わない。ちろりと横目で確かめてみると、もにょもにょと動いている。ように見える。
 目的地まであと半分。あと半分もあるよ。大丈夫?
 ぼんやりと考えごとをしながら歩いていると、右側からぴゅぴゅーと水をふきつけられ、呆然として立ち止まる。気温が高くなるとアスファルトを冷やすために散水しますと書いてある看板を見つける。それはかまわないけど、散水する前にせめて警告音ぐらい鳴らしてくれてもいいんじゃないの?
 濡れたワンピースの裾を絞っていると、わたしの隣でそれがもこもこ元気を取り戻しているのが見える。水滴をかぶって、きらきら、太陽光が反射する。
 なるほど、おまえは水遊びが好きなんだね。
 本当のことを言うと、わたしも好き。でももうおとなになっちゃったから、つい困ったふりをしちゃったけど。
 帽子に水を受けて、それをかぶってみる。髪からぽたぽた雫を流して。濡れた服の下から下着が透けて見えているかもね。
 でも、平気。おかげで随分涼しくなったし。
 ぺたぺたと足跡をつけながら歩く。わたしの少し後ろを、おまえがもこもこついてきているのがわかる。
 ぱっと見、ばかな女がひとりで歩いているように見えるだろうね。でも、わたしは平気。おまえが一緒にいることを、わたしは知っているからね。
 足跡はひとり分。でも、振り向いて目をすがめると、きらきらと光っているかたまりがわたしのあとをついてきているのがわかる。だからさみしくないし、怖くない。

 休日のお出かけはあんまり好きじゃないから、たいがい部屋のなかに閉じこもって過ごす。
 甘いものを食べるのは好きじゃないけど、ケーキを焼くのは好き。粉をふるって卵を泡立てて。
 生クリームで丁寧に飾りつけたケーキを写真に撮って。いままではそれで満足だったんだけど。
 どう? 綺麗にできたと思う? おいしそうに見える? わたしはケーキの皿をもやもやの前に置いて、様子をうかがってみる。
 もやもやの動きがいつもより激しいのは、喜んでいるからだと思ってみる。
 おまえにこれが食べられればいいのに。そうすればきっと、もっと楽しいと思うんだ。
 もの言わないもやもやと一緒に、ケーキを観賞しながらお茶を飲む。もやもやの前の紅茶は冷めるばかりで一向に減ることはないけど、気にしない。ことにする。

 夜に爪を切ったら狐が出るから駄目だと躾けられたのに、のびた爪が気になるのは決まって夜になってからだから、親の言いつけを守らずに爪を切る。
 ぱちん、ぱちんと音を立てて、足の爪を切っていると、小指の爪がひゅんとあらぬほうに飛んでいく。しまったしまったときょろきょろするけれど、爪のかけらは見つからない。
 目を上げると、もやもやがもくもくと大きく縮んだり膨らんだりしている。
 おまえ、もしかして、わたしの爪を食べた?
 もやもやは何も言わない。わたしの爪も見つからない。試しにざらざらと、爪切りの中味をもやもやの上からふりかけてみるが、どこに引っかかることもなく、そのままざらざらと床にこぼれ落ちた。
 おまえのせいだよ、と八つ当たりめいたことを言いながら、わたしは箒をかける。夜に箒を使うのはよかったっけ。親の注意を思い出そうとするけれど、箒については覚えていない。覚えていないから夜に箒をかけてもいいことにする。
 そもそも、狐が出ると何が駄目なんだろう。子どものころはそれを聞いて確かに怖かったのに、いまはもう、それの何が怖かったのかわからない。
 夜っていうだけでもう、怖かったのかな。
 それとも、親が怒るのが怖かったんだろうか。
 うん、いちばん怖かったのは、親だったような気がする。じゃあ、夜に爪を切ったら駄目なのは、親に怒られるのが怖いから? そもそも、どうして夜に爪を切ったら駄目なんだろう。
 同じことを何度も考えながら、ちりとりにたまった爪のかけらと埃をまとめてごみ箱に流し込む。
 そういえば、爪ってごみ箱に捨てたら駄目だったんじゃなかったっけ。
 でも、このうちには庭がないから、仕方がないねぇ。
 おまえもそう思うだろ?
 そう言って目を上げると、わたしが乱暴に箒を振り回したからか、もやもやが四散したようで消えてしまっている。あらあら。
 朝になるころには帰っておいでねぇ。わたしはどこにともなくそう呟いて、布団のなかにもぐり込む。

 普段はそんなに洗濯が好きっていうわけじゃないのに、雨が続くと洗濯がしたくてしたくて仕方がなくなる。雨が落ちてくる薄暗い空に向かって、わたしが洗濯をしないのは、いつまで経っても雨が上がらないせいだからね、と八つ当たりめいたことを言ってみる。
 本当は、今日晴れていても洗濯なんかしない。だっていま読んでいる推理小説が佳境に入っているから。そうそう、トリックはわたしが考えていたとおり。そうだと思ってたんだ。
 でも、犯人は一体誰?
 本にかまけて相手をしてやっていないからか、もやもやが随分大きくなって、まるでこっちを見てくれろと拗ねているように、いつもより動きが大きくなっている。
 仕方がないから本立てをテーブルの上に置いて、もやもやに向かってページを広げてやる。おまえにも読ませてあげるんだから、わたしに教えてよね。トリックはわかってるんだよ。でも、肝心要のところがわからない。
 犯人は誰?
 いい? 順番に登場人物を説明していくからね。まず、この館の主人ね。それから、招待客が順番に。
 ね? ちゃんと聞いてる? 兄弟の名前は似ているから混同しちゃ駄目だよ。こっちの名前が兄で、こっちの名前が弟で。
 説明をしているあいだに、ふと気づく。
 そういや、おまえには名前がないんだね。
 それとも、わたしが知らないだけで、ちゃんと名前があったりするのかな。
 それって、わたしにちゃんと発音できる名前?
 もやもやはもやもやとするばかり。そうだよね、おまえには口がない。おまえと話をするのは無理なのかな。
 そもそも、わたしが言ってることが聞こえてる? わたしがここにいるってことが、おまえにはちゃんとわかってる?
 おまえはちゃんとそこにいる?
 ふっと、壁に掛けている鏡が目に入ってくる。お茶をふたり分用意して、自分とは逆向きに本を開いて、虚空に向かって語りかけている、ばかな女。
 わたしは一直線に歩いていって、鏡を布きれで覆ってしまう。
 振り向くと、開いたページを覗き込むかのように、もやもやがきゅっと小さくなって、本の真ん前でもわもわしている。
 おまえ、推理小説が好きなの? じゃあ、今度図書館で、このシリーズの続きを借りてきてやろうか。
 もやもやは返事ひとつしないけど、わたしは次に借りる本のタイトルを決めてしまう。
 もやもやのためにってわけじゃないよ、わたしがこの続きを読みたいからだから。そうこっそりと、自分に言い訳をしてみる。

 久しぶりに友人と会う。外出なんて億劫なんだけど、誘われて断るのはさらに億劫だから、洗濯したばかりのシャツとスカートを身につけてお出かけする。
 友人はわたしの格好を見て、いつものように眉を顰める。確かにそのシャツはいい色だと思うよ。そのスカートだって可愛い。でも、そのシャツとスカートを合わせると、あっという間に変なことになっちゃってるってわかんないかなー。トータルコーディネイトっていう言葉知ってる?
 好きなシャツを着て、好きなスカートをはいてるだけだよ。別にそれでいいじゃん。わたしがそれで満足なんだから、それでいいじゃん。
 あんたはそれでいいかもしんないけどさ、と友人が言う。あんたの彼氏が恥ずかしいだろ。あんた連れて歩くのに困るだろ。
 彼氏? わたしはきょとんと首を傾げる。彼氏なんかいたことないし、だから当然、いまもいないけど。
 冗談、と友人が言う。
 冗談はそっちじゃないの、とわたしが言う。
 最近、あんた誰かと一緒に暮らしてるだろ。電話をかけてもそわそわしてるし、遊びに行ってもいい? って聞いても、いやだいやだって言うばっかりで。
 部屋に来てほしくないのは、単に部屋がすっごくちらかってるからだし。だから別にそれがあんたじゃなくても、部屋に呼んだりはしていないよ。
 あんたねー、と友人が言う。じゃあ、その買い物袋のなかのものは何なの。
 わたしは袋のなかに目を落とす。新しいスリッパ。新しい紅茶カップ。新しい枕カバー。何か変かな、とわたしが問うと、大事なお客様のための用意に見えるよ、と友人が言う。
 違うんだけどな。このあいだお茶を運んでいるときに、寿命だったスリッパの上覆いがはずれて、つんのめってベッドの枕の上にお茶をぶちまけて、カップが床の上に落ちて割れちゃったから、買い換えただけのことなんだけど。
 そういうことじゃないじゃん、と友人が言う。
 じゃあどういうことなの、とわたしが言う。
 紅茶のカップがふたつってのがオカシイじゃん。誰も呼んでいないなら、どうしてカップがふたつ一度に壊れちゃうんだよ。自分の分と相手の分。ふたり分のカップを運んでいたから、カップが一度にふたつ壊れちゃったんだろ?
 カップがふたつ。うん、確かに。自分の分と相手の分。うん、確かにそうなんだけど。
 でも、部屋にはほかに誰もいない。わたし以外には、誰もいない。
 ひとりきりだったのに、ふたり分の紅茶を入れたってか、と友人が言う。
 うん、とわたしが言う。
 オカシイだろ、と友人が言う。
 オカシイよね、とわたしが言う。
 でも、事実なんだから仕方がない。あの部屋には、わたし以外に誰もいない。
 ふたつめのカップは、名前もなくて形もない、ただのもやもやのためのもの。
 オカシイかな、とわたしは言う。言いながら、ちらりと目を動かす。
 オカシイだろ、と友人が言う。その友人の隣、もやもやはいつもどおり、すこうしだけもわもわと動いてみせるけど、何も言わない。
 おまえのせいで、数少ない友だちに変な子扱いされちゃってるよ。どうしてくれるの。
 もやもやはいつもどおり。何もしないし、何も言わない。

 例えばおまえが、猫とか犬とかであれば、特別不思議がられたりしないのにな。わたしはそう言いながら、ふたり分のお茶を入れる。
 ペットとか観葉植物とか、そういう、聞いて、うん、てうなずけるような、そういう名前がおまえにありさえすれば。わたしはそう言いながら、カップをふたつテーブルに並べて席に着く。
 ふたつめのカップの向こう、もやもやはまるでカップのなかのお茶をうかがうかのように、もわもわとカップの上に覆いかぶさっては、椅子の上に舞い戻る。
 おいしい? と聞いてやると、まるで、うん、とうなずくかのように、もわん、と上のほうが揺れる。
 おまえ、名前が欲しい? そう聞いてやると、うん、と上のほうが揺れる。
 ぽち、ころ、みい、たま。その辺にごろごろいそうなペットの名前をあれこれ口にのぼせてみるけど、なんとなくしっくりこない。わたしはちろんともやもやのほうに目をやる。もやもやもなんとなく、不満げにもわもわしているように見える。
 そうだよねぇ。おまえはペットじゃないんだものね。もっときちんとした名前がいいよね。でも、人間の名前をつけるにしたって、おまえが日本人なのかそうでないのかもはっきりしないんだけど。
 いや、でも、うん。きっと本名は別にあって。だから、わたしがおまえにつけてやる名前は、ニックネームってことでいいんじゃないかな。どうだろう。
 わたしは少し考える。誰かに名前をつけるなんて初めてのことで。わくわくしたり、悩んだり。ああでもない、こうでもない、と考えあぐねた挙げ句、自分の名前に因んだ名前をつけてやればいいんじゃないかな、ということにした。
 わたしの名前は母親の名前が元になっているんだよ。おまえの名前はわたしの名前にさらにひとつ足して。
 九重っていうのはどうかな。ちょっと呼びにくいから、愛称はキュウ。どうかな。
 わたしがそう言ってやると、もやもやは嬉しそうにもわもわと動いた。

 明くる日目を覚ますと、日はすでに高くなっていて、時計を見るとすごい時間になっていて、わたしは慌てて飛び起きた。
 バシャバシャと水をはねさせながら顔を洗い、タオルで水気を拭き取る。そうして、自分の手を見て、気づいた。
 なんだろう。なんだか少し、白くなっているような。いや、白くなっているというよりも、これは。
 なんだか、透けているような。
 部屋に戻って、鏡に掛けておいた布きれをはぎ取る。鏡の向こうには確かにわたしが見える。けれども、その輪郭はぼやけていて曖昧だ。目が悪くなったんだろうか。わたしはごしごしと目をこする。
 「駄目だよ、そんなふうに目をこすっちゃ。目が悪くなるよ」
 思いもよらず人の声が近くから聞こえて、わたしはひっと小さく悲鳴をあげて飛び上がった。慌てて振り向くと、まるでそこにも鏡があるかのように、わたしが見える。その輪郭はぼやけてもいないし曖昧でもない。そこにいるおまえはわたし? じゃあ、ここにいるわたしは何?
 キュウ?
 呼びかけると、しっかりとした形状をもったわたしが、にっこり笑ってうなずいた。わたしはもう一度自分の手に視線を落とす。透けかけている自分の腕が見える。
 「いつまで経っても名前をつけてくれないから、どうしようかと思っちゃった」
 キュウはそう言いながらお茶を入れて、テーブルの上にカップをふたつ並べる。そして、いつもの席に座る。わたしが座るべき席に。そして、わたしはテーブルを挟んだその向かいに立つ。ずっともやもやのいたところに。
 わたしは少しだけ透けている両手でカップを手に持って。そう、両手じゃないとカップが持てない。わたしの手、昨日よりひとまわり小さいよね。
 ううん、手だけじゃない。なんだか身体全体が小さくなっていない? テーブルの上に腕をのばすのがやっとなんだけど。
 キュウ、キュウ、ねえ、わたし、おかしくない? なんだかどんどん小さくなっていってる。どんどん小さくなってるよ。
 形もどんどん曖昧になって、どんどん向こうが透けていって。キュウ、キュウ。
 「大丈夫、そっちにいるあいだも、それはそれで楽しいよ。形がないあいだは、どこにでも飛んでいける。風と一緒に流れたり、雨と一緒に溶けちゃったり」
 キュウはしっかりとした人間の形をもっていて。もちろん透けたりなんかしていなくて。そして平然とわたしに語りかける。
 キュウ、キュウ。怖いよ、怖い。わたし、一体どうしちゃったの。どうなっちゃうの。キュウ、キュウ。
 「それで、充分楽しんだら、またわたしのところへ戻っておいで。わたしの記憶が薄れるころ。自分がどうやって生まれたのか、わたしがすっかり忘れるころに」
 キュウ、キュウ。
 「そうしたら、今度はわたしがあなたに名前をつけてあげる。それまでは、そのままでおいで。何ものでもない、不確かなもののまま」
 名前。名前?
 キュウ、どうしよう、わたし、思い出せない。自分の名前を思い出せない。
 「そんなに怖がらなくても大丈夫。すぐに慣れるよ。好きなところへ飛んでいって、好きなところで淀んでいたらいい。遍在して、偏在して、帰りたくなったら、また戻っておいで」
 キュウ、キュウ。どうなるの。わたしどうなっちゃうの。
 すごい勢いで自分の形がなくなって、千々に飛んでいくのをわたしは見た。いや、もう見たともなんとも言うことができない。すでに自分の視覚がいままでのそれとは違うことに、人間のそれとは異なることに、気づいたから。
 無色透明で形がなくて飛散して。こういうのって何て言うんだっけ。むかし理科の時間に習わなかった? 気化? 拡散?
 ちょっと待って。ムカシっていつ? リカノジカンって何? それってイツ、ダレがケイケンしたこと? ワタシが? ワタシ? ワタシって、ダレ?
 難しいことは、考えなくてもいいんじゃない? じわじわと、ちりぢりになったあちらこちらがそう思い始める。とりあえずは、いまのままでいいんじゃない? いまのまま、あちらへこちらへ、ふらふらと旅をしてみるのもいいんじゃない? ほら、あちらではリカノジッケンをやってるみたい。向こうではどこかのお母さんが、夜に爪を切っちゃいけないって言ってるよ。そこにいるワタシも、あちらにいるワタシも、全部ワタシで、もう、ワタシじゃなくて。ね、そんな感じで、いいんじゃない?
 ぴゅいーっと風が吹いて、部屋のなかをざっと掃いていく。わたしはその風に乗って、偏在して、遍在して。
 遠く遠くまで、飛んでいきましょう。

 ひとり残ったキュウは、大丈夫、毎日の生活の仕方は、もうハチに教えてもらったからね。まずは目の前の紅茶を飲み干して、それから後片づけをしましょう。今日は久しぶりに晴天だから、洗濯物を片づけるのもいいね。
 そのまえに、ちょっとひと眠りしようか。人間の形って、重いし暑いしたいへんだってこと、久しぶりに思い出した。まだこの形に慣れていないから、当分のあいだは休み休み動くようにしないと駄目だ。
 そんなわけでキュウは、ベッドに転がってうつらうつら。電話の音が鳴っているのは、あれは誰から? 友人? 母親? それとも気のせいなのかな。気のせいってことにして、とりあえずはちょっと眠らせてくれる?
 当分のあいだ、ひとりでお茶をしないといけないけど、すぐに帰ってくるのを知っているから、さみしくないよ。それまでたくさん本を読んで。ケーキの作り方もいっぱい覚えて。
 そうして、帰ってきたあなたと楽しくお話しをしながら、また一緒にお茶を飲むのを、楽しみに待っていましょう。

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